気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

2011年10月

ふたたび「たまり」と「流れ」について

実質同じことを、表現を変えて、なん度も書くことになります。くどいと感じるかたには申しわけありません。

菊池誠さんのKikulogの「地球温暖化問題つづき」の記事へのコメントとして、つぶやさんが次のように書いていました。

156. つぶや ― October 15, 2011 @13:14:22
最高を記録した1998年以降のここ10年ほど、気温がさらに高くなることはなくなってきているようですが、大気中CO2濃度の年増幅もそれに追随して、じんわりと落ち着いてきているようですね。1998年のCO2濃度増は2.5ppm強ほどでしたが、その後は2ppm前後になってきているようです。
一方、人為CO2排出量の増加は1998年に3ppm程度相当であったのが、最近は4ppm程度にまで高まっているようです。人為CO2の大気中への供給力はますます強力になり、その温室効果も強まっているはずですが、その作用が気温変化に現れている様子はあまりなさそうに見えます。

http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/cdrom/report/html/2_1.html
(図2.1.3 人為起源による排出量から想定される二酸化炭素濃度年増加量(棒の高さ)と実際の観測による大気中CO2濃度年増加量(黄色部分)と自然による二酸化炭素年吸収量(緑部分)の経年変動。)


これに対してわたしはこう書きました。

158. masudako ― October 15, 2011 @21:30:18
気象庁の図2.1.3の黄色の棒は濃度の年ごとの増加量で、常に0より大きい値ですから、濃度はふえ続けているわけです。増加量の増加傾向つまり濃度の時間による2回微分の議論は微妙になりますが、図の全期間つまり1984年から2007年までの全体の傾向は、人為起源の排出量ほどではないものの、増加に見えます。大気と陸や海の間の炭素交換量の年々変動の原因は全部はわかっていませんが、年々変動があることは驚くにあたらず、その変動幅が最近小さくなっているようには見えません。

二酸化炭素濃度の時系列と気温の時系列は、1年ごとではもちろん、10年ごとに見てもあまりよい対応がありません。海の熱容量が大きく、数十年ぶんのエネルギーをためこめるので、対応がよくないのはあたりまえです。気象学者は二酸化炭素がふえれば温室効果が強まることには自信をもっているので、太陽光反射の変動について不確かなところは残っていますが、地上気温はあまり上がらなくても海がたくわえているエネルギーがふえているという意味では温暖化は進行していると考えています。

全球平均地上気温の時系列の解釈として言えば、Skeptical Scienceというサイトの最近の記事http://www.skepticalscience.com/Ocean-Heat-Poised-To-Come-Back-And-Haunt-Us-.htmlの図2にあるように、上昇傾向(温室効果の強化による)と、振動型の変動(自然変動と考えらる)が重なっていると見られます。合計は、上昇が遅くなることや一時的に下降することもありますが、速く上昇することもあります。


これだけではわかりにくかったかもしれません。2010年11月10日の「ふろおけモデル -- たまりと流れのあるシステムの準定常状態」で述べたような、「流れ」と「たまり」の関係が、地球温暖化の因果関係のうちで、二重にかかわっているのです。

まず、二酸化炭素排出量と、二酸化炭素濃度の関係です。空気全体の質量に比べて二酸化炭素はわずかな量で、空気全体の質量はほぼ一定なので、世界平均の二酸化炭素濃度は大気中の二酸化炭素の総量に比例するとみなせます。排出された二酸化炭素が「流れ」で、大気中の二酸化炭素の総量は「たまり」です。したがって、二酸化炭素の総量の時系列は、過去の二酸化炭素排出量を累積したものと似たものになります。もちろん実際には大気から出ていく(海や陸に吸収される)二酸化炭素もあるので、単なる累積ではありませんが。

次に、二酸化炭素がふえると、電磁波の吸収と射出の差による(単位時間あたりの)正味の加熱量がふえます。これは同時現象でためこみはありません。

この加熱によって、地球にはエネルギーがたまっていきます。エネルギーがたまるところは海洋、そのうちでは表層の部分ですが、それにしても大気の50倍ほどの質量があるので熱容量が大きく、その温度の上昇のしかたは、過去数十年の加熱量を累積したものに似ています。

* * *
ひと組の流れとたまりの関係について、たとえ話を試みます。わたしはスポーツをあまりよく知らないので現実みがありませんが。

あるスポーツ(たとえばサッカー)で、A高校の選手の実力と、A高校出身のプロ選手の活躍ぶりとは、関係があるでしょうか? 因果関係はありそうですが、1年刻みの時系列どうしを比べて、高校生が強い年に出身者が活躍するという相関はあるでしょうか? (この場合、人の行動なので、高校生の活躍が先輩のはげみになったり、その逆向きのことがあるかもしれませんが、たとえ話としてはそういうことはないとします。)

数量がまぎれなく決められる例に変えます。毎年のA高校から新しくプロ入りする選手の数(x)の時系列と、A高校出身でプロの現役としてプレイしている選手の数(y)の時系列との間には、どんな関係があるでしょうか?

プロの選手が現役でいられる期間の長さが一定、たとえば10年だったら話は簡単です。ある年のyの値は、それまでの過去10年間のxの値を累積したものになるはずです。そして、xとyの直接の散布図をかいても、たぶんきれいな相関はないでしょう。

実際には、選手が現役を続ける年数にはかなりの個人差があるでしょう。それでも、その平均値が1年よりもだいぶ長いならば、xの時系列が年々のゆらぎが大きいものでも、yの時系列はそれよりはだいぶなめらかなものになるでしょう。

masudako

再生可能エネルギーに関するIPCC報告書・第3報

10月4日の第2報に続き、IPCCの「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(SRREN) [本家はここ]の「技術的要約」(TS)を見ていきます。

今回は、TSの第8節、報告書本文では第8章、 SPM(政策決定者向け要約)では第4節の、「現在および将来のエネルギーシステムへの統合」です。

エネルギーシステムという用語は文脈によって違う意味を持つと思いますが、ここではおもに、エネルギーの利用者のところにエネルギーを届けるしくみをさしているようです。それを次のように分けて、それぞれについて、エネルギーの源として再生可能エネルギーを使う場合にどんな問題があり、どんな(技術的)対策があるかを論じています。

  • 電力網 (発電・送電・配電) . . . 8.2節

  • 地域給湯・冷暖房 . . . 8.3節

  • ガス管網 . . . 8.4節

  • 液体燃料の供給 (おもにガソリンスタンドとそこへガソリン類を運ぶしくみ) . . . 8.5節

  • 自給自足的エネルギー利用 . . . 8.6節


それぞれの供給の形についての議論があるのですが、予想どおりのものが多かったです。電力に太陽光・風力をとりこむためにいわゆるスマートグリッドが必要だということ、バイオマス燃焼発電は石炭火力や原子力に比べて小規模なので電力とともに熱を(お湯などの形で)地域に供給するいわゆるコジェネが望ましいと考えられること、燃料の種類が変わるとガス管やガソリンスタンドの改修が必要になること、などです。

自給自足型のエネルギー利用をふやす必要があるとわたしは思っていますが、SRRENではそれほど重視されておらず、離島などには適しているだろうと言っています。

このあと、長い8.7節があり、エネルギーを利用する側で変えていくべき点を述べています。

8.7.1節は運輸です。内燃機関を使った(電気とのハイブリッドを含む)自動車の燃料としてバイオ液体燃料やバイオガスを使うことと、他の再生可能エネルギーからの電力を鉄道や電気自動車で使うことが主になると考えています。水素燃料電池も将来は可能と見ていますが、供給システムの構築が必要で普及には十年単位の時間がかかると見ています。(わたしも将来は燃料電池が使われると思いますが、エネルギー輸送媒体として水素が適当とは思えないので、輸送に適していてそのまま燃料電池に使える媒体を見つける研究開発がまず必要だと思います。)

8.7.2節は建物(オフィスを含む)と家庭でのエネルギー利用についてです。冷暖房について、石炭などの化石燃料への依存を減らす方法として、地域冷暖房、バイオマスペレットによるストーブ、ヒートポンプ(地中熱の季節変化の小ささの利用を含む)、太陽熱の直接利用、太陽熱による冷房(ヒートポンプの一種だと思いますが入力が仕事でなく高温熱)などの選択肢をあげています。また、省エネルギーも重要です。

いわゆる途上国の農村地域では、薪を手で運んで家のかまどで燃やすといった伝統的バイオマス燃料利用が多いのですが、SRRENでは、このような利用形態は減っていき太陽熱と近代的バイオマス燃料を含む他の再生可能エネルギー源に置きかえられていくことを想定しています。伝統的バイオマス利用は、(薪の場合であれば森林の)持続可能性が心配なこと、エネルギー利用としての効率がよくないこと、調理する人やそのまわりにいる人が煙を吸いこむなど健康上よくないこと、などの理由で、望ましくないとされます。この伝統的利用方法に否定的な態度は、もっともな場合もあると思いますが、それぞれの地域ごとに、近代的システムへの切りかえを勧める前にほんとうに改善になるかを評価する必要があると、わたしは思います。

8.7.3節は工業です。再生可能エネルギーへの移行がむずかしいのは、エネルギー消費の多い工業で、鉄鋼、その他の金属、化学・肥料、石油精製、鉱業、紙パルプがあげられています。むずかしさのひとつは、大量に集積できる再生可能エネルギーは水力や地熱などに限られ、バイオマスや太陽エネルギーは広く分散していることです。それから、化石燃料と比べて約400℃をこえる高温を得にくいことです。集光による太陽熱利用ならば可能ですが、その条件の整ったところ以外は、高温熱を利用する工程から電気を利用する工程への変更が必要になることが多いでしょう(電気で高温熱を作ることはできますが、むだが多いので)。また、バイオマス加工産業はバイオマス燃料あるいは電力の供給源にもなりうることも指摘しています。

8.7.4節は農林水産業です。肥料の製造を工業に含めることにすると、農林水産業のおもなエネルギー消費は灌漑ポンプ、冷蔵などで、それを各地それぞれの事情に応じてどう再生可能エネルギーでまかなうかが課題になります。また、農家は、バイオマス燃料に特化した農業を別としても、農業残渣バイオマスや風力のエネルギー生産者になりえますが、資本の不足、供給地と需要地の距離などが制約になっています。それを克服する政策が必要だと言っているようですがあまり具体的には述べていません。

今回はここまでにいたします。

masudako

オーケストラ (2)

9月8日の記事のたとえ話の途中をふくらませます。

ロッキー山麓には全国音楽院がつくられ、その交響学科には東京スクール正統派でシカゴで教えていたKasahara (笠原)が採用されて、Richardsonのスコアに忠実なオーケストラ演奏ができるようになるための技法を研究した。管楽科に仙台スクールからSasamori (笹森)が来て、オーケストラづくりに参加した。

西海岸のロサンゼルスには、G線技法の演奏を長時間続けるたびに起きた爆発を防いだ東京弦楽合奏団の調律師Arakawa (荒川)が招かれて、オーケストラ演奏中に爆発を起こす心配のない楽器を設計した。管のパートは、東京音楽院から来たKatayama (片山)が担当した。手本はやはり仙台スクールだった。UCLAオーケストラがひととおり完成すると、KatayamaはArakawa工房製の楽器を持って日本に帰り、MRIオーケストラ発足をめざして働いた。Arakawaはオーケストラ用の打楽器の設計にとりかかった。ひとつでアフリカ・カリブ・太平洋諸島・日本の太鼓の代わりができるものにしたかった。それでうまくいくかの目ききのために、東京スクールから民族音楽研究家 Yanai (柳井)を呼んだ。

同じころ(1970年代なかば)、ニューヨーク・ブロードウェーではミュージカル「ヴィーナスのヴェール」が千秋楽を迎えようとしていた。そこで働いていた管楽器奏者Hansen (ハンセン)とLacis (レイシス)は、次はオーケストラをやろうと決意した。Arakawa工房から取り寄せた弦楽器とヴィーナスの仕事で鍛えた管楽器を組み合わせた。オーケストラのデビュー前に、まず管楽合奏曲「アグン火山の響き」を世に出した。1963年、その噴火は二人が加わっていた合唱のじゃまになった。そのうらみを、騒音も音楽として表現することで晴らしたのだった。

そして1980年ごろには、世界じゅうでRichardsonの交響曲を聞けるようになった。先進国にはそれぞれオーケストラがあり、その演奏が国境を越えて放送されていた。

1990年代、アグンの曲も、「ピナツボ火山の響き」と変わり、各地のオーケストラのレパートリーに加えられた。

そして2000年代、日本では、打楽器が主役となった「正二十面体オーケストラ」が結成され、....

masudako

再生可能エネルギーに関するIPCC報告書・第2報

6月24日の記事の続きで、IPCCの「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(SRREN)についてです。ここで「緩和」というのは英語のmitigationの訳語で、わたしが自分で用語を選べるときは「軽減」としていますが、地球温暖化の原因を弱めること、つまり基本的には二酸化炭素その他の温室効果気体の排出を減らす(あるいは吸収をふやす)ことをさします。これはIPCCでは第3作業部会の課題ですが、そのうちでとくに、いわゆる「再生可能エネルギー」または「自然エネルギー」がどれだけの役割をもちうるかの知見を整理したわけです。

報告書は、ドイツにあるIPCC第3部会技術支援班のサイトのこのウェブページの下に英語のPDFファイルの形で置かれていて、文章は最終版だそうですが、まだ通しのページ番号と索引がついていません。完成するのは(5月当時は8月の予定とされていましたが) 10月中の予定だそうです。

わたしのこれを読む作業も思ったほど進んでいないのですが、ひとまずご報告します。

SRRENには、IPCC報告書の最近の慣例に従って、2種類の要約がつけられています。SPM (政策決定者向け要約)は、IPCCの総会で各国政府代表によって文章表現を含めて承認される対象になっているものです。TS (技術的要約)は、本文と同様、SPMが総会で修正された場合はそれに合わせた修正が要求される場合もありますが、基本的には内容の専門家である著者の集団が書いたものがそのまま出ます。

日本語では、環境省の「地球温暖化の科学的知見」のページの「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に関する部分の中に、SRRENの「概要」というリンクがあり、プレゼンテーションファイルをPDF形式にしたものがあります。これは基本的にはSPMに基づいていますが、再生可能エネルギーを種類別に説明したところはTSに基づいています。

また、同じサイトの報道発表資料の中の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第33回総会の結果について(お知らせ)」には5月17日当時の報告があります。この中にある「別添資料2」は上記の「概要」と実質同じもののようです(「概要」のほうがファイルサイズが小さくいくらか形式が整えられているようなのでそちらを見たほうがよいと思います)。「別添資料1」は環境省と経済産業省の連名の文書ファイルで、SPMをさらに要約したもののようです。

ひとまず、下に、この「別添資料1」に従ってSPMの各節の見出しを日本語で示し、かっこ内に、対応する本文の章の番号を示します。TSの節は本文の章に1対1に対応しています。
1. イントロダクション
2. 再生可能エネルギーと気候変動 (1章)
3. 再生可能エネルギーの技術と市場 (2-7章)
4. 現在および将来のエネルギーシステムへの統合 (8章)
5. 再生可能エネルギーと持続可能な発展 (9章)
6. 緩和ポテンシャルとコスト (10章)
7. 政策、実施および財政支援 (11章)
8. 再生可能エネルギーに関する知見の向上

報告書全体の構成は、第1章が地球温暖化と再生可能エネルギーにかかわる問題の総論的展望、第2章から第7章までが再生可能エネルギーの種類別にどんな技術があってどれだけ普及しているかの展望、第8章から第11章までが再生可能エネルギー全体としてどんな役割を果たしうるか、またそのためにはどんな政策が必要と考えられるかを論じています。

再生可能エネルギーの種類は次のように分けられています。日本語表現は環境省の「概要」に合わせました。
*バイオエネルギー (2章)
*直接的太陽エネルギー (3章)
*地熱エネルギー (4章)
*水力 (5章)
*海洋エネルギー (6章)
*風力エネルギー (7章)

報告書全体は1400ページ以上あって読みきれず、SPMの要約はすでにありますので、わたしはTS(178ページ)を読むことにしましたが、それも全体はまだ読めず、第1節と第10節を読んだところです。TSの第1節は問題点の要約としてとても参考になるのですが、さらに要約して紹介することはむずかしいです。

TSの第10節つまり本文第10章は、地球温暖化軽減のために再生可能エネルギーはどれだけの役割を果たすか、またそれにはどれだけの費用がかかるかの評価です。

IPCCとして計算をしたわけではなく、世界のあちこちの組織で行なわれている、16種類の全球エネルギー経済モデルや統合アセスメントモデルによる164件の将来(2050年まで)シナリオを集めて検討しました。シナリオのうちには、温暖化軽減のための政策的措置を想定したものもあれば、しないものもあります。

まず10.2節では、164件のシナリオからなる集団の特徴を見ています。ただし、ランダムサンプルではないので統計的特徴について強いことは言えません。

CO2排出量と二酸化炭素回収隔離貯留(CCS)なしの化石燃料消費量との間には明確な直線的関係が認められますが、CO2排出量と再生可能エネルギー使用量との間には、負の相関が見られるものの、関係はあまり明確ではありません。それは、ひとつには、世界のエネルギー需要の将来見通しがまちまちだからで、もうひとつには、CO2排出の少ないエネルギー源として、再生可能エネルギー、原子力、CCSつきの化石燃料利用の3つをどのような割合で使うかの見通しがまちまちだからです。

地球温暖化軽減をねらった政策のないシナリオでも、再生可能エネルギーの利用はふえると予想されており、とくに発展途上国での増加が大きいと見こまれます。

10.3節から先では、164件のシナリオのうちで4件をとりあげて詳しく見ます。代表はシナリオの多様性をなるべく表現できるように選んだそうです。温暖化軽減政策のない基準事例としては、OECDの国際エネルギー機関(IEA)によるWorld Energy Outlook 2009 (WEO2009)のbaselineシナリオをとりあげています。ほかの3つはCO2濃度目標を達成するように考えられたシナリオで、それぞれ別々の研究チームによるものであり、濃度目標も厳密に同じではありません。

そのひとつが、この章の著者集団にも加わっているグリーンピースのTeske (テスケ)さんが中心になった「Energy [R]evolution 2010」です(以下SRRENでの表現にならってER2010と略します)。これはグリーンピース単独ではなく、ヨーロッパ再生可能エネルギー会議(EREC )との共同研究で、ドイツの宇宙航空研究開発機構(DLR)の人も著者にはいっています。SRRENからはEnergy Efficiencyという学術雑誌の論文になったもの(Teske, Pregger, Simon, Naegler, Graus and Lins, 2010) が参照されています。この研究の複数のシナリオのうちから、温室効果気体濃度をCO2換算で450 ppm以内におさえるシナリオがとりあげられています。

もうひとつは、アメリカのEnergy Modeling Forumという研究組織の22番の研究課題の中で行なわれた、MiniCAMというモデルを使って温暖化の放射強制を2.6 W/m2以内におさえるというシナリオで、Calvinほか(2009)の論文になっています。

それから、ドイツのポツダム気候影響研究所のReMIND RECIPEというモデルによるCO2濃度を450 ppm以内におさえるシナリオで、Ludererほか (2009)の報告書になっています。その後Climatic Changeという雑誌の論文にもなったようです。

2050年の世界のエネルギー消費のうち、再生可能エネルギーがしめる割合は、baselineシナリオでは現在とほぼ同じ15%ですが、ER2010では77%です。他の2つのシナリオはその中間になっています。他のシナリオと比べてのER2010の特徴は、原子力(の拡大)にもCCSにも頼らないとしていることで、そうすれば再生可能エネルギーの割合が大きくなるのは当然のことです。ただし再生可能エネルギーの種類別にみると、バイオマスエネルギーの拡大が大きいのはER2010ではなくMiniCAMのシナリオです。ER2010チームはバイオマス栽培のために自然植生をそこなうべきでないと考えたのだと思います。

費用の見積もりにはいろいろ不確かなところがありますが、10.5節で、今できる範囲で、設備の建設、維持管理、撤去と、燃料費を含めたライフサイクル型の費用の評価をしています。ただしエネルギー供給・利用システムへの統合(8章)、社会開発(9章)、政策的手段(10章)の費用はここでは考慮していません。これまで数十年に(水力を除いて)費用が低下しており、その原因はまだよく分析されていませんが、学習曲線として扱うことができます。

4つのシナリオで必要になる再生可能エネルギーへの投資額は、(2030年までの) 10年ごとに1.5兆ドルから7兆ドルと見積もられており、最大でも世界のGDP合計の1%よりも小さいとコメントされています。いちばん小さいのは温暖化軽減策を考えないbaselineシナリオの場合です。いちばん大きいのはReMIND RECIPEというチームのシナリオで、太陽エネルギー利用として集光型太陽熱発電を考えず太陽電池だけを想定しているという注がついています。ER2010の数値はTS本文にありませんがグラフから概算すると4兆ドル台とみられます。

10.6節では、気候変化と健康に関する外部費用(被害)について、各種の再生可能エネルギーを、化石燃料(石炭と天然ガスによる火力発電)と比較して示しています。全般に再生可能エネルギーは化石燃料よりも外部費用が少ないですが、例外もあります。なお原子力については、まれな事故の場合に費用が大きくなるので数値としてならべて示すのがむずかしいとコメントされています。

次はいつになるかわかりませんが、TSの別の部分を読んで紹介したいと思います。

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