クライエント中心の実践において、クライエントとセラピストの信頼関係、距離感など関わり方の重要性がよく言われている。


クライエントと良好な関係を築きつつも、リハビリテーションの本来の目的である自立と相反する依存を生まないためには、どういったことに気をつけていくべきなのだろうか?


今回は、カナダ作業療法の概念・理論をベースに考えていく。



◯クライエント中心の実践では、作業療法士はファシリテーター(促進者)の役割

クライエント中心の実践では、クライエントの状況の分析と日常的な問題解決に関するエキスパート(専門家)は作業療法士ではなく、クライエント自身であると考えられている。 

よって、評価のプロセス(問題の特定〜分析)においても、積極的にクライエントに参加してもらう。


詳しくは過去の記事参照

「クライエント中心の作業療法ー問題の特定〜分析といった2段構えの評価プロセスー」




エキスパートであるクライエントに対して、作業療法士は立場はファシリテーター(促進者)である。


クライエント中心の実践においての最終的な目標は、

「自分の人生は自分で決め、困難なことにぶつかろうとも自己で解決できる」

ことである。


クライエント中心の実践という用語を最初に用いたCarl Rogersも

「サービスを受けている個々人が、問題を明確にし解決するための積極的役割を果たす能力を持つ」

と信じていたのである。


とは言え、医療現場で働く僕らの関わる多くのクライエント(患者)は、いきなりの病気や怪我により、

自己の身体に不具合が出たり

当たり前にできていたことができなくなったり

今までの慣れ親しんだ生活空間や人と全く違う環境(病院かつ、関わるは医療スタッフ)に入ったり

で混乱や不適応を起こしているケースが多い。


そういったクライエントの多くがいきなり、今後の見通しを立てて、現在の自己の問題を分析し、その問題解決に向けて積極的に活動していけるわけではない。


だから、直面している作業遂行の問題を分析、解決する知識やスキルを持った専門職である作業療法士というファシリテーターが必要なのである。




◯教育性無気力を生まないための、ファシリテーターとしての程よい距離感

作業療法の対象は、クライエントに生じている作業遂行の問題、言い換えれば、「生きにくさの問題」である。


それは、関節や筋活動といった要素である場合もあるが、本来はもっと大枠の「行動」自体の変容である。


作業療法はクライエントに対して、行動選択や考え方などを学習を促進させる立場である。


クライエント中心において、注意しなくていけないものは、

Hammell(1995)が名付けた「教育性無気力」である。

Hammellが警鐘を鳴らしているのは

クライエントの生きにくさの問題に対して、

作業療法士が目標の特定や分析、問題解決のための介入計画、実践などを全てやってしまう治療環境によって、

クライエントが受け身になり、作業療法士に依存的になってしまうように教育されていくことである。


このような状況になるのは、学習者であるクライエントの問題ではなく、教育者である作業療法士の関わり方の問題であると捉えるのである。



クライエント中心の実践においては、問題の特定、目標設定のプロセスにおいて、クライエントの意志を汲み取ることだけを意味しているというような誤解を生みがちであるが、

本来は、問題解決(介入計画ー実践)のプロセスにおいても、積極的にクライエントに参加を促さなければいけないのである。


ここでもう1つ誤解してはいけないのは、全てをクライエントに任せ、丸投げにするのとは違うということである。


最初から問題の特定ー分析、介入計画ー実践の全てのプロセスを、クライエントができるわけではない。

長期的にそれをできるように、サポートするのがファシリテーター(促進者)であり、パートナーである作業療法士の役目である。

だから、クライエントが自己解決に苦しむ場合は、作業療法士が専門的な立場から助言をできなくてはいけないのである。


長期的な視点を持って、今の時期はどう関わるかを配慮していくことで

依存ではなく、「自立」を促していくことができるとことができるだろう。


そして、後々、リハビリテーションからの卒業といったことのスムーズに進めていけるはずである。




◯まとめ

クライエント中心では、作業療法士とクライエントの治療的関係が成功の鍵とも言われている。

クライエント中心の実践においての最終目標は

「自分の人生は自分で決め、困難なことにぶつかろうとも自己で解決できる」

であろう。

そのために、作業療法士は問題の特定ー分析、介入計画ー実践のプロセスにおけるファシリテーター(促進者)という立場をとる。

全てをやってしまう治療環境は、依存という「教育性無気力」を生むリスクが潜んでいる。

最終的な目標に向けた長期的な視点を持った、程よい距離感での関わりが重要である。


クライエント中心の作業療法。

対象者の主体性を尊重し、その人にとっての意味ある(したい、しなければならない、することを期待されている)作業遂行の問題を特定し、パートナーという立場で関わりながら作業獲得を通して、その人らしさを獲得していくことである。


さて、このクライエント中心の実践を行うプロセスの中でも、「評価」が必要なのはいうまでもない。

では、何を、どう評価していけばいいのだろうか?


今回は、「問題の特定ー問題の分析」という評価の2段構えのプロセスについて書いていく。



◯問題の特定「どの作業遂行の問題から解決したいと望んでいるのか」

クライエント中心の実践では、クライエントを自分自身の状況と日常的な問題解決に関するエキスパート(専門家)と捉える。

決して、作業療法士の憶測で、問題を決めつけず、クライエントの語り、自己報告から正しい情報を得ることを大事にする。


問題の特定は、その人にとっての意味や価値から優先順位が決まる。


クライエントに今の自分が解決したいと望む作業遂行の問題を挙げてもらい、優先順位をつけてもらう必要がある。


そのためのツールとしては、例えば、COPMであったり、ADOC、生活行為向上マネージメント MTDLPを用いることもできる。

これらは、重要度や緊急度、満足度、遂行度を主観的に点数化してもらう。


そうすることで、後々の効果判定に活かすことができたり、作業療法の成果として曖昧な部分を少し客観的に表現することに役立てたりすることができる。


しかし、別に、必ず評価バッテリーやツールを用いなければいけないわけでもなく、介入する問題の特定のプロセスにクライエントの意思決定を組み込むことが1番大事なことである。


しかし、クライエントと共に問題の特定をして、目標を決定したら、クライエント中心の実践ができるかと言えば、そう簡単ではない。


作業遂行の問題を解決に導くためには、次のプロセスとして、その「問題の分析」をして、介入に繋げなくてはいけない。



◯問題の分析「その作業遂行の問題は何が原因で、どうクライエントに影響を及ぼしているのか」

クライエントが解決したいと望む作業の問題を特定できたとする。

さて、その作業の問題を解決するために、どうするのか?

COPMやADOC、MTDLPなどの中で、主観的に重要度や満足度、遂行度を点数化してもらうだけでは見えてこない。


そして、ただ単に、その重要度の高かった作業を反復練習すれば、作業遂行の問題が解決するかと言えば、そう単純ではないだろう。


つまり、次の段階として「問題の分析」のプロセスが必要なのである。


そのためには、作業療法独自の理論や知識が必要不可欠である。


例えば、人間作業モデルでは作業遂行の問題を、「意志」「習慣化」「遂行能力」「環境」といった要素から包括的に分析する。


「意志」は

自分の能力や貢献度などをどう捉えているか

どういったことに興味や価値を持っているか


「習慣化」は

日々どうやって過ごしているか、作業を営んでいるか

他者との関係の中でどういう役割を果たしているか

「遂行能力」

どのくらい身体能力か、転倒リスクがあるか

記憶や注意などの認知機能は保たれているか

他者との交流するためのコミュニケーション能力は

「環境」は

その人を取り巻く人との関係性といった人的環境は

その人が暮らす在宅や施設、周辺地域などの物理的な環境は


というような、いろんな側面から作業遂行の問題を分析し、介入の切り口を探していくことが必要になる。


結局は、この「問題の分析」のプロセスをクリアできなければ、その後の介入がうまくいかず、作業遂行の問題を解決できない。


クライエントの望みを叶え、健康を促すには、問題を多方面から包括的に分析する力が作業療法士には求められている。



◯まとめ

クライエント中心の実践の評価では、目標を決定する、「問題の特定」のプロセスが注目されがちである。

そのプロセスを助けるツールには、COPMやADOC、生活行為向上マネージメント MTDLPなどがある。

しかし、たとえ、それらのツールを用いて、クライエントの望みを聞き出せたとしても、問題解決に導くための、「問題の分析」のプロセスが、短絡的なものであっては意味がない。

その問題解決のための介入を成功に導く「問題の分析」のプロセスには、作業療法独自の理論や知識が必要不可欠である。


リハビリテーションで機能回復を目指していく過程で、筋力強化訓練、いわゆる筋トレを治療選択する場面は多い。


この耳慣れた、筋トレは単純そうで、実は難しい。


筋トレはその名の通り、トレーニングをするため、麻痺や手術侵襲などにより弱くなってしまった筋であったり、運動や姿勢制御の中でうまく使えていない筋に対して行われる。


例えば、MMTなどでは、股関節屈曲=腸骨筋、そして、座位での股関節屈曲に対して抵抗を加えるとなっている。


しかし、そのまま、この理論通りの方法を用いて行っても、うまく腸骨筋が働かない、その後の目的としていた動きへ汎化しないといったケースは少なくない。


さて、あなたは、患者さんに対して、筋トレをする際にどういった点に注意したり、工夫したりしているだろうか?


今回は、自分なりの筋トレに対する配慮・工夫している点のいくつかを紹介する。




◯先に良い側へ筋トレ課題を実施し、比較の機会を与える

筋トレ課題を提示する際に、ある運動を行ってもらったり、それに対して加えた抵抗に負けないように頑張ってもらったりするだろう。

しかし、いきなりうまくできない人も多い。

それでも力をつけるためだと頑張り、なんとか動かそうとしたり、抵抗に負けないように踏ん張ったりしてくれる。


ここで患者さんに勘違いさせてはいけないことは、

「動けばいい」
「負けずに踏ん張れればいい」

ということである。


それが目的になってしまうと、他の身体部位や筋で代償的に行ってもとりあえずOKになってしまうからだ。

そしたら、本来標的にしている筋は、結局働かずに、強化されないという結末を招いてしまう。


そうならないために、非麻痺側や非受傷側といった良い側があるなら、そちらに先に筋トレ課題を提示するのがいい。


その目的は、本来なら

「この運動はここを使うんだ、ここが疲れるんだ」

という筋トレ課題の理解を促せるからである。


課題の理解は、次に悪い側で筋トレを行う際、

どこに注意を向けたら良いのか?
どこがうまくいっていないのか?

などのヒントを患者さんに与える。


普段、どこに力が入っているかなんて、気にもせずできていた運動や、そもそも身体の感覚でなんとなく覚えてきたものは、セラピストからあーだこーだ言われて、言語化されても分かりづらい。


セラピストと違い、筋肉の走行もわからなければ、どこの筋がどう動かすと働くなんて患者さんは知りもしないのである。


そういった患者さんの筋トレを行う際、身体感覚での比較対象を与えるのも1つの手である。



◯代償運動をいきなり防ぎにいかずに、その人の代償戦略を知る

筋トレで標的筋をしっかり働かすために、多くのセラピストが工夫を凝らしているだろう。

しかし、いきなり代償を止めにいくよりは、1度その人の代償戦略を見るのもありである。


例えば、股関節外転の中殿筋の代償戦略も

股関節屈曲を交えた戦略であったり

反対側の下肢で突っ張る戦略であったり

体幹を側屈する戦略であったり

その人その人で、種類は多様性に富んでいる。


その代償戦略を確認する意義は、筋トレの負荷を上げる際の指標にもなる。


先に、代償戦略を確認することで、もしその人の今の筋力に対するキャパオーバーになれば、◯◯の代償が出るなと予測を立てられる。


つまり、その代償戦略の反応の有無を確認しながら、筋トレの介助量や抵抗の程度などを調整できる。


だから、いきなり代償を封じにいくのではなく、まずキャパオーバーになるとこういった戦略に出るということを確認し、そこを指標に筋トレの難易度を調整していくことで、セラピスト側もやりやすいのではと考える。



◯普段の動きでの筋の使い方、アライメントを考慮する

筋トレは目的ではない。

筋トレは手段であり、目的は何かの生活での動きを変えることにある。

となれば、筋トレした結果、その目的としていた動きへ汎化することが必要になる。


例えば、荷重時に中殿筋が働かずに、外側へ骨盤が流れる現象が見られたとする。

筋を触診すると、中殿筋の収縮の反応が遅かった。

つまり、このケースでは、相対的に見れば、股関節内外転の中間位で中殿筋は働かず、流れた股関節内転位の少し中殿筋が伸長された位置でようやく働く、そういった筋の使い方をしているのである。



このケースに対して、背臥位で中殿筋を股関節中間位から外転運動を促し、筋トレしようとする。

しかし、うまく中殿筋が働かない。


それは普段の使い方が少し伸張された内転位でしか使えていないから。

だから、中間位や外転位のような筋の弛んだ位置では使いにくいのである。


そういったケースには、まず普段の内転位から抵抗などをかけて、筋を促通していったり、少し筋膜で連結のある大腿筋膜張筋や長腓骨筋などから徒手で張力を提供すると働きやすくなる人もいる。

そこでの筋の使い方を手がかりに、徐々に求めたい中間位や、筋が弛んでくる外転位でも働くように段階付けていくのもいいだろう。

最終的には、どこの位置、どの長さでも、その筋が働くように促通するのがベストである。



◯1つの筋に対して、いろんな筋トレ方法の選択肢を用意しておく

最初に挙げたように、

腸骨筋の筋トレ=座位での股関節屈曲での抵抗運動

というワンパターンしかないと、うまく筋を働かせられなかったり、運動に汎化させれなかったりする。


獲得したい動きに近い肢位や筋の長さで、筋トレをした方が、動きには汎化しやすいかもしれない。

または、

姿勢制御の問題で座位での筋トレ肢位だと難しかったり

円背と腰痛があって背臥位で寝て筋トレするのが難しかったり

などなど、症例の状態に合わせた配慮、肢位や筋トレ課題の設定ができなくてはいけない。


そして、動きに対して、汎化させるには、わざわざ筋トレ課題として別の運動を提供しボトムアップ的な介入ではなく、その動きの中で、徒手や口頭指示で、その筋を働かせて筋トレをするトップダウンの介入ができれば手っ取り早い。


つまり、「◯◯筋の筋トレ=△△△」という1つの選択肢ではなく、いろんな引き出しがあると、その人その人に合わせた筋トレの方法を提示できる。

選択肢はたくさんあって、越したことはないし、そのまま動きの中で、標的筋を働かせられるスキルも持っていて損はない。



◯まとめ

今回は、耳慣れた筋トレ、しかし、実は奥が深く難しい筋トレに対して、

先に良い側へ筋トレ課題を実施し、比較の機会を与える

代償運動をいきなり防ぎにいかずに、その人の代償戦略を知る

普段の動きでの筋の使い方、アライメントを考慮する

1つの筋に対して、いろんな筋トレ方法の選択肢を用意しておく

といった4つの配慮・工夫点をご紹介した。

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