2012年11月17日

黄金を抱いて翔べ

B00B17HZWM黄金を抱いて翔べ コレクターズ・エディション(2枚組)(初回限定版) [Blu-ray]
2012年 日本
監督:井筒和幸
原作:高村薫
出演:妻夫木聡
   浅野忠信
   桐谷健太
   溝端淳平
   チャンミン
   西田敏行
by G-Tools


 そうだ、モモさん。
 俺はあんたと、神の国の話がしたいと思う。
 あんたとは、心の話がしたいと思う……。


これが無いとか!!

ネタバレ有りです。

いつも通り、原作至高派のいやったらしさ全開で語ります。

先ず、高村薫作品映像化ではもはやお約束になっているかのような、同性愛要素完全撤去(『マークスの山』は一部分だけちょこっと描写有り。でもありゃレイプだ)。
主人公幸田と、北のスパイ・モモの二人が「できて」いなければ、モモを売ったジイちゃんの所へ、わざわざ危険を冒してまで幸田が復讐に行く行動原理が説明できないと思う。

彼らの交わす目線がいやに色っぽかったと、原作を全く知らない人が言っていたので(実際役者さんへの演技指導もそうするよう監督から言われていたみたい)、これはわたしの修行不足(何のだ)かもしれないけれど、個人的には同士愛しか感じられなかった。

人のいない所に住みたいとずっと望んでいた幽鬼のような存在の幸田が、金塊強奪というスリル、確固たる目的、一人も抜けられない仲間との交流、そしてモモと心も体も通わせることで、その考えが変わる重要な要素であったのに。
人の中で生きたいと思うようになった幸田に北川が歓喜するほどの変化であったのに。
それはモモとの関係をなくしては成り立たない。

もちろん、幸田と春樹の関係も描かれず。

まあ、男が男の乳首をまさぐって微笑んだり、その上勃起してたり、「ちょっと密かな握手」を交わしたり、そのものズバリ「できて」しまったりと、映像化するには色々無理であることは承知だけれど。

その他の描写も気になった。

春樹の、計画加入するまでの虚無感を抱えたキャラは、映画ではリストカットするシーンが追加されている。
そういった自虐的なものは原作では感じられなかったので、これも違和感が。
ただただ若さを持て余し、鬱屈し、がむしゃらに暴走族にも突っ込んでいく青さの塊は、リストカットという行為をする人間とは対極にあると思った。

そしてジイちゃんが自殺しているのを見つけ、かつ彼が自分の父親だと悟ってその場で泣く幸田の姿も唐突な感が否めなかった。
そこまで親子関係に執着する様子が描かれていなかったし。
ここで慟哭する確固たる理由が見当たらないんだよなあ。

それから、ラスト、はっきり幸田の死を描いていて呆然とした。
原作は(雑誌初出を除いて)生きているか死んでしまうかどちらとも取れるラストになっており、わたしはハッピーエンドと受け取ってしまっていたから尚更。

と、ここまで書いておきながら何だけれど、今までのものに比べると、原作の雰囲気が一番出ていた作品であることもたしか。

ハードボイルドな乾いた男たちの匂い、雑多な大阪の界隈、野田と北川の奥さんの関西弁、文章では緻密と思わせておいて、映像化したものを見るとけっこう無茶な計画を遂行していることのご愛嬌も含めて、高村薫の描く世界が具現化されていて、ちょっと感動した。

それは役者さんの功績もかなり大きい。

初めはミスキャストと思っていた幸田役の妻夫木聡がとにかく素晴らしい。
わたしの思い描く幸田がそこにいた。
喜怒哀楽の少ない、常に翳のある、でも不意に見せる暴力的なキレが最高。
これでモモとの同性愛を匂わせてくれたら完璧だった。

野田役の桐谷健太も上手い。
あの関西弁は、地元民に言わせると「輩が使うようなちょっといやな喋り方」であるらしいけれど、未だに大阪弁を使いこなせない田舎者にとっては、凄く自然で、プレイボーイでありながら、小心者で、作品の中では一番普通の人に近い野田に凄くハマっていた。

一番懸念していたモモ役のチャンミンは、これまたその美貌(原作では実はそうでもないんだけど)と、どこか浮世離れした存在感がとても良かった。
演技の方に期待はしていなかった分、そちらもけっこう無難で安心した。

他のメンバーもイメージ通り。
ただ、西田敏行の神父姿だけはどうしても吹き出してしまったけれど。

原作にあったあの描写、あの台詞、あのモノローグ、入れて欲しかったと欲深さは尽きないものの、繰り返すけれど高村薫作品の中では満足のいく方であった映画。

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この記事へのコメント

1. Posted by 真紅   2012年11月20日 08:44
リュカさん、こんにちは。邦画のレビューが続いていますね。
私も最近邦画ばっかりだなー。ミニシアターになかなか行けなくてね。。
『桐島』ご覧になれてよかったです。『悪の教典』も面白かったよねー。
こちらにコメント失礼しますね。

で、この作品なんですが・・・。
私は高村薫さんの作品って読んだことないのですが、リュカさんはお好きなんですね?
高村さんって風貌からして、あんまり「女性性」を感じない方だなー、と思っていたのですが、作品中にはっきりとした同性愛描写があるとは知りませんでした。
実は高村作品原作の映画も初めて観たかもしれない。そうなんですね。。

私は、ブッキーの仕草だけで「そっちか?!」と喜んでいたのですが(笑)、甘かったね。
まぁ、この映画井筒監督だからね。そんなサービス(?)は期待できないよね(爆)。
2. Posted by リュカ   2012年11月24日 22:40
真紅さん、返信が遅くなって申し訳ありません。

色々洋画も観てはいるんですが、なぜか邦画の感想ばかりになってしまいました〜。
心に残った『最強のふたり』とか『アルゴ』とか、駄作『シャドー・チェイサー』『リンカーン/秘密の書』とか溜まる一方です。

桐島は観られて良かったです。
今年の邦画ナンバー1かも。

高村作品はお約束のように毎回行間を読む同性愛要素が存在します。
『黄金〜』は珍しく?はっきりと男と男が結ばれる記述があってのけぞりました。

真紅さんは役者さんの演技でそれに気づいたのですね。わたしの同僚も同じだったので、やっぱりそういう要素は含んでいたのかなあと考え中です。
でも監督、もう少しわかりやすくサービスしてくれてもよかったのに〜(笑)。

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