別記事へのwakaさんからのコメントで、大気中の水蒸気の経年変化に関する文献を知りたいという質問がありました。

IPCC第4次報告書(AR4) (IPCCのウェブサイトに英語のPDFファイルがあります)では、第1部会報告書第3章の3.4.2節がこの話題です。ただし、飽和水蒸気圧は温度によって桁違いに変わるため、大気中の水蒸気の総量を論じるならば、圧倒的に多くの部分は対流圏下層の水蒸気であり、しかも熱帯の海上が主となりますが、他方、温室効果を考えるならば、もともと水蒸気量の少ない対流圏上層、あるいはppmレベルの微量成分にすぎなくなる成層圏での変化が重要になります。それでIPCC報告書のこの節も、対流圏下層、対流圏上層、成層圏の3つに分けて書かれています。

わたしが比較的わかっているのは対流圏下層の部分ですが、ラジオゾンデ(観測機器をつけた気球)による観測は、(それぞれはもちろん貴重な情報を含んでいるのですが)、長期の変化傾向を見るのは、観測機器の機種が変わると感度が違ってしまうことの効果が大きくて、とてもむずかしいです。それでAR4の3.4.2.1節では衛星観測、とくにアメリカの衛星DMSPのマイクロ波放射計SSM/Iによるものを重視していますが、それで変化傾向を論じられるのは1988年以後に限られてしまいます。変化傾向の地域的な違いや年々変動も大きいです。おおざっぱに言って「水蒸気の総量は、気温に応じて、ほぼ飽和水蒸気量に比例して変わる(つまり相対湿度がほぼ一定)」ようなのですが、これは「観測事実はこのような作業仮説と矛盾しない」という程度のことで、観測事実だけからも理論のほうからも明確に言えることではないと思います。

AR4以後の重要な文献については残念ながらまだ調べていません。

ただし、最近(10月20-24日)、American Geophysical Unionの研究集会「AGU Chapman Conference on Atmospheric Water Vapor and Its Role on Climate」があったそうです。わたしは(AGUの会員でありながら直接ではなく) 雑誌「Nature」の関連のblogの記事で知りました。この記事は会議があったことを伝えているだけですが、会議のウェブサイトで講演一覧を見ると、この問題にかかわっている科学者の多くが含まれているので、文献をさがす参考になると思いました。ただしアメリカの学会ですから、アメリカ以外の科学者は必ずしも集まらなかったと思います(日本からの参加者も少数でした)。

masudako