気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

地球温暖化懐疑論について

『地球温暖化懐疑論批判』(明日香ほか, 2009年)の文献リスト

次の文書が世に出てから4年あまりたちました。

  • 明日香 壽川, 河宮 未知生, 高橋 潔, 吉村 純, 江守 正多, 伊勢 武史, 増田 耕一, 野沢 徹, 川村 賢二, 山本 政一郎, 2009年: 地球温暖化懐疑論批判 (IR3S/TIGS叢書 1)。 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)・ 東京大学地球持続戦略研究イニシアティブ(TIGS)。80ページ。

この文書は今では紙では配布されておらず、また「IR3S/TIGS叢書」のウェブページhttp://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/sosho/での直接の紹介がなくなってしまいましたが、PDFファイルはあいかわらず置かれています。[2018-07-15補足: その後、IR3SのサイトではPDFファイルがみつからなくなりました。第1著者の明日香さんのサイトのhttp://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/database.htmlのページにPDFファイルが置かれています。]

この文章は、2006年ごろから書き始められて2009年5月に原稿改訂がしめきられたもので、いまから見ると、過去のものという気がすることもあります。いま書くとしても、基本的主張は変わらないと思いますが、どのような温暖化懐疑論の文献に対する批判が必要だと考え、どのような学術文献を参照して議論を組みたてるかは、変わってくると思います。そのような取り組みをだれかがするかもしれませんが、わたしからお約束することは残念ながらできません。他方、執筆時期 を考慮して、歴史的文献(というのはおおげさな表現ですが)として見てくだされば、有用なこともあると思います。

ところが、歴史的文献として使うためには参考文献が確認できることが重要ですが、「参考文献」としてあげられたウェブ上の情報のアドレス(URL)が変わったところがあちこちあります。発信者が発信しつづけている場合でも、別のウェブサイトに移ったり、ウェブサイトの構成が変わったりしたことがありました。(わたしが公開していたページもひとつ採用されていますが、それを置いていたサイトをひきはらったので、移動しています。) もとのページが見つからなかったものの一部は、「インターネット・アーカイブ」でコピーが見つかりましたが、残念ながらそこでも見つからなかったものも少数ながらありました。2009年版の文書を読むかたが参考文献をたどれるようにしておいたほうがよいと思いますので、URLを改訂した参考文献リストを、わたしの個人ウェブサイト中のhttp://macroscope.world.coocan.jp/ja/reading/asuka_hoka_2009_ref.htmlに置きました。今後、定期的ではありませんが気づいたときには改訂するつもりです。移動するかもしれませんが、わたしが個人ウェブサイトを維持している限りは上記のところから行き先がわかるようにするつもりです。

2009年5月の時点で有効だったURL (いくつか確認もれがあるようですが)が4年半の間にどれだけ変わったか、という例とみることもできるかもしれません。資料として使われる情報を発信するウェブサイトでは、文書のアドレスがなるべく変わらないようにするべきです。World Wide Webを始めた人であるTim Berners-Leeさんの「クールなURIは変わらない (Cool URIs don't change)」という文書での提案が参考になると思います(必ずしもすぐその提案どおりにしようとは思わないのですが)。論文はDOI (ditigal object identifier)参照がよさそうです(「doi:」を「http://dx.doi.org/」に変えるとウェブ上でたどれます。ただし今回のリストはDOIを書いた項目と書いてない項目が不ぞろいのままです)。

[2018-07-15改訂] ここに、原本PDF (東大IR3Sウェブサイト内)へのリンクを示していましたが、リンク先のファイルがなくなったので、リンクをやめ、ファイル構成を示すだけにします。

  • 一括ダウンロード (all.pdf、5,707KB)
  • 分割ダウンロード

    • 表紙・はじめに・CONTENTS (chap0.pdf、2,628.6KB)
    • 第1章 温暖化問題における「合意」 (chap1.pdf、318.5KB)
    • 第2章 温暖化問題に関するマスコミ報道 (chap2.pdf、188.6KB)
    • 第3章 温暖化問題の科学的基礎 (chap3.pdf、1,408.5KB)
    • 第4章 温暖化対策の優先順位 (chap4.pdf、337.6KB)
    • 第5章 京都議定書の評価 (chap5.pdf、360.4KB)
    • 最後に・参考文献 (last.pdf、793.3KB)


masudako

「パリティ」2012年12月号、河宮未知生氏によるモデルの話

丸善出版から出ている物理の雑誌『パリティ』の企画「温暖化問題、討論のすすめ」が、毎号ではありませんが、続いています。2012年12月号(56-59ページ)に、河宮未知生さんによる「気候モデルの『しつけ』に関する説明と考察」という文章が出ました。河宮さんは気候モデルに生物地球化学サイクルの表現を組みこんだ「地球システムモデル」とそれを利用した研究にかかわっているかたです。

「しつけ」という表現は、2011年12月号(わたしによる紹介は[2011年11月28日の記事])で安井至さんが温暖化懐疑論者の主張として紹介した「気候モデルはすべて温暖化が算出されるようにしつけられている」という議論に由来するようです。その号での安井さんは「研究者をばかにしている」と怒っただけで内容的な反論をしていませんでした。

気候モデルは大まかに分けて2種類の部分があるのです。物理法則をすなおに数値計算に置きかえている部分と、経験式を使っている部分です。経験式を使っている部分を「パラメータ化」あるいは「パラメタリゼーション」と呼んでいます。パラメータというのは大まかにいうと経験式の係数のようなものです。パラメータの値は過去の経験によって決めますので、この部分についてモデルが「しつけられている」という表現はもっともなところがあります。ただし、そこで使われている過去の経験はそれぞれの部分の動作を確認するのに適したものであって、気候全体のふるまいを観測値に合わせているわけではありません。

モデルとパラメタリゼーションに関しては、わたしも別のブログの記事として説明を試みました。

masudako

「日経サイエンス」2012年8月号「太陽異変」

日経サイエンス」の2012年8月号には「太陽異変」「竜巻の脅威」という2つの特集があります。ここでは太陽のほうをとりあげます。これはScientific Americanからの翻訳ではなく日本独自の企画です。

気候変化の研究者から見て、太陽の変動は注目すべきもののひとつです。5月の気象学会の中で行なわれた講演会でも、天文学者との意思疎通をもっと進める必要があるという発言がありました (わたしの覚え書きは[別ブログ6月23日の記事])。だから、この企画がされたことはありがたいことなのです。ただし、雑誌編集者がつけたと思われる表題や導入文に、地球の気候が寒くなるだろうという期待をもたせそうなことばがならんでいます。中身を読んでみると「かもしれない」とは言えますが「だろう」というほどの主張にはなっていません。また、二酸化炭素そのほかの温室効果の変化の効果との重みの比較はされていません。蛇足かもしれませんが、これは人為起源温室効果強化による地球温暖化を否定する根拠になる記事群ではないことに注意しておきたいと思います。

常田 佐久「特異な磁場出現 活動 未知の領域へ」は、太陽観測衛星「ひので」の観測でわかったことの報告です。このブログではすでに[2011年9月6日の記事][2012年4月12日の記事]でふれていますが、その後の進展も含めて、雑誌記事のほうがよくわかると思います。太陽磁場の「2重極構造」(わたしの4月12日の記事では「双極子磁場」と表現しました)つまり自転軸と磁石のN・S極の軸が一致するような構造が弱まり「4重極構造」が強まっています。また、黒点周期が通常の11年よりも長くなっています。これらの特徴が、過去に黒点が非常に少なかったMaunder極小期(1650-1700年ごろ)やDalton極小期(1800-1820年ごろ)に似ていると言っていますが、その根拠は次にのっている宮原さんの研究のようです。常田さんは太陽がそのような極小期に向かいつつある可能性があると言っていますが、断定してはおらず、あと11年くらい観測を続ければはっきりするだろうと言っています。なお、これらの極小期をさして「寒冷期」ということばも見出しには出てきますが、本文にはなく、見出しは編集者がつけたものではないかと思われます。

宮原 ひろ子「地球は冷えるか」は、地球に達する銀河宇宙線と太陽活動の関係の説明と、それが気候におよぼす影響に関する考えを述べたものです。宮原さんはもともと宇宙線の研究者であり、太陽磁場の変化によって宇宙線の動きがどう変わるかは専門家としての確かな知見なのだと思います。太陽活動周期はふつう約11年ですが、その回ごとに太陽磁場の向きが逆転します。太陽磁場と地球磁場が同じ向きか逆向きかによって、地球に達する宇宙線への影響は対称的にならないそうです。(これは古気候指標から原因をさぐるうえで重要なヒントであるとは思いますが、確かめるのはとてもむずかしいと思います。今回の解説ではそこはふれていません。)  宇宙線が気候に影響を及ぼすしくみについては次の草野さんと同じように考えているようです。そのうえで、因果関係を示唆する傍証というつもりだと思いますが、45ページの図では、2009-2010年の世界の異常天候(大雨・かんばつ・寒波など)の分布を定性的に示し、Maunder極小期中に宇宙線が異常に多かった時期の同様な分布とならべています。この部分については、ネット上で、気候に関して何かを主張する論法としてはあまりに雑だという匿名の論評を見ました。実際、最近の古気候学研究の中には、過去のさまざまな記録を温度などの定量的変数にそろえて統計的にパタンの類似性を見るものがふえています。わたしは定量的扱いと定性的扱いのどちらがよいかわかりませんが、45ページの図は「研究する価値がありそうである」ことを示唆するものではあるが研究成果として引用できるようなものではないと思います。

草野 完也 「雲と太陽 深い関係」は、太陽活動が気候に影響を与えるしくみに関する説を、(太陽光のエネルギー流の変動は小さすぎるとことわったあとで) 宇宙線と雲を介するものにしぼって述べています。まずSvensmarkの説を好意的に紹介しています。ただし、よく読むと、雲凝結核(草野さんの表現は「雲凝縮核」、たぶん「凝結」が気象用語で「凝縮」が物理用語)として働くには50 nm (ナノメートル)以上の大きさがほしいのですが、SvensmarkのSKY実験で得られた「3 nm以上」やCERNのCLOUD実験で得られた「1.7 nm以上」では小さすぎ、その成長過程が起こることはまだ説明できていません。草野さんはこれと並列に、雲の中にたまった電荷が重要だというTinsleyという人の説も紹介しています。わたしは、太陽磁場の変化は宇宙線を介するよりももっと直接的に電荷の動きに影響しうるだろうと思うのですが、草野さんは宇宙線を介する因果連鎖にこだわっているようです。気候への影響の定量的見積もりとしては、Svensmarkが前に示した銀河宇宙線と海上の対流圏下部の雲量との相関によるものを紹介しているだけで、そのデータは代表性に乏しいという気候学者からの批判にはこたえていません。

masudako

『パリティ』2012年7月号の吉田英生さんの評論へのコメント

パリティ』は丸善出版(丸善から分かれた)から市販されている物理に関する雑誌ですが、その昨年3月号に「温暖化問題、討論のすすめ」がのりました。このブログでは2011年03月11日の記事「『パリティ』3月号の温暖化問題の企画と松田卓也さんの評論へのコメント」で紹介・論評しました。

震災そのほかによって編集部の対応に手間取ったようですが、11月号から毎号1つの記事が連載されました。そのうち12月号について2011年11月28日「『パリティ』連載の温暖化問題の企画と安井至さんの評論へのコメント」でふれました。

この連載が、2012年7月号で一段落することになったようです。7月号の記事は、吉田英生さんによる「エンジニアからみた熱流体力学シミュレーション」です。

吉田さんといえば、エネルギー・資源学会 (http://www.jser.gr.jp/)の学会誌編集委員長で、学会誌の2009年1月号および3月号にのった電子メール討論「地球温暖化: その科学的真実を問う」の企画をされたかたです。学会誌にのった討論の内容は(2012年07月12日現在) 同学会ホームページ右下からリンクされたPDFファイル群にあります。この討論については、このブログで吉村じゅんきちさんが2009年01月16日の記事「『エネルギー・資源』新春e-mail討論」でとりあげました。吉村さんは、いわゆる温暖化懐疑論者(ただし主張内容はそれぞれに異なる)4人に対して、IPCC第1部会の結論が科学的に正しいとする江守正多さんのほうが議論に勝ったと見ていました。

ところが、今度の「パリティ」の記事で吉田さんは、「このメール討論をとおして、筆者はあくまでもコーディネータとして中立な立場を貫いたつもりではあるが、個人的には人為起源の温暖化説に疑問を感じている。」と述べておられます。江守さんに近い考えを持っている者として、残念です。

もっとも、その先を読んでみると、吉田さんの主張は、地球温暖化のしくみや観測事実に対する疑問ではなく、数値シミュレーションが現実に対応しているかどうか、そしてそのようなシミュレーションの結果を社会的意志決定に使えるだけの確かさがあるかどうかについての疑問であることがわかります。

ご自分でも内燃機関のエンジンの中など化学反応や相変化が起こる流体のシミュレーションによる研究をしておられる立場からの、乱流モデルには未解決の問題があり、水の相変化を含む大気のシミュレーションはさらにむずかしいという指摘はもっともです。

しかし、地球温暖化の見通しは、流体運動と相変化を含む3次元の気候モデルによるシミュレーションだけに依存しているわけではないのです。このことが、吉田さんに限らず、IPCCが第1次報告書を出した1990年よりもあとに地球温暖化問題を追いかけはじめたかたにはわかりにくいかもしれません。

基本は、Manabe and Wetherald (1967)の鉛直1次元のいわゆる「放射対流平衡モデル」によって、二酸化炭素濃度が全球平均地上気温をどのくらい変えることができるかの量の規模がわかったことでした。(高さ方向の違いを考えない0次元モデルでは決まらなかったのでした。) このモデルは、大気の対流による鉛直エネルギー交換を「気温減率が6.5K/kmに調節される」という形で入れているところが、理論的根拠という意味では3次元流体モデルよりもさらに弱いのですが、ここの仮定をありそうな範囲で変更すると(たとえば、専門用語を使ってしまいますが、「湿潤断熱減率になる」とする)、結果として得られる定常応答の温度変化が2倍・2分の1くらいの範囲で変わりえますが、桁違いになることはとてもありそうもないです。

3次元モデルの結果がこの範囲からはずれれば、1次元モデル・3次元モデル両方とも考えなおす必要がありますが、大筋で一致するので、完全な検証にはなっていないものの一方だけよりは知識の確かさが高まったと認識されたのでした。そのようなつきあわせを経た3次元モデルなので、もちろん雲の扱いなどが完全でないことは承知ですが、たとえば「これこれの二酸化炭素濃度シナリオが与えられた場合の全球平均地上気温の変化量が3℃を中心に1.5℃から6℃の範囲におさまる可能性が高い」などと言える程度には使えそうだという意味で、気候研究者は自信をもっているのです。

これだけでは議論がかみあっていないかもしれません。工学系の先生や大学院生がすぐためしてみられる形で1次元モデルとその論理構成説明文書を用意しておくことができればかみあいそうな気がします。残る問題は、そのような教材を整備することに能力と時間をさく人がそのことを業績として認められるかかもしれません。

masudako

Fred Singer氏、温暖化否定論者とたもとを分かつ(?!)

S. Fred Singer (シンガー)さんは、地球温暖化問題を否定する宣伝活動の先頭に立っている人だと思います。Naomi Oreskes (オレスケス)さんとErik Conway (コンウェイ)さんの、英語ではMerchants of Doubt [わたしの読書ノート]、日本語では「世界を騙しつづける科学者たち」という題で出ている本でも、Frederick Seitz (サイツ)さん(故人)とならんで、主要な批判対象となっています。

ところがこのSingerさんが、American Thinkerという雑誌に出した記事(日付が2つありますが、ネットに出たのが2012年2月29日で、紙版が3月16日号のようです) 「Climate Deniers Are Giving Us Skeptics a Bad Name」で、懐疑論者(skeptics)と否定論者(deniers)は違うのであり、自分は懐疑論者だが否定論者ではないのだと言い出しました。

記事の中ではIPCCをたっぷり批判していますが(わたしとしては納得がいかないところが多いですが)、そのあとで、次のような否定論の例をあげて、そのような議論は正しくないのだと言っています。

  • 「温室効果は熱力学第2法則に反するのでありえない」

  • 「CO2濃度は今よりも19世紀のほうが高かった」

  • 「CO2濃度の上昇は、温度が上がった結果、海水にとけていたものが出てきたせいだ」

  • 「大気中のCO2の量はわずかなので全球規模の気温に影響を与えるはずがない」

  • 「毎年大気に加わる二酸化炭素は自然起源のほうが人為起源よりもずっと多い」

  • 「火山噴火によって大気に加わる二酸化炭素のほうが人為起源よりも多い」


ここにあげたような主張をもっているみなさん、Singerさんはもはやあなたがたの身方ではありません。

masudako

Heartland Instituteの内部文書暴露とニセ文書疑惑

アメリカで、ちょっとややこしいことが起きました。まだ全貌がよくわかりません。

日本語での報道としては、AFPBBの2012年02月27日の記事(「トップ > 環境・サイエンス・IT > 環境 > 記事」の下、発信地:ワシントンD.C./米国) 「気候変動否定派、米学校教育へ関与する動き発覚」があります。 

シカゴに本拠をおくHeartland Instituteは、保守系シンクタンクとされていますが、地球温暖化問題を否定する宣伝活動をよくやっているところです。IPCCに対抗する「NIPCCの報告書」を出す主体のひとつになったり、「ICCC」という会議を主催したりしています。そのPresident (日本流にいえば社団法人の理事長というところでしょう)のJoseph Bast (バスト)さんと役員で元宇宙飛行士のHarrison Schmitt (ハリソン・シュミット)さんが1年ほど前に北極海の海氷が最近30年間に減っていないと強弁したことは、2011年2月10日の記事「悲しいつまみ食い (Harrison SchmittとHeartland Institute)」で紹介しました。

さて、2012年2月14日に、Desmog blogというブログに、「Heartland Insider Exposes Institute's Budget and Strategy」という記事が出ました。そこにはHeartland Insiderと名のる匿名の人から提供された複数のPDF文書がリンクされていました。その文書群はHeartland Instituteの役員会の議題資料らしいもので、Heartland Instituteの資金供給源が示されており(そのうちいちばん大口の寄付をしている個人の名まえは匿名でしたが)、また、学校教育に食いこんで「気候変動のことはまだよくわかっていないのだ」という認識を広めようとする戦略などが書かれていました。

翌15日に、Heartland Instituteのウェブサイトにその職員のJim LakelyさんによるHeartland Institute Responds to Stolen and Fake Documentsという記事が出ました。文書のうちひとつ、「Confidential Memo: 2012 Heartland Climate Strategy」(以下「戦略文書」としておきます)はHeartland Instituteによるものではなくニセ物であるとしています。その他については、厳密に同じものであるかは未確認だとしながらも、内部文書であることを認め、「盗まれた」としています。

2月20日に、Peter Gleick (グライク)さんが、1年前にHeartland Instituteの海氷に関する主張を批判する記事を出したのと同じHuffington Postというサイトに、「The Origin of the Heartland Documents」という記事を出しました。そこでGleickさんが言っていることがほんとうだとすると、Heartland Insiderを名のってDesmog blogに文書を送ったのはGleickさんだったようです。

Gleickさんによれば、2012年の初め、匿名の人がGleickさんに「戦略文書」を送りつけてきたのだそうです。(紙の郵便なのか電子メールなのかは必ずしもはっきりしません。) Gleickさんはその情報が正確なものか確かめようという意図で、他人(Heartland Instituteの役員か出資者と思われる)の名まえを使ってHeartland Instituteに電子メールを送り、他の文書を取り寄せたのだそうです。そして、他の文書と内容のつじつまが合うので「戦略文書」も本物だろうと推測し、合わせてDesmog blogに送ったのだそうです。

Gleickさんは水資源の研究者で、Pacific Instituteという民間非営利の研究所のPresident (理事長)をしています。[このページ]にGleickさんの紹介があります。Gleickさん以外のPacific Instituteの人たちは、20日の記事を見るまで事件のことは知らなかったようです。Pacific Instituteのウェブサイトを3月6日に見たところでは2月27日づけの「PACIFIC INSTITUTE BOARD OF DIRECTORS STATEMENT」という記事がありました。Gleickさんは自主的に休職となっているそうです。そしてPacific InstituteのBoard (評議員会)は別の(それまで職員ではなかった)人を「Acting Executive Director」(専務理事代行というところでしょうか)に選んで業務を続けているそうです。

Gleickさんは、[前の記事]で述べた38人の気候専門家のひとりでもありますが、気候変化が水資源に及ぼす影響を研究し、IPCCでは第2部会に貢献している科学者です。

なおGleickさんはAmerican Geophysical Union (アメリカ地球物理学連合)という学会の倫理委員長をしていましたが、20日よりも前に、とくに理由は述べずにその委員長と委員を辞任しています。

Gleickさんはしばらく人まえに現われませんでしたが、3月9日のJeremy Millerさんの記事「Pacific Institute’s Peter Gleick Breaks Silence」によれば、おそらくその前日に、カリフォルニアの水資源政策の会議で講演したそうです。もちろん水資源政策に関する講演で、事件のことにはふれなかったそうです。

Gleickさんが他人の名まえをかたったことは道徳的に悪いことだと本人も反省しているそうですが、法律の立場から見て違法かどうかは判断が分かれるところのようです。Curtis Brainardさんが3月1日の記事「Heartland, Gleick, and Media Law -- Experts weigh in on leaks and deceptive tactics」で論じています。

さて、「戦略文書」について、GleickさんもHeartland Instituteもうそをついていないとすれば、どちらでもない第3者が作ったニセ物だということになります。結果としてGleickさんもHeartland Instituteも信用を落としてしまったところから見ると、おそらくニセ物を作った人は、どちらの身方でもなく、両方とも嫌いだったか、あるいは愉快犯だったように思われます。

Gleickさん自身がニセ物を作ったのではないかと疑う人もいます。Heartland Instituteの温暖化否定宣伝のひどさに怒り、それをたたきつぶすためならば、自分が科学者としての信頼を失うことさえためらわなくなっていたということは考えられなくはありません。しかし、Pacific Instituteの仕事を捨てる準備をしていなかったと思われるところから見て、そこまで捨て身だったことは考えにくいと思います。

他方、Heartland Instituteがうそをついていて「戦略文書」が実は本物であると疑う人もいます。こちらはHeartland Instituteの強弁の実績からはありそうなことなのですが、「文書の中の『anti-climate』などという表現はHeartland Instituteの立場で使うはずがない」という指摘ももっともな気がします。

したがって、暫定的に、やはり第3者が作ったニセ物である可能性が高い、と考えておきます。

masudako

Wall Street Journalにのった地球温暖化懐疑論

久しぶりに、いわゆる地球温暖化懐疑論の話です。

まず、菊池誠さんのKikulogの「地球温暖化問題つづき」の記事へのコメント(現在187番)として、「気弱な物理屋」さんが1月30日に指摘され、わたしが(現在188番として)2月4日にコメントした件です。

アメリカのWall Street Jounalに1月26日に、フランスの固体地球物理学者Claude Allègre (アレーグル)さんを筆頭とする科学者(元科学者というべき人もいますが)16人による意見論説「No Need to Panic About Global Warming」が出ました。日本語版ウェブサイトでも、有料ですが、1月30日に「【オピニオン】温暖化は真実か―政治家に求められる合理的な政策判断」として出ています。

題名でいう、温暖化のことで「パニックを起こすべきでない」という主張に限ればもっともです。温暖化問題は重要だと考える人たちのサイトPlanet 3.0でも、この記事が出る前から、「Don't Panic」をモットーにかかげていたのでした。(Planet 3.0ではMichael Tobisさんが1月27日づけの記事[The Wall Street Journal, Again]で論評しています。) わたしは、Allègreほかの意見論説を日本語では読んでおらず、英語でざっと読みましたが、結論は「温暖化のことは気にしなくてよい」と言っているようです。しかし、それに至る理屈はよくわかりませんでした。

これに対して、Kevin Trenberth (トレンバース)さんを筆頭とする気候専門家38人の連名による「Check With Climate Scientists for Views on Climate」という記事が2月1日づけでWall Street Journalのサイトに出ました。紙の新聞にものったのだと思います。また、Skeptical Scienceというブログにも、著者の提供により同じ記事が出ています。これは、前のAllègreほかの論説が「Opinion」という部類だったのに対して「Letters」という投書欄のようなもので文字数制限がきびしかったらしく、論点は次のことだけにしぼられています。

  • 気候のことは、同じ科学者のうちでも、気候の専門家の見解を重視してほしい (いわば「餅は餅屋」)。

  • Allègreほかの論説でTrenberthの発言を引用した部分は、Trenberthの意図をまったく取り違えている。(これは2010年02月20日の記事「いわゆるClimategate事件、渡辺(2010)への反論(3)」で紹介したのと同じ論点です。)



Trenberthさんは大気・海洋の物理を観測データをもとに研究している人で、IPCC第1部会の報告書の編著者のひとりです。連名の半分くらいが同様に気候の物理的基礎の研究者、半分くらいが気候の生態系への影響の研究者(IPCCでは第2部会)、少数ですが温暖化の対策を研究する経済学者(IPCCでは第3部会)もいます。気候科学者と言った場合は気候の物理的基礎の研究者に限ることも多いですが、この場合Allègreほかの論説は温暖化は対策が必要な問題かという政策判断に少し踏みこんでいますから、影響や対策の専門家も含めた集団として反論したのはもっともだと思います。

他方、Allègreほかの16人のうち気候の専門家と言えそうなのはせいぜい3人か4人です。

William Kininmonthさんは引退していますがオーストラリアの気象庁気候部長のような役をつとめた人だそうです。学者というよりも技術系行政官だったと思います。

Henk Tennekesさんも引退していますがオランダの気象研究所長のような役をつとめた人で、大気乱流に関する学問的業績のある人です。予測のむずかしさを指摘しているようです。

Richard Lindzen (リンゼン)さんは70歳をこえましたがMIT (マサチューセッツ工科大学)の教授としては現役です(定年はないらしいです)。大気の力学に関する学問的業績のある人です。地球の気候には変化を小さくする負のフィードバックのしくみがあるのではないかといういくつかの具体的な問いかけをしたことは、気候に関する学問に貢献したと思います。しかしその後は物理に立ち入った議論よりも地球の気候の感度は小さいという信念に基づく議論をするようになってしまったようです。 それで最近も失敗をしていますが、その話はあとにしましょう。

Nir Shaviv さんは天体物理学者で、宇宙線の気候への影響を主張しています。ただしその研究成果は、氷期サイクルの数十万年間か、さらに長い古生代以来の数億年間の気候変動に関するものです。

Allègreほかの論説の内容に立ち入った反論は、William Nordhaus (ノードハウス)さんによるものがあります。わたしはPlanet 3.0のTobisさんによる2月28日づけの記事「Nordhaus’s Rebuttal of the Wall Street Journal 16」で知りました。もと記事はThe New York Review of Booksの3月22日づけ(先づけですが紙版の雑誌の発行日なのでしょう)の記事「Why the Global Warming Skeptics Are Wrong」です。NordhausさんはTrenberthほかの38人にははいっていません。経済学者で、そのうちでは地球温暖化問題に早くから取り組んできた人ですが、イギリスの大蔵省の委託を受けてSternさんが2006年(紙版発行は2007年)にまとめた報告に対しては、それほど急進的な温室効果排出抑制政策は正当化されないと批判した人でもあります。そういう、(わたしの位置からではなく)今の経済体制を基準として比較的穏健と見られる人からも、温暖化はかなり重大な問題だという指摘がされたのです。

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Allègreさんたちは、2月21日にまたWall Street Journalに意見論説「Concerned Scientists Reply on Global Warming」を出しました。前のものよりも詳しいデータを使って論じようとしたようです。

これに対する内容に立ち入った反論は、地球科学者(研究者としての専門は鉱物の地球化学のようですが、気候変動に関する授業を担当することもある) Barry Bickmore (ビックモア)さんによるものがあります。もとはBickmoreさんの個人ブログに出たそうですが、わたしはRealClimateというブログの2月24日の記事「Bickmore on the WSJ response」で読みました。

その話題のうち一つを紹介します。Allègreほかの2回めの論説には、「Reality Versus Alarm」という表題のついた図があります。1989年以後の気温について、観測値をまとめた折れ線と、IPCC報告書による予測を示す直線がいっしょに表示してあります。これを見ると「IPCC 1990」という線が、その後わかった実際の気温の折れ線に比べてだいぶ上のほうに行っています。それで「予測ははずれた」という印象を与えたいようです。しかしこれはIPCCの第1次報告書です。同じ図に表示してある「IPCC 1995, 2001, 2007」の線を見れば (各報告書で幅をもって示している予測をそれぞれ1本の線にしてしまった際の集約のしかたにも疑問は残りますが)、予測と観測値とは大きくははずれていないのです。

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さて、Wall Street Journalとは直接関係ありませんが、Lindzenさんの件です。わたしはRealClimateの3月6日のGavin Schmidt (ガヴィン・シュミット)さんによる記事「Misrepresentation from Lindzen」で知りました。Linzdenさんは2012年2月、イギリス国会下院で参考人として発言しましたが、その中で、「NASA GISSがまとめた全球平均気温は、2008年版と2012年版とで大きく違う。新しい版のほうが気温の上昇が100年あたり0.14℃も大きくなっている。」と指摘し、NASAは温暖化の脅威を強調するために作為的にデータをいじっていると示唆しました。しかし、この気温のデータ編集にはかかわっていないがGISSの研究者であるSchmidtさんによれば、ここで使われた2008年版は陸と海を合わせた気温(正確には海の部分は海面水温)、2012年版は陸だけの気温のデータだったのです。現実に気温の上昇傾向は陸のほうが大きく、それに比べれば2008年版から2012年版への改訂は無視できるほどの違いしかありません。Lindzenさんは、違って当然のものを比べながら、違うのはだれかが不正をしているのだろうと疑っていたのでした。

Skeptical Scienceに「dana1981」さんが3月8日に出した「Lindzen's Junk Science」という記事(大部分は上記のSchmidtさんの記事の写しですが、追加された部分)によれば、Lindzenさんが示したグラフは自分で作ったものではなく、Howard Hayden (ヘイデン)という人が作って公開したものをそのまま使ったのだそうです。

HaydenさんもLindzenさんも、のちにまちがいを認めたそうです。ただし、ファイル名が同じだったのでまちがえたのも無理もないのだと言っているそうです。実際は、ファイル名は途中まで同じですが、終わりの部分には違いがあるそうです。

masudako

Yahoo掲示板に書いた記事

わたしは、このブログのほかに、これまで約1年のあいだ、Yahoo (ヤフー)掲示板( http://messages.yahoo.co.jp ) の「科学」の「地球科学」の下に「気候の門 (Yahoo門)」という「トピック」を開いて、いろいろな(いわゆる)地球温暖化懐疑論への反論を主としたこまごました記事を書いていました。内容のうちにはこのブログにも書いたものもありますが、重なっていないものもあります。

しかし、その掲示板はわたしにとってあまり使いよくないので、今後積極的に書きこむのはやめようと考えております。 絶対に読み書きしないと決めたわけではありませんが、読み書きの頻度は少なくなります。「トピック」は約1か月のあいだ書きこみがないと消されるようです。そこで、これまで書きこんだ記事を、わたしの個人サイトに写しました。入口ページはhttp://macroscope.world.coocan.jp/ja/archive/yahoobbs/index.htmlです。掲示板上と同様に、記事一覧(新しい記事から)があって、そこからそれぞれの記事にリンクする形にしてあります。ただし、今後もこの形で維持するか、内容を分類して整理しなおすかは未定です。

masudako


『パリティ』連載の温暖化問題の企画と安井至さんの評論へのコメント

3月11日(震災前でした)に書いた記事「『パリティ』3月号の温暖化問題の企画と松田卓也さんの評論へのコメント」に続くものです。

3月号で、連載されるように予告された企画「温暖化問題、討論のすすめ」ですが、おそらく編集部の態勢がなかなか整わなかったらしく、次の記事がのったのは11月号からでした。毎号ひとりずつの文章をのせていく方針だそうです。すでに来年7月号までの原稿が集まっているらしいので、それぞれの著者の主張を知ることは価値があると思いますが、雑誌に出た記事を見て言いたいことがあっても、雑誌上で討論する、というふうには、残念ながら進みそうもありません。

これまでにのった記事は次のとおりです。
松田 卓也: 地球温暖化と現代科学の問題点。2011年3月号53-57ページ。
近藤 洋輝: 地球温暖化に関する科学的知見と展望。2011年11月号56-60ページ。.
安井 至: 単純な物理現象が否定される不思議。2011年12月号52-55ページ。

12月号に示された今後の予定(確定ではありません)は次のとおりです。
伊藤 公紀: 地球温暖化論のメンタリティ -- 社会心理学的に見た気候変動問題。2012年1月号
江守 正多: いまさら温暖化論争? 2012年2月号
伊勢 武史: 地球温暖化は事実なのか -- よくある誤解と簡潔な答。2012年3月号
渡邊 正: 「CO2排出削減」という妄想・偽善。2012年4月号
御園生 誠: 地球温暖化のリスクと現実的対策を考える。2012年5月号
桜井 邦朋: 太陽活動の長期変動からみた地球温暖化 -- 過去120年にわたる観測結果。2012年6月号
吉田 英生: エンジニアから見た熱流体力学の数値シミュレーション。2012年7月号

11月号の近藤洋輝(ひろき)さんは、IPCC (とくに第1部会)に、日本政府代表団のメンバーという(報告書の著者とは違った)立場で参加してこられたかたで、「地球温暖化予測の最前線」(2009年、成山堂書店)という著書もあります。11月号の記事もその著書と同様に、IPCCがまとめた報告の要点を、第1部会の部分を中心に紹介したものでした。

12月号の安井至さんは工学者で、工業製品の生産・消費・廃棄にわたるライフサイクル評価などの業績があり、「市民のための環境学ガイド」のウェブサイトがよく知られています。広い見識をお持ちで、わたしとしてもおおいに尊敬しておりますが、専門にこだわらずに多くのことについて発言されているうちには、早がてんもときどき見られます。今回の記事も、意図を推測すればほとんど賛成できるのですが、もう少し落ち着いて書いていただきたかったと思うところがありました。

大槻編集長の出した「温暖化を認める常識派と認めない非常識派」というわく組みに対して、安井さんは、温暖化が人為起源であると考えるかどうかと、常識派か非常識派かとは別の問題だと考えます。そして、非人為起源派の常識派はいないようだ、と言っています。現在いるいわゆる温暖化懐疑論者は非常識だ、というわけです。

この議論は、「非常識」ということばの意味づけしだいでは、もっともだと思います。ただし安井さんは、「非常識派とは、『研究成果や著作を発表するさいに、自らの主張によって世間をいかに驚かすことができるかを最大の目的と考え、それによって、次の研究費なり印税の獲得をめざす』といった動機で行動をしている集団を意味する」と定義しています。確証はないのですが、温暖化懐疑論者のうちにはそういう態度の人もいるかもしれません。(「自らの主張」を本人も信じている場合と、うそを承知で強弁している場合の、どちらもありうるでしょう。) しかし、温暖化懐疑論者がみんなこういう態度だと決めつけるのは無理があります。温暖化抑制策を妨害するという政治的目的で動いている人もいるかもしれません。(温暖化は起こらないと思っている場合と、温暖化は起こるだろうがこれまでの経済活動を続けることのほうが大事だと思っている場合の、どちらもありうるでしょう。)

温暖化懐疑論への批判は、東京大学サステイナビリティ連携機構[12月号注の「気候」は誤植]から公開されている「地球温暖化懐疑論批判」を引用して、それとほぼ同じ議論をされていますので、ここでは詳しく述べないことにします。ひとつ、「気候モデルはすべて温暖化が算出されるようにしつけられている」という議論を追加して「研究者というものをあまりにばかにしている」と反論しています。(これではけんかになるだけなので、なぜあきれたのかの理屈を述べてくださるとよかったと思います。)

問題は、「人為起源派のなかの非常識派」のところです。わたしも、このように分類される人たちがいると思い、「温暖化脅威論者」と表現することがあります。しかし、安井さんが想定する対象はそれと違うようで、「英国において気候ゲート事件を引き起こしたり、過去の地球の気温の推移などに細工をした人々である。ようするに、端的に表現すれば、嘘をついた人々である。」と書かれています。気候研究者のなかに、データをごまかすなどの不正をした人がいないとは言い切れません。しかし、2009年11月に暴露された電子メールが、それを書いた人たちが不正をした証拠でないことは、いくつもの審査委員会で示されています。([別ブログのわたしの2010年7月16日の記事]にまとめました。その後2011年8月には、アメリカの国立科学基金(NSF)の監査役がMannさんに研究上の不正はなかったという報告をしています。) 安井さんも脚注(実際にはページの上側にあるので頭注というべきでしょうか)に「データを捏造したことが確定したわけではない」と書いてはおられますが、捏造があった可能性が高いという推定のもとで文章を書いておられるようです。どうやら、「非人為起源派のなかの非常識派」(の一部の人々)の宣伝がとてもうまくて、安井さんも3月号の松田さんも乗せられてしまったようです。

ただし、安井さんの主張の本筋は、温暖化が起こると言っている科学者の多くは「常識派」であって、その研究成果は(個別のまちがいを含む可能性はあるが)嘘ではないということです。

次に「人為起源派の非常識派の新たな候補者」という議論をしています。これから、気候モデリングで国の予算をもらうのであれば、政策決定のためのリスク評価に役立つ研究でなければならない。理学研究者は科学研究自体を目的として意識することが多いが、それでは非常識になってしまう、ということです。「非常識」ということばがさきほどの「定義」にそって使われているとすると、気候研究者の多くが「世間をいかに驚かすことができるかを最大の目的と考え」るようになるという予想は無理があると思うのですが、もっと常識的に、予算配分の目的をわきまえないのは非常識だというのならば、研究者に向けたもっともな助言だと思います。

masudako

電子メール暴露の二番せんじ

イギリスのイーストアングリア大学(UEA)の気候研究所(Climatic Research Unit, CRU)の研究者の電子メールが、また暴露されたそうです。

暴露のされかたは2年前の2009年11月とほぼ同じで、ロシアのFTPサイトへのリンクがいくつかのブログに投稿されました。ただしブログへの不当な侵入はありませんでした。データの形式も前と同様なzipアーカイブでした。ただし、前のときは中身の各ファイルのタイムスタンプから北アメリカ東部で加工されたと推測されたのですが、今回はタイムスタンプが人工的にそろえられていたそうです。

中身はまだよく確かめられていませんが、2年前に暴露されたものは当時CRUのサーバーに保存されていたメールの控えのうち一部分だけであり、今回のも同じ控えのうちから別の部分が抜き出されたものらしいです。

イーストアングリア大学の公式サイトからはRelease of climate emails - November 2011という記事(11月22日)が出ています。

イギリスの新聞Guardian (ガーディアン)はFresh round of hacked climate science emails leaked onlineという記事(Leo Hickman氏、11月22日)と、2009年の事件を説明したQ&A: 'Climategate’という記事(Damian Carrington氏、2010年7月7日、2011年11月22日改訂)をのせています。

そのほか、わたしの見たブログ記事をいくつかあげておきます。(どれもほぼ同じ傾向のものですが。)
Real Climate Two-year old turkey (Gavin Schmidt氏, 11月22日)
Skeptical Science Climategate 2.0: Denialists Serve Up Two-Year-Old Turkey (Rob Painting氏, Dana Nuccitelli氏, 11月23日)
Hot Topic (ニュージーランド) Two-year-old turkey for thanksgiving: CRU emails part deux (Gareth Renowden氏, 11月23日, 他のブログへのリンクもある)
Stoat CRU tooo? (William Connolley氏, 11月22日[その後加筆あり], 他のブログへのリンクもある)

アメリカ合衆国では11月の第4木曜日(ことしは24日)が感謝祭で、七面鳥(turkey、トルコと直接の関係はない)を料理する習慣があります。2年前の暴露のあったのも、今回も、感謝祭の前なので、こういう表現が出てきたわけです。暴露した人の意図を推測すれば、12月初めに開かれる気候変動枠組み条約締約国会議での各国代表の態度への影響をねらったのでこの時期になったと考えられます。しかし、温暖化懐疑論者のブログでとりあげられた内容をメールのもともとの意図を推測できる科学者が見た限りでは、今回暴露された内容には世の中に新たな衝撃を与えそうなものはありません。それで「二年前の七面鳥」という表現になったわけですが、日本語にはもっと的確な表現があります。「二番せんじ」です。実際には漢方薬の種類によっては二番せんじが充分よく効くものもあるのですが、ここでは「出がらし」に近い意味のつもりで書きました。

したがって、わたしはこの件を積極的に論じる意欲はありません。必要が生じたときだけ補足します。

masudako
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