2011年9月6日の記事太陽活動が弱まるとどのくらい気温が下がるかの見積もりの話題の続きです。

2012年4月19日、国立天文台から太陽観測衛星「ひので」、太陽極域磁場の反転を捉えたという発表がありました。昨年報道された「ひので」のデータの解析と、並行して行なわれた数値シミュレーションの結果がまとまったということのようです。

とくに今回の発表で重要なのは、太陽の北極付近では磁場が逆転しようとしているようだが、南極付近では逆転するようすが見られないということです。ふだんの太陽の磁場のふるまいは、だいたい自転軸に一致した軸をもつ1本の磁石のような「双極子磁場」でよく代表され、その双極子磁場の強さは変動し、約11年ごとにN・S極が反転する、というふうに認識されてきました。厳密にいうと実際の磁場は双極子磁場だけではないのですが、ふだんはその違いはあまり問題にならないのです。ところが今年はその違いが大きくなっています。もし北極で逆転して南極ではそのままだとすると、北極と南極が同符号で自転軸と直角の方向に逆符号の磁極があるような「四重極子」のほうが双極子よりも強いことになりそうです。これは観測されている限りでは珍しいことです。

この双極子磁場の弱まりは、太陽黒点がほとんど見られなかった17世紀のMaunder (マウンダー)極小期と似ているかもしれません。黒点数の少ない時期は太陽から来るエネルギーも少なめであり、地球(少なくともヨーロッパなど)の気候の証拠から見ても寒冷な時期にあたるようです。

そこで、今おこりつつある太陽の変化は、地球の気候を寒冷化させるように働く可能性があると推測するのはもっともですが、双極子磁場が充分弱まるかどうかも、それに伴って太陽から来るエネルギーが減るかも、まだ確定したわけではありません。

もし実際に減ったらどれくらいの寒冷化が起こるかについては、Maunder極小期を想定した研究が参考になります。9月6日の記事の後半で紹介したFeulner (フォイルナー)さんの数値実験(詳しくは9月6日の記事のリンク先を参照)によれば、21世紀の間には人間活動起源の温室効果強化で約3℃の温暖化が起きる見通しですが、Maunder極小期なみの太陽活動低下が重なるとそれが0.3℃くらい弱まります。このほかにも研究がされていると思いますが、わたしはまだつかんでおりません。(そちらの新情報を期待されたかたには、すみません。)

【太陽活動から気候への影響の経路として、Feulnerさんなど多くの気候モデル研究者の計算では、太陽が出す電磁波(光)のエネルギーの変化によって大気のエネルギー収支がずれることを考えています。それ以外にも有効な経路があるかもしれません。わたしは、産業革命以前については、太陽磁場の変化が大気中の電磁場に影響し、大気中の窒素酸化物の生成量を変化させ、雲・降水に影響する、という道筋がありうると思います。ただし産業革命以後は、燃焼による窒素酸化物がたくさん排出されていますから、それ自体が気候をいくらか変化させてしまったはずですが、この経路による太陽活動のシグナルは見えないだろうと思います。】

masudako