2011年04月25日

八日目の蝉

B005CZDKJG八日目の蝉 [Blu-ray]
2011年 日本
監督:成島出
出演:井上真央
   永作博美
   小池栄子
   森口瑤子
by G-Tools


八日目の蝉が見たもの。

ネタバレ有りです。

雨の日に起きた誘拐事件。
誘拐されたのは赤ん坊だった恵理菜。誘拐したのは恵理菜の父親と不倫をしていた女性希和子。
彼女は赤ちゃんを薫と呼び、女性だけが暮らす団体エンジェルホーム、小豆島のそうめん工場と居場所を変えては親子として暮らしていた。
けれどその生活は恵理菜が4歳の時に終止符を打つ。
希和子は逮捕され、恵理菜は本当の家族の元に戻された。
けれど実の家族になじめないまま娘は成長した。
やがて彼女は自分も妻子持ちの男性との間に子供ができたことを知る。
そんな恵理菜の前に、彼女の記事を書きたいというフリーライターの千草が現れた。

蝉は地上に出て7日しか生きられない。
でももし8日まで生きることができた蝉がいたらどうか。
そんな会話が恵理菜と千草の間で交わされる。
仲間が全部死んでしまい、取り残されてかわいそう、という感想は、ラスト近くで、八日目の蝉は他の者が見られなかった美しいものをもっと見られたから幸せなのでは、という意見に変わる。
その美しいもの、木を、山を、海を、そして人々の笑顔を、希和子は薫に見せようとしていた。
八日目の蝉の解釈の変化はすなわち恵理菜の心境変化に他ならない。


ずっと恵理菜は普通の家庭を壊した偽の母親を憎んでいた。
実の母親は自分に懐かない娘の愛情を取り戻そうともがき、結果的に罵倒に終わることが多かったようだ。
諸悪の根源である父親はその負い目からかどこか他人行儀で、「父親らしいことをするなんて無理がある」と評されている。
だから人とのつきあいもせず、愛しているのかどうか判らないまま、でも家庭が与えてくれなかった数々のイベントの楽しさを教えてくれた妻子もちの男性と子供を作り、冷めた目でただ生活費を稼ぐ彼女が、何もかも奪った希和子を恨むのは当然かもしれない。

でも自分のルーツを探す旅に出た恵理菜は、自分がどう過ごしてきたか、どう希和子に育てられたかを思い出していく。
そう、どのくらい希和子に愛されていたのかも。

エンジェルホーム脱走を経て、小豆島に着いてからは“親子”の密な描写がしっかりと成される。
お参り、劇観賞、海辺での戯れ、虫追いの行事……。
そして逮捕直前に写真館で撮った家族写真。
幼い薫に希和子はその与えられた幸せすべてを手の中に内包し、薫に渡す。

恵理菜は希和子を許す。
そして自分一人で生むと決めたお腹の子供を愛せると確信する。
傍から見れば歪な親子関係ではあったかも知れない。けれど愛情は記憶を辿り、そうして受け継がれていく。

不倫した挙句、赤ちゃんをさらってしまうという言語道断な行為をした希和子が不思議に愛しくて、いじらしくて、フェリーでの親子の別れのシーンは涙がだばだば溢れた。
一方全く落ち度のない“被害者”である本当の母親は、何かあるごとに娘を怒鳴り、刃物を持って取り乱し、希和子を罵倒するという醜悪な描写がされている。
もちろんこれは希和子に感情移入させるための計算だろう。
冷静に考えればこの母親の悲痛は言葉にできないほどであるにも関わらず。希和子と薫との永遠を望んでしまうこの心理はまさに映画マジック。

もちろんその希和子役の永作博美がいつにも増して素晴らしい演技だった所為でもある。
その顔がほころぶ度、悲しみに歪む度、どれくらい彼女が娘を愛していたかしんしんと伝わってくる。
嗚咽をおさえるように薫と最後のひとときを迎える写真館でのシーンは今でも思い出すと泣けてくる。

そして千草役の小池栄子が凄い。
猫背で、いつもシャカシャカ歩いて、少し早口で、何となく普通の女の子とは違う挙動で、こんなキャラにしたのはなぜだろうと思って観ていたら、彼女がエンジェルホームで育ち、そのため男性恐怖症に陥ってしまったことが判って合点がいった。
こういうキャラ設定も上手いし、小池栄子がまたそれにハマった(ちょっとだけ作りすぎな感はあるけれど)演技で魅せる。

恵理菜役の井上真央も、今回初めて彼女が良いと思った。
ずっと冷めた顔で闊歩し、感情を抑えて生きていた彼女が、ラストにその感情を爆発させるところは名シーン。
劇団ひとり扮する男との別れ話の時の表情も抜群に良かった。
こんな抑えた演技ができる女優さんだとは思わなかったから。

母性の業を考えさせられる良作。必見。

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この記事へのコメント

1. Posted by 恭子   2011年05月07日 16:09
5 一昨日観てきました。小説も読みました。こちらの解説が素晴らしく、また思い出して号泣してしまったのでコメントさせて頂きます。

まず本で号泣。感動の嵐。後半は電車で読めなくなり(涙止まらず)帰宅して一気読みして呆けました。そして映画を観ようか迷いました。

私の場合、本を読んでから映像化したものを見ると大概ハズレてしまうのですが、この映画化は本当にアタリ。自分の頭の中で出来上がった希和子や薫そのままです。

そして想像の域を超えていたのは小豆島の自然。海と山と光と風がズバっと刺さってきて本では感じとれないものが染み入りました。

希和子が薫に見せたかったもの それを見られたことが良かった。嗚咽するほど泣きました。映画館でこんなに泣いたのは初めて。いつか小豆島を訪れてみたい。
永作博美がイイ。

時間を置いて小説も映画もまた読みたい見たい作品です。
2. Posted by リュカ   2011年05月07日 23:29
恭子さん、こんにちは。
うれしいコメントをありがとうございます。

原作もやっぱり号泣なんですね。
電車の中でうっかりそういった本を読んだ時って……困りますよね(笑)。

わたしもどうしても原作ものは、既読だと映像化された時にがっかりしがちです。
今回は小説の方は読んでいなかったので、すんなり世界に入ることができたのですが、やはり多くの人が恭子さんと同様、映画化成功と捉えているみたいですね。これは小説が読みたくなってきました……。

わたしも嗚咽をこらえるのに必死でした。
永作さんのあの目が薫に愛情深く向けられるたび、潤むたび、もうぼろぼろ泣いてしまいました。
小豆島の風景も効果的でしたね。
大好きな作品です。
3. Posted by ゆう   2011年05月08日 19:01
5 とても素敵な解説ですね!

今日映画を見てきたばかりですので、思い出してまたうるうるしました(/_;)
4. Posted by リュカ   2011年05月08日 23:17
ゆうさん、嬉しいコメントをありがとうございます。励みになります。

これは思い返すたびに泣けてきますよね。
わたしも人前でつい思い出し泣きしそうになりやばかったです(笑)。
5. Posted by 八日目の蝉   2011年06月15日 02:14
4
すごくいい作品でした。

続きがないのか...
その後のお話が気になります。


6. Posted by リュカ   2011年06月15日 22:54
八日目の蝉さん、コメントをありがとうございます。

良い作品ですよね。
後半は泣きっ放しでした。

続きは気になりますね。
二人の母親の愛に気づいた主人公が生む子供との幸先が良いものになることを祈るばかりです。
7. Posted by なな   2011年11月03日 20:36
こんばんは

夏に東京から帰る飛行機の中でこの原作を読みました。
個人的に辛いことがあった後だったせいもあり
号泣はしませんでしたが強く心に残って
映画化はDVDになったらぜひ見たいと思っていました。
原作は最初から希和子よりの視点で書かれ
秋山の妻は映画以上にヒステリックで不倫されても仕方のない女性のようにも描かれ
それゆえに余計に希和子に感情移入してしまいました。
映画の方がラストはハッピーエンドというか
はっきりと救いの光が観客にもわかるような描き方で
好感が持てたというか,自分もほっとできたというか・・・
井上真央さん,私も「おひさま」ではそんなにいいと思わなかったのに
この作品で「演技派なんだ」と見直しました。
8. Posted by リュカ   2011年11月04日 23:37
ななさん、こんにちは。
何かご不幸があったのでしょうか。大丈夫ですか?
今は落ち着かれましたか?

この映画は原作を読んでおけば良かったです。
そうか、秋山の妻はそんな性格づけがされていたのですね。
ラストも原作だとどう終わったのか気になるところです。

井上真央は良かったですね。
みんなのアイドルしているよりずっと心に残りました。
そして永作さんと小池さんの力量がはっきりしてましたね。
今でも彼女らの演技を思い出すと涙が出てきそうです。
9. Posted by latifa   2012年06月23日 23:03
リュカさん、こんにちは!
昨日TV放映してくれたのを見ました。
とても良かったです!

カットしてるところ、あるんじゃないかな〜、そこが気になっています・・。

私もこの映画で初めて井上さんが演技上手いな〜って思いました。
永作さんは既に上手なのは解っていましたが、やっぱり安定の素晴らしさでした。

10. Posted by リュカ   2012年06月23日 23:51
latifaさん、こんにちは。
あ〜、テレビ放映あったんですね。
見逃した……。
カット部分はわたしも気になります。
でも良い映画でしたよね!
本当にこれはぼろっぼろ泣きましたもん。

井上さん、上手かったです!
こんな演技ができるなんて思っていなかったので……。
永作さんは安定の上手さですよね。
女優陣の素晴らしさが作品のクオリティを高めていたと思います♪

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