2012年02月01日

J・エドガー

B007KH5Y66J・エドガー Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
2011年 アメリカ
監督:クリント・イーストウッド
出演:レオナルド・ディカプリオ
   ナオミ・ワッツ
   アーミー・ハマー
   ジョシュ・ルーカス
   ジュディ・デンチ
   デイモン・ヘリマン
by G-Tools


食事を共にするということ。

ネタバレ有りです。

FBI初代長官J・エドガー・フーバー。
そのパーソナルな面に焦点をあてたイーストウッドらしい映画。

もちろん時代背景も並行して描かれる。
リンドバーグ愛児誘拐殺害事件。
ジョン・F・ケネディ暗殺。
ジョン・デリンジャーやアルビン・カーピスらパブリック・エネミーズの逮捕。
でもそれらはあくまでエドガーの生きた時代の軌跡と「フーバー長官」としての功績であり、事実真犯人があやふやだと囁かれているリンドバーグの事件はハウプトマンの処刑で終わりを告げ、ここでは掘り下げられることはない。

そう、これはフーバー長官でなく、「エドガー」の物語。

歴代大統領たちは、彼らの秘密をしたためてある機密ファイルを作成したエドガーを恐れていた。
科学捜査の導入を進めたのも彼だ。
でもそんな凄い人物が、実はゲイで女装癖があり、しかもマザコンだったという面は大変興味深かった。

それ以外にも、公民権運動が共産主義を助長させるものと危惧し、キング牧師を忌み嫌い、彼がノーベル平和賞を辞退するように中傷の手紙を送りつけたり、数多の名高い犯罪者を逮捕したと豪語するも、実際は現場にいなかったりと、そんな矮小さも見せ付けてくれる。

でもやっぱり着目すべきは彼の同性愛の相手クライドと、モンスターのような母親との関係だろう。

捜査員として抜擢されたクライドとエドガーはほとんど一目ぼれ状態だったと云っていい。
「これからずっと昼食か夕食を一緒にとること」を願い出たクライドのそれは立派なプロポーズだ。
車の中でそっと手を握ったり、一緒に休暇をとって競馬に赴いたり、直接的な言葉や描写がなくても、この二人の昵懇ぶりは感じ取ることができる。

けれどその直接的なものが介在した途端、関係があやうくなるのも面白かった。
ホテルのスイートルームで見つめあう二人。
満を持してクライドが「愛している」と告げる。
でもエドガーはそれに返さず、女友達と肉体関係を持った話をする。
激昂するクライド。
そして二人は殴りあい、床に倒れる。
そこでエドガーに唇を押し付け、そのまま長いキスをするクライド。
多分ここが映画のハイライトだろう(個人的趣味・見解ではあるのは承知)。
そのまま出て行く彼に縋るエドガー。
クライドの姿がドアの向こうに消えたときにようやく「愛している、クライド」と口に出して云える彼の姿は、多くの人が恐れ、または畏れた偉業を成し遂げた男の影はない。

こうして本来の自分=同性愛者であることを封じ込めたその原因は彼の母親だろう。
息子を溺愛した母は、常に「強くおなり」と云い含め、女性に誘惑されて言葉をうまく発せなくなったエドガーを奮い立たせ、かつて女装癖のあった「水仙」とあだなのついた少年が自殺するという末期を話してきかせ、女々しさを払拭させようとする。
この呪縛の権化のような母に一度も逆らうことのなかったエドガーの憐れさが痛ましい。
彼女が死んだ時に、その衣服を身につけて泣くエドガー。
暗喩でも、直接的な意味でもクローゼットを開けた彼の姿が印象深い。

そんな彼の秘書をずっと務めてきたヘレンという女性は、上記の二名の存在が強烈すぎたために薄れてしまったのが残念。

年をとって、互いにおじいちゃんになっても、変わらず食事を共にし続けたエドガーとクライド。
エドガーがクライドの額にキスするシーンは、かつてのホテルでのそれと対比するかのように穏やかで慈愛にあふれていた。

レオナルド・ディカプリオとアーミー・ハマーのキスシーンを撮影したというニュースを聞いてから、ずっと公開を心待ちにしていた作品。
でも同性愛シーンがばっさりカットされたとか、そんな要素もなくなったとか噂もきき、一体どんな形で編集されたのだろうかと危惧していたら、けっこうモロに描いてくれていて安堵。
老人のメーキャップはちょっと笑ってしまう出来だけれど(フィリップ・シーモア・ホフマンかと思ったよ)、落とした感じの照明、脚本の良さ、俳優陣の好演に満足できる一本。

cocoroblue at 05:43│Comments(6)TrackBack(1)││実話ホモ 

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1. FBIを創った男〜『J・エドガー』  [ 真紅のthinkingdays ]   2012年02月02日 23:18
 J. EDGAR  初代FBI長官J・エドガー・フーバー(レオナルド・ディカプリオ)は、老境に 差し掛かってもその地位に君臨していた。彼は、半世紀近くに渡るFBIでの 出来事を、自らの回想録と...

この記事へのコメント

1. Posted by 真紅   2012年02月02日 23:24
リュカさん、こんばんは〜。
ホント、イーストウッド「らしい」作品だと私も思いました。
音楽も、「使い回しか?!」と突っ込みたくなるような「らしさ」。
映像もいつもの感じでね〜。でも、同性愛をしっかり描いてくれたのはよかったですね。
レオってもう30代後半だと思うんだけど、最初のほうで自転車に乗ってるシーン、ありましたよね?
あの場面ではまだ少年に見えて、これやっぱり演技力なのかな〜、と感心しました。
でも、、やっぱPSHに見えたよね〜(涙)。。痩せてほしい。。
2. Posted by 田中   2012年02月03日 03:45
お初コメントです。
リュカさんの映画を語る文章がとても好きなのでいつも楽しみにしています。
エドガーは明日観に行く予定です。なんだか泣けてしまうだろうなって思っています
3. Posted by リュカ   2012年02月03日 23:46
真紅さん、こんばんは♪
イーストウッド色、出てましたね〜。
あの暗めの映像は好みなので、観ていて嬉しくなっちゃいました。
音楽はあまり気に留めてなかったので、近日二回目を観に行く予定なので(実は……5分位ウトッとしてしまったんです。つまらないというわけでは全然なかったのに)、その時耳をそばだてておきます。

あ、あの自転車のシーン、わたしも
「わっかいな〜。画像加工した?」
とか思っちゃいました。
対して老けメイクの出来は……。
やっぱシーモア・ホフマンに見えますよね?
最後のエドガーが床に倒れているシーンでの裸は、あれは吹替えでしょうか。あれがレオだったら衝撃です。
4. Posted by リュカ   2012年02月03日 23:49
田中さん、はじめまして。
コメントをありがとうございました!
凄く励みになります。

もう映画はご覧になった頃でしょうか。
ラスト近く、クライドが夫人の手紙を読み返すところでわたしはちょっと泣きました……。

それでは、またご訪問くださると幸いです。
どうぞよろしくお願いします。
5. Posted by ユキ子   2012年02月22日 01:50
こんにちは。初コメントです。

秘書ヘレンはどうやら実際はレズビアンだったみたいですよ。だから「結婚には興味ないのよ」と言ったり、エドガーとお互いに「秘密」を連帯し、共闘しえる関係になれたんだと思いました。イーストウッドらしいささやかな描写ですが、そう考えて見ると、本当に最後までかっこいい女性であったと思います。細かい台詞がとてもよく練られているなあと。


トルソンくんも素敵だったんですが、実はヘレンとエドガーの関係性に萌え(燃え)ました!(笑)
6. Posted by リュカ   2012年02月22日 22:35
ユキ子さん、はじめまして。
訪問とコメントをありがとうございます!
とても嬉しいです。

ヘレンは同性愛者だったんですか!
これは読み取れませんでした。
そのまんま「仕事大好き」な女性とばかり……(笑)。
なるほど、だからエドガーとあんなに密な、でも一線を置いた関係が築けたんですね。

どうも煩悩が邪魔して、男同士の関係にしか目がいきませんでしたが、二回目を見て、エドガーが
「ヘレン」と名前で呼びかけるところはたしかに萌えどころかもしれません。

良い情報をありがとうございました。
またよろしければ色々教えてください♪

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