「再生可能エネルギーに関するIPCC報告書が出ました」の記事に、「Cern」さん(CERN=ヨーロッパ原子核研究機構の関係のかたではないようですが)から次のような質問がありました。

2011年08月28日 21:25
CERNから宇宙線と雲の関係についての研究成果が報告されているらしいですが、CO2は温暖化への影響がないという可能性は出てくるんでしょうか?当方シロウトですが、気になります。

この論文のことですね。

  • Jasper Kirkby et al., 2011: Role of sulphuric acid, ammonia and galactic cosmic rays in atmospheric aerosol nucleation. Nature, 476, 429–433 (25 August 2011) doi:10.1038/nature10343. [要旨へのリンク、本文は有料]


著者の数が多いので筆頭の人だけ書いてあとは「et al.」としてしまいましたが、最後のMarkku Kulmalaさん(ヘルシンキ大学)は大気エーロゾルの研究や国際共同研究iLEAPSでよく知られた人です。先に出た予備実験の論文の著者にはSvensmarkさんが含まれていましたが、今度の論文には含まれていません。

わたしはダウンロードはしたのですが、まだ読む時間をとれていません。 IPCC再生可能エネルギー報告書を読む約束も果たせていないので、必ず読むという約束をするのはむずかしいです。

背景としては、NatureのGeoff Brumfielさんによるニュース記事Cloud formation may be linked to cosmic raysや、CERNの報道発表CERN’s CLOUD experiment provides unprecedented insight into cloud formation (8月25日)を見るとよいかもしれません。

英語のブログではRealClimateにGavin Schmidtさんによる記事The CERN/CLOUD results are surprisingly interesting(8月24日)があります。これを暫定的に信頼して述べると、硫酸のエーロゾル粒子の形成に関する室内実験で、宇宙線を想定して加速器によって人工的に作った電離源と、アンモニアの濃度をいろいろ変えて、できる粒子の数や大きさを調べています。ただし、このようにしてできたエーロゾル粒子は、雲粒の凝結核となる粒子よりはだいぶ小さいものです。雲の変動の話につなぐためには、小さいエーロゾル粒子がふえることによって、凝結核粒子の数が大きく変わることを示す必要があります。それはもしかすると研究されていてこれから別の論文として出てくるのかもしれません。

宇宙線と気候との関係を論じるためには、さらに、凝結核が変わると雲の特徴(雲粒の大きさや数、存在する高さ)がどう変わるか、それによって太陽放射の反射や吸収がどう変わるか、なども知る必要があり、これからなん年もかかる研究になると思います。なんらかの関係があるという結果が出ると期待されます。

しかし、その結果がどうなっても、1970年ごろ以後の全球平均気温の上昇の原因が宇宙線であるということにはならないでしょう。この期間に宇宙線量の明確な上昇・下降傾向は見られないからです。逆に、宇宙線量には約11年周期の変動が見られるので、気温が宇宙線に敏感に変化するとすれば、気温にも明確な約11年周期変動が見られることが期待されますが、実際にはこみいった解析をしないと見えてきません。したがって、宇宙線は、気温を変動させるいくつもの要因のひとつにとどまると思います。

Skeptical Scienceというサイトには、things breakとなのるブロガーによる記事ConCERN Trolling on Cosmic Rays, Clouds, and Climate Change (8月26日)が出ています。初めからいわゆる温暖化懐疑論に対して反論しようという態度になっているので気にさわる読者もおられると思いますが、文献への参照は参考になると思います。

masudako