2012年6月11日のNHKニュースで「SPEEDIで実測も非公表」という報道がありました。
2011年3月15日に、文部科学省が、福島第1原子力発電所の北西のほうに人を出して放射線量を観測したところ、発電所北西約20kmの浪江町内の地点で330マイクロシーベルト毎時の線量を観測したのですが、この調査に行くという判断にはSPEEDIの結果を参考にしていたにもかかわらずそのことを発表せず、そのSPEEDIの計算結果を発表することも4月25日までしなかった、という話です。
この記事をめぐってはtwitter上で議論がありました。わたしは追いかけていませんでしたが、「政府は情報を隠した。けしからん。」という論調のものが多かったと思います。しかし、違った論調もありました。たとえば「Togetter」の「ニュース『SPEEDIで実測も非公表』はちょっとおかしい」 というJokeJokerMさんがまとめた記事があります。
まず、現地で観測した線量について、「現地の対策本部には報告せず、自治体にも伝わらなかった」というのは確かにまずかったことですが、NHKの見出しの「実測も非公表」はへんだ、という点ではJokeJokerMさんの発言がもっともだと思います。実測された放射線量の数値は「報道機関に資料を配付し、インターネットで公開した」うちに含まれたのでした。
次にSPEEDIの計算値は、文部科学省が線量を観測する人を出すという意思決定に充分参考になったのならば、住民が避難するという意思決定にも提供するべきではなかったか、という問題があります。これはむずかしいところですが、当時、放射性物質放出量がわかっておらず、できるのは単位量放出(あるいは勝手に考えたシナリオによる放出)を仮定した計算であり、それを観測された線量と突き合わせることもまだできていなかったことを考えると、まず現地観測することだけを決定したのはもっともだと思います。ただし、現地で概算の観測値が得られた段階で、計算値の分布と組み合わせた情報を現地の自治体などに提供したほうがよかったとは思います。役所が現地に送った人に与えた権限が小さすぎたのかもしれません。
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ところで今(2012年6月17日)、福井県の大飯(おおい)原子力発電所の再稼働について、すでにいくつかの意思決定がされ、少しだけが残っています。
ここまで来ているならば、当然、(陸上の放射性物質移動まで組みこんだSPEEDIで人が受ける線量までシミュレートするか、気象だけのモデルで大気中の輸送だけシミュレートするかどちらかはわかりませんが)、大飯からの単位量放出で放射性物質がどのように広がるかのシミュレーションを日常的に(たとえば毎日毎時)やって結果を公開するぐらいのことはすでにやっているのだと思っていました。 2011年3月にSPEEDIが役にたたないと判断されたのは、住民や自治体に単位量放出シミュレーションの意味をわかってもらうのがたいへんだからなのです。事故などがないうちから単位量放出シミュレーションを見慣れていれば、いざというときに誤解を招かずに意味を伝えることができます。しかし、まだだれもやっていないようですね。
原子力規制庁あるいは規制委員会に関する法律が成立せず、暫定的に経済産業省に残っている原子力安全保安院や文部科学省に残っている原子力安全課にはぎりぎりの予算しかついていないので新しい仕事を始めることができないのかもしれません。暫定ばかりでも困りますが、もし新体制ができなくても発電所を稼動させる可能性を認めるのならば、新体制ができなくてもシミュレーションを開始せよという決定をしてほしいと思います。シミュレーションさえすれば発電所を稼動させてよいという条件になってしまうのもまずいですが。
masudako
2011年3月15日に、文部科学省が、福島第1原子力発電所の北西のほうに人を出して放射線量を観測したところ、発電所北西約20kmの浪江町内の地点で330マイクロシーベルト毎時の線量を観測したのですが、この調査に行くという判断にはSPEEDIの結果を参考にしていたにもかかわらずそのことを発表せず、そのSPEEDIの計算結果を発表することも4月25日までしなかった、という話です。
この記事をめぐってはtwitter上で議論がありました。わたしは追いかけていませんでしたが、「政府は情報を隠した。けしからん。」という論調のものが多かったと思います。しかし、違った論調もありました。たとえば「Togetter」の「ニュース『SPEEDIで実測も非公表』はちょっとおかしい」 というJokeJokerMさんがまとめた記事があります。
まず、現地で観測した線量について、「現地の対策本部には報告せず、自治体にも伝わらなかった」というのは確かにまずかったことですが、NHKの見出しの「実測も非公表」はへんだ、という点ではJokeJokerMさんの発言がもっともだと思います。実測された放射線量の数値は「報道機関に資料を配付し、インターネットで公開した」うちに含まれたのでした。
次にSPEEDIの計算値は、文部科学省が線量を観測する人を出すという意思決定に充分参考になったのならば、住民が避難するという意思決定にも提供するべきではなかったか、という問題があります。これはむずかしいところですが、当時、放射性物質放出量がわかっておらず、できるのは単位量放出(あるいは勝手に考えたシナリオによる放出)を仮定した計算であり、それを観測された線量と突き合わせることもまだできていなかったことを考えると、まず現地観測することだけを決定したのはもっともだと思います。ただし、現地で概算の観測値が得られた段階で、計算値の分布と組み合わせた情報を現地の自治体などに提供したほうがよかったとは思います。役所が現地に送った人に与えた権限が小さすぎたのかもしれません。
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ところで今(2012年6月17日)、福井県の大飯(おおい)原子力発電所の再稼働について、すでにいくつかの意思決定がされ、少しだけが残っています。
ここまで来ているならば、当然、(陸上の放射性物質移動まで組みこんだSPEEDIで人が受ける線量までシミュレートするか、気象だけのモデルで大気中の輸送だけシミュレートするかどちらかはわかりませんが)、大飯からの単位量放出で放射性物質がどのように広がるかのシミュレーションを日常的に(たとえば毎日毎時)やって結果を公開するぐらいのことはすでにやっているのだと思っていました。 2011年3月にSPEEDIが役にたたないと判断されたのは、住民や自治体に単位量放出シミュレーションの意味をわかってもらうのがたいへんだからなのです。事故などがないうちから単位量放出シミュレーションを見慣れていれば、いざというときに誤解を招かずに意味を伝えることができます。しかし、まだだれもやっていないようですね。
原子力規制庁あるいは規制委員会に関する法律が成立せず、暫定的に経済産業省に残っている原子力安全保安院や文部科学省に残っている原子力安全課にはぎりぎりの予算しかついていないので新しい仕事を始めることができないのかもしれません。暫定ばかりでも困りますが、もし新体制ができなくても発電所を稼動させる可能性を認めるのならば、新体制ができなくてもシミュレーションを開始せよという決定をしてほしいと思います。シミュレーションさえすれば発電所を稼動させてよいという条件になってしまうのもまずいですが。
masudako