2009年10月09日

あの日、欲望の大地で

B002ZREP9Iあの日、欲望の大地で [DVD]
監督・脚本:ギジェルモ・アリアガ
出演:シャーリーズ・セロン
   キム・ベイシンガー
   ジェニファー・ローレンス
   ブレット・カレン
   テッサ・イア
by G-Tools


あの日、大地が燃えた。
荒野の離れの小さな家と、そこで愛し合う男女を伴って。

ネタバレ有りです。

大いなる感銘を受けた『バベル』 『アモーレス・ペロス』 『21g』 『メルキアス・エストラーダの3度の埋葬』の脚本家であるギジェルモ・アリアガの初監督作品。

相変わらず時系列を複雑に(と云うほどでもないけれど)弄くっていて、ひとつひとつのピースがだんだんひとつの形になっていく過程が見事。

始まりは一組の不倫カップル。
ニックとジーナは、ニューメキシコの荒野のトレーラーハウスで逢瀬を重ねていた。
そんな母親の情事に気づく長女のマリアーナ。
彼女はただ少し懲らしめてやろうと、部屋にしけこんでいる二人のいる家に火を放つ。
慌てて飛び出してくる筈だったのに、火はプロパンガスに引火し、爆発。
こうしてマリアーナは故意でないものの、母親とその愛人を殺してしまう。

双方の葬式が済んだ後、マリアーナはニックの息子のサンディアゴと知り合い、距離を縮めていく。
やがてマリアーナは妊娠し、子供マリアを産むも、彼女は夫と子供を残してその地を去る。

月日は流れ、現在シルヴィアと名を変えたマリアーナは高級レストランの敏腕マネージャーとして働いていた。
行きずりの男や、同僚、レストランの客に至るまで、どんな男ともすぐに寝るという刹那的な人生。
そんな彼女の前に、サンティアゴの親友のカルロスが現れる。
サンティアゴが農薬散布用の飛行機に乗っていて事故に遭ったことを伝えるためだ。
けれどシルヴィアは、カルロスが連れてきた娘のマリアを目にして、逃げ出してしまう…。

こうして全貌が見えるまでには時間がかかる。
なぜシルヴィアはこんなにすぐ男と寝てしまうのか、なぜ自傷行為を続けるのか、その傷ついた瞳の理由に先ず囚われる。
10代の多感な時期に知った母親の不貞。
しかも自分が殺人を犯してしまったことの罪の意識。
自らを身体的に罰し、母親と同じ“あばずれ”になることで、彼女は決して心の中で消え去ることのない罪を贖っているかのようだ。

他の人物の描写も細やか。

その仲がどうやって始まったのかは明示されないにしろ、ジーナが不倫に走った理由が何となく判るシーンがある。
ニックを前に、二年前乳がんの手術で片方の乳房を失ったことを告げて声を出して泣いたジーナの心痛さが、そのまま彼女を“女性として”愛してくれたニックへの愛情と比例する。
ジーナが夫とセックスする場面もあり、そこでは夫は最後までできなかった。
不倫自体は非常に得手勝手ではあるけれど、きちんと女性心理を追求しており、、それがこのたった二つのシーンで表れていて素晴らしい。

10代のマリアーナも、その長女らしい振る舞い(幼い兄妹たちの車の席決めや、食事の用意等)をしながら、母親不在時のママ的な役割を担っている。だからその信頼が破られた時のあの放火という行為は、なるべくしてなったのだと判る。
このマリアーナ役のジェニファー・ローレンスがまた素晴らしく、特にトレーラーハウスが爆発した時の慄きの演技は印象に残った。

そんなマリアーナ=シルヴィアをまっすぐ見つめて物怖じしないマリアの存在も大きい。
父親と、ずっと不在だった母親の架け橋のような存在。
娘がいなかったらシルヴィアはサンティアゴの元に戻っただろうか。
そう思わせるほどに、マリアはひどく大人びて、母親をも包容する。

そう、彼女はひとつの希望。

マリアに促されてサンティアゴの待つ病室に向かうシルヴィア。
その表情が、今まで見たことのないかすかな安堵と希望を孕んでやわらかく緩む。
そこがラストシーンだ。
この先、父と母と娘の未来はどうなるのか判らない。
けれどシルヴィアの表情からは、その先が明るいのではないかと推測される。

車のドアを閉める、開ける、出会う、裸で遠くを見つめる、笑顔がこぼれる、そんな過去と現在がシャッフルされて交互に映し出されるラストシークエンスも胸が詰まった。


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