2011年05月08日

ブラック・スワン

B004N3B96Eブラック・スワン[DVD]
2010年 アメリカ
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ナタリー・ポートマン
   ヴァンサン・カッセル
   ミラ・クニス
   バーバラ・ハーシー
   ウィノナ・ライダー
   バンジャマン・ミルピエ

by G-Tools


狂気の黒鳥が、彼女の中に宿っていく。

ネタバレ有りです。

ニナは新しいプリマに抜擢された新星のバレエダンサー。
天才振付師トーマスのもとで厳しい練習に明け暮れていた。
家には娘を溺愛する母親がいつも彼女の身を案じている。
白鳥の湖を踊るニナには、純粋な白鳥と情熱的な黒鳥の役が与えられており、後者を体現することがなかなかできずに苦悩する。
そんな中、官能的な踊りをし、私生活も奔放なリリーというダンサーがニナの代役にあてがわれる。

ニナ役でアカデミー主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマンの演技が凄い。
技術は完璧ながら、パッションを要する黒鳥をどうしても演れない「不感症の小娘」がぴったりで、優等生然とした彼女が次第に壊れていくさまは、その美しさが瓦解されるかと思いきや、凄味が増して狂気の美となって強く印象を残す。

身に覚えのない背中の傷。しかもそれがだんだん広がっていく。
手足の爪がいつも割れる。
鏡の中の自分が異なった動きをする。
駅でもう一人の自分を見る。
そんな皮膚の薄皮を文字通り切り裂くように(派手な血こそ出ないものの、生理的に凄く嫌な、地味に痛さを感じさせるシーンが満載)、彼女の心も脆さを露呈していく。

セックスを感じられないからとトーマスから誘惑されたり、彼の命令で自慰をしたり。
でもその自慰シーンで興が乗ってきた時に、母親がすぐそばのソファで寝ていることに気づくところは見ているこちらもいたたまれない。
そう、娘の服の着脱までいつも手伝うまでの過保護っぷりを見せ付けるこの母親は、自分も元ダンサーで、妊娠で夢が頓挫し、だからこそ娘に自らの希望を全力で押し付けているという背景がある。
母親からの、実はほのかな想いを寄せている振付師からの重圧はその精神を蝕むのに充分だ。

しかも自分にはできないセクシャルな踊りをこなすリリーは何かと接近してきて、ある夜遂にニナは彼女と情熱的なキスをし、関係を結んでしまう。
その前の自慰シーンも仰天したけれど、あのナタリー・ポートマンが女性同士のオーラルセックスをここまで過激に演じていることに度肝を抜かれた。

そして舞台初日。
前半でミスをしたニナは、それを揶揄して「私が黒鳥を踊ってあげる」と言ったリリーを突き飛ばし、その拍子で割れた鏡の破片で彼女を刺し殺してしまう。
そして彼女の中の黒鳥が目覚める。
ここは鳥肌がたつほど鬼気迫る凄いシーンで必見。

官能も情熱も邪魔者排斥もしてすべてを手に入れたニナに黒い羽が生え始め、その体を覆いつくす。
彼女が踊るたび、鮮やかにまわるたび、その黒い羽は音をたてて繁殖する。
舞台袖に退いて、肩で息をしながらまばたきもしないニナの変貌ぶりはぞっとするほど美しくて見事だった。

けれど起こったことの殆どが二ナの妄想だった。
トーマスを誘惑して体を重ねていたリリーも。
リリーとベッドを共にしたことも。
いつの間にかできていたと思っていた背中の傷さえ、彼女が自分で引っかいたものだった。
そしてリリーを殺した事実もなく、破片で刺したのは実はニナ自身の体だった。
母親がニナが自傷癖があるようなことを言っていたシーンを思い出す。
それが彼女のプレッシャーから逃れる唯一の手段だったのか。
すべての力を出し切り、観客からもダンサーからも大喝采を受けたニナは、自分で刺した傷により命を落とす。
満ち足りた表情で。
白鳥が黒鳥になった時に彼女の最期は決まっていたのかもしれない。

精神的に追い詰められるヒロインのきりきりとした心理描写がほぼ全面にわたって繰り広げられ、ほっと一息つけるようなシーンがない作りが凄い。
浴槽の外からニナを見下ろす女性だとか、暗い部屋の隅に誰かが佇んでいたりとか、クラブで踊りまくるニナのシーンで一瞬ブラックスワンメイクの顔が映ったり(これは確信がない。見間違いかも)とか、下手なホラー映画よりも震え上がるショットも見所。

前述したナタリーの他に、リリー役のミラ・クニスも役にハマっていて魅力的だった。
引退する落ちぶれた元プリマ役のウィノナ・ライダーも、短い出演シーンながら印象を残す。けれどどうしても今のウィノナの状況を考えるに、何となく役とリンクしていてシャレになっていないというか。「私のものを盗んだの?」という台詞まであって、ここは苦笑するしかない。

『π』以来、ダーレン・アロノフスキー監督作は追い続けているけれど、同じく『π』以来の衝撃と満足度。

cocoroblue at 23:14│Comments(4)TrackBack(17)││レズ 

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□作品オフィシャルサイト 「ブラック・スワン」□監督 ダーレン・アロノフスキー□脚本 マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・マクローリン□キャスト ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライ
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この記事へのコメント

1. Posted by latifa   2011年05月11日 11:47
リュカさん、こんにちは!
そうそうw ニナのセクシーシーンは、同性の私が見ても、うわっ♪すごい、こんなの演じちゃって大丈夫?って感じでした。
別にリリーみたいなタイプが、あんなの、こんなのシーンを演じても、ふ〜ん・・・って感じなんですが、あのナタリーが!っていうのが、良かったです☆
いや、そういうシーンだけじゃなくて、トータル的に見ても凄く面白い映画でした。お気に入りです。
2. Posted by リュカ   2011年05月11日 22:41
あはははは、あのシーンはびっくりしましたねえ……。
ナタリーの両親って、たしか彼女が濡れ場を演じることがないようにけっこう長い間マネジメントしていたと何かで読んだか見たかした覚えがあるのですが、さすがに手放したのでしょうね。
わたしも全体的にとても面白かったです。
latifaさんの星5つに納得しちゃいました!
3. Posted by みみこ   2011年05月13日 15:45
私もこれ面白かった・・・
私も、ダーレン・アロノフスキー見続けているけど
劇場ではこれが初めてだったから感激。
πはよくわからなかったけれど・・・笑
ウィノナ・ライダーって最近、こんな役ばかりなの?
ギア様とのオータム・イン・ニューヨーク(古)でも
とっても綺麗だったのに・・。
あ〜〜〜月日は恐ろしい・・・。
4. Posted by リュカ   2011年05月14日 17:35
みみこさん、こんにちは。
アロノフスキーはなんだか病みつきになります。
『レスラー』のヒューマンよりの作品より、こういったぶっ壊れた不穏な方が好みなので、これはお気に入りです♪

ウィノナって、何だか最近ずっと小さな役ばかりですね。
そして何かと人の旦那と浮気してるような役柄のような……。
『オータム〜』は未見ですが、あの頃はまだまだ可愛らしかったですね。
全盛期の頃は、美人で演技力もある若手ナンバー1の位置にいたのに。
まだまだ容姿はきれいなので、何とか巻きかえしてほしいところです。

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