2008年12月24日

悪夢探偵2

悪夢探偵2

【映画的カリスマ指数】★★★★☆

 悪夢の底でこがれる母性

 

監督:塚本晋也
出演:松田龍平,三浦由衣,韓英恵,松嶋初音,安藤輪子,内田春菊,北見敏之,光石研,市川実和子
製作年・国:2008/日
鑑賞日:2008/12/21:シネセゾン渋谷
系統:サイコスリラー
配給:ムービーアイ

ストーリー:人の夢の中に入り込むことが出来る【悪夢探偵】こと影沼京一のもとに、悪夢に苦しめられ眠れないという女子高生の雪絵が訪れる。彼女の夢に登場する極端に怖がりな同級生・菊川の姿に、世の中の全てを怖がり自殺した自分の母親を思い出した京一は、菊川を通じて自分の母親を知りたいと願い、雪絵の夢の中に入ることを決意する・・・・。


評:『鉄男』、『双生児』、『HAZE』などの塚本晋也監督が、脚本も兼任した最新作。
昨年公開された『悪夢探偵』の第2弾となる作品である。



この場を借りて何度も公言していることだが。
邦画監督の中でも、私がぶっちぎりで一番好きなのがこの塚本晋也監督だ。

   もう十年近く前から、塚本監督は私の中でだんとつにスペシャルな存在。


どんなホラー映画よりも、どんなグロ映画よりも、個人的に何よりも一番怖いと感じるのが・・・・塚本監督が作り出す恐怖。

彼の恐怖描写は本当にただ事ではない。
ただ脅かすだけでなく、ただグロテスクなだけでなく、深層心理にえぐりこむような強烈なインパクトでもって、受け手の中に『怖さ』を植えつける。



           塚本作品にしてはいつにないメジャー級扱いで、
              主演には松田龍平を迎えた本シリーズ。

前作では、hitomiや安藤政信といった豪華なキャストを揃え、つんざくような音とグロ描写でもって、まるでパンクのような悪夢世界を映し出した。

しかし、本作ではそれが一転。
作品そのもののテンションを一気にトーンダウンさせ、映像や音ではなく、雰囲気そのものに恐怖を染み込ませている。静やかで、もの哀しく、そしてとびきり不気味な悪夢世界。


                まさか・・・本作を観ながらに、
   これほどまでに恐怖し、これほどまでに泣かされるとは思ってもみなかった。

塚本作品の中では、間違いなく傑作の一つとなるであろう本作。
怖さと哀しみと絶望と希望と切なさが、感情の洪水となって押し寄せる素晴らしい映画であった。



今回の物語は、人の夢の中に入り込むことが出来る【悪夢探偵】こと、影沼京一のパーソナルな部分に迫っている。いうなれば『悪夢探偵ビギンズ』とでもいった内容だ。

京一自身の悪夢と依頼者・雪絵の悪夢を交錯させながら・・・・夢とも現実とも、過去とも現在ともとれるあいまいな世界観を構築させていく展開が実に見事。
まさに“夢現”なイメージの洪水にモロに飲み込まれながら、身の震えるような恐怖と、胸が震えるような切なさに感性が支配される。

たたみかけるように映し出される悪夢の連続は、受け手に一時の安堵も与えない。
怖くて怖くて、不気味で恐ろしくて・・・「怖いっ!怖いっ!」と叫びだしたくてたまらなくなるのだ。



『悪夢』に翻弄される人間と、『恐怖』に支配される人間がこの物語を先導していく。
この2タイプの人物たちが悪夢を介して恐怖を知り、恐怖を介して悪夢を生み出しながら、互いの深層心理にリンクしてゆく様は、この上ない不安と混乱を受け手にもたらす。


          誰かと違うことが怖い。大切な人を失うことが怖い。
          純粋さを忘れることが怖い。愛されないことが怖い。

               そして・・・・人間そのものが怖い。

世の中の全ての恐怖を身にまとい、先に見えるのが絶望の淵だけであったとしたら。
誰がどうやってそこに救いをもたらすのだろう?


【悪夢探偵】は決してヒロイックには描かれない。
彼は誰かを助けるために存在しているのとは違うのである。他人にはない能力を持って生まれてきた苦悩とわずらわしさに嫌気さえ感じているのだ。

しかし、誰かの『悪夢』と対峙することで彼は人間の心の闇を知り、そして理解する。

同時に、彼自身が求めているもの、こがれてやまないものにおのずと気づかされながら、自分自身のルーツとトラウマに向き合っていくことになる。


この物語で、真の意味で救われる人間など一人もいない。
しかし、彼らを羽交い絞めにしていた『悪夢』と『恐怖』の呪縛は、互いに分かり合うことでもって彼ら自身の手で解かれ、逃げつづけることではなく“受け入れること”へと昇華したのではないか?

悲痛にさらされながら、それでも深く沈んだ心の闇から一歩前進すべく人々の姿に。
        私は、【悪夢探偵】と共にとめどなく涙を流したのだった。



昭和を思わせるノスタルジックな風景に、ゾクリとするような定型的Jホラーの恐怖を取り込みながら・・・・遠慮なく塚本節が炸裂する1作。

             恐怖と不安を「これでもか!」と煽りながら、
 しかし、それらさえも大きく覆う『人間の心』に驚くほど胸が締め付けられる作品だ。


         2008年の終わりに、また良い映画に出会えたことに感謝。


clockworkorenge at 13:40│Comments(4)TrackBack(0)clip!映画論 あ行 

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この記事へのコメント

1. Posted by くまんちゅう   2008年12月27日 16:46
評価高いっすね!
前作は評判の悪さからスルーしましたが
今回は面白いんですね・・・
1を見なくても大丈夫なんでしょうか?
気になります
2. Posted by み   2008年12月29日 13:05
「怖い、怖い」て叫んでる市川実和子が一番こえぇーよ!
さすが日野日出志顔という稀有なポジションを独占する女優さんです(笑)

そんな小ツッコミはさておき、シリーズ2作目をこっちの路線にしてきた意外性もあって存外によかったですヨ、本作!

>作品そのもののテンションを一気にトーンダウン

うん、もっと京一のキャラ立てた探偵色強い方に振るのかと思ってたところに母子ものですからねぇ…
でも、遠足を続けてる百鬼夜行学童sや菊川さんに塚本節をしかと感じました!

特に菊川さん…
後ろ向きダッシュとかシャーペンチキチキさせて追っかけて来んのとかドアに挟まれた髪の毛とか超こえぇーーの!
久々に映画館で「ヒッ!」て声出してもうたわん(笑)
3. Posted by とらねこ   2009年01月07日 20:49
今年一発目にこれを見て、この話で睦月さんと盛り上がりたーい!!って思ってた・・・矢先でした・・・

もちろん、私もこの作品大満足、超楽しかったですよ!1も本当大好きでした、自分の記事はあの頃これが本当に好きで、浮かれ過ぎて、周りに引かれてましたけど・・。
確かにこちらの方が傑作でしたね!

睦月さん帰って来る!絶対帰って来る!と信じてます、自分もいつまでブログをやるか分からないけれど。ジョニーの次の新作が出たら、絶対絶対睦月さんの記事が出る!出ちゃう!睦月さん、登場しちゃう!と信じて待ってます。

>CHANGEとCHALLENGEの年
こちらについては、本気で応援してますから。
睦月さんのブログは賑わっていて、それはとてもきっと楽しいことに違いないけれど、忙し過ぎて、きっと時間が取られ過ぎて、
優秀な睦月さんには、正直時間がもったいないことかもしれません。
でも、文を書くのが好きだったら、たまに書くブログは本当にいい気晴らしになるハズ。
睦月さんは、キャラだけで十分立っているし、映画記事だけじゃなくて、日記や自分の思ったこと、映画と違うことを書いても、みんな本当に楽しんで読んでいますヨ!

以前言っていた、「中途半端になるぐらいなら、やりたくない」と言ってた一言を思い出します。
でも、自分は正直中途半端だって全然いいと思うんですよ。忙しいんだからしょうがないじゃん、て思います。
PCだって、ノートでしたよね、確か、角度を斜めにしてれば、そんなに下ばかり見ないで済みますよ。

リアルでまたゆっくりお話したいです。飲みたいですこのビールの絵文字、どうですソソりますでしょう?(と、ちょっとズルい私)
また飲んでる途中にトイレから帰って来て、「オッス!メッス!」と言う睦月さんがアイニージュー!
4. Posted by 回春 性感 大好き   2009年05月29日 18:34
今度ゆっっくり時間があるときにみてみたいです。

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