気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

日本語とか英語とか

氷期の終わり、温度が先か、二酸化炭素が先か

直前の記事でもふれた雑誌『パリティ』には「ニュースダイジェスト」という欄があります。これはアメリカのPhysics Todayの記事の翻訳だそうです。対象分野は広い意味の物理科学で、地球物理を含みます。

2012年7月号31ページに「二酸化炭素と最後の氷河期の終わり」という記事があります。これは次の論文の紹介です。
  • J.D. Shakun, P.U. Clark, F. He, S.A. Marcott, A.C. Mix, Z. Liu, B. Otto-Bliesner, A. Schmittner, and E. Bard, 2012: Global warming preceded by increasing carbon dioxide concentrations during the last deglaciation. Nature, 484, 49-54. [要旨と、購読者向けの本文へのリンク]

わたしはまだ原論文を読んでいませんが、Skeptical Scienceというblogのdana1981さんの2012年4月10日の記事Shakun et al. Clarify the CO2-Temperature Lagと、RealClimateというblogのChris Coloseさんの2012年4月28日の記事Unlocking the secrets to ending an Ice Ageを見ました。

過去の気候の記録を見ると、寒暖と大気中二酸化炭素濃度とが関連して変動していますが、どちらが先かについてはいろいろな論争がありました。

この論文は、「最終氷期の終わり」つまり約2万年前から約1万年前にかけての時期について、南極氷床コアをはじめとする世界多地点の証拠を総合して、その順序を検討しています。結果を簡単に言うと、
南半球の温度上昇→二酸化炭素濃度上昇→北半球の温度上昇

の順で起こったということです (Skeptical Scienceの記事に引用されているShakunほかの図3参照)。

パリティ」の紹介記事の中の「南極の気温のほうが先に上昇しているという誤解を招きそうな現象の原因は」という日本語表現は、誤解を招きそうです。dana1981さんの説明と照らし合わせてみると、「南極の気温のほうが先に上昇しているという現象」は(Shakunほかの解析結果に従えば)実際あるのです。どんな誤解を招きやすいと言いたかったのかはわかりませんが、たぶん、南極ではなく全球平均を想定して「気温が先で二酸化炭素があと」という解釈が誤解だと言いたかったのだと思います。 (この日本語文を「南極の気温のほうが先に上昇しているという誤解」で切るのは誤解なのですが日本語だけ読む限りではそれを判断するのはむずかしいです。)

masudako

「温暖化ガス」とか「低炭素社会」とか

こんにちは、じゅんきちです。
地球温暖化関連の用語で、日本語としてイマイチと思う言葉がいくつかあります。

例えば、新聞記事で「温暖化ガス」という用語が用いられることがあります。たぶん京都議定書の対象となっている6種類のガス(CO2, CH4, N2O, HFCs, PFC, SF6)を主として念頭においた表現なのだろうと思いますが、定義がよく分からないので、私としてはちょっと気持ちの悪い言葉だと感じています。気象学の業界で古くから使われている「温室効果ガス (greenhouse gas)」という用語ならば、温室効果をもたらす気体をすべて含むということで定義は明確です。しかし、代表的な温室効果ガスである水蒸気については(対流圏では)基本的に自然界の水循環によって濃度が増減しますので、「温暖化ガス」という人為的な温暖化の直接的な原因というイメージのある言葉で表現するのは無理があるでしょう。人間活動(フロン放出など)によって減少してきた成層圏オゾンについては、むしろ「寒冷化ガス」と呼んでみたい気にもなります(でも、変な表現ですね)。

最近は、研究者が書く文章にまで「温暖化ガス」という言葉が登場することがあって驚かされますが、なるべくこのような不明確な用語は使ってほしくないと思います。新聞や雑誌の見出しでは、1字分でも2字分でもスペースを節約したいという場合があるのでしょうが、すでに一部の新聞で使われている「温室ガス」という略が適切だと思います。英語表現 greenhouse gas を直訳したことになり、すっきりしますよね。

最近かなり広く使われるようになった「低炭素社会」という言葉にも違和感が残ります。英語の low-carbon society という表現はとてもカッコいいと感じますし、それが意味する社会のあり方も必然的なことだとは思うのですが、日本語で「炭素」と言うとどうしても真っ黒な「炭」をイメージしてしまいます。実際、石炭はそのイメージですが、石油製品や天然ガスまで含めるというのはちょっと不自然な感じがします。英文等の翻訳であれば、あえて「低炭素社会」と直訳するのも良いでしょうが、最初から日本語で表現するのであれば、例えば、「低炭素」を「脱化石燃料」といった表現に置き換えてみるのが良いだろうと思っています。

では、みなさま、良いお年を。

吉村じゅんきち
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