2011年01月16日

白いリボン

B004YEI67M白いリボン [DVD]
2009年 ドイツ/オーストリア/フランス/イタリア
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ウルリッヒ・トゥクール
   ブルクハルト・クラウスナー
   ヨーゼフ・ビアビヒラー
   ライナー・ボック
   スザンヌ・ロタール
   ブランコ・サマロフスキー

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白いリボンから解き放たれるには。

ネタバレ有りです。

その村はひとつの悲劇を皮きりに、歪に形を変えていった。

ドクターが落馬で重症を負った。その走路には針金が張られていた。
小作人の妻が落下事故で死んだ。その子供たちは母親の死を、管理を怠った男爵家にあると信じた。
厳格な牧師は、夜遅くまで家に帰らなかった子供たち、クララとマルティンを鞭打った。そして純粋で無垢の象徴である白いリボンを体に巻くことを命じる。
収穫祭の日、男爵家のキャベツ畑がめちゃくちゃに切り刻まれた。
その上男爵の息子ジギが何者かに逆さ吊りにされる事件が起こる。
ドクターの公私にわたるパートナーで、40代の助産婦の息子カーリが顔を傷つけられ、失明させられた。

人の憎悪と憤怒とやりきれなさが不思議と格調高く表現された傑作。
それは繰り返される暴力等のエピソードがほとんど画面にはあらわれないのがひとつの原因となっている。
マルティンたちが折檻されるシーンも、扉がきっちり閉められた奥で、鞭の音と悲鳴だけで表現される。
ジギが杭をうちこまれる凄惨な事件も語り部が読み上げるのみ。
けれどそれが“顔の見えない悪意”として不穏な空気を作り上げている。

そう、それぞれの事件は、どれもがはっきりと犯人が明示されるわけではない。
「犯人は現場に帰って来る」というジンクス通りのことを行ったクララとマルティンたちは、語り部である教師に、子供たちを傷つけた犯人だと指摘される。
けれどそれは教師視点でのあくまでひとつの可能性であり、その罪は生涯暴かれることはない。
ドクターとその14歳の娘との近親相姦も、幼い子供視点からのものであり、ここもそのものずばりとは描写されない。
ドクターに棄てられた助産婦と、ドクターの失踪に至ってはまるで説明がされていない。

でもたしかに村の空気と人の心は淀みきっている。

それが顕著にあらわれたのは牧師の子供たち。
自慰行為を責められるマルティン、騒ぎ立てていると誤解され失神するクララ、純真な象徴である筈の白いリボンは彼らには抑圧でしかなかった。
その厳しすぎる抑圧は他者への暴力に姿を変える。

この描写が見事だった。
父親が飼っている小鳥を鋏で刺し殺し、十字架の形を模してデスクの上に置くクララ。
「神は自分を殺せない」と確信し、悪事に手を染めるマルティン。
末弟のグスティだけは小動物を可愛がり、父親を気遣うも、そこにはやはり抑圧された者の怯えがそうさせているようだ。

そして物語は第一次世界大戦直前のドイツで幕を下ろす。
ファシズムに進んでいく国家の行く末を見据えるかのように。

そんな中で唯一温情があり、初々しい想いを結ぶこととなる教師とエヴァが良心の拠りどころのように描かれていた。
けれど教師はもともと隣村出身であり、エヴァもまた異なる地からやってきた「よそ者」であることが、村の異常を決定付けた。

人間の見たくない面を徹底的に露出させる、ラース・フォン・トリアーとハネケをわたしは時々混同してしまうのだけれど、この静かな美しささえ携えた悪意を、前者は表現できないと思う。

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1. 「白いリボン」感想  [ ポコアポコヤ 映画倉庫 ]   2011年01月19日 08:35
いかにもハネケ映画に出て来そうな顔立ちの少年だわ↑
2. 『白いリボン』 恋の行方も?  [ 映画のブログ ]   2011年01月30日 18:49
 【ネタバレ注意】  涙を流す少年のアップ。ポスターのこんなモノクロ写真を見て、私はてっきり『白いリボン』は暗くて退屈な映画だろうと思い込んでしまった。よもやミステリ仕立てでワクワクさせる、こ...
3. 映画『白いリボン』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2011年03月03日 23:25
11-7.白いリボン■原題:DasWeisseBand(TheWhiteRibbon)■製作年・国:2009年、ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア■上映時間:144分■字幕:齋藤敦子■鑑賞日:1月15日、新...
4. ヨーロッパ推奨映画(3) 白いリボン これは劇場で観るべきだったなと大後悔。今年有数の1作。  [ 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜 ]   2011年07月23日 20:38
DVD鑑賞で鑑賞。 衝撃的・衝動的なバイオレンスシーンで、「観客を凍らせる」のが常套手段の監督 ミヒャエル・ハネケ。 (最近の作品は「隠された記憶」 「ピアニスト」「ファニーゲームU.S.A. 」など) いつも、席から体が飛び上がってしまうので、自分としては「困っち...

この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2011年01月19日 09:10
リュカさん、こんにちは!
>けれど教師はもともと隣村出身であり、エヴァもまた異なる地からやってきた「よそ者」であることが、村の異常を決定付けた。
 ほんとだ・・・。気がつかなかった・・(^^ゞ
唯一救いになる、この2人がよそ者というのは、重要な事だったのに、今の今まで気がつかないとは・・。

ラース・フォン・トリアーって、ダンサーインザダークと、アンチキリストしか見ていないのですが、私はダンサー〜が苦手で・・・。どうもこの監督さんとは合わないような気がしてるんです。
ハネケの方がなぜか好きです^−^
2. Posted by リュカ   2011年01月20日 21:31
latifaさん、こんにちは。
あの教師とエヴァだけはまともでよかったです。
二人が馬車でピクニックに行く場面、もしかして教師があらぬことをエヴァにするのではないかと内心ヒヤヒヤしていました(笑)。人間不信にさせる監督さんですよね〜。

『アンチキリスト』はlatifaさんの記事読んでましたよ〜♪
でっきり日本公開はないものだと思っていたのでうれしいです。
なんかあの女性への容赦のなさが徹底している分かえって気にかかる監督さんになってしまいました。
トリアーもハネケもこれから追いつづけます♪
3. Posted by マロン   2015年08月31日 23:46
リュカさん、こんばんは。今日鑑賞しました。理解(判らない)場面があったのでお邪魔しました。遠距離からのカメラワークで荷馬車の後に黒い服を着た人達が列になって、紳士?と握手(お別れ)してるシーンなのですが…。この映画を鑑賞後『ドッグヴィル』を連想しました。
4. Posted by リュカ   2015年09月15日 21:31
ぎゃー!!また気付かず半月もコメント頂いたのに放置してました……!マロンさん本当にすみません!!

そして重ね重ね申し訳ありません。そ、そのシーンを全く覚えていません……。また見返してみた時にもし自分なりに解釈できたらお知らせしますね!

『ドッグヴィル』もこんな感じですよね。この記事にも書いているんですが、トリアーとハネケをいつも混同してしまうんですが、似ているところありますよね!

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