気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

科学者と社会のかかわり

IPCC第5次報告書のウェブサイトの現状

IPCCのウェブサイト www.ipcc.ch を見たら、第5次評価報告書(AR5)に関する記事の配置が変更されていました。

いちばん上に全体に関する情報があります。それに続く「AR5 Media Portal」には報道向けの情報があるのですが、4月のベルリンでの総会以後まだ更新されていないようです。「Outreach Calendar」は公開行事の予定表です。

それから、第3部会から逆順に、各部会の報告書が紹介されています。部会ごとに、次の同じ構造に整理されました。

  • Summary of Policymakers ... 政策決定者向け要約 (PDFファイルへのリンク)

  • Working Group Report Website ... 部会が別に持っているウェブサイトへのリンク

  • Quick Link to report PDFs ... 別ページへ、そこから報告書本体各章のPDFファイルへのリンク


ただし、報告書本体は、第1部会のものは完成版ですが、第2・第3部会のものはいまのところ総会に提出された最終原稿(final draft)と、総会で決定された修正点を述べた別ファイルとからなる形です。

なお、統合報告書は、原稿が査読を受けている段階にあり、まだ何も公開されていません。

日本語では、まず、環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)について」http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/が、公式情報のポータルサイトです。

masudako

IPCC第5次報告書 第3部会の部

ベルリンで開かれていたIPCCの総会で、第5次評価報告書(AR5)のうち、「緩和策」に関する第3作業部会(WG3)のぶんについて、政策決定者向け要約(SPM)の承認(approve)と、報告書本体の「受諾」(accept)がされました。

この部会の報告書に関するホームページはhttp://mitigation2014.orgです。

政策決定者向け要約は、http://mitigation2014.org/report/summary-for-policy-makersのページにPDFファイル(英語)があります。文章は総会で承認された完成版だそうですが、体裁をととのえるための編集はこれからです。

報告書本体は、[このページ]に最終原稿(final drafts)があります。これから数か月かけて、総会の決定に従って文章の修正をし、それから体裁を整えて完成となります。

報道発表文(press release)などが、[このページ]とそこからのリンク先にあります。

日本語では、環境省の[このページ]に4月14日づけの報道発表があります。

環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)について」のページは順次更新されています。第3部会に関してこれまでに置かれたのは、「 日本語概要資料(報道発表資料の概要)」というPDFファイルですが、これの内容は上記の報道発表のページからリンクされたPDFファイルと同じのようです。今後、関連するいろいろな文書が置かれると思います。

[この記事はひとつ前の記事をcopy and pasteしてデータをさしかえたものです。]

masudako

IPCC第5次報告書 第2部会の部

横浜で開かれていたIPCCの総会で、第5次評価報告書(AR5)のうち、「影響・適応・脆弱性」に関する第2作業部会(WG2)のぶんについて、政策決定者向け要約(SPM)の承認(approve)と、報告書本体の「受諾」(accept)がされました。

この部会の報告書に関するホームページはhttp://ipcc-wg2.gov/AR5/report/です。

政策決定者向け要約は、PDFファイル(英語)があります。文章は総会で承認された完成版だそうですが、体裁をととのえるための編集はこれからです。

報告書本体は、[このページ]に最終原稿(final drafts)があります。これから数か月かけて、総会の決定に従って文章の修正をし、それから体裁を整えて完成となります。

報道発表文(press release)などが、このホームページのDownloadsという枠の中からリンクされています。

日本語では、環境省の[このページ]に3月31日づけの報道発表があります。

環境省の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(AR5)について」のページは、今回の総会以後まだ更新されていませんが、今後、関連するいろいろな文書が置かれると思います。

masudako

原子力発電と温暖化問題の関係についての意見書

2013年11月、気候変動の(とくに自然科学面の)専門家であるケン・カルデイラ(Ken Caldeira)さん、ケリー・エマニュエル(Kerry Emanuel)さん、ジェームズ・ハンセン(James Hansen)さん、トム・ウィグリー(Tom Wigley)さんが、地球温暖化の対策として原子力発電は必要という趣旨の意見を述べた手紙を公開しました。

これに対して、2014年1月、明日香壽川さん、朴勝俊さん、西村六善さん、諸富徹さんが、「原子力発電は気候変動問題への答えではない」という意見書を出しました。

明日香さんたちは、この意見書への賛同の署名をつのっています。ただし、これは、あらゆる人にではなく、署名サイトの説明文の表現によれば「国内外の関連する専門知識をお持ちの研究者」に呼びかけています。カルデイラさんたちの意見が気候に関する専門家の意見を代表するものではないことを示すことが必要だという判断なのだと思います。

(わたしは、明日香さんたちの意見書の趣旨のおおすじに賛成なのですが、内容を個別に見ると自分が意見を述べるならばこうは言わないと思うところもあるので、署名するかどうか迷っております。)

ともかく、明日香さんたちの意見書(下の引用からリンクされたPDFファイル)は、多くのかたに知っていただく価値があると思います。

========== 引用 ==========
みなさま <転載関係・重複御免ください>

お世話になります。昨年11月に、気候変動研究のパイオニアであるジェームズ・ハンセン博士(元NASAゴッダー宇宙研究所所長)らが、地球温暖化問題に取り組む世界中の人々に宛てて、原子力発電の利用を推奨する書簡を公開しました。

私たち、明日香壽川(東北大)、朴勝俊(関西学院大)、西村六善(元地球環境問題大使)、諸富徹(京都大)は、この書簡が問題をはらんだものであると考え、日本での福島第一原発事故に関する事実などに基づいた意見書を作成しました。

意見書で取り上げた項目は以下です。

1. 原発事故の確率
2. 死亡者数の比較
3. 原子力発電の発電コスト
4. 日本が回避した最悪シナリオ
5. 石炭火力発電とのセットでの導入
6. 新型原子炉の役割
7. 原子力発電なしでの2度目標達成可能性
8. 結論:“ロシアン・ルーレット”に頼らない政策を

私たちの意見書の本文は、下記ページをご参照ください。

日本語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/nuclear_power-climate_change_jp.pdf
英語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/nuclear_power-climate_change_enver2.pdf

ハンセン氏らの書簡については、下記のページをご参照ください。

日本語版:
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/_src/2014/Hansen_letter_japanese.pdf
英語版:
https://plus.google.com/104173268819779064135/posts/Vs6Csiv1xYr

私たちは、国内外で温暖化問題の研究に従事、あるいは強い関心を持つ方々にも、本文の主旨と内容に賛同して頂ける場合には、名前を連ねていただければと考えております。ご賛同頂ける方は、下記ページにアクセスして、英語で姓、名、研究分野、所属を記入していただけると自動的に賛同者リストに登録されます

https://ssl.form-mailer.jp/fms/ffb5047d284413

なお、2014年1月30日に、ハンセン氏らへまず意見書のみを送付いたしました。皆様のご署名は、後日まとめてハンセン氏らへ再送および公開をさせていただきます。

ご協力を何とぞよろしくお願いいたします。

2014年1月31日

明日香壽川(東北大学 東北アジア研究センター/環境科学研究科 教授)
朴勝俊(関西学院大学 総合政策学部 准教授)
西村六善(元外務省地球環境問題大使)
諸富徹(京都大学 経済学研究科・経済学部 教授)
========== 引用 ここまで ==========

masudako

IPCC第5次報告書 第1部会の部が完成

IPCCの第5次評価報告書のうち第1作業部会のぶんが発表されたことは[2013年10月17日の記事]で紹介しましたが、その時点では、まだ未完成版でした。2014年1月30日に、完成版がウェブサイトに置かれました。ひとまず、どのように置かれているかを見ましたので紹介します。

IPCCのウェブサイトhttp://www.ipcc.ch (2014年1月31日現在)で「Fifth Assessment Report (AR5)」を選択して開くと、「Climate Change 2013: The Physical Science Basis」の本の表紙のようなものと、右に3つの枠があります。

この本の表紙が、第1作業部会報告書のページへのリンクです。そこへ進むと、「Summary for Policymakers」「AR5」の2つのオレンジ色の四角があります。「Summary for Policymakers」のリンク先は政策決定者向け要約(SPM)のPDFファイルです。「AR5」のリンクはひとつ前にもどってしまいます。

オレンジ色の四角の下には「Quick Links」という水色の四角があり、その下(外)に次のリンクがならんでいます。
- SPM Errata ... (PDFへのリンク) 「政策決定者向け要約」の正誤表。
- Full Report (375MB) ... (PDFへのリンク) 報告書全体をまとめたファイル(完成版)。ファイルサイズが大きいので、次に述べる章別のファイルのほうが扱いやすいと思います。
- Background on AR5 ... (別のウェブページへのリンク) 第5次報告書作成過程の説明や関連資料があります。
- More on Working Group I (WGI) report ... 次に述べる第1部会のウェブサイトへのリンクです。

また右側には「Report by Chapters」という枠があって、報告書本体の章別のPDFファイルがあります。その内容が1月30日に「FinalDraft」(2013年6月7日現在の原稿)から「FINAL」(完成版)にかわりました。技術的要約(TS)や付録(Annex)もあります。報告書全体をまとめたファイルはこの枠にはなくなりました。なお、9月の総会で求められた修正点が書かれた「Changes to the Underlying Scientific/Technical Assessment (IPCC-XXVI/Doc.4) 」というファイルは残されていますが、これまでの作業過程を知りたい場合以外は必要ありません。

別にhttp://www.climatechange2013.orgというウェブサイトがありますが、これはIPCC第1部会のサイトです。上記の「More ...」からもここに来ます。
Reportのページに進み、さらにChapter/Annex Downloadに進むと、各章別のPDFファイルがあります(IPCC本部のウェブサイトにあるのと同じです)。また、各章の補足材料(Supplementary Material)のPDFファイルとデータファイルのzipアーカイブもあります(これは本部のほうにはないようです)。またGraphicsというところには報告書で使われた図のファイルがあります(本部にはSPMの図だけがあるようです)。

左側に「REPORT」という水色の四角があり、その下に箇条書きがあります。その下に列挙されたうち、Drafts and Review Materialsというもののリンク先のページを開いてみます。すると注意書きがあって合意を求められるのでそれに応じて進むと、その先のページには6月7日現在のFinal Draftがあります。List of Substantive Edits (interim document, 30 January 2014)というファイルが新しく、Final Draftから完成版までの変更の要点が書かれているようです。

ここでまたDrafts and Review Materialsのリンクの先を見にいくと、Final Draftよりも前の段階の第1次、第2次の原稿と、それに対して寄せられたコメント、それへの応答のファイルがあります。

リンク構成がわかりにくくなっていますが、おそらくこれは暫定的構成で、今後修正されて少し変わると思います。

masudako

台風と地球温暖化の関係はなくはないが単純ではない

2013年台風30号、国際名Haiyan (ハイエン)、フィリピン名Yolanda (ヨランダ)は、フィリピン中部に大きな被害をもたらしました。共同通信の「47ニュース」(2013-11-14 10:57)によれば「フィリピンの国家災害対策本部は、台風30号により2357人の死亡を確認と発表」したとのことです。この台風に関する情報はあちこちで整理されている途上と思います。わたしがこれまでに見た範囲では、国立情報学研究所の北本 朝展さんによる「デジタル台風」の中の「2013年台風30号(ハイエン|HAIYAN)」のページの情報がしっかりしていると思いました。ただしこれは、そこに書かれた日時(わたしが見た時点では2013年11月10日18時)までに得られた気象情報と報道をもとに北本さんが考えたこととして理解する必要があります。

11月11日から、気候変動枠組み条約締約国会議が、ポーランドのワルシャワで開かれています。その会議でのこの台風の件にふれた演説が話題になりました。最初に見た英語の記事で講演者の名まえが「Sano」とあったので「佐野さん?」と思ったのですが、フィリピン政府のこの会議への代表のSaño (サニョ)さんでした。検索してみると、フィリピン政府のClimate Change CommissionのCommissioner (国の行政委員会として「気候変動委員会」があってその委員長なのでしょう)で、紹介ウェブページが見つかりました。環境・天然資源保護のNGO活動歴のあるかたで、自然科学者ではないようです。今回の報道によれば親族に被災者がいるそうで、感情のこもった演説になったのも無理もないと思います。

こういう話題が出てくると「今度の強い台風は地球温暖化のせいなのか?」という議論がよく起こります。残念ながら、この問いはYesともNoとも答えようがない問いです。気候の変動には、人間がいなくても起こる自然の変動に、人間活動が排出した二酸化炭素そのほかの影響が重なっています。個別の台風について、人間活動由来の気候変動がどれだけきいているかをよりわけて論じることは残念ながら不可能です。(次に述べる統計的関係から確率的推測はできる可能性がありますが。)

科学的に答えられる可能性があるのは、「地球温暖化が進むと、このような強い台風の頻度がふえるか?」という構造の問いについてです。たとえば、ある強さ以上の台風がくる確率が、これまでは「60年に1回」だったが、これからは「30年に1回」に高まる、というような構造のことが言えるかもしれません。(ここに示した数値は単なる例で、実際にそうだと主張するものではありません。)

これまでの観測事実の統計によって、因果関係の論証はできませんが、推測はできる可能性があります。幸い、フィリピンに達する台風に関しては、約百年間の質のそろった観測データがあります。イエズス会が、19世紀末のスペイン領だったころにマニラ天文気象台(Manila Observatory)で観測を始め、アメリカ領の時代には植民地政府の公認を得て当時の「フィリピン気象局」(Philippine Weather Bureau)を運営していたのです。このフィリピン気象局のデータ報告書を再発見した海洋研究開発機構の久保田尚之(ひさゆき)さんの研究(Kubota and Chan, 2009)によれば、2005年までの約百年間に、台風の明確な増加・減少傾向は見られません。自然変動と考えられているENSO (エルニーニョ・南方振動)およびPDO (太平洋十年規模振動)に関連する振動的変化は見えています。この百年間に全球平均地上気温は上昇しているのですが、台風はそれに明確に応答した変化をしていないのです。(ただし、注目する地域を変えると何かの関係が見られる可能性は残っています。)

では将来についてはどうか。これは理論とシミュレーションに頼るしかないので不確かさが大きいですが、IPCC第5次報告書(第1部会、暫定版)を見ると、全世界規模で見て、温暖化に伴って、熱帯低気圧の極大の風速や降雨強度は強まる可能性が高いという見通しが示されています。ただし、弱いものまで含めた総数は、変わらないか、むしろ減る可能性が高いとされています(TS 5.8.4節、図TS.26)。

わたしはまだサニョさんの演説の内容を詳しく確認していないのですが、報道を見る限り、(今度の台風を直接的に温暖化と関連づけるのではなく)「温暖化が進むとこのような災害をもたらしうる台風がふえるので、温暖化をくいとめるべきだ」という趣旨のようです。それならば、まだ科学的確信度が高くはありませんが、理屈はもっともだと思います。

文献

  • Hisayuki Kubota and Johnny C. L. Chan, 2009: Interdecadal variability of tropical cyclone landfall in the Philippines from 1902 to 2005, Geophysical Research Letters, 36, L12802, doi:10.1029/2009GL038108.


masudako

IPCC第5次報告書はどこまで出ているか

2013年9月末、IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の第5次報告書が出たというニュースがありましたが、2007年の第4次報告書のときほど話題にならないまま来ています。これはひとつには、まだ報告書の一部分(第1作業部会のぶん)が出ただけだからです。

IPCCは大きく分けて、

  • 気候変化に関する自然科学的知見を扱う第1作業部会
  • 気候変化が生態系や人間社会におよぼす影響と適応策を扱う第2作業部会
  • 気候変化の原因を抑制する対策(慣例として「緩和策」と呼ぶ)を扱う第3作業部会

に分かれています。
第4次のときは、3つの作業部会の報告書を同時に発行する日程を組み、それぞれを承認するためのIPCC総会を2か月程度の間隔で開きました。
ところが、この日程では、せっかく第1部会が新しい自然科学的知見を整理しても、それが同時に発表される第2・第3部会報告に反映されなかった、という反省がありました。
それで第5次は、第1部会と第2.・第3部会の報告書完成を半年ずらすことになりました。第1部会報告書が完成した時点で、第2・第3部会報告書はすでに原稿ができて査読を受けている段階ですから、根本的書きなおしはできませんが、重大なくいちがいがないように改訂できると期待しているわけです。
第1部会報告がこの9月にストックホルムで開かれた総会で承認されたのに続いて、第2部会報告は来年3月に横浜、第3部会は4月にベルリンで開かれる総会で承認される見こみになっています。

「承認」と書きましたが、報告書の「政策決定者向け要約」(英語の略称でSPM)と、その他の報告書本体とでは扱いが違います。各国政府代表が集まる総会では、SPMについては文章表現まで確認して「承認」(approve)しますが、報告書本体については著者たちによる文章を「受諾」(accept)します。

IPCCのウェブサイトhttp://www.ipcc.chを見ると(10月16日現在)、「Fifth Assessment Report (AR5)」のうち「Climate Change 2013: The Physical Science Basis」の部分に、「Summary for Policymakers」「Report」「Media Portal」の3つのオレンジ色のわくがあります。
Summary for Policymakers」のリンク先は政策決定者向け要約のPDFファイルです。まだ印刷用割りつけができていませんが文章は完成版だそうです。
Report」のリンク先には「Report by Chapters」というページがあって、報告書本体の章別のPDFファイルがあります。ただし、その内容は今のところ2013年6月7日現在の原稿です。別に「Changes to the Underlying Scientific/Technical Assessment (IPCC-XXVI/Doc.4) 」というファイルがあり、9月の総会で求められた修正点が書かれています。この修正点が取りこまれ、さらに印刷用割りつけがされて、報告書が完成するわけです。
この報告書本体のうちに「Technical Summary」(TS、技術的要約)というものがあります。わたしは、地球温暖化に関する科学的知見の現状を理解するには、まずこのTSから読むのがよいと思います。
Media Portal」のリンク先には、IPCCが報道関係者向けに出した説明資料があります。

別にhttp://www.climatechange2013.orgというウェブサイトがありますが、これはIPCC第1部会のサイトです。ここにある報告書はIPCCのサイトにあるのと同じものですが、説明資料には独自のものもあるかもしれません。

日本語では、10月17日に、気象庁が、SPMの日本語訳の暫定版を発表しました。
ホーム > 気象統計情報 > 地球環境・気候 > IPCC(気候変動に関する政府間パネル)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/index.html からリンクされた
IPCC 第5次評価報告書(2013年)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/index.htmlのページに
IPCC第5次評価報告書 第1作業部会報告書 政策決定者向け要約(暫定訳)(PDF 3.37MB)http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar5/prov_ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdfとして置かれています。

その前、9月27日に、文部科学省、経済産業省、気象庁、環境省の共同の報道発表がありました。どの役所のウェブサイトを見にいっても同じPDFファイルが置かれています。
たとえば、気象庁では、上記の
IPCC 第5次評価報告書(2013年)のページの
報道発表資料(平成25年9月27日)
というリンクの先のページhttp://www.jma.go.jp/jma/press/1309/27a/ipcc_ar5_wg1.html
気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について [PDF:1000KB] http://www.jma.go.jp/jma/press/1309/27a/ipcc_ar5_wg1.pdfというファイルがあります。

この文書には、SPMからさらに要点を抜き出した日本語訳が「別紙1 (5-12ページ)」として含まれ、そのさらに要点を抜き出したものが本文中(2-3ページ)に含まれています。また
「別紙2 (13ページ)」にはIPCCの組織構成などについて、
「別紙3 (14ページ)」には「可能性」と「確信度」の表現について、
「別紙4 (15ページ)」には(第4次報告書まで使われたSRESシナリオに代わって使われている)「RCP(代表的濃度経路)シナリオ」についての説明があります。

なお、IPCCの報告書がつくられる手続きについては、
IPCCのウェブサイトの「Principles and Procedures」のページhttp://www.ipcc.ch/organization/organization_procedures.shtml
「可能性」や「確信度」の表現についてもう少し詳しくは
IPCC Cross-Working Group Meeting on Consistent Treatment of Uncertainties (Michael D. Mastrandrea et al.), 2010: Guidance Note for Lead Authors of the IPCC Fifth Assessment Report on Consistent Treatment of Uncertainties. https://docs.google.com/a/wmo.int/file/d/0B1gFp6Ioo3akNnNCaVpfR1dKTGM/に、英語で説明があります。

環境省の
地球環境・国際環境協力http://www.env.go.jp/earth/の下の
地球温暖化の科学的知見http://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge.htmlのページには、「IPCC第4次評価報告書について」のページへのリンクはあるのですが、まだ「第5次」は作られていません。これから整備されると思います。

masudako 【10月17日夕方、SPM日本語訳について加筆しました。】

原子力防災と気象学会・気象学者のかかわり

日本気象学会(ウェブサイトはhttp://www.metsoc.or.jp)が、2011年3月の原子力事故の際にとった態度、とくに3月18日づけ(ウェブサイトに置かれたのは21日)の理事長から会員向けに出されたメッセージが、情報の流通をさまたげるものであり、住民の安全に役立つ情報を提供するという公共的役割からも、科学研究の自由という面からも、まずかった、という批判が多くあります。近ごろ、わたしは他の専門の科学者から聞きました。また、「雲の王」という小説を出された川端裕人さんが、集英社のウェブサイトのこの本の紹介ページの対談の中で「失望した」「日本の科学史に残る汚点」と論じておられます。

会員であるわたしから見ると、このメッセージは強制力のあるものとは感じられず(学会理事長には学会業務以外の強制権限はありませんので)、注意喚起としては妥当だと思いました。このような態度しかとれなかったのは残念ではありますが、当時の学会の力量ではそれしかなかったかと思います。しかし、今後に向けてはよりよい態度をとりたいと思います。

理事長メッセージには2011年4月12日に補足が出されました。その後、気象学会は「原子力関連施設の事故に伴う放射性物質拡散に関する作業部会」をつくり、2012年3月5日に提言をまとめました。文書ファイルへのリンクは次のとおりです。(なお、このブログの過去の記事にあるリンクは気象学会ウェブサイトの移転のため無効になっていることがあります。)

  • 東北地方太平洋沖地震に関して日本気象学会理事長から会員へのメッセージ(2011年03月21日) [PDF]

  • 日本気象学会会員各位:3月18日付けの理事長メッセージについて (2011年04月12日) [PDF]

  • 原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言 (2012年3月5日)[PDF]

  • 理事長メッセージ:「原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言」を行うに当たって (2012年3月5日) [PDF]



2012年3月の提言には次のような項目を含んでいます。

  • 事実の公表

  • モニタリング体制の整備

  • 数値モデルを用いた予測の活用

  • 専門機関の役割

  • 情報公開と啓発



また、この提言を出す際の理事長メッセージで、日本気象学会として反省すべき点として次のことをあげています。(表現はわたしが少し変えたところがあります。正確には原文をごらんください。)

  1. 研究の自由の制限と受け取られかねないメッセージを出したのは失敗だった。

  2. 「SPEEDIのデータを一刻も早く公表すべきだ」と提言するべきだった。

  3. 気象学会として放射性物質の移流・拡散の防災の整備にほとんど貢献してこなかった。

  4. 会員全員に情報を伝えるメーリングリストを整備していなかった。



ここからわたしの考えです。

2011年3月の理事長メッセージの背景には第1に、いわば「災害情報一元化」という思想がありました。メッセージでは「防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。」と述べています。防災情報のうちでもとくに警報などは、複数の機関から違うものが出されると社会が混乱するので、担当機関が決められています。大雨などの気象災害と、地震・津波については、気象庁です。気象学会の理事長そのほかおもだった人はこの体制をよく知っているので、警報は警報担当機関が責任をもって出してくれると想定し、他の人は警報とまぎらわしいものを出すべきでないと考えたのでした。

もちろん、警報担当機関が実際その機能を持っていなければこれではだめです。しかし、東日本大震災の際も、気象庁の気象・地震・津波に関する警報業務はほぼ正常に働いていました。津波警報を当初高さ6メートルと出してしまったという問題はありました。また、被災地の自治体の側の情報を受け取る体制が崩れていたところもありました。しかし少なくともマスメディアとインターネットを経由して情報は伝わりました。震災後の気象情報については、気象庁本庁と福島地方気象台それぞれのウェブサイトで、強化した発信をしていました。

ところが、原子力防災の情報発信のしくみはずっと弱いものしかありませんでした。役所間の役割分担が明確でなかったこと、実際に起こったよりもだいぶ小規模な事故が想定されていたことも問題でした。それで、結果として、的確な原子力防災情報の発信がなされなかったのでした。あとからこの状況を考えると、正式な警報とは別に、むしろ気象学会員を含む科学者の有志が予測情報を積極的に発信したほうがよかったのかもしれません。

本来は原子力についても正式な警報のしくみがあるべきです。しかし、たとえ2011年3月に起こった規模の事故が想定内だったとしても、確率の低い現象にちがいないので、そのために気象庁のものに負けない警報体制を発電所などの原子力施設から何十kmもの範囲を対象としていつも待機させておくことは現実的でないと思います。原子力専用の防災体制は施設の近くについて手厚く整備し、ある程度以上遠いところは気象庁の警報システムを利用するのが現実的ではないでしょうか。ただし、気象庁の業務がなしくずしにふえる案では実現に向かいませんので、 内閣レベルで国土交通省が分担する業務として決定して必要な予算を分配すべきだと思います。

第2に、理事長メッセージで「防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねない」と言っているところ、これだけではわかりにくいのですが、2011年3月18日ごろわたしがインターネット上(検索で見つかるブログなど)の情報を見て実際このままではまずいと思った状況がありました。当時、事故を起こした原子力発電所からの放射性物質の放出量はよくわかっていませんでした。外国のいくつかの機関による移流拡散シミュレーションの結果の図がネット上で流れていましたが、わかった限りでいずれも単位量の放出を仮定したシミュレーションでした。しかし、その結果の数値を実際に人が受ける放射線量だとした解釈し、それは危険な量であるという説明がついた形で伝わっていることがよくあったと思います。(記録をとらなかったので「思います」としか言えないのですが)。 「それは単位量放出の計算であり、その数値を見て危険かどうか判断するのは不適切だ」というメッセージを出す人もいたのですが、画像と危険を訴えることばを含んだメッセージに比べてずっと伝わりにくいのです。そこで、わたしも、理事長メッセージを見る前に、シミュレーション結果の発信は、それが何を仮定してどのように計算されたものかの説明を確実にいっしょに届けるのでないかぎり、あぶないと思ったのでした。とりわけ震災直後の被災地では通信回線の能力が落ちていましたから、その多くを充分現実的でないシミュレーション結果でふさいでしまうのは悪いことだろうとも思いました(4月には通信がだいぶ回復したのでこの点は気にしなくてよいと思いました)。

さて、(「雲の王」はフィクションですが川端さんはノンフィクションも書くかたなので、ふとこの一対のキーワードに思いあたったのですが)、シミュレーションは、きびしく言えばすべてフィクションなのです。しかし、できる限り現実的なモデルに、できる限り現実的な初期値を与えて行なった予測計算は、ノンフィクションとみなすこともできるでしょう。ところが、現実的なモデルに、勝手な初期値を与えてシミュレーションすることもできます。これはまことしやかなフィクションで、説明が不足していれば受け取り手はノンフィクションとまちがえる可能性が常にあります。単位量放出はこのようなまことしやかなフィクションで、それがどのような意味で現実と似ていてどのような意味で違うのかを理解してもらうのは手間がかかります。災害時のみんな余裕のないときにそれは不可能だと考えてSPEEDIの単位量放出の結果を公開しなかった(そしてその意味を理解できるアメリカ軍にだけ見せた)という政府の判断になったのかもしれません。そこで気象学会員有志が「自分たちが被災地に説明に行くから、政府は情報を出せ」と言えばよかったのかもしれません。

緊急時でない今ならば単位量放出をじっくり説明することはできます。ふだんから単位量放出を見慣れていれば、緊急時にも「単位量放出です」と言って出すことができるのです。大飯の発電所の稼動を始めるにあたって、毎日「きょう大飯から単位量放出があったらどう広がるだろうか」というシミュレーションをして結果を公開することは、福島の教訓の応用として当然行なわれるべきだとわたしは思います。まだ行なわれていないことにあきれております。

シミュレーション結果を見るにはもうひとつ注意が必要です。地上でくらす人が長期にわたって受ける放射線は、おもに地表に落ちた放射性物質によります。このうち雨や雪に混じって落ちるぶんが多く、降水は空間的に不均一に起こる現象なので、放射性物質の空間分布も不均一になります。気象シミュレーションでも、降水過程を現実的に表現していれば、その不均一の度合いは現実的に表現できるかもしれません。しかし、空間スケール1kmでどこに雨が多くどこに少ないかまで現実と一致はしないでしょう。空間スケール50kmの特徴についてノンフィクションとみなせるシミュレーションでも、空間スケール1kmに注目するとまことしやかなフィクションになってしまうのです。地上の人の安全確保や除染のためには、シミュレーションでなく実際に雨・雪がどこに降ったかの情報をもつことが重要です。

放出量が的確に見積もられていない場合、単位量放出シミュレーションは可能ではありますが、それで得られる情報は、通常の気象シミュレーションによって得られる風などの気象場の情報につけ加わるものが少ないかもしれません。もしそうだとすると、そのような状況では、SPEEDIのような原子力防災専用システムではなく、通常の天気予報に原子力防災の機能をつけ加えたほうが有用かもしれません。複数の省庁にまたがりますが、混成チームなり省庁間業務委託なりによって実務的一体運営が行なわれるべきだと思います。予報の中枢で、気象場の情報と、排出源に関する得られる限りの情報、放射性物質の輸送と沈着に関する知見をもとに、予報文を組み立てる専門家に働いてもらうことと、現場の予報士に、放射能関係の用語の意味を正しく理解して予報文を説明できるように研修をしてもらうことが必要になるでしょう。

masudako

気象学会の原子力事故対策に関する提言

日本気象学会が、2012年3月5日、「原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言」を発表しました。ひとまず所在情報をお知らせします。

【[2012-07-13補足] 2012年4月から日本気象学会のウェブサイトが移動しました。
(国立情報学研究所の学会ウェブサイトホストサービスが廃止されたためです。)
この記事のリンク先は移動後のURLに書きかえます。
なお、2012年3月5日現在の気象学会ウェブサイトURLは、http://wwwsoc.nii.ac.jp/msj/ でした。】

学会ウェブサイト http://www.metsoc.or.jp/ にあります。

提言文書(PDF)は http://www.metsoc.or.jp/others/News/proposal_120305.pdf

新野(にいの)理事長による説明(PDF)は http://www.metsoc.or.jp/others/News/message_120305.pdfです。

masudako

電子メール暴露の二番せんじ

イギリスのイーストアングリア大学(UEA)の気候研究所(Climatic Research Unit, CRU)の研究者の電子メールが、また暴露されたそうです。

暴露のされかたは2年前の2009年11月とほぼ同じで、ロシアのFTPサイトへのリンクがいくつかのブログに投稿されました。ただしブログへの不当な侵入はありませんでした。データの形式も前と同様なzipアーカイブでした。ただし、前のときは中身の各ファイルのタイムスタンプから北アメリカ東部で加工されたと推測されたのですが、今回はタイムスタンプが人工的にそろえられていたそうです。

中身はまだよく確かめられていませんが、2年前に暴露されたものは当時CRUのサーバーに保存されていたメールの控えのうち一部分だけであり、今回のも同じ控えのうちから別の部分が抜き出されたものらしいです。

イーストアングリア大学の公式サイトからはRelease of climate emails - November 2011という記事(11月22日)が出ています。

イギリスの新聞Guardian (ガーディアン)はFresh round of hacked climate science emails leaked onlineという記事(Leo Hickman氏、11月22日)と、2009年の事件を説明したQ&A: 'Climategate’という記事(Damian Carrington氏、2010年7月7日、2011年11月22日改訂)をのせています。

そのほか、わたしの見たブログ記事をいくつかあげておきます。(どれもほぼ同じ傾向のものですが。)
Real Climate Two-year old turkey (Gavin Schmidt氏, 11月22日)
Skeptical Science Climategate 2.0: Denialists Serve Up Two-Year-Old Turkey (Rob Painting氏, Dana Nuccitelli氏, 11月23日)
Hot Topic (ニュージーランド) Two-year-old turkey for thanksgiving: CRU emails part deux (Gareth Renowden氏, 11月23日, 他のブログへのリンクもある)
Stoat CRU tooo? (William Connolley氏, 11月22日[その後加筆あり], 他のブログへのリンクもある)

アメリカ合衆国では11月の第4木曜日(ことしは24日)が感謝祭で、七面鳥(turkey、トルコと直接の関係はない)を料理する習慣があります。2年前の暴露のあったのも、今回も、感謝祭の前なので、こういう表現が出てきたわけです。暴露した人の意図を推測すれば、12月初めに開かれる気候変動枠組み条約締約国会議での各国代表の態度への影響をねらったのでこの時期になったと考えられます。しかし、温暖化懐疑論者のブログでとりあげられた内容をメールのもともとの意図を推測できる科学者が見た限りでは、今回暴露された内容には世の中に新たな衝撃を与えそうなものはありません。それで「二年前の七面鳥」という表現になったわけですが、日本語にはもっと的確な表現があります。「二番せんじ」です。実際には漢方薬の種類によっては二番せんじが充分よく効くものもあるのですが、ここでは「出がらし」に近い意味のつもりで書きました。

したがって、わたしはこの件を積極的に論じる意欲はありません。必要が生じたときだけ補足します。

masudako
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