今年の9月は、おそらく日本のどこでも、暑かったですね。温度で見てどのように暑かったは、気象庁からも示されていますが、堀 正岳(ほり まさたけ)さんのブログ「Climate+」の2012年9月26日の記事「7月並の気温が9月まで…。2012年の残暑をデータで読む」と2012年9月28日の記事「暫定1位の暑さだった!2012年の残暑」がわかりやすく説明しています。
このような暑さや、大雨、たつまきなどの極端現象(いわゆる異常気象)があると、「これは地球温暖化のせいだ」「いや、そんなことは言えない」という議論が起こります。
2010年12月31日のわたしの記事「寒い! 温暖化なんかしてないだろう ... という議論について」で述べたのと同じ理屈があって、たとえ温室効果強化による地球温暖化が進行していても、そのほかにも気候を変動させる要因が同時に働いていて、人はそのすべてを知りつくすことができません。個別の極端現象と地球温暖化との因果関係は、わからないのが当然なのです。
しかし、今年の初めごろ(したがって今年の暑さの話題と直接には関係ない)ですが、NASA GISSのJames E. Hansen (ハンセン)さんは、極端現象について「人間活動起源の温室効果強化が原因だというべきだ」と言いだしたようです。Hansenさんは科学者であるとともに警告者であろうと決意したらしく、その発言は科学的知見が幅をもつうちで警告となる側を強調していることが多いです。表現はともかくHansenさんが伝える科学的情報を見ると、個別の極端現象ではなく、同類の極端現象の群れに注目して、「地球温暖化によって確率が高まると期待されるような現象の頻度が実際にふえている」ことを指摘しているようです。
「Planet 3.0」というブログのカナダのDan Moutalさんによる2012年8月19日の記事「Shifting norms」 に含まれたアニメーションがその例になっています。これはHansenほか(2012)の論文の結果をもとにしているそうです。北半球を地理的に分けてそれぞれの場所の夏(6,7,8月)の気温について、まず1951-80年の期間について場所ごとに平均値と標準偏差を求めます。そして、気温の値から平均値をひいて標準偏差で割った「規格化された偏差」をつくります。多数の地点の30年それぞれの規格化された偏差を集めて頻度分布を見ると、正規分布に近い形をしています。このグラフで、平均プラスマイナス「標準偏差の半分」の範囲を灰色、上を赤、下を青で塗ってみます。データの期間を延長しますが、規格化する際の平均値と標準偏差の基準期間は1951-80年のまま変えないことにします。また、色の塗り分けの基準も変えないことにします。期間をずらしながら頻度分布のグラフを見ていくと、1980年ごろから赤の部分がふえていくことがわかります。
このグラフは平均から標準偏差の半分だけ離れたところから色をつけてしまっていますが、これはアニメーションを見やすくするために色のつく面積を大きくしたかったからだと思います。「異常気象」の頻度がふえているかどうかを問題にしたいのならば、たとえば標準偏差の2倍以上離れた値に色をつけて議論したほうがよいと思います。しかし、基本的理屈は同様です。
このグラフが示すのは、気温が上昇しているという事実だけです。それと温室効果気体の増加を結びつける理屈は、これとは別の、大気物理の理論や数値モデルに基づくものです。
文献
masudako
このような暑さや、大雨、たつまきなどの極端現象(いわゆる異常気象)があると、「これは地球温暖化のせいだ」「いや、そんなことは言えない」という議論が起こります。
2010年12月31日のわたしの記事「寒い! 温暖化なんかしてないだろう ... という議論について」で述べたのと同じ理屈があって、たとえ温室効果強化による地球温暖化が進行していても、そのほかにも気候を変動させる要因が同時に働いていて、人はそのすべてを知りつくすことができません。個別の極端現象と地球温暖化との因果関係は、わからないのが当然なのです。
しかし、今年の初めごろ(したがって今年の暑さの話題と直接には関係ない)ですが、NASA GISSのJames E. Hansen (ハンセン)さんは、極端現象について「人間活動起源の温室効果強化が原因だというべきだ」と言いだしたようです。Hansenさんは科学者であるとともに警告者であろうと決意したらしく、その発言は科学的知見が幅をもつうちで警告となる側を強調していることが多いです。表現はともかくHansenさんが伝える科学的情報を見ると、個別の極端現象ではなく、同類の極端現象の群れに注目して、「地球温暖化によって確率が高まると期待されるような現象の頻度が実際にふえている」ことを指摘しているようです。
「Planet 3.0」というブログのカナダのDan Moutalさんによる2012年8月19日の記事「Shifting norms」 に含まれたアニメーションがその例になっています。これはHansenほか(2012)の論文の結果をもとにしているそうです。北半球を地理的に分けてそれぞれの場所の夏(6,7,8月)の気温について、まず1951-80年の期間について場所ごとに平均値と標準偏差を求めます。そして、気温の値から平均値をひいて標準偏差で割った「規格化された偏差」をつくります。多数の地点の30年それぞれの規格化された偏差を集めて頻度分布を見ると、正規分布に近い形をしています。このグラフで、平均プラスマイナス「標準偏差の半分」の範囲を灰色、上を赤、下を青で塗ってみます。データの期間を延長しますが、規格化する際の平均値と標準偏差の基準期間は1951-80年のまま変えないことにします。また、色の塗り分けの基準も変えないことにします。期間をずらしながら頻度分布のグラフを見ていくと、1980年ごろから赤の部分がふえていくことがわかります。
このグラフは平均から標準偏差の半分だけ離れたところから色をつけてしまっていますが、これはアニメーションを見やすくするために色のつく面積を大きくしたかったからだと思います。「異常気象」の頻度がふえているかどうかを問題にしたいのならば、たとえば標準偏差の2倍以上離れた値に色をつけて議論したほうがよいと思います。しかし、基本的理屈は同様です。
このグラフが示すのは、気温が上昇しているという事実だけです。それと温室効果気体の増加を結びつける理屈は、これとは別の、大気物理の理論や数値モデルに基づくものです。
文献
- James Hansen, Makiko Sato, and Reto Ruedy, 2012: Perception of climate change. Proceedings of the National Academy of Sciences USA, 109, E2415-E2423. [要旨、本文(無料PDF)へのリンク]
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