科学者の9割は『地球温暖化』CO2犯人説はウソだと知っている」(丸山茂徳 著、宝島社新書、2008年8月発行)という奇妙なタイトルの本を買いました(以下「宝島新書」と略記)。著者の丸山茂徳先生は、今後の地球は2035年頃まで急激に寒冷化するという説を唱えている地質学者です。この本のタイトルは、安井至先生がぼろくそに指摘されているように(http://www.yasuienv.net/MaruyamaCO2.htm)、本の売り上げを伸ばすことだけを目的に出版社がつけたものだろうと思います。そんな本に金を出すのは世の中のためにならないとは思いつつも、さっそく購入してしまったのには理由があります。それは、このタイトルの由来となったアンケートの現場に私もいたので、ちょっとは検証する責任があるかも、と考えたからです。

今年5月末に幕張メッセで開かれた、日本地球惑星科学連合(JPGU) の大会で開かれたセッションの一つに、「21世紀は温暖化なのか、寒冷化なのか?(地球温暖化問題の真相)」という不思議なテーマがつけられていました。セッション日程は3日間に分かれていましたが、その各日の冒頭で、件のアンケートが出席者の挙手によりおこなわれました。私は1日目(5/25)と2日目(5/28)、アンケートにも参加しました(もちろん「最近の温暖化傾向は人為起源」とかいう選択肢に手を挙げました)が、最終日(5/29)は欠席でした。設問の詳細までは記憶していないのですが、2項目ほどの同じ設問が毎日繰り返されたと思います。参加者間の「世論」の推移を見たいという趣旨だったらしいです。

このセッションのコンビーナとして主催者的な立場だったのが丸山先生でした。主催者側としては、地球温暖化の議論を支えるIPCC的な立場の人と、それに対して懐疑的な見解を持っている人(「寒冷化論者」を含む)が対等にじっくり議論することを目指していたようなのですが、残念ながらIPCCに近い立場の人はあまり集まらず(なので私は完全なマイノリティ)、温暖化懐疑論者やそれに近い人たちが集合してしまったという感じでした。気候学の専門家は、書店に並んでいる「懐疑本」の多くがあまりに低品質の議論に終始していることにうんざりしているはずなので、丸山先生が主催する妙なテーマのセッションに参加する気になれなかったのも仕方ないことだと思います。そもそも、気象学者の多くはその前週に横浜で開かれた日本気象学会春季大会の方に行っているので、JPGU大会に参加する人はかなり少数です。

というような事情なので、セッション参加者(数えてませんが、200人ほど??)のほとんどが気象や気候は専門外という方々だったようです。そんな場所で、地球温暖化の科学についてのつっこんだアンケートをとろうとしても、真面目な科学者であれば「わからない」と答える人が多かったのは当然のことでしょう(宝島新書5ページの記述によると、10人中7人とのこと)。また、「21世紀は寒冷化の時代」と答えた人が10人中2人(宝島新書5ページより)いたというのも、会場に懐疑論者が多かったことや、セッションを主導していた丸山先生に影響された人もいたであろうことを考慮すれば、不思議な数字とは言えないでしょう。残る選択肢である「21世紀は一方的温暖化」を選んだ人は10人中1人だけだったということです。別の設問で「最近の温暖化傾向は人為起源」であるかどうかを問うアンケートもなされたはずですが、こちらの結果は宝島新書には載っていないようです。

ここまで読まれた方は、このアンケート結果が、科学者コミュニティの「世論調査」として信用できるような数字でないことはご理解いただけると思います。そもそも宝島新書にはアンケートの設問や実施方法についての説明がきちんと書かれていないので、それだけで、まともな世論調査かどうかを疑われたとしてもしかたないでしょう。

しかし、このアンケートにはもっと重大な、別の問題があります。

挙手アンケートをおこなおうとしたときに、アンケート結果がどのように利用されるのかを問題視するような質問が会場から出されました。客観的な世論調査とは言えないはずなのに、まるでJPGU関連の科学者全体を代表するような数字として公表されたりしたら良くない、という趣旨だと私は理解しました(丸山先生の理解は違うようですが)。この質問に答える際に、丸山先生が「結果は公表しない」と断言されたことを私は記憶しています。でも、実際には、このアンケート結果とおぼしき数字が宝島新書には載っています。これはいったいどういうことなのでしょうか? ご自身の言葉に反してまでも公表することを正当化できるような理由が何かあるのか、とても疑問です。ましてやこの数字(「寒冷化」「わからない」を合わせた9割)が出版社の商業主義にむりやり利用されてしまっているわけですので・・・。

この本の、アンケート以外の内容にもコメントしたいことがありますが、それはまた後日ということで。

吉村じゅん


【追記 2008年9月2日18時】
アンケートが、セッション各日の「冒頭」でおこなわれたと書きましたが、セッション終了時点でも同じアンケートが繰り返されたかもしれません(このへん記憶はちょっとあやふや)。ところで、丸山先生が書かれたアンケート結果というのは、いつの時点のものなのでしょう?

上記の文章を書いた後で、宝島新書の終章184ページに下のような記述があることに気がつきました。
「そこで地球惑星連合大会でも同様のアンケートを試みたのだが、その時にアンケートに反対した参加者がいた。このエピソードは冒頭に述べたが、私はアンケートを公表しないと約束した。しかし、徐々に科学者共同体の存立基盤の意味を理解するようになり、怒りがこみ上げてきた。私はアンケートの結果を公表しないどころか、本のタイトルにした。個人的な信用を捨てた。一番悪いのは科学者なのだ。」

丸山先生が、どうして気候科学者が真面目に地球温暖化の問題に取り組んでいることをきちんと評価してくださらないのか、どうしてこれほどお怒りになっているのか、理解できないのですが、とにかく、個人としての信用を犠牲にしてでもアンケート結果を公表する必要があるという考えのようです。

念のために補足しますが、私は丸山先生が素晴らしい研究実績をお持ちであることは知っていますし、科学者としての能力や誠実さに疑問を持っているわけでもありません。JPGU大会で議論した際には、人間的にもとても魅力ある方だと感じました。ただ、あまり吟味したり検証したりしないで物事を強く主張されているように見受けられるので、上のような指摘をしておく必要があると考えているだけです。
(吉村じゅん)

【訂正 2008年9月19日19時】
日本気象学会の開催地名を間違えていました。本文修正済み。(吉村じゅん)