2008年12月22日

ファニーゲーム U.S.A.

ファニーゲーム U.S.A

【映画的カリスマ指数】★★★★☆

 悪と悪意と不正と憎悪・・・1000%の負の感情

 

監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ナオミ・ワッツ,ティム・ロス,マイケル・ピット,ブラディ・コーベット,デヴォン・ギアハート
製作年・国:2007/米・仏・英
鑑賞日:2008/12/21:シネマライズ
系統:サスペンス
配給:東京テアトル
翻訳:稲田嵯裕里

ストーリー:バカンスを楽しむために湖畔の別荘を訪れたアンとジョージ夫妻のもとに、ポールとピーターと名乗る2人の青年がやってくる。最初は卵を譲り受けに来ただけの2人だったが、やがて彼らは横柄な態度を取るようになり、その様子に業を煮やしたジョージがポールの頬を平手打ちしてしまう。すると彼らは突然凶暴な顔を見せ、生死をかけたゲームをしようと夫妻に告げるのだが・・・・。


評:『ピアニスト』、『隠された記憶』などのミヒャエル・ハネケ監督の最新作。

ハネケ自身が1997年に発表し、各映画祭で衝撃の嵐を巻き起こした『ファニーゲーム』をセルフリメイクした作品である。
台詞からカメラショットに至るまでの全てにおいて前作を踏襲。変更があるのはキャストのみ。主人公の一人を演じているナオミ・ワッツは、本作の製作総指揮でもある。



        この映画を観て、不快・不愉快な気持ちに陥らない人とは
            ・・・私は決してお友達にはなれないだろう。

ゲーム感覚でニヤニヤしながら本作を楽しんで鑑賞できる人間と、私は絶対に出会いたくない。そういう人間はこの世に一人もいないことを願いたい。

2年前、当時仲良くしてくださっていたブロガーさんからの紹介で本作のオリジナル版を観た。
何の気なしに観始めたら・・・・あまりにも『悪と悪意と不正と憎悪』に満ち満ちた内容に耐え切れなくなり、何度も一時停止してはタバコを吸い、気を落ち着かせながらではないと観進めることが出来なかったものだ。

「二度と観たくない」と思ったあの作品が、キャストのみの変更で完全セルフリメイクされると知ったとき、なにやら絶望的な気持ちにもなったけれど・・・・。
しかし、2年前と現在の自分とでは同じ作品に対してどのように感じ方が変わり、どのように映画論を書くのか?ということに妙に興味が沸いたため、やはり観に行くことにした。



  ・・・・最低だな。この物語は最低だ。一つ★にも満たない史上最低の物語だ。

劇場に閉じ込められて、体をシートに拘束されて、111分もの間“負の感情”にズタボロにされる拷問のような映画だ。
100回のため息と、1000%の不快さにどこまでも追い詰められて、あまりの苛立ちに幾度も途中退場したくなる。

「ああ、何故観てしまったんだろう?」と激しく後悔しながら観終えて劇場を出ても、この作品が残す最低な余韻は簡単には消えない。
やがてまたフツフツと怒りと不快感と苛立ちが湧き上がり、やり場のない感情にロックオンされたまましばらく過ごすことになる・・・・。


      こういう気持ちになりたくない方は、決して本作を観ない方がいい。


だけど。
これほどまでに『映像と受け手の間にある一線』を超越し、“負の要素”でもって観る者の心理を挑発し、煽り、揺さぶり、そして徹底的に握りつぶしてしまう映画はきっと他にはない。

“殺人ゲーム”の物語であるにも関わらず、グロテスクな映像など無いに等しく。
固定カメラの舐めるような長回しと、受け手を巻き込む演出のみで、まるで白々しいほど淡々と『ファニーゲーム』の一部始終を映し出していく。

限りなくシンプルなスタイルでもって、ここまで理不尽で不快な空気を充満させてしまうハネケの手腕は、クリエーターとして間違いなく突出しすぎているものだと思わざる負えない。


本作で、「いやだいやだっ!ああ〜いやだっ!」と受け手を反吐が出るほど不快な気持ちにさせることが・・・・おそらくハネケの狙いなのだろう。

               彼の計算高いテクニックと思惑によって、
       我々は知らぬ間に『暴力と殺人に対する嫌悪』を刷り込まれている。

      そう・・・このゲームの本当のターゲットはきっと我々受け手なのだよ。

まるで『時計じかけのオレンジ』のアレックスを思い出す。
本作を観ることで、その後バイオレンスに対して『ファニーゲームの不快感』がおのずと蘇るようになり、激しい拒絶感を覚える人もいるかもしれない・・・・。



根拠なき殺人、無差別な殺傷、些細な動機による犯罪。
今の世の中、本作で描かれることへの違和感がほとんどなくなっていることが恐ろしい。

           オリジナル版が公開された11年前よりも明らかに、
        今の世の中は『ファニーゲーム』が日常の一部と化している。

復讐心や憎悪や金品目当てでなくとも、小さなきっかけさえあれば人は人を殺せる時代になってしまった。誰かの自己満足とストレス解消のために、誰かが『ファニーゲーム』のターゲットになる。

   そして・・・一見普通の、一見好印象の誰かが『殺人のゲーマー』となるのだ。



オリジナルよりも映像全体を明るめにして、オリジナルよりも明らかに好印象の2人を加害者に、明らかに華やかな役者陣を被害者にキャスティングしているあたりが、この作品に皮肉さと嫌らしさを増幅させている。

                 ハネケはどこまでドSなんだ・・・・?


このタイミングでリメイクが作られたのには、今こそこの物語がタイムリーであるからだと思うとゾクリとする。
“徹底的な暴力でもって暴力の恐ろしさを刷り込む”という、ドストレートなハネケの意図を汲み取れる人にはぜひ観て欲しい1作。


        最低極まりないが・・・ある意味最高のクオリティを持つ傑作だ。


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1. ファニーゲーム U.S.A./FUNNY GAMES US  [ 我想一個人映画美的女人blog ]   2008年12月23日 23:40
ミヒャエル・ハネケ、自ら1997年の『ファニーゲーム』をリメイク{/ee_1/} というのを知ってからずっと楽しみにしてた1本。 全米公開決定後に記事書いたほど。{/arrow_r/}☆ココ☆ ちょっとだけ早く試写にて観てきました〜。 原題でUSと付いたアメリカ版では、 ハネケ監督...
2. 「ファニーゲーム U.S.A.」  [ ジグソーのオレデミーアワード日記 ]   2009年01月06日 02:36
5 「ファニーゲーム U.S.A.」(2007) 《禁じられた遊び。》 1/4シネマライズ2にて観賞 監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ 製作総指揮・主演:ナオミ・ワッツ cast ティム・ロス 、 マイケル・ピット 、 ブラディ・コーベット 、 ...

この記事へのコメント

1. Posted by 朱色会   2008年12月22日 20:53
5 私もさっき観てきました。これから記事を掲載します。
2. Posted by mig   2008年12月23日 23:43
睦月ちゃん、
あれからご無沙汰でしたー。
これぜったい観ると思ったの、
ハネケの、観る側に暴力がいかに酷いことかを分からせる為に作ったっていう
思想がやっぱり凄いよね(笑)

役者的には、皆よかったけどやっぱりオリジナルの不気味さにはかなわなかったかな。

3. Posted by mig様へ   2008年12月24日 15:33
■mig様へ
コメントありがとうございます。

≫あれからご無沙汰でしたー。

こちらこそ、ご挨拶にもお邪魔せずに申し訳ありませんでした。

≫これぜったい観ると思ったの、

ホントは観たくなかったんですけどねえ(苦)。
一応ハネケの最新作だし・・・どうしても抑えられない興味が湧いちゃって(涙)。

≫ハネケの、観る側に暴力がいかに酷いことかを分からせる為に作ったっていう
思想がやっぱり凄いよね(笑)

暴力でもって、暴力の恐ろしさを見せる・・・
こういう発想ってなかなか出来ないもんですわ。一歩間違えば、新たな犯罪を助長しかねないですしね。

いやあ・・・ハネケ、すごいです。

≫役者的には、皆よかったけどやっぱりオリジナルの不気味さにはかなわなかったかな。

オリジナル版のピットくんの役の人、ホントにイヤでしたもん。
あの表情と不気味な笑顔、忘れられない。その点、ピットくんはまださわやかでしたね(苦笑)

全体的に映像が明るくなっていたような気がしました。
今回はハリウッド資本になっているから、良くも悪くもハリウッド風味が出ているなあという感じはしましたわ。
4. Posted by ジグソー   2009年01月06日 02:48
どうも!
あけましておめでとうございます!
今年も仲良くしてください♪

・・・新年一発目がこいつでした(苦笑)
いやぁ〜ドヘビーでした。

オリジナル版は見たのでまだダメージは少なかったのですが、といえどもきついですよね。

>最低極まりないが・・・ある意味最高のクオリティを持つ傑作だ。

本当にこの一言に尽きるとおもいます。
どうしようもないほど最低なんですが、それだけ最低と感じるってことは、それほどのクオリティがあるということですからね。

これを見てしまうとジグソウ先生はまだドSじゃないなと感じてしまします(笑)
5. Posted by ゆう   2009年10月23日 18:35
4 知り合いに「とにかくすごい映画」と言われて見ました。内容は一切教えてくれなかったので暇つぶし程度に見たんですが、見たあとは後悔しました。ホラー映画は今までたくさん見てきたつもりだったんですがこんなのは初めてでした。その後、この映画のことを思い出すだけで頭を抱え試験前なのにまともに勉強できませんでした。


見た直後はなんでこんな映画つくってん!と意味がわからなかったけど、これは犯罪や暴力はこの世から絶対に消えないってことを言いたかったんだろう。その意味では最高の映画だと思います。多分一生忘れない物語だな。二度と見たくないけど。

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