修二は、二人が初めてお茶を飲んだホテルを待ち合わせ場所に選んだ。平日のホテルのラウンジは空いていた。冴子はあの時と同じようにミルクティーを飲みながら修二を待っていた。ラウンジの中を見渡すと、テーブルもソファーも心なしか古くなったような感じがした。修二が冴子を運命の人だと言ったあの時から、それだけの月日が流れていることを物語っていた。
この場所で、修二の言葉を受け入れた瞬間、運命という名の魔法にかけらてしまったと思った。自分の力で解くことなどできない魔法。永遠に魔法が解けることはない・・・そう思ったが、修二の言った「ごめん」の一言が、魔法を解く呪文のように思えてきた。冴子は、「ごめん」の意味に囚われていた。
修羅場に冴子一人を放り込んだことを謝ったのだろうか。
それとも、ふたりが出会ったことを謝ったのだろうか。
それとも、ふたりの過ごした時間を謝ったのだろうか。
それとも、ふたりに終わりがくることを謝ったのだろうか。
修二が、現われればわかること・・・。
冴子のティーカップはすっかり空になってしまっていた。
冴子との待ち合わせ場所に向かうために車に乗り込んだ修二を、事務所から大慌てで走り寄って来た同僚が呼び止めた。S港から出航する貨物船に乗せるはずの積荷が一個不足していた。そう言って、同僚は、修二に荷物を託した。渋滞の中、ようやくS港に着いた時には既に冴子との約束時間を過ぎていた。更に荷物のチェックに手間取り、一時間近く冴子を待たせていることに修二は焦った。
車に飛び乗った修二の、冴子の待つ場所へと逸る気持ちが思いっきりアクセルを踏み込ませた。ギアをバックにしなければいけないことを忘れるほど修二は焦っていた。前進のままアクセルを踏み込んでしまった修二を乗せた車はそのままS湾に沈んでいった・・・。
冴子は、己が未練が修二を殺してしまったと言って泣いた。修二と会うことを選んでしまった自分を責めた。
あの日。修羅場と化してしまったあの部屋で、粉々に砕け散ったガラスの欠片に我が身を重ね、冴子は絶望の淵にいた。修二のいない時間を思うと、冴子の身も心も押しつぶされそうだった。それでも生きてさえいればいつかまた会うことは出来ると思った。20年の時を経て二人が出会ったように。いつか再び会う日が来ることを信じたかった。そう思うことを心の拠りどころにしたかった。それなのに、どうして修二と会うことを選んでしまったのだろう・・・。
果たされなかった再会も、答えのない修二の言葉も、すべてが天の裁きなのだろうか。修二の言った、「ごめん」の真の意味を考え続けることが、冴子に与えられた償いなのだろうか。
修二の魂は冴子の心にその住処を求めたのかもしれない。
しかし、それこそが、冴子が犯した罪への未来永劫に続く重い枷に他ならないのだと、カオルは思った。
完

最後までおつき合い下さいましてありがとうございました。心より御礼申し上げます。
当ブログの更新は、これにて終了させて頂きます。

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この場所で、修二の言葉を受け入れた瞬間、運命という名の魔法にかけらてしまったと思った。自分の力で解くことなどできない魔法。永遠に魔法が解けることはない・・・そう思ったが、修二の言った「ごめん」の一言が、魔法を解く呪文のように思えてきた。冴子は、「ごめん」の意味に囚われていた。
修羅場に冴子一人を放り込んだことを謝ったのだろうか。
それとも、ふたりが出会ったことを謝ったのだろうか。
それとも、ふたりの過ごした時間を謝ったのだろうか。
それとも、ふたりに終わりがくることを謝ったのだろうか。
修二が、現われればわかること・・・。
冴子のティーカップはすっかり空になってしまっていた。
冴子との待ち合わせ場所に向かうために車に乗り込んだ修二を、事務所から大慌てで走り寄って来た同僚が呼び止めた。S港から出航する貨物船に乗せるはずの積荷が一個不足していた。そう言って、同僚は、修二に荷物を託した。渋滞の中、ようやくS港に着いた時には既に冴子との約束時間を過ぎていた。更に荷物のチェックに手間取り、一時間近く冴子を待たせていることに修二は焦った。
車に飛び乗った修二の、冴子の待つ場所へと逸る気持ちが思いっきりアクセルを踏み込ませた。ギアをバックにしなければいけないことを忘れるほど修二は焦っていた。前進のままアクセルを踏み込んでしまった修二を乗せた車はそのままS湾に沈んでいった・・・。
冴子は、己が未練が修二を殺してしまったと言って泣いた。修二と会うことを選んでしまった自分を責めた。
あの日。修羅場と化してしまったあの部屋で、粉々に砕け散ったガラスの欠片に我が身を重ね、冴子は絶望の淵にいた。修二のいない時間を思うと、冴子の身も心も押しつぶされそうだった。それでも生きてさえいればいつかまた会うことは出来ると思った。20年の時を経て二人が出会ったように。いつか再び会う日が来ることを信じたかった。そう思うことを心の拠りどころにしたかった。それなのに、どうして修二と会うことを選んでしまったのだろう・・・。
果たされなかった再会も、答えのない修二の言葉も、すべてが天の裁きなのだろうか。修二の言った、「ごめん」の真の意味を考え続けることが、冴子に与えられた償いなのだろうか。
修二の魂は冴子の心にその住処を求めたのかもしれない。
しかし、それこそが、冴子が犯した罪への未来永劫に続く重い枷に他ならないのだと、カオルは思った。
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