2008年12月26日

ラースと、その彼女

ラースと、その彼女

【映画的カリスマ指数】★★★★☆

 見守る優しさ、触れ合う勇気

 

監督:クレイグ・ギレスピー
出演:ライアン・ゴズリング,エミリー・モーティマー,ポール・シュナイダー,ケリ・ガーナー,パトリシア・クラークソン
製作年・国:2007/米
鑑賞日:2008/12/25:シネ・リーブル池袋
系統:ドラマ
配給:ショウゲート
翻訳:松浦美奈

ストーリー:ある小さな町で生まれ育ったラースは、心優しいピュアな青年。極力人との関わりを避け、地味な生活を送っている彼の様子を、兄夫婦はいつも気にかけ心配していた。そんなある日、ラースが恋人を連れて兄夫婦のもとを訪れる。その恋人はなんと『ビアンカ』と名づけられたリアルドールだった・・・・・。


評:CM作家として活躍しているクレイグ・ギレスピー監督の劇場初公開となる作品。
本作は、第80回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされた。



誰かから愛情や優しさを示されたときに。
ホントはとっても嬉しいのに、そっけない態度を取ってしまったり、冷たくあしらってしまうことって結構ある。

            誰かに優しくすることは自然に出来るのに、
         それがいざ自分自身に向けられると戸惑ってしまう・・・。

  優しさや愛情を自然に受け止めることって、実は想像以上に難しいことなのかも。



主人公のラースは、単なるミスターシャイどころの話ではない。
身内からの優しい言葉にも、誰かからの好意にも過剰な拒絶反応を示し、それがネックとなって対人関係を極力避けて生きている青年だ。

でも、彼が限りなく穏やかで、限りなく心の優しいピュアな青年であることは、この物語のにじみ出るような温かさでこちらに伝わってくる。そして彼のそんな人間性を、周囲の人々も心底理解し、受け止めていることが自然に感じ取れるのである。


決して多くを語らぬ物語の中から、静かに垣間見えるラースの生い立ちや過去を汲み取るに・・・そこには、ラースの『人と関わることへの罪悪感』が見え隠れしていることに気づく。

  そして、彼が愛情や優しさを受けることに親しめない理由が分かってくるにつれ、
      シクリシクリと胸がうずくような感覚に思わず涙腺が緩むのだった。


ラースにとって、リアルドール・ビアンカの存在は。
性的欲求を満たすものでも、寂しさを紛らすためのものでもない。
彼が人形を恋人にしたのは、イカレてしまったからでもないのである。

       誰よりも愛情を欲しながら、誰よりも愛情に不慣れな彼が・・・・
    一歩前へと踏み出すために自ら選んだ『心のリハビリ』、それがビアンカ。

ビアンカという“フィルター”を通してラースは人間の優しさを受け取り、
まるで自分とビアンカを重ね合わせながら思いのたけを吐露し、
彼女を介して人との関わりを保ち、人間関係の輪に自ら少しずつ歩み寄っていく。


 ヘンテコでユーモラスで、町中の人を巻き込んで、ホントにおかしな心のリハビリ。

          だけど、他人や自分自身とキチンと向き合うために、
          ラース自らが選んだ『奇跡なる成長の軌跡』に・・・。

優しくすることされること、愛すること愛されることの意味が、温かな人間の真心と共に伝わってくる物語なのであった。



思えば、私もあなたもキミも。
みんな形の違う『ビアンカ』に依存しているじゃないか。

人間同士の直接的な関わり合いが極端に少なくなり、対人を恐れる現代人。
HPやmixiやブログを通して、普段言えないことや自分の思いを吐き出し、間接的な手段でないとコミュニケーションが取れない人間ばかりが増加している。

子供や恋人ではなくペットに極上の愛情を注ぐ人もいれば、リアルではなくバーチャルなキャラクターにしか興味を示さない人もいる。

リアルな優しさにも愛情にも常に疑心がつきまとい、それを素直に受け取ることに恐れを感じながら・・・それでもやっぱり人はどこかで、本物の愛情を求め、どうにかこうにか他人と関わろうとするものなのだ。


    人肌に触れるのは痛いことじゃない。抱きしめられるのは至福のことだ。

      人間の生身の温もりが、電撃のようなシビレをもたらすのは・・・・
         相手の真心が強く強く自分の体に染み渡るからなんだよ。

そんなことを、ラースにも、ラース症候群の人々にも、そして自分にも言い聞かせたくなる1作であった。



この作品、“リアルファンタジー”というスタイルではあるが、実は取り上げているテーマは大変普遍的なものだと私は思う。
ハートフルな余韻を残す作品には違いないけれど、その一方で、実にさまざまなことを考えさせられる深いドラマだ。


                とても良い映画・・・オススメです。

clockworkorenge at 16:53│Comments(9)TrackBack(6)clip!映画論 ら行 

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1. ラースと、その彼女  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年12月26日 17:38
 『彼が恋に落ちたのは… 等身大のリアルドール!』  コチラの「ラースと、その彼女」は、雪が降り積もる小さな田舎町で”Mr.サンシャイン”とみんなに慕われる心優しい青年が、”リアルドール”いわゆる”ラブドール”に恋してしまう姿を描いた12/20公開のハートフル....
2. 人形の死 「ラースと、その彼女」  [ シネマ走り書き ]   2008年12月26日 18:45
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3. 『ラースと、その彼女』  [ Sweet*Days** ]   2008年12月27日 19:08
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4. ●ラースと、その彼女(LARS AND THE REAL GIRL)  [ コブタの視線   ]   2008年12月30日 23:33
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5. 172●ラースと、その彼女  [ レザボアCATs ]   2009年01月02日 22:09
人々の温かさが、しんみりと心に沁み込んで、いかにも泣かせようとするシーンは一切ないのに、泣けてしまって仕方がなかった。ハートフルな人間模様に打たれてしまった、そんな小さな良作。
6. 『ラースと、その彼女』  [ La.La.La ]   2009年01月03日 08:44
JUGEMテーマ:映画 制作年:2007年  制作国:アメリカ  上映メディア:劇場公開  上映時間:106分  原題:LARS AND THE REAL GIRL  配給:ショウゲート  監督:クレイグ・ギレスピー  主演:ライアン・ゴズリング      エミリー・モーティマー    ...

この記事へのコメント

1. Posted by miyu   2008年12月26日 17:40
そうですよね。
ラースがイカれた!ってお兄さんが言ってましたけど、
そういう意味ではみんなイカれちゃってるのかもしれませんね。
いっけんラースはとっても変わってるようだけど、
おっしゃるように実はとっても普遍的なのかもしれませんね〜。
2. Posted by 稚羽矢   2008年12月27日 14:10
とても良い映画でした
街のみんなは本当に優しくて、ラースが
みんなに愛されているんだなぁと感じました
ビアンカが来てからのラースは、少しずつですが社交的になっていますよね
街のみんなもビアンカと会うのを楽しんでましたね
テディベアに心肺蘇生するラース、あのシーン好きです
3. Posted by きらら   2008年12月29日 23:00
睦月さん、こんばんは〜☆
年内にご挨拶しておきたくてこちらにコメントします♪
今年は私の中では睦月さんに始まり睦月さんで終わった1年に感じました!本当にいろいろありがとう☆来年も変わらずよろしくお願いします♪

この映画ね、評判かなりよいけど私はイマイチはまれなかったの…だから感想も来年です。

そいでは〜良い年末年始を過ごしてね♪
4. Posted by ばちろう   2008年12月30日 21:01
今はまだ岩手かしら?
久々の故郷を満喫して、しっかりと充電できたかなぁ…
私は一度も故郷を離れることなく暮らしてますので、その良さというものはなかなか実感し難いものですけれど。だからこそ感じる事ができる温かさをあじわって帰ってきて欲しいです。

今年もあと1日ですねー今年は私にとって忘れる事のできない年になりました。

睦月さん無しでは今年の私を語ることはではません(笑)去年はただ拝見してるだけでした。
けれども、今年はじめてコメント入れた時に、きちんとお返事をしていただいて、感激で泣いてしまったんですわ。

睦月さんのおかげで、色々と思いがけない素敵な出会いがありました(映画や色々な人たちとの交流)ダークナイトも睦月さんの記事を読んでなかったら興味すら持たなかったと思うと、感慨深いものがあります。

睦月さんのブログにお邪魔するようになって(携帯を含め)1年以上経ちますが、去年の今頃は自分がこんなになってるなんて想像もつかなかったです。本当に出会いに感謝です。
来年もよろしくお願いしますね。

沢山の人に愛されてる睦月さんへ
良いお年をお迎えくださいね♪
5. Posted by コブタです   2008年12月30日 23:33
コレ 最高でした!
物語も登場人物も最高!
家族や街の人と一緒に、ラースを見守りたくなるそんな感じでした!

タイトルが上手すぎです!

『LARS AND THE REAL GIRL』 
の『REAL』の意図するところがおおおおと改めて思ってしまいました!

最後の最後にこんな素敵な映画に会えるなんて2008年やはり最高です(^^)

それはそうと、、今年も色々お世話になりました!
来年もよろしくお願いします!
6. Posted by とらねこ   2009年01月02日 22:12
睦月さん、あけましておめでとうございます。
去年は途中から仕事を変えたせいで、失速してしまい、なかなか遊びに来れなくなってしまって、地道に自分のブログをちまちまUPするだけになってました。
睦月さんは、実家に帰られたのですね!
雪景色が、とても眩しいです。とってもいい写真。

さて、この作品ですが、これは結構心に残った作品になりました。
去年のベストにもついつい入れてしまいましたよ。
この作品、睦月さんもなんだか気に入りそうカナ?なんて思いましたよ。

ではでは、今年もよろしくお願いします。
7. Posted by せつら   2009年01月03日 08:49
あけましておめでとうございます。

劇場鑑賞をしない私はいつも2テンポほど遅れて
遊びに来てしまいますがおつきあいしてくださって
ありがとうございます。
相変わらずB級最優先で今年もそのスタンスは変わらな
いですが今年もどうぞよろしくお願いしますね

この作品は私も劇場で見ました。年末は劇場に足を運ぶ
機会を作りましたので、主人公の行動言動が痛かったけど
彼はビアンカに自分自身を投影していたその姿を
周りに見せることで自分の心を知ってもらいたかった
感じですね、パトリシア・クラークソンさんの演技も
よかったですよね、彼女になら胸の内を告白しますよ
8. Posted by 夏つばき   2009年01月06日 00:56
睦月さん 明けましておめでとうございます♪
ほんとに、ご無沙汰してました<m(__)m>m(__)m

新年1番目はちょっとハートフルな映画からと(笑)・・観に行ってきました。
≫ヘンテコでユーモラスで町中の人を巻き込んでホントにおかしな心のリハビリ〜〜
ラース自らが選んだ奇跡なる成長の軌跡に・・・。
町の人たちが優しかったですね〜。笑えるけど、ちょっと切なく心染み入る作品でした。

今年も良い作品にたくさん出会えるのを楽しみにーーー
変態睦月大魔王のカリスマウイルスにパンデミックされたいッ!です。
もちろん!ジョニーウイルスにもねっ!!!!!

改めて、睦月さん。今年もよろしくお願いします〜♪
9. Posted by madmax   2009年01月06日 19:47
 この映画大好きです。かなりツボに入って笑いましたね。特にラーズの兄夫婦のリアクションが最高でした。これかなり難しい役回りだと思います。観客のいわゆる「常識」ってやつを代弁してる。その上で、困り果てながら、哀れみより、驚きを込めて見守る「God is almighty」。家族そのものです。最高のキャスティング。
 これって僕を含めて多くの男性に共通する「シャイ」なところをしっかり代表しちゃってると思う。結構な度胸が必要なんですよね、一歩踏み出すって。ラーズは極端ですけど。やっぱり、こと恋愛に関しては「男って馬鹿」、女性は百倍くらい賢い…って思っちゃう。
 ところでこの映画、音楽がとっても良かった。口笛で奏でる、優しい人間賛歌。この映画の製作者が言わんとしてることがとてもよく分かる。「誰にでもあるさ、それを抱え込んで生きてけばいいのさ」って。
 でもなんで日本でこんな映画が、これほどの完成度で作られて来ないんだ。アメリカ礼賛はしたくないけど、もちょっと大人になれないものだろうか。いかにも「オタク」で「いいじゃん」みたいな、なげやりでなく、しっかり受け止めてあげるストーリーで。(他で転載します)

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