気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

持続可能な社会と温暖化軽減策

IPCC第5次評価報告書 統合報告書が出ました

コペンハーゲンで開かれていたIPCCの総会で、第5次評価報告書(AR5)の統合報告書が承認されました。

今のところ、IPCCウェブサイトhttp://www.ipcc.chのトップページからも、Fifth Assessment Report (AR5)のSynthesis Reportの下に、Summary for Policymakers (政策決定者向け要約)と、Synthesis Report - Longer Report (統合報告書本体)の、それぞれのPDFファイルへのリンクがあります。(報告書本体も部会別報告書のように長くはなく、1個のPDFファイルです。) まだ体裁をととのえる編集がされていませんが、内容は最終版のようです。

この統合報告書についてのウェブページはhttp://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/ で、これは長期にわたって維持されると思います。

日本語では、環境省の[このページ]に11月4日づけの報道発表があります。

環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)について」のページは順次更新されています。統合報告書に関してこれまでに置かれたのは、「 日本語概要資料(報道発表資料の概要)」というPDFファイルですが、これの内容は上記の報道発表のページからリンクされたPDFファイルと同じのようです。「政策決定者向け要約」のところにあるのは今のところ英語版へのリンクですが、今後、日本語訳が置かれると思います。

余談ですが、IPCCウェブサイトの統合報告書についてのウェブページのPresentationというリンクの先にPowerPointファイルがあります。ファイルサイズが48メガバイトもありますが、さし絵のように使われた写真でかさばっているだけのようです。3つの部会の報告書の要約を見た人にとって、とくに新しい情報はないように思われました。これのダウンロードはおすすめしません。

ただし、パワーポイントの17ページめの図(報告書にはない図のようですが)の「2℃目標達成を可能とする炭素排出の65%をすでに使ってしまった」は不確かさを含む見積もりを単純化しすぎた表現だし、IPCCの立場を誤解させかねないので、困ったものだと思います。(今回、IPCCは2℃目標が達成可能な条件を論じていますが、それは気候変動枠組み条約締約国会議が2℃目標をかかげたのでそのような問いが生じたからであって、IPCC自身の意志として2℃目標を主張しているわけではないのです。しかし、おそらく議長・副議長などのIPCC執行部の人々の個人的感覚として2℃目標が自明であるために、混乱が生じているのだと思います。)

(しかも、この追加の図は、グラフの形式がいわゆる3次元円グラフ(3D pie chart)というもので、まずいと思います。円グラフそのものがまずいという人もいますが、わたしは、全体に対するひとつの数量の割合を示すのには円グラフはよいと思います(個人ブログの[2012-08-12の記事][2012-08-15の記事]で論じました)。しかし、立体もどきの見かけにするための変形で、図の中心角も面積も、数量の割合を正確に伝えるものでなくなっているのです。IPCC報告書本体のグラフ表現は、複数の人がレビューしているので、たぶんこのようにひどいものはないと思います。)

masudako

IPCC第5次報告書 第3部会の部

ベルリンで開かれていたIPCCの総会で、第5次評価報告書(AR5)のうち、「緩和策」に関する第3作業部会(WG3)のぶんについて、政策決定者向け要約(SPM)の承認(approve)と、報告書本体の「受諾」(accept)がされました。

この部会の報告書に関するホームページはhttp://mitigation2014.orgです。

政策決定者向け要約は、http://mitigation2014.org/report/summary-for-policy-makersのページにPDFファイル(英語)があります。文章は総会で承認された完成版だそうですが、体裁をととのえるための編集はこれからです。

報告書本体は、[このページ]に最終原稿(final drafts)があります。これから数か月かけて、総会の決定に従って文章の修正をし、それから体裁を整えて完成となります。

報道発表文(press release)などが、[このページ]とそこからのリンク先にあります。

日本語では、環境省の[このページ]に4月14日づけの報道発表があります。

環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)について」のページは順次更新されています。第3部会に関してこれまでに置かれたのは、「 日本語概要資料(報道発表資料の概要)」というPDFファイルですが、これの内容は上記の報道発表のページからリンクされたPDFファイルと同じのようです。今後、関連するいろいろな文書が置かれると思います。

[この記事はひとつ前の記事をcopy and pasteしてデータをさしかえたものです。]

masudako

原子力発電と温暖化問題の関係についての意見書

2013年11月、気候変動の(とくに自然科学面の)専門家であるケン・カルデイラ(Ken Caldeira)さん、ケリー・エマニュエル(Kerry Emanuel)さん、ジェームズ・ハンセン(James Hansen)さん、トム・ウィグリー(Tom Wigley)さんが、地球温暖化の対策として原子力発電は必要という趣旨の意見を述べた手紙を公開しました。

これに対して、2014年1月、明日香壽川さん、朴勝俊さん、西村六善さん、諸富徹さんが、「原子力発電は気候変動問題への答えではない」という意見書を出しました。

明日香さんたちは、この意見書への賛同の署名をつのっています。ただし、これは、あらゆる人にではなく、署名サイトの説明文の表現によれば「国内外の関連する専門知識をお持ちの研究者」に呼びかけています。カルデイラさんたちの意見が気候に関する専門家の意見を代表するものではないことを示すことが必要だという判断なのだと思います。

(わたしは、明日香さんたちの意見書の趣旨のおおすじに賛成なのですが、内容を個別に見ると自分が意見を述べるならばこうは言わないと思うところもあるので、署名するかどうか迷っております。)

ともかく、明日香さんたちの意見書(下の引用からリンクされたPDFファイル)は、多くのかたに知っていただく価値があると思います。

========== 引用 ==========
みなさま <転載関係・重複御免ください>

お世話になります。昨年11月に、気候変動研究のパイオニアであるジェームズ・ハンセン博士(元NASAゴッダー宇宙研究所所長)らが、地球温暖化問題に取り組む世界中の人々に宛てて、原子力発電の利用を推奨する書簡を公開しました。

私たち、明日香壽川(東北大)、朴勝俊(関西学院大)、西村六善(元地球環境問題大使)、諸富徹(京都大)は、この書簡が問題をはらんだものであると考え、日本での福島第一原発事故に関する事実などに基づいた意見書を作成しました。

意見書で取り上げた項目は以下です。

1. 原発事故の確率
2. 死亡者数の比較
3. 原子力発電の発電コスト
4. 日本が回避した最悪シナリオ
5. 石炭火力発電とのセットでの導入
6. 新型原子炉の役割
7. 原子力発電なしでの2度目標達成可能性
8. 結論:“ロシアン・ルーレット”に頼らない政策を

私たちの意見書の本文は、下記ページをご参照ください。

日本語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/nuclear_power-climate_change_jp.pdf
英語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/nuclear_power-climate_change_enver2.pdf

ハンセン氏らの書簡については、下記のページをご参照ください。

日本語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/Hansen_letter_japanese.pdf
英語版:
https://plus.google.com/104173268819779064135/posts/Vs6Csiv1xYr

私たちは、国内外で温暖化問題の研究に従事、あるいは強い関心を持つ方々にも、本文の主旨と内容に賛同して頂ける場合には、名前を連ねていただければと考えております。ご賛同頂ける方は、下記ページにアクセスして、英語で姓、名、研究分野、所属を記入していただけると自動的に賛同者リストに登録されます

https://ssl.form-mailer.jp/fms/ffb5047d284413

なお、2014年1月30日に、ハンセン氏らへまず意見書のみを送付いたしました。皆様のご署名は、後日まとめてハンセン氏らへ再送および公開をさせていただきます。

ご協力を何とぞよろしくお願いいたします。

2014年1月31日

明日香壽川(東北大学 東北アジア研究センター/環境科学研究科 教授)
朴勝俊(関西学院大学 総合政策学部 准教授)
西村六善(元外務省地球環境問題大使)
諸富徹(京都大学 経済学研究科・経済学部 教授)
========== 引用 ここまで ==========

masudako

電力を太陽光でまかなう島 トケラウ

南太平洋の島国が電力を太陽光でまかなうことになった、というニュースがありました。トケラウ(Tokelau)という南緯9度、西経172度付近にある3つの環礁です。人口は約1500人です。国といっても独立国ではなくニュージーランド領ですが、自治政府をもち、インターネットの国別ドメイン「.tk」を持っています。島に行ったことがなくてもこのドメイン名を使っている人もいると思います。(Wikipedia日本語版「トケラウ」、英語版「Tokelau」を参照しました。)

AFPの2012年11月09日の記事「南太平洋トケラウ、電力源を太陽光100%に 世界初」によれば、ニュージーランド政府の事業でニュージーランドの企業が施工し、費用は約5億6000万円かかったそうです。しかし、これまでディーゼル発電に頼っていて燃料を供給するために1年あたり約6500万円かかっているので、その10年以下のぶんでできたことになります。

技術的にもう少し詳しいことが、pinponcomというサイトの2012年8月6日の記事「トケラウが太陽光発電により全電力を供給へ」にあります。ここにはPV Magazineというサイトの2012年8月3日の英語記事Tokelau: World’s first 100 percent PV territoryというリンクがあり、それが情報源のようです。「システムには4032枚の太陽光発電モジュール、392機のインバータ、および1344機のバッテリーを用いる。さらに、悪天候に備えてココナツオイルを用いた発電機も準備される」のだそうです。(なお、「約6300万ドル」は「約6300万円」のことでしょう。)

やはり、蓄電池(バッテリー)でエネルギーをたくわえることが重要ですね。どんな原理の電池なのかの情報はまだ見つけていません。

同じことが日本の島でもできるだろう、という議論に対して「温帯モンスーン気候と熱帯域では晴天率も当然違うでしょうね。」という人もいました。こういうとき、トケラウと日本の地点の日照時間なり雲量なりのデータをすぐならべて示せるとよいのですが、残念ながらその用意ができていません。一般的知識で述べると、(東太平洋でなく)中部太平洋の南緯9度なので、雲はけっこう多いと思います。しかし熱帯の特徴として、それぞれの場所で雲が出やすい1日のうちの時刻が(ここでは朝、ここでは夕方というように)だいたい決まっていて、それ以外の時間は晴れていることが多いだろうと思います。その点では、持続してくもることの多い日本はやや不利かもしれません。しかし参考になることは多いと思います。

masudako

再生可能エネルギーに関するIPCC報告書・第3報

10月4日の第2報に続き、IPCCの「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(SRREN) [本家はここ]の「技術的要約」(TS)を見ていきます。

今回は、TSの第8節、報告書本文では第8章、 SPM(政策決定者向け要約)では第4節の、「現在および将来のエネルギーシステムへの統合」です。

エネルギーシステムという用語は文脈によって違う意味を持つと思いますが、ここではおもに、エネルギーの利用者のところにエネルギーを届けるしくみをさしているようです。それを次のように分けて、それぞれについて、エネルギーの源として再生可能エネルギーを使う場合にどんな問題があり、どんな(技術的)対策があるかを論じています。

  • 電力網 (発電・送電・配電) . . . 8.2節

  • 地域給湯・冷暖房 . . . 8.3節

  • ガス管網 . . . 8.4節

  • 液体燃料の供給 (おもにガソリンスタンドとそこへガソリン類を運ぶしくみ) . . . 8.5節

  • 自給自足的エネルギー利用 . . . 8.6節


それぞれの供給の形についての議論があるのですが、予想どおりのものが多かったです。電力に太陽光・風力をとりこむためにいわゆるスマートグリッドが必要だということ、バイオマス燃焼発電は石炭火力や原子力に比べて小規模なので電力とともに熱を(お湯などの形で)地域に供給するいわゆるコジェネが望ましいと考えられること、燃料の種類が変わるとガス管やガソリンスタンドの改修が必要になること、などです。

自給自足型のエネルギー利用をふやす必要があるとわたしは思っていますが、SRRENではそれほど重視されておらず、離島などには適しているだろうと言っています。

このあと、長い8.7節があり、エネルギーを利用する側で変えていくべき点を述べています。

8.7.1節は運輸です。内燃機関を使った(電気とのハイブリッドを含む)自動車の燃料としてバイオ液体燃料やバイオガスを使うことと、他の再生可能エネルギーからの電力を鉄道や電気自動車で使うことが主になると考えています。水素燃料電池も将来は可能と見ていますが、供給システムの構築が必要で普及には十年単位の時間がかかると見ています。(わたしも将来は燃料電池が使われると思いますが、エネルギー輸送媒体として水素が適当とは思えないので、輸送に適していてそのまま燃料電池に使える媒体を見つける研究開発がまず必要だと思います。)

8.7.2節は建物(オフィスを含む)と家庭でのエネルギー利用についてです。冷暖房について、石炭などの化石燃料への依存を減らす方法として、地域冷暖房、バイオマスペレットによるストーブ、ヒートポンプ(地中熱の季節変化の小ささの利用を含む)、太陽熱の直接利用、太陽熱による冷房(ヒートポンプの一種だと思いますが入力が仕事でなく高温熱)などの選択肢をあげています。また、省エネルギーも重要です。

いわゆる途上国の農村地域では、薪を手で運んで家のかまどで燃やすといった伝統的バイオマス燃料利用が多いのですが、SRRENでは、このような利用形態は減っていき太陽熱と近代的バイオマス燃料を含む他の再生可能エネルギー源に置きかえられていくことを想定しています。伝統的バイオマス利用は、(薪の場合であれば森林の)持続可能性が心配なこと、エネルギー利用としての効率がよくないこと、調理する人やそのまわりにいる人が煙を吸いこむなど健康上よくないこと、などの理由で、望ましくないとされます。この伝統的利用方法に否定的な態度は、もっともな場合もあると思いますが、それぞれの地域ごとに、近代的システムへの切りかえを勧める前にほんとうに改善になるかを評価する必要があると、わたしは思います。

8.7.3節は工業です。再生可能エネルギーへの移行がむずかしいのは、エネルギー消費の多い工業で、鉄鋼、その他の金属、化学・肥料、石油精製、鉱業、紙パルプがあげられています。むずかしさのひとつは、大量に集積できる再生可能エネルギーは水力や地熱などに限られ、バイオマスや太陽エネルギーは広く分散していることです。それから、化石燃料と比べて約400℃をこえる高温を得にくいことです。集光による太陽熱利用ならば可能ですが、その条件の整ったところ以外は、高温熱を利用する工程から電気を利用する工程への変更が必要になることが多いでしょう(電気で高温熱を作ることはできますが、むだが多いので)。また、バイオマス加工産業はバイオマス燃料あるいは電力の供給源にもなりうることも指摘しています。

8.7.4節は農林水産業です。肥料の製造を工業に含めることにすると、農林水産業のおもなエネルギー消費は灌漑ポンプ、冷蔵などで、それを各地それぞれの事情に応じてどう再生可能エネルギーでまかなうかが課題になります。また、農家は、バイオマス燃料に特化した農業を別としても、農業残渣バイオマスや風力のエネルギー生産者になりえますが、資本の不足、供給地と需要地の距離などが制約になっています。それを克服する政策が必要だと言っているようですがあまり具体的には述べていません。

今回はここまでにいたします。

masudako

再生可能エネルギーに関するIPCC報告書・第2報

6月24日の記事の続きで、IPCCの「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」(SRREN)についてです。ここで「緩和」というのは英語のmitigationの訳語で、わたしが自分で用語を選べるときは「軽減」としていますが、地球温暖化の原因を弱めること、つまり基本的には二酸化炭素その他の温室効果気体の排出を減らす(あるいは吸収をふやす)ことをさします。これはIPCCでは第3作業部会の課題ですが、そのうちでとくに、いわゆる「再生可能エネルギー」または「自然エネルギー」がどれだけの役割をもちうるかの知見を整理したわけです。

報告書は、ドイツにあるIPCC第3部会技術支援班のサイトのこのウェブページの下に英語のPDFファイルの形で置かれていて、文章は最終版だそうですが、まだ通しのページ番号と索引がついていません。完成するのは(5月当時は8月の予定とされていましたが) 10月中の予定だそうです。

わたしのこれを読む作業も思ったほど進んでいないのですが、ひとまずご報告します。

SRRENには、IPCC報告書の最近の慣例に従って、2種類の要約がつけられています。SPM (政策決定者向け要約)は、IPCCの総会で各国政府代表によって文章表現を含めて承認される対象になっているものです。TS (技術的要約)は、本文と同様、SPMが総会で修正された場合はそれに合わせた修正が要求される場合もありますが、基本的には内容の専門家である著者の集団が書いたものがそのまま出ます。

日本語では、環境省の「地球温暖化の科学的知見」のページの「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に関する部分の中に、SRRENの「概要」というリンクがあり、プレゼンテーションファイルをPDF形式にしたものがあります。これは基本的にはSPMに基づいていますが、再生可能エネルギーを種類別に説明したところはTSに基づいています。

また、同じサイトの報道発表資料の中の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第33回総会の結果について(お知らせ)」には5月17日当時の報告があります。この中にある「別添資料2」は上記の「概要」と実質同じもののようです(「概要」のほうがファイルサイズが小さくいくらか形式が整えられているようなのでそちらを見たほうがよいと思います)。「別添資料1」は環境省と経済産業省の連名の文書ファイルで、SPMをさらに要約したもののようです。

ひとまず、下に、この「別添資料1」に従ってSPMの各節の見出しを日本語で示し、かっこ内に、対応する本文の章の番号を示します。TSの節は本文の章に1対1に対応しています。
1. イントロダクション
2. 再生可能エネルギーと気候変動 (1章)
3. 再生可能エネルギーの技術と市場 (2-7章)
4. 現在および将来のエネルギーシステムへの統合 (8章)
5. 再生可能エネルギーと持続可能な発展 (9章)
6. 緩和ポテンシャルとコスト (10章)
7. 政策、実施および財政支援 (11章)
8. 再生可能エネルギーに関する知見の向上

報告書全体の構成は、第1章が地球温暖化と再生可能エネルギーにかかわる問題の総論的展望、第2章から第7章までが再生可能エネルギーの種類別にどんな技術があってどれだけ普及しているかの展望、第8章から第11章までが再生可能エネルギー全体としてどんな役割を果たしうるか、またそのためにはどんな政策が必要と考えられるかを論じています。

再生可能エネルギーの種類は次のように分けられています。日本語表現は環境省の「概要」に合わせました。
*バイオエネルギー (2章)
*直接的太陽エネルギー (3章)
*地熱エネルギー (4章)
*水力 (5章)
*海洋エネルギー (6章)
*風力エネルギー (7章)

報告書全体は1400ページ以上あって読みきれず、SPMの要約はすでにありますので、わたしはTS(178ページ)を読むことにしましたが、それも全体はまだ読めず、第1節と第10節を読んだところです。TSの第1節は問題点の要約としてとても参考になるのですが、さらに要約して紹介することはむずかしいです。

TSの第10節つまり本文第10章は、地球温暖化軽減のために再生可能エネルギーはどれだけの役割を果たすか、またそれにはどれだけの費用がかかるかの評価です。

IPCCとして計算をしたわけではなく、世界のあちこちの組織で行なわれている、16種類の全球エネルギー経済モデルや統合アセスメントモデルによる164件の将来(2050年まで)シナリオを集めて検討しました。シナリオのうちには、温暖化軽減のための政策的措置を想定したものもあれば、しないものもあります。

まず10.2節では、164件のシナリオからなる集団の特徴を見ています。ただし、ランダムサンプルではないので統計的特徴について強いことは言えません。

CO2排出量と二酸化炭素回収隔離貯留(CCS)なしの化石燃料消費量との間には明確な直線的関係が認められますが、CO2排出量と再生可能エネルギー使用量との間には、負の相関が見られるものの、関係はあまり明確ではありません。それは、ひとつには、世界のエネルギー需要の将来見通しがまちまちだからで、もうひとつには、CO2排出の少ないエネルギー源として、再生可能エネルギー、原子力、CCSつきの化石燃料利用の3つをどのような割合で使うかの見通しがまちまちだからです。

地球温暖化軽減をねらった政策のないシナリオでも、再生可能エネルギーの利用はふえると予想されており、とくに発展途上国での増加が大きいと見こまれます。

10.3節から先では、164件のシナリオのうちで4件をとりあげて詳しく見ます。代表はシナリオの多様性をなるべく表現できるように選んだそうです。温暖化軽減政策のない基準事例としては、OECDの国際エネルギー機関(IEA)によるWorld Energy Outlook 2009 (WEO2009)のbaselineシナリオをとりあげています。ほかの3つはCO2濃度目標を達成するように考えられたシナリオで、それぞれ別々の研究チームによるものであり、濃度目標も厳密に同じではありません。

そのひとつが、この章の著者集団にも加わっているグリーンピースのTeske (テスケ)さんが中心になった「Energy [R]evolution 2010」です(以下SRRENでの表現にならってER2010と略します)。これはグリーンピース単独ではなく、ヨーロッパ再生可能エネルギー会議(EREC )との共同研究で、ドイツの宇宙航空研究開発機構(DLR)の人も著者にはいっています。SRRENからはEnergy Efficiencyという学術雑誌の論文になったもの(Teske, Pregger, Simon, Naegler, Graus and Lins, 2010) が参照されています。この研究の複数のシナリオのうちから、温室効果気体濃度をCO2換算で450 ppm以内におさえるシナリオがとりあげられています。

もうひとつは、アメリカのEnergy Modeling Forumという研究組織の22番の研究課題の中で行なわれた、MiniCAMというモデルを使って温暖化の放射強制を2.6 W/m2以内におさえるというシナリオで、Calvinほか(2009)の論文になっています。

それから、ドイツのポツダム気候影響研究所のReMIND RECIPEというモデルによるCO2濃度を450 ppm以内におさえるシナリオで、Ludererほか (2009)の報告書になっています。その後Climatic Changeという雑誌の論文にもなったようです。

2050年の世界のエネルギー消費のうち、再生可能エネルギーがしめる割合は、baselineシナリオでは現在とほぼ同じ15%ですが、ER2010では77%です。他の2つのシナリオはその中間になっています。他のシナリオと比べてのER2010の特徴は、原子力(の拡大)にもCCSにも頼らないとしていることで、そうすれば再生可能エネルギーの割合が大きくなるのは当然のことです。ただし再生可能エネルギーの種類別にみると、バイオマスエネルギーの拡大が大きいのはER2010ではなくMiniCAMのシナリオです。ER2010チームはバイオマス栽培のために自然植生をそこなうべきでないと考えたのだと思います。

費用の見積もりにはいろいろ不確かなところがありますが、10.5節で、今できる範囲で、設備の建設、維持管理、撤去と、燃料費を含めたライフサイクル型の費用の評価をしています。ただしエネルギー供給・利用システムへの統合(8章)、社会開発(9章)、政策的手段(10章)の費用はここでは考慮していません。これまで数十年に(水力を除いて)費用が低下しており、その原因はまだよく分析されていませんが、学習曲線として扱うことができます。

4つのシナリオで必要になる再生可能エネルギーへの投資額は、(2030年までの) 10年ごとに1.5兆ドルから7兆ドルと見積もられており、最大でも世界のGDP合計の1%よりも小さいとコメントされています。いちばん小さいのは温暖化軽減策を考えないbaselineシナリオの場合です。いちばん大きいのはReMIND RECIPEというチームのシナリオで、太陽エネルギー利用として集光型太陽熱発電を考えず太陽電池だけを想定しているという注がついています。ER2010の数値はTS本文にありませんがグラフから概算すると4兆ドル台とみられます。

10.6節では、気候変化と健康に関する外部費用(被害)について、各種の再生可能エネルギーを、化石燃料(石炭と天然ガスによる火力発電)と比較して示しています。全般に再生可能エネルギーは化石燃料よりも外部費用が少ないですが、例外もあります。なお原子力については、まれな事故の場合に費用が大きくなるので数値としてならべて示すのがむずかしいとコメントされています。

次はいつになるかわかりませんが、TSの別の部分を読んで紹介したいと思います。

masudako

再生可能エネルギーに関するIPCC報告書が出ました

IPCCは、5〜6年に一度の総合的な評価報告書のほかに、主題別の特別報告書を出すことがあります。今年5月に、「再生可能エネルギー源と気候変動緩和に関する特別報告書」が出ました。IPCCのウェブサイトhttp://www.ipcc.ch/からリンクされていますが、実際に置かれているウェブサイトはhttp://srren.ipcc-wg3.de/で、ドイツにあるIPCC第3作業部会技術支援班が担当しているようです。報告書本文は文章としては完成したそうですが、索引づくりと出版物としての体裁を整える作業が残っており完成は8月の予定だそうです。日本語では、環境省のウェブサイトのIPCC第33回総会の報告の中に簡単な紹介があります。

この報告書は、わたしの(今年4月以来の)仕事に関係が深いので、正式版が出る予定の8月をめどに、内容を読んで論評したいと考えています。しかし暫定的PDFファイルで1544ページもあるので、全部詳しく読むのではなく拾い読みすることになるでしょう。

***
さて、この報告書の著者にこんな人がはいっていてよいのかと怒っている人たちがいます。地球温暖化は重要な問題だと考えている人のうちにもそういう議論をする人がいますが、もとはどうやら、温暖化懐疑論者として知られるカナダのMcIntyre (マッキンタイア)さんがブログで書いたことのようです。

この報告書の第10章の著者(lead author)のひとり、Sven Teske (テスケ)さんの所属はGreenpeace (グリーンピース)です。しかも、この章で重視された文献の中にTeskeさん自身が著者となったものがありました。それで、McIntyreさんは、IPCCの報告書は環境NGOに支配された偏ったものになっていると主張しました。(IPCC第3部会はメンバーを総入れかえして出直すべきだとまで言ったそうです。)

しかし、確かに著者にはGreenpeaceのようなNGOに所属する人が含まれていますが、企業に所属する人も含まれています。同じ10章のlead authorであるRaymond M. Wright (ライト)さんの所属はPetroleum Corporation of Jamaicaつまりジャマイカの石油会社です(公社というべきものかもしれませんが)。本全体では、石油メジャーのひとつChevron (シェブロン)の人が3人含まれています(うちひとりは地熱の部門であることが明示されていますが)。執筆陣が環境NGOに偏っているとは言いがたいです。(もと鉱山会社経営者のMcIntyreさんの気持ちになれば、自分のなかまが著者陣にはいっていることは偏りとは感じず、異質な集団の人だけが気になるのは、当然かもしれません。しかしそれは社会全体の立場でIPCCの著者陣を評価する際に通用する言い分ではありません。)

また、Teskeさんが著者となった文献は、Greenpeaceの出版物ではなく、Energy Efficiencyという学術雑誌に出た論文であり、他の共著者の所属は大学やドイツ宇宙航空センターなどです。

  • S. Teske, T. Pregger, S. Simon, T. Naegler, W. Graus, and C. Lins, 2010. Energy [R]evolution 2010 -- a sustainable world energy outlook. Energy Efficiency, 4:409-433. doi:10.1007/s12053-010-9098-y.
    http://www.springerlink.com/content/nu354g4p6576l238/fulltext.pdf


Teskeさんが著者のひとりとなった章で、自分が著者となった文献を重要な材料として扱っていることが、公正という面から疑問があるというのは、一面でもっともです。

しかし、IPCCのしくみのもとで、こういう構造の事態が生じるのは避けがたいことです。IPCCはまず各章の著者としてその主題に関する学問状況の展望ができる人を選びます。人を選ぶおもな根拠は著作物です。したがってIPCCの著者に選ばれる人はふつうその対象となる分野の文献の著者であり、その文献が客観的に見ても総合報告で参照するのに適したものであることがよくあるのです。IPCCの報告書作成は法律家の価値観ではなく科学者の価値観に基づいているので、利害相反の可能性を避けることよりも、現在の科学的知見をカバーすることを重視します。

もし利害相反によって内容が偏るおそれを避けることを優先するとしても、各章の著者にその章で扱う文献の著作者を入れないことは現実的ではないでしょう。自分の著作物が採用されたら著者陣からおりるというルールにしたら、著者がたびたび交代することになって報告書の完成が遅れることになるでしょう。著者ひとりひとりが自分の著作物を積極的に売りこむことは遠慮するべきだと思いますが、もし、おおぜいの著者からなるグループに対してそのメンバーのだれの著作も入れてはいけないというルールにしたら、おそらく現在の科学的知見を展望するという目的に対して貧弱なまとめになってしまうでしょう。

[2011-06-25加筆: IPCCの著者はほかに本業のある人のボランティアですから、IPCCの著者である間は本業のほうでの著作活動を制限するとしたら著者のなり手がいなくなるでしょう。著者をフルタイムで雇ってしまえば制限できるかもしれませんが、そのためには各国からIPCCへの分担金を何十倍にもする必要があります。]、

報告書の公正さに疑問を述べる人もいるが、それに反論する人もいる、ということも事実として認めたうえで、それなりの価値のあるものとして報告書を見ていくしかないのだろうと思います。

masudako

日本の温暖化対策中期目標へのわたしの意見(masudako)

ブログ「京都議定書の次のステップは何だろう」http://sgw1.exblog.jp/ の togura04 さんのお勧めにしたがい、日本政府の内閣府による温暖化対策の中期目標(中期とは2020年までだそうです)に対するわたしのコメントを送りました。これはわたしの職務上の発言ではなく、国民である個人としてのものです。

=========== ここから ==========
1.中期目標の選択肢について

最低でも1990 年比−25%であり、1990 年比−30%以上とすべき

その理由

人類は、気候問題と同時に、化石燃料をはじめとする地下資源の限界、食料を含む生物生産能力の限界、水資源の限界に対処する必要があります。石油・ガスの埋蔵量と世界の需要増加を考えると、日本の二酸化炭素排出量は、石炭やタールサンドなど固体化石燃料の産出を意図的にふやさない限り、大幅に減らざるをえないと思います。しかし、固体化石燃料もいずれ枯渇するので、政策的投資をそこに向けるのは愚かでしょう。化石燃料の利用を減らすことを必然的条件として受け入れ、そのもとで人々の実感的豊かさを保ちさらに向上させるような政策をとるべきだと思います。持続的に得られる自然エネルギー資源は、化石燃料に比べて、空間的密度を高くすることが困難であり、また時間的に変動が大きいという特徴があるので、これに適応するために技術開発とともに社会の生産・流通・消費のしくみを適正規模分散型に変えていく必要があります。また、これまで政策決定にあたって国民総生産の増加があまりに重視されてきました。今後はむしろ、生産額ではなく生産額あたりの実感的豊かさを増加させることをめざすべきだと思います。(アダム・スミス以後の経済学はジェームズ・ワット以後の経済学ですから、化石燃料がいつでもあることを前提としない世界の経済学は新たに作らなければなりません。)

2.中期目標の実現に向けて、どのような政策を実施すべきか

石油、石炭、天然ガス、ウランを含む地下資源に依存するエネルギー資源の利用について、資源枯渇(将来の人々が利用できなくなること)、鉱山などでの環境変化、消費に伴う大気・水などの汚染、廃物処理と将来にわたる管理または無害化、それに加えて温暖化に伴う社会の損失(比較的確かな部分だけでよい)の社会的費用を、最終的には利用者が負担することを社会的原則にするべきです。また、自動車などの乗り物の利用に関しては、道路の維持管理の費用、交通事故やその対策の費用のうち直接の損害賠償対象になっていないもの(警察による事故防止活動の費用など)も含めるべきでしょう。費用を払う方式として、税がよいか、使用量わくを割り当てて売買する方式がよいかは、目標が定まってからの(社会)技術的問題です。税あるいは使用量わくの初期販売による公共部門の収入は、次に述べるような産業改革政策や技術開発にあてるべきだと思います。なお、収入を持たない人や貧しい人を苦しめないように、生活に必要なエネルギー資源の利用に関しては控除や補助の制度を組みこむ必要があると思います。

天然林、海の魚などの自然生態系の資源や、農地の土壌など人為が加わっているが人がすべてコントロールしているわけではない天然資源の枯渇・劣化についても、利用者が費用を負担するしくみを作っていく必要があると思います。

自然エネルギー資源として、太陽光、風力、水力、バイオマス燃料などがありますが、いずれも、空間的密度を高くすることが困難であり、また、時間的に常に同じだけ得られるものではありません。(大型ダムは生態系への影響や堆砂の問題があり、今後の増設はあまり考えないほうがよいと思います。) したがって、エネルギー資源の供給と需要の場所をお互いに近づけるように産業立地をあらためていくとともに、適正規模(家族規模から村落あるいは町内会程度の規模と思います)のエネルギーをその場で貯留する技術や、エネルギーの供給に合わせて少量ずつものを生産する技術の開発と津津浦浦への普及を政策の重点にしていく必要があると思います。
(気象・水文学者としての手前みそになってしまいますが、自然エネルギーを各地域で有効利用するためには、専門家だけでなく各地域の人々がそれぞれに、太陽光、風、流水などの資源について、とくに自分の地域での空間分布や時間的変動の特徴を含めた知識をもつことが重要になると思います。)

現在のとくに工業生産に関する政策は総生産額の増加をよいとするものであり、またマスメディアの多くが商業広告をおもな収入源としているので全体として消費者により多くの消費をうながすものになっています。今後の産業政策は、総生産額ではなく使用価値をめざすものであるべきです。次々に新しい製品を作って古い製品を陳腐化させるのではなく、また耐用年数の短い製品を作るのでもなく、長期にわたって使い続けることのできる製品を作ることを促進するべきだと思います。また、共有・レンタル・古物売買などによって、多くの人の需要を少ない数の製品でまかなうべきでしょう。産業政策、文化・情報政策の両面のくふうが必要だと思います。

3.その他、2020 年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見

地球温暖化対策は排出量削減だけではありません。理想的な排出量削減ができて[も[提出では抜けていた]]、いくらかの温暖化を含む気候変化は避けられず、それへの適応策も必要です。ただし、気候変化の見通しには不確かさがあり、その幅を考慮して適応策を考える必要があります。そのことは自然の気候変動に対する適応の幅を広げることにもなります。

とくに農業などの第1次産業について、温暖化と自然変動の両方を考慮したうえで、エネルギー資源の投入が少なくてすみ、また外国で日本よりも大きな生産減が起きたときにも食料不足に陥らないですむような、作物やその品種の選択を進めていく必要があると思います。

また自然の動植物の保護に関しても、温暖化の見通しを不確かさを含めて考慮したうえで、その場で保護するのか、移動させるのかをよく考えて実行していく必要があると思います。

(メール提出にあたり、気候ネットワーク様の用意されたフォームを使わせていただきました。ただし、わたしは、気候ネットワークのメンバーではなく、その主張のうち上記「中期目標の選択肢」として「7」を提唱した部分には賛同しておりますが、他の点では独立に考えた意見を申しましたことをおことわりいたします。)
========== ここまで ==========

masudako

変曲点

マイケル・トービス (Michael Tobis)さんの個人blog Only In It For The Gold から、2008年12月14日(日) 午後3時16分の投稿lnflectionをわたしが日本語に訳したものです。わたし自身がなんとなく考えていたのに近いことをもっと明確に表現されていたので紹介したくなりました。

著者もわたしも気候研究者ですが、この内容は気候の科学に関する専門的議論ではなく、社会に関するコメントです。

しかし、数理モデルを作ったり使ったりしている科学者のうちには賛同する人が多いのではないか、とも思います。

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変曲点 (Inflection)

持続可能でないものごとは結局は止まる。われわれの生活様式全体が持続不可能であるとすれば、次の問いは「いつ」止まるかだ。この惑星に対する人間のインパクトの指数関数型成長は結局は終わるだろう。そして曲線は何か他の形をとるだろう。成長曲線はいつこわれるだろうか?

【[数学指向の人たちのためのささやかな説明]
指数関数型のものが成長するのをやめるとき、曲線がどんな形をとることになるか、われわれは知らない。しかしそれはとにかく指数関数型成長以外の形をとるはずだ。変曲点を過ぎると、地球に対する人間のインパクトの長期平均値は、必ず安定化するかあるいは低下しければならない。ただしそれに重なってさまざまなゆらぎや振動がありうる。成長が継続すると、ある時点で、人間のインパクトが長期持続可能な平均値に達するか、あるいはそれを越える。そこで必ず、継続した成長以外の何かが起きる。われわれはそのとき何が起こるのかを判断しなければならない。もしかするとすでにその時点に達しているのかもしれない。実はわたしはそう思っている。】

さて、いつなのか? もっと具体的に言うと、それは今なのか?

今起きている経済の事件はすでにじゅうぶん大きいので、次の世代の歴史家の目にいちじるしいできごととして現われる可能性が高いとわたしは思う。それは、人間のインパクトの曲線に重なった単なる大きな乱れというよりも、その曲線に生じた最初の主要な中断のように見えるだろう。もしそうならば、もし重大な変曲点が今であるならば、この変曲点を不景気と混同することは深刻なまちがいだ。不景気ならば、われわれはたぶん過去にしていたことをしつづければよい。それでなんとかそれから抜け出すことができるだろう。けれどももしこれが変曲点ならば、将来何が起きるかは、われわれがそれをどれだけよく認識して行動するかによって変わる。温室効果気体によるものだけでなく全体としての人間のインパクトが、すでにピークに達したか、あるいはまもなく達する、という事実を受け入れることが必要だ。

じゅうぶん巧妙な計略を使えば、「お金」を「インパクト」から切り離すことは不可能ではない。わたしが言いたいことは、持続可能性を高める人々に利益があり、それをそこねている人たちがお金を払うように、われわれの社会の動機づけシステムを変えるということだ。

確かに、その方向に向かう身ぶりは見られる。しかし世の中のシステム全体としては、動機づけはほとんどみな持続可能性にさからっている。逆向きの動機づけには歴史的理由がたっぷりある。それをひっくりかえすことは、非常にややこしい問題だ。

持続可能性がむくわれるようにすることが、われわれの社会の混乱を最小にする道だ。人はたやすく変わらない。そして時間は短い。もし急ぐのでなかったら、まず、文化を、お金関係の動機づけによって駆動されることが少ないものに変えるという考えがよさそうだ。しかし時間の制約がきびしい条件のもとではその考えはうまく働かないだろう。最も有望な抜け道は、動機づけに細工して、人々がよりよい行動をとれば報酬を与えられ、さもなければ罰せられるようにすることだと、わたしは思う。

これはたやすいことではない。しかしわたしが見る限り、ほかの選択肢はもっときびしい。
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(紹介・訳) masudako

COP14と化石賞と日本

先週までポーランドで開かれていたCOP14では、温室効果ガス排出削減をめぐる交渉は、中期目標(2020年頃)も長期目標(2050年頃)も大して進展がないまま終わってしまったようです。少しでも前進させておけば米国のオバマ次期政権への貴重なメッセージとなり、来年末までの交渉に弾みを付ける大きなステップになったはずなのですが、残念です。

日本は、今回のCOP14期間中だけで合計4回も「本日の化石賞」第1位の栄誉に輝いた(?)そうです。毎年のCOPに参加する世界中の環境NGO関係者が選ぶ化石賞については、日本のマスコミで報道されることも多くなり、すでにご存じの方も多いと思いますが、その日の交渉姿勢が後ろ向きであると見なされた国が受賞するものです。「すぐれた環境技術を持つ日本に、このような不名誉な賞が与えられるのはおかしい!」と不快感を持つ向きもあるようですが、それは単なる誤解で、温暖化対策への取り組み全般を評価するものではありません。あくまで、その日の各国代表団の発言内容等が交渉の進展の妨げになったかどうかが選定基準になっているはずですし、そもそも交渉を前進させてほしいという願望に皮肉を混ぜたジョークにすぎませんので、とりあえず苦笑いしながら楽しむのが「正しい化石賞の味わい方」だと思います。その上で、翌日以降の交渉姿勢を見直すための良いきっかけとしてほしいものです。

今回の会議では、日本をはじめとするいくつかの先進国が、中期目標を具体化することに抵抗する姿勢ばかりが目立っていたようですので、化石賞をつづけて受けることになったのも、まあ当然なのだろうと思います。中国やインドは長期目標の設定に激しく抵抗したそうですが、1人あたり排出量の多い先進国が具体的な中期目標を打ち出していかないことには、中国・インドを説得できそうにもない、と理解すべきでしょう。

日本の斉藤鉄夫環境大臣はCOP14終了直後の記者会見で、来年12月のCOP15での「ポスト京都」合意に向けて、「日本が野心的な中期目標を示すことが、リーダーシップを発揮する第1条件」と述べたそうです(引用は12月13日の時事通信の記事より)。化石賞受賞が「良いきっかけ」になったということでしょうか。

吉村じゅんきち
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