アイのカタチ【歪】

2013年07月15日

イノセント・ガーデン

B00F98IA32イノセント・ガーデン [Blu-ray]
2013年 アメリカ
監督:パク・チャヌク
出演:ミア・ワシコウスカ
   マシュー・グード
   ニコール・キッドマン
   ダーモット・マローニー
   ジャッキー・ウィーヴァー
by G-Tools


狩りをする血族。

ネタバレ有りです。

ファーストシーン、非常に満ち足りた表情の主人公インディアの仁王立ちがそのままラストシーンに繋がっていく。
それまでの彼女は常に眉間に皺を寄せて不機嫌そうに過ごしていた。
気の合う父親を亡くし、美しいだけの母親との生活とバカな同級生に揶揄される学校に嫌気がさしていたところ、魅力的な、これまで姿を消していた叔父が現れる。すぐに彼の虜となる母親。そしてインディアもまた彼に触発されていく。

叔父によって目覚めさせられるインディア。
それは彼らストーカー家に色濃く流れる人殺しの血筋。
父親もそれには勘付いていたようで、だから彼は娘にそうさせてはなるまいと、生前獣を狩ることで韜晦させていた。
けれどその抗し切れない人殺しの魅力に、実際に同級生を手にかけて実感するインディア。その同級生の息絶える瞬間を思い浮かべながら浴室で自慰をする彼女のシーンは強烈。

そんな彼らとはまったく異なる“部外者”の母親との対比が面白い。

外にアイスクリームを食べにいこうと誘う母親と、それを突っぱねて狩りを選ぶインディアのシーンが象徴的。
結局母親は最後まで何も理解できなかった。
なぜ叔父が自分を殺そうとしたのか。
なぜ叔父がインディアに固執したのか。
彼女が美しいだけに、その滑稽さと哀れさは際立ち、今回は表面の美に徹した“おどけ役”のニコール・キッドマンにうってつけ。

インディアは、叔父を殺し、何も判らないままの母親を残して家を去る。
白い花に鮮血が飛び散って鮮やかな色に塗れるように、少女も無垢で空虚な自分から、欲望を果たして睥睨して微笑む邪悪な解放者へと変貌を遂げる。ファーストシーンとラストシーンで見せるその恍惚とした表情に恐ろしさよりも美しさを感じた。
インディア役のミア・ワシコウスカがとにかく見事だった。

何となく、この作品は『反撥』を彷彿とさせられるけれど、主人公はドヌーヴのように抑制された性衝動に起因して殺戮者になるのでなく、殺人そのものがリビドーとなる系譜を受け継いでいるのが面白かった。「同類」である叔父とのピアノの連弾がもの凄く官能的なのは、その性癖への目覚めのシーンでもあるから。

パク・チャヌクの素晴らしい作品。
今年のマイベストに食い込むことは間違いない。



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2013年02月16日

ルビー・スパークス

B00B1NYG7Sルビー・スパークス [DVD]
2012年 アメリカ
監督:ジョナサン・デイトン ヴァレリー・ファリス
出演:ポール・ダノ
   ゾーイ・カザン
   アントニオ・バンデラス
   アネット・ベニング
   スティーヴ・クーガン
   エリオット・グールド
   クリス・メッシーナ
by G-Tools


友達もいない僕の目の前にある日二次元の彼女が現れた件について(ラノベタイトル風)

ネタバレ有りです。

今年の、期待しすぎてそれほどでもなかった映画第2弾(第1弾は『LOOPER/ルーパー』)。

処女作が大ベストセラーとなり、天才の名を恣にしてきた小説家のカルヴィン。
けれどその後スランプとなり、なかなか次の作品を手掛けられず、恋人には去られ、セラピーを受ける日々。
そんなある日、彼が夢の中で出会った女性をもとに小説を書き始めた時、その彼女が突然姿を現す。
彼の「創造物」と知らないまま、彼女、ルビーはカルヴィンの恋人として生活を共にする。

プロットは面白いし、どこかダメ風味を漂わせた主人公にポール・ダノという点で凄く好みの作品ではあるのだけど、どこか既視感を覚える作風がちょっと残念。

第二作目が書けない、処女作が名作として持て囃された作家、そしてタイプライターを常用し、最後にはパソコンに移行するという設定とエピソードは『ワンダー・ボーイズ』を、ストーリーはまるで違うけれど、全体的な雰囲気として『(500)日のサマー』を彷彿とさせられた。

まあそれでも、現実とフィクションが、その枠を破って人と人が出会ってしまうというアプローチは今まで色々あったけれど、この作品はそもそもの恋愛の本質を説いているのが面白い。

「出会って」最初はラブラブだった二人が、いつしか女性の方が若干冷めてきて、一人の時間や、他の仲間と過ごせる機会を持ちたがったり、それを我慢できず、「ルビーはカルヴィンなしでは生きられない」と小説に書くことで彼女を縛り付けるという男の身勝手さがせつない。

彼が書けば、彼女は今まで喋ったことのないフランス語もぺらぺら話すし、這いつくばって犬の真似もするし、彼氏が天才だと叫んだりもする。
そんな人間の意志を折り曲げた「誰かを意のままにできること」の虚しさを、カルヴィンは実感する。

それはルビーがルビーであるからこそ。
彼女が自分が創り上げたという土台を差し引いて一人の人間となっているからこそ。
ひとの意思を尊重すること。
それが想い人であるならなおさら。
そうしてルビーを手放したカルヴィンの成長譚でもある。


けれどまるで運命であるかのように、彼はその後、彼のことをまるで覚えていないルビーと再会する。
セラピストが最初に言っていたように、犬の散歩が契機になっていることににやりとさせられる。
実際の恋愛は、相手の心や行動を自由にはできない。
だからこそ面白い。

そういったメッセージ性は好きだけれど、いつかどこかで見た作風のせいでのめり込めなかった。
それでも主演の二人はもちろん、良い味を出しているカルヴィン家族の豪華な脇役がとても魅力的なので、良作には違いがない。

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2012年12月09日

私の奴隷になりなさい

B00AK48EI6私の奴隷になりなさい ディレクターズカット(本編ブルーレイ・特典DVD・特典CD 3枚組) [Blu-ray]
2012年 日本
監督:亀井亨
原作:サタミシュウ
出演:壇蜜
   真山明大
   板尾創路
   杉本彩

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運転手さん、後部座席のあの二人です。

ネタバレ有りです。

出版社に入社した「僕」は、そこで美しい人妻・香奈と出会う。
もともと女遊びが激しかった「僕」は、彼女を何かにつけて口説くも、いつもけんもほろろにあしらわれてしまう。
が、ある日彼女から一通のメールが届く。
「今夜、セックスしましょう」

うーん。
アホな男の夢が詰まった映画ではあった。

香奈は、堅実なつきあいをして、これまた堅実な夫を持ち、でもある日バーで「先生」と呼ばれる男性と出会い、自分がどんなにつまらない人生を送ってきたかを、数々のプレイによって思い知らされることとなる。

そのプレイの数々が凄い。
緊縛、剃毛、バイブ、スカトロ(になるのかな、アレは)となんでもござれ。
堂々外でセーラー服を着て佇むコスプレは笑いを通り越してシュールでさえあった。

「僕」はそんな香奈と先生に翻弄されつつ、彼らの世界に足を踏み入れていく。
本当は絵本作家になりたくて、でも才能を否定されるのが怖いから一歩を踏み出せないチャラ男というキャラは面白く、女性を性欲の赴くままに扱ってきた彼が、逆にコテンパンに打ちのめされる展開もなかなか良い。
ただまあエロ映画の限界で、それ以上に踏み込むことはなく、先生から「卒業」した香奈の奴隷にされてしまうというラストは物語的にまとまってはいるけれど、結局行き着くところが性の虜というのはファンタジーを感じてしまった。

まあ、初めにも書いた通り、こういうのは一種の男の理想なんだろうね。
美しい人妻が、本当の性の悦びを知らず、それが先生=自分の手で開拓されていく、っていう図式は。

それは映画でも端的に表れてはいる。
バスの後部座席で、バイブのスイッチを入れられて悶える香奈。
その横に座った「僕」も彼女に下半身をいじられる。
でも乗客はそんな二人をガン無視。
この有り得なさがファンタジーたるゆえんなんだろう。

ちょっと興味深かったのは、「卒業」まで先生が香奈を抱く描写がなかったこと。
彼は色々指示を出して香奈に自慰をさせたり、SMの道具を使ったり言葉責めをしたりするけれど、肉体関係はたしか持たなかった筈。
それが彼女を手放す最後の時に、まるで儀式のようなセックスをするところが印象的だった。

香奈役の壇蜜がとにかくエロい。
その体つきはもちろん、時々ドキッとするような表情を見せてくれ、全編にわたって喘ぎまくりでよく頑張った。
「僕」役の真山明大もジュノンボーイ出身とはとても思えない数々の濡れ場を披露。でも演技もちゃんとできていてそれもびっくり。
先生役の板尾創路は、棒読みではあったけれど、それが得体の知れなさを体現していてこちらも良かった。
彼が拳で机をコンコン叩いて「座れ」と「僕」を促すシーンは様になっていたなあ。

とりあえず写真でしか出てこない香奈の旦那さんに合掌。

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2012年10月26日

アイアン・スカイ

B00A2FOSZ6アイアン・スカイ [DVD]
2012年 フィンランド/ドイツ/オーストラリア
監督:ティモ・ヴオレンソラ
出演:ユリア・ディーツェ
   クリストファー・カービー
   ゲッツ・オットー
   ペータ・サージェント
   ステファニー・ポール
   ウド・キアー
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総統!歩けます!

ネタバレ有りです。

第二次世界大戦後、敗北したナチスの残党は実は月に逃げ、地球侵略の機会を虎視眈々と狙っていた。
2018年、女性のアメリカ大統領のもと、黒人モデルのジェームズは月に派遣され、その裏側でナチスの基地を見つける。
捕らえられた彼は、そこで美しい女性レナーテと出会う。

このバカバカしさに乗れたもん勝ちだと思う。
あのチャップリンの『独裁者』を、10分間の「短編」とし、独裁者が地球の風船で戯れている場面だけを流してナチスのプロパガンダ教育としているところでハートをガッシリ掴まれてしまった。
巨大なコンピューターとiPhoneというジェネレーションギャップや、『博士の異常な愛情』のパロディも可笑しかった。

でもこの作品はナチスよりも、むしろアメリカを揶揄しきっている。
何しろ女性大統領のキャッチフレーズが“Yes she can!”
そして「テロには屈しない」と女性子供お構いなしに攻撃するし(そういうことじゃないだろ!)、人気取りのために黒人を月に送り、しかも白人には白を、黒人には黒の宇宙服を着せているし、しまいには資源を独り占めしようとして靴は投げられるわ、各国と戦争が始まるわでナチス侵略の危機を脱した映画的カタルシスが台無し(笑)。

他の国もいじられていて、特に北朝鮮のほら吹き発言は劇場がどっと沸いていた。
非武装を唯一忠実に守ったフィンランドは、なるほどこの映画の出資国ならでは。

一応恋愛も絡むストーリー展開ではあるのだけれど、このバカバカしさからあまり記憶に残っていない。
痴情のもつれからナチス打倒に挑む女性の決め衣裳には笑ってしまったけれど。
ただヒロインのレナーテの美しさがひときわ目を引いた。
思わずアメリカ大統領が自らのプロパガンダに採用してしまうくらいのレナーテの演説シーンは必見。

はじめはナチスの純血種を残すために結婚しようとしていたレナーテが、黒人のジェームズと結ばれる結末も好き。
続編があったら楽しみな作品。

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2012年10月12日

ライク・サムワン・イン・ラブ

B00BHEE734ライク・サムワン・イン・ラブ [DVD]
2012年 日本・フランス
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:奥野匡
   高梨臨
   加瀬亮
   鈴木美保子
by G-Tools


彼女の話にオチはない。

ネタバレ有りです。

「本と女性の共通点って判ります?
……ああ、これはちょっと恥ずかしくて云えないんですけど。
あ、この話ならできます。
ある時、オスのムカデとメスのムカデが結婚しました……」

デートクラブで働いている大学生・明子が、顧客である83歳のタカシの家で披露する小噺。
でも彼女は意味が判らずにそのジョークを話すものだから、オチがきちんと伝わらない。

それと同じように、ここに出てくる老若男女は、すれ違い、行き違い、そしてその決着は放り出されたまま唐突に終わりを迎える。

ちょうど起承転結の「転」の部分で映画が終わる感じ。
キアロスタミという巨匠であるから「こういう映画なんだ」と思うしかないのだけれど、これが無名の監督だったらスクリーンに向かって靴を投げる(「靴はやめて!」cアイアン・スカイ)くらいのことはしでかしたかもしれない。

それでも何もかもを投げ出したとしか思えないラストに行き着くまでは、決して多くない登場人物の動向がけっこう面白かった。
とは云え、どのキャラも感情移入しにくい未熟さも目についた。

わざわざ上京してきてくれた祖母に連絡ひとつ入れない明子。
その愛され方からして、何不自由なく育てられたと思うのに、大学生になってすぐに風俗で働くほどの借金を背負った背景が見えない。
ピンクチラシに堂々顔を載せてしまうあまりの無防備さ。
タカシと初対面の時は、笑顔を振りまいて、話題も自ら提供して、さすがプロだと思わせておいて、何らかの関係を結んだと思われる後は、ずっとむっすりして、送迎させるわ、自業自得の怪我で騒ぐわと老人を振り回しすぎ。

タカシは、亡き妻に似ているため明子を溺愛。
でもその色恋のために仕事はほったらかすし、自分を明子の祖父と間違えた、明子の彼氏ノリアキに説教をたれるし、大体なぜデートクラブなど使わなくてはならないのか。
老後の寂しさってそういうもので埋めなくてはいけなかったのか。
その辺の機微がなかなか伝わってこなかった。

ノリアキは、粗野でキレやすいよくいるタイプの人間。
でも何かというと結婚を持ち出し、その何が何でも明子と一緒になりたがる言動には大笑い。
疑問や不審に思ったことはすぐに口に出し、それを諌められた直後に明子に「テストどうだった」と訊く学習能力のなさにも笑う。

明子を風俗に引き入れたと思われる赤い髪をしたナギサや、兄の都合おかまいなしに翻訳の依頼を押し付けるタカシの弟や、ずっと小窓からタカシの動向を観察し続けてきた隣人の中年女性やら、そのキャラの立ち方も、同様に面白いのにやはり不快なものが残った。

誰かが誰かを愛していて、でもその物語にオチはつかない。
それが監督が提示するひとつの愛の形なんだろうか。


ラスト、真実を知ったノリアキが、明子を匿ったタカシの家に押しかける。
怯える明子と、落ち着かないタカシ。
そしてノリアキが何かを投げて、窓が粉々に割れる。
ここでエンドロール。

いつまでたってもやまない電話の音のように、電子レンジに入ったミルクがあたたまったという合図が一定の時間を置いて鳴るように、最後のノリアキの罵声のように、そんな不快な音をばっさり切り捨てたラストシーンは、その騒動の終着を予兆させているのか、それとも人物関係の破壊をそのまま表しているのか。

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2012年10月11日

ヴァンパイア

B00ATLDTGCヴァンパイア [DVD]
2011年 日本/カナダ
監督:岩井俊二
出演:ケヴィン・ゼガーズ
   ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
   蒼井優
   アデレイド・クレメンス
   アマンダ・プラマー
   クリスティン・クルック
   レイチェル・リー・クック
by G-Tools


棺の上でダンスを。

ネタバレ有りです。

サイモンはアルツハイマーの母親と暮らす生物教師。
彼は「ヴァンパイア」であり、ネットで知り合った自殺願望者を殺して、その血を集めていた。
それ以外の交流を持たない彼は、不思議と人から好かれ、ひょんなことから知り合った警察官の妹に言い寄られ、家に押しかけてこられるようになった。
ある日、サイモンは集団自殺に巻き込まれ、ほうほうの態でそこを逃げ出す。
そして彼と共に生き残った「レディバード」という女性と恋に落ちる。

ヴァンパイアだとは云っても、彼自身は自分をそう呼んだことはないし、実際サイモンはれっきとした人間だ。
それでも彼なりの美学なりモラルなりがあるようで、ファーストシーンで現れる「ゼリーフィッシュ」の儀式のような血の抜き方を見て判る通り、彼は殺人鬼としては異彩を放っている。

それはのちに出てくる「ヴァンパイア」仲間の犯行と対比される。
その仲間は、普通の通りすがりの女性を窒息させ、虫の息のところを、喉笛に噛み付いて血を吸う。
おまけにレイプまでする。
それを軽蔑するサイモンに思わず共感してしまうのだけれど、よく考えたら異常な性癖を持つ変態、同じ穴の狢であることには変わりが無い。

そこを緩和し、本来の姿を韜晦させてしまうのが、冒頭のゼリーフィッシュの処し方だったり、ラストシーンに出てくる、冷凍庫の上で踊る若い女性の、命の焔が消える寸前の何ともいえない輝きだったりするんだろう。

そして彼に転機が訪れる。
レディバードと「生きるため」森を彷徨うふたり。
レディバードがヒルに血を吸われ、その傷口に唇をあてがうサイモン。
彼女もまたヒルにやられたサイモンに同じことをする。
「血を吸う」ことが、異常な欲望を満たすためでなく、その人を死なせるためでなく、「生かせる」ためにした行為にとって変わったとき。

彼らはHNでなく、お互いの本名を告げあう。
それが「人間として」の恋の始まり。

サイモンはまた、日本人留学生ミナ(蒼井優)が自殺を図ったときに、彼女に輸血をする。
レディバードによって、ミナによって、ヴァンパイアの業から抜け出せつつあるエピソードはしかし、破壊の予兆でしかなかった。

押しかけ女により、犠牲者の血を集めていた秘密の部屋が暴露されてしまい、結局サイモンは逮捕される。
サイモンがヴァンパイアなら、白い風船を体中につけ、最後には窓から飛び立った母親は天使といったところか。
それが結局は戯言であるかのように、彼らにはこれからきっと過酷な運命が待っている。

サイモンによって苦しまずに死んだ自殺願望者は幸せだったのだろうか。
彼によって生かされたレディバードとミナの儚くも現世にしっかり留まった女性を見るに、その答えに是は出せない。

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2012年09月25日

夢売るふたり

B00A1UDTRA夢売るふたり [Blu-ray]
2012年 日本
監督:西川美和
出演:松たか子
   阿部サダヲ
   田中麗奈
   鈴木砂羽
   木村多江
   安藤玉恵
   江原由夏
   笑福亭鶴瓶
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かもめを見上げるふたりの視線。

ネタバレ有りです。

東京の片隅で、夫婦で小料理屋を経営していた貫也と里子。
しかしある日火事で店を失い、貫也は常連客だった玲子という女性とはずみで関係を結んでしまう。
夫の浮気を知り、里子は腹いせのため、そして新しい店の資金繰りとして、貫也に結婚詐欺をさせるようになった。
騙されていくさまざまな年齢・職業を持つ女たち。
彼女たちに“夢”を売るふたりの末路は。

相変わらず鋭利で奥深い、優れた作品を撮る監督さんだと思う。
でもこの作品をわたしは好きではない。

それは生々しい女性の自慰を見せ付けられたからでなく(指を拭ったティッシュで鼻をかむとか、凄いリアルだよね)、激しい男女の濡れ場に嫌悪したわけでもなく。
多くの女性の持つ本質的な負の部分に触れているからだろうと思う。

ちらりと書いたけれど、里子が愛している夫に他の女とセックスさせるのも、そもそもは浮気した彼への腹いせのため。
許すことができないから、そうして罰を与える。
それが夫だけでなく、自分の首を絞めることになることを判っていたのかどうか。

一番顕著だったのが、カモの一人、ひとみという重量挙げ選手について夫婦で語る場面。
ひとみは不美人でひどく大柄。
婚活パーティーに行っても、ただ男性にネタ扱いされている不遇な女性。
そんな彼女を相手にしなくてはならない「夫が」かわいそうだと囁く里子。
中の上以上であろう里子が、自分よりずっと「格下」である女性を見定めたシーンだ。
わたしはもちろん、見下される側であるから、そうされたひとみの気持ちが判ると同時に、なぜか見下す側のイジワルな感情も理解できてしまう。
どこかで「この女よりは」と比較しているそんないやったらしさに気づかされて、里子が、自分が、とてもいやになった。

里子はひとみを「いい子よ」とも評する。
これも女性特有のいやらしさだと思う。
さらっと本人を前にして「ひとみちゃん、まだ食べるでしょ?」と太った彼女に言い放つのも、見逃せないところだ。

そして夫がシングルマザー家庭に入り浸りはじめ、追い詰められていく里子が玲子と交差点ですれ違うシーン。
玲子は、なんともいえない顔で里子を見て微笑む。
憐憫のようでもあり、夫を食ったことへのかすかな勝利のようでもあり、大金を渡したことによる優越感のようでもあり。
つまりは里子は見下されているのだということ。
まるでひとみにしたことがブーメランとして返ってきたかのように。
だから里子が誰よりも早く玲子にお金を返したことに頷ける。
すべての元凶に見せ付けた女の意地。


そしてやっぱり不快だったのが、子供が犯罪をおかすというところ。
玲子によって庭に放置された包丁が、誰かがこれで誰かを刺しますフラグがたちまくりで嫌な予感がしていたけれど、まさか子供の手に渡るとは。
貫也の結婚詐欺について調べていた探偵の背を、シングルマザーの子供がぶっすりと刺す。
子供はただ、大好きなおじちゃんをいじめている人から守りたかったのだろう。
それでもここはひどくショッキングで、この展開にしなくては夫婦に「罰」はくだらないのだろうけれど、とにかく不快だった。

結局貫也は子供の罪を被って服役、里子は逃げ出して漁港で働いている。
貫也はふと窓から、里子はフォークリフトから空を見上げる。
別々の場所にいるだろうふたりは、空のかもめを見る。
初めは一羽で空を待っていたかもめに、ほどなくして二羽目が合流する。
いつか彼らがまた一緒になることを暗示するかのように。
力強いまなざしの里子にそんなことを感じたラストだった。

前述した通り、好きな作品ではないけれど、やっぱりこうした人物描写や、何気ない小道具の映し方が活きている。
精神的に追い詰められた里子が対峙するねずみであったり、幸せを人に求めない風俗嬢の生き様であったり、結婚もできない女と思われたくないから結婚相手にしがみつく微妙な年齢の女性だったり、貫也が火事場から持ち出すほど大切にしていた包丁をシングルマザー宅に持っていくことによる破滅の顛末だったり。

俳優陣も見事な演技。
見所はいっぱいだし、完成度も高いけれど、人を選ぶ作品だと思う。

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2012年06月08日

私が、生きる肌

B008PO5S9G私が、生きる肌 [Blu-ray]
2011年 スペイン
監督:ペドロ・アルモドバル
出演:アントニオ・バンデラス
   エレナ・アナヤ
   マリサ・パレデス
   ヤン・コルネット
   ロベルト・アラモ
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閉じ込められた、皮膚のしたの秘密の息吹。

ネタバレ有りです。

ブラボー。
これは凄い作品。

肌色の全身タイツに身を包まれた女性がある一室で一心にヨガに励んでいる。
彼女はベラ。
人工皮膚開発の権威である医者のロベルは、亡き妻にそっくりに整形したベラを邸宅の中に幽閉していた。
彼らの動向を見守っている家政婦のマリリア。
ある日、マリリアのろくでなしの息子セカがやって来て、母親を縛り上げ、ベラを見つけてレイプしてしまう。
その現場を見て激昂したロベルはセカを射殺する。
愛を交わすロベルとベラ。
そして物語は彼らの過去へと遡っていく。

前半の異様なシチュエーションと雰囲気に先ず呑み込まれる。

ロベルとベラの関係は何なのか。
なぜベラは軟禁されているのか。
その説明は成されず、ただただロベルは監視カメラ越しに彼女を見据え、移植したと思われる人工皮膚の強度を確かめる。
自殺未遂までするベラの瞳には常に哀しみと絶望が宿っていて、
「普通の男女のように普通に暮らしたい」
と懇願するもロベルに突っぱねられる。
ただ、ロベルの方にも複雑な情の揺れがあり、彼女を単なる研究対象として冷酷に扱っているわけでもない。

そこにセカ侵入の事件が起き、一気に物語は加速する。
そして衝撃の過去編。

妻の忘れ形見である一人娘のノルマを慈しむロベル。
が、あるパーティーの夜、ノルマはレイプされ、もともと神経が細かった彼女はますます精神を病み、投身自殺してしまう。
ロベルはレイプ犯のビセンテという青年を見つけ出し、彼を誘拐し、自宅に監禁する。
そして遂に、ビセンテに膣形成手術を施し、彼を女性に変えてしまう。
後は体のすべてに皮膚移植をし、顔も妻そっくりに整形し、完璧な女性“ベラ”を造り上げた。

娘の復讐が一番の目的であった筈なのに、それを愛しい女性そのままに造り替え、いつの間にか“彼女”を愛してしまうという究極の変態と倒錯。
ただ凄いのは、アルモドバルは往々にしてそんな倒錯を愛に昇華させてしまうこと。


今回も例外でなく、今まで自分を抑えこんでいたロベルは、セカに犯されるベラを見た時に箍が外れた感じだ。
すなわち、生前セカと浮気していた妻を。
事故で全身が焼けただれ、その姿に絶望して自ら命を絶った妻を。
憎しみよりも愛しさが勝ってしまった妻を。
ベラに彼女を完全に投影した瞬間だ。
だからその後ベラと愛を交わし、外出もさせ、好きなものを買わせるロベルは完全に自分を見失っている。
でもそれは愛ゆえの、そして肉欲ゆえのかなしさで、彼はその愛のために破滅に向かって疾走していく。

その破滅をずっと予感し、だからベラを始末すべきだと警告してきたマリリア。
彼女の存在もまた大きい。
実はロベルとセカの母親である彼女は、ならず者のセカを屋敷に入れてしまった。
息子かわいさのあまり、ベラの幽閉を手伝っていたのも彼女だ。
ロベルの罪、マリリアの罪、それぞれに罰がくだされるのは当然なんだろう。

そしてベラことビセンテの罪。
彼はノルマを結果的に強姦してしまったことになるけれど、彼は犯そうと思ってはおらず、ただ薬でハイになっていただけで、ノルマの方から誘ってきたように見えなくもない。
それでも彼女を傷つけ、そこを逃げてしまった彼もまた罰を受ける。
女性に姿を変えさせられ、しかも今度は自分がレイプされてしまうというくだりはあまりに残酷だ。

結局、愛に目がくらみ油断したロベルはベラに射殺され、マリリアもまた凶弾に倒れる。
ベラは思い出のワンピースを着て、実家の衣服店に戻る。
母親と従業員の女性と再会を果たし、ベラは―ビセンテは、涙を流す。

全編にわたる異常な倒錯愛に塗れながらも、その愛の帰着点に後味の悪さを残さない不思議な作品。
トーク・トゥ・ハー』に次いでアルモドバル作品でお気に入りとなった逸品。

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2012年03月03日

ヤング≒アダルト

B007T4BET6ヤング≒アダルト [DVD]
2011年 アメリカ
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:シャーリーズ・セロン
   パトリック・ウィルソン
   パットン・オズワルト
   J・K・シモンズ
   エリザベス・リーサー
   コレット・ウォルフ
by G-Tools


アタシが輝くのは、ここじゃあない。

ネタバレ有りです。

私、メイビス・ゲイリー、37歳、バツイチ。
高校の頃は誰もが憧れるアイドル的存在。
その時につきあっていたバディはこれまた誰もが羨む美男美女カップル。
でも私は別の人と結婚し、別れたけど、都会で作家をやっている。
書けば片っ端から売れるような、ね。
「ヤングアダルト小説?『トワイライト』みたいな?」って聞き飽きた。
ああ、私はゴーストライターだから表に私の名前はないの。
でも裏表紙をめくってみて?ちゃんと記載されてるでしょ?

そんなある日バディから赤ちゃんが生まれたってメールが届いたわ。
ああ、あの冴えない女ベスとの間にできたのね。
彼は退屈な町で退屈な育児にうんざりしている筈。
私と彼は思えば運命で結ばれていた。
彼を救いに行くわ。
ブランドものの服と靴と愛犬ドルチェをバッグに押し込んで、さあ出発!
車内のミュージックは彼との思い出の曲「ザ・コンセプト」をヘビーローテーションで!

このメイビスという女性像が凄い。
容姿は高校の頃と変わらず美人なまま、そして思考回路もまったくそのまま。
一番輝いていた青春時代にしがみつきすぎて、成熟した大人へのステップを拒否してしまった女性の末路はけっこう苦い。

キティちゃんプリントの部屋着を着て、2リットルサイズのペットボトルのコーラをラッパ飲み、部屋は脱ぎっぱなしの服とゴミで散らかっていて、そこにそれほど好きでもない男を連れ込んで寝たりする。
仕事は順調だと嘯いて、その実ゴーストライターとして書いている本はもう既に在庫セールにコーナーが割かれるほど売れなくなっている。
そんな現実を吹っ飛ばしてくれるのが、愛しい妻と赤ん坊までいる元カレというのが哀しい。

そんな彼女を客観的に見据え、現実の立ち位置を言い含める役目を負う高校時代の同級生マット。
彼の過去はかなり悲惨で、ずっとメイビスとロッカーが隣でいるも、人気者の彼女と話すことはなく、ゲイと間違われて下半身をボコボコにされ、今も脚と性器に障害を負ったままだ。
しかも彼を襲撃したのは、メイビスと性的関係を持っていた男たち。
でもそんなマットに対してもメイビスは辛口で打ち捨てる。

だからメイビスがとうとう赤ん坊の名づけパーティーの場で、バディに迫り、気持ちよいほどはっきりとフラれ、みんなの前で喚き散らすという醜態を晒す結果は当然と言える。

でも、そこで彼女はつきあっていた頃、バディの子を妊娠し、三ヶ月で流産してしまった過去もぶちまける。
「ここにいて赤ん坊を抱いていたのは私だったかもしれないのに」
と言う彼女もまた、消えない傷を抱いていた。
ここまでメイビスが歪んでしまった一因が判るシーンで痛烈だった。
しかも彼女をパーティーに呼んだのはバディでなく、妻のベス。
理由は「かわいそうだから」。
彼女のプライドとアイデンティティが崩れ去った場面だ。

でも面白いのが、普通だったらここで
「今までと一緒ではいけない。新しい自分に生まれ変わらなくちゃ」
となるところを、
「こんな田舎町がそもそも自分と合っていなかった」
と自己肯定して終わるところ。


そういえば、同監督さんの『マイレージ、マイライフ』もそうだった。
あれも普通の映画の定石展開を見事に裏切る作品だったっけ。

傷ついてマットと一夜を過ごしたメイビスは、翌朝マットの妹と話す。
彼女は高校の頃からメイビス信者で、
「あなたは最高。
ベス?あんまり好きじゃないわ。
ここの町にいる人はみんな退屈でダサイ」
とメイビスを褒めちぎり、それだけでメイビスは自信を取り戻してしまう。
しかも一緒に都会に連れて行ってほしいと懇願するマットの妹に対し
「あなたはここにいなさい」=あんたダサいし。
と斬って捨ててしまう性格の悪さ!

美しいのは私。
都会でバリバリ働く素晴らしい私。
やっぱり自分サイコー!
という何の成長も見せない女性の物語って何か凄い!

でもそうして虚栄心を持たないと人って生きていけないのかもしれない。
特にメイビスのような、美しくて、思い切りリア充だった過去があって、今が実はぱっとしていない女性にとっては。
だからこんなに欠点だらけの彼女でありながら、どこか人間くさくて嫌いにはなれない。

そんなメイビス役にぴったりのシャーリーズ・セロン。
へろへろのスウェットでも、キメにきめた絹のブラウスとツイード風スカートのドッキングワンピースでも、何を着ていても綺麗。
でもマットの前でヌーブラとストッキングだけの姿で猫背で立ちすくむ彼女だけは、とても哀れで、それまでの一切のプライドを捨て去った姿が印象的だった。
比較的短い上映時間ながら中身がぎっしり詰まって見ごたえあり。

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2012年02月12日

反撥

B0038AL7GARepulsion [DVD] [1965]
1965年 イギリス
監督:ロマン・ポランスキー
出演:カトリーヌ・ドヌーブ
   イヴォンヌ・フルノー
   ジョン・フレイザー
   イアン・ヘンドリー
   パトリック・ワイマーク
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わたしの中の罅。

ネタバレ有りです。

姉のヘレンと暮らす内向的な性格のキャロル。
彼女が道を往けば男たちがみな振り向き、囃したて、ハントしようとするほどの美貌を持ちながら、恋愛に消極的な風情を持つ。
だから姉と不倫中の男がたびたび家に泊まっていくのが我慢できない。
自分のコップにはその男のハブラシや剃刀が鎮座し、夜毎に愛し合う声に悩まされる。

ある日姉が彼と旅行に行ってしまい、孤独を深めるキャロル。
やがて彼女は幻覚を見るようになり、その妄想に取りつかれ、日常生活が破綻するようになった。

壊れていく女というのは、なんて哀しく、なんて憐れで、そしてなんてこんなに美しいのかと思う。

見開かれた瞳のアップから始まり、同じく焦点のぼやけた瞳のアップに終わるこの作品は、最初に壊れてしまった後のキャロルの目を映し、最後にまだ少女期の彼女のそれを画面にのせる。
まだ「まとも」だった頃のキャロルとの対比のようでいて、実は家族写真の中、他の者たちがカメラ目線でにこやかに映っているのに、一人だけ虚空を見据えている彼女の姿を見ると、既に病気の萌芽がそこに表れている気がした。

彼女はどうも男性恐怖症の気があるように見て取れる。
ボーイフレンドとキスをしても、家に帰ってすぐに唇を拭ったり、姉の相手の脱ぎ捨てたシャツの匂いをかいで吐いたりする。
妄想の中で、何回も見知らぬ粗野な男に乱暴されたりもする。
でも裏を返せば、抑圧された性の衝動とも取れなくも無い。
壁から出てくる無数の手に顎をつかまれ、胸を揉まれたりするシーンも出てくる。
そんな彼女の事情はいっさい語られることはない。

キャロルの満たされない何かと孤独が異常を高めていくさまは見ものだ。

道路のヒビに目をとめてそこから動けなくなったり。
勤め先のサロンで客に怪我を負わせてしまったり。
壁が幾度も亀裂を生じさせるのを見たり。
颯爽と往来を歩いていた最初の頃とうってかわって、瞳を見開いて、髪を乱れさせてふらふらとさまよったり。
皿の上にだしっぱなしの肉が次第に腐っていくように、じゃがいもの芽がぐんぐん育って実がしぼんでいくように。
彼女は別の世界の住人と化していく。

何しろ、キャロルを心配して家にやってきたボーイフレンドを撲殺し、家賃を催促しに来て、つい彼女に欲情した大家までも手にかけてしまう狂いっぷり。

爛れた関係を続ける姉の相手への嫌悪が増長し、でも奥底に潜む性衝動が首をもたげ、それを断ち切るような殺人はどこかもの哀しい。

でも最終的にもぬけの殻になってしまった彼女はどこか幸せそうだ。
彼女を縛るものはもう何もない。
山岸凉子の「天人唐草」を何となく彷彿とさせられるラストだった。

キャロル役のカトリーヌ・ドヌーブの透明感と脆さが素晴らしい。
ずっと見たくてたまらなかった名作。
念願かなってようやく鑑賞できたことが嬉しい。

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2011年11月06日

ハートブレイカー

B0073QRVDSハートブレイカー [DVD]
2010年 フランス/モナコ
監督:パスカル・ショメイユ
出演:ロマン・デュリス
   ヴァネッサ・パラディ
   ジュリー・フェリエ
   フランソワ・ダミアン
   エレーナ・ノゲラ
   アンドリュー・リンカーン
by G-Tools


彼女の好きなもの。
朝食のブルーチーズ。
ジョージ・マイケルの曲。
映画『ダーティー・ダンシング』。
そして。

ネタバレ有りです。

姉夫婦とチームを組んで、別れさせ屋をしているアレックス。
そんな彼のもとに、10日後に結婚式を挙げるジュリエットという女性の父親から依頼が舞い込んできた。
彼女のボディガードとして接触を果たすアレックス。
果たして結婚を阻止することはできるのか。

……というあらすじだけで、もうこれからの展開も結果もみえみえな手垢に塗れたプロットにちょっと苦笑する。
そこに作品独自の肉付けがあるかというとそれも希薄。

大体が、設定に無理がある。
まずジュリエットの婚約者というのが、良くできた男すぎる。
貧しい人たちのために基金を設立する青年実業家で、自家用ジェットを持つほどの金持ちで、ハンサムで優しい。
こんな男と娘を別れさせようとするジュリエットの父親の思惑が図れない。

そのジュリエットも、非の打ち所のない婚約者からアレックスに心が傾いていくのだけど、「飾らないあなたが好き」とアレックスに告げるところは、それまで無理に彼女の趣味に合わせていた(『ダーティ・ダンシング』好きって一般的にはダサいよね。いやわたしはけっこう好きだけど)彼の姿を見ているだけに、それでいいのか?と思ってしまう。

婚約者の両親がジュリエットに対して嫌味な感じというエクスキューズがあるものの、あの彼を振ってしまうジュリエットの心情がいまいち掴めないのが難点。

アレックスのあの手この手で彼女のハートを射止めようとする作戦は可笑しく見ることができた。
数々の場面で彼の疾走シーンが出てくるけれど、あの見事な走りっぷりに笑う。
ジュリエットの滞在するホテルで、ウェイトレスだったりコンシェルジュだったりバーテンダーだったりと勝手に働くアレックスの姉と抜けたところのあるその夫とのやり取りは少々煩く感じられた(エンドロール後も出てきたのはびっくり)。

とまあ、定石に従ってジュリエットは結婚式当日にウェディングドレスを翻してアレックスの元に駆けつける。
なんの捻りもないラストのハッピーエンドはある意味潔い。

で、さんざ貶しておいてなんだけれど、このテンプレ通りの物語というのは裏を返せば安定もしているということで、変な表現だけれど、安心して観られたのもたしか。

何しろ主演二人が美男美女、しかも舞台は美しいモナコ。
映画としてはこれだけで成り立つ部分があるから凄いなあ。
バネッサ・パラディは昔通りとはいかなくても、充分人を引きつける魅力がある。
本当に妖精のようだった。
華奢で可憐で、これだけ年齢を感じさせないのは凄い。

欠点だらけの作品ではあるけれど、終盤の主演二人の『ダーディー・ダンシング』ごっこでのリフティング、最初にアレックスが砂漠で仕掛ける別れさせ屋の手口は見もの。


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2011年10月01日

ハッピー・ゴー・ラッキー

B006AY6OUUハッピー・ゴー・ラッキー [DVD]
2008年 イギリス
監督:マイク・リー
出演:サリー・ホーキンス
   エディ・マーサン
   エリオット・コーワン
   シルヴェストラ・ル・トゥーゼル
   スタンリー・タウンゼント
   アンドレア・ライズブロー
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笑顔でいれば、いつでも世界は輝いている。

ネタバレ有りです。

昨年だったか、賞レースでこの映画のサリー・ホーキンスの名前がよく挙がっていて、ロードショーを楽しみにしていた作品。
三大映画祭週間2011の一作品としてようやく公開され、その最終日にぎりぎり飛び込めた。

ポピーは30歳独身の小学校教師。
ルームメイトと10年暮らしており、週末ごとに友人らと飲みに行き、10代の少女のようにはしゃぐ。
彼女はいつでもとにかく笑顔。
無表情・無反応の書店店員にもにこやかに話しかけ、自転車が盗まれても「さよならも云えなかった」と一言。
その自転車の代わりなんていないからという理由だけで車の運転を習うことを決意したりする。

その教習所の教官であるスコットにも終始笑顔&ハイテンション攻撃。
いくら注意されてもブーツを履き続け、運転中にふざけて相手を楽しませようとする。

普通の30代シングルなら、結婚とか仕事のキャリアとかで悩む姿を描くのが恋愛映画やヒューマンドラマの定石となっているけれど、ポピーはいつもあっけらかんとして今を楽しんでいる。
その姿が実に魅力的。

時にはウザいほどのテンションの高さや天真爛漫さをこれほど自然に見せられると、なぜ彼女の周りに人が集まって、彼女に惹かれてしまうのかがよく判る。

物語はその彼女の日常を比較的淡々と追う。
同僚とフラメンコ教室に通ったり、運転の実践でのスコットとのやり取りを繰り返したり、ホームレスの男性の奇妙な言動につきあったり。
その中でちょこちょこユーモアのある場面が挟まれてクスクス笑いが誘発される。
特にフラメンコ教師の情熱的なスペイン女性が心のうちをブチまけて教室を出て行ってしまうシーンでは場内爆笑。

そんな中で、ふと「現実的な」問題も提示される。
それはポピーの教え子で、同級生に暴力をふるう子供の心の闇であったり、ポピーの姉で妊娠中、新居を買ったばかりと思われる女性の吐露であったり。
後者は前述した通り、30代女性なら誰でも感じる筈のこれからの人生設計を何も考えないポピーに対して姉が不満を洩らす場面で印象深い。
自分は結婚もして家族も増える予定で、年金もちゃんと払って先々のことまで考えているのに、何も心配なく生きている妹を実は羨んでいる既婚女性の複雑さが窺える。

「現実では」「こう」あること、あるべきことをポピーは持ち前の楽観的な性格で意に介さない。
そんな浮世離れした彼女に突きつけられる最後の「現実」。
それがスコットの横恋慕だ。

いつも彼女を叱り付けていたスコットは、実はいつの間にかポピーに恋をしていた。
彼がこっそりストーキングしていることを知って、はじめてポピーの顔から笑みが消える。
そして「ぞっとする」とルームメイトに洩らす。

ポピーにボーイフレンドが出来、それを知ったスコットはひどく荒い運転をし、ポピーを怖がらせ、怒らせる。
「しつこくブーツを履いたり、胸の谷間を見せ付けたり、俺を弄んだ!」
と詰る彼を静かに見つめ、最後には同情的なまなざしで、でもきっぱりと訣別を告げるポピーの芯の強さをここで見ることができる。

笑顔なら誰でもいつでもハッピーに。
でも「現実」ではそうもいかないこともある。


これまでののほほんテイストと一転、スコットとの場面は胸が苦しくなるほど惨めで哀れで激しく、生身の人間を直に感じさせられた。
だからポピーもこの時ばかりは叫び、怒り、相手を詰る。
フェアリーテイルで終わらせないクライマックスをここに挟んだのは巧いと思う。

けれど基本的に彼女は変わってはいない。
いや、それを含めてポピーという人間なんだろう。
もちろん怒りも哀しみも持ち、それでも毎日を笑って明るく生きているその人格に改めて魅了させられる。

このポピー役のサリー・ホーキンス、数々の演技賞に輝いたのが納得の自然なキャラづくりに感心した。
その衣裳もかわいらしくて、カラフルなトップスやワンピース、いちごやらさくらんぼやら虹やらのモチーフペンダント、上が真ピンクのブラ、下がオレンジのショーツという組み合わせ等、彼女の性格が表に表れているような鮮やかさだった。

今までいまいちピンと来たことのなかったマイク・リー監督作品で初めて魅了された。

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2011年08月18日

ボディクライム 誘惑する女

B004ZP9BY2ボディクライム 誘惑する女 [DVD]
2006年 フランス・アメリカ
監督:マニュエル・プラダル
出演:ハーヴェイ・カイテル
   エマニュエル・ベアール
   ノーマン・リーダス
   ジョー・グリファシ
   リリー・レーブ
   キム・ディレクター
by G-Tools



ブーメラン ブーメラン ブーメラン ブーメラン
 きっと〜 あなた〜は 戻って来るだろう〜♪

ネタバレ有りです。

ある夜、ビンセントは車で帰宅中、すれ違った不審なタクシーを目撃する。
車体には大きな傷。運転手の顔は見えなかったものの、手には大きな石の指輪が、そして赤いジャケットを着た特徴のある男だった。
帰宅してみると彼の妻が殺されていた。あのタクシー運転手が犯人に違いなかった。

それから3年。
まだ傷の癒えていないビンセント。
彼と友人以上恋人未満の関係にあるアリス。
アリスはビンセントの妻を殺害した犯人を見つけないと、彼が過去に心を囚われたままだということを知っていた。
そして彼女はある一人のタクシー運転手に狙いを定めた。彼の名はロジャー。彼を“殺人犯”に仕立て上げようと、体を使って彼を誘惑する。

とにかく全編にわたるトンデモ感が凄いことになっている作品。

アリスはロジャーとさっさと関係を持ち、赤いジャケットをプレゼントし、彼のタクシーを運転して車体に傷をつけ、お膳立てが揃ったところでロジャーをビンセントと出会わせる。
それもこれも全てビンセントのため。
犯人が見つかれば彼もスッキリして私とラブラブになる筈!
ってその考え方もアレだけど、ビンセントもビンセントで、ロジャーのいでたちを見た途端
「あっコイツ犯人だ!」
と確信してしまう。

で、ビンセントはドッグレース仲間と結託してロジャーを拉致。
さすがにそうなる前に良心が痛んだのか、アリスはロジャーに「逃げて」と云うも時すでに遅し。
まあでもそうなったらそうなったで、ビンセントは思惑通りアリスを抱いて、罪の意識に苛まれていた筈の彼女はすっかりご機嫌に。

けれどそんな彼女の前に死んだ筈のロジャーが姿を現す。
曰く、スーツケースに閉じ込められて川に流されたけれど、橋に当たってスーツケースが開いて九死に一生を得たと。

そのロジャーもただ可哀想なオッサンではあるんだけれど、なぜかお手製のブーメランをいつも持っていて、屋上でそれを飛ばすのを趣味としている得体の知れないところがある男だ。
しかもそのブーメランが戻るまでに謎のダンスを舞う。

とにかく突っ込みをいれるところ満載すぎてある意味すごく充実した鑑賞タイムとなった。

ジャンルとしてはエロティックサスペンスになるんだろうけれど、このエロ方面を強調し、ドラマ部分がおざなりになってしまった感がある。
というより脚本がめちゃくちゃだ。

その後の展開も、ロジャーがアリスに罪滅ぼしを求めて一緒にどこかに旅立つことを約束させ、彼女はそれに付き従う。
それが罪の意識のせいなのか、彼に情が湧いたせいなのか、そこら辺は微妙なところで、ここだけは少し心が動かされる。
なのに衝撃の結末にしたかったのか、アリスはタクシーのダッシュボードの中に大きな石の指輪を見つけてしまう。つまり、本当にロジャーがビンセントの妻殺しの犯人だったということになる。

この辺も……ただの指輪だし……。しかもアリスは犯人を目撃しているわけでなく、ビンセントや警察から指輪の話を聞いていただけだし……。
でも彼女もなぜか犯人だと確信を持ち、熱い夜を過ごした朝ロジャーを杭でぶっ刺して殺害してしまう。

ロジャーが本当に犯人だったとして、こんな偶然がありうるのかって話だし、もしそうなら愉快犯としてアリスも命を狙われた可能性もあるけれど、身の危険をはっきり感じたわけでなくいきなり殺害しちゃうヒロインて……。
何か「助かって良かったね!」って風にはならないんだよねえ。

役者さんはハーヴェイ・カイテルにエマニュエル・ベアール(まだまだ美人、そして見事な裸体!)、ノーマン・リーダスと割と通好みの役者をそろえておきながらひどい出来となってしまった。
最近は未公開作品も良質なものが多くなってきただけに、こんなトンデモを掴まされてしまうとやっぱり警戒してしまう。



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2011年08月08日

早春

B003XCSRKCDeep End
1970年 イギリス・西ドイツ
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:ジェーン・アッシャー
   ジョン・モルダー=ブラウン
   カール・マイケル・フォーグラー
   クリストファー・サンフォード
   ダイアナ・ドース
   エリカ・ベール
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水と性にまつわるエトセトラ

ネタバレ有りです。

15歳のマイクは、公衆浴場で働く童貞の少年。
同僚で年上のスーザンに恋をするも、彼女には婚約者がいて、更にマイクの恩師とも関係を持っていた。
いつしか彼は彼女をストーカーのように追い続けるようになり、愛を懇願する。

はじめは公衆浴場にやってくる色々な客にマイクが振り回されるというどこか軽快な青春ものの様子を呈していた。
けれど彼が恋に落ちてからは、映画館でスーザンに痴漢をしたり、彼女そっくりのポルノ女優の看板を盗んだり、車をパンクさせて行く手を阻み、スーザンのダイヤを口の中に入れる等その行動は異常となっていく。

思えば、マイクが相手をする客も、でっぷりと太っていたり、欲求不満の塊だったり、受付嬢もオールドミスで美しいとはいえず、その分スーザンの魅力が引き立てられる役割を果たしていた。
だから少年は美人で自由奔放な彼女に夢中になる。

プールの中で、マイクはスーザンの幻を幾度も見る。
最初は沈められたプールの中で全裸の彼女が泳いでいるイメージを。
そしてポルノ女優の看板を水に浮かべてそこに身を投じると本物の彼女が彼を抱きしめる。
たゆたう幻想と性の衝動は、皮肉にもラスト本物にとってかわる。

ダイヤの取引(?)で体を重ねるマイクとスーザン。
事後、自分のセックスがどうだったのかしつこく相手に聞くマイク。
あしらってプールをあがろうとする彼女に照明器具をぶつけて死に至らしめてしまうことに。

流れる血と、プールにしみこむペンキの赤が鮮烈なイメージで二人を包み込む。
それまで目をひいた原色、スーザンの黄色のコートとプールの青、そしてこの赤が、一同に介したラストシーン。
その相容れない色と同じように、歪んだ少年の想いは彼女に伝わらなかった。
でもとうとう水の中で生身の彼女を抱きしめることのできたマイクは幸せなのか。

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2011年06月28日

Bubble/バブル

B000C3L2P2Bubble
2005年 アメリカ
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ドビー・ドーブライナー
   ダスティン・アシュリー
   ミスティ・ウィルキンス
by G-Tools


人形は嗤う。

ネタバレ有りです。

小さな人形工場で働く中年女性マーサ。彼は同僚の若い男性カイルと友情で繋がっていた。
ぱっとしない人生。ぱっとしない二人。
そんな中、若く美しいシングルマザーのローズが新人として工場にやってきた。
親密になるカイルとローズ。
ある夜、その二人がデートに出かける間、マーサがローズの子供を見ることとなった。
その翌日。ローズの絞殺死体が発見される。

閉塞感あふれる孤独な人間たちのドラマ。
結果としてマーサがローズを殺してしまうのだけれど、面白いことにマーサはそれを自覚していない。
彼女のキャラクター造形が秀逸だった。
太ったおばさんで、介護が必要な父親の面倒を見るだけで、友人と呼べるのはカイルくらい。
その淡々とした友情を育んできたものの、ローズの登場でそれが揺らぐ。
いつもカイルと二人で食べていたランチ。そこにローズが加わり、煙草を吸うカイルとローズは、マーサを置いて喫煙室で仲睦まじく話をするようになる。
そこに向けるマーサの視線は明らかに嫉妬が含まれているものの、彼女はそれを表に出すことはない。

静かにローズに向ける妬みと憎悪が増していく描写はぞっとするよりも痛々しい。
有能な新人として重宝される彼女。
デートの相手がカイルだと知らされた時の衝撃。
そしてローズと元夫の諍いを目の当たりにし、少しだけそれについて聞こうとしただけなのに「関係ないでしょ!」と怒鳴られる。一生懸命彼女の娘の世話をしてやったのに。
自分の小さな幸せと平穏を脅かすローズの存在。

このローズという女性もなかなか人を嫌な気持ちにさせる人間だ。
清掃の仕事で入った豪邸の湯船に浸かったり、どうも手癖が悪いらしく人のものを頻繁に盗んだりもしている。
豪邸にあった金の時計、元夫の金とマリファナ、そしてカイルが引き出しにお金を貯めていることを知って、さっそくそれを物色し盗み出す。

ただその背景には、きつい仕事をさせたりサービス残業を強いたりする雇用側に搾取される弱者の姿がある。
ローズも娘のためにどうにか稼いで生きていかなくてはならなかった。
それが間違った方向に向かってしまったのだろう。

そんな“同類”ながらマーサはローズを許せなかった。
けれど彼女はそんな憎悪の塊の自分と乖離している。
時折日常の光から彼女の周りだけ別のライトがあたるシーンが挿入される。
それは“別の彼女”が見えた瞬間だ。
自覚のないままローズ殺害で捕まった彼女は、刑務所でフラッシュバックを起こし、ようやく自分が殺人犯だと知る。
そんな一市井の孤独。

ラストではマーサとローズの欠員補充のために工場にカイルの母親が入ることとなる。
彼の身内という点で、これからカイルの人生に新風が巻き起こることはない、平穏ではあるけれど相変わらず孤独でずっと地味なままの彼の人生が暗示されているような気がした。

エンドロールでは人形のパーツが色々と映し出される。
出口のない人間を笑うかのように。
あるいは単一の表情をした彼らは変わりばえのしない町の象徴なのかもしれない。

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2011年03月07日

トスカーナの贋作

B0052ONGSCトスカーナの贋作 [DVD]
2010年 フランス・イタリア
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ジュリエット・ビノシュ
   ウィリアム・シメル
   ジャン=クロード・カリエール
   アガット・ナタンソン
   ジャンナ・ジャンケッティ
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タイムリミットは夜の9時。贋物はときに本物よりも輝く。

ネタバレ有りです。

トスカーナに講演のため訪れたイギリス人の作家。
彼はそこに住むフランス人の女性と出会い、彼女と美しいイタリアの外を渡り歩く。
オリジナルと贋作に纏わる芸術的な議論を交わしながら。
途中で寄ったカフェで、そこの女主人が二人を夫婦と誤解したことから、彼らはあたかも長年連れ添った伴侶のように振舞う。

贋作というテーマで話し合う「他人」の二人が、そのニセモノの関係を自ら築くという一風変わったラブストーリー。
そこにはきっと秘められた深淵なテーマがあって、クライマックスのないドラマはきっととても芸術的な意味合いを持つのだろうけれど、わたしには全く不可解だった。

だって普通に考えたら怖いよ?

作家のファンで、子持ちの女性が彼に接近(夫の有無は不明)。
女は自分の息子に指摘されるほどもう彼にメロメロ。
デート中、彼が普通に話していると突然女は泣く。
そしていきなり夫婦ごっこを始め、相手が結婚記念日にぐーすか眠ってしまったことを責める。
ついでに育児を放ったらかしにしたことを詰る。
自分たちの式を挙げた教会(という設定で)に乗り込む。
口紅を濃く塗り、イヤリングを吟味してつけおしゃれする。
それを気づいてもらえないことをまた責める。
突然ブラを外す(ここ笑っていいところだよね)。
またもや自分たちの結婚初夜に泊まったところだと大嘘をついて小洒落たホテルの一室に通してもらい、そこのベッドに横たわって「ここに来て」ときたもんだ。

これがアッバス・キアロスタミ作品で、女がジュリエット・ビノシュだったからこそ辛うじて映画として成り立っているものの、わたしには痛いオバサンファンの常軌を逸した行動にしか思えなかった。

その夫婦ごっこにつきあっちゃう作家の思惑も計れない。

前半の議論は退屈だし、いい年した二人の大人のゲームは見ちゃいられないし、ラストのもの哀しい雰囲気も浸れなかったしで、こうした小品は大好きなわたしが完敗した作品だった。

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2011年03月05日

悦楽共犯者

B00005HLKZ悦楽共犯者 [DVD]
1996年 チェコ・イギリス・スイス
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
出演:ペトル・メイセル
   ガブリエラ・ヴィルヘルモヴァー
   バルバラ・フルザノヴァ
   アナ・ヴェトリンスカー
   イジィ・ニーブス

by G-Tools


 自分で悦しむ。至福のひととき。

ネタバレ有りです。

ある町に住む6人の男女の性の在り方を描いたヤン・シュヴァンクマイエル監督作品。
もちろん彼の作品なので、こんな内容なのに普遍性のあるエロティックさは皆無。ヌードシーンは出てくるには出てくるけれど、それは全て男性。しかもお腹が大きく突き出た中年男性の全裸ときた。
それなのに画面から目を離せない圧倒的な面白さ。
フェティシズムここに極まれり、といった人間の愚かしくも可笑しい性の追求の仕方が圧巻。

前半は各々が「それ」に向けて準備をしているさまが描かれる。
大きな鶏の被り物を作ったり。
半田付けで何かの装置を工作したり。
パンのやわらかいところをほじくっては指で丸めたものを集めたり。
行きずりの女性が巻いている毛皮のマフラーをこっそり切り取ったり。
その準備が整ったところで、後半は6人がそれぞれのやり方で自慰を始める。

一人は鳥人間となって隣人の女性を模した人形をさんざ痛めつける。フィニッシュは「彼女」の頭の上に岩を落として「流血」させる。

その隣人の女性は、やはり隣の男性によく似た藁でできた人形に鞭をふるう。

奥さんがいるにも関わらず、その体に触れようとしない男は、離れで色々な動物の毛で体を愛撫し享楽に浸る。

パンを丸めていた女は、無数にあるそのパン団子を鼻や耳の孔に入れて恍惚としながら床につく。

半田付けをしていた男は、美人のアナウンサーをテレビ画面で見ながら、マネキンの手を自動で動かしてマスターベーションを開始する。

その美人アナウンサーは、ニュース番組の本番中に、家で飼っていた鯉に足指を咥えられて喘ぎまくる。

この一連のシーンが壮観で、一部分はシュヴァンクマイエルらしいアニメーションにも変わり、凡人には理解できない変態行為の数々に大笑いしながらも、その究極の行為に感動すら覚えてしまう。

「それ」が終わった後、ほぼ見ず知らずだった彼らが微妙にリンクしていくのもユニークだ。

パン女は鯉に興味を示し。
半田付け男は毛皮を収集し始め。
そしてなぜか隣人の女性は本当に頭に岩が落ちてきて死亡、呆然とする男が自分の家に入ると、あの女性が行っていたSMの部屋が再現されていた。
フェティズムの伝染と、妄想が現実になるブラックさ。
こんな終着点を用意する監督はやっぱりただものではない。

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2011年01月24日

ソーシャル・ネットワーク

B0047MZLTCソーシャル・ネットワーク[DVD]
2010年 アメリカ
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ
   アンドリュー・ガーフィールド
   ジャスティン・ティンバーレイク
   アーミー・ハマー
   マックス・ミンゲラ
   ブレンダ・ソング
   ルーニー・マーラ

by G-Tools


5億人のユーザーを集めた男は、1人の女性の承認を待った。

ネタバレ有りです。

世界最大のSNSフェイスブックの創始者、マーク・ザッカーバーグ。
彼はハーバード在学中、恋人のエリカにふられた腹いせで、女子学生の顔写真の載ったデータベースをハッキングし、人気投票サイトを友人のエドゥアルドらと立ち上げる。
その才能に目をつけたエリート学生ウィンクルボス兄弟によって、ハーバード学内限定のSNS作成の協力者として勧誘を受けるマーク。
しかし彼はその考えを元に、独自のサイトをエドゥアルドと共に立ち上げた。
それがフェイスブックだった。
そして数年後。
マークはアイディアを盗用されたとウィンクルボス兄弟から、そして無二の友人の筈だったエドゥアルドからも訴訟を起こされていた。

構成は、ハーバード時代と、フェイスブックが軌道に乗る過程と、現在訴訟沙汰となっているマークたちから成り立っていて、それが小気味良く切り替わっていく。
双子の兄弟はともかく、なぜエドゥアルドが敵対する側にまわったのか、その二人の心の機微を追うことの楽しさがうまいこと随所に組み込まれている。

たとえば、学生時代は顔をつきあわせ、ビールを飲んで何でも話し合っていたマークとエドゥアルドが、次第に物理的な距離をとり(エドゥアルドのNY研修時)、ケータイで話すようになり、会ってもどこかぎこちなく、最終的には自分の株価の希薄化に怒り心頭でやってきたエドゥアルドに対してマークは目さえくれなくなる。

これはウィンクルボス兄弟が何通もマークにメールを送り、それに対して殆ど彼が返信せず、会った回数もたった4回程度だったというエピソードも想起させられる。

ネットで大勢の人間に繋がりをもたらした男は、自らはその手段で他者との繋がりを希薄化させたと言って良い。

そういえば、エドゥアルドの代わりのように経営に関わることになったショーン・パーカーが逮捕された時も、マークはケータイを使っていた。

そしてラストシーン。
エリカがフェイスブックに登録しているのを発見し、友人申請を送り、その後ずっと更新ボタンをカチカチと押し続けているマークの孤独はここに極まれる。
彼の原動力はすべてこの一人の女性だった。
けれど彼はキカイでしかもはや繋がれない。

エリカが友人申請を承諾するにせよ却下するにせよ、もうきっと二度と顔を突き合わせて話をすることはないだろう。

ファーストシーンの、エリカへのマークのマシンガントークから素晴らしい。
話が飛びまくり、人を馬鹿にしまくり、でもボート部や社交クラブへのコンプレックスも滲ませたマークの人となりがここだけで判るスタイリッシュさ。
やっていることは最低だけれど、天才たちがつどって女の子人気投票サイトを作り上げていく様もそのスピーディーで鮮やかな手際に呑み込まれそうだった。

マークにアイディアを盗用されたと憤るウィンクルボス兄弟の描き方も気に入った。
二人とも顔は良いし成績も申し分ないし、家は裕福、しかもボート部で大活躍の間違いないエリートなのに、「マークのこと学長にいいつけようぜ!」といきがってその結果けんもほろろにあしらわれたり、大事な時にボート漕いでたりと、けっこうな筋肉バカに描かれているのが可笑しい。

役者はエドゥアルド役のアンドリュー・ガーフィールド狙いで観たけれど(もちろん彼も素晴らしかった!)、マーク役のジェシー・アイゼンバーグの凄さにやられた。
金への欲目も、豪華なパーティも興味は薄く、ただ自分が作り上げたフェイスブックへの誇りと、ただ一人愛しているエリカがずっと心の中にある孤高の天才。
「あなたは悪い人のふりをしているだけ」
そう告げられたマークは、でもずっとパソコン画面のエリカを見つめたままだったのが印象的。

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2010年11月12日

パーフェクト・ゲッタウェイ

B003HA1N06パーフェクト・ゲッタウェイ [DVD]
2009年 アメリカ
監督:デヴィッド・トゥーヒー
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ
   ティモシー・オリファント
   キエレ・サンチェス
   スティーヴ・ザーン
   マーリー・シェルトン

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付け焼刃はやっぱ駄目。

ネタバレ有りです。

新婚のクリフとシドニーは、ハネムーン先のハワイでトレッキングをしていた。
そんな最中、島で若いカップルが惨殺され、どうやら犯人も男女二人組みであるというニュースが入る。
途中で知り合ったニックとジーナ、ケイルとクレオというカップルたちと行動を共にするも、互いに疑心暗鬼となる。そしてケイルとクレオが警察に取り押さえられるが……

これは完全に騙されてしまった。
実は殺人鬼に怯えているように見えた主役のクリフとシドニーが犯人であり、その殺した新婚カップルになりすましていたというオチ。
ミスリードがよく出来ていて、真相を知った後でもう一回見直すと、彼らの台詞の意味が変わってくるのが見事。
シドニーが新しい自分の名前をトチらないように練習するところ。
夫の兄弟が多いから覚えるのが大変だということ。
殺人犯の画像のことで話し合うシーン。
一部アンフェアなところもあるけれど(夜のテントでニックたちから逃げようという会話は辻褄が合っていないよね)、一応納得のいく伏線となっていて面白い。

彼らはカップルを殺して、その人生を代わりに生きているようだ。
だからクリフは本当は脚本家でなく、その業界にいるなら知っていて当然の映画の台詞を知らない。脚本講座をかじったニックがそれを所々で言及するも、何も判らないクリフのシーンでちゃんとこの映画のオチのヒントを与えてくれているところは心憎い。

シドニーが昔彼氏と一緒にいて、誰からも好青年だと評価されていた彼が、実は動物を惨殺するような人格だったとジーナに告白するシーンも、それがニックのことだとはつゆほども気づかず。

それほどまでに二人は完璧に演じていた。
自分の本当の人生からの完璧な逃走。タイトルの意味にようやくここで気づく。

真相が判ってからは、ヒロインがシドニーからジーナに切り替わるのも面白い。
それまでワイルドなカップルに怯え、引き気味だったシドニーの視点にこちらは立っていたのに、後半は豹変したそのシドニーからの攻撃に応戦し、逃げるジーナに感情移入する。
おまけになかなかプロポーズしてくれないニックとの甘酸っぱいエピソードも盛り込まれ、こちらは完全にニックとジーナの物語としてドキドキハラハラさせられてしまう。

だからそんな混乱の中で、シドニーの心変わりでクリフが射殺される場面も、その唐突ともいえる裏切り行為をあれこれ推察する余裕をなくさせたのは計算のうちか。
あれよあれよという間に怒涛の展開があり、結果はニックとジーナが二人無事でプロポーズ大成功でめでたしめでたしとなる。
前半と後半でガラリと作風が変わる作品はあれど、主人公カップルが変わる作品はそうない筈。
新婚ボケしたエロバカ新婦の顔から、一気に歪んだサイコのそれになるミラ・ジョボヴィッチが見もの。

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2010年10月23日

サベイランス

B003N52XAOサベイランス [DVD]
2007年 カナダ
監督:ジェニファー・リンチ
出演:ジュリア・オーモンド
   ビル・プルマン
   ライアン・シンプキンス
   ペル・ジェームズ
   ケント・ハーパー
   マイケル・アイアンサイド

by G-Tools


監視されているのは誰なのか。

ネタバレ有りです。

サンタフェの田舎町で凄惨な殺人事件が起こった。
生き残ったのは三人。
8歳のステファニー。家族と休暇でドライブ中だった。母と兄と義理の父親が皆殺しに。
麻薬中毒者の若い女性ボビー。同じくドラッグ漬けの恋人を殺される。
警官のジャック。相棒が撃たれて死ぬ。

彼らの取調べにFBI捜査官の二人、サムとエリザベスが地元の警察署を訪れる。
三人の目撃証言を聴取するが、誰もが秘密を抱えており、その部分は隠されたままだった。

このシチュエーションで期待するのはどうしても「藪の中」なんだろうけれど、一体誰が真実を話しているのか、真相はどこにあるのかハラハラする醍醐味はいっさいなく、その本当のことが明るみに出るのは、その場にいた犯人の目撃証言からときた。

そう、犯人は途中からどうも怪しいなと思いはじめたらビンゴの(でも気づくように作ってあると思う。クレヨンの古いやり方とか)FBI捜査官だった。
もちろん彼らは本当の捜査官を殺害して成りすましていただけであって、歪んだ悦楽殺人鬼。
隠された秘密というのも、大きなことはジャックが誤って相棒を撃ってしまい、その後錯乱状態に陥ってステファニーの母親と兄を射殺したことくらい。
ボビーのヤク中を隠すくだり(バレバレだったけど)はほぼ必要なし。

結局殺人カップルによってステファニーを除く証人と警察署内の者たちは全て殺されてしまう。
彼らがなぜステファニーだけを見逃したのか。
「それがロマンチックだから」
とサムは語る。それほどに少女はとても聡かった。
あの酷い殺人現場で、マスクを被った犯人二人の手の動きを見ていたステファニー。
そしてそれと同じ動作をサムとエリザベスがしていることに気づき、真相に気づく。
彼らが目撃者を監視している一方で、少女も犯人を監視していた。

その聡明さゆえに、また顔を知られてもゲームを楽しむために少女を生かした彼らが、わざわざFBIに変装して目撃者から証言を取る行動は、リスキーで無意味な分、犯行を楽しむ性癖を露呈していてぞっとする。

悪徳警官二人の胸糞が悪くなるようなパワハラとセクハラ、正視に耐えられないような凄惨な殺人描写、道路に転がっている鷲だか鷹だかの躯と、いや〜な気分にさせられる全体の雰囲気は父親譲りか。
サムとエリザベス役のビル・プルマンとジュリア・オーモンドもデイヴィッド・リンチ作品に出ていたっけ。
正体を晒して狂気に走るビル・プルマンは最高。

ただ、ストーリー的にはせっかくの構成が活きておらずに残念。

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2010年09月12日

ナイル殺人事件

B000657R6Oナイル殺人事件 [DVD]
1978年 アメリカ
監督:ジョン・ギラーミン
原作:アガサ・クリスティー
出演:ピーター・ユスチノフ
   ジェーン・バーキン
   ロイス・チャイルズ
   ベティ・デイヴィス
   ミア・ファロー
   マギー・スミス
by G-Tools


船の上の全員が容疑者。

ネタバレ有りです。

クリスティの名作『ナイルに死す』の映画化。
原作を読んだのは数十年前になるのに、これは犯人も動機もよく覚えていた。それだけ子供心に面白さを植え付けた作品だったのだと思う。
もちろん犯人が判っていても充分楽しめる出来だった。

何しろあのポアロが出てくる。
そして金持ちが集まって、親族、恋人、雇用関係に至るまで人間関係が絡み合い、殺人事件が起こり、最後はサロンに全員が集まってポアロの推理を聞く。
これだ。
最近のクリスティ映画に足りないのはこれ。
オーソドックスで良い。使い古された手法で良いから、こういう推理劇が見たくてたまらなかった。

莫大な遺産を受け継いだ令嬢リネット。
彼女の友人ジャクリーンが婚約者のサイモンを紹介する。が、あろうことか、リネットとサイモンが恋に落ちてしまい、二人は結婚。
その新婚旅行先エジプトまでジャクリーンはついて回るという嫌がらせをする。

彼らと船に乗り合わせたのは、リネットとそれぞれの因果関係がある人物たち。
リネットの叔父で、彼女の財産管理を不当にもぎ取ろうとしているアンドリュー。
愛欲にまみれた著書でリネットをモデルにして、当人から訴えられそうになっている小説家のサロメ。
その娘で、母親をどうにか救いたがっているロザリー。
ロザリーに想いを寄せ、資本主義の権化であるリネットを憎んでいるファーガスン。
リネットの持つ希少な真珠のネックレスを狙っているスカイラー。
スカイラーの付き人で、リネットの父親に自分の父を破産させられたミス・バウアーズ。
リネットにいかさま医師呼ばわりされ、名誉を傷つけられているベスナー。
リネットのメイドで、彼女が放してくれないため結婚ができないルイーズ。

名探偵ポアロとその友人レイス大佐を除いて、全員がリネットに何かしらの悪感情を抱いていた。
そんな時事件が起こる。
取り乱したジャクリーンがサイモンに発砲し、彼が足に大怪我を負う。
そのどさくさの裏で、リネットが銃殺された。
一番疑わしい人物であるジャクリーンにはたしかなアリバイがあった。
ポアロが捜査を続けるうちに、第二の殺人、犯人を恐喝していたルイーズが喉を掻っ切られる事件が起こった。

これだけの人間関係をスムーズに運んでいるのが素晴らしい。
観客の目であるポアロを通して、それぞれの人々がリネットとの諍いを目撃し、なぜこの人物が彼女を恨んでいるのか判りやすく描いている。

誰もがリネットを殺害できたとするポアロの推理も、一人ひとり丁寧にその動向を映像で表してくれる。
このワクワク感がたまらない。

ベルギー人であることに誇りをもつポアロの言動も可笑しい。
「パリではそれが礼儀なのか!」
「ブリュッセルです」
とか、いちいちフランス人に間違われるたびにそれを正すポアロの人柄がよく出ていて、原作ファンとしてはニヤリとさせられてしまう。

真犯人がサイモンであり、共犯者が一番確固たるアリバイがあった筈のジャクリーンであることが明かされた時、原作を読んだ時の興奮を思い出した。

役者陣も豪華。
ポアロ役のピーター・ユスチノフは映画版だと彼が一番ハマリ役だろう。
他にも、当然なんだけれどシャルロット・ゲンズブールにそっくりな若い頃のジェーン・バーキンやら、群像劇でもその佇まいに頭角を表すマギー・スミスやら、往年の大女優の風格を持つベティ・デイヴィスやら、薄幸な感じが板についているミア・ファローやら、この顔ぶれだけで楽しめてしまう。

当然この映画は見ているものだろうと今まで手に取ることがなかったのが、実は未見で嬉しい誤算。

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2010年08月15日

アンナと過ごした4日間

B003AUS0O0アンナと過ごした4日間 [DVD]
2008年 フランス
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:アルトゥル・ステランコ
   キンガ・プレイス
   イエジー・フェドロヴィチ
   バルバラ・コウォジェイスカ
by G-Tools


「君の健康と幸せを祈って
  すばらしい人生が送れますように」

ネタバレ有りです。

レオンは病弱な祖母と暮らす、もの静かな中年男性。
彼は向かいにある看護師寮から、アンナというナースを覗き見るのを日課としていた。
かつて彼女が農場でレイプされているところを目撃し、自分がその犯人として有罪を言い渡されてしまったレオン。そんな彼は祖母の死の後、アンナに睡眠薬を盛り、彼女の家に侵入するようになっていた。
その罪に問われ、動機を尋ねられて彼は答える。
「愛だ」と。

レオンは彼女にいっさい手を触れない。
むきだしの乳房を目の前に、震える手でそれを触ろうとし、その直前で拳を握り締めて自らを戒める。
その代わりに彼がしたことは、アンナの制服のボタン付け、床の雑巾がけ、彼女のペディキュア塗り、赤いバラの花束のプレゼント、そして退職金をはたいて買ったと思われるダイヤの指輪をそっと彼女の指に通すこと。

この侘しくも一途な想いがあまりにせつなくて胸を抉る。
冒頭でレオンが寝ているアンナに発した台詞は、歪んだ行動(不法侵入は不法侵入だからなあ…)の上でも心に突き刺さる。

くすんだ小さな町の風景の中で、アンナのきれいな金髪と、目をひく赤いペディキュア(彼女がレイプされていた時に印象的に映し出される)がまるでレオンの心象風景のように目に飛び込んでくる。
このアンナが若くもなく、決して美人でもない、ちょっと太目のおばさんであるというのも、オーソドックスなファム・ファタルものとは一線を画していて良いと思う。
“普通の女”にこれほど恋焦がれた中年男。
その狂おしいほどの孤独は、劇中で長く映し出される瀕死のハエに喩えられているのかもしれない。

そしてレオンは面会にきたアンナにレイプ犯でないことは判ってもらえるも、指輪とともにその想いは拒絶される。

その後、出所したレオンは家に戻る。
そして向かい側の風景を見て愕然とする。
そこには看護師寮はそっくりなくなっていて、代わりに大きな壁がそびえたっているだけだった。

監督はインタビューで、ここの解釈はふたつあると語っている。
ひとつは、現実的にレオンが刑務所にいる間に寮が取り壊されたということ。
もうひとつは、彼の頭の中でしか存在していなかったということ。

これが後者で、レオンの妄想だったとしたら。
そもそもアンナという女性がいたかどうかさえ定かではなくなる。
不幸な出生で、ずっと日陰で過ごしてきた彼が、唯一の肉親である祖母を亡くして、溜め込んでいた孤独が爆発したのかもしれない。
あの川を流れる死んだ牛という非日常の風景が妄想の合図だったのかもしれない。
でもとりあえずどちらにも読み取れると監督の言がある限り、これが現実なのかそうでないのかはハッキリできないだろう。

とにかくひりひりするほどの孤独が蔓延している世界だった。
アンナがあの指輪を指にはめていじっているのを、幸せそうに見ていたレオンの表情が忘れられない。

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2010年08月09日

さんかく

B003ZK6362さんかく 特別版(2枚組) [DVD]
2010年 日本
監督:吉田恵輔
出演:高岡蒼甫
   小野恵令奈
   田畑智子
   矢沢心
   太賀
by G-Tools


情けないってこういうこと。

ネタバレ有りです。

百瀬と佳代は東京で暮らす同棲カップル。
そこに佳代の中学生の妹・桃が夏休みに遊びにやって来る。
はちきれんばかりの若さと可愛らしさを目の前で奮発され、次第に桃のことを意識し始める30歳の百瀬。
桃が帰ってしまった後も、彼女にこっそり電話をし続けた。
そんな恋人の様子の変化を感じ取って、佳代は百瀬に別れを切り出す。

よくある男女の三角関係で、どうせ桃役の女の子のアイドルPVのような作品なんだろうと思っていたら、これが全然違った。

何せ、この三人が全員ストーカーになるときた。

桃は上京した憧れの先輩のバイト先をウロウロし。
百瀬は桃のケータイにしつこく「また電話しま〜す」と留守電を残し。
佳代に至っては、百瀬と別れてから、彼のアパートに忍び込んで掃除したり洗濯したり。しまいには手首を切って病院送りとなってしまう。

だから彼らはけっこう愚かで勘違い野郎な痛い人々。
桃は小悪魔的に百瀬に接触し、大きな胸を強調させるキャミソール姿でウロウロする。
百瀬はそんな彼女にすっかり参ってしまい、こちらが見ていてハラハラするほど年下の女の子にのめりこんでいく。
初めはけっこうしっかりしたキャラで描かれていた佳代も、百瀬に付きまとったり、マルチに簡単にはまってしまったり、肝心の百瀬と桃との関係に全く気づかなかったりと、どんどん強気でしっかりなキャラが崩れていく。

かといって、東京で暮らす若い世代の孤独感とか(佳代をマルチに誘ったのは彼女の唯一の友人であったりする)、ストーカーに走らざるをえなかった心の機微だとかは強調されず、ドロドロの様相を呈しながらも「バッカだなあ〜」と苦笑いしながら見ていられる軽やかさを徹しているのが良い。

百瀬にいつも職場で小言を言われ、でもプライベートでは都合よく使われるばかりで反抗もできなかった後輩が、あんな形で反旗を翻したのも、そこまでに至る描写が細かく描かれていた。

その百瀬も、最後の最後に手痛いしっぺ返しを食らうこととなる。
とうとう電話に出ない桃に業を煮やして彼女の実家まで行き、そこで桃の恋人と見られる中学生男子に「もう彼女につきまとうな」と投げ飛ばされ、始めて自分の勘違いと情けなさを知る。

ラストは、百瀬と、佳代と、桃の三人が言葉もなく相対するシーンとなる。
上目遣いで彼女らを窺い見る百瀬。
ちょっと戸惑ったように彼から視線を外して姉を一瞥する桃。
そして複雑な表情を浮かべながらも、百瀬に対して最後は微笑を浮かべる佳代。
百瀬はこんな情けない自分を全て包み込んで愛してくれる佳代の存在の大きさを認識していた。
それに対してやっぱり彼を包容するかのように笑顔を見せる佳代は、彼のもとに戻るのだろうということを予感させられる。

とにかくこの三人の役者さんが上手くて、桃役の小野恵令奈は舌ったらずな喋り方が小悪魔中学生にはまっていた。佳代役の田畑智子も、彼女がこんなに魅力的に見えたのは初めてかもしれない。
そして何より尊大で自己評価が高すぎで見ていられなくなるようなキャラを完璧に演じた高岡蒼甫が素晴らしい。

そして監督の吉田恵輔。『純喫茶磯辺』も良かったし、これからこの監督さんの作品はチェックしていこうと思う。

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2010年06月28日

エスター

B002SSSUGIエスター [DVD]
2009年 アメリカ
監督:ジャウム・コレット=セラ
出演:ヴェラ・ファーミガ
   ピーター・サースガード
   イザベル・ファーマン
   CCH・パウンダー
   ジミー・ベネット
by G-Tools


女の戰い

ネタバレ有りです。

三人目の子供を死産し、悲嘆に暮れるケイトとジョン夫婦。
その喪われた子供に与える筈だった愛情を、他の孤児に与えようと、彼らは養子をとることにする。
夫婦が選んだのは、少し風変わりながらも聡明でどこか人をひきつける9歳の少女エスター。
彼女に反発していたのは長男のダニエルだけで、難聴の末娘のマックスはエスターの下僕のように彼女に付き従い、ジョンはとりわけエスターが早く家族になじめるように気を配っていた。
が、その内ケイトはエスターの異常性に気づくようになる。
やがて次々に起こる事件。
エスターをいじめていた同級生が突き落とされた事件、エスターの過去を調べようとしていた孤児院のシスターの撲殺、そしてそれを嗅ぎつけたダニエルの瀕死……。すべてのことが彼女の仕業だと確信したケイトは周りにそれを訴えるも、かつてアルコール中毒に陥ったことのある過去を覆されて、誰にも相手にされない。
そしてケイトはエスターの驚愕の真実の姿を知ることとなる。

じわじわと本性を表していくエスターと、その彼女に不快感と不信感、そして憎しみを抱くようになるケイトの女同士のイヤ〜な感じの関係の亀裂の描き方が見事。
それもその筈、エスターは実は見かけだけ子供、実年齢は32歳というホルモン異常を抱えた女性だった。
だからバスルームはいつも施錠、ケイトとジョンがキッチンでセックスしていた場面を目撃して「ファックしてたんでしょ」と冷淡に言い放ち、ピアノも絵画も腕が良いことに納得する。
そしておそらく子供の見た目のままの彼女がひどく欲求不満だということがネック。
壁にはセックスに励む夫婦の春画(でいいんだろうか)が描かれ、今までの里親の父親の方を誘惑し、それに応えてもらえないことで殺人に及び、今回も最後までエスターを信じ庇い続けたジョンに拒絶され、結局彼も刺殺してしまう。

“女性”としていつまでたっても見てもらえないこと。
募る性的欲求。
ジャマなだけの妻たち。
そのケイトとの精神的、肉体的な争いは、実は同年代同士の女のそれだったということに納得がいく。もちろんエスターが異常であることは変わりはないけれど。

それにしても父親というのは、この家庭を大切にするジョンであっても、ここまで何も気づけないものかと思う。
あからさまなエスターの秋波に土壇場まで感知できない鈍感さに見ている側はイライラすること請け合い。
その焦燥感はマックスにも向けられる。
まだ小さな、しかもエスターに取り込まれて、言葉も話すことができない彼女に何かを求めることは酷だと判っていても、シスターの撲殺から家族に向けられる魔の手に彼女だけが気づいている様子が歯がゆくて仕方がなかった。
その後兄にとどめをさそうとするエスターを止めたり、最後は銃を撃って結果的に彼女を池に落とす役割を担ったりと活躍を見せるけれど、やはり最終的に宿敵ケイトが制裁を行うのも良い(子供が姉を銃殺するというのは受け入れられないしね)。

エスター役の子供の恐るべし怪演。
最初に見せた無邪気な笑顔が、相手を追い詰める冷笑に変わり、殺人鬼となった彼女の(特殊メイクもあるんだろうけれど)32歳相応のオバサンの顔になるのが凄い。
ケイト役のヴェラ・ファーミガは、今年に入って3本彼女の出演作を見ているけれど、どれもハズレなし。母性あふれる表情から、家族を脅かす敵に向ける憎悪と強さの見せ方が素晴らしい。

見始めたら止まらない面白さ、あっと驚く真実、上手い役者陣、かなりの逸品。

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2010年06月21日

クヒオ大佐

B00352PK64クヒオ大佐 [DVD]
2009年 日本
監督:吉田大八
出演:堺雅人
   松雪泰子
   満島ひかり
   中村優子
   新井浩文
   児嶋一哉
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ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐。
米特殊部隊ジェットパイロット。
あなたに会いに来たのデス。

ネタバレ有りです。

実在の結婚詐欺師で純日本人であるクヒオ大佐を元にした物語。
彼のターゲットは、弁当屋を細々と営む女社長のしのぶ。博物館学芸員で恋人と別れる直前の春。銀座のホステスの未知子だ。
しのぶは既に彼にメロメロで、結婚したら軍からの支度金5000万が支給され、ウェディングドレスはダイアナ妃の衣裳を担当したデザイナーに手がけてもらうといったクヒオの言を信じ、少なくはない額を渡しているようだ。
「あなた、子供嫌いデショ」といきなり核心を突くことを言われて以来、彼のことが気になって、最後にはベッドイン、子供のための基金援助も約束してしまう春。
そんな中、クヒオの虚言に乗っかるふりをしながらも、巧くあしらい、逆に彼から金を引き出そうとする未知子の存在が面白い。

春をころっと参らせた作戦で「仕事嫌いでしょ?」と未知子にアプローチをかけ、「クヒオ大佐って怖い。初めて会って私のことを見抜くなんて」と返され、それが彼女の作戦と見破ったクヒオの表情が良い。一筋縄でいかない相手に巡り合った苦さとプライド。
結局未知子はパトロンの横領加担として警察に突き出され、クヒオは難を逃れるものの、その後彼女によってケチョンケチョンに貶される。
付け鼻の容姿の可笑しさ、英語で書かれた名刺の3つもあったスペル間違い、存在自体が滑稽だと笑う彼女が一番観客と近い立場となる。

それは彼女が「恋をしていない」から。
だから、恋に落ちてしまったしのぶと春は、その有り得ないシチュエーションに気づかず、クヒオの虜となる。

その可笑しみと哀しみが詰まったラストの展開は、せつなさの方が勝っていた。

自分が騙されていることを知って、「なんであたしだったの!」と詰る春。
彼が答えてくれない代わりに「それはあなたのことが好きだったからよ」と返事をするしのぶ。
愛されていたと、ここまできて思えるものなんだろうか。
でもだからこそしのぶは、最後の晩餐として食す弁当に毒のあるニガクリダケを入れて、クヒオと心中を図る。
「死んだら本物になるから」という台詞は突き刺さるなあ。
けれどそのニガクリダケは無毒のクリタケであり、この伏線となった前半のシーンを思い出してその伏線回収に感心した。

しのぶだけでなく、自分の虚像を誰よりも判っていたはずのクヒオが、実は本物になりたかった心理が判るシーンも思わず胸が詰まった。
特殊部隊に囲まれてヘリに乗り、その場で英語で指令をくだす。
恵まれない子供時代を送った少年は、辛い時に空を見ていた。
その空への憧れ。象徴のパイロット。
女性を騙しながら、欺いていたのは何もない空虚な自分だった。
その次の瞬間、警官に脇を固められてパトカーに乗っている現実に変わるのがせつない。
そんな彼を最後まで愛し、一番の理解者であったしのぶ。
パトカーに向かって敬礼する彼女の姿は物悲しいと同時に不思議と凜としていた。

クヒオ役の堺雅人が好演。何を考えているのか判らない微妙ないつもの微笑みがここでもハマる。お尻を見せるバックショットも披露。どの層へのサービスなのか疑問ながらも、マッサージシーンはなかなかエロくてこちらは良。
しのぶ役の松雪泰子はお弁当屋さんがハマってきた。家具売り場で幸せそうに眠り、目覚めた後のギャップの大きな表情の出し方が巧い。
春役の満島ひかりは若いのにもうベテランの香りを漂わす上手さ。同僚や恋人と交わすやりとりがとてお自然で、声を張り上げるところでは場をかっさらっていく。
それからしのぶの弟役の新井浩文が一番良かった。飄々とした風体のちょっとロクデナシの、でも結局姉思いのキャラクターが印象深い。

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2010年06月19日

シーサイドモーテル

B00428LRPIシーサイドモーテル [DVD]
2010年 日本
監督:守屋健太郎
出演:生田斗真 麻生久美子
   山田孝之 玉山鉄二
   成海璃子 古田新太
   温水洋一 小島聖
   池田鉄洋 柄本時生 山崎真実
by G-Tools


海のないシーサイドモーテルに集ったワケありの男女。
4つの部屋で繰り広げられるコンゲーム。

ネタバレ有りです。

さて、これが面白くなかった。

インチキ化粧クリームを売る亀田と、部屋を間違えてやってきたコールガールのキャンディ。
借金を踏み倒して逃げようとしていたギャンブラーの朝倉とその彼女のルイ。
朝倉の友人でありながら借金を取り立てにやってきたチンピラの相田と舎弟のチー坊。
妻に勃たない激安スーパーの店長の太田と、それに不満な妻の美咲。
オーガニック志向の小悪魔キャバクラ嬢マリンを一泊旅行に連れ出すことに成功した常連客の石塚。

彼らが織り成す様々な騙し合いの様子がコミカルに描かれているようで、いとも簡単に人が死んで行き、ブラックコメディ調に仕上がっているかというとそうでもなく。
そのコミカルさもいまいちメリハリがないというか。
各自のモノローグやら独り言やらがやけにうるさく、その喋りが冗長に感じ、非常にテンポが悪かった。

各エピソードは導入部分はけっこう期待できるのに、いざ騙し合いの面に突入した途端つまらなくなる。
一番顕著だったのが202号室の朝倉たち。
拷問師ペペが来るまでが長く、そのペペのミスマッチな風貌にちょっと興味を惹かれるも、拷問は至って普通に行われ(やり方はエグいけど)、その後朝倉とグルになって金を奪って逃げる展開はみえみえ。
ルイはうざいだけだし、チー坊を逃がして自分が多分死という形で責任を取ろうとしている相田の悲壮感は伝わってこないし、朝倉とペペが交通事故で死ぬというのも既に美咲が同じ死に方をしているため驚きもなく。

キャバクラ嬢を豪華旅行に連れてってやると騙した石塚の顔芸がなかなか目を引いたものの、こちらはただ単に無理な姿勢でのセックスでぎっくり腰になったというオチのみでなにやら物足りない。

主となる亀田とキャンディの心理戦はただグダグダ長い印象で、でも役者さん二人の力量で乗り切った感がある。

そしてところどころでの既視感。
それぞれの部屋で各人が目を覚ますところをアップで捉えるところではドラマの『LOST』を。
意味ありげに壁にかかっている絵が現実とリンクするところでは『バートンフィンク』を。
そして4つの部屋で繰り広げられるという全体の設定では『フォー・ルームス』を。いや、これ見てないけど(←だったら書いちゃいけません)。
なので新鮮味がない。
ないならないで、うまいことまとめられていたら満足できたのに、それぞれの因果関係が実に地味で、結末も亀田とキャンディを除いては後味が悪く宙ぶらりん。

太田の女装やら、カップラーメンの汁まで飲み干す似非オーガニックのマリンやらでクスッとさせられたけど、一番面白かったのは、「俺色々と失格だから」とひとりごちた亀田役の生田斗真だったりする。

主役級の役者さんたちが惜しげもなく出演した豪華キャストであるだけに、脚本と演出が惜しい出来だったのが残念。

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2010年04月12日

愛に関する短いフィルム

B000BV7URY愛に関する短いフィルム [DVD]
1988年 ポーランド
監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
出演:オルフ・ルバシェンク
   グラジナ・シャポロフスカ
   ステファニア・イバンスカ
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窓の向こうに彼女が見える。

ネタバレ有りです。

『デカローグ』の第6話『ある愛に関する物語』のロングバージョン。
ただし結末が全く違っていて面白い。

郵便局に勤める19歳のトメク。
彼は夜な夜な向かい側の建物に住むマグタというずっと年上の女性を覗き続けている。
彼女が毎回違う男を連れ込んで情事に耽ること、カーテンも閉めずに無防備な姿を晒すこと、すべてを見ながら彼女に恋をしていくトメク。
そんな彼をやさしく包み込む、トメクの部屋を提供している老女。

この三人の三角関係とも言える展開が興味深い。
トメクはマグタに会いたいがために偽装為替を送ったり、牛乳配達人の仕事を兼用するようになる。
マグタはそんなまっすぐな想いをせせら笑う。
「愛している」という言葉を信じず、彼を挑発して、まだ何もしていないのにトメクを射精に導き「これが愛なのよ」と言い捨てる。
絶望したトメクは自殺を計る。
命を取り留めた彼を見舞うマグタに老女は冷徹に冷静に相対する。
まるでそれが嫉妬であるかのように。

年齢も性格もまったく異なる三者が共通しているのは、とても孤独であるということ。

ただ見つめる=見守ることでしか純愛を貫かれなかったトメクは、傍目にはただの覗き魔であるし、マグタは刹那的で肉体的な関係でしか男性とつながっていられない。
トメクに息子の姿を投影させている老女の淋しさも、その刻まれた皺からしんしんと感じられる。

そして「登場人物の間にガラスがたくさん登場する」という監督の言の通り、そこには透明なのに硬質な“隔て”が存在している。
トメクとマグダの間の窓ガラス、覗きのための望遠鏡のレンズ、初め部屋の中で二人きりになっても、そこには牛乳瓶という“口実”が介在していた。
それがすべて取り払われて彼と彼女が直に触れ合ったとき、そこにトメクの純情を打ち砕くような欲情が顕在化したのは皮肉だ。

そしてラストシーン。
トメクの横たわるベッドの脇で望遠鏡を覗くマグダ。
そこには自分の部屋で打ち沈んでいる自分の姿があった。
そしてそんな彼女の肩にやさしく手をのせる人物の姿が。
トメクだ。
その儚くも慈愛に満ち溢れた幻を見てマグダは微笑む。
これからの二人の未来が暗示されたような、希望を持たせるラスト。

ただ冒頭でも書いた通り、『デカローグ』ではここが全く違う。
郵便局の仕事に復帰したトメク。
そこを訪ねていくマグダ。
彼女を一瞥し、トメクは言う。
「もうあなたを覗かない」

この痛烈で鮮やかなラストが今でも印象に残っているので、やはり軍配はこちらに上がる。

それでもひりひりと肌をさすような孤独の痛みを体感させてくれる作風は共通で、わたしは今でもこの物語に夢中だ。



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2009年08月26日

湖のほとりで

B002TKSHCM湖のほとりで [DVD]
2007年 イタリア
監督:アンドレア・モライヨーリ
出演:トニ・セルヴィッロ
   ヴァレリア・ゴリーノ
   オメロ・アントヌッティ
   ファブリッツィオ・ジフーニ
   ネッロ・マーシャ
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もういない。
私の天使。

ネタバレ有りです。

イタリアの小さな村の湖のほとりで、美少女アンナの死体が発見された。
事件を担当するサンツィオは、彼女の周囲の聞き込みにまわる。
そこから見えてくる村人たちの愛憎の相関関係。
そしてサンツィオ自身もまた、認知症となり、家族のことを忘れてしまっている妻の状態を、娘にどうしても告げられずに苦しんでいた。

容疑者となりうる人たちの描写に興味を惹かれる。

先ず一番のミスリードとして(と言ってもあまりに怪しすぎてそうなっていないという見方もできる)、いかにも事件性を感じさせる登場をする、若干知的障害が見受けられる男。
その彼に意味深な視線で見つめられる幼女(でも結局何もなかった)。
その男の両足が不自由な父親。彼は毎朝家の前をジョギングするアンナの健脚に羨望と憎悪を感じていたようだ。

ろくでなしと呼ばれるアンナの恋人。
アンナを溺愛し、彼女ばかりを執拗にビデオカメラにおさめる実の父親。
その父親に顧みられることのないアンナの異母姉妹。
アンナに横恋慕されていたというカナーリ。
カナーリの元妻で、アンジェロという幼くして死んでしまった子供がいたキアラ。
そしてそのアンジェロのベビーシッターをしていたのがアンナ。

誰もが事件に関与していてもおかしくなく、別の言い方をすれば誰もが動機を持っていた。

でもこれは殺人事件を解き明かすミステリーではなく、アンナの死によって浮き彫りにされる人間ドラマが主軸となる。

というプロセスですぐに思い浮かぶのがリンチの『ツイン・ピークス』ではあるけれど、本作はそこまでエキセントリックな展開は見せない。

ただ、ここで出てくる「障害者」について、そしてそれに関わる者について深く考えさせられる。

上述した知的障害の男。
その父親もまた車椅子というハンデを背負っている。
「あんたに判るか、あんたの子供は普通に利口なんだろ」
とその父親はサンツィオに詰め寄る。
そのサンツィオもまた、自分を忘れ去り、施設で恋仲の男がいる妻の病気と対峙している。

人の云う「普通」と違う身内がいること。
そんな彼らと接し、愛しながらも苦しみ、あるいは憎み、でも共に暮らしていく、あるいは離れて見守る選択。
その心情は、その立場にたった人でなければ判らないと思う。

事件の真相も、それが投影されている。
普通の子供とは違ったアンジェロ。
昼夜を問わずずっと泣き喚き、物音を鳴らし続ける子供。
そんなアンジェロがビスケットを喉に詰まらせ、苦しみ死んだ時、それをただ放置していた父親のカナーリ。
そんな彼の姿を目撃し、糾弾し、多分告発しようとしていたアンナ。
彼女はアンジェロを溺愛していた。
だからカナーリはアンナを殺してしまった。

もちろん子供の死を黙って放置していたカナーリの行為は許されるものではないけれど、想像を絶する育児のことを鑑みると、ずっとアンジェロと暮らしてきたわけではないアンナの正当な怒りに100%共感はできない。

けれどアンナ自身が病気で余命わずかだったことに思いを馳せると、その激情にも納得ができる。
生きたいのに生き続けることができない自分。
生きることができるのに、それを絶たれてしまったまだ3歳の小さな命。

それぞれに「普通」の人が知りえないハンデを抱え、それに対峙する者、それを絶つ者、共に生きる者、その選択の有様がリアルな人間模様となっている。

ラストに、娘を連れて施設を訪れ、妻のありのままを見せたサンツィオの最後の台詞に泣かされる。


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2009年08月23日

接吻

B001O0949S接吻 デラックス版 [DVD]
2006年 日本
監督:万田邦敏
出演:小池栄子
   豊川悦司
   仲村トオル
   篠田三郎
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おたんじょうび おめでとう

ネタバレ有りです。

「人から自殺しそうな女って見られていることがどういうことか判りますか?
この人は生きていても何の楽しみも価値もないんだろうって判断されているんですよ」

主人公京子のこの台詞が印象的だった。
親しい人も居らず、家族とも疎遠、仕事場ではいいように使われ、蔑まされている28歳のOL。
ある日彼女は一家三人を殺害した坂口という男が逮捕されたニュースを見る。
彼に親近感を持った京子は、弁護士の長谷川に彼に差し入れをしたいと申し出る。
やがて二人は奇妙ながらも心を通わせ、ついに結婚までしてしまう。

京子の歪んだ一途な愛と暴走が胸を抉る。
決して共感はできないのだけど、ずっと人から無視されてきて、利用したい時だけ使われ、でも決して仲間には入れてくれない周囲にずっと胸に溜め込んだ呪詛を吐露する場面は、ただの怖さや憐れみの情だけで見られなかった。

京子は自分の思い込みに気づかない。
坂口を完全に理解していること。
彼とシンパシーを感じること。
彼女の中だけで育て上げた偶像は、やがて脆く崩れ落ちていく。

殺人という非人道的行為で今まで自分を無視し続けた世間に対して冷笑を贈る坂口は、文字通りマスコミの前で不適な笑みをみせつける。
それは京子も同様で、死刑囚の結婚相手ということで報道陣に囲まれた時にふてぶてしい笑顔で応対する。

けれど坂口には徐々に“人間らしさ”が戻ってくる。
自分が殺した一家がテーブルに座り、そこにキャンドルを掲げた自分がハッピーバースデーを歌いながら同じ食卓についた夢を見たり、血だらけの手がこちらに向かって伸ばされる幻想を見たり。

そして揺らぐことのなかった死刑への意思と相反する控訴という手続きを取った坂口に、京子は“裏切られる”。

それは自分との一心同体である筈の彼と引き離された行為。

ずっとひとりでいた彼女がようやく見つけた唯一絶対の存在が壊れようとしている。
こんなにおそろしいことはないだろう。

そして訪れる衝撃のラスト。
ハッピーバースデーを歌いながらゆっくり凶器を掴む京子。
彼女に抱きすくめられ、苦悩の表情も見せずに刺し殺される坂口。

彼は幸せだったのかもしれない。
自分の誕生日にケーキと歌をおくってくれる人物はいなかったのだから。
あの食卓の夢は、彼の家族の願望だったのかもしれない。
本当はあそこに血だらけの被害者でなく、笑顔の自分の家族が囲んでいたのならと。
そんな“普通”の願望を持つ凡庸な人間だった。
そんな通常社会に迎合した彼を京子は許せなかった。

彼女は長谷川にもナイフを向ける。
そして殺さずに、長い接吻をする。

復讐だろうか。
坂口との“特別な絆”を控訴というたったひとつの行いで切り裂いた「恵まれた側」の人間への肉体的な誘い。
事実、殺されそうになったにも関わらず、長谷川は彼女の弁護をすると叫び、それを全身で拒絶される。
「京子側」へと誘惑し、その刹那突き放す強烈な情念。

人間の孤独を体現した京子役の小池栄子が聞きしに勝る名演。
あの顔とボディで、今まで人から顧みられることがなかった女性役というのは無理があるだろう、と最初思っていたのに、見ていくうちにどんどんハマっていってびっくりした。

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2009年04月11日

気球クラブ、その後

B000NDEZBE気球クラブ、その後 [DVD]
2006年 日本
監督:園子温
出演:深水元基
   川村ゆきえ
   長谷川朝晴
   永作博美
   いしだ壱成
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輝きは 戻らない 私が 今 死んでも

ネタバレ有りです。

気球クラブの主催者、村上が死んだ。
その一報を受けた北次郎。
昔は一同に会し、気球を上げ、打ち上げでバカ騒ぎをした仲間たちとは、今は携帯電話のメモリーのみで繋がっているだけだ。
村上の死も、ケータイからケータイへと伝えられる。
何人かは村上の運ばれた病院に向かった。
けれどほとんどは
「あんま村上さんのことよく知らないし…」
とショックの様子も見せない。
北もその内の一人だった。
けれど村上の死によって、事実上解体していたクラブの面々が再度集うこととなる。
北は村上の当時の彼女、美津子のことを思い出していた。

若い面々の日々は充実している。
遊び人のみどりは気球クラブの男たちを渡り歩き、北ともつきあっているようでつきあってはいない。
とびきりおいしいカレーを作る北の友人も、みどりを含めた複数の女の子と寝ているようだ。
他にも、失恋して喚く子、定期的にバーベキュー大会を開催している人、何かと仕切りたがる人等、その青春の謳歌の仕方はまぶしいくらいだ。

ただ、肝心の気球に本当に心を寄せているのはごく少数。というより、村上だけだったのかも知れない。

北のモノローグにもある通り、本当は気球自体はどうでもよくて、ワイワイ騒げる仲間と一緒の時間が欲しかっただけ。そんな人たちの集まりのように思える。

彼らの絆は面白いほど浅く、前述したケータイつながりの場面がそれをよく表している。
でも村上はそれでもよかったんだろう。
自分の好きなことに没頭でき、それを手伝ってくれる人たちがいるだけで充分。

けれど美津子は違った。

北の思い出す彼女は、輪の中からいつもどこかはみ出ていた。
一緒に盛り上がらないというわけではないけれど、空に浮かぶ恋人の姿を、愛しそうにというよりは淋しそうに見上げていた。
時折、北にキスしてきた美津子。
淋しさの捌け口であったことを後に北は知る。

夢だけを追っているのではなく、ちゃんと自分を見て欲しかった。
地上にしっかり足をつけてプロポーズして欲しかった。


そんな美津子の心がダイレクトに伝わってくるのはラストシーン。
村上から彼女への大切なメッセージを括りつけた小さな気球型の風船のことについて、みどりに話しかけるところ。
あの小さなメモ用紙が愛の拠り所だったんだろうか。
でもそれは美津子の手元に届かない。
永遠に、彼女はそこに何が書いてあったかを知ることはない。
それを予感していたんだろうか。
微笑みながら、涙を流して風船を見上げる美津子のなんてせつなく、美しいことだろう。

そんな美津子役の永作博美が素晴らしい。
このラストシーン、静かな感情の高まりを、声高にせず、でもぎゅっと胸が締め付けられるようなせつない表情で訴えてくるところの長回しが見事。

そんな美津子の存在だけが、北の記憶としてしっかり残るだろう。
他の面々の、消去したケータイのメモリーとは裏腹に。



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2009年02月28日

ひぐらしのなく頃に

B001ECUN0Aひぐらしのなく頃に 劇場版 スタンダードエディション [DVD]
前田公輝, 飛鳥凛, 松山愛里, あいか, 及川中
Frontier Works Inc.(PLC)(D) 2008-11-21

by G-Tools


そこの村では、毎年誰かが決められた日に死に至る。

ネタバレ有りです。

予備知識まったくなく見た作品。
これはゲームやアニメを知らないと本当にさっぱりな結末。
それでもサイコで不条理なホラーものとしてはなかなか楽しめた。
そして最後まで見た後、どうしても真相が気になって色々検索。
おかげで何とな〜く、だけだけれど概要は掴めた(いや細かいとこはさっぱりですが)感じ。それは後述。

オープニング、不穏な斧や鉈、割れたガラスの上を踏みしだく裸足、瀕死のゴキブリや蝶等のコラージュが散りばめられていて引き込まれてしまった。
雛見沢という鄙びた村に東京から転校してきた圭一。
そこに男子生徒は一人も居らず、女性生徒たちは色めきたつ。
レナ、魅音、沙都子、梨花という美少女たちと仲良くなり、村の探索や祭りに一緒にでかけるようになる。
そんな時、圭一は看護婦の鷹野とカメラマンの富竹に、ダム建設予定地で起きたバラバラ殺人事件、そして祭りの日に毎年誰かが殺されるという事実を知った。
その翌日、圭一は刑事の大石から、富竹が喉を掻き毟って死んだこと、一緒にいた鷹野も行方不明となっていることを聞かされる。

前半は圭一が美少女たち(特にレナと魅音)と親しさを増していく青春そのものの情景が描かれる。
両脇の女の子と肩を抱き合ってはしゃぐ姿は、わざとらしいといえばわざとらしいけれど、その後のギャップを考えると上手く作用していたと思う。

そう、圭一が事件を友達と結びつけて疑心暗鬼となった途端豹変する彼女たちの恐ろしいこと。
少し媚びたような上目遣いでころころよく笑っていた女の子たちが、まるで別人のように彼を追い詰めていく。
特にレナの「どうしたのかなあ?」のこの「かなあ?」の語尾がまた怖くて怖くて。
彼女が以前いた学校で事件を起こした時のサイコな姿も忘れがたい。

そして以前この学校に居り、今は行方不明となっている「悟史」という男子生徒が自分と同じくかつての友達に迫害され、孤立していたことを知る。

とどめは、レナと魅音が差し入れしてくれたおはぎ事件。
圭一が頬張ったそれには針が混入されており、圭一は口を怪我してしまう。

もう誰も信じられなくなった圭一は、村人に追い詰められる。

そしてすべてが悪夢だと思っていた矢先にレナと魅音に謎の注射を打たれそうになり、彼はいつの間にか二人を撲殺していた。
そのまま姿をくらませた圭一は、自分が巻き込まれた事件を解決してくれるよう手紙を残し、電話ボックスで喉を掻き毟って死亡。
その手紙を発見したのは大石。
自分が打たれそうになった注射を証拠として同封したと記された手紙の中に入っていたのは、注射器ではなく、マジックペンだった…。

とここで映画は終わっている。
意味深に出てきたオヤシロサマの祟りだとか、鷹野の死体が別人であったりとか、なぜ富竹と圭一がそろって喉をひっかいて死亡したのか等いっさい説明はない。
でもどうやら続編、というか完結編である『ひぐらしのなく頃に 誓』が公開されるようだからそこですべての説明はつくんだろうか。

もちろんそれまで待てずに上記の通りわたしは色々サイトを読み漁ってしまったのだけど。

それを読むと、映画のラストのあのマジックペンの件が一応ヒントになっていたことに気づく。
つまり、圭一が注射器だと思っていたものは、他愛もない魅音の愛用マジックペンで、すべては圭一の被害妄想による惨劇であったというオチ。

で、なぜそんな妄想に陥ってしまったのか、これは映画を観ただけではまず想像もつかない。

どうやらこの村には「雛見沢症候群」という風土病が蔓延しているらしく。
それにかかると精神不安となり、重度の症状が発症されるという。
それにかかってしまった圭一。
レベルがあるらしく、日常をまだ普通に生活できる分では「L3」。
末期の「L5」では妄想が激しくなり、喉に異常な痒みを覚え、最終的に掻き毟って死亡してしまう。
そういえば、映画の中で具合の悪くなりはじめの圭一を診察した病院の先生が、カルテに「L3」って記していたよなあ、と思い出した。

だからおはぎ事件も、実は針なんて入っていなかった。
事実、うなされて目を覚ました圭一の口元には、ある筈の傷がなくなっていたっけ。

他にもいろんな事実があるけれど、膨大すぎてわたしが掴めたのはわずかこれだけ。

鷹野が一体どうしてラストシーンで佇んでいたのか、電話ボックスで圭一を見つめていたのは誰か等も下記サイトに載っているけれど全部は読んでいない。

でもこうして考えると、圭一の身を案じて色々様子を見て世話をしていたと思われるレナと魅音が憐れでならない。
ラストにいつかのように三人で寄り添って歩いていたシーンがとてもせつない。

さて、続編が待たれる。


※参考サイト→・ひぐらしのなく頃にネタバレレビュー
       ・ひぐらしのなく頃に 真相

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2009年02月17日

悲夢

B002AOWWSW悲夢 [DVD]
2008年 韓国
監督・脚本:キム・ギドク
出演:オダギリ ジョー
   イ・ナヨン
   パク・チア
   キム・テヒョン
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かなしい夢。憎い相手に抱かれること。
そんな夢を見させてしまうこと。
心のないものは夢に非ず。

ネタバレ有りです。

ある事故で知り合った男女、ジンとラン。
彼らには不思議なつながりがあった。
ジンの見た夢を、夢遊病者となり実行するラン。
ジンが別れた恋人と会えば、ランも今は憎しみを抱いている元恋人の元へと赴く。
何とかそれを阻止しようと、二人は交代で眠りにつくことを試みるが…。

不思議な恋愛映画。
ジンは元カノに未練たらたらで、夢での逢瀬でもそれを望んでいる。けれどランに辛い行動をとらせてしまうことに心を痛める。
それは心だけでなく、身体的にも。
針を頭に刺し、手錠をはめ、そしてどうにもならなくなった時、商売道具である彫刻等を脚にぶっ刺して眠気を止めようとする。
過激な行動、自己犠牲、本音の衝突。
有り得ないシチュエーションで知り合う男女、なぜか通じ合う言語(オダギリ ジョーは日本語を話し、その他の人物たちは韓国語を話しているのに、それがそのまま会話が成り立っている)、そして眠らないように瞼を指でくくり上げて出来た変顔披露等、どこかユーモアラスでファンタジックな前半と打って変わって、中盤以降、ギドクさながらの転がり落ちていく男女のさまは、予想も息をもつかせない。

白と黒は同色。
そう言われた二人は、リアルの世界でも片方が黒、片方が白の衣服を着ている。
それが中盤、ジンとランとその元恋人たち4人が一同に介し、複雑な痴話喧嘩を繰り広げるシーンでは、その衣服着用が逆になっている。
正反対のものが実は全く同じ。
なんて矛盾していて、なんて悲しい運命なんだろう。
どちらかが幸せならばどちらかが不幸。
そんな運命を背負ってしまった男女が魅かれあったところで、破綻は目に見えている。

結局ランは、ジンが見た夢の通り、元カレを殺し、服役する。
ジンは橋の上から身を投げる。

けれどそのジンの傍らに、ランが現れて、そっと手を握る。
蝶を食べて蝶となったラン。
それこそ胡蝶の夢のような美しいラストシーン。

つくづく、ギドクは正攻法で恋愛成就を描かない監督さんなのだと再認識させられた。


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2009年01月21日

変態ピエロ

B001JTCUF4変態ピエロ [DVD]
ミカエル・ユン, パトリック・シェネ, ジャッキー・ベロワイエ, エロディー・ブシェーズ, ブルーノ・メルル
キングレコード 2009-01-07

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僕の願いをきいてほしい。
うたを歌いたい。憧れの歌手と。
元カノと会いたい。できればよりも戻したい。
でも僕は殺され続け、最愛の父親は死んでいる。
僕は顔を白く塗った。道化となった。さあ僕の願いを叶えて。

ネタバレ有りです。

一言で云ってしまえば、狂った男の異常な愛情を描いた作品。

ピエールは番組の前説を担当するそれなりに名を挙げているコメディアン。
でも不眠症に悩まされ、父親の死に直面し、ある日有名歌手のクロヴィスを監禁してしまう。
彼の望みは、クロヴィスと同じステージに立って歌うこと。

とにかくこの“ピ”の愛称で親しまれている筈のピエールが不快。
彼の最初に披露する、知的障害者をネタにした前説もそうだし、それに劈くような笑いを響かせる客席も同様。
狂ってしまってから(どう考えてもあれはまともじゃないでしょう…)、自分勝手な要求を突き出したり、クロヴィスを痛めつけたり、もう色を失っている父親の死体の横に同衾したりと、その奇行は果てなく続く。

そして幾度か現れる正体不明の怪力男。
それに窓から投げ出され、ピエールは何度か彼に“殺されて”いる。
でも落下し、地面に突きつけられる直前、画面はいきなり優雅に海を遊泳する魚の群れへと切り替わる。
かと思うと、いつかの恋人と愛を交わしたり、自分の幼かった頃の思い出が幻として表れたりもする。
現実と過去と妄想の入り組んだ精神世界。だからピエールは既にまともに機能していないことが見てとれる。

ただ、そうなってしまった経緯はもの凄くありふれ、でもだからこそ共感を呼べるものとなり、この作品は決して全てが不可解なわけではない。
容姿に恵まれなかったことへのコンプレックス。
きれいな彼女への未練。
本当はもっと別の仕事がしたかったという悔恨。夢への挫折。
そんなフラストレーションが積もりに積もった結果なんだろう。

ただ面白いのが、そんな彼に触発されて、当の有名歌手クロヴィスが、失われつつあった歌への情熱を取り戻すところ。

ピエールにさんざ崇められ、賛辞を贈られ、でもあわや命を落としそうな経験をし、そこから生還(ピエールは結局あっけなく警察に射殺される)した後、自分の仕事の素晴らしさに気づいたんだろうか。

ラストのピエールとの“共演”シーンは思いのほか感動的だった。

なぜ原題が『HEROS』なんだろう、と不思議に思っていたけれど、最後まで見て納得。
なるほど、クロヴィスには人生を取り戻してくれたピエールこそが“ヒーロー”というわけか。

精神的にはキツい場面もあるけど(多かれ少なかれ挫折を味わっていたり、容姿にコンプレックスがある人なら尚更)、表面的にはグロテスクさがなかったなかなか好みの作品。
ピエールの元カノ役でエロディ・ブシェーズの姿を見られたのも僥倖。
ただ、日本で勝手に変態シリーズを作るのはやめてほしい。


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2008年12月24日

ブロークン

B001TKULXGブロークン [DVD]
レナ・ヘディ, リチャード・ジェンキンス, ケイト・コールマン, メルビル・プポー, ショーン・エリス
アミューズソフトエンタテインメント 2009-05-22

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ある日 もうひとりのわたしを見た。

ネタバレ有りです。

X線技師ジーナは、ある夜父親のバースデーを祝っていた。
恋人のステファン、弟のダニエル、その恋人ケイトも同席して場は盛り上がっていた。
突如、大きな鏡が音をたてて割れ落ちる。
その日からジーナの周辺で不思議なことが起きはじめる。
決定打は、自分と全く同じ顔をした女性を見つけたことだった。
彼女を追跡した帰り道、ジーナは自動車事故を起こし、事故前後の記憶をなくしてしまう。
それ以後、親しんだ恋人ステファンがどうしても別人のように感じてジーナは苦しむ。

映画の冒頭に、エドガー・アラン・ポーの小説の一節が引用される。

 “お前は勝ったのだ 私は降参する

 だが これより先はお前も死んだ

この世に対し天国に対し 希望に対し死んだのだ

私の中にお前は生きていた

私の死でお前がいかに 自分を殺したかを見ろ

お前自身のものであるこの姿で見るがいい”

ずっと以前に読んだことがあって、この部分も印象的だったものの、作品名が思い出せず、後で検索して『ウィリアム・ウィルソン』であったことが判明。
この引用が実はネタばらしになっていたのね。

観終わった直後は「?」マークばかりが頭に浮かんでいたけれど。
まとめると、こんな感じだろうか。

・先ず前提として、ジーナたちが普通に暮らしている“オリジナル”の世界と、鏡合わせになったような“ミラー”の世界がある。

・ミラーの世界の人間(以下ミラー)は、鏡が割れると(割って?)オリジナルの世界にやって来る。

・オリジナルのジーナがミラーのジーナを見かけ、ミラーの家に行く。

・オリジナルジーナ、ミラージーナに殺される。

・ミラージーナ、オリジナルジーナ殺害後、返り血を浴びた部分に気をとられて自動車事故。

・ミラージーナ、記憶をなくし、オリジナルとして生活を始める。

・多分この事故前後にオリジナルステファン、ミラーステファンに殺されている。

・オリジナルケイト、ミラーケイトに殺害される。

・この時、絵のある部屋に不気味な後姿をしたダニエルがいるが、多分これはミラーダニエル。

・オリジナルパパ、ミラーパパに殺される。

・ミラージーナ、自分がミラーであることを思い出す。

・オリジナルダニエル、姉を見て怯えているところを見ると、彼も周囲の人間がインベージョンされていることに気づいている様子。

それまでに、自分の親しい人間が別人にすりかわっていると思い込む病気・カプグラ症候群にジーナがかかっているのではないか、という診断があり、それまでに展開された不気味なシーンがすべてジーナの妄想というオチだったらどうしようかと思っていたけれど。

最後にミラージーナがすべてを思い出す場面は衝撃的。

だから彼女がラストに自分の内臓逆位の写真を見つめるところは恐ろしい。
1000人に一人という確率の異常症状。
でもこれからどんどんミラーがオリジナルを殺してすりかわっていったのなら、その内臓逆位が決して珍しいものではなくなっていくのではないか。

それを予感させるのが、ほんの一瞬しか出てこない不審な登場人物たち。

先ず、ダニエルと同じアパートに住む男。
「妻が…」
と不安そうな顔をして何かを訴えようとしていた。
きっと彼の妻はミラーに取って替わられた後だったんだろう。

そして地下鉄で
「こいつはそうだ」「こいつは違う」
とつぶやいていた老婆。
彼女はオリジナルとミラーを選別できる特別な能力者だったのかもしれない。

この世にもうミラーのインベージョンが氾濫しているのだというエピソード。

映像はスタイリッシュだけど、とにかく大きな音で驚かせる手法が多くて、今度はいつ来るかいつ来るかと身構えてしまって、けっこう疲れた。
『サイコ』を彷彿とさせられるシャワーシーンでの殺害も、こちらはかなりグロい映像をそのまま直接見せちゃうし。
それでも硬質な美貌のヒロインがこの世界にハマっていて良。
鏡の中の彼女が、本体と異なる動きをしたシーンはあまりに恐ろしくて鳥肌がたった。

『フローズン・タイム』が肌に合わなくてあまりこの監督さんの作品には期待していなかったけれど、なかなか見ごたえのあるサスペンスであったことが嬉しい。


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2008年11月15日

彼が二度愛したS

B001QF3MO4彼が二度愛したS [DVD]
ヒュー・ジャックマン, ユアン・マクレガー, ミシェル・ウィリアムズ, マギー・Q, マーセル・ランゲネッガー
Happinet(SB)(D) 2009-04-24

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「Are You Free Tonight ?」
電話口でそこから始まる名も知らぬ相手との逢瀬。
のめりこんだ男を待ち受けていたのは、友人だと思っていた人物からの大きな罠。

ネタバレ有りです。

シャイで孤独な会計士のジョナサン。
ふとしたことから知り合った弁護士のワイアットと携帯電話を取り違えたことによって、彼が所属する秘密クラブに参加することとなる。
名や職業を明かすことも、お喋りすることもタブー。
ただ待ち合わせてホテルで情事に耽る甘美な体験。
そんな中で知り合ったイニシャルが“S”としか判らない女性を愛してしまうジョナサン。
彼女と話し、食事をし、ようやく結ばれると言うときに彼女は消えた。ベッドに血痕をのこして。

…面白いプロットなんだけどなあ。
ここまで粗だらけでラストも冗長すぎるサスペンスドラマはそうはないぞ。

大体、ワイアットの計画からしてツッコミだらけ。
ジョナサンを秘密クラブに引き入れることで、彼の弱みを握ろうとしたのか、でもそれならSというハニートラップを仕掛ける必要はなかったわけで(ジョナサンが彼女に惚れるかどうかなんて判らないし)、キャリア女性しか登録できないクラブに娼婦のSを潜りこませることに意味がない。

そして金の送金をやらせて用済みとなったジョナサンを殺し、彼になりすまして外国の銀行から金を引き出そうとしているけれど、ワイアットがその時点で知らないだけで、ジョナサンはまだ生きている。
生存している人間にそうやすやすとなりきれるものなの?
特にジョナサンには他の女性殺しの重要参考人として警察からマークされているというのに。

そのジョナサンもジョナサンで、彼はワイアットになりすまして本人の目の前に現れるんだけど、上記のことを考えるとその段取り一体どうやったのよ?

そのスペインでのジョナサンの反撃もようやく始まったと思いきや。
何だかずっとキョロキョロしているから、きっとあの警官とタッグを組んでいて、何かあったらすぐにワイアットを逮捕するようにしていたのかな、と思っていたのにそうではなく。
あれはただ単にSを探していただけ?

おまけにワイアットに銃を向けられるシーン。
当然そういった命の危機に晒されることは承知の筈だから何か対策してあると思ったら。
おいおいただ固まってるよ。
想定外の出来事だったのか!!


と、最初っからずっと騙され続けていたジョナサンのアホさ加減(そして何となく情けない白ブリーフ姿もあわせて)がここまでくると何となく愛しくなってくるから不思議。

その後はワイアットは予定調和にSに射殺されてしまうんだけど。
そしてジョナサンを騙していたことへの罪悪感か、Sは彼の元を去っていく。
これで終わらせればよいものを、それから何日か経ったと思しきスペインの広場で二人は再会。笑顔で互いに近づいていく―。
って冗長すぎでしょう。
『第三の男』の潔く美しいラストシーンを見習ってほしかった。

役者さんは豪華な顔ぶれなんだけどなあ。
ヒュー・ジャックマンは悪役やっているのが楽しそうだし。
ユアン・マクレガーは前述した通りおバカなシャイボーイがなかなかはまっていたし。
S役のミシェル・ウィリアムズは『ブロークバック・マウンテン』での薄幸な妻役がウソのように華やかで妖艶な美女になっていてびっくり。
クラブの会員としてちょこっと出てくるシャーロット・ランブリングの圧倒的な存在感と、きれいな肢体が拝めるマギーQもなかなか良かった。

ただしやっぱりサスペンスとしてはC級。
これのどこに惚れこんでヒューは出演を熱望したのか、謎。


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2008年11月03日

石の微笑

B0019CEE50石の微笑
ブノワ・マジメル, ローラ・スメット, オーロール・クレマン, ベルナール・コク, クロード・シャブロル
アミューズソフトエンタテインメント 2008-08-22

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わたしを愛しているのなら、証明して。
木を植えて。
詩を書いて。
同性と寝て。
そして人を殺して。

ネタバレ有りです。

フィリップは真面目で物静かな青年。
そんな彼が妹のブライズメイドとして現れたセンタという謎めいた女性と恋に落ちる。
複雑な出自やウッディ・アレンの映画に出演した等のセンタの虚言にはじめは苦笑していたフィリップ。
けれど彼女が自分の母親を弄んだ男を探し出して殺したことを知り、その闇に落とされていく。

一目見たときから運命を感じた二人。
よくあるファム・ファタルものではあるけれど、少し特殊なのは、フィリップがセンタに魅かれたのは、彼がずっと大事にしていたソフィというトルソーに顔が似ていたから。
何しろ彼はこのソフィを胸に抱き、ベッドにはべらせ、時には接吻までするという異常愛を見せている。

ところでこの『石の微笑』というタイトル、わたしは真っ先に漫画『ガラスの仮面』に出てくる劇「石の微笑」を思い浮かべてしまったのだけど、実際に映画を観てみると、それも内容がけっこう近い(どちらもただの彫刻か人形に愛を注ぐ)ことが判ってちょっと笑ってしまった。

閑話休題。
ずっと愛を秘めていた像にそっくりの生身の女性が現れたのだから、これだけセンタが異常な面を見せても、なかなか彼女から離れられないフィリップの姿には説得力がある。

そのセンタの身の上も特殊だ。
暗い地下の部屋に暮らし、屋敷は広いのに使われていない部屋と家具がひしめいていて、消毒が必要なほど臭いがたちこもっている。
そんな家の光の射す部屋では、センタの義母とそのパートナーが軽やかにダンスを踊っている。

センタが前の恋人を略奪した女を殺して地下の一室に置き、また愛の証明のために人を殺すという行為を繰り返していることを知ってから見ると、この身内の何も知らないゆえのダンスがひどくシュールなものに映る。

フィリップはそちら側に行けなかった。
センタと共に地下=闇の世界に落ちることを選ぶ。
その地下の部屋からは、やはりダンスステップを踏む足が見える。皮肉なショットだ。
彼がセンタにソフィの像を渡してしまったのは、自らその呪縛に捉われに行ったとも見えなくもない。
けれど彼には刑事の尾行がついている。センタの悪事がばれるのもきっと時間の問題なんだろう。

さて、このフィリップを演じた、いかにも繊細そうなブノワ・マジメルは悪くなかった。
反対にファム・ファタルにはちょいと美貌が足りない気がするセンタ役のローラ・スメットは少し残念。
彼女のことは人の話にのぼるだけで、最初なかなか顔を見せないことでどんな美女が登場するかと思いきや。
あの花嫁との写真撮影の時、正直
「ああ、脇役の人、ぶすくれてるなあ。まあエキストラだろうから別にいいか」
と思っていたら、次第に彼女にスポットが当たりはじめ、それがセンタだと知った時はとてもびっくりした。
妹役の人がとびきりの美人だっただけに、ギャップが…。
その内狂気が見えてくるようになってからは悪女然とした魅力が見えてきたけれど。
やっぱり映画に限っては美が大きく作品を左右すると思う。


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2008年09月08日

眠れる美女

B0017UE0VM眠れる美女
ヴァディム・グロウナ, マクシミリアン・シェル, アンゲラ・ヴィンクラー, ビロル・ユーネル, ヴァディム・グロウナ
ジェネオン エンタテインメント 2008-06-25

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わたしは眠っている少女を愛でる。
なんという悲嘆。なんという興奮。

ネタバレ有りです。

川端康成の原作をドイツで映画化。
事故で妻子を亡くしたエドモンドは友人の紹介である館を訪れる。
そこでは一糸纏わず若い肢体を晒した美女が客を迎える特異な場所だった。
何をされても彼女たちは眠り続ける。
何をされても判らない。
そんな頽廃に老人は次第にはまっていく。

ひどく緩慢に老いはエドモンドを蝕む。
それが家族を亡くしたことで傷は一気にひらく。
それを癒す役割を担う正体不明の裸の少女たち。
彼女らに母親のことや初体験のことを話すうちに、治癒されるべき心が好奇心にとって変わる。

老いても男は男のまま。
少女と同衾するごとに乳房に吸い付くエドモンドはまるで母親に甘えているようでもある。
ひとりの少女の純潔を奪った彼はそんな依存心を形にあらわしてしまったのだろうか。

儚い夢は夢のまま、眠った少女はまぶたを閉じさせたままでいたらよかったのに。

目が覚めている状態の少女を追った彼は館の経営者?によって消される。
そこの女主人の存在感は圧巻。
それが天使の姿となって死にゆくエドモンドを迎える。

壮大な癒しの場面である筈なのに、現実はただ殺されてしまったという悲惨な顛末。
その現実も知らぬままに逝ったエドモンドは幸せなのか。

眠った少女と同じく、幸福な時間はすべてがうつつ。

エロティックなのにやけにもの哀しい映像が印象的。


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2008年08月07日

緑茶

B000I8O8YI緑茶
2002年 中国
監督:チャン・ユアン
撮影:クリストファー・ドイル
出演:ジャン・ウェン
   ヴィッキー・チャオ
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彼女はいつも緑茶を注文する。

ネタバレ有りです。

メガネをかけて、髪を後ろにひっつめ、固いスーツに身をつつむ大学院生のファン。
彼女は見知らぬ男性と喫茶店で出会う“見合い”を繰り返していた。
そんな中、軟派な感じの男性ミンリャンと知り合う。
反発感を顕わにしながらも、彼につきまとわれ、話をするようになるファン。
そしてミンリャンはホテルのラウンジでピアノを弾くランランという女性を見初める。彼女はファンと瓜二つの相貌をしていた…。

都会の中で繰り広げられるちょっと不思議な恋愛の物語。
誰もが少しずつ淋しくて、満たされなくて、他人を求めて、でもすんなりゴールに向かわない。

ファンは頭が良くて実は凄く美人な設定ながら、ブラインドデートを欠かさない。
グラスに踊る茶葉で恋愛占いをする友達のことをちょっとずつミンリャンに話す。
彼女の死化粧を生業にしている母親のこと、それを知って辛くあたる父親のこと。
でもそれはファン自身の話なのかもしれない。
自らのことを客観的にしか語れない彼女の輪郭はひどく曖昧だ。

それを象徴するようなクリストファー・ドイルによる撮影がすばらしい。

時に薄いセロファンのようなものを介在して、色とりどりの中から人物を映し出し、時にくるくるまわるグラスの茶葉と、テーブルを囲む何人もの男女の諍いの様子をリンクさせて見せてくれる。

核心をさけるという手法が一番いきているのはラストシーン。
分厚いでこぼこのガラステーブルを真下から見据え、ファンとミンリャンの語り合いを撮ったシーン。
二人の顔らしきものがぼんやり映し出され、そして重なった手が次第にはっきりとその輪郭を現す。
“たしかなもの”がやっと目の前に現れたようでもあるし、またあくまでガラスを通しての不安定さを露呈したようでもある。

だから結末も観客にゆだねられているような感じ。
ファンとランランも同一人物だったのかは明かされない。

それでも、ミンリャンとランランのホテルの廊下での無邪気な戯れと、あのガラスのシーンを見ると、冷たい都会の中で男女が誰かと触れ合っているというやさしさの滲みを感じ、ひどく心地がよかった。


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2008年06月08日

小さな悪の華

B00116R1A4小さな悪の華
ルナール・デラン, カトリーヌ・ヴァジュネール, ジャンヌ・グーピル, ジョエル・セリア
video maker(VC/DAS)(D) 2008-02-20

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湖底に浮かぶキリストの聖体。
小さな悪にすてられた花びらのように。

ネタバレ有りです。

15歳のアンヌとロール。
彼女たちに芽生えた悪のつぼみ。
はじめは学校のシスター同士がキスしているところをチクる程度のまだかわいい行為が、どんどんエスカレートしていく。
下着を見せ、足を開いて学のない牧童を誘惑。庭師の大切にしていた小鳥を殺害。干草に火を放ち、サタンに身を捧げる儀式を行う。
そして果てに行きずりの男性を殺してしまう……

世界は平凡で、倦むべきもので、男性の性欲は滑稽。自分たちだけが輝いている。
少女の残酷さはどのシーンでも見られる笑い声に象徴される。
人を嘲ったり痛めつけたりする時につんざくような笑い声を彼女たちはあげる。
あどけない顔をした悪の花。
お互いに相手が世界のすべてだと凝り固まってしまったサンクチュアリは、観念的な神はもちろん教師も両親も、立ち入ることができない。

男たちを惑わす彼女たちは真っ白な下着をつけている。
その姿に欲情してむしゃぶりつく彼らを、その時になって必死に抵抗する姿はそのまま年相応の少女そのものだ。
自転車に乗ってワンピース姿で木漏れ日の中を走るのだって若さゆえの美しさにあふれている。
そんな平凡さを嫌ったのか。
何を求めて、現世の何に失望したのか。

とにかく彼女たちはまるで新世界に旅立つように、ステージで自らに火を放って自殺してしまう。

観ている側が到底理解できそうもない悪行を嬉々としてやり遂げていくストーリーはかなり嫌な気分にさせられる。
あまりに背徳的で、アメリカと日本でしか公開されなかったというのがうなずけるというもの。

それでも、まるでもともと“悪い種子”が体内にあって、それが発芽したとしか思えなかったアンヌが、小鳥を自分の手で握り潰したときに走り出し、涙を流したシーンではっとさせられる。
思慮がないわけでも、小動物に対する思いやりがないわけでもない。
そんな普通の少女の顔が垣間見えたところでまた複雑な思いにさせられた。

悪い種子はなかった。
でも自分と同じ感性をもった少女と出会ってしまい、自ら悪の華を咲かせてしまったのかもしれない。

 “愛したのか 愛されたのか
  それは わからない”


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2008年03月17日

リチャード・ニクソン暗殺を企てた男

B000CEK57Mリチャード・ニクソン暗殺を企てた男
ショーン・ペン ナオミ・ワッツ ドン・チードル
アートポート 2006-01-27

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 アメリカ合衆国が砂漠だとすると、自分はその中の一粒の砂

その一粒の砂が巨大な砂漠に完全に埋もれていく物語。

ネタバレ有りです。

サムは純粋ながら不器用な家具のセールスマン。
妻と子供がいるが、別居しており離婚寸前だ。
もともと嘘や差別が嫌いな潔癖症が災いして、客と駆け引きをし、あるいは騙したりもするセールスのやり方に馴染めないサム。
妻を愛していても、相手の心はどんどん離れていく。
彼の絶望と怒りは時の大統領ニクソンへと向かった。

民間機を乗っ取り、ホワイトハウスめがけて撃墜しようとした男の実話。
けれどそのハイジャックの様子はラストの数分で描かれるのみで、そこに至るまでの主人公の狂気をじっくり丁寧に追った人間ドラマ。

サムは清くあろうとするほどに歪になる。

セールスマンなんてハッタリをかましてナンボ、それで成績を上げることも求められるだろう。
でもサムにはそれができない。
家具の仕入れ値をごまかして利益を得ようとするボスのやり方に不満を募らせている。
世間を渡る要領のよさというものにサムは無縁だ。
そういう人はひどく生きづらいだろう。
徹底的にボスを糾弾する彼は、世間から浮いてしまっている。

妻に対しても、まるでストーキングするように別居宅や仕事場に入り浸ったり、しつこく愛を乞う。
相手がうんざりしていてももうそんなことは眼中にない。

そうやって自分を押し付けるあまり、黒人の友人を、他者が決してそんなことはないのに、差別をしたのだと憤慨し、かえって友人を傷つける場面もある。

タイヤ営業の計画もすべて自分のやりたいことを全面に押し付けているだけ。

けれど自分が純粋であることを疑わない。
そこから彼の狂気は始まっていた。


サムが決して悪人でなかったことはよく判るから、彼があまりに哀れで、見ていられなくなる。
砂漠に呑み込まれた砂。
その砂の怒りは、砂漠の頂点、時の大統領ニクソンに向かう。
戦争を終わらせると公約を掲げながら実際は逆のことをし、ウォーターゲート事件を起こした大統領。
誰かの所為にしないと自己を保てない人間の歪みと悲劇。

彼のしたかった「正しいこと」はそんなことではなかった筈なのに。

箍が外れたとよく判るシーンが、かわいがっていた愛犬を撃ち殺したところ。
なんて哀しい人生なんだろう。

そんなサムを演じたショーン・ペンが素晴らしい。
脇をナオミ・ワッツやドン・チードルが固めるも、やはりペンの独壇場。
淋しそうな瞳が、くしゃくしゃに哀しみで歪む顔が、見ていて胸を締め付けられた。

実際の犯人もどんな人生を歩んできたんだろうか。
あのバーンスタインへの手紙は実際に男が書いたものなのか?
そこまで調べていないので判らないけれど、潰されていく一粒の砂のことを思うと、やりきれなくなる。


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2008年02月19日

素粒子

B000W7E68S素粒子
モーリッツ・ブライプトロイ フランカ・ポテンテ マルティナ・ゲディック
ジェネオン エンタテインメント 2007-11-21

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奔放な母親に育児放棄された異父兄弟。
成長した兄ブルーノは妻子のある国語教師になりながらも、やまない性欲をもてあましていた。
弟のミヒャエルは天才的な研究者で、クローン技術を進化させることに尽力していた。けれど人間的な感情に乏しく、ペットのインコが死んでしまっても、機械的に生ゴミに死体を放り投げるという行為にその性格が象徴されている。
そんな二人はそれぞれ運命的な恋人と出会うが…

ネタバレ有りです。

人の持つみじめったらしい欲求、下心、その反対の無関心等、できれば目を背けていたかった部分が露見される。
殊にブルーノは自分を愛してくれなかった母親への慈愛を求めるかのように、周りの美しい女性たち(太った妻はもうその役目がないようだ)に欲望の目を向ける。
自慰の対象としていた教え子の美少女にそのまま性欲を向けたシーンは、こちらがやりきれなくなるほど恥ずかしくていたたまれなかった。

そしてただ「ヤリたい」がためにヒッピーの集まるヌーディスト村に出向き、ガールハントに余念がないどうしようもなさ。
ただそれが愛を手向けられなかった“渇き”の権化であることが何となく判るし、彼はすでに精神を病んでいるのだから、それを一概に冷たい目で見ることもできない。

反対に愛の希求を諦めた―諦めざるを得なかった―ミヒャエルは、ずっと自分に真摯に向けられた幼馴染の女の子からの想いを我知らずにすべて拒否する。
クローン技術に没頭したのも、人間の愛の営みを否定していたからかもしれない。

どちらにせよ、母親の罪は大きい。
もたらされるべき母のいつくしみがないということは、こんな結果を生むことがある。

愛し方が判らない。
だから一人はもがき、一人は淡々と勉学に没頭する。

そんなブルーノはジャグジーですばらしい女性と知り合い、体を重ねる。
けれど彼女は病気のため半身不随になってしまい、ベランダから投身自殺をしてしまう。
ミヒャエルもようやく自分を見つめ続けていてくれた幼馴染と結ばれるも、授かった小さな命が失われてしまう。

そんな報われなさをただ画面で見せられても、こちらは気分が沈むばかり。
いっそのこと、トッド・ソロンズ監督のように思い切り辛辣でブラックな描写をコメディで包んでくれたらいいのに、本作品にはそれがない。
すべてシリアスで救いようのなさがハンパない。

ただ、このブルーノ役のモーリッツ・ブライプトロイの演技は絶妙。
この情けない、でも同情しないわけにいかないキャラクターになりきっていた。
『ラン・ローラ・ラン』で再び共演のフランカ・ポテンテとの絡みに期待していたけれど、ラストシーンにちょこっとだけで残念。


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2008年01月24日

ゼロ時間の謎

B00169ZDMOゼロ時間の謎
2007年 フランス
監督:パスカル・トマ
原作:アガサ・クリスティー
出演:メルヴィル・プポー
   キアラ・マストロヤンニ
   ローラ・スメット
   ダニエル・ダリュー
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アガサ・クリスティーは大好きで、中学の頃そのほとんどの著作を読み漁った。
そして今そのほとんどを忘れた。
覚えているのは、『そして誰もいなくなった』や『アクロイド殺し』『鏡は横にひび割れて』等、強烈に結末が印象に残っているものくらい。
なので当然(?)この映画の原作である『ゼロ時間へ』は内容を覚えていない。
だからまるで初見のような新鮮さで見られたのは結果オーライか。

ネタバレ有りです。

海辺の別荘に集まった人々。
莫大な財産を持つ夫人とそのハンサムな甥。
彼の慎ましやかな前妻と奔放で気の荒い現在の妻。
彼らの友人。
夫人に仕える召使たち。

ある日夫人が頭部を殴られて殺される。
遺産の相続は身内から従者に至るまで全ての人間に権利があった。
つまり全ての人間が容疑者。
そこにバカンスに来ていたバタイユ警視は調査を始めた…。

高級な邸宅、昔ゆかしい暖炉とその細工、メイドや執事が傅く生活様式等、ああクリスティーがこれを書いた時代を再現していてなかなか良いな、と思いきや。
前妻が誰かの墓参りをするシーンがある(誰の墓なのか、これが以外に重要だった)。
そこでの墓石に刻まれた故人の没年が「2005年」。
え?現代ですか?
そこに先ず違和感。
いまどきあんなブルジョアたちっているんだろうか…。

そして後から判ってくるものの、最初に出てきた窃盗を疑われた女子生徒や、崖の上で投身自殺を図った男の存在がどう事件に関わってくるのか、登場人物が多いだけに少し混乱した。
館に集うメンバーも、現在の妻が飛びぬけて我がままでギャーギャー騒ぎたてているくらいで、どの人物も描写が薄い。
甥役のメルヴィル・プポーでさえ、あのノーブルな美貌がかえって没個性となってしまっていた。

なのに端役ながら毎回その登場シーンが待ち遠しくなるほど強烈な印象を残してくれた年増のメイドの存在感はどうだろう。

庭のベンチに横になって優雅に草木にシャワーで水を撒いていて、主人が戻り慌てて出迎えに走るシーンにはじまって、階段を上るときに後ろから執事にお尻をもみしだかれて「ウシャシャシャシャ」と豪快に笑ってみたり、主人の死の後ずっと泣きとおして今にも抱えたお盆の上のグラスが落ちそうだったり、とにかく彼女の可笑しさかわいらしさに夢中になってしまった。

これは、あれだ。
「ガラスの仮面」で演技の天才北島マヤが、ほんの少ししか登場しない舞台の役で出演するも、あまりにインパクトが大きすぎて、観客が主のドラマよりも彼女の姿を追い続けてしまった、というあのエピソードを彷彿とさせられる。
だからびっくりするほど主役たちが印象に残らず、彼女以外が「その他大勢」となってしまった。

それから色んな伏線を集めて、それを推理してみんなの前で大披露、というのがミステリの常套であり、読み手の楽しみでありながらも、今回はそのカタルシスも薄い。
バタイユ警視がどうも活躍しなくて…。
事件に目鼻の利くミス・マープルやポアロが好きなだけにどうにも彼は地味すぎる。

彼が気づいたことは、暖炉の前の対になった飾りの一方だけがキレイであり、それが凶器として使用されたのでは、ということくらい。
事件の犯人が判ったのは、犯人を見ていたという部外者の証言からでした。って。
一応読んだはずだけど、「ゼロ時間へ」ってこんな内容だったっけ?

結局、実は前妻に捨てられたあの甥が、彼女を許せなくて罠にかけたという歪んだ愛の結末。
そこでヨヨヨと泣き崩れるメルヴィル・プポーは最後までマンガっぽかった。

なかなかクリスティー原作もので良いと思った映画に巡り会えない。
新しい企画は持ち上がらないものだろうか。


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2008年01月18日

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

B0016OTUMIスウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 特別版 (2枚組)
ジョニー・デップ ヘレナ・ボナム=カーター アラン・リックマン
ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-06-11

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 そこの旦那!髭を剃ってパイの実になってみないか?

ネタバレ有りです。

無実の罪で15年も投獄されていたベンジャミン・バーカー。
彼の美しい妻に横恋慕したターピン判事の仕業だった。
ロンドンに戻り、妻が服毒し、娘は判事が閉じ込めていることを知って絶望する彼は、トッドと名前を変えて復讐を誓う。
彼にひそかに片想いをしていたパイ屋を営むミセス・ラヴェットもそれに協力。
トッドの殺害する人々を使った“人肉パイ”で店を繁盛させる…。

このおどろおどろしい物語をミュージカルに仕立てたティム・バートン。
ブラックなテイストを彼独自のコミカルな味付けに……
してあるんだと思ってました。
甘かった。
R-15指定が納得の血みどろ残虐。


まあ剃刀で人の喉元を掻っ切って殺す殺人鬼の話だと知ってはいたから、多少の覚悟はしていたものの。
スパッと前触れなく剃刀が踊るシーンもあって、そこは目を背けられずにモロに見てしまった。鬱。
そしてなが〜く時間をかけて首を切っていくところもあって(当然それは正視できなかった)、一体ティム・バートンはどうしちゃったんだと涙目。

それでも最後まで何とか持ちこたえていられたのは、色を失ったロンドン界隈と人々の暗い色彩と、不意にそこに挿入される夢のように(まあ夢想だけど)明るく美しいラヴェット夫人の理想の世界との対比がなかなかせつなくて良かったため。
彼に一人でないこと、自分がいつでもそばにいること、妻を忘れて自分を愛してほしいこと。
そんな子供っぽいながらも純粋で切実な想いが詰まった映像。
けれど後で彼女の“ウソ”が判ると、そのシーンが歪んだ愛の塊に変貌する。

そう、トッドの妻は実は死んでいなかった。
路地をうろつく気のふれた老女をばっさり斬り殺すトッド。
けれどその老女(のように見えていただけ)こそが彼の妻だと判った時は本当にびっくりした。
これをはじめとしてラストは驚きの三連発。
妻の死を騙ったラヴェット夫人をトッドは許さず、火の釜の中に突き落として殺してしまうし。
さらにラヴェット夫人を慕っていた孤児のトビー少年にトッドは首を切られて絶命してしまう。
妻に流れ落ちる血が、二人をようやく繋いだ糸のようにも見える。
けれどそんな呑気なことを云っていられないくらい皮肉でやりきれないラスト。

殺人シーンや血の量なども加味されたんだろうけど、やっぱりR-15指定の最大の理由は、この子供による殺人ではなかっただろうかと思われる。
変なところでタブーに挑戦するなあ。

とりあえず、復讐はまた復讐を呼ぶ。
その悲劇は繰り返されるだけなのだと改めて知った。

さて、ジョニー・デップの歌は…
あまり上手いとは思えなかったのですが。
ヘレナにもそれは同様で、聞いてられない、というレベルではないにしろ、普通に台詞をしゃべってくれていた方がうれしかったかも。
何しろ脇の若い俳優さんたちがべらぼうにきれいな歌声を披露してくれるものだから、部が悪かったというべきか。

ティム・バートンとジョニー・デップコンビの屈指の名作『シザーハンズ』と『エド・ウッド』に思いを馳せる。
またこのコンビであんな作品が見てみたい。


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2008年01月05日

絶対の愛

B000W72OYQ絶対の愛
ソン・ヒョナ.ハ・ジョンウ.パク・チヨン キム・ギドク
Happinet(SB)(D) 2007-11-22

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 「ずっと同じ顔でごめんね」

あなたに愛されたかった。
だから私は顔を変えた。

ネタバレ有りです。

2年つきあっているジウとセヒ。
セヒはジウと関わってくる、ほんの行きずりの女性にも猛烈に嫉妬していた。
勝手に飽きられたのだと思い込んだ彼女は、彼の前から姿を消し、整形手術で全く違う顔を手に入れた。
そしてスェヒという女として何も知らないジウに接近。
けれどジウはセヒを忘れられなかった。
いつしかスェヒは、かつての自分に妬心を抱くようになる…

何だか感情の起伏の激しい男女がグダグダ痴情の縺れで騒いでるだけだなあ、とちょっと退屈した前半に比べ、スェヒの正体が判って、ジウもまた整形への道を選び、どんな顔になっているのかしらない彼女が恋人を必死に探る後半は、ギドク得意の歪で激しい愛情が爆発していて良い。

よく二人で会っていたカフェの席に着く男を見かけるたび、ジウかと思って接近するスェヒ。
けれどそれがことごとく外れ、だんだんと彼女の神経は消耗していく。
ジウの彼女への復讐、というか“おしおき”のようでもある。
そんな表皮ひとつで人生が狂わされる悲劇。
整形大国なお国柄を皮肉った感じもある作品だけれど、それが主題ではない。
執刀する医師は何度も整形を考え直すようセヒを説得する。
もし整形を糾弾する内容だったら、この医師をこんな風に人間味溢れる人物には描かなかっただろうから。

だからこれは愛し方をまちがった女の物語。

新しい顔を手に入れ、自分の掌で恋人がいいように転がるのを見てほくそ笑んでいたスェヒとは到底思えないほど、涙も枯れ果て、ボロボロに傷ついた最後の顔の写真。
それがオープニングに繋がる見事さ。
再び顔を変えてクリニックを出たスェヒは、そこで整形前の自分セヒと出会う…。
無限ループの世界は、その悲劇を容赦なく叩き出す。
このパターンは『ビフォア・ザ・レイン』で既出であるものの、やっぱり「落ち着くところのない」恐ろしさとやりきれなさに震撼させられる。

思い通りにならない顔へのもどかしさは、シーツを顔に巻きつけることで表現される。
整形前のセヒがそうしたように、ラスト近くで出てくる整形後の男性(結局スェヒにふられる)もまた、新しい顔を手にしたのにベッドインした女性に去られ、同じ行為を取る。
愚かしさと幼さの表れのような気がした。

彫刻公園で恋人同士が座るシーンで何回も出てきた手のオブジェ。
あの指先には階段がついていて、でもその先は細くなり、途中で途絶えている。
行き場のないジウとセヒの末路の象徴だったのか。

あと、本筋とは何の関係も無いエピソードではあったけれど、ジウが合コンで知り合った女性が印象深かった。
自分が魅力的でないと知っている彼女。
「背中合わせで別れて、一度だけお互い振り向くの。もしそれで目が合ったら再会しましょう」
そして歩き出し、ジウはすぐに振り向く。そのままずっと彼女を見ている。
けれど彼女は最後まで振り返らない。
粋な別れ方だな、と思った。
哀しいけれど、ちゃんと引き際を知っている控えめな女性。
そんな思慮深さがセヒにもあったなら。


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2008年01月03日

薬指の標本

B000LXIRIS薬指の標本 SPECIAL EDITION
2004年 フランス
監督:ディアーヌ・ベルトラン
原作:小川洋子
出演:オルガ・キュリレンコ
   マルク・バルベ
   スタイプ・エルツェッグ
   エディット・スコブ
   ハンス・シジュラー
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彼は、ラボで、標本をつくりつづける。
彼女は、薬指の先を失って、そこに辿りついた。

ネタバレ有りです。

標本技術士マルクの助手になるイリス。
そこを訪れる人々が持ち寄る品は一風変わっている。
昔の恋人に贈られた曲の“音”を保存したいという婦人。
高級麻雀牌を託す中国人。
やけどの痕を指し示す少女。

それらがどんな風に標本になるかは判らない。
でもマルクは動じることなく引き受ける。
「思い出の品」よりは自分から遠ざけたいと思うものが集まってくる。

面白いのが、彼らが雨の日にやってくるということ。
天気の良い日は不思議と人が集まらない。
陰鬱な風景というよりは、どこか浄化されたような空間の中でのできごと。
その浮世を離れた世界でイリスはいつしかマルクとの情事に溺れていく。

彼らを覗いている少年は、何も語らない。
マルクの「女」たちをそうしてずっと見続けていたんだろうか。
傍観者に徹する彼は、あの館のガーディアンなのかもしれない。

マルクから靴をプレゼントされ、そのぴったりな美しさと共に贈り主に呪縛されていくイリス。
靴磨きの男に忠告されても、彼女はそれをずっと履き続けた。
服を脱ぐときも。
セックスするときも。
マルクを愛しているのかと聞かれ、はっきり答えられないイリス。
そんな曖昧な感情とは背反して、彼女のすべてはマルクに向いていた。

その前に“救済”はあった。
イリスとすれ違いのルームメイトである若い男。
彼との逢引がもし成功していたら、イリスは“現世”に留まれたのかもしれない。
けれど結局彼とは会うことがなかった。
それもまた彼女の運命。

やがてイリスは自分の前任者たちが、ある日ふっといなくなったのだということを知る。
そして同じ靴をマルクからプレゼントされていたということも。
ひとつの可能性。
自分の、文字通り全てを捧げるラストは、立場は違えど阿刀田高のあの作品を彷彿とさせられた。
そんな衝撃の愛のかたち。

雨音に似た、囁くような台詞の数々。
硬質な音が響き渡る館内。
そしてイリスの若々しい匂いたつような肢体。
美しく少し残酷なファンタジー。


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2007年12月21日

チャプター27

B0015HPZMAチャプター27
ジャレッド・レト リンジー・ローハン ジェダ・フリードランダー
角川エンタテインメント 2008-05-23

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ジョン・レノンを殺害した男、マーク・デイヴィッド・チャップマン。
サインを貰いにNYまでやって来て、憧れの人に銃口を向けた。
その時彼は『ライ麦畑でつかまえて』を携えていた。

さて。
困ったことに、わたしはこの『ライ麦畑でつかまえて』を全然覚えていない。
読んだ記憶はあるのに、本当に内容をさっぱり思い出せない。
この話を熟知しているのとしていないのとでは、映画の見方が変わってくるんじゃないだろうか。

事実、そこかしこで小説の主人公との「偶然の一致」を勝手に発見しては、チャップマンはレノン殺害の意思を固めていく。
ただ「偽善者」の件とか、「緑のドレス」とか、セントラルパークのアヒルだとか色々キーワード的なものが映画の中で台詞として、あるいは映像として表現されていても、肝心の本を読んでいない側は何もピンとくるものがない。

だからこちらとしては、偏狂的で空気の読めない男が熱烈にレノンを愛し、また同時に「偽善者」である彼を勝手に憎み、そんな精神異常の中での犯行であったという表向きのことしか窺えなかった。

なぜ。
なぜ殺さねばならなかったのか。
わたしはそこに至る心理が知りたかったのに。
やっぱりあの小説は必読だった。
彼の内面が見えなかったのだもの。

ただ、彼がひどく孤独なのだと感じた。
妻がいても。
同じファンが何人も自分と同じ目的でレノンのいる建物にはびこっていても。
気安く見知らぬ人々に話しかけ、会話を始めるといつも背を向けられてしまうチャップマン。
彼はドアマン一人一人の名前まで覚えているというのに。
きっとそんな人生を送ってきたんだろう。
自分で知らぬ間に他人をうんざりさせる言動をとっていることを、きっと彼は自覚していない。
「映画を観ない?」
と誘われているのに
「映画なんて気が狂うよ」
と自分の嫌いな点をあげつらってせせら笑うシーンにそれがよく表れている。
そんな彼はライ麦畑の主人公に心酔した。
その主人公ホールデンを知らない(覚えていない)ことがこれほど歯がゆいとは。

そんなわけで、この作品がイマイチだったのは、ひとえにわたしの勉強不足のため。
ライ麦畑を読み返したいと思うけれど、ここ数年読書からとんと離れてしまったので、いつになるかは未定。

チャップマン役のジャレッド・レトはこの役のために30キロも増量しての出演。
あの美貌をよくここまで落としたなという感心と、今はもう戻っているのかという危惧を抱かせる。


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2007年12月09日

ルナシー

B000S00LU6ヤン・シュヴァンクマイエル「ルナシー」
パヴェル・リシュカ ヤン・トジースカ アンナ・ガイスレロヴァー
コロムビアミュージックエンタテインメント 2007-08-22

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主人公ベルロは、夜毎悪夢に悩まされていた。
そんな彼に手を差し伸べる侯爵。その屋敷に招待されたベルロは、更に精神的に追い詰められていく。

ヤン・シュヴァンクマイエルはとても好きな監督さん。
でも初期の短編クレイアニメしか知らず、実写がメインの長編はこれが初体験。
監督自らが紹介するオープニングで
「これはホラーです。芸術性を期待しないでください」
とのお言葉があるけれど、いやいやどうして。
あの肉片が踊るシーンで、いつもの「らしさ」が存分に表れていました。
あれを芸術としないで何としよう。

そう、ストーリーの合間に切り取られた舌やら、生肉やら、贓物やらが軽快な曲をバックに楽しげに動き回るさまは、シュールでブラックなユーモアたっぷりだ。

メインの主人公は目を覚ましていてもナイトメア的世界に翻弄される。
侯爵の破天荒な振る舞い。
男根が大きく屹立したキリスト像に無数の釘を打ち込み、その目の前で淫行に耽り、神を愚弄する言葉を次々と投げつける。
かと思えばポーの『早すぎた埋葬』を想起させられる生き埋めの手伝いをさせたり、その行動は異常そのもの。
次にベルロが連れて行かれる精神病院でも、性と喧騒にまみれた饗宴が催される。

そんな人間たちの体の一部である肉片たちは、性欲の象徴なのか。
勝手気ままにあらゆる場所に潜り込み、あるいはダンスをし、あるいはその部位同士でセックスの体位を取るなど、本能の赴くままに動く“彼ら”は下手をするとメインのキャラクターとなってもおかしくないインパクトがある。

ベルロがひと目惚れし、守ろうと身を砕く聖少女が実はただのニンフォマニアだったというオチも皮肉。
そして本当の精神科医らがくだす患者への「罰」、その13段階めにあたるものが去勢(多分。明確にはされていないけれど)だというのもやはり性絡みだ。
その罰を受けるのは享楽に浸っていた侯爵。
欲に溺れる者がその一番の欲の源を奪われる。
その奪われたモノが刺激となってセックスに耽る医師と少女。

神を崇め、セックスにも関わらなかったベルロなのに、最後はあの悪夢通りの結果を身に招くこととなる。
どうあっても逃げられない運命を定められた主人公の姿は、たしかに見る者にとってはホラーであるのかもしれない。
あの肉片も最後はスーパーの陳列棚にパックされて鎮座している。
けれどラップの中で静かに息づいている“彼ら”の欲望はやむことがない。

さて、『オテサーネク』や『アリス』『ファウスト』など他の長編作品も見てみたいのだけど、いかんせんレンタル屋に置いていない。いつか見られる機会はあるんだろうか。


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2007年11月13日

恋愛睡眠のすすめ

B000T6DUV6恋愛睡眠のすすめ スペシャル・エディション
ガエル・ガルシア・ベルナル.シャルロット・ゲンズブール.アラン・シャバ.ミュウ=ミュウ ミシェル・ゴンドリー
角川エンタテインメント 2007-10-05

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人生ってうまくいかない。
クリエイティブな仕事がしたいと思っていたのに、実際やっているのはレイアウトの切り貼りばかり。
隣に住むステファニーに恋をしたけれど、そんな近くに住んでいることさえまだ伝えられない。
でも夢の中なら何もかもがうまくいく。
夢の中でなら幸せ。
でも次第に、どこまでが現実でどこまでがそうでないのか判らなくなっていく。

そんなシャイで不器用で、でも人一倍人恋しい主人公ステファンがひどく愛しい。
彼は自分の見たい夢を作ることのできる天才。
ダンボールで作られたテレビスタジオで、その中では自分がヒーロー。
イラストレーターの仕事が世間に認められ、ステファニーもメロメロになってプロポーズを受けてくれる。
子供の頃ならそんなことを夢想することだってある。
でも人はいつしか現実を知って、相応の生活を営んでいく。
それができないステファンは、自由奔放な分、この普通の世界では生きづらいんだろう。

でもそれを愛しいと思ってしまうのは、そんないつしか夢をあきらめてしまった自分の、まだ可能性があった頃を思い浮かべてしまうからなんだろう。

そんな人がまだいたっていいじゃない。
大人になってからも自分の王国を持ち続ける夢見がちな人がいても。

蛇口をひねれば飴のセロファンの包みでできた水道があふれる。
つぎはぎだらけの馬のぬいぐるみに恋人と乗っておとぎの国を疾走することもできる。
雪山をスキーで滑れば毛糸のシュプールができあがる。
フェルトでできた電話機やタイプライター。
そしてまっしろな小さな船を海に浮かべて航海にでよう。

そんなハンドメイドなものたちに彩られ、繰り返しステファンは夢を見る。
けれど実際は、遅刻ばかりして職場同僚からは煙たがれられ、ステファニーからは突飛な発言ばかりしてしまって戸惑われている。

彼もいつしか現実の扉を開けなくてはならない。
その通過儀礼がステファニーへの恋慕だったような気がした。

彼女のロフトで眠りこけてしまう彼の夢は、最高に幸せな体験。
でも目を覚ませば、ステファンはその地を離れることになる。
その後の彼が、同じようにこれからも夢を見続けるとはなぜか思えない。

せつない想い。
せつない夢想との別れ。

わたしには、だからこそ今“夢を見ている”彼が人一倍輝いているのだと思える。
それがいつかうせてしまうだろうと思うから。
だから繰り返しになるけれど、そんな彼が愛しく感じる。

幸せな夢の裏にあるのは孤独。
彼の人生に、これから本物の充実した幸せが訪れますように。


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2007年11月11日

ハモンハモン

B00005V1L5ハモンハモン
ペネロペ・クルス アンナ・ガリエラ ステファニア・サンドレッリ
ポニーキャニオン 2002-02-20

by G-Tools


肉体の欲求が全面に漲る人間ドラマ。
タイトルにもある「ハモン」とはハムのことらしい。
もちろんそのもののハムも出てくるけれど、セックスアピールむんむんのラウルが、狙った女シルビアに投げかける言葉としても印象深い。この時の意味は「いい女」。
そんなjamonが象徴するように、みな肉欲におぼれる。
怒涛のような悲劇展開と、入り乱れるカップルの交わりは少々滑稽ではあるけれど、むせかえるような熱いドラマでなんとか見られる程度にはなっていた…ような気がする(弱気)。

ストーリー的にはそれほど見所はない。
下着会社の社長とその妻、彼らの息子と恋人関係にあるシルビア、彼女の娼婦の母親、社長夫人に雇われてシルビアを誘惑するラウル。
この六人が最初に書いた通り、あちこちで相手をとっかえて情事に耽るというポルノ的展開。
でもシルビア役のペネロペ・クルスの豊かな胸と細い肉体は同性でも目がひきつけられる美しさだし、のちに『夜になるまえに』や『海を飛ぶ夢』のような演技派になるとは思いもしなかったラウル役のハビエル・バルデムの「種馬そのもの」のようなセクシーさには驚いてしまう。

セックスシーンもとにかく暑苦しい。
それに、ニンンクを齧りながらいたしてしまうのっていうのにもビックリ。
その最中にも真珠のネックレスを外さない夫人は、最後に息子を目の前で殺され、その虚栄心の象徴のような鎖をひきちぎられる。
その殺人にもハムの塊が使われる。
肉欲に溺れた者が、その隠喩そのものによって葬られる。
人間の歪んだ愛情と愚かしさを糾弾しているわけではなく、もたらされた悲劇を同情的に見つめるラストは何となく好感がもてた。


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2007年11月09日

自虐の詩

B0011DKCPS自虐の詩 プレミアム・エディション
2007年 日本
監督:堤幸彦
原作:業田良家
出演:中谷美紀
   阿部寛
   遠藤憲一
   カルーセル麻紀
   西田敏行
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今日も卓袱台がひっくり返される。
たまご焼きが飛ぶ。4千円もしたお寿司が飛ぶ。うどんも舞う。
それが日常茶飯事の、幸薄い幸江と内縁の夫で元ヤクザのイサオの物語。

ネタバレ有りです。

幸江は毎日食堂で働き、どんなに食事の乗った卓袱台をひっくり返そうとも、健気にイサオの飯を大盛りにして彼がパチンコから帰ってくるのを待っている。
幼い頃母親に捨てられ、貧乏生活を余儀なくされ、挙句の果ては父親が銀行強盗で捕まるという不幸オンパレードの幸江は、それでもこの現在は幸せそうだ。

映画の後半でさらに彼女の過去が語られるけれど、実はシャブ中で一万で客を取っていたという事実に驚き。
そこに現れたのが彼女に熱烈に想い焦がれていたイサオ。
なぜかマトリックスのような黒づくめの格好に長髪。
でも彼は幸江にとって王子様だった。
自分のために小指を切り落としてヤクザ稼業から足を洗い、薬物中毒を克服した彼女を迎えに来てくれた。

だからひたすら幸江はイサオに尽くす。
愛されたことがうれしい。一緒にいてくれることがうれしい。
あの過去がウソのように、好きだとも最近言ってくれないイサオから離れない彼女のいじましさがストレートに胸をうつ。

「働きに出る」とイサオがぽつりと言ったときのうれしそうな顔ったらない。
そしてラスト近くで、「三人で海に行こう」とお腹の中の子と家族になることを決めたシーンでも、幸江は無上の喜びを顕にする。

「幸や不幸はもういい。どちらにも等しく価値がある。人生には明らかに意味がある」
そう独白する幸江がたどり着いた結論は、壮絶な経験をした彼女でなければ出せないものだったのかもしれない。

壮絶、と書いたけれど、映画の中でそれはシリアスに徹することなく、どちらかと言えばコメディタッチであっけらかんと描写されるから、全体のトーンは非常に明るい。

その明るさに一役買っている脇もすばらしい。
幸江に恋している食堂のマスターの一途さと報われなさ、幸江のアパートの隣で卓袱台返しの回数と、たまに「和合」の数をカウントしているおばちゃんの可笑しさ、小悪党で憎めない父親の挙動(タバコ盗みに失敗して、すぐその後ライターをくすねるシーンが笑った)、その父親の愛人で「西日がビンボーくせー!」の名台詞を残した女の存在感、彼ら脇役もキャラが立っていて、見ごたえ十分。
そしてインパクト大な熊本さんが過去編の見所をすべてかっさらってしまった。
だから幸江との再会シーンは涙が止まらなくて大変だった。

役者さんは誰もが好演。
そんな中でやっぱり中谷美紀はうまいなあ。
イサオが出て行くとき、
「行かないで」の「で」が言葉にならない時の台詞の発し方が凄く印象に残った。

あとは、ところどころで登場する五円玉がほのぼのした。
ラスト近くでイサオが幸江に渡すコインの年号は「平成20年」。
それを見てなんだかとてもうれしくなってしまった。
未来も、彼らは寄り添っている。一緒にいるんだなあって。

そしてエンドロール後にうれしいワンシーン(少し長め)有り。
幸江の鼻ボクロがそのまま遺伝した赤ちゃんを抱いての三人の家族が海を見つめている。
そう、人生には明らかに意味がある。


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