2010年10月02日

キャタピラー

B003ARS9JEキャタピラー
2010年 日本
監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ
   大西信満
   吉澤健
   粕谷佳五
   増田恵美
   河原さぶ
by G-Tools


 い〜も〜む〜し〜ご〜ろごろ〜

ネタバレ有りです。

シゲ子の夫・久蔵は四肢を切断され、顔半分は焼け爛れ、声帯や聴力もやられてしまった無残な姿で戦争から還ってきた。
しかし彼には立派な勲章が贈られ、新聞は彼を生ける軍神だと書きたて、周囲もその存在を崇め奉るようになった。
その世話を一身に負うシゲ子。
旺盛な食欲、そして性欲に応えながら彼女の苛立ちは募っていく。
久蔵もまた、戦場で自分が強姦の上惨殺した敵国の女たちの記憶に苛まれていた。

ストレートで強烈な反戦映画。

その時々の戦争状況や、軍歌の歌詞、そして耳に灼きついて離れないエンドロールに流れる、元ちとせの「死んだ女の子」の歌詞が文字として画面にあらわれ、戦争の悲惨さを強調している。
久蔵の現状と、当時の天皇の写真が交互に映し出されるシーンも、「お国のため」に戦い、非道な仕打ちを行った彼の因果応報的な結果を表しているようで皮肉だ。

その「お国のため」に芋虫の体になった夫を介護する妻は、体を重ねるごとに額の皺が深く刻まれていく。
荷車に久蔵を乗せて村を練り歩くと、村人は「軍神」に手を合わせ、シゲ子の献身を褒め称える。
そこで初めてシゲ子は額の皺を落としてにっこりと笑う。
そんな虚栄が彼女の拠りどころであるように。


見世物になるのを嫌がる夫を突き放し、軍神ごっこを続けるシゲ子は、こうして書くと悪妻に見えてしまうけれど、実は彼女は久蔵が戦争に行く前に、子供を生めないことで彼に暴力を振るわれていたという過去を持つ。
そして今、軍神の妻として毅然たる態度を求められ、食物の恵みも彼のため、夫と一緒の時は作業の手を止めて敬礼する若者たちもシゲ子が一人の時は一瞥さえもしない、そんな軽い存在にされ、その復讐を夫に向けて何の不思議があるだろう。

けれど彼女は夫を抱きしめる。
「二人で生きていこう」
そう自分に言い聞かせるシゲ子はときには自ら夫に体を開く。
でもその時、久蔵は自分が犯し殺した女と自分をダブらせ、声にならない悲鳴をあげる。

ひとつの村の、ひとつの夫婦というとても狭い世界で、悲劇は深く根付いている。
それはすべてが戦争の所為。


日本が敗戦という形で終戦し、久蔵は池まで這い、入水自殺する。
終始画面の隅で赤い着物をだらりと着流していた男は、最後だけランニングシャツに着替えて終戦を喜び、シゲ子と万歳をする。
国のために戦った男と、戦を逃れた男の対比がまた強烈だ。

シゲ子役の寺島しのぶの鬼気迫る演技に圧倒される。
目を閉じると、彼女が軍歌を歌いながら眼前に迫ってくるイメージが、二日くらい追い払えずに困った。

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1. 軍神の妻〜『キャタピラー』  [ 真紅のthinkingdays ]   2010年10月03日 23:01
 第二次大戦中の日本。静かな村に、中国戦線に出征していた久蔵(大西信満) が帰って来る。四肢を失くし、顔は焼けただれ、言葉も失った??.

この記事へのコメント

1. Posted by 真紅   2010年10月03日 23:07
リュカさん、こんばんは。コメント&TBありがとうございました。
そうそう、寺島しのぶさんって歌巧いですよね。。声もいいし。
あと、疎開した学生たちが久蔵と一緒のときは手を合わせるのに、シゲ子が一人のときは一瞥もしない、ってところは気付きませんでした。
なるほど〜、そういう対比もされていたんですね。
でも、ちょっと暗過ぎましたね、、まぁ、だからこその映画なんですが。
2. Posted by リュカ   2010年10月05日 20:03
寺島さんは声かわいいですよね。
だから普段やっている役柄とのギャップがまた……

まあ本当に暗い重い作品でした。
わたしも若松作品初体験だったのですが、評判の良い『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』は見るのをためらっています。
心に余裕ができた時でないとだめっぽい……

あ、真紅さんが仰っていた『ソーシャル・ネットワーク』って何か凄い高評価、というか絶賛されていますね。これは観るのが楽しみです♪

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