2020年08月15日
【番外】「実は死んでいた」オチの映画

意外な結末を謳った作品の中で、「実は登場人物が死んでいた」というオチのものをよく見かけます。
パターンとしては
・主人公が自分が既に死んでいることに気づかず、それを悟り成仏するまでを描く
・主人公は瀕死であり、その死ぬ間際に見た人生の走馬灯を描く
・主人公と近しい人物が実は死んでいる
といったものが挙げられると思います。
そんな映画を思いつく限り列挙してみようと思います。
言わずもがなですが、完全ネタバレなので閲覧注意です。
続きは以下から。
※作品追加ごとにトップに上げていきます。
2020年8月15日 3作品追加
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2015年12月26日
【2015】マイベスト&ワースト
さて、年末ですね。2015年終わりますね。
そしてとうとうブログを1年更新しなかった奴がのこのこベストを投下しにやって参りました。
まだ見てくださっている方も初見の方も本当にありがとうございます。
では、改めて。2015年マイベスト&ワースト映画を発表します。
今年も鑑賞後に「傑作だ!」と膝を叩くこと数十回。確実に毎年書いてますが映画大豊作でした。
上半期はアカデミー賞ノミネート関連作品に軒並みノックアウト、下半期にミニシアター系の良作にバンバン巡り会えた印象があります。
2015年は劇場で130本、自宅で123本、計253本を鑑賞しました。(初見のみ)
その中から今年に日本公開された作品に限って選出しました。
続きはこちらからどうぞ。
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2014年12月27日
【2014 マイベスト&ワースト】

2014年も終わりますね。
今年もブログ更新が殆どできず、それでも見てくださっている方々、本当にありがとうございます。
さて、毎年恒例のマイベスト&ワースト作品を挙げてみます。
今年は劇場で117本、レンタル等で85本、計202本を鑑賞しました。(初見のみ)
その中から2014年に劇場公開された作品に限り選出しました。
毎年書いている気がしますが、今回も豊作で選ぶのに苦労しました。
原作ファンにとって待望の映画化、モノクロの良質人間ドラマ、箱庭世界でのディストピア、宇宙と銀河系の血わき肉踊るアクションと親子の絆、日本の新しい才能、どれも夢中になりました。
それではランキングは以下からどうぞ。
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2014年12月16日
ゴーン・ガール
![]() | ゴーン・ガール [Blu-ray] >2014年 アメリカ 監督:デヴィッド・フィンチャー 出演:ベン・アフレック ロザムンド・パイク ニール・パトリック・ハリス タイラー・ペリー キャリー・クーン キム・ディケンズ by G-Tools |
愛しきエイミーはすべて去りゆく。
ネタバレ有りです。
『レボリューショナリー・ロード』のラストシーンは印象的だった。
周囲のゴシップを喋りたおす妻の傍らで、夫は補聴器のボリュームを絞る。それが結婚生活を保つコツだとでもいうように。
それを見て「結婚って何だろう?」と思いを馳せずにはいられなかった。
『ゴーン・ガール』にもその答えの一片が示されている。
エイミーは聡明で美人でユーモアも解す「完璧な」女性でありながら、彼女をモデルとして書かれた著書『アメージング・エイミー』の「アメージング」さには及ばなかった。
それは理想の相手と結婚したと思っていたのに、月日が経つにつれてその生活と夫に失望していく彼女にとって、またまざまざと現実を叩きつけられた辛い瞬間だったろう。
彼女はあらゆる場面で「みんなに好かれるエイミー」を演じつづけてきた。
その最たるものが、彼女が失踪を自作自演するために綴ってきた日記の中のエイミーだ。
そこでの彼女は、傷つきやすく、思いやりがあって、どんなことがあっても夫を愛していて、でも彼の暴力に怯え、彼が望まないから妊娠もできない、守ってやりたくなる存在。
でも事実は、夫のDVなど皆無で、子供も彼女の意思で作ることをせず、夫の浮気現場を見て逆上した「どこにでもいる存在」だった。
ただその「よくあること」に対しての復讐の仕方、その後の心の移り変わり、最後の驚くべき行動が、彼女の自己愛の強さとプライドの高さの表れであり、それはモンスター並みに強烈な存在となった。
夫を殺人犯に仕立てるために、自ら多量出血し、ありとあらゆるところに罠を張る。
逃亡先で髪を染め、わざと太り、自分の存在を隠す。
金を取られてしまい、高校時代の自分の絶対的な崇拝者であり恋人だったデビーと連絡をとって彼の別荘に匿われる。
夫が心を入れ替えると懇願する姿を見て「やり直そう」と心変わり。
邪魔なデビーを殺し、彼に誘拐されてレイプされたので正当防衛で彼を殺して逃げてきたのだと警察とマスコミを信じ込ませ、夫の元へ帰る。
そんな妻を受け入れられず、真実を公表しようとする夫に、以前不妊治療のために持っていた彼の精液を使ってまんまと妊娠。夫との結婚生活を維持。
と、こう書き出してみるだけでエイミーの行動はもの凄すぎる。
前半は殺人犯と疑われる夫ニックの受難と、エイミーの偽日記エピソードが交互に語られ、途中からこの「真の」エイミーの視点が挿入されていく。
わたしは原作を読んでから観たので、その時はエイミーに対して嫌悪感しかなかったのだけど、映画で観ると、ここまでやり遂げられる凄さに軽く尊敬の念を抱いてしまいそうになった。
デビーの家の監視カメラの前でレイプされた後を演じてみたり。
やっぱりレイプされた痕をのこすために瓶を使って(!)性器を傷つけたり。
哀れな姿でよろよろと夫の前に現れ、周囲の目を意識して腕の中にバタッと倒れてみたり。
いやもうここは笑うところでしょう。
まさかこの映画でこんなに笑えるとは思わなかったよ。
そして最後の行動、決定的な妊娠。
それがニックに全てを諦めさせた彼女の最大の罠。
繰り返しになるけれど、彼女はずっと演じ続けていた。
みんなが大好きなエイミーを。
どうやったら愛されるか熟知しているエイミーを。
あの本の中のような。
でも本当は彼女はいなかった。
エイミーは、少女はいなくなってしまった。
それもとっくの昔に。
けれど彼女は「アメージング・エイミー」でこれからもあり続ける。
原作では、ニックがそんな彼女に対して
「きみが気の毒だからさ。毎朝目を覚ますたびに、きみにならなきゃならないから」
と云うシーンがあって、この言葉がすべてを表している。
エイミー役のロザムンド・パイクがとにかくお見事。
ファーストシーンとラストシーンが同じながらも、彼女の表情の変化にぞっとする。
ニック役のベン・アフレックのハンサムだけどどこかまぬけな感じもハマっていた。
他のキャストも原作のイメージ通り。(特にマーゴ)
フィンチャー、今回も凄い作品を撮ってくれた。
2014年11月11日
トム・アット・ザ・ファーム
![]() | トム・アット・ザ・ファーム [Blu-ray] 2013年 カナダ/フランス 監督:グザヴィエ・ドラン 出演:グザヴィエ・ドラン ピエール=イヴ・カルディナル リズ・ロワ エヴリーヌ・ブロシュ by G-Tools |
捕らわれたのは僕。囚われにいったのも僕。
ネタバレ有りです。
紙ナプキンにトムが亡き恋人への思いを綴るファーストシーン。
青いインクが、まるで彼が流せない涙を吸収したかのように滲むところから始まる呪縛。
やがてそれが恋人の兄フランシスの暴力的な縛めによる歪な恍惚に変わるストックホルム症候群と共依存。
閉鎖的な田舎の保守的な世界。
そこで生きていくことを選びながらもうんざりしている兄フランシス。
そこから逃れた弟ギョーム。
弟を溺愛していた、閉じた世界で暮らしてきた母親。
そこでは同性愛など命取りであり、だからトムも彼らの母親に自分の素性を明かせない。
この同性愛が非常に大きなネックとなっている作品。
そこに大きく介在しているのはダンスシーン。
実際に踊るシーンはトムとフランシスのタンゴのワンシーンしかない。
けれどその後の会話で出てくるダンスのエピソードはすべて同性愛絡みだ。
トムとフランシスのタンゴ。
お互いがお互いにギョームを投影しているのは間違いない。
ここでのひとときの安寧と恍惚感がすばらしい。
「踊れるんだな」と云われ曖昧に微笑むトム。ギョームに習ったのだというのは明白。
そしてフランシスが弟のダンスの相手にひどい暴力を振るったエピソード。
弟がホモであることを仄めかされたからだ。
このダンス=同性愛要素として捉えると、フランシスとギョームの近親相姦の可能性も見えてくる。
でも物語はすべてをはっきりとはさせない。
トムの心情も行動も同じ。
最初は粗野なフランシスからどうにか逃れようとしていたトム。
けれど彼はどうしようもない引力に牽かれるようにして戻ってきてしまう。
引き摺られる牛、横臥する子牛の死体がそれぞれトムとギョームの姿のようで、農場を統べるフランシスの狭い世界にトムが囚われていくのが見てとれるようだ。画面のアスペクト比が変化するのは、そのまま彼の視野狭窄、そして迷いや惑いのように見える。
そして弾圧されるセクシュアリティとその秘匿、母親への責任の重圧さに押し潰されそうになっているフランシス視点で見ると凄くせつない。
トムとフランシスの間に濃密な親愛さがそこかしこに漂うもの見逃せない。
実際にキスひとつ交わさないにも関わらず。
最初は間隔を空けて置かれていたそれぞれのベッドが、数日が経過したあとにはぴったり横づけされていたり。
前述のタンゴシーンだったり。
首絞めのシーンもひどくエロティックだ。
そんなフランシスの元をようやく去るトム。
けれどエンドロールが終わるまで彼は迷う。
最後の最後まで。
握り締めたハンドルを彼は農場に向けてきるのか。それとも。
観客の予想に委ねたラストがにくい。
とにかく『マイ・マザー』 『胸騒ぎの恋人』 『わたしはロランス』と恐ろしい才覚をもって作品を作り続けているドランの傑作。
これは見逃す手はないよ!
2014年07月23日
複製された男
![]() | 複製された男 [Blu-ray] 2013年 カナダ/スペイン 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:ジェイク・ギレンホール メラニー・ロラン サラ・ガドン イザベラ・ロッセリーニ by G-Tools |
原題「ENEMY」の意味。
ネタバレ有りです。
大学講師のアダムは、恋人メアリーと暮らしている平凡な男。ある日同僚に薦められた映画を観て、そこに出ていた自分そっくりの役者を見つける。アダムはその瓜二つの男アンソニーに近づく。アンソニーには妊娠6ヶ月の妻ヘレンがいた。
さて、観た人が口をそろえて「ラストの意味が判らない」と評判の難解映画。わたしは解き明かしてやるぜ!と意気込んだものの、見事に玉砕。ラストシーンで「ひえっ?!」と声をあげ(そうになり)、ポカーンとしたまま。
つまり全く意味が判りませんでした。
なので公式サイトの解説を速攻見に行きましたよ。
そこでは監督が作品を説明してくれています。
「最も簡単に説明すると、浮気をしている既婚男性の話で、彼が浮気相手から妊娠している妻のもとへ戻るまでを潜在意識の視点から描いた作品なんだ」
ということらしいです。
なるほど、なるほどね!
これを読まなかったらさっぱりわたしには判らない作品でした……。くやしい。
けれど各シーン、各モチーフにどんな意味があるのか、整合性と辻褄を求めるとこれがまた難しいです。
わたしが参考になったのは、カゲヒナタのレビューさんのこちらの記事です。
それを踏まえて、わたし自身も、自分の頭の中の整理も兼ねて解釈してみたいと思います。
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【アンソニーは実在するのか】
アンソニーとは、アダムの欲望の権化。つまり彼は実在しない。
けれどアンソニーを知り、彼と言葉を交わす人物がいる。俳優事務所にいた男と、アパートの管理人らしき男。
これもわたしは実在しない人物(アダムの妄想)と考える。
事務所の男は親展の封筒を渡す。管理人は秘密部屋の会員。つまり二人とも「嫁がいるけどセックスしてえ。浮気してえ」というアダムの欲求を満たし、または誘う役どころ。アダムの潜在意識が生んだ、アンソニーと同じ「敵」。
【蜘蛛の意味】
蜘蛛とは、監督曰く「母性の象徴」。(前述のカゲヒナタさんのレビューに記載有り)
ところどころでこの蜘蛛のモチーフが出てくる。
母性=母親の支配。ラストシーンで妻へレンが蜘蛛の姿になったのは、母となる彼女が、浮気をする夫に対してその欲望を封じるというメタファー。
ファーストシーンの踏みつけられる蜘蛛・・・アダムの欲望が大きなものである象徴。
街を徘徊する巨大蜘蛛、または電線が蜘蛛の巣のように交差・・・母親と妻(やがて母となる)の支配下に置かれているという暗示。
アンソニーとメアリーの事故で車のガラスに入った亀裂が蜘蛛の巣の形・・・欲望が消された証。だからアダムは愛人を捨て、妻の元へと帰る。
【女性陣の反応】
妻ヘレンはいつも不安げ。夫がかつて浮気をしていたことを知っているから。そして多分アダムがアンソニーというもう一人の自分を作り出していることに気付いている。
愛人メアリーはセックス中にアダムの左手薬指に指輪の痕をみつけて激昂する。自分の知らないところでつけていたという事実に対しての怒り。
母親の存在・・・多分アダムはこの母親にずっと支配されてきた。今でもおとなしく彼女のお小言を聞き、ブルーベリーを云われるままに食べ、自分の家庭にも常に置くようにしている。
このブルーベリーはアンソニーも言及しているので、ここでアダムとアンソニーが同一人物であることが示唆されている。
【親展の封筒の中の鍵】
多分あの覗き部屋の鍵。
管理人が「鍵を全部替えてナンタラカンタラ、鍵はもらえるのか?」と云っていたことからも判る。
ただし、これが物理的に存在しているかは謎。
これもまた欲望を表すひとつのモチーフなのかもしれない。
その鍵を見た直後に妻が蜘蛛に変化したのも関連がありそう。
と、都合の悪いところはすべて「主人公の妄想」とわたしは置き換えましたが、もちろんただの想像です。
しかし、真の敵は性的欲望の深い自分自身だなんて、怖い映画です。
2014年06月29日
闇のあとの光
![]() | 闇のあとの光 [DVD] 2012年 メキシコ/フランス/ドイツ/オランダ 監督:カルロス・レイガダス 出演:アドルフォ・ヒメネス・カストロ ナタリア・アセベド ルートゥ・レイガダス エレアサル・レイガダス ウィレバルド・トーレス by G-Tools |
赤い視線とひとすじの光。
ネタバレ有りです。
ファーストシーン、幼子が馬とともに湿地で牛を追っている。
無邪気に動物と戯れる少女を、おもむろに嵐の前のような不穏な暗さが包み込む。
“闇”の到来。
それと呼応するかのように、少女の家に「赤い何か」が現れる。
この「赤いアレ」が凄い。
見た目が動物の頭と人間の男性器と尻尾を持った悪魔のような形態。
「彼」は忍び足で家族の眠る部屋を覗き込む。
ただそれだけで、これ以降もう一度だけ「彼」は出てくるのだけれど、その存在が何だったのかいっさい説明はない。
なので自分なりの解釈を後述。
その家には、フアンとナタリアという夫婦と、幼い兄妹(妹は冒頭に出てきた少女)が住んでいる。
若干倦怠期気味の夫婦は、小さなことで云い争いをしたり、乱交が行われている浴場に出向いたりもしている。
フアンと知り合いのセブンはアル中で、家族を半ば見捨てて暮らしている。彼はよからぬことに手を染めようとしていた。
そのひとつの家族の一部始終が、ときおり扇情的な映像を挟むものの、淡々と流れていく。
映像は独特で、多くの場面で、真ん中だけにフォーカスが当たり、枠がぼやけるエフェクトが成されている。
それはまるで「赤いアレ」の眼であり、「彼」の一人称カメラのようだと思った。
「彼」が見つめる一組の家族。犬への虐待も乱交も日々の仕事も。ありのままを見つめる姿なき者の目線。
その「赤いアレ」が家族に不幸をもたらしたとは考えにくい。
なぜか道具箱を持つ「彼」は逆に「構築」を司っているようにも見える。
実際には、家族の留守中を狙って空き巣を働こうとしたセブンが、フアンに見つかり、彼を銃殺してしまうという悲劇が起こる。
「赤いアレ」を悪魔と捉えることももちろんできる。
けれど、段階を追って幼かった兄妹の成長していく姿を挿入させているのが興味深い。
それをまた「赤いアレ」の視線は追っている。
この兄妹の成長こそが、闇のあとの「光」なのかもしれない。
それを見守り続ける赤い視線。
最初の方と、ラストシーンに物語とこれまた全く関わりのないラグビーシーンが映し出される。
そこでも空は曇天。
でも選手たちの迸るような若いパワーが力強くそこに息づいている。
そう、漲る生命力のような。
それもまたひとすじの光なんだろう。
感覚を研ぎ澄まされる、圧倒的な映像美。傑作。
2014年06月22日
サード・パーソン
![]() | サード・パーソン [Blu-ray] 2013年 イギリス/アメリカ/ドイツ/ベルギー 監督:ポール・ハギス 出演:リーアム・ニーソン ミラ・クニス エイドリアン・ブロディ オリヴィア・ワイルド ジェームズ・フランコ マリア・ベロ キム・ベイシンガー モラン・アティアス by G-Tools |
三人称の“彼”
ネタバレ有りです。
パリ。
作家のマイケル(リーアム・ニーソン)はホテルで新作を執筆中。そこに奔放で魅力的な愛人アンナ(オリヴィア・ワイルド)が訪ねてくる。
ローマ。
アメリカ人のスコット(エイドリアン・ブロディ)は、ひょんなことから知り合った現地の美女モニカの娘の救出を助けることとなる。
ニューヨーク。
元夫リック(ジェームズ・フランコ)と、子どもの親権問題で争うジュリア(ミラ・クニス)。彼女は生活のためにホテルの客室係として働き始める。
マイケルが三人称で小説を書いている、という時点で、ああこれはローマ編とニューヨーク編は彼の小説の中のできごとなんだなと予想はできてしまった(ドヤ顔)けれど、それでも構成の妙に唸る。
現実で起こった出来事は、マイケルが愛人からの電話にかまけたほんのわずかな時間で、目を離した幼い息子がプール(多分)で死んでしまう。そのことから立ち直れない彼と、その妻エレイン(キム・ベイシンガー)。
マイケルの日記で、自分にその死因があったことを知ってショックで去っていく愛人アンナ。彼女は実の父親と近親相姦関係にあった。
多分これが実在する人物たち。
彼らの抱えた傷、罪悪感、そして愛がその他のキャラクター(=マイケルの小説の創作人物)に投影されていく。
息子を自分の不注意(ビジネスの電話に出て子どもから目を離して死なせてしまった)スコットは、そのままマイケルと繋がる。だから彼は紆余曲折しながらも、もうひとりの子供(モニカの娘)を取り戻すことに身を挺し、有り金も全部はたく。
この娘が本当にいるのかどうか、その姿が最後まで見せない、マクガフィン手法は、とても小説的だと思う。
それからこれは公式サイトのレビューで判ったことだけれど、NYのリックとジュリアのエピソードは、アンナの両親を描いていたのではないかということ。これは目から鱗だった。
彼らの子供は息子だけれど、これはフィクションとして置き換えられた。息子なのに名前が「ジェシー」でおかしいなとは思ったけれど、この説を読んで納得。
子供を過剰に庇護するリックが、ことが過ぎて近親相姦に及んだという背景の描写。
「白。それは信頼の色」とマイケルが小説に書くと、登場人物たちはこぞって白を身に纏う。アンナの部屋に飾られた白いバラも。でもそれは同じく登場人物によって破壊され、あるいはスコットのように白いシャツを脱ぎ捨てて新しい柄ものシャツに変えられる。
それは欺瞞と韜晦であることの象徴のようでもある。
そして交わるはずのない彼らが出会い、言動がリンクしていく様子は圧巻。
ホテルのメモ、水没させた時計(子供の水の事故と帰ってこない時間の暗喩?)、トラウマを乗り越えてのプールへのダイヴ、やがて彼らはふっとその場面から姿を消す。物語の終わりを告げるように。
そうしてひとり、マイケルだけが部屋に残される。
いくら自分を“彼”と呼び、三人称に仕立て上げても。
現実は罪を背負い、激しい愛にもやぶれた作家がそこにいるだけ。
「見ていてね」
という最後の息子のつぶやきをずっと聞き続ける彼は、また作家として成功を収めるだろうけれど、罪悪感と孤独感からは決して逃れられない。
今までハズレなしのポール・ハギス。今回も素晴らしい作品を作ってくれた。
2014年06月18日
ウィズネイルと僕
![]() | ウィズネイルと僕 [Blu-ray] 1987年 イギリス 監督:ブルース・ロビンソン 出演:リチャード・E・グラント ポール・マッギャン リチャード・グリフィス ラルフ・ブラウン イケル・エフィック by G-Tools |
ひとつの時代の終わり。
ネタバレ有りです。
売れない役者同士のウィズネイルと「僕」。
しみったれた貧乏生活から逃れようと、ウィズネイルの叔父モンティの別荘へと繰り出す。
しかしここでも他人の好意に頼りっぱなしで、しかもその内の一人の怒りを買い、報復に怯える2人。
そこにモンティがやって来る。
彼はゲイで、同じく「僕」がゲイであるとウィズネイルに吹き込まれて、「僕」の寝室に忍び込む……。
雨のロンドン。
田舎の湿地。
ヤクと酒と漂う濃厚なホモセクシュアルの匂い。
60年代の空気感と、ちょっと悲惨でそれでいてユーモアに富んだ青春譚。
先の見えない生活にうんざりしながらも、「僕」はウィズネイルに振り回され、その刺激的な彼から離れない。
ウィズネイルもそんな「僕」と何だかんだで楽しそうにつるんでいる。
ただ、『トレインスポッティング』しかり、『マイ・プライベート・アイダホ』しかり、どちらかが別の生活や方向性を見出した時に不意にその関係性は終わりを告げる。
ちょうど60年代が終了しようとしていた時に、彼らがはなればなれになるのは象徴的だ。
ひとつの時代、表面はどん底ながらも楽しい時代の終焉。
オーディションで主役を勝ち取った「僕」はアパートを出て行く。
「役のために髪を切るなんて」とさんざ云われていたその髪をばっさり切って。
雨の中、別れるふたり。
その後ひとりきりでハムレットを、公園の狼を観客に演じるウィズネイルのシーンはまさに名場面。
雨がまるで喝采のように彼に降りしきる。
ゲイの登場人物とそれを揶揄するネタが満載ながら、ウィズネイルと「僕」の間に性的なそれは介在しない。
だからこそウィズネイルが怯えて「僕」のベッドにどうしても入りたがるシーンは爆笑ものだし、どこかでずっとつながっていた彼らが離れていくラストにぐっと来る。
昔から評価が高くてずっと観てみたかった作品。
ようやく再上映になって念願が叶ったことがとにかく嬉しい。
2014年06月17日
【2013 マイベスト&ワースト】(工事中)

すみません。
すみません。
今も覗いていただいている方、ただただすみません。
マイベスト&ワーストだけは挙げると豪語していたのに結局放ったらかし。
一応下書きはずっと前にしていたのですが、その後放置していまして。
なので、羅列のみですが、今更ですが2013年マイベスト&ワーストをアップします。
もう2014年上半期が終わるというのに。
いつかちゃんと一言コメントをつけて完全な記事にしたいとは思っていますが……。
2013年は、劇場で113本、レンタル・テレビ等で97本、計210本を鑑賞しました。
その中から2013年に劇場公開された作品から選出しました。
まだ不完全な記事ですが、よろしかったら以下からどうぞ。
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2014年02月09日
【追悼】フィリップ・シーモア・ホフマン

ベスト&ワースト記事がアップできないままですが。
フィリップ・シーモア・ホフマンの訃報という信じがたい現実にうちのめされています。
わたしが彼の死を知ったのは2月3日の午前4時。
ツイッターでまわってきた情報に心臓が跳びはねました。
もちろんショックを受けながらも、ごはんを食べ、人と談笑し、仕事をし、普通の日常を送りました。
ただ、その「日常」に組み込まれた「映画を観る」ときに、どうしても彼を思い出します。
だって、あれほど映画に愛された、不可欠な俳優は稀有な存在だったから。
代わりなんていない。
あなたじゃなくちゃダメなんだよ。
こんなに早く、逝ってはいけない人だったんだよ……。
ポルノ男優に想いを寄せる"I'm an idiot."なホモ、
イタ電に余念がない淋しい変態、
着飾ったオカマ、
死にゆく男の息子探しに奔走する心やさしき介護人、
高慢なトルーマン・カポーティ、
疑いをかけられた神父、
愛の歌をうたう新興宗教のマスター、etc.
枚挙に暇がないけれど、どの作品でもあなたに魅了されました。
大好きでした。
心から大好きでした。
ありがとうございました。
今は安らかに眠ることを祈るばかりです。
2013年12月21日
【番外】いやーどうもどうも


記事更新する度に書いているような気もしますが。
ご無沙汰しております。
相変わらず元気に映画を観続けているのですが、ブログに反映できず。
今年は記事がめちゃくちゃ少なくなってしまいましたが、来年はもうちょいがんばりたいです。
願望ですけどね。願望。有言実行できるかどうか。
毎年恒例にしていたマイベスト&ワーストはやります!
年末か来年の1日目を目安に。
とりあえずこれを観ておかないとベストが出せないわ!という『ゼロ・グラビティ』と『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を鑑賞できたので、ほぼ決まっている状態です。
ではではまたよろしければこそっと覗いてやってください。
2013年09月17日
【番外】前売り特典他非売品映画グッズ その49

引き続き、グッズをアップします。
本当は映画グッズだけでなく、映画の感想も綴りたいのですが……。
記録にとどめておきたい素晴らしい映画、たくさん観ているのですが、相変わらずブログに書けず。
このまま今年はこのペースで終わるかもしれません。
では、今一番楽しみにしている映画のグッズから。
ひとつめは『危険なプロット』の前売り特典。
特製ボールペンです。
「書く」ということが重要なテーマ(っぽい)らしい特典でとても良いです。
映画自体もフランソワ・オゾンの久々のサスペンスなので期待大です。
この美青年、良い感じですよね!
それでは他のグッズは以下からどうぞ。
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2013年09月16日
【番外】前売り特典他非売品映画グッズ その48

まあまた何というのか、2ヶ月ぶりくらいにふらっと現れました。
ご無沙汰しすぎております。
前にも書きましたが、まだ見てくださっている方、本当にありがとうございます。
それではストックが溜まったので、映画のグッズをアップします。
ひとつめは『鷹の爪GO〜美しきエリエール消臭プラス〜』の入場者特典。
これが欲しくて初日に観に行きましたよ。
何と「次回作」のDVD『鷹の爪シックス〜島根はやつらだ〜』です。
公式でも「わけの判らない特典」と云っていますが本当にその通りです。
13分の中に鷹の爪らしい内容がぎっしり詰まっています。
ネタバレになってしまいますが、途中でまさかの急展開、大御所、田○○彦のフルコーラスPVという凄まじさにお腹を抱えて笑いました。
こんな特典つけてくれてありがとうございます!た〜か〜の〜つ〜め〜!
ではその他のグッズ(殆どが前売り特典です)は以下からどうぞ。
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2013年07月15日
イノセント・ガーデン
![]() | イノセント・ガーデン [Blu-ray] 2013年 アメリカ 監督:パク・チャヌク 出演:ミア・ワシコウスカ マシュー・グード ニコール・キッドマン ダーモット・マローニー ジャッキー・ウィーヴァー by G-Tools |
狩りをする血族。
ネタバレ有りです。
ファーストシーン、非常に満ち足りた表情の主人公インディアの仁王立ちがそのままラストシーンに繋がっていく。
それまでの彼女は常に眉間に皺を寄せて不機嫌そうに過ごしていた。
気の合う父親を亡くし、美しいだけの母親との生活とバカな同級生に揶揄される学校に嫌気がさしていたところ、魅力的な、これまで姿を消していた叔父が現れる。すぐに彼の虜となる母親。そしてインディアもまた彼に触発されていく。
叔父によって目覚めさせられるインディア。
それは彼らストーカー家に色濃く流れる人殺しの血筋。
父親もそれには勘付いていたようで、だから彼は娘にそうさせてはなるまいと、生前獣を狩ることで韜晦させていた。
けれどその抗し切れない人殺しの魅力に、実際に同級生を手にかけて実感するインディア。その同級生の息絶える瞬間を思い浮かべながら浴室で自慰をする彼女のシーンは強烈。
そんな彼らとはまったく異なる“部外者”の母親との対比が面白い。
外にアイスクリームを食べにいこうと誘う母親と、それを突っぱねて狩りを選ぶインディアのシーンが象徴的。
結局母親は最後まで何も理解できなかった。
なぜ叔父が自分を殺そうとしたのか。
なぜ叔父がインディアに固執したのか。
彼女が美しいだけに、その滑稽さと哀れさは際立ち、今回は表面の美に徹した“おどけ役”のニコール・キッドマンにうってつけ。
インディアは、叔父を殺し、何も判らないままの母親を残して家を去る。
白い花に鮮血が飛び散って鮮やかな色に塗れるように、少女も無垢で空虚な自分から、欲望を果たして睥睨して微笑む邪悪な解放者へと変貌を遂げる。ファーストシーンとラストシーンで見せるその恍惚とした表情に恐ろしさよりも美しさを感じた。
インディア役のミア・ワシコウスカがとにかく見事だった。
何となく、この作品は『反撥』を彷彿とさせられるけれど、主人公はドヌーヴのように抑制された性衝動に起因して殺戮者になるのでなく、殺人そのものがリビドーとなる系譜を受け継いでいるのが面白かった。「同類」である叔父とのピアノの連弾がもの凄く官能的なのは、その性癖への目覚めのシーンでもあるから。
パク・チャヌクの素晴らしい作品。
今年のマイベストに食い込むことは間違いない。
2013年07月06日
【番外】前売り特典他非売品映画グッズ その47

ご無沙汰しております。
3月から始めたツイッターにハマってしまい、ブログをご覧の通り放置しっ放しですが、まだ見て頂いている方、本当にありがとうございます。
観た映画、感銘を受けた作品、たくさんあるのですが、手付かずのままです。
文字にして残しておかないと、するすると頭から抜けてしまうものも多いのに。
と反省しながらも久しぶりの更新は映画グッズの紹介だったりします。
ひとつめは『汚れなき祈り』の前売り特典。
十字架チャーム&ポストカードです。
十字架は金と銀があって、わたしは銀をチョイス。
映画の内容に合った特典でとても気に入っています。
それでは他のグッズは以下からどうぞ。
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2013年06月02日
プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命
![]() | プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 [Blu-ray] 2012年 アメリカ 監督:デレク・シアンフランス 出演:ライアン・ゴズリング ブラッドリー・クーパー エヴァ・メンデス レイ・リオッタ ローズ・バーン デイン・デハーン by G-Tools |
松林を抜ける時。
ネタバレ有りです。
物語は3部構成。
第1部では、その日暮らしの生活を送っていたルークが、かつての恋人ロミーナと再会し、彼女が自分の子を生んだと知ってその街に留まり、生活費を稼ぐため銀行強盗を働くさまが描かれる。
第2部は、銀行を襲ったルークを追って、彼を射殺する警官エイヴリーが主役。
第3部は、ルークとエイヴリーのそれぞれの息子が15年後に出会い、過去の愛憎を募らせていく。
第1部が抜群に良い。
息子の洗礼時に教会の一番後ろで部外者としてそっと涙を流すシーンで、不器用な父性の萌芽を感じさせられた。
初めてのアイスクリームを与える時、ロミーナと三人で写真を撮る時、破顔するルークの哀しいまでにやさしい瞳がもう既に破滅を語っている。ロミーナのために、息子のために、金を稼がねばならないという十分な決意の表情にほかならないから。
その結果やはりルークは銀行強盗でミスをし、警官に追い詰められ、彼に撃たれて死亡する。
ルークを自分が先に撃ったという事実を隠し、ヒーローとして祭上げられた警官エイヴリー。
彼はその後腐敗した同僚たちの悪事を知り、告発することを決意する。
ここもエイヴリーの苦悩(自分は偽りの中で英雄視されているのに、正義の行いを権力者の父親の助けで成そうとしている)がじっくり描かれて見所はあるものの、ルークの存在感が大きすぎて、そのぽっかりとした穴は埋めがたかった。
でもエイヴリーがルークの子供を抱き上げるシーンは印象的だった。
ルークが初めて会う自分の子供を抱く時と同じく、それぞれの重さをそれぞれ違う立場の男たちが受け止める。
その運命の子供、ジェイソンは、エイヴリーの子供AJと高校で出会いを果たす。
エイヴリーと自分の父親のことを知ったジェイソンは、彼ら親子に銃を向ける。
謝罪するエイヴリー。
ジェイソンはそんな彼を撃つことなく、財布を奪ってその金でライダーだった父親と同じようにバイクを買い、そしてどこかへ走り去っていく。
松林を抜けて。
ルークが銀行強盗に誘われたのも、エイヴリーとジェイソンが入っていったのも松林の中だった。
その松林の向こう側へ抜けていったジェイソンの姿は、すなわち親の因果を断ち切ったと見るべきだろう。
すべての元凶が詰まった場所からの脱却。
ラストも文句のつけようがない。
ルーク役のライアン・ゴズリングの圧倒的な存在感、エイヴリー役のブラッドリー・クーパーのいかにもな青臭さと相反する保身、やがて野心に変わっていく狡さ、レイ・リオッタの邪悪さ等役者さんも見事。
そしてジェイソン役のデイン・デハーンが素晴らしい。『バスケットボール・ダイアリーズ』の頃のレオナルド・ディカプリオと、尖りながらも繊細で美しいリバー・フェニックスを彷彿とさせる容姿と雰囲気がもうスターのきらめきを放っていた。要チェックの役者さん。
そして『ブルーバレンタイン』に負けず劣らずの傑作をまた撮ってくれたデレク・シアンフランス監督、もう絶対追いかけていこうと思う。
2013年05月02日
オブリビオン
![]() | オブリビオン [DVD] 2013年 アメリカ 監督:ジョセフ・コシンスキー 出演:トム・クルーズ オリガ・キュリレンコ モーガン・フリーマン アンドレア・ライズブロー メリッサ・レオ by G-Tools |
愛の記憶が残るということ。
ネタバレ有りです。
スカヴというエイリアンに侵入され、人類は地球を捨て、土星の衛星タイタンへと移住した。
ジャックとそのパートナー・ヴィクトリアは二人だけ地球に派遣され、偵察を続けていた。
あと数日でその任務も終了しようという頃、ジャックは飛行物体が墜落するのを目撃し、そこでカプセルの中で横たわる美女を発見する。
彼女はジャックが夢の中でたびたび見かける女性と酷似していた。
その後、彼はこの世の真実を知ることとなる。
これねえ。
観始め、どうも『月に囚われた男』に似てるなあと思っていたんだけど。
そのまんまでした。
いやそのまんまとまで言い切るのは乱暴だったかな。
でも途中でジャックのクローンが出てきた時は
「おんなじじゃん!」
と口をついて出そうになった。
実は人類はまだ地球上に隠れて暮らしており、タイタンにいるのはエイリアンのみ、ジャックとヴィクトリアのクローンを何体も作り上げたスカヴは彼らの記憶を抹消して地球を偵察させていた。
ジャックはカプセルの中の美女ジュリアと夫婦であり、彼が彼女にプロポーズしたエンパイア・ステートビルでのデートの様子をずっと夢に見ていたのだった。
と、まあ新鮮味のないプロットに、トム・クルーズのシャワーシーン(サービス)と、プールの中でのラブシーン(サービス)と、派手なドンパチ(サービス)と、初めは敵対していたのに後に頼もしい相棒になるバディ要素要員のイケメン軍曹配置(サービス)と、出てくるだけで重厚な映画と錯覚させるモーガン・フリーマンの無駄遣い(サービスか?)を加えたいかにもなハリウッド大作。
結局ジャックはモーガン・フリーマン扮する人類のリーダーと共にタイタンに突っ込み、自爆する。
数年後、ジュリアが一人娘とかつてジャックが好んだ池辺の小さな小屋で暮らしている様子が描かれる。
そこに軍曹に連れられたジャックが。
それはまた別のクローンであったけれど、彼らはすべてを分かち合ったように微笑みあう。
これがラストシーンなわけだけれど。
ここでちょっと興味深かったのが、クローンがすべて愛の記憶を持ち続けているということ。
『月に囚われた男』のサム・ベルも愛する妻の記憶を希望の糧にしていた。
それほどまでに愛というのは普遍的で、人も、クローンも衝き動かす原動力になっている。
そんなテーマは良いのだけど、いかんせん二番煎じ的な感が拭えないのが残念。
2013年04月12日
モンスターズクラブ
![]() | モンスターズクラブ [DVD] 2011年 日本 監督:豊田利晃 出演:瑛太 窪塚洋介 KenKen 草刈麻有 ピュ〜ぴる by G-Tools |
終わらない世界の理。
ネタバレ有りです。
ヴェルディのオテロがレコードで流れる中、淡々と主人公良一が爆弾を組み立てている。
その後、彼の産業社会への批判や、ピラミッド型構造の世界から自由になるためのモノローグが延々と続く。
良一はテレビ局等に爆弾を送り続けているようだ。
その生活ぶりはほぼ自給自足で、外で薪を割り、猟銃で獲物を仕留め、収穫した白菜やらハチミツやらで腹を満たし、文明社会から遠く離れた所で暮らしている。
けれど彼の前に怪物が姿を現す。
その次には死んだ兄弟たちが。
彼らは良一と日々議論を交わす。
その中で唯一“まとも”できちんと“生きて”いるのは良一の妹だけであり、良一が兄ユキの亡霊に死後の世界に来るよう唆されても、現世に残っているのは彼女の存在が大きいように思われる。
結局良一は生きていたいのだ。
プロパガンダを批判しながらも。テクノロジーを忌避しながらも。
そこから身を遠くに置いても。
現世というひとくくりにした世界に生きていたい。
だからそのジレンマが色々な妄想を呼び起こすのだろう。
なのでラスト、あの怪物そっくりに顔を塗りたくり、爆弾を抱えて街を歩く彼はバケモノに身をやつす必然性があった。
彼の咆哮は、ミュートによってかき消される。
文豪の美しい言葉が彼を包みながらも、反社会性の怪物の叫びは誰にも届かないのだ。
さて、特殊メイクアップにピュ〜ぴるの名があったけれど、あの怪物のメイクのことだとしたら、あれは『ダークナイト』のジョーカーそのもののように思えるのだけど。
2013年04月10日
汚れなき祈り
![]() | Beyond the Hills 2012年 ルーマニア・フランス・ベルギー合作 監督:クリスティアン・ムンジウ 出演:コスミナ・ストラタン クリスティナ・フルトゥル バレリウ・アンドリウツァ ダナ・タラパガ by G-Tools |
祈りの届かない叫び声。
ネタバレ有りです。
冒頭、駅まで迎えに来たヴォイキツァを抱きしめて離さないアリーナの姿が描かれる。
ここだけで、アリーナにとって彼女が唯一無二の存在であることが窺える。
事実、孤児院で育ち、里親に引き取られるも、慈善という名の偽善者である彼らから真の愛情を受けられるわけでなく、意思疎通が難しそうな兄を持つアリーナには、ヴォイキツァだけが心の拠りどころのようだ。
そして彼女たちは一時的には同性愛関係を結んでいたことが、体を拭く場面で、アリーナが挑発的に胸をはだけて仰向けになるシーンで示唆される。
でも現在ヴォイキツァは神に仕える身で、司祭を「お父様」と呼び、彼女の愛は神に注がれ、アリーナの苛々と執着は深まっていく。
こうしてアリーナが心を病み、統合失調症を発症していることは一目瞭然なのに、教会はその状態を悪魔憑きの状態と判断する。
これは『エミリー・ローズ』を別の視点で観た物語でもあるのかもしれない。
悪魔祓いの儀式として、体中を縛られ、食を絶たれ、寒い場所に放置されるアリーナ。
彼女を何度か助けようと身をやつすヴィオキツァの願いも祈りも届かない。
こうしてアリーナは、教会で死を迎える。
それは司祭たちの重大な過失であり、はっきり云ってしまえば殺人であったけれど、幾度も出て行くことを初めはやんわりと、次第にはっきり勧告されてもなおそこに戻り、とどまったアリーナの自業自得的なところもある。
それがすべてヴィオキツァと一緒にいたいがため、それだけが理由だったのがせつない。
事情聴取のため、警察に向かう司祭と幾人かの修道女。
ヴィオキツァもその中の一人だけれど、彼女だけいつもの修道女たる黒衣を脱ぎ、アリーナの着ていたベージュのセーターを身につけていた。
アリーナの叫びを、彼女を救うために何度も捧げた祈りを、きいてくれなかった神と訣別を果たしたかのように。
車の窓にはねかかる泥水。
神聖なる行為のため人が死んだ事実を断罪するように。
このラストシーンが秀逸。
前作『4ヶ月、3週と2日』もこわいほどの傑作だったけれど、今回も女性同士の微妙で複雑な関係を描いたクリスティアン・ムンジウ監督、これからも要チェック。