2011年03月16日

英国王のスピーチ

B004N3B95U英国王のスピーチ[DVD]
2010年 イギリス・オースラトリア
監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース
   ジェフリー・ラッシュ
   ヘレナ・ボナム=カーター
   ガイ・ピアース
   マイケル・ガンボン
   デレク・ジャコビ

by G-Tools


王たる声を。

ネタバレ有りです。

ヨーク公は吃音に苦しむイギリスの王子。
公衆の面前での演説に支障を来たし、専門家の下で治療を試みるも、あまりに古いそのやり方は効果がなかった。
彼を心から愛し気遣う妻エリザベスは、別の医者を捜し当てる。
それは実はただの売れない役者で、独自で発声法を生み出したライオネルという男だった。
二人きりでの“治療”が始まった。
そんな時、父王ジョージ5世が逝去し、兄が王位を継ぐも、離婚歴のあるアメリカ女性とのスキャンダルのため退位、ヨーク公が次の王ジョージ6世となった。
そして戦争が少しずつ影を落としていた……

2011年アカデミー賞に輝いた作品。
それもむべなるかなと思わせられる、演出と役者と脚本のアンサンブルが素晴らしい。

ジョージ6世が雲の上の人間でなく、親しみを感じさせる描き方をしているのが良い。
先ず吃音というハンデに苦しみ、たびたび癇癪を起こして感情的に行動するという人間的欠点を露わにし、けれどそれを克服しようと懸命になる姿も描かれ、結果後者の方が強調されることとなる。
その症状の原因が、乳母からのいじめと厳しい躾に因ることも明らかにされ、ただの甘やかされた坊ちゃんの見方もなくなる。
彼がヘッドホンで自分の声が聞こえない状態で録音された、スラスラと朗読するレコードを聴いた時はガッツポーズするほどの嬉しさだった。

それに負けないくらいに魅力的なのがライオネル。
彼のキャラクターが圧倒的に良い。

王に臆することなく、ごく親しい者しか呼ばせない「バーティ」という名で彼を呼び、治療時は対等な立場を相手にも求める。
身振り手振りどころか体全体を使っての発声練習、罵声の時は吃らないから「ファック」だの「シット」だの、あとはオッパイなどのこれは王族が言ったらかなりヤバいだろう言葉を叫ばせるのは笑った。
けれど彼は真面目に取り組んでおり、何よりもバーティに対して親身になっていることが判るからドラマにひきこまれる。

そして二児の父親でもあるライオネルは、家庭でも茶目っ気を見せている姿が描かれているのが良い。
ずっと妻に王を治療していることを秘密にしていて、それがバレた時小さく隠れていたり。
「シェイクやろう」と子供に言われ、何のことかと思っていたら「シェイクスピア」の芝居の一部を演じる遊びのことだったり。

それから時々癇癪を起こしたり、自信喪失したりする夫をそばで支え続けたエリザベスの献身と愛情も見逃せない。
彼女はまたライオネルのことも認めており、最後の最後にそれまで呼ぶことを好ましく思っていなかった「ライオネル」とその名を呼ぶ。
バーティはとうとう呼ぶことのなかったその名を。

やがて戦争が勃発し、国が不安に包まれる中、ジョージ6世の一世一代のスピーチが始まる。

ライオネルと向き合って。
その身振りに誘導されるように。
練習してきたことを繰り返して。
英国王はマイクに、いや国民に向かってゆっくりと、でも力強く話しかける。
それは彼がこれだけは感嘆したヒトラーの大仰でカルト的なパフォーマンスに満ちた演説ではなかったけれど。
これまで幾度もとっかえつっかえ、しまいには何も言葉が紡げなくなってしまった彼の姿を見てきたこちらは、その威風堂々たる話しっぷりに涙が止まらなかった。
そこでベートーベンの音楽が、皮肉にもぴったりなところが凄い。

ジョージ6世を演じたコリン・ファースがオスカーに相応しい名演。
少し気弱なヨーク公が、王となり、最後の演説のシーンではその顔つきまで違ってみせてくれたのは凄いの一言。

そしてこちらもオスカーに匹敵するだろう素晴らしい演技を見せたライオネル役のジェフリー・ラッシュ。
あの温厚でユーモアがあってとにかく魅力的な人物像は彼でなくては出せない味だったと思う。
ラストカットは、コリン・ファースのアップからジェフリー・ラッシュに移ったのも印象的。
「最後の最後に映るのが真の主人公」というどこかで聞いた映画の薀蓄(もちろんそうでない作品も山とあるのは承知)に頷く。
今年のマイベスト1が早くも出てしまった感がある。

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11-18.英国王のスピーチ■原題:The King's Speech■製作年・国:2010年、イギリス・オーストラリア■上映時間:118分■字幕:松浦美奈■鑑賞日:3月3日、TOHOシネマズ・シャンテ(日比谷)■料金:1,600円スタッフ・キャスト(役名)□監督:トム・フーパー□

この記事へのコメント

1. Posted by 瞳   2011年03月18日 20:40
リュカさん、こんばんは。

どちらかというと地味なストーリー、でも演出と脚本とキャストが素晴らしいとこれほどの作品になるんだなあって感嘆しました。

コリン・ファース素晴らしかったですね。
詰まってしまうシーンには、思わずこちらも・・んんん・・・って口元を見つめてしまいました。
それが最後のあの演説のシーンでは、あの顔つき。最後にはジョークまで飛び出しましたね(笑)

ラッシュも良かった〜〜!!
家庭のチャーミングな姿も微笑ましかったですね。息子さんたちがまた、美少年でしたよね(笑)

ラストカット!!あぁ・・・そうでしたね。
ゆっくりとカメラがラッシュに移りました。

実は私これが今年入って初めの劇場鑑賞だったのですが、ものすごーーーく満足しましたヨ。

ところで、↓のエントリーの「アリス」も気になります。
リュカさん、どちらでこんな気になる作品を探してこられるんでしょう(笑)
2. Posted by 瞳   2011年03月18日 20:44
TBもさせていただこうと思いましたが、FC2ブログ、今日は上手くTB飛ばないようです(トホホ)
3. Posted by リュカ   2011年03月18日 21:56
瞳さん、こんにちは。
そうなんですよね、地味目な作品なのに、こんなに心掴ませられてしまうというのは、演出と役者さんが良い証拠ですよね。
ラッシュがとにかく素敵で……!
こういう名作にこそ相応しい役者さんだと思います。
息子たちが美少年なのはなんと見落としていました……!何てことだ!
とにかくこれが今年一作目だなんて幸先が良いですね♪

『アリス』、おすすめですよ〜。
ヤン・シュヴァンクマイエルは短編から入ったのですが、長編も彼の世界が隅々まで広がっていて満足です♪

TBの件、なぜだか時々ライブドアブログははじいてしまうみたいです……。相性が良い時と悪い時があるんですね。
4. Posted by jester   2011年04月08日 23:13
リュカさん、おじゃまします。

私も今年のベストが出たな〜と感じました。

震災後、映画を見に行く気が失せてましたが、これなら見られるかも、と思って出かけて、じんわりあったまって帰ってきました♪

音楽もよかったですよね♪
5. Posted by リュカ   2011年04月09日 23:34
jesterさん、こちらにもコメントありがとうございます!
これはかなり良かったですね。
ジェフリー・ラッシュの凄さを改めて思い知らされました。

わたしはこれが今年のマイベスト1でほぼ決まりだろうと思っていたのですが……
この後『息もできない』を観てしまって、あっさり順位が入れ替わりました。
けれどこちらは昨年公開なので、今年のマイベストに入れられず……
結局『英国王』がこのままトップに落ち着きそうです。ってどうでも良い話ですみません(笑)。

とにかく、この映画で心があったまってよかったです。
元気だしていきましょう♪
6. Posted by なな   2011年04月17日 23:57
こんばんは

地震以来ブログを放置してしまっていて
久々に復帰してリュカさんちにお邪魔したら
エイプリルフールの記事に大うけしちゃいました〜
でもほんとに映画ブログやめちゃったらどうしよって
途中まではハラハラしながら読んでたんですけど・・・。
よかったわ〜,これからもよろしくね!

で,この作品楽しかった〜〜
コリンはもともと大好きなんだけど
やっぱりジェフリーの演技が最高にハマっていましたね。
ヘレナもよかったし〜〜 それに
英国王室ものって私的に好きなんですよ。
私もこれ,今年のベストに入れると思う!
7. Posted by リュカ   2011年04月20日 00:59
ななさん、こんにちは♪
エイプリルフールの記事読んでいただいて嬉しいです。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします〜♪

英国王、本当に良かったですね。
コリン・ファースは『アナザーカントリー』と『アパートメント・ゼロ』のどちらも同性愛者絡みの役で知ったのが始まりでしたが、正直ここまで登りつめるとは思ってもみませんでした。
ジェフリーもヘレナも流石にうまかった!
この作品はベスト10入りしますよね〜。
今から各方面のベスト発表が楽しみです(早すぎ!)。

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