2010年06月10日

マイ・ブラザー

B00475CIY0マイ・ブラザー [DVD]
2009年 アメリカ
監督:ジム・シェリダン
出演:トビー・マグワイア
   ジェイク・ギレンホール
   ナタリー・ポートマン
   サム・シェパード

by G-Tools


戦争で深い罪を負い、家庭の中に自分の居場所を失った兄。
その家族に溶け込んだ、かつてのトラブルメーカーの弟。
人が人らしく、あるために―

ネタバレ有りです。

デンマークのスサンネ・ビア監督の大傑作『ある愛の風景』のリメイク作品。
登場人物の年齢が下げられた(多分)以外は、ほぼオリジナルに忠実なつくり。
だから、話の展開を既に知っているという点で初見の時のような衝撃は薄れた。
自分でも天邪鬼だと判っているんだけれど、オリジナルに沿った展開だと物足りなく、そこから逸れた独自のものになると憤慨する、このオリジナル至高主義はどうしようもない。
これは『ある愛の風景』を知らずに見たら間違いなく絶賛していただろうと思う。

でもひとつだけ、子供の掘り下げが深かったのは感心した。
常に自分よりかわいらしい妹へのコンプレックスを抱えていた姉のイザベル。
でもそんな自分を認めてくれたのが叔父のトミー。彼に懐き、戦争から還ってきてまるで別人のようになってしまった父親サムへの恐怖心が芽生えていた頃。
その起爆剤が妹の誕生パーティーの時。
慕っていたトミーは見知らぬブロンド女を同伴。
妹のバースデープレゼントは自分の時より豪華なものが目につく。
だから彼女は
「ママはトミーおじさんと寝てるのよ!」
と嘘をついてしまう。

ここに至るまでのまだ幼い少女の心理がとてもよく描かれていた。
父親に対する不審と不安。その表情が硬直し、不意に歪む。
本当にこの演技が見事で、この子役の演技はデンマーク版のそれと負けず劣らず。

そんな家族を必死で守ろうとするサムの妻グレース。
ナタリー・ポートマンが劇中でも言われていた通りの凄い美貌で熱演。
ただ、まだあどけなさが残る存在は何もかも包容しようとする女性にはもう少し届かなかったような気がする。
いちいち比べてしまうのだけど、デンマーク版のコニー・ニールセンにはその覚悟と貫禄があった。

同じく若いということがマイナスになってしまったのはサム役のトビー・マグワイア。
どうしてもまだティーンの役のイメージが強くて、軍の大尉という位置づけからして違和感。
ただ、それを除けば、役作りのためかげっそり痩せて、戦争に行く前と、帰還後ではまるで顔が違い、極限状態まで追い詰められ、それが爆発したキッチンでの一連の場面はもの凄い演技だった。

だから彼がそうなる原因となった、戦争でのできごとは描写が足りなかったと思う。
撃墜されて自分ともう一人生き残った二等兵を、自分の手で殺さなくてはならなかった事態。オリジナルでは、サムは絶望する相棒をその死の直前までなだめ、慰め、元気づけていた。
でもリメイク版ではその二人のやり取りはほぼ省略される。
だからその絆をつないでいたのに手を下さなくてはならなかったサムの究極の選択のシーンが若干弱くなっている。

役にはまっていたのはトミー役のジェイク・ギレンホール。
やっぱり彼はこういった素朴なあんちゃんが似合っている。近作の『プリンス・オブ・ペルシャ』のなんちゃってコスプレよりよっぽど良い。
家族の厄介者で、父親にも存在を否定されているような彼が、兄の訃報を聞いて、グレース家族の“父親代理”となっていくのがとても自然だ。

かつて自分がそうされたように、“厄介者”となった暴走する兄を、弟は静かに抱きしめる。
その夜、兄は弟に電話をかける。ただ一言、「お前は俺の弟だ」と。
それは立場が逆転してはじめて自分が“守られる”側になった兄の矜持を捨てた言葉なのかもしれない。
そして彼も含めて、家族を形成していくという決意の表れ。

だから、グレースに抱きしめられて、ようやく戦争の真実を語りだしたサムの姿はひどく感動的だ。

オリジナルにはどうしてもかなわないけれど、ジム・シェリダンのたしかな演出でまとまった作品に仕上がっている。
こんなある愛の風景。

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この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2010年06月11日 09:54
リュカさん、こんにちは!
>でもひとつだけ、子供の掘り下げが深かったのは感心した。
常に自分よりかわいらしい妹へのコンプレックスを抱えていた姉のイザベル。

これ!私も思ったわ。
忘れっぽい性分なので、もしかしてデンマーク版でも、そういう部分あったっけ・・?いやぁ〜あんまり無かったと思ったけどなあ・・って、ずっと気になっていたの。リュカさんのレビュー拝見して、やっぱりそうだったんだよね?って解って、嬉しいな。
今まで何人かのブロガーさんの感想読んだものの、デンマーク版を見た後、これを見ている人がたまたまいらっしゃらなくて(比較している人がいなかったの)

その他、細かい部分も、ほとんどリュカさんと同じだな。主演のナタリーよりも、コニー・ニールセンには「その覚悟と貫禄があった」そうよね。寛容度というか、受け止める度や大人の女性度が高く見えたわ。
2. Posted by リュカ   2010年06月12日 04:21
latifaさん、こんにちは。
これを観てすぐにlatifaさんの記事を読みました。
やっぱり感じることは一緒でした♪

あの子供の使い方は本当に上手でした。
わたしもデンマーク版でそんな描写がされていたかちょっと覚えがなかったので、latifaさんのブログを見て安心したクチです(笑)。

ナタリーは美しいし、目力あるし、演技力もあるのですが、いかんせん若すぎな印象を持ってしまいました。
まあ本文にも書きましたが、オリジナルを知らなかったら素直に絶賛していたと思います。
でもこういった良心的な作品のリメイクは歓迎ですね♪
3. Posted by 真紅   2010年06月22日 23:18
リュカさん、こんにちは! コメント&TBありがとうございました。
そうそう、全く同感だわ〜。なんかちょっと惜しい、足りないリメイクでしたよね。
私もオリジナルは大傑作だと思っているので、余計そう感じてしまうんでしょうね。
オリジナル観てない方は皆さんほぼ絶賛ですもんね〜。
あと、子役の子。。演技も巧かったんだけど、ホントにブ○イクな子どもだったことに感心しました(爆)。
あれで、かわいい子だったら興醒めだもんね。
ところで『シーサイドモーテル』ご覧になったのですね。
私は、迷ってるうちに観逃してしまいそうです。
4. Posted by リュカ   2010年06月22日 23:43
真紅さん、こんばんは〜♪
やっぱりオリジナルが偉大すぎたんですよね。
ジム・シェリダンは好きな監督さんなので、その贔屓目があるにも関わらずどうしてもデンマーク版と比べてしまいました。

>ホントにブ○イクな子どもだったことに感心しました(爆)。

あはははは!言った、言いましたね?(笑)
そーなんですよね、妹役の子がまたかわいらしいだけに…
でもあの演技力には脱帽です!

『シーサイドモーテル』、けっこう期待していたんですけどね…。わたしにはちょっと残念な出来でした。
迷っている内に終了してしまう映画ってけっこう多いです。わたしは『17歳の肖像』見逃しました〜。

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