気候変動・千夜一話

地球温暖化の研究に真面目に取り組む科学者たちの日記です。

科学コミュニケーション

Muller (ムラー)さんの講義についてのコメント

2014年5月30日夜23時から、NHK教育テレビで、「バークレー白熱教室 大統領をめざす君のためのサイエンス 第3回 地球温暖化の真実」という番組がありました。カリフォルニア大学バークレー校の物理学者 Richard Muller教授の講義で、2013年4月19日に放送されたものの再放送でした。Mullerという名まえをどう発音するのかよくわからないのですが、ひとまずNHKに合わせて「ムラー」としておきます。

Mullerさんが2008年に出したPhysics for Future Presidentsという本は、日本語では2010年に「今この世界を生きているあなたのためのサイエンス」という2冊本で楽工社から出ています。この本についてわたしは別のブログに[読書メモ]を書きました。2010年にはもう少し詳しいPhysics and Technology for Future Presidentsという本があって、2011-12年に「サイエンス入門」という2冊本で楽工社から出ています。また、このNHKの番組5回シリーズと同じ内容が「バークレー白熱教室講義録 文系のためのエネルギー入門」という本として2013年に早川書房から出ているそうです(わたしはまだ見ていません)。

Mullerさんは地球科学者の間では複数の件で変わった仮説を出した人として知られていました(が、もはや昔の話というべきかもしれません)。さきほど述べた「読書メモ」で少しふれました。ここではその話は省略します。

Mullerさんは、現代の社会での政策決定をはじめとする多くの活動にとって科学の知識が重要だと考えていて、それを意識した授業をしています。それはもっともなことだと思うのですが、そういう授業はとてもむずかしいと思います。政策にかかわる話題を扱いながら、教師自身の政策に関する意見にふれないことも、意見を科学的知見と明確に区別して述べることも、むずかしいのです。この日の番組では、最初の部分が、その前の回の復習という趣旨だったようなのですが、エネルギー政策に関する意見を学生にたずね、コメントしていました。複数の学生の提案をそれぞれオプションとして尊重しながらコメントしていましたが、自分はこれが重要だと思うという意見も述べていました。

この日の本論である地球温暖化の話題では、Mullerさんの政策に関する意見が結論に影響することは少なかったように思います。他方、Mullerさんは最近は自分でも気候の研究にかかわっているのですが、わたしから見てMullerさんの気候に関する理解がなお不充分なのではないかと思われるところもありました。

まず、大気中の二酸化炭素には温室効果があるのだ、というデモンストレーションとして、空気を入れた箱に白熱電球の光をあてて温度をはかっていました。温室効果は大気成分が赤外線を吸収することと射出することでなりたつのですが、Mullerさんの実験は吸収だけを示していたと思います。両方を定量的に示すデモンストレーション実験はなかなかないのです。むしろ重要なのは、実験のあとの講義での、地球大気のエネルギー収支に関連させた温室効果の説明だったと思います。

Mullerさんは、大気中の二酸化炭素の濃度が増加していること、そのおもな原因が人間による化石燃料の消費にあることは疑っていません。また、今では地球温暖化がすでに起きていることと、その原因が人間活動による大気中二酸化炭素増加であることも、確かな知識だと思っているそうです。しかし、数年前には、この2つの点についてはあやしいと考えていたそうです。ひとつには、1970年代には「氷河期が来る」という議論がされていたのに温暖化に話が変わったことが唐突と思われたから、もうひとつには、温暖化が起きているという議論のうちにひどく誇張されたものがあったからだそうです。(Mullerさんが誇張とみなした件のいくつかについてはあとで考えてみます。)

そこでMullerさんはBerkeley Earth (http://berkeleyearth.org/)というプロジェクトを始め、地上気温の観測データから、全地球規模の温度変化の事実を見ました。その際に、温度上昇は観測機器の設置状況や都市のヒートアイランドによる、世界全体を代表しない現象ではないか、という疑いについて検討しました。Mullerさんは講義の中でそういう検討をした研究はそれまでになかったと言っていましたが、そんなことはなく、NOAA のNational Climatic Data Centerの人たちによる研究があります。しかし独立に解析したことには意義があります。その結果は(講義によれば)、設置状況の影響で温度の偏りが生じることはあるが温度の長期変化傾向には差が出なかったそうです。また、都市ヒートアイランドの地点を除外しても。世界平均気温には従来の研究で示されたのと同様な上昇傾向が得られたそうです。

ここまではもっともなのですが、Mullerさんが「温度上昇の原因は『50%以上』どころか100%人間活動由来の二酸化炭素だとわかった」と言ったのは無理のある議論だと思いました。やったことは濃度の時系列と温度の時系列の統計的な比較らしいのですが、その方法でそんな確実なことが言えるはずがないのです。

この部分の講義の中で、気温の時系列には火山噴火に伴う落ちこみがあることを示していました。(その原因の説明のところで「成層圏に吹き上げられた火山灰」という表現がありました。Mullerさんまたは日本語版への訳者が硫酸を主とするエーロゾルを火山灰と同一視してしまったようです。) また、 エルニーニョや北半球の冬の海の温度変化に対応する変化もあると言っていました。そういったものを除いた長期変化と二酸化炭素濃度がよく対応するという話にちがいないのですが、具体的にどういう意味で対応すると言っているかを知るには、Mullerさんたちの論文を詳しく読んで理屈を追う必要がありそうです。論文はhttp://berkeleyearth.org/papers/にあるようです。すみませんが、わたしは詳しく読むことをお約束しません。

さて、学生からの質問のところで(NHKによる日本語ふきかえに)「飲料メーカーの財団」ということばが出てきました。Berkeley Earthプロジェクトの資金源はhttp://berkeleyearth.org/fundersに示されていますが、そのうちのひとつはCharles G. Koch Charitable Foundation でした。Kochはドイツ語ならばコッホですが、アメリカ英語での普通の発音はコウクでCokeと同音なのですね。それで講義を筆記した人が誤解したのだと思います。Koch Industriesという石油精製技術などの会社があって、創業者一族が株をもっています。その一族が作った複数の財団が2005年ごろから、ExxonMobilなどの上場企業(決算報告書にもとづく批判を受けた)に代わって温暖化否定宣伝の主要な資金源になっています。Koch財団がMullerさんのプロジェクトに資金を出した際には、温暖化の事実あるいはその原因が化石燃料であることに否定的な結果を期待しただろうと思われます。しかしMullerさんによれば、財団からの圧力は受けず、予断なしに研究することができたそうです。

さて、Mullerさんのいう「誇張」の問題です。Mullerさんは、地域的な高温、いわゆる「熱波」を地球温暖化のせいにする議論を「まちがいだ」と言いきってしまいます。どうやらMullerさんは、全球平均地上気温の上昇を地球温暖化の定義のように考えていて、その数値よりも大きな温度偏差は地球温暖化とは別ものだと考えているようです。わたしの考えでは、確かに地域的な高温をすべて地球温暖化のせいにしてはいけませんが、地球温暖化は必ずしも世界どこでも一様な温度上昇ではなく地域規模の現象や年々変動にも影響を与えているはずです。ただし、これを説明すること、とくに時間や紙面の限られた場で説明することはむずかしいです。

Mullerさんの「人間はものごとを何かのせいだと述べたがる、温暖化はその『何か』としてたびたび使われている」という議論はもっともだと思います。しかしわたしから見ると、Mullerさんは、ものごとを温暖化のせいであるのかないのかどちらかに割り切りたがる傾向が行き過ぎているように思います。

Mullerさんが示す世界平均気温の集計結果のグラフでは、昔に比べて最近のほうが年々変動の幅が小さくなっています。これは昔の観測データの乏しさのせいである可能性がありますが、「最近のほうが変動が大きくなっている」とは言えないそうです。Mullerさんは、「したがって『温暖化のせいで熱波がふえている』というのはまちがいだ」と言います。この議論には無理があると思います。「熱波」は地域的な気温の変動です。世界平均気温の変動幅がふえなくても地域ごとの気温の変動幅がふえることはありうるので、それを論じるためには地域ごとの気温の変動を検討する必要があります。

海水位変化については、Gore (ゴア)さんが映画「不都合な真実」で海水位が数メートル上がる画像を作って示したとき、それには千年くらいかかるという見通しを添えなかったことについて、誇張したメッセージを伝えてしまったというMullerさんの批判はもっともだと思います。他方、Mullerさんは、今後100年間の見通しをIPCCの(録画時最新だった)第4次報告書をもとに「最悪の場合で60-90cm」とし、それよりも大きな海面上昇を心配することはないとまで言ってしまいました。IPCC第4次報告書では、氷床崩壊が加速する可能性がまだ計算にはいっていないことも述べられていたのですが、Mullerさんはそれに気づかなかったのでしょう。意図的ではないと思いますが、誇張の反対の過小評価にいくらか偏ったと思います。

masudako

『地球温暖化懐疑論批判』(明日香ほか, 2009年)の文献リスト

次の文書が世に出てから4年あまりたちました。

  • 明日香 壽川, 河宮 未知生, 高橋 潔, 吉村 純, 江守 正多, 伊勢 武史, 増田 耕一, 野沢 徹, 川村 賢二, 山本 政一郎, 2009年: 地球温暖化懐疑論批判 (IR3S/TIGS叢書 1)。 東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)・ 東京大学地球持続戦略研究イニシアティブ(TIGS)。80ページ。

この文書は今では紙では配布されておらず、また「IR3S/TIGS叢書」のウェブページhttp://www.ir3s.u-tokyo.ac.jp/sosho/での直接の紹介がなくなってしまいましたが、PDFファイルはあいかわらず置かれています。[2018-07-15補足: その後、IR3SのサイトではPDFファイルがみつからなくなりました。第1著者の明日香さんのサイトのhttp://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/database.htmlのページにPDFファイルが置かれています。]

この文章は、2006年ごろから書き始められて2009年5月に原稿改訂がしめきられたもので、いまから見ると、過去のものという気がすることもあります。いま書くとしても、基本的主張は変わらないと思いますが、どのような温暖化懐疑論の文献に対する批判が必要だと考え、どのような学術文献を参照して議論を組みたてるかは、変わってくると思います。そのような取り組みをだれかがするかもしれませんが、わたしからお約束することは残念ながらできません。他方、執筆時期 を考慮して、歴史的文献(というのはおおげさな表現ですが)として見てくだされば、有用なこともあると思います。

ところが、歴史的文献として使うためには参考文献が確認できることが重要ですが、「参考文献」としてあげられたウェブ上の情報のアドレス(URL)が変わったところがあちこちあります。発信者が発信しつづけている場合でも、別のウェブサイトに移ったり、ウェブサイトの構成が変わったりしたことがありました。(わたしが公開していたページもひとつ採用されていますが、それを置いていたサイトをひきはらったので、移動しています。) もとのページが見つからなかったものの一部は、「インターネット・アーカイブ」でコピーが見つかりましたが、残念ながらそこでも見つからなかったものも少数ながらありました。2009年版の文書を読むかたが参考文献をたどれるようにしておいたほうがよいと思いますので、URLを改訂した参考文献リストを、わたしの個人ウェブサイト中のhttp://macroscope.world.coocan.jp/ja/reading/asuka_hoka_2009_ref.htmlに置きました。今後、定期的ではありませんが気づいたときには改訂するつもりです。移動するかもしれませんが、わたしが個人ウェブサイトを維持している限りは上記のところから行き先がわかるようにするつもりです。

2009年5月の時点で有効だったURL (いくつか確認もれがあるようですが)が4年半の間にどれだけ変わったか、という例とみることもできるかもしれません。資料として使われる情報を発信するウェブサイトでは、文書のアドレスがなるべく変わらないようにするべきです。World Wide Webを始めた人であるTim Berners-Leeさんの「クールなURIは変わらない (Cool URIs don't change)」という文書での提案が参考になると思います(必ずしもすぐその提案どおりにしようとは思わないのですが)。論文はDOI (ditigal object identifier)参照がよさそうです(「doi:」を「http://dx.doi.org/」に変えるとウェブ上でたどれます。ただし今回のリストはDOIを書いた項目と書いてない項目が不ぞろいのままです)。

[2018-07-15改訂] ここに、原本PDF (東大IR3Sウェブサイト内)へのリンクを示していましたが、リンク先のファイルがなくなったので、リンクをやめ、ファイル構成を示すだけにします。

  • 一括ダウンロード (all.pdf、5,707KB)
  • 分割ダウンロード

    • 表紙・はじめに・CONTENTS (chap0.pdf、2,628.6KB)
    • 第1章 温暖化問題における「合意」 (chap1.pdf、318.5KB)
    • 第2章 温暖化問題に関するマスコミ報道 (chap2.pdf、188.6KB)
    • 第3章 温暖化問題の科学的基礎 (chap3.pdf、1,408.5KB)
    • 第4章 温暖化対策の優先順位 (chap4.pdf、337.6KB)
    • 第5章 京都議定書の評価 (chap5.pdf、360.4KB)
    • 最後に・参考文献 (last.pdf、793.3KB)


masudako

『パリティ』2012年9月号、赤外放射と惑星の温度、科学をどう伝えるか

丸善出版から出ている物理の雑誌『パリティ』の2012年9月号が出ました。

レイモンド・ピエールハンバート (Raymond Pierrehumbert) 「赤外放射と惑星の温度」は、地球・金星・火星の大気中の放射伝達とそれによって気温がどう決まっているかについてのきちんとした解説です。Physics Todayの2011年1月号に出た記事の翻訳です。もとの記事について[2011年3月11日(震災前)の記事]で紹介しましたのでそちらもごらんください。

リチャード・サマービル (Richard Somerville)、スーザン・ジョイ・ハソル(Susan Joy Hassol)「気候変動の科学をどのように伝えるか」は、地球温暖化についての科学者の知識と一般の人々の知識の間の溝をなくしていくために、科学者は表現をくふうしなければならない、という主張を具体的に述べた論説です。サマービルさんは気象学者で、IPCC第4次報告書では第1部会の第1章(気候変化の科学の発達の歴史)の編著者となっています。ハソルさんは気候に関する科学者と政策決定者や一般の人々との間のコミュニケーションのために働いてきた人です。なお、この記事の訳者は松田卓也さんです。2011年3月号の松田さんの論説とはだいぶ主張が違いますが、訳者からのコメントは加えられていません。この記事は「温暖化問題、討論のすすめ」のシリーズ記事という位置づけになっているので、次号以後に議論があるのかもしれません。

masudako




見通しが持てるのはグローバル気候、経験するのはローカル気候

英語圏のことわざに
“Climate is what we expect, weather is what we get.”

([仮訳] わたしたちが期待するものは気候ですが、実際に得るものは天気です。)

というのがあって、気候・気象の話題によく出てきます。新しく出たDavid Randall (ランドール)さんの気候システム入門書「Atmosphere, Clouds, and Climate [わたしの読書メモ]の出だしでこれが使われていて、Robert Heinlein (ハインライン)さんのことばだと書かれていました。少し調べたところ、1973年に出た「Time Enough for Love」 (日本語題名は「愛に時間を」)というSFにあるらしいです。これがもし気候や気象が重要な役割をする作品ならばすぐ読んでみたくなるのですが、どうもそうではないようなので、この表現が小説の中でどういう役割で使われているのか確かめておりません。

わたしはこの表現を次のように理解します。(「期待」ということばを統計学でいう「期待値」のほうに引き寄せた解釈になっています。) たとえばこれまで行ったことのないところに来年数日間の旅行をする予定をたてているとします。来年行ったとき経験するのは、その数日間のそれぞれの日の天気です。しかし、今から来年の毎日あるいは週ごとの天気予報はできません。予備知識として持てるのは、その土地のその季節の過去の経験に基づく平均気温とか、気温の変動幅とか、降水確率とかの気候情報です。行ったときにはその気候の母集団からランダムに選ばれた要素が出現するだろうと考えて備えることになるでしょう。

さて、気候変化に関して何がわかっているかについて、気候変化の専門家とそれ以外の人(気候変化以外のものごとの専門家を含む)との間で、議論がかみあわないことがあります。その理由を考えてみて、いわば次のような問題があることに気づきました。
見通しが持てるのはグローバル気候、経験するのはローカル気候

さきほどの気候と天気の違いは視野に入れる時間スケールの違いとみなせますが、今度のは、空間スケールの違いです。

人がからだで感じる気候要素たとえば気温は、その場のローカルな気温です。観測機器たとえば温度計を使うとしても、それが直接測定するのはローカルな気温です。(観測に基づくグローバル平均気温はたくさんの観測値を集計して得られたものです。) 生態系や人間社会に影響を与える気候要素も多くの場合ローカルなものでしょう。人間社会が将来の気候変化について見通しを持ちたいと思ったとき、ほしいのはローカルな気候の変化の見通しであることが多いでしょう。(それは必ずしも自分の住むところについてとは限らず、原料を供給してくれるところ、製品を買ってくれるところ、競争相手がいるところなどかもしれませんが。)

ところが、気候の理論やそれに基づくシミュレーションによってこの期待にこたえるのはなかなかむずかしいのです。グローバルな気候システムのエネルギー収支をずらす要因は、わりあい少数個にしぼりこむことができます。それぞれの要因がどう働くかについて理屈で考えることもできます。ところが、気候システムのローカルな各部分の変化は、グローバルな変化要因に加えて、ある部分から他の部分にエネルギーが移ることによっても起こりうるので、さまざまな可能性があって、過去の変化の原因を説明することも、将来の変化の見通しをもつことも、グローバルな気候の場合よりもむずかしいのです。

研究を続ければ、ローカルな気候の見通しの精度は、少しずつ高まっていくと思います。しかし、将来とも、グローバルな気候の見通しよりも大きな不確かさをもつでしょう。ただし、不確かさが大きいということは何もわからないのと同じではありません。不確かさを承知のうえで判断の参考にしていく方法をくふうしていくべきなのだと思います。

masudako

Yahoo掲示板に書いた記事

わたしは、このブログのほかに、これまで約1年のあいだ、Yahoo (ヤフー)掲示板( http://messages.yahoo.co.jp ) の「科学」の「地球科学」の下に「気候の門 (Yahoo門)」という「トピック」を開いて、いろいろな(いわゆる)地球温暖化懐疑論への反論を主としたこまごました記事を書いていました。内容のうちにはこのブログにも書いたものもありますが、重なっていないものもあります。

しかし、その掲示板はわたしにとってあまり使いよくないので、今後積極的に書きこむのはやめようと考えております。 絶対に読み書きしないと決めたわけではありませんが、読み書きの頻度は少なくなります。「トピック」は約1か月のあいだ書きこみがないと消されるようです。そこで、これまで書きこんだ記事を、わたしの個人サイトに写しました。入口ページはhttp://macroscope.world.coocan.jp/ja/archive/yahoobbs/index.htmlです。掲示板上と同様に、記事一覧(新しい記事から)があって、そこからそれぞれの記事にリンクする形にしてあります。ただし、今後もこの形で維持するか、内容を分類して整理しなおすかは未定です。

masudako


続・グリーンランド氷床の氷は減っていますが. . (地図帳の件)

グリーンランド氷床の広がりに関する「タイムズ世界地図帳」のまちがいが指摘されたという9月22日の記事の続報です。

RealClimateというブログに11月8日、Eric Steig (スタイグ、と読むのだと思います) さんによるTimes Atlas map of Greenland to be correctedという記事が出ました。

これによると、Harper Collins社が、訂正版の地図を作り、オンラインでも提供する予定だそうです。

また、雪氷学者たちによる、このまちがいと訂正の事情説明と、現状の科学的知識を反映した氷床の分布図を含む論文が、学術雑誌に投稿中で、その原稿[PDF 12メガバイト]が共著者のひとりのウェブサイトに置かれています。

これはCryolistという世界の雪氷学者のメーリングリストを通じた多くの人がかかわったものだそうです。まとめ役(論文の筆頭著者)になったのはアメリカのアリゾナ大学のKargel (カーゲル)さんです。2010年初めにヒマラヤの氷河の将来見通しが問題になったとき[2010年3月29日の記事参照]も、IPCC第4次報告書の第2部会の巻のアジアの章のまちがい(氷河消滅をこわがりすぎるものだった)を批判するとともに、インド環境省から出された報告書(こわがらなさすぎるものだった)をも批判する資料をまとめたかたでした。

masudako

「科学技術社会論研究」地球温暖化問題特集号

科学技術社会論学会(http://www.jssts.jp/)という学会の論文誌「科学技術社会論研究」は、ほぼ1年に1冊出ており、玉川大学出版部(http://tamagawa.hondana.jp/)から単行本扱いで出版されています。

これの第9号が出ました。大部分が地球温暖化問l題の特集です。[出版社による本の紹介のページ]から、目次を引用しておきます。(箇条書きの表現を少し変えました。)

== 引用 ==
目次
特集=地球温暖化問題
* 地球温暖化問題の諸側面……宗像慎太郎
* 温暖化リスクコミュニケーション……江守正多
* 気候変動と市民理解……青柳みどり
* 地球温暖化リスクの伝達の実践の試み ― メディア関係者との意見交換と市民対象の双方向型シンポジウム……高橋潔,杉山昌広,江守正多,沖大幹,長谷川利拡,住明正,福士謙介,青柳みどり,朝倉暁生,松本安生
* 研究者・メディア間の温暖化リスクコミュニケーション促進に向けた対話型フォーラムの可能性……三瓶由紀,江守正多,青柳みどり,松本安生,朝倉暁生,高橋潔,福士謙介,住明正
* 地球温暖化の科学とマスメディア ― 新聞報道によるIPCC像の構築とその社会的含意……朝山慎一郎,石井敦
* 科学的な不確実性の認識が地球温暖化対策に対する大学生の意思決定に及ぼす影響……松本安生
* 地球温暖化問題へのセカンドオピニオン……伊藤公紀,小川隆雄
* 地球温暖化問題に関するひとつの展望……増田耕一
論文
* 科学論争におけるステークホルダーのフレーミング分析 ― 魚介類摂食に関する米国の論文誌上の論争を事例として……上野伸子,藤垣裕子
短報
* 再帰的近代化における普遍性と多元性の問題 ― 地域の環境や伝統を再検討するための参照枠の在り方とは……萩原優騎
学会の活動
投稿規定
執筆要領
== 引用 ここまで ==

最初の宗像(むなかた)さんの文章は、編集委員として特集の趣旨を説明したものです。投稿された原稿はもっと多く、広い範囲の話題にわたっていたそうですが、査読を経て学会誌に出版する価値があると判断された論文にしぼった結果、たまたまリスクコミュニケーション関係の論文が多くなってしまったそうです。

わたしは温暖化問題の総論を書きました。原稿を出したのが2年前、査読者の意見を参考に改訂を加えて出したものについて編集委員会で掲載決定されたのが1年前でした。ほかのどなたかの原稿について、著者による改訂か、編集委員会での判断に時間がかかったようです。

残念ながらわたしはほかに読みかけのものがいくつもあるので、自分以外の論文についての論評は、とうぶんいたしません。

masudako

グリーンランド氷床の氷は減っていますが、減りかたを誇張されるのも困ります

新しい地図帳に表現されているグリーンランド氷床の変化が話題になりました。わたしはこの話題をRealClimateブログのGavin Schmidtさんの9月21日の記事Greenland meltdown (の後半)で知りました。(RealClimateの記事の表題はことば遊びをしていることが多く、実質的内容に対応しているとは限りません。ここでは「down」をあまり気にせず「melt」の話題と思ったほうがよさそうです。)

グリーンランドは北極圏にある陸地です。大きさが大陸と島を大きさで区別する境目にあたっているので、その陸地自体は島に分類されて世界でいちばん大きい島と言われていますが、その陸地の大部分を覆う氷は「大陸氷床」に分類されています。

Times Atlas of the World (タイムズ世界地図帳)はイギリスで発行されている有名な地図帳です。今は新聞のTimesと直接関係なく、Harper Collins (ハーパーコリンズ)という出版社が出しています。調査がしっかりしているという評判があり、資料として使われることがよくあります。たとえば日本の『理科年表』(2011年版)の地学の部の地理関係のところを見ると、「世界のおもな島」「...高山」「...河川」などで使われています(「地球上の氷でおおわれた地域」では使われていません)。

このシリーズのTimes Comprehensive Atlas of the World第13版が最近発行されたのですが、それを知らせるHarper Collins社の報道発表(press release)の中に、グリーンランド氷床の広がりが1999年発行の第10版に比べて15%減ったことが、地球温暖化によってこの12年間に実際にそれだけ氷が減ったことを示すかのように述べられていました。雪氷の専門家たちが、それは正しくないので訂正してほしいと言いました。

日本語での報道はまだ少ないですが、AFP BB Newsの9月21日の記事「権威ある地図帳のグリーンランド氷床縮小に専門家が反論」がありました。この短い記事だけ見ると、専門家は「氷床が縮小していない」と言っているように見えます。英語圏にも同様な報道があり、地図帳の話を離れて「専門家がグリーンランド氷床縮小を否定している」と伝える人もいるようです。

実際にはグリーンランドの氷の量は減っています。5月14日の記事で紹介した『環境技術』の特集号に三浦英樹さんによるレビューがあります。上に述べたSchmidtさんのブログ記事の前半で紹介されているTedesco ほか(2011, Environmental Research Letters)の研究[要旨と本文PDFへのリンク]も、衛星による表面状態の観測をもとに各年の質量変化を見積もったものです。氷床の面積も小さくなっているはずですが、それを直接に示す文献がすぐに出てきません。気がついたら追って紹介したいと思います。

ところが、タイムズ地図帳13版では、前の版と比べて、土地が氷に覆われているかどうかの判断基準が大きく違う材料を使っています。したがって氷に覆われた面積を前の版と比べてもあまり意味がないのですが、形式的に比べると、科学者が示している実際の減少よりもずっと急に減ったように見える結果になってしまったわけです。

問題がわかりにくくなった理由は、氷床とその他の氷河の区別だったようです。大陸氷床は氷河の一種です(という用語づかいが適切だと思います)。しかしグリーンランドの陸を覆う氷河の構造を詳しく見ると、大陸氷床とは別の氷河と見たほうがよい部分もあります。どう区別するかの詳しい判断は専門家の間でも必ずしも一致しないと思います。ともかく、ある専門家のグループが自分たちの判断によって大陸氷床だけの分布図を作り、その他の氷河は氷に覆われていない陸地と一見同様に表現したらしいのです。その図をタイムズ地図帳の編集者が利用する際に、「その他の氷河」が省略されていることが理解できなかったようです。(書き手の説明がへただったというべきか、読み手が不注意だったというべきかは、もとの資料にあたっていないわたしには判断できません。) それにしても、前の版と比べて面積で15%も減ることになっていたら、へんだと思って説明を読み返すなり専門家にたずねるなりしそうなものですが、この地図編集者は、温暖化で氷がとけているという定性的知識に合っているので、他の定量的情報をあたらないで、実際に減ったと思ってしまったようです。

イギリスのGuardian (ガーディアン)という新聞がていねいに報道しています。
9月15日 New atlas shows extent of climate change (John Vidal) これはHarper Collins社の報道発表をそのまま伝えたようですが、今見られるのはグリーンランド氷床の件について20日に訂正したものです。
9月19日 Times Atlas is 'wrong on Greenland climate change' (John Vidal) 科学者がまちがいを指摘したという報道です。この時点ではHarper Collins社はまちがいを認めていません。
9月20日 Times Atlas publishers apologise for 'incorrect' Greenland ice statement (Fiona Harvey) Harper Collins社が報道発表が不適切だったとおわびしたそうです。しかし地図を訂正する必要はないとしているようで、科学者たちとのくいちがいは残っています。
9月21日 Times Atlas ice error was a lesson in how scientists should mobilise (Poul Christoffersen) 科学者たちが氷の変化の事実を正確に知ってもらいたくてがんばっていることの紹介です。
9月22日 Times Atlas reviews Greenland map accuracy after climate change row (Press Association) Harper Collins社も問題を認識し、専門家と相談して今後の対応を決めたいと言っているそうです。[この項目9月23日追加]

ちょっとたとえ話をしてみます。
1872年の鉄道開業以来の新橋・横浜間の所要時間の変遷を一覧表にしたものがあるとします。
ところが、開業当時の横浜駅は、今の桜木町駅付近なのです。今の横浜駅までにすると、だいぶ距離が短くなるので、不公平な比較になってしまいます。(新橋のほうも汐留でしたが、この違いはそれほど距離にきかないでしょう。) そこで、前の一覧表作成者は、現代については、横浜での乗りかえを含む新橋・桜木町間の所要時間を示していました。
ところが、その人が一覧表作成をやめてしまったので、別の人が引き継ぐことにしました。しかし所要時間をどう定義するかの約束が引き継がれなかったので、今度の作成者は、単純に新橋・横浜間の所要時間を示してしまいました。結果は「わずかの期間に所要時間は5分も短縮された」ように見えました。

グリーンランド氷床の話はまだ続くと思いますので、何か重要な進展があったら追加して書きます。

[9月23日追加] 「さまようブログ」の mushi さんが「溶かしすぎた」(9月20日)で論じています。

[10月20日追加] 雪氷学者でNPO法人「氷河・雪氷圏環境研究舎」代表の成瀬廉二さんが、そのNPOのサイトの「情報の広場」の[10月6日の記事]で、世界の雪氷学者のメーリングリストで話題になったことの要点を含めて、論じておられます。

masudako

SPEEDIの計算結果(図)公開

国の文部科学省の事業として原子力安全技術センターが担当してきたSPEEDIという数値モデルによる、福島第1原子力発電所からの放射性物質のローカルな(数十kmスケールの)広がりのシミュレーション計算結果の図が、内閣府の原子力安全委員会事務局のウェブサイトの中の次のところhttp://www.nsc.go.jp/mext_speedi/から公開されました。

わたしは4月26日の読売新聞朝刊(東京14版2面)で知ったのですが、見出しが「拡散予測『今頃ナンセンス』専門家が批判 / 事故直後の避難に使うはずが」となっていました。事故直後に役にたたなかったことは確かに残念なことですが、読売のデスクには、政府が情報を出さなくても、出しても、政府を非難する見出しをつけたいかたがおられるようですね。読売のウェブサイトには4月26日夜現在http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20110425-OYT1T00953.htm のページに記事があり、その見出しは「今になって公表した放射性物質の飛散予測」となっています。ただし検索した際の記事一覧で表示されるタイトルは「放射性物質の飛散予測、毎日正午に公開へ」でした。

「レスポンス」というウェブサイトの「過去の放射性物質の飛散予測 SPEEDIアーカイブで公表」という記事http://response.jp/article/2011/04/26/155503.html のほうが(下に述べるような疑問もありますが)有効な報道になっていると思います。(このウェブサイトのほかの記事は自動車の話題が主で、わたしの関心に合うものはあまりないのですが。 )

「レスポンス」の記事によれば、発表が遅れた理由の第1は、放射性物質の排出量の情報が得られなかったことです。そのため、SPEEDIシステムが設計されたとき想定されたとおりの予測計算はできなかったのです。(SPEEDIの設計で想定していたのは、原子力発電所の事故といっても、発電所の近くの放射線計測装置は動いている場合だったのです。)

今回発表された図は、いずれも数量の空間分布を地図上に示したものですが、意味がだいぶ違う、2種類のものがあります。内閣府のサイトの説明を読んでわたしは次のように理解しました。

(1)福島第1原子力発電所事故以来毎日毎時の計算結果の図(PDFファイル)が、http://www.nsc.go.jp/mext_speedi/past.htmlからリンクされています。計算結果として示された数値は、「放射性希ガスによる地上でのガンマ線量率(空気吸収線量率)」と、「大気中の放射性ヨウ素の濃度」とされていますが、いずれも、現実的な数値ではなく、単位量(1時間あたり1ベクレル)の放射性希ガスまたはヨウ素の放出を仮定して計算したものです。この結果に放出量の見積もりをかけ算して得られる量が現実的意味をもつわけです。PDFファイルには、風の分布(気象庁の日本域数値予報モデルによる格子データと観測値とをもとにSPEEDIで計算されたもの)を示す図も含まれています。

(2)環境中の放射性物質濃度の測定(ダストサンプリング)結果とSPEEDIによるシミュレーションを組み合わせることによって、放出量をなんとか逆推定し、それを入力としてSPEEDIによる計算をして空間線量が試算されました。この結果は、複数日の期間の積算線量の図として3枚が公表されています。その1つは、3月12日午前6時から4月24日0時までの成人の外部被ばくによる実効線量です。読売の記事に引用されていた図はこれでした。

(2)の図を見ると、分布は海側には同心円に近い広がりかたをしていますが、陸への広がりかたは大きな方向の偏りがあり、北西方向と、海岸沿いの南方向とで値が大きくなっています。北西側のいくつかの町村で距離の割に影響が大きかったことは確かなようです。ただし同じ町村内でも一様に影響が大きいわけではありません。なお、この結果の大まかな特徴は、この地域の地形を知っている人ならばある程度は予想できたと思います。しかし定量的に試算してみる価値はあるでしょう。

ところが(1)の図をためしにいくつか見てみると、そのときによって、濃度の濃いところが向かう向きはまちまちなのですね。北西、南だけでなく、ほかの方向に向かうこともあります。まだ風の分布と照らし合わせて検討していませんが、風向によっているのだと思います。(3月23日に報道されたのは1例だけでしたから、その図を見てどの場所があぶないと判断するのは、やはり、あまり適切ではなかったのです。)

[2011-04-30訂正] 3月23日に報道されたのは、今回の(2)に含まれるうちの最初のもの、3月12日午前6時から3月24日0時までの一歳児の甲状腺内部被ばく等価線量だったようです。

20km圏内で立ち入り制限をし日時を指定して一時帰宅を認めることになりましたが、onkimoさんが4月7日の記事http://d.hatena.ne.jp/onkimo/20110407/1302178667/で述べておられるように、一時帰宅の際は、このような予測計算を安全策の参考にするべきでしょう。

ところで、「レスポンス」の記事には、発表が遅れた第2の理由も書かれています。
[細野首相補佐官は]さらに、SPEEDIの運用を、内閣府原子力委員会か文部科学省が担当するのか「調整に戸惑ったこと」も、公表を遅らせる要因になったことを明かした。


この報道には疑問もあります。原子力委員会と原子力安全委員会との区別は明確にしてほしかったと思いますし(もしかすると実際に原子力委員会に担当させるべきだという論もあったのかもしれませんが)、「戸惑った」ではなく「手間取った」と言ったのではないかとわたしは思います。

しかしいずれにせよ、こういう理由には役所(的なもの)で働いた人以外のみなさんはあきれるでしょう。しかし、役所は他の省(内閣府も横並び)の権限に含まれる仕事に手を出してはいけないのです。(もし役所の現場の裁量を自由に認めると、税金の使いかたに対して国民の代表である国会のチェックがきかなくなるでしょう。) 社会的期待のある任務を認識したらすぐ担当の省を割り当てることこそ、「政治主導」の出番です。その認識が遅れたのは残念ですが、ともかく今になって役所の対応は前進しました。

[注(2011-04-27): 26日夜に書いた文章には書きまちがいや説明不足があったので、27日午前に推敲しました。]

masudako

「MIT研究者Dr. Josef Oehmenによる福島第一原発事故解説」は改訂版を見よ

表題の記事を参照したいかたは、必ず改訂版[英語オリジナルサイトはここ]をごらんください。

[2011-03-17 追記] 改訂版のarc@dmzさんほかによる日本語訳MIT原子力理工学部による改訂版・福島第一原発事故解説があります。

[注(2011-03-16): 改訂版(英語)のページにJapaneseと書かれたリンクがありますが、その先にあるのは旧版の日本語訳です。改訂版の内容になっていないのでご注意ください。 2011-03-18 これはなくなりました。]

***

Brave New Climateというブログがあります。オーストラリアのBarry Brook (ブルック)さんがやっています。地球温暖化問題を論じるウェブ上のグループでの評判では、地球温暖化の科学の理解はしっかりしているそうです。しかし主題はむしろ温暖化問題を解決する手段で、そのうちでも原子力をひいきしていることが特徴となっているブログです。

3月11日に起きた東北日本の地震に伴う福島の原子力発電所の事故についても、Brookさんはさっそくとりあげています。参考になりますが、ちょっと楽観しすぎているのではないかと感じられるところもありました。

とくに、13日に投稿されたFukushima Nuclear Accident - a simple and accurate explanationという記事は、確かにわかりやすそうなので読んでみたくなりますし、山中翔太さんによる日本語訳「福島原発事故-簡潔で正確な解説」(PDFファイル)も置かれています。これは、アメリカのMIT (マサチューセッツ工科大学)の研究員のJosef Oehmen (ドイツ語圏の出身なのでヨーゼフ・エーメンと読むのでしょう)博士による文章をそのまま紹介したものです。
[注(2011-03-17): その後、Brookさんのブログの上記記事は改訂版の内容にさしかえられたようです。その記事からリンクされた山中さんの日本語訳はversion 3になり基本は旧版の訳ですが改訂版にもふれられています。]

ところがこの記事について、温暖化問題を論じるウェブ英語圏のあるグループのメンバーが、あまり正確でないようだと言っていました。Oehmenさんは工学系の博士ではあるが原子力が専門ではないことも指摘していました。

わたしは原子力についての専門知識はありませんが、ざっと読んでみて、外にもれる放射性物質のうちセシウムとヨウ素の量はわずかでありその他のものは短時間で消えるとしているところなどはまずいと思いました。

上記グループの情報でOehmenさんのウェブページがわかりましたがそれは著作リストでした。著作の表題にはリスク管理というキーワードが使われてはいますが、ものづくり企業が材料供給を確実に得るしくみなどを研究しているようです。そのページの初めのほうに「CV」というリンクがあります。履歴書ですね。そのリンク先はLAI (Lean Advancement Initiative)という研究室のサイトのうちでOehmenさんを紹介するページですが、そこに今回の記事に関することわりがきがありました。ざっと訳してみます。[その後も少し書きかえがありましたがこれは2011-03-16現在の内容です。]

Josefは「日本の原子炉についてわたしが心配していないわけ」というエッセイの著者です。それは彼が日本にいる親族に送った電子メールでした。彼のいとこがそれを自分のブログにポストしてから、それはウィルスのように広まりました。


その投稿が引き起こした関心にこたえるとともに、時を得た正確な情報に対する明らかな需要にこたえるため、MITの人々によるチームが働いています。もとのブログ記事はMITの原子核理工学科(NSE)の教職員のチームが管理するサイトに移されました。新しく発足したMIT原子核理工学科の原子核情報ハブをごらんください。


報道機関からの問い合わせはMITの報道室(News Office)にしてください。


「原子核情報ハブ」のウェブサイトには、Oehmenさんの記事の改訂版 Modified version of original post written by Josef Oehmenもあり、さらに別の記事もあります。

最初に投稿されたMorgsatlargeというブログのOehmenさんの記事のあったところの内容は、「原子核情報ハブ」へのリンクとOehmenさんによる事情説明に置きかえられています。

ここまで見てから、ウェブの日本語圏を見てみたところ、Oehmenさんの記事を参照しているところがあちこち見られました。

Wikipedia日本語版の「福島第一原子力発電所事故」は、「専門家からの指摘」という節で、山中さんの日本語訳に基づいた記述をしていました。そのままではまずいと思いましたので、わたしが、MITの改訂版に沿って書きかえました。

また、この「気候変動・千夜一話」と同じライブドアのホストにあるA Successful Failureというブログで、LM-7さんが3月14日「MIT研究者Dr. Josef Oehmenによる福島第一原発事故解説」という表題で山中さんとは別の日本語訳をしておられます。これもBrave New Climateにあったものに基づいているそうです。これはライブドアのブログまとめのサイトBlogosにも同じ表題の記事で出ています。いずれも、専門家のチェックがはいる前の旧版の訳です。
[以下2011-03-17改訂] 改訂版のarc@dmzさんほかによる日本語訳「MIT原子力理工学部による改訂版・福島第一原発事故解説」へのリンクが追加されました。LM-7さんも訳に参加されたとのことです。

まだ旧版の訳が出まわっています。旧版は、しろうとによる解説としてはよくできたものですが、専門家によるものではなく、いくつか不正確なところがあり、危険を軽視するほうに偏る傾向があった、ということにご注意ください。

[2011-03-29追記, 2011-03-31改訂] Oehmenさんの記事が広まってしまった件は、イギリスのNew Scientistという雑誌のサイトのFerris Jabrさんによる3月21日づけの記事でもとりあげられました。MITの大学新聞Techにも3月29日づけの記事があります。また、Brave New Climateの3月29日づけの記事として、Oehmenさん自身による、「自分がもし別人として自分の投稿を見たら信頼しただろうか」という考察Would I have believed myself?が出ています。

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