アイでないカタチ【絆】

2013年02月03日

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

B00C1YQQMEライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 2枚組ブルーレイ&DVD (初回生産限定) [Blu-ray]
2012年 アメリカ
監督:アン・リー
原作:ヤン・マーテル
出演:スラージ・シャルマ
   イルファン・カーン
   ジェラール・ドパルデュー
by G-Tools


寓話と現実のはざまで見つけた神。

ネタバレ有りです。

とても難しい映画だった。

パイの口から語られるのは、自分の名前の由来、宗教への目覚め、そして船が難破し、虎と漂流したサバイバル生活の有様だ。
その物語をひととおり見た後、同じくパイによってもうひとつの物語が提示される。

船に同乗した動物たちを喰い殺すハイエナ=コック
脚を骨折したシマウマ=日本人の船乗り
ハイエナを糾弾し、自らも殺されてしまうオランウータン=パイの母親
虎=パイ

という風に、今まで見てきたドラマが一気に覆されるラスト辺りは結構衝撃的だった。

パイは内なる虎を抱えていたのだろう。
ハイエナがシマウマを捕らえ、オランウータンにも手を出し、それに対しパイは「やめろ」と叫ぶばかりで何もできなかった。
そこで今まで身を潜めていた虎が出てきて、ハイエナに襲い掛かるシーンは、全てを知った後では凄く良くできた場面だったなと感心する。
パイの中の野生、タイガーが具現化した象徴的なシーン。

理性的な文明人であろうとしたパイ。
母親を殺され、怒りにまかせてコックを殺し、そして生きるためにその人肉を食べた虎。
このふたつの生きものが、海の上で距離を取っていたのも面白い。
もちろん物語上は、パイが猛獣に襲われないように簡易ボートを作って離れていたという描写だったけれど。
ふたつの異なる人格が統合されまいとする必死の抵抗だったように読み取れる。

海上で嵐に巻き込まれるシーン。
パイは歓喜し、そこに神を感じる。
でも虎は怯えまくる。
「どうして虎を怖がらせるのですか!」
というパイの叫びもまた、宗教心のない野生との乖離を物語っている。

遡って、パイがダンスで魅了された恋人とのエピソード。
彼女はひとりだけ、他とは異なる動きをし、蓮の花を手で模る。
蓮とは、ヒンドゥー教で「泥から生え気高く咲く花、まっすぐに大きく広がり水を弾く凛とした葉の姿が、俗世の欲にまみれず清らかに生きることの象徴のようにとらえられ、このイメージは仏教にも継承された。」(出典:ウィキペディア)とのことから、パイがこの女性と別れることによって、「清らかに生きる」ことと正反対の事態(殺人・カニバリズム)に陥ることが予言さあれているように感じた。

浮島のエピソードだけはなんだったのかさっぱり判らない。
色々解釈が載ったレビューも見たけれど、いまいちしっくりこなかった。
女性を象徴しているのは確かみたいだけれど。

そうしてあまりにも辛い現実を逃避するように、登場人物を動物に見立て、寓話を語ったパイは、そこかしこで神を見つける。
先述した嵐の凄まじさの中だったり、トビウオの中にまじった食べられる魚を得た時であったり。

その神に導かれて人のいる砂浜に辿り着いた時、虎がジャングルに消えるのは当然の結果なのだろう。
すなわち、人間としての復活。人間性の復活。
そこに人を殺して食らった野生はもう必要ない。
パイが虎が最後に一瞥もせずに行ってしまったことに号泣するのは、たしかに存在したもうひとりの自分がいなくなることへの惜別だったのかも知れない。

と、ここまでパイが後に語った方が真実だったという前提で解釈してみたけれど、けっこう的外れなことばかり書き連ねている気がしないでもない。

でもひとつひとつの何でもないようなシーンが意味を帯びてくる、もう一度観たい作品だった。
映像も素晴らしく綺麗だったし、ただのアドベンチャーものだと高を括っていたので、アン・リーに謝りたい。

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2012年12月22日

レ・ミゼラブル

B00C9Z42ZSレ・ミゼラブル 〈フォトブック仕様ブルーレイ&DVD〉 [Blu-ray]
2012年 イギリス
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン
   ラッセル・クロウ
   アン・ハサウェイ
   アマンダ・セイフライド
   エディ・レッドメイン
   ヘレナ・ボナム=カーター
   サシャ・バロン・コーエン
by G-Tools


「On My Own 」との邂逅。

ネタバレ有りです。

『レ・ミゼラブル』といえば、話は有名だし、1997年のリーアム・ニーソン主演の映画版を観ていたのでどう展開するかも判っていた。
にも関わらず、ラスト10分は嗚咽するほど号泣し、館外に出ても、アン・ハサウェイの歌う「夢やぶれて」がずっと頭をぐるぐるまわり続けていた。壊れたテープレコーダーのように(←例えが古いわ)。

そんな中で、個人的にとても嬉しかったこと。
エポニーヌがマリウスへの報われない想いを歌った「オン・マイ・オウン」。
これはずっと昔、わたしが高校生だった頃、ラジオから流れてきて、そのあまりに美しい歌声とメロディと歌詞に夢中になり、録音したテープをずっと聴いていた曲だった。
歌っていたのは島田歌穂さん。
でもわたしはそれがミュージカル『レ・ミゼラブル』の曲だったことを知らなくて、今やっとそれに巡りあえた。
無知って怖いけど、あのかなしくせつない歌詞のバックグラウンドをようやく理解できた。20年も経って。

全編にわたり、ほぼすべての台詞が歌。
こんな作品は『エビータ』以来かも。
そして歌を先録りするのではなく、実際演技をしながら俳優が歌うのだという驚きの手法。
その効果は抜群で、その生の感情がひしひしとこちらに伝わってくる歌声とパフォーマンスが凄い。

ヒュー・ジャックマンのそつのなさ、
アン・ハサウェイの心の張り裂けそうな「I DREAMED A DREAM 」、
一番の不安要素だったにも関わらず、意外にのびやかな歌声披露のラッセル・クロウ、
歌も上手いし外見は天使だしで今回も素晴らしいアマンダ・セイフライド、
おどけ役が板についていたヘレナ・ボナム=カーターとサシャ・バロン・コーエン、
そして「オン・マイ・オウン」を歌ったことで個人的に注目のサマンサ・バークス、
誰もが素晴らしかった!

そして冒頭でも少し書いたけれど、これでもかという感動の波が押し寄せたラスト。
教会でコゼットに見守られながら息を引き取るジャン・バルジャン。
その彼の手をひく亡きファンティーヌ。
ここだけでもヤバいのに、更にジャン・バルジャンが更正の道を歩むきっかけを作ってくれた司教が扉前に立っていたシーンで涙腺決壊。
それだけで終わらず、革命を目指して死んでいった若者たちが勝利の歌を歌いながら彼を迎え入れるところで声が洩れるほど泣いた。
みんな出てくることないじゃん!
あれはダメだ。
呼吸困難になるほど滂沱の涙を流した。

このラストの演出は一生忘れられないだろうと思う。
今年最後のブラボー!な作品。

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2012年11月17日

黄金を抱いて翔べ

B00B17HZWM黄金を抱いて翔べ コレクターズ・エディション(2枚組)(初回限定版) [Blu-ray]
2012年 日本
監督:井筒和幸
原作:高村薫
出演:妻夫木聡
   浅野忠信
   桐谷健太
   溝端淳平
   チャンミン
   西田敏行
by G-Tools


 そうだ、モモさん。
 俺はあんたと、神の国の話がしたいと思う。
 あんたとは、心の話がしたいと思う……。


これが無いとか!!

ネタバレ有りです。

いつも通り、原作至高派のいやったらしさ全開で語ります。

先ず、高村薫作品映像化ではもはやお約束になっているかのような、同性愛要素完全撤去(『マークスの山』は一部分だけちょこっと描写有り。でもありゃレイプだ)。
主人公幸田と、北のスパイ・モモの二人が「できて」いなければ、モモを売ったジイちゃんの所へ、わざわざ危険を冒してまで幸田が復讐に行く行動原理が説明できないと思う。

彼らの交わす目線がいやに色っぽかったと、原作を全く知らない人が言っていたので(実際役者さんへの演技指導もそうするよう監督から言われていたみたい)、これはわたしの修行不足(何のだ)かもしれないけれど、個人的には同士愛しか感じられなかった。

人のいない所に住みたいとずっと望んでいた幽鬼のような存在の幸田が、金塊強奪というスリル、確固たる目的、一人も抜けられない仲間との交流、そしてモモと心も体も通わせることで、その考えが変わる重要な要素であったのに。
人の中で生きたいと思うようになった幸田に北川が歓喜するほどの変化であったのに。
それはモモとの関係をなくしては成り立たない。

もちろん、幸田と春樹の関係も描かれず。

まあ、男が男の乳首をまさぐって微笑んだり、その上勃起してたり、「ちょっと密かな握手」を交わしたり、そのものズバリ「できて」しまったりと、映像化するには色々無理であることは承知だけれど。

その他の描写も気になった。

春樹の、計画加入するまでの虚無感を抱えたキャラは、映画ではリストカットするシーンが追加されている。
そういった自虐的なものは原作では感じられなかったので、これも違和感が。
ただただ若さを持て余し、鬱屈し、がむしゃらに暴走族にも突っ込んでいく青さの塊は、リストカットという行為をする人間とは対極にあると思った。

そしてジイちゃんが自殺しているのを見つけ、かつ彼が自分の父親だと悟ってその場で泣く幸田の姿も唐突な感が否めなかった。
そこまで親子関係に執着する様子が描かれていなかったし。
ここで慟哭する確固たる理由が見当たらないんだよなあ。

それから、ラスト、はっきり幸田の死を描いていて呆然とした。
原作は(雑誌初出を除いて)生きているか死んでしまうかどちらとも取れるラストになっており、わたしはハッピーエンドと受け取ってしまっていたから尚更。

と、ここまで書いておきながら何だけれど、今までのものに比べると、原作の雰囲気が一番出ていた作品であることもたしか。

ハードボイルドな乾いた男たちの匂い、雑多な大阪の界隈、野田と北川の奥さんの関西弁、文章では緻密と思わせておいて、映像化したものを見るとけっこう無茶な計画を遂行していることのご愛嬌も含めて、高村薫の描く世界が具現化されていて、ちょっと感動した。

それは役者さんの功績もかなり大きい。

初めはミスキャストと思っていた幸田役の妻夫木聡がとにかく素晴らしい。
わたしの思い描く幸田がそこにいた。
喜怒哀楽の少ない、常に翳のある、でも不意に見せる暴力的なキレが最高。
これでモモとの同性愛を匂わせてくれたら完璧だった。

野田役の桐谷健太も上手い。
あの関西弁は、地元民に言わせると「輩が使うようなちょっといやな喋り方」であるらしいけれど、未だに大阪弁を使いこなせない田舎者にとっては、凄く自然で、プレイボーイでありながら、小心者で、作品の中では一番普通の人に近い野田に凄くハマっていた。

一番懸念していたモモ役のチャンミンは、これまたその美貌(原作では実はそうでもないんだけど)と、どこか浮世離れした存在感がとても良かった。
演技の方に期待はしていなかった分、そちらもけっこう無難で安心した。

他のメンバーもイメージ通り。
ただ、西田敏行の神父姿だけはどうしても吹き出してしまったけれど。

原作にあったあの描写、あの台詞、あのモノローグ、入れて欲しかったと欲深さは尽きないものの、繰り返すけれど高村薫作品の中では満足のいく方であった映画。

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2012年11月07日

北のカナリアたち

B009DVX20C北のカナリアたち[DVD]
2012年 日本
監督:阪本順治
出演:吉永小百合 柴田恭兵
   仲村トオル 里見浩太朗
   森山未來 満島ひかり
   勝地涼 宮崎あおい
   小池栄子 松田龍平
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大人になって、歌が上手かったのは満島ひかりだけ。

ネタバレ有りです。

最北の分校で小学生教師をしていた川島はる。
彼女はある事故で夫を亡くし、島を離れる。
20年後、彼女のもとに刑事が来て、かつての教え子が殺人を犯し逃亡中だと告げる。
はるは島に戻り、分校の生徒だった6人を順に訪ね歩く。

サスペンス寄りの人間ドラマで、見ごたえはたっぷり。
木村大作の北の地の温度が伝わってくるような撮影も素晴らしい。

構成も上手い。
はるがかつての生徒一人ひとりに会って話をする。
そこで、あの学校での彼らの生活、家庭の問題、あの事故の日に姿を消していたはるが何をしていたのかが詳らかにされていく。

はるの夫は海に誤って落ちてしまった女子児童を助けて亡くなっており、生徒の何人かはそれが自分のせいだとずっと自らを責めていた。
それは少しずつ明らかになる真実で、彼らの傷が埋まっていく。

感心したのが、はじめの印象から受ける、はるとその夫の人物像の完全無欠さが剥がされていくこと。
最初は分校の生徒を優しく包み込み、ひょんなことから彼らの歌の才能を見出して指導するはるだったり、生徒の相談にものり、果ては自分の命を捨てても子供を救った夫の姿だったりが描写される。
でも実ははるは島の警官と不倫をしており、あの事故の日も彼に会っていたことが判り、余命半年と宣告されていた夫が動物虐待をしてしまうくらいに鬱屈していたことも明らかにされる。

人間だからこその弱さ、愛することのどうしようもなさ、そして真実は人の心を癒すと同時に見たくないものまで見せてしまう残酷さも孕んでいることが胸に強く響く。

そして実ははるが殺人を犯してしまった信人を、自分が着くまで島に隠れているよう指示していたことが明るみに出る。
結局彼は逮捕されてしまうのだけれど、警官になった信人の同級生の粋なはからいで、刑務所に入る前に、廃校になった分校に立ち寄ることになる。
そこで彼が見たもの。
それは、かつての分校の仲間が全員そろって、彼を迎えたことだった。
この超ド級の感動クライマックスは必見。
涙腺決壊必至。


そして彼らは最後にかつてのように合唱する。
はるの指揮で。
生きるのは辛いけれど。
でも仲間がいる。彼らが待っている。

役者陣は誰もが主演を張れる豪華な顔ぶれ。
でもその中でも、やっぱり信人役の森山未來が最後に全部持っていった。
吃音の、とても純粋でとても情に篤くて、心から幸せになってほしいと願ってしまうその人物像を見事に演じていた。

若手もそつがなく、子役のこどもたちも、その吸い込まれそうな清らかな歌声が素晴らしかった。

さて、ここまで書いて、実は引っかかったところがいくつか。

先ず、吉永小百合の演技、下手じゃない?
いや、こんなこと書くとサユリストに殺されそうだけれど。
今まで彼女の作品を実はほぼ見たことがなかったから、他の映画では違うのかもしれないけれど、何だか仕草とか、表情の作り方とか自然じゃないというか、心に残らないというか。
全体的に優等生な演技(でも決して上手くない)という感じで、深みが感じられなかった。

そして40代にはやっぱり見えなかったし……。
あと話題になっており、覚悟はして見たけれども仲村トオルとのキスシーン、正直キツかった。
存在としては、あの歳でこれ以上ないくらいに綺麗だし、上品だし、それは本当に驚異的ではあるんだけれど。

そして里見浩太朗。
演技がクドい。古臭い。ごめん。

あと、前述した感動クライマックスの後のシーンが割とだらだらと長いのも気になった。

その中でも一番ダメだったこと。
連行されていく信人に、はるや他の元生徒たちが声をかけていくシーンがあるんだけれど。
吉永小百合が
「アナタノコトガー、ダイスキダカラー!」
と叫んだところで、え?!韓流スター?!とそのそっくりなフレーズと発声に吹き出してしまい、あれでけっこう色んな部分が台無しになってしまった。


というわけで、話良し、演出良し、撮影良し、若手良しの傑作になりかけていた作品なのに、ベテラン勢の演技のため少し評価が落ちてしまった作品。
それから冒頭にも書いたけれど、満島ひかりを除いてみんな歌が下手すぎた。

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2012年11月01日

ウェイバック -脱出6500km-

B00A75OAWMウェイバック -脱出6500km- [DVD]
2010年 アメリカ/UAE/ポーランド
監督:ピーター・ウィアー
出演:ジム・スタージェス
   エド・ハリス
   シアーシャ・ローナン
   コリン・ファレル
   マーク・ストロング
by G-Tools


寒いし、暑いし、虫いるし!!

ネタバレ有りです。

第二次世界大戦下、ポーランド兵士のヤヌシュはスパイ容疑をかけられ逮捕される。
彼は否定し続けるも、彼の妻が拷問にかけられて無理やり証言させられたことにより、シベリアの強制労働所に収容されてしまう。
刑期は20年。
劣悪で過酷な労働環境のもと、自由を求めてヤヌシュは6人の同士と共にそこから脱出する。

ピーター・ウィアー監督作ということで楽しみにしていた作品がようやく日本公開。
偉大で過酷な自然描写、人間たちの尊厳と苦しみと時にはユーモアも交えたドラマに仕上がっていて素晴らしい。

いかにも主人公然としており、皆をまとめ、鼓舞し、そのやさしさが命取りになるだろうと忠告を受けるヤヌシュは、そのヒーローたるテンプレートなキャラがうざく感じられないほど、この脱出劇は険しく長い。

ヤヌシュに初めに脱出計画を持ちかけるカバロ役にマーク・ストロング。
でも彼は実は脱走する気などさらさらなく、新入りに夢を持たせては挫折する様子を楽しむ屈折した性癖の持ち主だった。
彼が前半に早々に退場するところは意外性あり。

収容所で賭博に明け暮れ、気に入らないヤツは隠し持っているナイフでぶっ刺すという困ったちゃんヴァルカ(コリン・ファレル。ハマり役だなあ)。
行く先々で面倒を起こしそうになりハラハラさせられるも、どこか憎めないキャラクターで、彼の持っているナイフが重宝する等なかなか面白い立位置にいた。

途中で一行に合流する、同じく集団農場から逃亡してきた少女イリーナ。

そして辛い過去を背負った、その顔に刻まれた皺が知性的で頼りがいのあるミスター・スミス。
エド・ハリスが同監督作『トゥルーマン・ショー』で見せた演技に負けず劣らず素晴らしい存在感を示していた。

他に夜盲症に悩まされる青年、絵の上手い料理係、口のへらないお調子者……。
彼らの存在が散漫にならずに描き出されているのが凄い。

雪山では樹の実さえもなく、飢えに苦しみ、狼が獲った獲物を横取りして生のまま食らう。
砂漠ではとにかく水がなく、それでもようやくオアシスに辿り着いて一息ついたものの、その先を行かなくてはならず、また枯渇に悩まされる。
靴は磨り減り、強い日差しに肌はやられ、ある者は凍死し、ある者は砂漠に倒れ、ある者は国境を越えたところでリタイアする。
ようやくモンゴルに辿り着いても、そこも共産主義国家であることを示す鳥居のようなものが立っているシーンはほとほと落胆した。

そんな中で、ヤヌシュとスミス、イリーナとスミスという擬似親子的関係が築かれていく。
息子の死に責任を感じたままのスミス。
けれど自分を仕方なく陥れた妻を許すヤヌシュと、嘘偽りの世界を作って自分を守っていたイリーナの殻を壊したことによって、彼は文字通り未来への一歩を踏み出す。

そして彼らの内3人が、チベットを経てインドまで逃れる。
地元民に「パスポートは?」と訊かれるシーンがなかなか面白い。
ようやくここで安堵でき、そこまでの緊張と悲惨さが一気に緩和されがカタルシスがもたらされる。

けれど映像はまだヤヌシュの足が歩き続けているところを捉えている。
彼がどこに向かっているのか。
それはラストシーン、今まで彼が幾度も幻に見た我が家の玄関に通じている。
年を取ったヤヌシュとその妻がようやく出会え、抱き合うシーンがひどく感動的。

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2012年08月12日

ボーン・レガシー

B006DWI8GWボーン・レガシー[DVD]
2012年 アメリカ
監督:トニー・ギルロイ
出演:ジェレミー・レナー
   エドワード・ノートン
   レイチェル・ワイズ
   ジョアン・アレン
   アルバート・フィニー
   デヴィッド・ストラザーン
   スコット・グレン
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マット・デイモンは写真だけ。

ネタバレ有りです。

冒頭、水の中で四肢を投げ出している男の姿から映画は始まる。
これまでのボーン・シリーズを観ている者にとっては最高に嬉しい、ニヤリとさせられる場面。
ただ、それ以上のシーンが以後出てこないことが問題。

その水の中にいた男は、アーロン・クロスという強靭な肉体を持った人間で、CIAの肉体改造計画〈アウトカム計画〉によって造られた最高傑作だった。
そのため彼は定期的に与えられた薬を飲まなくてはならず、雪山で過酷な訓練を積んでいた。

ある時彼は自分と同様のプログラムに参加している“ナンバー3”と接触し、その山小屋で、ベッドに刻まれた「ジェイソン・ボーン」の名前の痕跡を見つける。
翌朝、いきなり小屋が無人機に襲撃され、中にいたナンバー3は死亡、アーロンは何とかそこを逃げ切る。

一方、〈アウトカム計画〉の工作員たちの薬や体調を管理していたステリシン・モルランタ社に勤務していた女性の博士マルタ。
ある日同僚がいきなり銃を乱射し、他の研究員を次々と殺していく事件が起きる。
その一室で一人だけ生き残ったマルタは、その同僚の乱心が、研究所で行っている人工的な操作によるものだと知っていた。
そのため知りすぎてしまった彼女を捜査員たちが殺めようとした時、アーロンが彼女を救い出す。
マルタはアーロンを診察しており、薬の管理をしていたため、そこにやって来たのだ。

〈アウトカム計画〉は中止され、そのため計画に携わった人間たちが末梢されようとしていた。
その背景には、ジェイソン・ボーンによって暴かれようとしていた〈トレッドストーン計画〉〈ブラックブライアー計画〉があり、その更なる極秘プロジェクト〈アウトカム計画〉の暴露を恐れるためであった。
その証拠隠滅の指揮をとるのは国家調査研究所のリック・バイヤーだった。

まあ何というか……
CIAの極秘プロジェクト、多すぎないか。
このほかにもまだ〈ラークス計画〉というのもあって、そのプログラムで人間兵器と化した男とアーロンが終盤対決するわけだけれど。
〈トレッドストーン計画〉と〈ブラックブライアー計画〉というジェイソン・ボーンシリーズでお馴染みの名前は、ただ出てくるだけで、件のシリーズを見ていない者には何のことだかさっぱり判らないだろうと思う。

つまり、それぞれの計画や事件が同時進行しているだけで、ジェイソン・ボーンとアーロンはここではまったく繋がりを持たない。

せっかくパメラとかノア・ヴォーゼンとか駅で射殺されたロス記者とか、ファンには嬉しい顔ぶれが再び見られても、それは「ただ出てくるだけ」。
ジェイソン・ボーンに至っては、序文に書いた通り写真と名前のみの登場。

続編ありきの作品なのだから仕方のないことだとは言え、その関連性の薄さも、主人公とリック・バイヤーとの対決の皆無という肩透かしも、結局何も解決していない終わり方もけっこう酷いものだと思う。
激しいチェイスの末ボロボロになったアーロンとマルタはマニラの漁船に助けられるのだけど、まさかここで終わるまい、と思っていてエンディングロールが流れ出した時の驚きと失望感はここ数年味わっていないものだった。

キャラクターもそれほど魅力的に思えず。
アーロンは実はイラク戦争で戦死されたことになっている一兵士であるという過去を抱えているものの、その存在を消された孤独感があまり伝わってこない。
ヒロインのマルタは、そもそも人体実験に加担しているという時点で感情移入し辛く、それ以外は一般人であるから仕方ないとは言え、終始キーキー泣き喚いているだけで煩い印象しかない。
でもその一般人であるがゆえ、アーロンに危機が迫っていることを伝えるのに
「アーロン!逃げてええええええ!!」
と家の外から絶叫するという何の工夫も知恵も見られないやり方がなかなか可笑しくて良かった。

アクションシーンは、アーロンがマルタを救い出すところはスタイリッシュだったものの、見せ場であるフィリピンでのチェイスシーンがもの凄く長尺で、終盤あたりはもう飽きてきた。
『ダークナイト』シリーズで、唯一バット・ポットに乗れるのだというスタントマン、ジャン・ピエール・ゴイは素晴らしかったけれど。

とりあえず、このアーロンで新シリーズを始めるようなので、全体を見ないで評価するのも何だけれど、ひとつの映画としての完成度は低いと思う。
せっかくリック・バイヤー役にエドワード・ノートンを持ってきたのだから、次からの活躍に期待はする。

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2012年07月07日

キッチン・ストーリー

B00065GVIYKitchen Stories
2003年 ノルウェー・スウェーデン
監督:ベント・ハーメル
出演:ヨアキム・カルメイヤー
   トマス・ノールシュトローム
   ビョルン・フローバルグ
   リーネ・ブリュノルフソン
   スヴァレ・アンケル・オウズダル
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視る者、視られる者―。
会話をしていはならないという厳格な規則(ルール)の中、緊張感は昂まっていく。
そして限界を迎えた二人、遂に戦慄の結末に辿り着く……!
(嘘)

ネタバレ有りです。

「コーヒーでも飲め」
「ありがとう」
これが初めて二人が交わす言葉だった。

ノルウェーの田舎の家に住む年老いたイザックの元に、スウェーデンの家庭研究所の調査員フォルケがやって来る。
調査内容は、独身男性におけるキッチンでの導線。
キッチンの片隅に高台の監視椅子を置いて、毎日イザックの行動パターンを記録するフォルケ。
彼らは決して話してはならないし、被験者へのいかなる交流も禁止されていた。

初めの内は仕事に徹するフォルケと、観察者にイライラするイザックの様子が描かれる。
でも次第に彼らは近づき始め(いつもフォルケがいるのに電気を消してしまうイザックが、いつしか彼のために明かりを残しておく等のさりげなさが良い)、パイプに詰める草をフォルケが提供したことにより、彼らのコミュニケーションが開始される。

登場人物はごくわずかで、しかもほぼオッサンばかりしか出てこないというのに、心温まる秀逸な作品に仕上がっているのが凄い。
やっぱりベント・ハーメル、大好きだ。


二人はぽつりぽつりと会話を交わす。
お互いの国のこと、食事のこと、イザックを時折心配して訪ねてくる友人グラントのこと。
フォルケが風邪をひけばイザックが手当てをし、観察者の特等席である高い椅子にイザックが眠るようになり。
そんな懇意にする二人を、グラントがちょっとしたジェラシー交じりの視線を送るのもまた人間くさくて良い。

イザックの誕生日には、フォルケがたくさんのろうそくを立てたケーキを振舞ってくれる。
同じテーブルに横に並んで嬉しそうにケーキを食べる二人のショットの幸福感といったらない。

でもそこには暗雲もたちこめていた。

フォルケの他にも、被験者と酒を酌み交わすようになった調査員がいて問題視されていること。
グラントがどれだけ誘ってもイザックは病院に健診に赴かないこと。
イザックの愛馬が鼻から血を出して、もう長くはないこと。

その嫌な伏線がすべてラストで拾われる。
結局フォルケも被験者との交流のかどで解雇され、頭にきた彼は最後に残された任務を放棄してイザックの元へと戻っていく。
けれどそこには救急車が止まっており、フォルケはすべてを理解する。
馬の命の費えはイザックの命とリンクしていた。
彼が口にしていた「予定通りの死」はまさにこのことだったのだろう。

けれど決してこの作品は後味の悪さを残さない。

それは全体的なユーモア溢れる作風もそうだし、二人の心が通じ合う過程が素晴らしいし、ラストの説明しすぎないのに充分伝わる多幸感からに因る。

イザックの家で暮らすようになったフォルケ。
電話の音が3回。
グラントが訪ねてくる合図だ。
二人分のティーカップを用意するフォルケ。
それは生前イザックがやってきたこと。
そのたしかな絆が、国を越えて彼らをつないでいる。

ベント・ハーメルの代表作ということでずっと見たくて仕方なかった作品。
北欧のオッサンと冬景色と、細やかな人間模様を描かせたらこの監督さんの右に出る者はいない。

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2012年04月28日

少年と自転車

B008EOCZBG少年と自転車 [DVD]
2011年 ベルギー/フランス/イタリア
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ
   リュック・ダルデンヌ
出演:セシル・ドゥ・フランス
   トマ・ドレ
   ジェレミー・レニエ
   オリヴィエ・グルメ
by G-Tools


少年が自転車で漕ぐ先は。

ネタバレ有りです。

シリルは養護施設に預けられている少年。
一ヶ月経ったら迎えに来るという父親に会いたくて仕方がない。
施設を抜け出して、暮らしていたアパートに行くも、既に父親は引っ越していた。
しかも自分の宝物である自転車も売り払っていたことが判明する。
しかしひょんなことから知り合った美容師のサマンサという女性が自転車を取り戻してくれる。
少年は彼女に週末だけ里親になってくれるように頼む。

今までの作品がわたしにとって絶賛に値するものばかりだったダルデンヌ兄弟の新作。
が、これは初のイマイチになってしまった。

ロルナの祈り』で初めて劇中で音楽を流した時は、その効果と印象深さに感銘を受けたものの、今回の音楽の使い方には疑問が残った。
あるシーンごとに、ワンフレーズだけ曲を流すそのやり方は、何とも中途半端で、これなら音楽がない従来の作品の方がずっと自然だった気がする。

少年の面倒をこれでもかと見て、恋人と秤にかけて少年を選び、結果捨てられてしまう天使のようなサマンサのキャラクターも、できすぎていてその行動に首を傾げる。

ただ、これは後に監督へのインタビュー記事を読んで、何となく合点がいった。

 私たちが示したかったのは、少年がサマンサの愛によってどのようにして“救われるか”という点だけです。

なるほど、サマンサが愛の権化だとすると、彼女の過去やそれほどの葛藤が描かれないのも納得ができる。
そこまでシンボライズした愛が少年を救うという結果がハッピーエンドをもたらすというのは、この監督さんにしては少し絵空事ではあるけれども。

ラストで少年が不良仲間に言いつけられて強盗を働いた父子との諍いのエピソードでハラハラしたものの、シリルは自分で立ち上がって、まっすぐ前を向いて自転車を漕いでいく。
サマンサの元へ。
自分を愛し、理解し、叱責してくれる人の元へ。
あの父子も、自分を捨てた実の父親も過去のものだ。
未来はサマンサと共にある。

自分を受け入れてくれる人を懸命に探し、時には間違った方向に進んでしまう少年の脆さと感情の爆発を上手く表現したシリル役のトマ・ドレが良い。
いつも真っ赤なシャツや上着を着ているのが印象深い。
完全に悪人でないものの、どうにも困ったヤツを演じさせたらピカ一の、父親役のジェレミー・レニエも相変わらず役にはまっていた。

それでもわたしにはやっぱりハマりきれなかった作品。
でもこの監督さんはずっと追い続けていこうと思う。

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2012年04月09日

エッセンシャル・キリング

B0063AX3GOエッセンシャル・キリング [DVD]
2011年 ポーランド/ノルウェー/アイルランド/ハンガリー
監督:イエジー・スコリモフスキ
出演:ヴィンセント・ギャロ
   エマニュエル・セニエ
   ザック・コーエン
   イフタック・オフィア
   ニコライ・クレーヴェ・ブロック
by G-Tools


「オレはやるぜオレはやるぜ」
   (by シーザー@動物のお医者さん)

ネタバレ有りです。

アフガニスタンで、米兵3人を殺した罪で捕らえられた主人公の男。
どうやらタリバン兵らしきその男は、移送中の事故に紛れて逃亡を果たす。
追っ手をかわし、通りかかる人を殺し、あるいは襲い。
時折幼少時の幻を見ながら、最終的に彼は言葉を話せない人妻の家に匿われる。

早春』や『アンナと過ごした4日間』のイエジー・スコリモフスキ監督作。
ただただ、劇中では名前も明かされない、台詞ひとつない男が逃げるだけの内容ながら、それだけに想像力を掻きたてられる。

タイトルの「本質的な殺人」を具現化するように、男は敵対する者だけでなく、そこにいた一般人を逃亡のために次々と殺していく。
けれどアッラーの神のもと、厭なこともしなくてはならないといった心の声から、そこに罪悪感の残滓も見て取れる。
彼が赤子を抱えた女性を襲って、母乳だけを吸う行為は、そういった穢れを知らなかった頃、子供時代に戻りたいという表れなんだろうか。

そんな人を傷つけ殺しまくる男が、一匹の罠にかかった犬を助けてやるのが面白い。
それは自分の血のついた靴下を犬に取り付けて、捜査を撹乱させるためであるとは言え。
その後、その犬と同種のものが何匹も彼を取り囲んだり、やはりよく似た犬によって、彼を匿ってくれる家に導かれたりする。
それは男の良心の象徴だったんだろうか。

家の女性は、危険人物だと気づきながらも、彼を手当てし、警察をあしらい、食事をさせ、寝床を提供する。
人間の本質的なやさしさに触れた殺人犯が、その後命を落とすのは必至なのだろう。
女が用意してくれた白馬の上で、吐血する男。
ラストシーンでは、その馬だけが不毛の地でいくらか生えている雑草を食み、その背に男の姿はない。

ヴィンセント・ギャロの鬼気迫る、どうやっても逃げのびようとする演技は必見。

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2011年12月15日

映画「けいおん!」

B007UXISMW映画けいおん! (DVD 初回限定版)
2011年 日本
監督:山田尚子
声の出演:豊崎愛生
     日笠陽子
     佐藤聡美
     寿美菜子
     竹達彩奈
     真田アサミ
by G-Tools


あずにゃんぺろぺろ。
あずにゃんぺろぺろ。

ネタバレ有りです。

ここまで男性キャラを介在せず成功した萌え系アニメがあっただろうかと(いや実際あるのかもしれないけど)、思いを馳せずにはいられない女の子だらけの世界。

そこには女同士の嫉妬だとか、いじめだとか、ケータイ小説御用達の売春も悲恋も死も存在しない。
軽音楽部の5人が、部活という名のティータイムを楽しみ、亀を構い、旅行を計画し、たまに演奏する日常をほぼ緩急なく追うだけ。
彼女たちはけっこうなリア充で、でも前述したような黒さがまったくない分ファンタジーな世界ではあるんだけれど、そこかしこに非リア充でも体験したことのある学生生活の甘酸っぱさが懐旧の情を掻きたてられることになる。
いやそんな大げさなのでもないけど。

まあなんだ。
とりあえずあずにゃん可愛い。
これに尽きる。


唯の思惑が判らず毎晩煩悶するところとか、ロンドン旅行のためガイドブックを買いため、そこに付箋を無数に貼り付けて頑張っちゃうところとか、唯に抱きつかれると思って思いっきり突き飛ばして、誤解だと判るとふとんに隠れちゃうところとか、卓球のシーンで「う〜ん」と首を傾げる計算されていない媚態とかもう可愛いったらありゃしない!つーかこれを書いてるわたしも気持ち悪いな!

他のキャラ、唯にしても他の三人にしても(ごめんなさい。未だに個別の名前が覚えられない)、少女特有の明るさ、無邪気さ、年相応の脚の太さ、むやみに大きくない胸等身近に感じられる挙動や体格が愛らしくてたまらない。
部屋着にしても、ちょっとこじゃれたドラマやアニメだったらジェ○ートピケのようないかにも可愛い服を着せるんだろうけれど、けいおんの彼女たちは、半纏だったり、トレーナーだったり、ただのパジャマだったりとその姿は庶民的で実に良い。

小ネタもところどころ仕込んであって、唯の描いた鳥獣戯画と、ヨーロッパのお面と、あずキャットいてには笑わせてもらった。

卒業する前に、あずにゃんに歌を贈ろうとする先輩たちの姿はいじらしいし、その歌を聞くあずにゃんの反応は原作でのボロ泣きを彷彿とさせられて(ここのシーンは映画では描かれなかったけど)、思わず涙がこぼれてしまった。

ただ、やっぱり全体的にゆるいので、観ている体感時間が凄く長く感じられた。
ここはファンかどうかで感覚が分かれるんだろうなあと思う。

まあ相変わらずキャラは立ってるし、なにしろ絵が可愛いし、声優さんたちの声もステキだし、ロンドンの風景も緻密だし、ストーリーもないわけではないし、映画としてまあまあ楽しめる一作だった。

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2011年12月09日

コンテイジョン

B005UJSH0Q【初回限定生産】コンテイジョン ブルーレイ&DVDセット(2枚組)
2011年 アメリカ
監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:マット・デイモン、
   マリオン・コティヤール
   ローレンス・フィッシュバーン
   ジュード・ロウ
   グウィネス・パルトロウ
   ケイト・ウィンスレット
by G-Tools


2日目からはじまる恐怖。

ネタバレ有りです。

新種のウィルスが巻き起こすパニックを描いた群像劇。
と言っても大仰で劇的なところは極力抑えた人々の描写が、逆にリアルで面白かった。

マット・デイモンはグウィネス・パルトロウとそれぞれ子持ち再婚をした男の役。
メインのキャストでありながら、彼は別にヒーロー的アイコンではありはしない。
けれど娘を心から愛し、それを守り抜く信念を持つ“普通の”男だ。
人々が足りない食料を略奪する中、盗られた女性の分を取り戻してやる人間性を持ち合わせている。
でも妻がこのウィルスの第一感染者であり、なおかつ出張の合間に元彼と浮気していたことを知る何とも同情できるという意味で情けない立場でもある。

グウィネスは開始10分で死亡するという『冷たい月を抱く女』以来の早死にっぷりを見せ、大物に似つかわしくない扱いで笑う。
しかも頭皮をべろんと剥がして脳を診られるという仰天シーンもあり。

ジュード・ロウは一番クソ野郎として登場。
フリージャーナリストという名のただのブロガーなのに、アクセス数を稼ぐため、また市場を混乱させ自らに利益をもたらせるためにそこで嘘の治療薬を公表し、親しい人物まで見殺しにする。
そんな彼の信奉者が、逮捕された彼の保釈金を払うエピソードは皮肉だ。
どこでもカリスマ扱いされる一般人というのはタチが悪い。
彼が何らかの罰を受けないのもリアルな結末だ。

逆に、自分の身を顧みずに動く人たちもいる。

医学会の大物マリオン・コティヤールは、治療薬を優先してまわしてもらうために誘拐されるも、最後にはそこにいる恵まれない人々、殊に子供たちに情が移り、無事解放されても、元の世界に背を向ける。

ドクターのケイト・ウィンスレットは、身を粉にして働き、でもそんな中自分も感染してしまい、被害を最小限に留めようとパニックの筈なのに手筈を整える。
そんな彼女が今わの際で、隣で寒さを訴える患者に、自分のコートを差し出そうとしてこときれるシーンは涙なしでは見られない。

博士のローレンス・フィッシュバーンも、治療薬のために奔走し、でもどうしても愛する者に生きてほしくて情報を流す一面も垣間見せる。
それも人間としてはどうしようもない行為で、それを責めることはできない。
でも最後は自分の治療薬を貧しい清掃人の子供に与えてやる。

数々のパニックの中で、前述したブログだとか、ツイッター、フェイスブック等が混乱の一手を担うエピソードが組み込まれ、“現在”のリアルな恐怖を感じずにはいられない。

そしてファーストシーンが、感染の始まる「2日目」であったので、これはラストに「1日目」をもってくる手法かなと予想はついたけれど、果たしてそのラストシーンを見ると、凄くスタイリッシュに皮肉にまとめていて、ソダーバーグの手腕とセンスに唸らせられる。

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2011年12月01日

50/50 フィフティ・フィフティ

B007KIFFRI50/50 フィフティ・フィフティ [Blu-ray]
2011年 アメリカ
監督:ジョナサン・レヴィン
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット
   セス・ローゲン
   アナ・ケンドリック
   ブライス・ダラス・ハワード
   アンジェリカ・ヒューストン
by G-Tools


生きる希望は、50%

ネタバレ有りです。

27歳でガンを宣告されたアダム。
恋人のレイチェルは、ショックを受けながらも彼の看病を請け負い、母親はますます過保護となり、同僚たちは「大丈夫。治るから」と誰もが口にする。
セラピストになったのは研修中の24歳の女性キャサリン。そのやり方になかなか馴染めないアダム。
そんな中、友人のカイルだけは変わらずにアダムを遊びに誘い、軽口を叩いていた。
次第に病魔に冒され弱っていくアダム。
そして生死をかける手術の日がやってきた。

難病ものにしては珍しくそれほど悲壮感のない作品。
アダムは恋人と別れてから、カイルにそそのかされてではあるけれど、バーへ飲みにでかけ、ナンパだってする。
スキンヘッドにした頭を見せつけ、女性の興味をひきつけるところは斬新なエピソードだ。
普通だったらなくなっていく髪というのは難病もの(フィクションに限る)だったら、悲哀を煽るエピソードとして定番だろう。けれどこの映画ではそれをしない。
そこには病気を抱えながら今を生きている人間のリアルな面が映し出されている。

リアルといえば、浮気をしてアダムに見限られるレイチェルの存在もそうだ。
浮気の件は論外だけれど、彼氏がガンになり、初めは献身的を装い、その実病院にも付添わず、送迎もいい加減で口先だけそのことを謝る様子は、その年代の普通の女の子であったら仕方ないとも言える。
まあ彼女はその前から人の部屋を片付けないわ、3週間もセックスをおあずけさせているわとけっこうなクソ女として描写もされているんだけれど。

その対比のように新たに登場するキャサリンは、真摯な姿勢でアダムに接する魅力的な女性に徹していて、ここはさすがにフィクション色が強い。

わたしが一番心を打たれたのは、悪友カイル。
いつもと同様にアダムとつるんで、時にはそのアダムに「女をひっかけることしか考えていない!」とキレられるほど能天気で楽観的に見えた彼が、実はガン患者とどう向き合うかのハウツー本を読んでいたことが判るシーン。
もちろん彼だって平常心でいられなかった筈。
でも腫れ物に触るような周囲と違って普段どおりの交流を持とうとした彼の意思は強く美しい。

アダムが手術を受ける当日、友人との、家族とのこれが最後かもしれない遣り取りと抱擁には涙が出た。
この時だけ不安そうな顔を見せ、最後になんて言葉を発してよいのか判らないようなカイルの姿が印象的。

わたしはこの映画が「ガンを克服した脚本家の実体験に基づく物語」であることをまるで知らなかったので、彼が死んでしまうのかどうか判らずもの凄くどきどきした。
だから彼が助かったと知った時は、完全に家族とカイルとケイティの喜びに心がリンクして嬉しくてたまらなかった。

アダム役のジョセフ・ゴードン=レヴィットは、セクシーとキュートが融合した(あ、これ別の映画だ)態が素敵。
あの眇めた目つきが最高。
キャサリン役のアナ・ケンドリックは『マイレージ、マイライフ』に通じる青臭さが良い感じ。
アダムの母親役のアンジェリカ・ヒューストンはさすがの存在感。
月初めに良い映画を観られた。満足。

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2011年10月15日

マネーボール

B005MH1KDWマネーボール[DVD]
2011年 アメリカ
監督:ベネット・ミラー
出演:ブラッド・ピット
   ジョナ・ヒル
   フィリップ・シーモア・ホフマン
   ロビン・ライト
   キャスリン・モリス
by G-Tools


いそのー、野球やろうぜー

ネタバレ有りです。

マネーボール理論。
コンピューターの統計分析によるプロ野球選手の配置、トレード。
その理論のため、年齢が高すぎる者、故障を抱えた者、トラブルメーカーと他の球団から排斥された選手たちも拾い上げられた。
低予算でいかに強いチームを作り上げるか。
それを実践したスカウトマンであるビリー・ビーンの実話を元にした物語。

スポーツもの、殊プロ野球ものとしては実に地味な作品。
『メジャーリーグ』のようにダメダメ選手たちがどんどん成長していき、最後は喝采を浴びるような活躍を見せ、身の震えるカタルシスがもたらされることはほぼない。

ビリーはイェール大出身の秀才ピーターを引き抜き、野球界の新しい理論を実践していく。
キャッチャーを一塁手に。
驚くほどのアンダースローを投げる選手をピッチャーに。
問題があっても出塁率が高いからと選手を取る。
こうして貧乏弱小球団アスレチックスは、遂に20連勝という偉業を達成することとなった。

この20連勝をかけた試合が「野球映画」としてはクライマックス。
相手チームに17点ほどのリードを初っ端に奪い、もう勝利は目前となったアスレチックス。
けれどその後あれよあれよという間に追いつかれ、ほぼ同点、下手をしたら逆転されるまでに試合は展開される。
けれど最後にはマネーボール理論によって残った選手の活躍でアスレチックスは勝利を迎える。

実は実際に試合展開が描かれるのはこの終盤のシーンが初めて。
それまではすべてラジオだとかテレビ画面で語られてきた。
それは試合は見ない主義というビリー・ビーンの視点による。
けれど20連勝をかけたこのシーンだけは、ビリーは球技場に足を運ぶ。
その勝利のバッターの音に目を上げるビリーの仕草だけで気分は高揚する。

さて、「野球映画」としてだけならここで見所は押さえてあるので、地味ながら及第点だろう。
けれどここにはビリー・ビーンという人物の内面に焦点が当てられているので、その分話に深みが増す。

ビリーもかつては将来を嘱望されたプロ野球選手でありながら、大した業績も残らず、引退しスカウトマンに身を転じたという過去をもつ。
“あの時、自分が上手く使われていたら”
という思いを、マネーボール理論を知ってから彼は払拭できない。

そしてこれはプレスに書いてあったことだけれど、ビリーはピーターと補完しあう間柄ながら、健全なジェラシーも持ち合わせているとのこと。
なるほど、言われて見れば、イェール大卒のピーターに
「きみは今挫けてもその学歴ならやり直しがきく」(うろ覚え)
とビリーが自分とは違うのだと指摘する場面があった。

その過去に囚われた男の再出発という視点の人間ドラマ部分も大きい。

最後に彼は、レッドソックスから破格の値でスカウトマンとして引き抜きを申し出される。
やっとのことヒットを打って、一塁にしがみつくように滑り込んだ男が、実はホームランを打っていたことを気づかなかったように。
がむしゃらにやってきたビリーが、人生に於けるホームランを放っていたことを知るラストは、野球面のクライマックスよりも胸にこみあげるものがあった。

結局ビリーは今もアスレチックスに留まり、理論を実践し続けている。

ビリー役のブラッド・ピットが少し枯れた感じの人物にハマっていたのが驚き。
そしていつの頃からか定着してきた、劇中でお菓子を食べまくるブラピ像はここでも健在。
監督役のフィリップ・シーモア・ホフマンはこれといったトラブルメーカーとしても描かれず、見せ所もなく、彼の起用がもったいなく思われた。
ピーター役のジョナ・ヒルはその風体に似合わずどこか飄々とした、でも親しみのあるキャラを好演。

わたしはプロ野球に関して興味も知識も一切ないけれど、充分楽しめた作品。
ただ繰り返すけどやっぱり地味だ。

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2011年10月07日

DOG×POLICE 純白の絆

B006WW1QVMDOG×POLICE 純白の絆 [DVD]
2011年 日本
監督:七高剛
出演:市原隼人
   戸田恵梨香
   時任三郎
   村上淳
by G-Tools

 
今年一番のバカ映画。

ネタバレ有りです。

突っ込みどころがありすぎて、最後はもうなんか笑ってしまった作品。この脚本はある意味凄い。

優秀ながらも単独行動の多い警察官早川が警備犬の訓練所に異動となった。
そこで彼が以前命を救ったアルビノの犬シロとバディを組まされる。
上司や仲間、そして警備犬と触れ合いながら成長していく早川。
そんな中、有名企業ばかりを狙った爆破事件が世間を騒がせていた。

お約束の主人公と犬との絆、相変わらずのスタンドプレーのもたらす失敗、それを挽回するかの如くの爆弾魔との戦い、と定石通りの筋はまだいい。

でもあるコンサート会場に爆弾が仕掛けられたことを知って、早川が一人で現場に駆けつけようとした時。
当然の如く
「単独行動はするな!」
と時任三郎扮する上司に叱責され。
けれどその後その上司は云う。
呼ばれてはいないが、全員で出動するぞ。犬屋の意地、見せてやれ!」
おいおい行っちゃうのか!
一人で行動するな、仲間を信頼しろ、ってそーゆーコトではないと思うんだ、そーゆー事では。

で、本当におよびでないのに現場に押しかけてしまった非常識軍団は、ものわかりの良すぎる上層部によって現場の爆弾探しにかかる。

そこのコンサート会場では講演会が予定されていた。
その名もスティーブン・ジョブス。
そしてかの某企業元CEOのそっくりさん登場。
ここはタイミングが悪すぎて笑えなくなっている。
いや映画が悪いわけじゃないんだけど。

会場で警官が大掛かりで爆弾を探すのだけど、それを不審がる一般人皆無。
そして彼らを一向に避難させる様子のない警察。

ここ、爆弾仕掛けられてるんだよね?!
今まで幾度もテロあったんだよね?!

やがてシロの活躍で爆弾を見つける早川。
処理班を待つよう指示されるも、時間が3分ほどしかないので、間に合わないと判断した早川。
なんとその爆弾を持ち上げて安全な場所まで走る!
動かしただけで爆発する可能性だってあるのに!

人ごみの中で、ここに犯人がいることを確信した早川。
犯人はどうやら耳が聞こえない障害を負っているようだ。
そこで彼がしたこととは。
何と近くにいた警官から銃を奪って空に向けて発砲する
アンタが一番危険人物だよ!!

何やかんやあって、藤原竜也崩れの爆弾魔と対決した早川は、瓦礫の下にはさまって身動きが取れなくなってしまう。
そこを離れないシロ。
でもそこに設置された時限爆弾が5分ほどになった時、シロは早川の同僚水野に危機を知らせに行く。
けっこうそこまで距離が離れている筈なのに、水野が辿り着いた時にはまだ3分猶予があった。どこでもドアか。

そして何とか水野に助けられた早川は、シロとともに急いで逃げる。
けれど爆弾が爆発し、背後から激しい炎にまかれる二人と一匹。
まあこれで命が助かるのはお約束としてかまわないけれど、それから一晩明けたとおぼしき病室。
そこには、顎と額に申し訳程度にかすり傷を負った早川と水野の姿が。
君らは不死身か。

おまけにそれまでそんな感じがまるでなかった早川と水野は病室でキスをする。
ここ、必要?
主人公は犬とだけいちゃいちゃしておけばいいのにと思う。割と、マジで。

まあこんな感じで最後らへんの怒涛の突っ込みどころは作品の一番の見所かもしれない。
ただ、もうバカすぎて憎めない作品に仕上がっているのもたしか。

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2011年08月11日

ザ・タウン

B00495XUZYザ・タウン Blu-ray & DVD〈エクステンデッド・バージョン〉ブックレット付き(初回限定生産)
2010年 アメリカ
監督:ベン・アフレック
出演:ベン・アフレック
   レベッカ・ホール
   ジェレミー・レナー
   ジョン・ハム
   ブレイク・ライヴリー
   ピート・ポスルスウェイト
by G-Tools


この街を出るとき。

ネタバレ有りです。

なるほど、よく言及されている『ヒート』とかなり似ている。
銀行強盗を行うこと。確実なチームがあること。
主人公が一般女性と恋に落ちてしまうこと。
自分を脅して仕事をさせた花屋に復讐をしにわざわざ危険な中赴く男気。
市街地での銃撃戦まで一緒。
クレアが最後の方で主人公ダグに「今日は天気が良いから」と二人にしか判らない言葉で彼を逃がすという見事な伏線回収のエピソードは、『ヒート』で手のわずかなサインだけで夫を逃がすアシュレイ・ジャドのそれと呼応もする。

それでもオリジナリティが乏しいと貶す気になれないのは、それをあり余ってよく出来たドラマと俳優陣の好演のおかげ。

スポーツ選手の夢を諦め、この街の底辺で生きていくしかない男はそこから出ることを渇望していた。
けれど色々なしがらみがあってそれがかなわない。
自分の父親は長い間服役しており、強盗のチームであり幼馴染でもあるジェムは彼のために殺人を犯した貸しがあり、その妹と昔つきあっていた過去にも縛られている。
強盗の元締めの花屋もチーム脱退を許されていない。

全米屈指の強盗多発地区、ボストンのチャールズタウンという街の負の面を背負った彼は、リスクだらけの道を突き進むしかない。
そこからどう逃れるのか。
それが最後のスタジアムの売り上げ強奪の事件に収斂されていく。


ここは目を瞠る逃亡劇とアクションであると共に、とても象徴的な場面でもある。

ジェム含む仲間は皆死に至り、前述した通りダグを捉えて離さなかった花屋とその用心棒を殺して、ダグはようやく遠くに旅立つ。

正直強盗や殺人という卑劣なやり方で人生を変えようとするのもどうかと思わないわけではないけれど、その閉塞感からの脱却というシナリオとしては一連のドラマ展開はよくできていたと思う。

その希望の象徴であるかのようなダグの恋人クレアが、銀行の支店長という役職に就いていたにも関わらず仕事を辞めたことがダグの一歩を押したのかもしれない。
そして天気の話のやりとりで、彼は赦しを得られた。
クレアが最後のオレンジの意味するところの土地に行き、無事にダグと出会えるのかは判らない。
それでもダグは待つだろう。自分のミューズを。

そのダグにずっと想いを寄せていたと思われるジェムの妹の複雑な女心も良かった。
自分にはネックレスのひとつも贈ってくれなかったのに、別の女に高価なダイヤをプレゼントしている彼への紙一重の憎悪。
そのため彼女が強盗の計画をFBIに話してしまうところできちんとドラマが動くようになっている。

ダグ役のベン・アフレックは抑えた演技で、でもそれよりも手堅い監督業の方に魅せられた。
ジェム役のジェレミー・レナーはふとした狂気が宿る演技が素晴らしい。カフェでダグとクレアと談笑するシーンは怖いったらない。
ちょっとだけの出演シーンながら印象を残すクリス・クーパーの重厚さ、あと本当に惜しい人を亡くした花屋のピート・ポスルスウェイトの狡猾さと恐ろしさが最高。

ゴーン・ベイビー・ゴーン』に継ぐベン・アフレック監督の成功作品。

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2011年06月26日

メアリー&マックス

B005CMGL4Uメアリー&マックス [Blu-ray]
2008年 オーストラリア
監督:アダム・エリオット
声の出演:トニ・コレット
     フィリップ・シーモア・ホフマン
     エリック・バナ
     バリー・ハンフリーズ
     ベサニー・ウィットモア
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家族は選べないけれど、友人は選べる。

ネタバレ有りです。

8歳のメアリーは、額にウンチ色の痣があることがコンプレックスの冴えない女の子。
彼女の父親は生きているものに興味を示さず、ひたすら剥製作りに励んでいる。母親はキッチンドランカーで万引き癖があり、子供を放ったらかすことが多い。
ある日メアリーは電話帳で適当に探したNYに住むマックスという男に手紙を書く。
彼は44歳、160圓魃曚┐詒酲体で、ひどく神経質で偏狂的な世間に馴染めない中年男性。
世代も住むところも異なる二人は、数十年にわたって文通を続けていく。

予告を観た限りでは、ほのぼのとした二人の交流を描いたクレイアニメかと思いきや、これがもの凄くヘビーで辛い物語だった。

マックスは後にアスペルガーであることが判明し、無邪気に愛について尋ねるメアリーの手紙に不安が煽られ、入院する事態にも陥ってしまう。
人の表情から相手が何を考え、何を思っているのか判らないマックス。
自分しか見えない妄想の友人を昔から持ち、過食のセラピーも役に立たず、まともに職にもつけない。
メアリーも家族は前述した通り、同級生にはいじめられ、心を許せる隣人も戦争の経験から広場恐怖症となり、今は一歩も外に出られなくなってしまった障害を持っている。

誰もが不完全で、誰もが問題を抱えている。
でもその中でも一生懸命に生きている人がいる。
そんな他人を認めること。愛すること。
それがこの物語のひとつのテーマでもある。


大人になったメアリーは、マックスをモデルとしたアスペルガーに関する文献が認められ、それを出版することとなった。
けれどそれを知ったマックスは大激怒。いつもメアリーに書いていた手紙のタイプライターのMのキーを外して彼女に三行半として送りつける。
自分が増長してしまったこと、彼を傷つけてしまったことを深く反省し、自暴自棄となり、せっかく理想の相手と結婚したのにその生活を破綻させてしまうメアリー。
二人の文通が途絶え、年月が経ってマックスは気づく。
完璧な人間はいないこと。
自分だって。メアリーだって。
賢く節約家だと思っていた隣人の老女も、マックスが当てた宝くじの半分を譲った途端凄い浪費家となって、結果命を落とした。
問題の多い人々の内面や行動を辛辣に描きながらも、それを単純に揶揄したり批判したりしない作品のつくりがとても良い。

メアリーが自殺をしようとした時、それを止める役割を担った広場恐怖症の隣人が、外に出るエピソードが印象的。
困難から一歩を踏み出した人間の素晴らしさ。
そしてそれが別の人間を救うこととなる。

それはメアリーとマックスにも当てはまることで。
二人の友情は、その閉鎖的な人生に光をともらせていた。

メアリーが初めてマックスの家を訪れた時。
彼は微笑みながら既に息絶えていた。
彼と直接話すことはなかったけれど。
メアリーは見る。
彼女がマックスにあてた何通もの手紙が家の壁中に貼られていたのを。
このシーンは今思い出しても泣けてくる、映画屈指の名シーン。

マックスの世界はモノクロ、メアリーの世界はセピア色で表しているのも面白い。
そして彼らのやり取りするもの―便箋だったり、チョコレートだったり―が相手に届けられると、そのままの色がそれぞれの世界に色を添える。
特にメアリーの手作りの赤いボンボンを帽子にのせるマックスの姿が可愛らしく、その赤は色を失った彼の世界の希望の象徴のようでもある。

かなりレベルの高い大人のクレイアニメ。おすすめ。

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2011年05月19日

パリ20区、僕たちのクラス

B004IPQE5Sパリ20区、僕たちのクラス [DVD]
2008年 フランス
監督:ローラン・カンテ
出演:フランソワ・ベゴドー
   ローラ・バケラー
   シェリフ・ブナイジャ・ラシェディ
   ジュリエット・デマーユ
   ダラー・ドゥコゥール
   アルチュール・フォジェル

by G-Tools


『いまを生きる』で立ち上がらなかった生徒たち

ネタバレ有りです。

パリの中学校で国語を教えるフランソワ。
生徒たちは人種も家庭内情もさまざまな13〜15歳の男女24人。
優秀な者、勤勉なまだフランス語が得意でない中国人少年、いちいち教師の揚げ足を取っては生意気な発言をする女生徒、問題児とされている黒人少年、彼らは実に個性的で、積極的に発言し、大人に反発し、情熱を抑えることなく発揮する思春期のモンスターたちだ。
そんな生徒たちに正しいフランス語を教えようとフランソワは懸命。
でも時にはつい失言してしまい、それが発端で騒ぎが起こることもある。

そして学期の終わり、生徒たちは他の授業でどんなことを習ったのかをフランソワに語る。
そこで思い出されるのが最初の学期の様子だ。
彼らは帽子もフードも取らず、おしゃべりに夢中でクラス中に嬌声が響き渡り、フランソワが「席に着いて静かになるまで15分も要した」と愚痴るくらいに無礼で騒がしかった。
けれどラストでは、生徒たちはひどく穏やかに、他人の発言を茶化すことなくきちんと聞き、受け答えをしていた。

ここから判ることは、色々あったけれど彼らなりに少しでも成長したということだろう。
けれどそのまま終わるかと思いきや、ある一人の少女がフランソワに話しかける。
「私は授業で何も判らなかった。学ばなかった」と。

生徒と生徒の交流を描く学園ものといえば、ドラマでやりつくされた熱血先生と問題のある生徒とのぶつかりあいと汗と涙と感動の展開が定番だろう。

そのお約束からすれば、退学となって学校を去っていった問題児などある筈もないエピソードとなる。
日本のドラマだったら、その不良少年のために教師がよく判らない暴力事件に巻き込まれ、怪我を負いながらも彼の潔白を晴らし、友人たちも何だか知らないけど色々無茶をしてやっぱり怪我をしながら涙ながらに退学を撤回することを懇願するだろう。
そして晴れて退学から免れた不良生徒は先生と抱き合って白い歯を見せて笑う。
それがない本作は間違いなくリアルで素晴らしい。

だから全く何も学ばなかったとした女生徒の存在がただのハッピーエンドとは一線を画するものとなる。

それが良く表されていたのが、ラストカットで映る椅子だ。
きちんと机の内に収まっているもの、斜めになっているもの、倒れたままのものと実にさまざまだ。
これはそのまま生徒たちを象徴しているように思われる。

ここで思い出されるのがピーター・ウィアー監督の傑作『いまを生きる』だ。
号泣必至のラストシーン、よく見ると机の上にのぼっていない生徒たちもパラパラいる。
それこそが「リアル」だろう。
この映画にもそれを感じた。
だから強く心が魅かれる。

素人とはとても思えない24人の生徒たちの「素の演技」に感嘆する。

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2011年04月11日

イリュージョニスト

B00565CRDMイリュージョニスト [DVD]
2010年 イギリス・フランス
監督:シルヴァン・ショメ
脚本:ジャック・タチ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ
      エルダ・ランキン
      ダンカン・マクネイル
      レイモンド・マーンズ

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少女にとってそれは魔法。

ネタバレ有りです。

1950年代のパリ。
手品師のタチシェフは、劇場やバーで芸を披露し、各地を転々としていた。
ある日、スコットランドの田舎町で彼はパブで働く貧しい娘アリスと出会う。
彼女のボロボロの靴を見て、新しい赤い靴をプレゼントするタチシェフ。そんな彼をアリスは何でも願いを叶えてくれる魔法使いだと思い込んでしまう。
そして旅立つ彼についていき、エジンバラの町で二人の生活が始まった。

ベルヴィル・ランデブー』で心を鷲掴みにされて、新作を心待ちにしていたシルヴァン・ショメのまたまた傑作。
前作と同じく、台詞は必要最低限に抑え、やわらかい線で描かれる街並みにノスタルジーを残し、デフォルメされた脇役を配置し、そして今回はとてもやさしくもせつない風味を加味した絶品。

少女の純粋さはときに残酷で、彼女は初めての都会でそこにそぐわないみすぼらしい服装に羞恥心を抱く。
ショーウィンドウには、白いコート、ヒールの高い靴、裾がふんわり広がったガーリーなドレスが並んでいる。
硬貨一枚で値の張るネックレスが買えると思っていた彼女は、それらの価格の相場を知る由もない。
それよりも何よりも、見初めたものをタチシェフに見せれば彼はそれを「魔法で」用意してくれる。

決してアリスが強欲というわけでないのは、客である立場なのに自分で泊まっているホテルを掃除したり、近所の人々にシチューでもてなすといった行動で判るようになっている。
だからこそタチシェフは、言葉の通じないこの純な少女の夢をかなえようと奔走する。

そこにあるのは擬似親子愛であって、終盤で娘らしき写真を眺めるタチシェフのシーンで、彼がアリスに娘を投影させているのが判る。

彼女のためのイリュージョン。
その報いは満面の笑み、そして頬へのやさしいキス。


アリスのために副業として車の洗浄やポスター作りの仕事もこなすも、金は支配人にピンはねされたり、不幸にして他人の手に渡ってしまったりする。
そんな困窮する生活に反し、どんどん洗練されていって都会の娘らしくなっていくアリスの姿が皮肉だ。
そして当然のことながら、彼女を見初めた若い男がいて、アリスは彼と恋に落ちる。

タチシェフと同様に、腹話術師やピエロを生業とする男たちも仕事になかなかありつけないようだ。
ピエロは首吊りをしようとし、腹話術師は自分の分身の人形を売ることとなる。
質屋でタチシェフがその人形をウィンドウケースで見つけるシーンはとてもせつない。その値札はどんどん書き換えられ、とうとう最後には「FREE」の文字が。
時代遅れの芸人たちの悲哀がそこに詰まっている。

アリスに恋人ができたことを知り、もう自分の「魔術」が不要になったタチシェフは、ずっと旅をともにしてきたウサギを野に放つ。
そこで画面がすっと引き、周りに野ウサギが何匹もいる風景を映したシーンでは、タチシェフのやさしさに泣いた。
手品のタネを手放すこと。
それはイリュージョンの終焉を指す。

一人の少女のために行ったことは、彼の最後の手品。
だから彼は「タネ明かし」をする。
アリスに宛てた手紙に「魔法なんてない」と書き残して。
手品師のなんて見事で、なんてせつない締めくくりだろう。

ホテルの小窓から風が吹き込んで、まるで美しいイリュージョンのように、テーブルの上の本がぱらぱらとページをめくられる影のシーンは素晴らしいの一言。
今年これを越えるアニメ作品は先ず出てこないだろうと思わせられる逸品。

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2011年03月16日

英国王のスピーチ

B004N3B95U英国王のスピーチ[DVD]
2010年 イギリス・オースラトリア
監督:トム・フーパー
出演:コリン・ファース
   ジェフリー・ラッシュ
   ヘレナ・ボナム=カーター
   ガイ・ピアース
   マイケル・ガンボン
   デレク・ジャコビ

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王たる声を。

ネタバレ有りです。

ヨーク公は吃音に苦しむイギリスの王子。
公衆の面前での演説に支障を来たし、専門家の下で治療を試みるも、あまりに古いそのやり方は効果がなかった。
彼を心から愛し気遣う妻エリザベスは、別の医者を捜し当てる。
それは実はただの売れない役者で、独自で発声法を生み出したライオネルという男だった。
二人きりでの“治療”が始まった。
そんな時、父王ジョージ5世が逝去し、兄が王位を継ぐも、離婚歴のあるアメリカ女性とのスキャンダルのため退位、ヨーク公が次の王ジョージ6世となった。
そして戦争が少しずつ影を落としていた……

2011年アカデミー賞に輝いた作品。
それもむべなるかなと思わせられる、演出と役者と脚本のアンサンブルが素晴らしい。

ジョージ6世が雲の上の人間でなく、親しみを感じさせる描き方をしているのが良い。
先ず吃音というハンデに苦しみ、たびたび癇癪を起こして感情的に行動するという人間的欠点を露わにし、けれどそれを克服しようと懸命になる姿も描かれ、結果後者の方が強調されることとなる。
その症状の原因が、乳母からのいじめと厳しい躾に因ることも明らかにされ、ただの甘やかされた坊ちゃんの見方もなくなる。
彼がヘッドホンで自分の声が聞こえない状態で録音された、スラスラと朗読するレコードを聴いた時はガッツポーズするほどの嬉しさだった。

それに負けないくらいに魅力的なのがライオネル。
彼のキャラクターが圧倒的に良い。

王に臆することなく、ごく親しい者しか呼ばせない「バーティ」という名で彼を呼び、治療時は対等な立場を相手にも求める。
身振り手振りどころか体全体を使っての発声練習、罵声の時は吃らないから「ファック」だの「シット」だの、あとはオッパイなどのこれは王族が言ったらかなりヤバいだろう言葉を叫ばせるのは笑った。
けれど彼は真面目に取り組んでおり、何よりもバーティに対して親身になっていることが判るからドラマにひきこまれる。

そして二児の父親でもあるライオネルは、家庭でも茶目っ気を見せている姿が描かれているのが良い。
ずっと妻に王を治療していることを秘密にしていて、それがバレた時小さく隠れていたり。
「シェイクやろう」と子供に言われ、何のことかと思っていたら「シェイクスピア」の芝居の一部を演じる遊びのことだったり。

それから時々癇癪を起こしたり、自信喪失したりする夫をそばで支え続けたエリザベスの献身と愛情も見逃せない。
彼女はまたライオネルのことも認めており、最後の最後にそれまで呼ぶことを好ましく思っていなかった「ライオネル」とその名を呼ぶ。
バーティはとうとう呼ぶことのなかったその名を。

やがて戦争が勃発し、国が不安に包まれる中、ジョージ6世の一世一代のスピーチが始まる。

ライオネルと向き合って。
その身振りに誘導されるように。
練習してきたことを繰り返して。
英国王はマイクに、いや国民に向かってゆっくりと、でも力強く話しかける。
それは彼がこれだけは感嘆したヒトラーの大仰でカルト的なパフォーマンスに満ちた演説ではなかったけれど。
これまで幾度もとっかえつっかえ、しまいには何も言葉が紡げなくなってしまった彼の姿を見てきたこちらは、その威風堂々たる話しっぷりに涙が止まらなかった。
そこでベートーベンの音楽が、皮肉にもぴったりなところが凄い。

ジョージ6世を演じたコリン・ファースがオスカーに相応しい名演。
少し気弱なヨーク公が、王となり、最後の演説のシーンではその顔つきまで違ってみせてくれたのは凄いの一言。

そしてこちらもオスカーに匹敵するだろう素晴らしい演技を見せたライオネル役のジェフリー・ラッシュ。
あの温厚でユーモアがあってとにかく魅力的な人物像は彼でなくては出せない味だったと思う。
ラストカットは、コリン・ファースのアップからジェフリー・ラッシュに移ったのも印象的。
「最後の最後に映るのが真の主人公」というどこかで聞いた映画の薀蓄(もちろんそうでない作品も山とあるのは承知)に頷く。
今年のマイベスト1が早くも出てしまった感がある。

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2011年03月14日

アリス

B00077DAYEヤン・シュヴァンクマイエル アリス [DVD]
1988年 チェコ・スイス・イギリス・ドイツ
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
出演:クリスティーナ・コホウトヴァー
   カーミラ・パウアー
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シュヴァンクマイエル風味のアリスはこうなる。

ネタバレ有りです。

ダークでシュールで、シュヴァンクマイエルお得意のループする出来事、まずそうな食べ物まで兼ね備えた、長編第一作目の作品。
ティム・バートンの『アリス・イン・ワンダーランド』よりもずっと面白い。

オリジナリティに溢れた映像が素晴らしい。
アリスが追いかけていくうさぎは可愛らしさとはほど遠く、その体の中身はおがくずが詰まっていて、そこから時計を取り出すたびにその内臓(?)があふれ、自ら針と糸でそれを繕う始末。

アリスが不思議の世界に落ちていくところは、エレベーター方式となっている。

謎のインクを飲むとアリスは小さくなってしまうのだけれど、それがなんと実写から人形へと姿を変える。

マッド・ハッターはその名の通り狂っていて、お茶を飲むたびに木造の体に液体を滴らせ、きれいなカップを求めてテーブルを一巡する。

等々、今度はどんなお遊びを見せてくれるのかとワクワクさせてくれる映像作りは流石としか云いようがない。
ラストは、トランプの女王に首を斬られる寸前で、アリスが現実世界に戻り、でもケージに飼っていたうさぎがいないことに気づき、無邪気に鋏を手に取るところで終わる。

せっかくの美少女の愛らしさを活かそうとは思ってもいないようなところもこの監督さんらしい。
今まで殆ど短編しか見ていなかったので(いや、それがあまりに素晴らしいのでファンになったけど)、こうして長編を見られることが嬉しい。

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2011年03月10日

ストリート・オブ・クロコダイル

B004ANV14Cストリート・オブ・クロコダイル

1986年 イギリス

監督:ブラザーズ・クエイ


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寂れた博物館に一人の男が立ち寄る。
彼が落とした唾液によって、埃をかぶった機械が動き出す。
螺子はくるくると踊り、曇った硝子戸の向こうではおもちゃの猿がシンバルを鳴らし、電球の光に呼応させるかのように子供の人形が鏡をかざす。
その一連のできごとを見つめて彷徨う一人のこれまた人形。
彼が行き着いた先には、人形の首を挿げ替える仕立て屋たちが待っていた。

ストーリーらしきものはなく、とは云えきちんと原作があるのだけれど、それを読み解くのはおそらく不可能。
塵芥に塗れた黒と灰色、そこに射す光とタンポポの綿毛といった白とのモノトーンが織り成す世界で、ときどきドキッとさせられる鮮やかな色が舞い込む。
それはリアルな内臓。

懐中時計を開ければそこには文字盤の代わりに肉塊があらわれ、螺子を排出する。
そして仕立て屋たちが丁寧に紙でくるむ、あるいは針をおったてる肝臓はいまにも動きそうにフレッシュだ。

そのいきなり現れた“生”の部分がひどくエロティック。

首を替えられた人形の体をやさしく撫で回す仕立て屋たち、そして機械仕掛けで互いに手を伸ばしあいながらも触れることがかなわない作り物のゆびさきなどもどこか官能的だ。

そんな箱庭的世界で過去の遺物たちはただ静かに息づくしかないのか。
映像美に秀でたストップモーションアニメ。

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2011年02月11日

エグザム

B00405SOHCエグザム [DVD]
2009年 イギリス
監督:スチュアート・ヘイゼルダイン
出演:ルーク・マブリー
   ナタリー・コックス
   ジミ・ミストリー
   ジョン・ロイド・フィリンガム
   チュク・イウジ
   アダル・ベック
   ポリアンナ・マッキントッシュ

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説明をよく聞こう。

ネタバレ有りです。

ある就職最終試験に臨む8人の男女。
破格の年収を得るのはこの中のたった1人。
ルールは3つ。
(1)試験監督、または入口に立つ警備員に話かけてはならない。
(2)自分の試験用紙を故意でも事故でも損なってはならない。
(3)いかなる理由に於いても部屋から出てはならない。

質問は1つ。求められる答えも1つ。
制限時間は80分。
しかし、試験用紙は白紙だった。

劇場公開された時、もの凄く観たかったけれど、公開規模が小さすぎてかなわなかった。
ようやくレンタルで見ることができたけれど、期待に違わずもの凄く面白かった。
本当によくできている。
最近のサスペンスの中では秀逸の出来。

一人のアジア系の女性が紙に自己PRを書き始める。
そして失格。どうやら何かをそこに書くのはNGのようだ。

残りの7人は質問を見つけるまで協力し合うことにする。

・白紙に見える紙に何か書いてあるのではないか。
・ライトに透かしたらどうか。
・ブラックライトは?
・赤外線は?
・液体をかけてみるのは?
・部屋が暗室仕様となり、火気を近づけたら探知機から現像液が出てきてモノクロ写真のように現像されるのでは?
・いや実は質問自体存在しないのでは?
・実力行使で最後の一人に残るしかないのでは?

そのひとつひとつ試される実験がいちいち面白い。
わたしのような頭が悪いのが8人が揃ってたら「えー、どうしよう」と言い続けて80分が終わってしまうだろう。
スマートな人たちのアイディアは見ていて気持ちが良い。

登場するキャラクターも個性が強く、見ていて飽きさせない。
どころか会話するにつれて彼らの境遇や立場が判ってくる件はゾクゾクした。

どうやらこの世界はパンデミックによって死人が続出しているらしい。
それの抗ウィルスを作っているのがこの試験を行っている会社。

この中に感染者がいるかもしれない。
受験者にまじって社員がいるかもしれない。
その疑心暗鬼を答えを見つける過程でうまく織り込んでいる。

実は病気の感染者で、定時に薬を飲まないといけない、口が悪くライバルを蹴散らすのに躊躇しないホワイト。
敬虔なキリスト教徒で自分勝手なホワイトをいつも諌めるも、それがエスカレートして暴力的となっていくブラック。
パートナーが感染者で、薬を安く手に入れたいために試験に臨んだブルネット。
実は社員で、自らの昇進をかけていたダーク。
おちゃらけたギャンブラーだけれど、ダークを拷問しようとするブラウン。
皆の中に入らず、挙動不審なデフ。
そして、忌み嫌われていたホワイトの命を助けたブロンド。

最後には銃が持ち出され、ホワイトがブラックを撃つ。
残り一人になったブロンドを追い詰めようとした時、ホワイトは制限時間の残りの表示が0になっているのを確認した。
「俺が答えだ。そうだろ?」
と監視カメラに話しかけるホワイト。
けれどそれは時計に細工をしたデフの罠だった。

残ったのはブロンド。
彼女は冷静に今までのことを思い浮かべる。
1つの質問。
監察官は説明をしたあと最後に言った。
「何か質問は?」

ブロンドは、実は会社のCEOだったデフの前に立って答える。
「ありません」と。

いやもう途中で「実は質問なんかなかったんだ」とか、実力行使で他の受験者を追い払うものが勝ちだ、とか色々ミスリードがあったせいで、最後アクションに転んで終わったらどうしようかと思ったけれど、まさか最初にきちんと質問が出ていたとは。
やられた。

色々エゴが交じった人間の醜さが露出される中で、最後まで理知的で人間性を忘れなかったブロンドが選ばれるというのが本質を突いていて良い。

オープニングを見返すと、きちんと伏線が張られているのも凄い。
ホワイトは薬を飲んでいるし。
ブロンドは溝から薬を取り出すのに使うこととなるヘアピンを髪にさしているし。
ダークのふとももに拷問の痕がのこっているし。

とにかく大満足の1本。
限られた空間で展開される頭脳戦。
ブラボー!

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2011年02月09日

デュー・デート 出産まであと5日! 史上最悪のアメリカ横断

B004FGLVTEデュー・デート ~出産まであと5日! 史上最悪のアメリカ横断~ [DVD]
2010年 アメリカ
監督:トッド・フィリップス
出演:ロバート・ダウニー・Jr.
   ザック・ガリフィアナキス
   ミシェル・モナハン
   ジェイミー・フォックス
   ジュリエット・ルイス
   RZA
   ダニー・マクブライド
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サ イ ア ク 。

ネタバレ有りです。

妻の出産まであと5日。
ピーターはそれに立ち会うためにアトランタからロサンゼルス行きの飛行機に乗っていた。
しかし、そこで同乗したイーサンという男とトラブルを起こし、二人とも乗車拒否をされてしまう。
財布を含めた荷物をなくしたピーターは、仕方なくイーサンがレンタルした車に乗ってアメリカ横断をすることになった。

ハングオーバー!』の監督作だったので否が応でも期待が高まってしまったのが悪かったのか、クスリと笑える部分はいくつかはあるけれど、前作の突き抜けた面白さには到底及ばなかった。

イーサンは俳優志望の空気の読めないバカチンで、アレルギーが出ると判っているのにワッフルを食うわ、ピーターの横で自慰をするわ、居眠り運転で事故るわ、でも自分だけはほぼ無傷だわ、ピーターがなくしたと思っていた財布を実はひそかに持っているわの大迷惑男。
そこらへんのピーターの受難劇はなかなか楽しめたものの、不意にイーサンが父親を亡くして傷ついているシーンが挿入され、そのいきなりのシリアス展開に戸惑う。
その父親の遺灰をコーヒー缶に入れているという非常識っぷりも惜しいかな、『ビッグ・リボウスキ』で既にやっちゃっているので笑いが薄れる。
しかもその灰を崖の上から撒き散らすところまで一緒だ。これはダメだ。

妻の浮気疑惑やら、生まれてくる子供は果たして白人か黒人かの一応ハラハラ感やら、ヤクで捕まったピーターをイーサンがアクション俳優の如く奪還する爽快感やらもちろん随所に面白さはあっただけに惜しい。

他に見所は、ピーター役のロバート・ダウニー・Jr.と過去に共演した役者が勢ぞろいしている点。
キスキス,バンバン -L.A.的殺人事件』のミシェル・モナハンと。
『路上のソリスト』のジェイミー・フォックスと。
そして『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のジュリエット・ルイスと。
それぞれの役柄を思い出してニヤニヤさせてくれる妙なキャスティングだと思う。

さて、お次は『ハングオーバー! 2』が控えているけれど、どんな出来になるか楽しみでもあり、ちょっと不安でもあり。

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2011年01月28日

ハイブリッド刑事

ハイブリッド刑事2010年 日本
監督:FROGMAN
声の出演:FROGMAN
     神田うの
     松崎しげる
     国広富之


上映劇場:全国7劇場
上映時間:40分
料金:無料

という驚異の作品をひっさげてFROGMANが仕掛けたのは、トヨタのハイブリッドカーの宣伝ムービー。
とは言え、あからさまなCMはこの監督作品の笑いのひとつとして定着しているし、何よりそれとは思えないほど作品のクオリティは高い。

捜査一課でヘマをやらかした小泉鈍一郎は、大臣が編成したあらゆる分野のエキスパートが集まったハイブリッド課に左遷させられる。
彼は刑事としてはド素人だらけの集団をまとめるべく、日々訓練を重ねていた。
そんな折、大臣の娘が誘拐される事件が起こる。

FROGMANお得意の画面の中央から隅々まで細かいネタが満載。
凶悪なピーポくんや、電話機や蛍光灯まで刑事というシュールな設定や、誘拐犯のアジトの工場の看板の「誘拐第一」の文字や、ファーストシーンで鈍一郎が持っている過剰なまでのケータイストラップにFROGMANが手がけた歴代のキャラクターが勢ぞろいしているところなど大いに笑わせてもらった。

今回ヒロインとして登場する大臣の娘がいつもウェディングドレス姿で、この声優を実生活で一体何回式をしたら気が済むんだとつっこまずにはいられない神田うのをキャスティングするところ、このぎりぎり許されるブラックさも良い。

事業仕分けや公務員の本職など社会風刺も利かせながら、でも監督が一貫して押し出しているヒューマニズム(こう書くと陳腐だけど)がきちんと描かれているのも見所。

まあ鈍一郎は、顔も性格も志も基本的に『鷹の爪』シリーズの総統と一緒なので、やっぱり最終的に仲間を大切にするし、世の中のどの子供たちもが安心して暮らせる社会を作ることを目指すという台詞もちゃんと出てくる。
このお約束がファンにとっては心地よい。

とにかくこんな楽しいものを無料で提供してくれるなんて有難いことです。
もちろんこれからもFROGMANはお金を払って観るけれど、こういった限定公開作品がまたあれば、とつい期待したくなる。

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2010年10月24日

キャメロット・ガーデンの少女

B00005H3IHキャメロット・ガーデンの少女 [DVD]
1997年 イギリス・アメリカ
監督:ジョン・ダイガン
出演:ミーシャ・バートン
   サム・ロックウェル
   クリストファー・マクドナルド
   キャスリーン・クランイン
   ブルース・マクギル
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 「教えてくれ。俺の家はどこにある」
 「私の手の中にあるわ」

ネタバレ有りです。

十数年前に予告を見て、勝手に傑作に違いないと思い込み、鑑賞する日を心待ちにしていたのに、なぜか機会に恵まれず、やっと今回見ることができた。
大体が『レオン』や『シベールの日曜日』や『都会のアリス』のような、世間から孤立・疎外された男と少女の組み合わせが好みなもので、この映画も自分のストライクに入る筈だった。
けれど、思っていたものとは少し違った。

キャメロット・ガーデンに越してきた裕福な家族。一人娘のデヴォンは空想に浸りがちな10歳の女の子。
彼女の家で芝を刈るトレントは町の住人から軽蔑されて生きている青年。
彼に興味を持ったデヴォンは、トレントのトレーラーハウスに遊びに行くようになる。
距離を縮めていく二人。
けれどある誤解から、周囲はトレントをデヴォンに手を出した悪者として追い詰める。

貧富と学歴の有無によって公然とした差別がまかり通っている世界。
その描写がところどころに散りばめられていた。
トレントは働き先でトイレも貸してもらえず、ガーデンパーティーでは客にステーキが振舞われるも、彼に与えられるのはホットドッグのみ。そしてそれをネタにして賃金を搾取されからかわれる。
セクシーな女子大生はトレントと寝るものの、彼と一緒のところを仲間には見られまいとし、彼に話しかけられても無視をする。
ブレッドという青年の車にあったCDがなくなればトレントが疑われ、彼は常に敵対視されている。

でもそんなブルジョアたちの汚い面をデヴォンはちゃんと見て知っている。
パパは人をゴミ扱いし、ママはブレッドと浮気をしている。
ブレッドはデヴォンにも触ろうとし、それをパパに言うと
「くすぐっただけだろう」
で済まされてしまう。
その後のトレントへの攻撃を考えると、実に象徴的な場面だ。
富裕層のブレッドには疑いをかけず、社会的地位のないトレントの場合は娘に性的ないたずらをされたと思い込んでしまう。

だからデヴォンはそんな内面のどす黒さのないトレントに魅かれて行く。
一緒に鶏を盗んでチキンディナーを楽しみ、車の屋根の上で踊り、実の父親でさえ忌む手術の傷を受け入れてもらう。

と、ここまでは凄く良かったものの、その後トレントがショーンという元同級生の愛犬ドーベルマンを轢いてしまい、安楽死させようと撲殺したことでデヴォンがショックを受けて彼の元を去る“転”のシーンからどうもすっきりとしなくなってしまった。
その少女の証言から前述したように周囲はトレントがデヴォンに手を出したと判断してしまう。
この辺の少女の言動が理解できない。
繊細な心が動物の死で混乱し傷ついたのは判るけれど、傷を触るように言ったのは彼女自身。その説明をどうしてきちんとしないのか、たった10歳の女の子にそれを求めるのは酷なことなんだろうか。
けれど普段トレントを色眼鏡で見ていた周囲の疑いが決定的になる役割をまさか少女が負うことになるとは思わなくて。

なので、トレントを執拗に殴打するショーンを拳銃で撃ち、トレントを逃がす彼女の行為にすっきり合点がいかない。
そこまでされるとは思わなかったからこその助け舟だったのだろうけれど……

そしてラストシーン。
トレントは車で逃走する。
少女はその前に彼にタオルと櫛を渡す。
彼女がよく語っていた物語のように、追い詰められたらタオルを投げると、そこには川が溢れ、櫛を投げると森が林立し、追っ手をさえぎることができる。
それがその通りとなったあのシーンは、予告で現代のフェアリーテイルと謳っていたけれど、あれが現実とは到底思えない。
すべては少女の願望、そして幻想で、トレントは連絡を受けた警察に捕まっている気がしてならない。

デヴォンの告白さえなければ、そこはもの哀しいラストとして受け入れられたけれど、少女の責任が割に大きくて、モヤモヤしたものが残ってしまった。

見所はサム・ロックウェルとミーシャ・バートンの主演二人の芸達者ぶりが一番だけれど、個人的に同性愛者らしきショーンと、彼に威嚇のつもりか懐柔のつもりか、はたまた挑発のつもりか、思い切り唇にキスをするトレントのシーンにやられた。

とにかく見たいと思った日からあまりに長い年月が経ちすぎてしまったのも敗因のひとつかと思う。

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2010年10月10日

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士

B004AM5ZRWミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士 [DVD]
2009年 スウェーデン=デンマーク=ドイツ
監督:ダニエル・アルフレッドソン
原作:スティーグ・ラーソン
出演:ノオミ・ラパス
   ミカエル・ニクヴィスト
   レナ・エンドレ
   アニカ・ハリン
   アクセル・モリッセ

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反撃が始まる。

ネタバレ有りです。

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 『ミレニアム2 火と戯れる女』に続く完結編。
前作で死に掛けたリスベットがドクターヘリで病院に移送されるところから始まる。
けれど病人だからとは言え、彼女は数々の事件の容疑者であり、一命を取り留めたザラチェンコの殺人未遂の罪もある。
そのザラはあっさり彼を匿ってきた組織の手によって殺され、彼の娘であるリスベットもターゲットとされた。
彼女の罪を糾弾するエクストレムは、かつて精神病院でリスベットの担当医だったテレボリアンを味方につけ、再び病院に閉じ込めようとしていた。
しかしリスベット側もミカエルをはじめとした擁護者が立ち上がっていた。

この円卓の騎士ならぬ狂卓の騎士たちがいてくれたのがうれしい。
リスベットはずっと孤独だった。
誰も手を差し伸べてはくれなかった。
それがミカエルが良心を見せ、彼女を理解してくれ、窮地に立った時に彼が援軍を連れてやって来た。
ミカエルの妹アニタは彼女の弁護士となり、公安警察の二人も協力を買って出、リスベットの元上司もミカエルの依頼を受けて彼女側に立つ。
他にハッカー仲間のプレイグもその手腕を発揮。
そして印象的だったのはリスベットの怪我の主治医であるヨナソン。
彼は警察から彼女を遠のけ、精神鑑定をしたいと申し出、賄賂を差し出したテレボリアンを気持ちの良いくらいに撃退し、普段だったら病院でできないこと―ネット端末使用を黙認、ピザの配達―をしてくれる。
こんな誠実な医師とリスベットがもっと早くに巡りあえていたら。
彼が「人って捨てたもんじゃない」と思わせてくれる重要な役割を果たしていた。

だからこそ。
だからこそ、法廷シーンはあっさりしすぎていた感があってどうにも残念。

髪をモヒカン風に立てて、目の周りと唇を真っ黒に塗ったくって、鋲だらけのパンクファッションで法廷に臨むリスベットの姿を見たときはゾクゾクした。
これぞ彼女。
世界に対し敵意を剥きだしにした本領発揮ともいえるいでたちに心は躍った。
でもそんな彼女だからこそ、その法廷で自分のために動いてくれた人々の顔ぶれを見た時にもう少し情感の動きが欲しかった。
あれはきっと涙が出るほどうれしかった筈。
彼女の一瞥と、一人ひとりの“騎士”の顔を映し出す演出で一応こみ上げるものはあったけれど、もう少しベタで良いから盛り上げが必要だったと思う。
自分は一人じゃなかった。
そうリスベットが気づく重要な場面なのだから。


その後の検察側の証言を覆す胸をすくはずの弁護側の反論も、例のヒュルマンがリスベットをレイプする画像を見せるだけで勝利が決まる。

ミカエルも、彼女を助けようと奔走し、編集長のエリカともども脅迫され、殺し屋にまで命を狙われながらミレニアム誌を刊行する勇気ある行動をとりながらも、何だか二人の不倫がグダグダ続いているせいで、どうしてもリスベットのためという意識が薄くなってしまう。
だから前述したヨナソン医師の存在感が光ってしまい、彼女の心を懐柔するのにミカエルの存在が活きてこない。

ニーダーマンとの死闘にけりをつけ、ザラの遺産をはねつけ、ようやく平穏を取り戻した彼女とミカエルが邂逅を果たすのはラストのワンシーンのみだったのも残念。
それもごくあっさりとしていて、彼らが別に抱擁してキスするのを望むわけではなかったけれど、心のつながりを感じるには長く間が空きすぎた感じ。
「またね」
「きっとだよ」
という彼らの最後の台詞に希望は灯るものの、やっぱりエモーショナルなものは足りなかった。

一作目はミステリ、二作目はヒロインの過去に纏わる国家的陰謀のサスペンス、三作目は法廷劇(というには法廷シーンは短すぎだけれど)、と構成は抜群なのに最後の最後で期待が外れた。
原作者が亡くなっているということから、もうリスベットの姿を見られなくなってしまったことが心底淋しい。
ハリウッドリメイク版があるけれど、ノオミ・ラパスのリスベットは怖いくらいに完璧だった。これを越えることは絶対にないだろう。

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2010年09月23日

ミックマック

B004GHNSCKミックマック スペシャル・エディション [DVD]
2009年 フランス
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン
   ドミニク・ピノン
   アンドレ・デュソリエ
   ニコラ・マリエ
   ジャン=ピエール・マリエル
   ヨランド・モロー

by G-Tools


カタキをとる。

ネタバレ有りです。

ビデオショップで働くバジルは、ある日流れ弾に当たり、それが脳に残ったままとなってしまう。
そのために仕事を失い、ホームレスとなった彼は、風変わりな7人が擬似家族を形成するガラクタだらけの家に招かれ、仲間入りした。
そんな時、偶然自分の頭の中の弾を製造した会社と、昔父親の命を奪った地雷を造った会社の両方を発見する。
バジルは仲間たちと共に、復讐のためのいたずら(ミックマック)を仕掛けた。

ジャン=ピエール・ジュネらしさが満載の世界観が素敵。
美形なんて一人も出てこないけれど、個性豊なメンバーの顔ぶれと、彼らが繰り出す小道具の数々だけでも楽しめてしまう。

人間大砲でギネス記録を持つ男。
会話にいちいち四字熟語を取り入れる言語オタク。
冷蔵庫などの狭い空間にもすっぽりと体がおさまる軟体女。
ガラクタから何でも造ることができる発明家。
彼らが作る仕掛けがいちいち面白い。
睡眠薬入りの角砂糖を吊ってコーヒーの中に入れたり。
スーツケースをすっぽり覆う鞄型のカバーでまんまとそのケースを盗みおおせたり。
人間大砲で向こう岸までバジルを飛ばしたり。
風俗店の男女を使って破廉恥な情景を演じさせ、見張りの目を逸らさせたり。

でもやっぱり一番傑作だったのは、武器会社の社長二人を誘拐し、イラクに連れて行き、脅して彼らの悪行の洗いざらいをぶっちゃけさせたクライマックス。
実は飛行機の音は手作りの効果音で、イラクの荒野もセット。
現地人に扮していたのもバジルと仲間たち。
録音していた社長たちの告白をネットに流し、それがyoutubeであっという間に世界に広がるさまは痛快。

反戦のテーマは押し付けがましくなく、現代のお伽話に盛り込ませる手腕が見事。

シックでスタイリッシュな会社と相反したガラクタの家は、暖かみにあふれている。
発明家が作った、くるくる回るシャツとスカートを吊るしたハンガーのように軽やかな幸福感がそこに満ちている。

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2010年09月22日

セラフィーヌの庭

B0048IES3Aセラフィーヌの庭 [DVD]
2008年 フランス=ベルギー=ドイツ
監督:マルタン・プロヴォスト
出演:ヨランド・モロー
   ウルリッヒ・トゥクール
   アンヌ・ベネント
   フランソワーズ・ルブラン
   ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ
   ニコ・ログナー
   セルジュ・ラヴィリエール

by G-Tools


草木と対話し、天使から啓示を受け、彼女は描く。

ネタバレ有りです。

実在の画家セラフィーヌ・ルイをヨランド・モローが彼女になりきった見事な演技で魅せる。フランスで賞を総なめにしたという記事を読んでから、その演技を観るのをずっと楽しみにしていた。

1912年、セラフィーヌは使用人として働いていた。
家に帰ると、草木をすりつぶしたり、家畜の血を瓶に詰めたり、教会からワインをこっそり持ち出したりしたものを合わせた自作の絵の具を使って絵を描いていた。
ある日、彼女の働く家にドイツ人のウーデが滞在することとなった。
敵対する国の人間に周囲は冷たかった。
そんなウーデがひそかに泣いているところを目撃してしまうセラフィーヌ。
彼女は彼に
「哀しい時は木とお話するといいですよ」
とやさしく話しかける。
画商であるウーデがセラフィーヌの絵と出会ったのはそれからすぐのことだった。
その非凡な才能を見抜いた彼は、彼女の絵を買占め、いつかパリで個展を開きたいと語った。
しかし第一次世界大戦が勃発し、ウーデはフランスを去った。

1927年、ウーデはフランスに戻った。
そこで消息不明だったセラフィーヌを見つけ、彼は今度こそ彼女の絵を売り込むことに専念する。
有頂天になったセラフィーヌは、家を買い、高価なドレスも誂え、その代金をウーデに請求する。
けれど世界恐慌のため金が用意できなくなったウーデは、彼女の個展も延長になると告げた。
そのことが理解できないセラフィーヌは、ショックのためだんだん精神の均衡を崩していく。

ただただピュアで、いくつになっても子供のようなあどけなさを見せるセラフィーヌが、その天性の才能ゆえの繊細さで壊れていくさまは痛々しい。
絵を描くことは天使からの使命だと信じ込み、木の板に指で絵の具をぬりつけて陰影を描くその姿はたしかに何かに憑りつかれたようでもある。
でもその一途さがますます才能を開花させた。
年老いるまでとにかく描き続けたため、のちにウーデが驚くほどその腕は上達していた。

絵の好みは人それぞれあるだろうけれど、彼女の作品は画面に映し出されるたびに感嘆の息が漏れた。
葉の一枚一枚、果物のひと粒ひと粒、まるで躍動するかのように魂が吹き込まれている。
それは自然と会話をする彼女の感性がそのまま表れたものなんだろう。

だからこそ、教会のマリア像をピンクに塗り上げたり、ウェディングドレスを着て町を練り歩く彼女の奇行は天才ゆえの悲劇なのかもしれない。
鋭い感性は心を壊してしまう。

その彼女を見出し、助けてきたウーデの存在は不思議と薄い。
セラフィーヌがウーデと、その妹アンヌ・マリーとの仲を兄妹とは知らずに嫉妬したシーンで、この二人のほのかな想いが描かれていると思いきや、それほど二人は絆をつないだようには見えなかった。
それはウーデのセクシュアリティがわたしには曖昧に見えたため。

ウーデとその妹は誤解されるくらいに仲が良く、実際同衾もしているようだし、ワンシーン、二人の裸のショットが見えたようにも思えたけれど気のせいかもしれない。
一方で彼が面倒を見ている若い画家ヘルムートがいて、病弱な彼を献身的に世話をする姿に画商として以上の想いが見えるような。

なので結果ヨランド・モローの素晴らしい演技(この日偶然にも『ミックマック』を観て、そこでも彼女が出てきたけれど、表情がまるで違ってびっくりした)と相まって、セラフィーヌの独壇場のような映画になってしまったのは少し残念。

ラストシーン、精神病院の庭で、彼女はいつかウーデが自分に薦めてくれた椅子とそっくりのそれに座り、大木の下でまた静かに語らうところは、もの哀しいけれど、その森羅万象の中で安息を再び見つけた彼女の姿に生粋の性を感じた。

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2010年09月18日

Colorful カラフル

B004GSP0UCカラフル 【通常版】 [Blu-ray]
2010年 日本
監督:原恵一
原作:森絵都
声の出演:冨澤風斗 宮崎あおい
     南明奈 まいける
     入江甚儀 中尾明慶
     麻生久美子 高橋克実
by G-Tools


 生きてる?

ネタバレ有りです。

死後の世界、記憶をなくした主人公は、案内人のプラプラによってある少年としてもう一度現世で生活をすることとなる。
その少年とは中学生で自殺をした小林真。
彼がどんな性格なのか、誰と交友関係を結んでいるのか全く知らない生活が始まった。
徐々に真が友人は一人もいないこと、美術部でかなり絵が上手いこと、部室によく遊びに来る美少女ひろかに想いを寄せていたことを知るようになる。
そのひろかが売春をしていること、母親が不倫しているところを目撃した真が絶望して自殺に至ったという事実も。
母親に嫌悪感を持つようになった彼は、出される手料理にいっさい手をつけなくなり、だんだん心がすさんでいった。
そんな時、真は早乙女というクラスメートとひょんなことから仲良くなる。

これはかなり心にずしんときた作品だった。
ハッピーエンドの筈なのに、ついつい自分と真を重ね合わせてどっぷり感情移入してしまった分、浮上するのに映画の上映終了までには間に合わず。

真が早乙女と靴を買いに行き、その後コンビニの前でチキンと肉まんを食べるシーンがある。
そのよくある日常風景がどれだけ真にとって嬉しかったことか判るから。
「普通になりたかった」
とのちに家族の前で慟哭する彼の言葉がストレートに胸に来た。
そう。
人と当たり前のことをすることにどれだけ憧れたか。
普通でよかった。普通になりたかった。
だから真が家族が用意してくれた学校の話を蹴って、早乙女と同じ高校を受けたいと申し出たところで、彼の渇望と、そこに至るまでの苦しいほどの孤独を感じ取ってわたしも大泣きした。

主人公の魂が実は真そのものの魂であり、それに本人が気づけるかどうかのテストというオチは初めから見え透いていたものの、それが少しずつ同化していく過程が素晴らしい。
真の苦しみも、好きなことも、今やりたいことも、いつの間にか自分自身として受け止めていく主人公。
そこに気づけたのはやっぱり早乙女の存在が大きい。
彼の友情によって縛られた心は解けていき、日常生活の素晴らしさ、友人のありがたさを知る。

この早乙女というキャラクターが、真が退院して学校に行った初日、周囲とは明らかに違う笑顔(他のクラスメートは揶揄するような笑みを浮かべていた)で真を見つめているという何気ないシーンで、彼の人となりが判るようになっているさりげなさが良い。
そしてクラスでいじめを受け、今は透明人間のように扱われているという唱子という女の子にもごく自然に話しかけるというシーンでもその人柄が伺える。
彼という素晴らしい友人に巡りあえた真は本当に救われたのだと思う。

服やアクセサリーのために体を売り、何も考えていないような女の子ひろかも、どこかで壊れそうな自分を抱えていた。
「色んな色を使ったほうがいいよ」
と美術部の友達にアドバイスする彼女が、人生のカラフルさには気づけなかった。
その色とりどりの個性のあふれる世界に戻って来られた真の人生に幸あれ。

原恵一監督ということで先ずハズレはないだろうと思っていたけれど、実は未だに『河童のクゥと夏休み』を見ていないわたしはどうしてもこの絵だけが苦手で、本作品も最初のうちは少し抵抗があった。
ストーリーと演出の力でそのうち気にならなくはなったものの、もう少しアニメらしい造形がほしいもの。と、これは勝手な個人的嗜好だけれど。

細やかな演出も素晴らしく、早乙女が真に肉まんを割って渡すシーン、ちょっと相手に多めに渡せるように持ち直したり、真の家族の食卓で泣いた母と弟にティッシュを差し出す兄と、それを自分も取ろうとしてタイミングを逸した父親の可笑しさの描写だったり、ハンガーストライキをしていた真が最後に鍋で舌鼓を打つシーンで和解をまとめたりと、説明過多にならないさりげない描写であるのがかえって印象的。

声優陣は脇役が光っていた。宮崎あおいと麻生久美子と高橋克実の芸達者ぶりは見事としか言いようがない。

いまこうして生きていることに、感謝を。

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2010年09月13日

ダブルフェイス 秘めた女

B003BOFGD8ダブルフェイス 秘めた女 [DVD]
2009年 フランス
監督:マリア・ドゥ・ヴァン
出演:ソフィー・マルソー
   モニカ・ベルッチ
   アンドレア・ディ・ステファノ
   ティエリー・ヌーヴィック
   ブリジット・カティヨン
by G-Tools


わたしの顔が、家族が、変わってゆく。

ネタバレ有りです。

作家のジャンヌは夫と2人の子供と暮らしている。
けれどある日、家具の位置がずれていることに気づく。
その時から異変は始まった。
鏡やビデオカメラに映った自分の顔が別人に変わっていたのだ。
そればかりか、部屋の色も形も、自分の家族でさえ、今まで記憶していたものと変化を起こしていた。
実は彼女は8歳の時までの記憶がなかった。
そのことと自分の母親が関係があると思い、彼女は手がかりを求めて家を出た。

とりあえず宇宙的な超常現象に逃げないオチでほっとした。
スピリチュアルでちょっともの哀しい結末が印象的。

前半に出てくるジャンヌはソフィー・マルソー。
後半のジャンヌはモニカ・ベルッチが演じている。
実は主人公はジャンヌという名前ではなく、それは8歳の頃に仲良くしていた友達のそれだった。
しかしそのジャンヌが交通事故で命を失い、その場にいた主人公はショックのためか、記憶をなくし、自分をジャンヌと名乗るようになっていた。
以来彼女はジャンヌ(ソフィー)として生きてきた。
でも別人になったと思われた自分(モニカ)こそが本当の自分だった。

主人公(モニカ)の心の傷が偽りの自分(ソフィー)を生んだようでもあるし、ジャンヌ(ソフィー)の魂というか幽霊が主人公(モニカ)に乗り移っていたようでもある。

そこに行き着くまで、特に序盤の日常と少しずつ異なる変化に同様する主人公の描き方はなかなか不気味で良い。
何か秘密のサインを送っているような夫と子供。
顔半分がソフィーとモニカで分かれる特撮、半分どころかぐにゃぐにゃに交互に顔が入れ替わるモーフィング等もがんばっていた。

この二人が主演なのだからと無理やり突っ込んだようなお色気シーンもあり、特にモニカがイタリアで実の弟とベッドイン(未遂だけれど)するところは完全になくてもよかった場面で、でもモニカの大きな乳房が見られるだけも儲けものといったところか。

ラストではソフィーとモニカが二人でパソコンのキーを叩く穏やかなシーンで締めくくられる。
本当の自分、本当の家族を取り戻した主人公が、それでもジャンヌを追い出すわけでなく、共存していくことを暗示しているラストは、微笑ましくもあり、よく考えるとぞっとしなくもないけれど、二人はたしかに幸せそうだった。

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2010年08月13日

ヒックとドラゴン

B0038YID1SHow to Train Your Dragon
2010年 アメリカ
監督:ディーン・デュボア クリス・サンダース
原作:クレシッダ・コーウェル
声の出演:ジェラルド・バトラー
     アメリカ・フェレーラ
     ジェイ・バルチェル
by G-Tools


今年のアニメ映画の最高峰。

ネタバレ有りです。

遠い昔、バイキングとドラゴンは長い戦いを続けていた。
偉大な父親や周りに認められたくて色々戦闘意欲を示す少年ヒック。
けれど彼がやることなすこと全てがヘマにつながり、彼は父親を失望させていた。
そんなある日、彼は傷ついた一匹のドラゴンと出会う。
どうしても殺すことができず、それどころか助けてしまったことで、このドラゴンとの間に絆が生まれる。
トゥースと名づけたドラゴンとの友情は、当然ながら周囲に知れ渡った時に大きな波紋を広げることとなる。

もう何から褒めていいやら判らないほどに素晴らしい作品。

異なった種族の繋ぐ友情、トゥースのあまりに可愛らしい造形、ヒックの頼りなさげな最初の風貌からは想像もできないような活躍ぶり、ワクワクさせられる音楽、そして初めて息を飲んだ迫力ある3D映像!
飛翔シーンが圧巻で、ヒレを怪我してなかなか飛び立てないトゥースが、ヒックの手作りのヒレを得て、空に舞うシーンは思わず声が出そうになるほど爽快だった。

トゥースの仕草が猫っぽいのも可愛らしさを増強させていた。
ヒックがまだ警戒しているトゥースに魚をやる場面。「ああ、野良猫ってこういう仕草するよね」と口元がほころび、慣れてからは鼻先をつけて目を細めてヒックに寄り添う動作は猫そのもの。
他のドラゴンもある草に酔ったようにメロメロになるのも、マタタビを想起させられてこれがもう可愛いったらありゃしない。

そのトゥースとヒックがはじめて触れ合う場面は白眉。
トゥースが地面にひいた落書きの線(を踏まないように)に誘導されるかのように、その体の近くに身を寄せていくヒック。
そして目を閉じて手をかざす。
そこにゆっくり自分の鼻先をあてがうトゥース。
なんてリリカルで、エモーショナルで、美しい場面!
このあたりからドツボを突かれてしまい、涙が全く止まらなくなった。

繰り返される台詞のやりとり、ドラゴンの口の中は暑さに耐性がないこと等の伏線がクライマックスやラストに効いてくるのも素晴らしい。

ヒックがドラゴン退治研修で、めきめき頭角をあらわしていくさまも面白いし、アスティのツンデレ具合も良い感じ。父親とヒックの心の通わせ方もきっちり描かれているし、脚本が本当に上手くできている。

そしてビックリしたのが、大きな戦いを終えたヒックが、一命こそ取り留めたものの、片足を切断されたという描写。
ここはかなり作り手は思い切った決断をしたと思う。
インタビューで製作側が「犠牲はつきもの」と言っていたのを今更思い出した。
何が何でもヒーローは生き残り、怪我をしても完治が約束されている映画の世界で、リアリティを取り入れたのは凄いと思う。
そしてヒレを半分失ったトゥースとここで共通項が生まれる。
そんな二人が互いを補うように隣に寄り添って、新しい世界が生まれた扉を開けるシーンはとても感動的。
彼らはまた共に飛翔する。

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2010年08月04日

THE WAVE ウェイヴ

B0039LFHKATHE WAVE ウェイヴ [DVD]
2008年 ドイツ
監督:デニス・ガンゼル
出演:ユルゲン・フォーゲル
   フレデリック・ラウ
   マックス・リーメルト
   ジェニファー・ウルリッヒ
   ヤーコプ・マチェンツ
by G-Tools


流行の波に乗ろう♪
今年の夏は白いシャツがマストアイテム!
コレを着て独特の挨拶をしたら、いじめられっ子は受け入れられて、もてないあの娘は憧れの彼とkissできたよ☆
そんな彼らがおくる青春群像劇☆

ネタバレ有りです。

「独裁制とは何か」
高校教師のベンダーは、特別授業としてある実験的な実習をクラスで取り入れた。
「ナチスのような独裁政権に陥る筈がない」
そう鼻で笑っていた生徒たちが、実際にそれを体験してみるという取り組みが成されたのだ。
先ず指導者であり「総統」であるベンダーには必ず「様」をつけて呼ぶこと。
発言するときは挙手して立ち上がって発言すること。
違いをなくし、統制をとるため、皆が白いシャツ、ジーンズを着用すること。

彼らは自分の集団を「ウェイヴ」と名づけ、ホームページを作り、ステッカーも作成、それを町の至るところに貼り付けてまわった。
その波はクラス以外にも波及し、学校には白いシャツを着る生徒が増えていく。
学校行事の目玉である水球の特別席も白シャツでないと入ることができない。

家庭環境が複雑なマルコ、容姿にコンプレックスを持ち、成績もあまりよくない内気なリーザ、不良のケヴィン、人からバカにされるばかりだったティム。
そんなどこか環境や内面に問題を抱える生徒たちがウェイヴにはまっていく。
特にティムは熱狂的なメンバーとなり、ベンダーの身辺警備を勝手に始めたり、実習を終えてからも活動することを渇望していた。

対してウェイヴから離れていったのはたった二人の女生徒。
その内の一人カロはマルコの恋人。
容姿端麗で家族仲も良い、恵まれた生徒という描写が成されているのが、ウェイヴにはまる人々と対照的で面白い。
彼女はウェイヴの持つ危険性をいちはやく察知していて、ベンダーに警告をしたり、アンチウェイヴのチラシを作成したりする。

でもこのカロを全面的に応援できないのは、わたしが弱い人間側だからだろうか。

ウェイヴによって「負」の面を持つ生徒たちは変わり始める。
チームがバラバラだった水球部や演劇部はまとまり始め、ティムがいじめられると仲間が助けるようになり、不良どもも足並みをそろえるようになる。
自分を出せなかったリーザは、カロに思っていることを言え、ひそかに憧れていたマルコとキスを交わす。
そんな良い面があるから、というのもあるけれど、根本的に彼らの本質の変わっていないみじめったらしさに共感してしまった自分は少し歪んでいるのかもしれない。

ある集団の中でしか自分を見出せない社会の隅にいる存在。
唯一無二のものを見つけてしまい、それに依存するしかない心。
ようやく帰属できるものができたときの安心感。

影響を受けやすい若い頃だったらきっと簡単にその波に呑まれていただろう。
彼らの熱狂はあまりにも愚かで、嘆かわしいことではあるけれど、それを責めることはできない。

かと言ってそれを扇動したベンダーもまた糾弾することはできない。彼は唯一の大人であったけれど、短大卒のただの教師というコンプレックスがあり、崇め奉られる立場に少し酔っていたというこれまた負の部分を抱えている。
そして彼は大きくなりすぎたウェイヴを鎮圧するため、集会を開いて、生徒を煽るだけ煽って「これが独裁制だ」とばっさり斬り捨てるのだから。
ウェイヴは解散だと告げられ、それを受け入れられなかったティムは拳銃で人を撃ち、自らも口の中に発砲してしまう。

集団心理のおそろしさ、今でも簡単に洗脳は可能であることを、これがアメリカで実際に起きた事件であることを併せて震撼させられる作品だった。
けれどやっぱりそれ以上に、弱い心を持つ人間の顛末に心が痛んだ。

カロが白いシャツの集団の中で赤い服を着ていたのが印象的だった。
あれは正義の色。
でもまぶしすぎて、まっとうすぎて、それからわたしは目を逸らしてしまった。


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2010年07月28日

シュアリー・サムデイ

B0045Y0HCIシュアリー・サムデイ スタンダードエディション [DVD]
2010年 日本
監督:小栗旬
出演:小出恵介
   勝地涼
   綾野剛
   鈴木亮平
   ムロツヨシ
   岡村隆史
by G-Tools


がんばったのは判るけれど。

ネタバレ有りです。

脚本が悪いのか、センスが悪いのか、演出が悪いのか、音楽だけ良いのか(菅野よう子だ!)。
2時間強の上映時間がやけに長く感じられた。

緩急をつける演出といえば聞こえは良いけれど、この「緩」の部分がやけに長ったらしい。
例えば、主人公巧がまだ少年だった時、警察に連行される美沙に想いをぶつけるところ。一度美沙は手錠をかけられた手を巧の首にまわして抱きしめる。そして一度離れ、そこで別れるかと思いきや、もう一度戻って、自分にかけられていたバスタオルを少年にかけてやるというまどろっこしさ。一度だけの抱擁で充分少年がこれからもずっと彼女を愛し続けるのだろうという予想はできるのに。
対して「急」の方はまだ見られる感じ。
学校爆破から逃れる時の疾走感はなかなか。ちょっとガイ・リッチーっぽい撮り方はご愛嬌。少年時代の自転車とか、ヤクザからの逃走とか、走るシーンは映画的に決まっていると思う。

でも、スローモーションの多用とか、空港で抱き合う巧と美沙をくるくるカメラをまわして撮るとか、こういうのやってみたかったのかなあと思わせるシーンはけっこう失笑もの。

やっぱり演出に一番の難ありで、特に主人公たちが、高校生のころに実現できなかったバンドを再結成して野外ライブするところは酷かった。
ここが一番のクライマックスで、思い切り感動させるシーンであるのに。
初めは無人の広場で、彼らが演奏を始めてほどなく、観衆がきれいに何重にも整列して拳を高くあげて熱狂するシーンは思わず大笑い。
何コレ、ビギナーズ・ラック?
練習もしていないバンドが大成功?(ここら辺は『オーケストラ!』も同じだけれどこれだけ感動に差がつくか不思議)
白昼夢かとも思わせるこのシーンは、あまりにも現実味がない。

全編コメディ調なのに、美沙の恋人が殺される(リンチされた上喉を掻っ切られる)シーンはいきなり残虐で、モト冬樹演じる雄喜の父親が自殺するエピソードも鬱だ。

やたらに登場人物が「ウンコ」とか「童貞」とか「勃つ」とか下ネタを直接的に言い放つところも、自分の股間を撫でるシーンをアップで見せるところも、男同士でフェラチオをさせるところも、遠慮がない分正直気持ちが悪い。作風と合っていないというか。

家に閉じこもってしまった雄喜の部屋はエヴァ仕様で、引きこもり=アニメに傾倒する傾向=つまりオタク=つまりエヴァ、というシンプルすぎ、オーソドックスすぎの演出も凄い。

ただ、前述した疾走感といい、感動させるためのクライマックスといい、仲間が励ましの言葉をかけあう展開といい、とにかく監督にはいっさいの衒いがない。だから作品としてはもの凄く真面目でまっすぐな印象。それが面白いかどうかは全く別の問題ではあるけれど。

役者さんは主要キャストよりも脇役、あるいは顔見せ程度の出演陣の方がずっと豪華であるのもどうなんだろう。
監督さんの人脈だけを見せ付けられた感がある。

ただ、ちょっと印象的だったのは、主人公たちがヤクザに追い詰められて「これはショーだ」と周囲を煽るヤクザに拍手を送る通行人の女性たちの存在。
この「周囲のできごとに無関心な群集」というのは、美沙と恋人が拉致されたシーンでも出てくる。
それは世間からはみ出してしまった5人というのを端的に表しているような気がした。
そう考えると、ライブで彼らを取り囲む観衆というのは、彼らを世間が受け入れてくれたのだという見方もでき、あのライブシーンもそうそうバカにはできないのかもしれない。

とりあえず映画として破綻はしていないものの、駄作には違いないがっかりな出来。

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2010年07月20日

ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い

B004PLO5JMハングオーバー! [Blu-ray]
2009年 アメリカ
監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー
   エド・ヘルムズ
   ザック・ガリフィアナキス
   ヘザー・グラハム
   ジャスティン・バーサ
by G-Tools


バチェラーパーティーの翌日。
部屋には鶏と虎と誰かの赤ん坊。
そして新郎が姿を消していた。

ネタバレ有りです。

細部まで、最後まで、きっちり作りこまれたコメディの傑作!

独身最後の夜を楽しむ4人のメンバーが、その内3人は親友で、一人だけ新婦の弟という設定から捻りがきいている。
この弟アランが泣きたくなるほど空気が読めないトラブルメーカーで、新郎が消えた夜も、実は皆で飲んだ酒にドラッグをこっそり入れており、おかげで誰一人としてその夜のことを覚えていないハメに陥る。

なぜバスルームに虎がいるのか?
赤ん坊は誰の子でどうしてここにいるのか?
イケメンのフィルはどうして病院にいたのか?
歯医者のスチュの前歯が抜かれているのはなぜか?
ここだけでも謎だらけなのに、事態はもっと複雑に悪化していく。
スチュは現地のストリッパーと結婚式を挙げているわ、中国人マフィアを車に拉致しているわ、新郎のダグがどうやら誘拐されているらしいことが判るわ、パトカーを盗んで逮捕されるわ…。

でもそんなエピソードが全くうるさくなく、次々とトラブルを抱えるさまは逆に痛快で、ひとつひとつの謎が解明されていく喜びもある。

そしてしつこいほど繰り返される会話。
スチュが自分は医者だと言い張るも「ただの歯医者だろ」と仲間に返されたり、スチュの恋人が船のパイロットと浮気した過去を話すたび「パイロットでなくバーテンダーだ」と訂正が入ったり。
それがちゃんとオチを伴って最後に活かされるのが小憎たらしい。

でも彼らがただバカをやってましたって映画だけではこんなに心をひかれなかっただろう。
そのバカ騒ぎの謎を解明するのと平行して、彼らが消えた新郎ダグをとても心配し、彼のために奔走するという姿が描かれているのがとても良い。
そこに友人思いの憎めないヤツラの素顔が見えるから。
何かと迷惑をかけていたアランも、ここぞというところで大活躍。『レインマン』ばりにカジノでカードカウンティングで大儲け。ダグの身代金をまんまと稼いでしまう。こういう汚名返上なシーンを用意してくれたのもうれしい。

そしてスチュもまた、口うるさい彼女と別れる決意をし、心やさしいストリッパーとデートの約束を取り付ける。

無事に結婚式を終えた彼らは、ダグが持っていたデジカメに写っていた写真であの夜の真実を知る。
「一回だけみんなで見て、その後は消去する」
の台詞に、その高揚感と一度きりのチャンスを、観客はあの4人と共にすることができる。
その“一部始終”が流されるエンドロールは最高!
4人のもの凄いはしゃぎようとなんともいえない幸福感は、実際に見てみないと味わえない。
この最後の最後に全てが明かされる(一部不明な点もあるにはあるけれど。鶏がわたしには判らなかった)作りは本当にうまいなあ。

公開を心待ちにしていた映画。
素晴らしかった!

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2010年07月13日

踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!

B00361FLEA踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ! スタンダード・エディション [DVD]
2010年 日本
監督:本広克行
出演:織田裕二  柳葉敏郎
   深津絵里  ユースケ・サンタマリア
   伊藤淳史  内田有紀
   小泉孝太郎 小栗旬
   北村総一朗 小野武彦
   斉藤暁 佐戸井けん太

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なんだって。
なんだってこんなことにああ畜生!

ネタバレ有りです。

リアルタイムでテレビドラマ版を見ていたファンとしては、失望感が拭えない。
劇場版スピンオフ2作品が酷い出来だったから、本家本元として帰ってきたこの映画にどれだけ期待していたことか。
あーあ。
あーあ。

先ず、仕方のないことだと判っていても、メンバー入れ替わりが作品のカラーを変えてしまっていた。
和久さんが作中でも他界しているという設定でかなりブルーになり、でもこれはいかりや長介が亡くなっているという事情があるからと言い聞かせたものの、やっぱり彼の存在は大きかったことを実感。
その代わりに和久さんの甥が湾岸署に配置されるというご都合的展開も、キャラが和久さんほど魅力的なら目を瞑れたけれど、ただただ故人の手帳を読み上げるだけの役として出てきただけ。
雪乃さんも出番なし。やっぱりその代わりに出てきたような夏美とかいう女の子は、いきがっていて少々煩い印象。
他にも青島が昇進して係長を務める強行犯係のメンバーたちは若いだけでキャラが立っていない。
そのキャラを立てようとしたのか、終盤中国人のメンバーが犯人たちをカンフーでやっつけるところがあるけれど、その肝心のアクションシーンを一切見せないときたもんだ。

キャリア組で出てきた小栗旬演じる鳥飼や、劇場版第2弾でちょこっと顔を見せていた小池もあれほどフューチャーされなくても良かったのに。
おかげさまで肝心要の室井さんの出番がもの凄く少なくなってしまったように思える。

そう、この室井さんの扱いが今回酷すぎた。
何の活躍もせず、前にみせた痺れるような命令も下せず、しかも青島と絡むのはラスト近くのワンシーンのみ。
青島とタッグを組んで事件を解決していくのをどれだけ見たかったことか。
それにキャリアとノンキャリの隔てをなくして捜査を進めるという理想を二人で実現するという夢は今回ほぼ語られず、実行されず。
何しろ犯人の要求通り解放した囚人を射殺せよとする決断に室井さんは最終的に同意し、でも「現場の人間に任せる」と逃げ口上としか思えない台詞を吐いて唖然。
こんなの室井さんじゃない。

で、その現場の人間である青島やすみれたちは今回面白いほど身を張らないし、活躍もしない。
青島に至っては、完璧な防犯システムの城塞のような壁を、無駄だと判っているのにただの木の杭で幾度も叩いているだけ。
このシーンで感動させたかったの?
どう考えても徒労に終わる行為はただバカをやっているようにしか見えない。

前の青島の一途さを表す行動は、こんな風に撮られなかった筈。
しかも小泉今日子扮する真奈美の自殺を説得で食い止める筈が、それができずに結局館内で爆発させちゃう(彼らは奇跡的にほぼ無傷ってとこも…)って何だそれ。

すみれも非常に感動的なスピーチをして回りも涙ぐんだりしているんだけど、それは青島が余命僅かという勘違いから起こったことなので、ここで笑っていいのか、でも笑いを狙っているわけではなさそうなシリアス調のままなので、どうしたらいいのか判らない。

なんだ。何が起こっているんだ。映画の現場で。

出演者たちの不仲説とか、役柄を変更させたとか、事務所のしがらみで出番をなくした人とか、色々噂はあったものの、作品自体はきちんとしたものに仕上がっているのだと期待したわたしがバカだった。

ちょっとうれしかったのは、かつて青島が逮捕した面々のその後が何人かちらりと映るところで、でもこれも過去の遺産を食い潰しているだけと思うと哀しくなる。
そういえばあのスタイリッシュなオープニングも廃止されていたっけ。
ドコモケータイの猛プッシュぶりも萎える。
なぜこうなったのか。

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2010年07月02日

ザ・ウォーカー

B003YAYBLWザ・ウォーカー [Blu-ray]
2010年 アメリカ
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
製作:ジョエル・シルバー
出演:デンゼル・ワシントン
   ゲイリー・オールドマン
   ミラ・クニス
   トム・ウェイツ
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Eli,Eli,Lema,Sabachthani?

ネタバレ有りです。

イーライという男が歩いている。西へ、ひたすら西へ。そこに、ある本を運ぶために。
その本を狙い、各地に手下どもを派遣し、横暴の限りを尽くして略奪を繰り返している町の権力者カーネギー。
一旦文明が崩壊し、きれいな飲み水を確保するのさえ難しくなった世界で、救いはもたらされるのか。

この本が聖書であり、イーライがその内容をすべて暗記している、というのは多くの人が予想できたことだろうと思う。
わたしもここまでは読めていたものの、イーライが毎日読んでいるあの本が、実は点字で出来ていた、というオチはびっくりした。
そして光を失ったと見られるイーライの目のアップで、彼が盲人であったことが示唆されている。
もちろん今までのアクションを見ていると、全盲であるというのは無理のある設定だ。見えていなかったらあんな戦い方はできない。
けれど一方で、あの老夫婦の家の前の「立ち入り禁止」の看板を「見えなかった」と言ったシーンでは、その時はしれっと何を言っているんだと可笑しかったけれど、真実を知ると、それが実は本当のことだったと判るようになっている。

解釈は難しいけれど、イーライは文明復興中の聖地アルカトラズに、この世でたったひとつの聖書を届けるために向かい、神から与えられた任務ゆえに数々のご加護を身に纏ったのだと思うと納得できる。

新約聖書の一節にある
「ただ一つ知っているのは、目の見えなかったわたしが、今は見えるということです。」
という文句は何か関係があるだろうか。わたしは聖書を旧約も新約も読んだこともないし概要も知らないけれど、この一文だけは何かの映画(『ゲーム』だったかな)の予告編で使われていたので何となく覚えていた。

他にも、彼は何発もの銃弾を受けても(怪我はするものの)死なない描写が繰り返されている。Kマートのただのしがない店員でしかなかった彼の名前イーライ(Eli)は、冒頭に書いたエリ・エリ・レマ・サバクタニのエリ(Eli)と呼応する。ここからも彼が“神”の大切な遣いとなったことが暗示されている。

だから役目を終えたイーライは白い装束に包まれて静かにあの世へ召される。
その彼の後を継ぐかのように、彼の愛用していた剣を持ち、アナーキーな故郷に帰る少女ソラーラにも護りのオーラが見えているような気がした。

争いが起こるからと焚書された聖書が、結局新しい世でもそのために人が殺しあうという物語は皮肉だ。
聖書が偉大であるとともに、宗教のために戦争は繰り返されるという認識を確認させられる映画なのかもしれない。

後は、かつてはすぐにゴミとなっていったファストフード店のウェットティッシュだとか、携帯用シャンプーだとかが高級品扱いされている世界観やら、若い世代の人間にはテレビが何のことだか判らないというジェネレーションギャップ、カーネギー役のゲイリー・オールドマンの近年では久しぶりな感のある悪役をのびのび演じているところなどがなかなか面白かった。
セピア色で統一された画面も良。
ただやっぱり宗教色が強すぎて、わたしにはピンと来にくい作品でもあった。

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2010年06月08日

オーケストラ!

B003ZUZ0XYオーケストラ! スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]
2009年 フランス
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アレクセイ・グシュコフ
   メラニー・ロラン
   フランソワ・ベルレアン
   ミュウ=ミュウ
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よせ集めのオーケストラが奏でる奇跡。

ネタバレ有りです。

かつては名指揮者として名を馳せたアンドレイは、今はしがない清掃員。
しかし職場のボリジョイオーケストラで一枚のファックスを見つけ、パリ公演の依頼を勝手に受けてしまう。
そう、彼は昔政治絡みで排斥されてしまったメンバーをかき集め、偽ボリジョイオーケストラとして夢を叶えようとしていたのだ。
そしてヴァイオリストに今をときめくアンヌ=マリー・ジャケを指名。
実は彼女とオケには深いつながりがあった。

ラストの演奏シーンが圧巻。

今までの苦労が、彼らの歴史が、その誇りが収斂された見事なクライマックス。
そしてアンヌの出生秘話、そこにまつわる人と人との関わり合いが紐解けていく。
言葉は要らない。
音楽だけ。

そのシーンに至るまでは散々だった。
交渉役を務める男はパリで共産党の大会に出ることが第一で、オケのことは二の次。
メンバーはパリに着いててんでばらばら。
ユダヤ人は金儲けに奔走。
おかげでリハーサルもせずにぶっつけ本番。
だから、曲の出だしは最悪。
それが、アンヌの演奏で変わっていく。

アンヌの姿に「彼女」の面影を見出したメンバーたちが、どんどんまとまっていくところが素晴らしい。
最初からは予想もしていなかった美しい旋律がアンヌの音に呼応するように流れ出す。
曲の高まりと共に、アンドレイの、アンヌの、オーケストラメンバーの思いがひとつになっていく。
だからそこに彼らのコンサートの成功を称えたり、ツアーが決定したりする各国の新聞記事(日本のもあった!)のフラッシュフォワードの映像が重なって、彼らの行く末を知ることができたことはとてもうれしいことだった。
有り得なくても良い。
こんな素敵な奇跡を、こんな映画史に残る名場面を、現実に照らし合わせるなんて到底できない。
この高揚感、この幸福感、この充実感。
ああこれが至福のときなんだとしみじみ噛み締めた。
映画って素晴らしい。


その高まりに乗じて思わず唇を重ねてしまうパリの支配人とその部下(男同士)に笑わせられて、泣くのと笑うのとで顔が凄いことになっていた。

アンヌ役のメラニー・ロランのため息の出るような美貌とヴァイオリンを弾く演技がまた素晴らしかった。
もちろんアンドレイをはじめとしたロシアの寄せ集めの楽団の面々も個性豊かで、とても魅力的。

あまりに素晴らしすぎて、鑑賞してからずっと感想が書けなかった。
さらに音楽の良さを言葉にするのは難しい。
結局凡庸な文章しか書けず、あの演奏シーンを言葉で再現できないのが悔やまれる。

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2010年05月18日

フォロー・ミー

B0044MS35Yフォロー・ミー FOLLOW ME [DVD]
1972年 アメリカ
監督:キャロル・リード
出演:ミア・ファロー
   トポル
   マイケル・ジェイストン
   マーガレット・ローリングス

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なんて素敵な映画!

ネタバレ有りです。

チャールズは上流階級の家に育った会計士。
近頃妻ベリンダの様子がおかしく、浮気を疑った彼は私立探偵のクリストフォルーに調査を依頼する。
そもそもの妻との馴れ初めを聞くクリストフォルーにチャールズはベリンダとの結婚に至るまでの過程と、それ以降の結婚生活についてしぶしぶ語る。
そして数日後。クリストフォルーは、ベリンダにやはり男の影があると報告するが…。

いやもう途中からの意外な展開といい、愛すべき人間たちの細やかな心理描写といい、最後のオチといい、素晴らしいドラマとしてまとまっている。

しきたりと体面を重んじるブルジョアの夫と違い、ベリンダは服装も精神もヒッピーに身を投じている。
堅苦しいパーティーで彼女は浮いてしまい、食事会やコンサートでも姑に苦言を呈される日々。
そんな抑圧から逃れようとするように、一人でぶらりと公園に出かけたり、ホラー映画3本立てを2回続けて観たり(!)するようになっていた。

そんな彼女を見つめる男がいた。
そう、探偵のクリストフォルーだ。
彼がチャールズに報告した「男」こそ、他の誰でもない、クリストフォルー自身だったことが判った場面では場内爆笑。アンタ、尾行してるのにバレバレでどうする!

けれどベリンダとクリストフォルーはそれから奇妙な絆を結ぶことになる。
一定の距離を置いてベリンダの後をついていく探偵。
時には彼女の分のチケットを先払いして先に映画館に入っていったり。巨大迷路でピクニック気分でエスコートしたり。
でも二人は一言も言葉を交わさない。
まるでゲームのように。何も言わず、触れ合わず、けれど微笑みながら。

そんな説明のつかない関係に拠りどころをみつけるベリンダ。
けれど三人が一同に会する場面で全てが明らかとなり、夫婦は危機に直面する。

それから一体どうなるのか、ベリンダは探偵と結ばれるのかと思わせておいて、やはりベリンダが夫を愛していると気づく展開が良い。クリストフォルーもはじめてベリンダと言葉を交わし、その後押しをする。
彼はチャールズに提言する。
妻とやり直したかったら、これから二週間、妻の後を一定の距離を保って追い続けること。その間決して口をきいてはならないこと。つまり自分がしてきたことを彼に伝授するその小粋さに惚れ惚れとする。

そしてラストシーン。クリストフォルーの白いレインコートを着たチャールズが、ベリンダの後ろを歩いている。
フォロー・ミー。
ここでタイトルの真意が明かされ、流れる音楽とともに感動がじわじわと浸透する。

もうこのクリストフォルーが最高!
いつでもヨーグルトやらマカロンやらのお菓子を鞄に入れ、時と場所をわきまえずに貪り、ターゲットである筈のベリンダの心を解凍してほぐし、でも依頼人の幸せのために人肌脱いでやる(でも最後うまいこと再就職しやがった、というところも最高)。
エキセントリックながらも人情味あふれる役柄に、ベリンダでなくても夢中になるだろう。

そのベリンダも、自由に振舞えない窮屈さが良く伝わってきて、その象徴があの夫の選んだ“しなびたレタスのような”帽子を買ってすぐに捨ててしまうところだと思う。その代わりにクリストフォルーが差し出した彼のきれいとは言い難い帽子をうれしそうに被るところが印象的。
ラストにチャールズが彼のレインコートを羽織るところもそれにつながっている。
妻を理解しようとする一端が衣服で上手く表されている。

素晴らしい人間賛歌。
今までこの映画を全く知らなかったので、薦めてくれた人に大感謝。

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2010年05月16日

プレシャス

B003WA6CLQプレシャス [DVD]
2009年 アメリカ
監督:リー・ダニエルズ
出演:ガボレイ・シディベ
   モニーク
   ポーラ・パットン
   マライア・キャリー
   シェリー・シェパード
   レニー・クラヴィッツ
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 Why me?

ネタバレ有りです。

プレシャスという素敵な名前を持つ16歳の女の子。
でも彼女はひどい肥満体で、教育も充分に受けてはいなかった。
家庭環境は最悪。働きも家事もせず、生活保護を不正受給している母親のメアリーは日々プレシャスを虐待して過ごしている。
父親はプレシャスをレイプし、今彼女はその二人目の子供を妊娠中。
そのせいで学校をドロップアウトした彼女は、フリースクールに通うことになる。
そこで出会ったのは美しきレズビアンのレイン先生と、色々事情を抱えた生徒たち。
劣悪な環境から少しずつ彼女は前に歩き出そうとしていた。

とにかく凄まじすぎるプレシャスの境遇に言葉を失う。
彼女が辛いときに夢想する、きらびやかなショウビジネスの世界で美しく着飾り、肌の色の薄い彼氏の寄り添う世界は、その次の瞬間には母親の暴力で現実に引き戻される。
そんな彼女を救ってくれたのはレイン先生。
先生はとにかく何かを書くこと、そこから読み取る力を教えてくれた。
人との出会い、教育の仕方がどれだけ大切かが判る。

あんな壮絶な環境にいながら、プレシャスが口は多少悪いものの、自分の子供を愛し、恋に憧れる少女らしい感情を持つ人間に育ったのは驚異的なことだ。
誰にも愛されたことがなかった少女が、軽口をたたける友人が出来、家庭のことを話すことができるソーシャルワーカーとも出会え、事態は少しだけ良い方向に向かう。
なのに、決定的な事態が起こる。
父親がエイズで他界した。
検査を受けたプレシャスは、HIV陽性だと告げられる。

ほんの少しだけだったのに。
彼女が“普通”の女の子に少しだけ近づけただけだったのに。
良い先生と友人、看護師からの額へのやさしいキス、愛する娘。
そんなささやかすぎる幸せが、これからもっと増えていくはずだったのに。
なのにこんな絶望的な仕打ちってあるだろうか。

彼女がノートに書いた“Why me?”の拙い文字が忘れられない。
なぜ、あたしが。


その心を正面から受け止めるレイン先生とのやり取りには涙が止まらなかった。
彼女はプレシャスを愛している。プレシャスの赤ちゃんも。
けれど彼女は死ぬだろう。
こんな救いのなさってあるだろうか。

そしてソーシャルワーカーと母親との三者面談のシーンは強烈。
母親メアリーが、父親の娘に対する虐待を放置していたことを明かすシーン。
自分の夫と寝る娘が憎かった、と。
「誰があたしを気持ちよくしてくれるの?誰があたしと寝てくれるの」
もう何を言っているんだこの女は!という感じで、彼女の嘆きが深ければ深いほどこちらの憤怒も上昇した。
ただ、そんな母親にも、彼女なりの「理由」があったのだと―。
その人格の一片が見て取れはしたけれど、彼女を許すことはできなかった。

そんなメアリーを演じオスカーを獲得したモニークの鬼気迫る演技は流石だった。
これ以上ないほど非道で惨めで悪夢のような存在感は圧巻。
誰もが彼女を憎み、ちょっとだけ憐れみ、でも唾を吐きかけたくなるだろう。
プレシャス役の新星ガボレイ・シディベは、まさに外見も内面も彼女でなくてはできなかったうってつけの役柄。
その名の通りまわりを浄化するようなレイン先生の凜とした、でも情感あふれる演技も素敵。
ソーシャルワーカー役のマライア・キャリーがこれまた抑えた演技で魅せてくれた。メアリーの独白をきいて自然に涙を流すところはとても上手かった。

過酷すぎるドラマで目を覆いたくなるけれど、二人の娘と歩いていくプレシャスの姿に(彼女は死ぬだろうけれど)母親の呪縛から解き放たれた少女のほんの少しの希望を見出せる。

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2010年04月21日

第9地区

B0036VO2RW第9地区 [DVD]
2009年 アメリカ
監督:ニール・ブロムカンプ
製作:ピーター・ジャクソン
出演:シャルト・コプリー
   デヴィッド・ジェームズ
   ジェイソン・コーブ
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何という快作。
間違いなく傑作!

ネタバレ有りです。

ある日、ヨハネスブルグに宇宙船が現れた。
その中には衰弱しきったエイリアンたちがひしめきあっていた。
政府は彼らを人間と同じ地区に住まわせ、そこは第9地区と呼ばれるようになる。
エイリアンたちは「エビ」という蔑称で呼ばれ、司令塔を失ったまるで働き蜂のような低能な彼らはただ人間に差別され搾取される生活を送っていた。

そんな彼らを移住させる計画が持ち上がる。
そのプロジェクトリーダーとして選出されたヴィカス。
けれどその仕事中に彼はエビの体液を浴びてしまい、次第に体がエイリアン化するようになる。
かっこうの実験材料だと政府側はヴィカスを生きたまま解剖しようとし、彼は第9地区に逃げ込む。
匿ってもらったのはエビの中でかなり知能の高いクリストファー。
子持ちの彼は20年かけて宇宙船の燃料を作り出していた。

前評判でとにかくグロいとの噂をきいて不安だったものの、グロ耐性ゼロのわたしがなぜか全然大丈夫だった。
もちろん爪ははがれる、腕は引きちぎられる、顔面や体が吹っ飛ぶといったひどい描写が続くものの、一瞬でそれが終わるので、何が起こったのか考える内に次の展開にいってくれるのでありがたかった。

その戦いはなるべくしてなったのだから肉弾戦は当然。
それまで好物のキャットフードを破格で売りさばかれ、卵を産んでもそれが燃やされ、人体実験のため無残に仲間が殺されてきたエビたちの反撃はすこぶるスカッとする。

エビ側となってはじめて人間扱いされず無残に殺されそうになるヴィカスとクリストファーが最後の最後に絆を結ぶのも良い。
クリストファーを宇宙船に乗せるため戦地に残り、母船に打ちこめられたミサイルをキャッチするヴィカスの姿のかっこいいこと!
それは人間時代、妻の父から与えられた出世街道を進み、ただヘラヘラと任務をこなしていた彼からは想像もできない精悍さ。

本来侵略者として描かれることが多かったエイリアンが圧倒的な弱者であり、政府は役立たずの悪の組織で、アパルトヘイトをいやでも連想させる第9地区に住む者への差別を描き、そこに荒れた土地感をリアルに再現した、ヴィカスにエビの武器を取られたナイジェリア人ギャングを絡めるのも面白い。

でも豚の飛んでくる大砲だとか、キャットフードの取引だとか、テイストが部分的にバカなのも良い。

かと思うとラストは、クリストファー親子を無事に逃がしたヴィカスが完全にエビの体となりながら、がらくたから花の飾りを作って妻にプレゼントするシーンが用意され、これが泣けるようになっている。

モキュメンタリー風の撮影、南アの現状のメタファー、派手な攻防戦、だんだん可愛く見えてくる子エビの造作、異種同士の友情等詰め込むだけ詰め込んだエンタテインメントの傑作。

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2010年03月24日

マイレージ、マイライフ

B0030XN8VWマイレージ、マイライフ [DVD]
2009年 アメリカ
監督:ジェイソン・ライトマン
原作:ウォルター・キム
出演:ジョージ・クルーニー
   ジェイソン・ベイトマン
   ヴェラ・ファーミガ
   アナ・ケンドリック
   ダニー・マクブライド
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的確ですてきな邦題。

ネタバレ有りです。

ライアン・ビンガム。職業はあらゆる企業のリストラ宣告人。
そのため1年の322日間を出張で家を空けている。
おかげでマイレージは1000万マイル目前。それを溜めて全米に7人しかいないエリートステイタスを得るのが目標だ。
だから彼は「人生のバックパックに不必要なものは一切背負わない」主義だ。
そんな彼の前に二人の女性が現れる。
一人は旅先で知り合い、割り切った大人の関係を結ぶこととなる、自分と同じ価値観を持つキャリアウーマン。アレックス。
もう一人はライアンの会社の新入社員で、それまで出張という形で行われていたリストラ宣告をビデオチャットを用いて効率化を図ることを提言した“小娘”ナタリー。

ものすごく良くできた脚本。
軽妙洒脱で、人生の世知辛さを絡めながらもシリアスになりすぎず、登場人物がとても魅力的に描かれている。

今まで重荷を背負うことなく生きてきたライアンに少しずつ変化が訪れる。
それが象徴的に描かれたのが、文字通り物質的に「荷物に入りきらない」妹と婚約者のデカいパネルを持ち歩くハメになるエピソードだろう。
そこに「余計なもの」を入れることは彼のモットーに反していた筈だ。
だってそれまでのあまりに見事に手馴れた荷造りや空港でのチェックの仕方など、本当に惚れ惚れとするほどのスマートさだったから。

アレックスとの関係を「あなたの殻を破って飛び込んできてくれた女性を気楽な関係で片付けるなんて!」とナタリーに詰られ、妹の婚約者が式当日に怖気づいてしまったのを宥める係を押し付けられ、「君が幸せだった時、君は一人だったか?」と諭し、そうしていつものように講演会の壇上で「人生のバックパック」理論を披露しようとした時、彼ははじめて自分の荷物にアレックスを入れたいと思い、そこを飛び出す。

そうして激情を抱いたまま駆け出した先はアレックスの自宅。
凡百あるラブストーリーの定番だ。
自分が何が一番必要なのか気づいて大事な講演会をフイにして愛する者のもとへ走る。
けれどそんなありきたりなパターンで終わらせないのがこの映画の凄いところ。
何しろそこでアレックスが既婚者であり、子供までいることが判明してしまうのだから。

ここの落とし方は本当に巧くて、今まで他人のリストラを宣告し続けてきた主人公が、彼女の人生からリストラされてしまうのだから皮肉だ。

知的で他人への配慮もできて、美人で有能でほぼ完璧に見えたアレックスが、実のところただの淫乱女だった(この辺は色々見方があるんだろうけれど、わたしにはそう思えた)。

小さな伏線があとから回収されるのも感心する。
メールで別れを告げる彼氏に憤りながら、自分が会社を退職する時には同じくメールでそれを済ます“イマドキ”の女の子ナタリー。
リストラされて「橋の上から飛び降りる」と宣言し、後に本当に行動にうつしてしまった女性のエピソード。
お金がなくて新婚旅行を断念した妹夫婦のために100万マイルを譲るライアン。
それが笑いにつながったり、世知辛い現実を認識させられたり、幸福な気持ちに
なったり。
心を動かす脚本は何回も書いているけれど絶賛に値する。

ライアンはまた元通りの生活に戻る。
機内にて自宅は、と訊かれて、以前よりはほんの少し淋しそうに「ここだ」と答える彼が印象的だった。

ライアン役のジョージ・クルーニー、渋くてセクシーなところがこの役にうってつけ。
いかにも頭がかたくて人生経験が足りないエリート候補生のナタリー役のアナ・ケンドリックは、とっても初々しくてこれがまた凄く魅力的だった。彼氏にふられてえぐえぐ棒立ちで泣き出すところは最高!
ナタリーに比べて色々な意味で熟れた女性にハマっていたアレックス役のヴェラ・ファーミガも素敵。

アカデミー賞無冠だったのが解せない傑作。

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2010年03月21日

ハート・ロッカー

B0030E5NI2The Hurt Locker
2008年 アメリカ
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー
   アンソニー・マッキー
   ブライアン・ジェラティ
   レイフ・ファインズ
   ガイ・ピアース
   デヴィッド・モース
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War is a drug.

ネタバレ有りです。

イラク駐留の爆弾処理班に属するアメリカ兵の38日間を描いた、アカデミー賞6部門に輝く秀作。
「任務明けまであと○日」とカウントダウン形式で日々のできごとが映し出される。
主となる登場人物は3人。
殉職した班長の代わりに任務に就いた、命知らずのジェームズ。
場数を踏んで少し現場に慣れた風である軍曹のサンボーン。
まだ人の死にも爆弾にも不慣れなエルドリッジ。
それぞれの行動と心理状態は、三人が三人とも異なっており、一番感情移入しやすいのは経験の浅いエルドリッジだった。
襲撃された時、数人の味方が目の前で殺されて動揺し、周りを囲む現地人の挙動に慄き慌て、銃を撃って良いのか逐一上司に伺いをたてるその“人間らしい”小さなパニックぶりは、自分を投影して同じ心理状態に陥るだろうと考えるに充分だったから。

それでもなお、強く引きつけられるのは超然としたジェームズだった。
いや、自分がエルドリッジタイプで且つ戦闘経験がないから逆にそう思えるのか。
とにかく危険を顧みず、飄々とした態で爆弾を処理する彼の姿は、大佐が褒め称えるように絶賛に値するのだろう。

そこに見えてくるのは、監督の兵士に対するねぎらい、賞賛のメッセージだ。

だからここに反戦のメッセージは微塵もない。
その作風を是か非か考える前に、このドラマに引き込まれて思想的なことを鑑賞中に考えられなくなるのは、やっぱり良くできた作品だからか。

そのジェームズは自分の死というものに鈍感になっているようだ。
けれど戦闘マシーンとして訓練され、人間性を失ったというわけではなく、現地のDVD売りのベッカムという少年と微笑ましい交流を持ったり、いつ襲撃されるか判らないという状況で張り詰めているサンボーンにジュースを飲ませたりして、当然のことながら普通の人間としての顔も持ち合わせている。

中でも印象的だったエピソード。
人間兵器として爆弾を体内に入れられたあのベッカム少年の遺体を、当初の予定のようにそのまま吹き飛ばすことなく、腕に抱いて建物から持ち出した彼は、そこから冷静さを失っていく。
その冷静さを欠いた行動のせいで脚を撃たれたエルドリッジに詰られ、しかも実はベッカム少年は生きていて、あの遺体が別人だったと判明する皮肉なシーンがある。

そう、皮肉と言えば、エルドリッジが精神的に追い込まれているのを見て取った軍医が、「あんたは戦場に出たことがないだろう」と言われ、その数日後爆弾処理の現場について行き、テロで命を落としたシーンは強烈だった。
もう体が吹っ飛んでしまった軍医の姿を探すエルドリッジは自責の念に押しつぶされそうだったろう。

閑話休題。
とにかくジェームズの人間性は保たれたまま、戦場で超然とし続けることが目を引きと共に常人には不可解極まりない。
それこそが冒頭に出た「戦争は麻薬だ」ということにつながるんだろう。

「自分の息子がほしい」と現場の仕事に限界を感じるサンボーンと違い、ジェームズはすでに子供がいるにも関わらずサンボーンとは相容れない。
家庭に戻る(これから作る)サンボーン。
家庭に戻り、「大人になって大切なものはひとつしか残らない」と子供に呟き、戦場に帰っていくジェームズ。
彼がシリアル売り場で佇む場面が痛烈だった。
「普通の日常」が敷き詰められたコーナーの一角で、そこに自分の居場所をみつけられない「生粋の兵士」は戦争で何かを失ってしまった。


かくして新しい場所で彼はまたカウントダウンを始める。
「任務明けまであと364日」。

役者さんは、主の三人を全く知らず、それでもこんなにドラマを引っ張る存在感がそれぞれ凄かった。
有名どころではレイフ・ファインズが途中でちょこっと出てきた時は『ストレンジ・デイズ』つながりなのかな、と思って嬉しかった。
「LOST」のケイトことエヴァンジェリン・リリーも驚きの出演。
ガイ・ピアースとデヴィッド・モースはネットでキャスト欄を見るまで気づかなかった。

ともあれ初の女性監督アカデミー賞受賞に拍手。


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2010年01月18日

秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE3 〜http://鷹の爪.jp は永遠に〜

B003CXWRDA秘密結社 鷹の爪THE MOVIE 3 ラグジュアリー・エディション(3枚組)【3,000個限定】 [DVD]
2010年 日本
監督・脚本:FROGMAN
VFX:山崎貴/白組
主題歌:スーザン・ボイル
声の出演:FROGMAN
     川村ゆきえ
     板東英二
     もう中学生
     堂真理子

by G-Tools

熊のようでダ・ヴィンチのようで国籍がアメリカでもう40歳で実は一度食われていてでも今日も元気なレオナルド博士が主役の映画劇場版第3弾。

ネタバレ有りです。

秘密結社鷹の爪団はそれぞれ休暇を取り、故郷に帰っていた。
休みが終わり、基地に戻ってくると博士の姿が見えない。
そこで彼らは博士の故郷のテキサスへと旅立った。

一方アメリカではオババ大統領が核と軍事力の放棄を宣言。
世界は騒然としていた(が、日本だけはアニメの殿堂を建てようかとリアルなアイディアの話し合いに余念がなかった…)。

博士は故郷で昔の知り合いのジュリエットと再会。
実はある事情から襲撃を受けて怪我を負っていた彼を幼いジュリエットが助けたのだという過去があった。
博士は故郷ヴィンチ家の叡智を利用しようとしていた輩から逃れるために熊に姿を変えていた。
そして今も彼を付け狙う影があった…。

と、なぜ博士が熊の姿をしているのか、なぜあんな天才的な頭脳を持っているのかが一気に判明した… 筈だったのに、最後の最後、レオナルドの元の姿に戻ったのは全くの別人。
劇場版第1弾のフィリップが総統の息子だという驚愕の真実(?)が曖昧になっているのと同様、博士の謎もそのままになってしまう予感が。

まあでも今回も笑わせてもらった。

毎度おなじみバジェットゲージシステムも健在だし、プロダクトプレイスメントはあからさまだし、ちょこっとお休みタイムは今回「今までのあらすじ概要」(でも実はそうじゃない…)タイムを取り入れているし、お約束の構成が安心できる。

他に面白かったこと。

・ランドセルを背負ってはじめて満面喜色の菩薩峠くん(それにしても実の両親と感動の再会を果たしている筈なのに、総統と故郷の栃木に帰っていたり、秘密基地に入り浸っていたりと、彼の生活はどうなってるんだ)。
それと彼の声優…変わった?えらく声がかわいらしくなっていたけど…

・潜水艦が沈んだところで一瞬だけ水面を跳ねた「青い海からやってきた魚の子」。

・ハナから似せるつもりないだろ!と突っ込ませることを回避した「似てない」と自己申告したジャック・バウアーもどきのジョン・ジョロリン(名前の由来は号泣するとすぐに失禁するためだ)。
なんで銃じゃなくてオカリナを構えているんだ!

・部屋が広すぎて、お魚くわえたドラ猫を裸足でおっかける陽気な一家が住み込んでいることが悩みのジュリエット。

・映画版第2弾のMr.Aが再登場。
何と整形してダイエットして超ナイスガイに。
おまけに吉田くんとフィリップとひそかに合コンに繰り出している。
しかもパンフを読むと毎月吉田くんに12万を振り込んでいるらしい。1億をあげたのは総統なのに!

・戦闘の度に矢面に立たされ、吉田くんが実体と幽霊との切り替えスイッチをうまく操作しないために数十回殺されては幽霊の体が増えるフィリップの相変わらずの憐れさ。でもその後TVシリーズでは美人で気立ての良い彼女が出来て、大金持ちになっていて良かった!

・男漁りの旅に出たものの、男に巡り合えず禁断症状が出ていた時にうっかり崖から転落して身動きのとれなくなった総統に覆いかぶさり、思いを遂げてしまった大家さん。テレビシリーズ2期の妊娠にこうして繋がるわけか〜。でも身に覚えがないと言い切っていた総統は相当心に傷を負って思い出すことを拒否している模様。

・山崎貴の凄すぎるVFX映像と、棒人間クオリティで着弾シーンを描くフロッグマンのギャップ。

・今回も秘密基地に入り浸って食料を漁る最低の行為がまさかの地球を救うこととなる、毎回おいしいところだけさらうデラックスファイター。

・最終兵器島根県。

そして自分の思うとおりの人生が送れないと嘆くジョン・ジョロリンや、夢に破れ続けているジュリエットの独白、それを否定し励ます総統と博士たち、思わずぐっとくるシーンも用意してくれてた。

実際のオバマ大統領の実績のないノーベル平和賞受賞(というか核のない世界を目指すと明言したことか)のことや、サブプライム問題や、日本の派遣問題等政治的なニュアンスも濃く、なかなかブラックな面も提示されている。

けれど最後のスーザン・ボイルのあまりの美しい歌声にすべてが収斂され、感動を呼び、思い返すとまたバカらしい笑いのシーンが脳裏をよぎって結果重くならずにからっと楽しく後味よくまとまるのが凄い。

と、おおむね満足だったものの、タレントの起用だけはいただけなかった。
他のシーンでは湧いていた会場も、もう中学生とか坂東英二とかよく判らないテレビ番組の面々が出ていたところでは水を打ったように静まりかえっていたっけ。

後、劇場版第1弾の出来が素晴らしすぎて、どうしてもそれと比べてしまうことと、クオリティ(作画ではなく)が追いつかないのが残念。
まあこれは本当に個人的な感想だけれど。

でも第4弾は作らないとか。
その代わり、第5弾は作るらしい。
理由は4は不吉な数字だから…と。
どこまでもやってくれるな、FROGMAN。

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2009年12月12日

フィッシュストーリー

B002HQOGEGフィッシュストーリー [DVD]
2009年 日本
監督:中村義洋
原作:伊坂幸太郎
音楽プロデュース:斉藤和義
出演:伊藤淳史
   高良健吾
   多部未華子
   濱田岳
   森山未來
   大森南朋
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 僕の孤独が魚だったら

ネタバレ有りです。

2012年。
ゴーストタウンと化した道を行く一人の老人がいる。
地球に彗星が衝突し、あと数時間で世界は終わる。
そんな中で店を開けているレコード店に男は入る。
そこでは店長と客が暢気に「フィッシュストーリー」と題された曲を聴いていた。
その曲が世界を救うことをまだ彼らは知らない。

1982年。
気弱で何事にも立ち向かったことのない大学生の男が、ある日「今日あなたは運命の女性と出会う」と予言される。
その夜、車中で「フィッシュストーリー」を聴いていた彼は、空白の間奏部分のところで女性の悲鳴を聞く。
車を降り立ってみると、茂みで女性がレイプされそうになっていた。
初めて勇気を出して彼はレイプ犯に襲いかかる。

2009年。
修学旅行中フェリーに一人取り残されてしまった有名高校の女子生徒が、シージャックに遭遇する。
しかしそこに父親からずっと正義の味方となるべく訓練を受けていたパティシエが登場した。

1975年。
売れないバンド仲間たちが、最後のレコーディングをする。
タイトルは「フィッシュストーリー」。

こうして4つの時代のできごとが、さまざまな因果関係を結んで2012年の地球の危機を救うことに集約されていく。
それもけっこう地味な一本の糸、売れなかった曲に繋がっていくのが本当に面白い。

“あの時あの曲が作られなかったら”
“あの時あの空白の間奏部分がなかったら”
正義の味方を生むこととなる両親の出会いはなかったし、その正義の味方に助けられなかったらあの女子高生は彗星の軌道を正確に計算して地球を救うこともなかった。

こういうちょっとした伏線を拾い集めて、パズルのピースのようにぴったりはまっていくさまは見ていてゾクゾクする。
原作の伊坂幸太郎の本は読んだことはないけれど、最近次々と映画化され、それがどれも面白いので舌を巻く。
『ベストキッド』 『アルマゲドン』 『マトリックス』のパロディも笑った。

とは言え、1975年パートがちょっと長く感じられ、バンドメンバーやプロデューサーとの絆の深さを物語るのは良いけれど全体のバランスから見ると冗長気味。
ラスト近くのダイジェスト版もしつこい気がした。

それでもそれを補うに充分なストーリーの面白さと役者陣の好演があって良作となっている。
正義の味方役の森山未來は、ただビジュアルだけで見るとそうでもないのに、演技をしだすと途端にもの凄いかっこよくなってしまうのが凄い。『百万円と苦虫女』でも感じたことだけれど、見た目とは異なる雰囲気を醸し出せる稀有な人だと思う。
女子高生役の多部未華子もずば抜けてかわいいというわけではないけれど(好みが分かれそう。わたしは好き)、発声のきれいさと相成ってかなり魅力的。
劇場で観るべきだった。

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2009年11月21日

ファイティング・シェフ 〜美食オリンピックへの道

B003C1V3DWファイティング・シェフ [DVD]
2008年 スペイン
監督:ホセ・ルイス・ロペス・リナレス
出演:ヘスース・アルマグロ
   セルジュ・ヴィエラ
   ペドロ・ラルンベ
   ポール・ボキューズ
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ボキューズ・ドール国際料理コンクール。
フランス料理の頂点を極める世界最高峰の美食オリンピック。
そこにいつも上位入賞できないスペイン代表の奮闘を描いたドキュメンタリー。

ネタバレ有りです。

こんな大会が開催されていることを知らなかったので、とても興味深く観ることができた。
しかも優勝候補というわけでなく、24カ国が参加する中で大体16〜17位くらいに位置するスペイン代表の姿を描いているのも素直に応援できて良い。

シェフのヘスースと、アシスタントのフェリクス。
彼らは何度も試食会を開いて、専門家や同僚から忌憚のない意見を貰い、改良に試行錯誤する。
その年ごとにテーマとなる食材が発表され、シェフたちは肉と魚のプレートをそれぞれ1つ、更に3品の付け合せを時間内に完成させなくてはならない。
しかも味はもちろん、盛り付けやキッチンの片付け、衛生面まで評価対象となる厳しさ。
だからヘスースたちはそのテーマ食材の高級鶏肉、オヒョウ、タラバガニを何圓盪箸辰道鄂会に挑む。
でもこの意見というのが、本当にビシバシと手厳しいものばかりで、
「うんうん判ってる、アレは失敗だったよね…」
とうなだれるヘスースには母性本能がくすぐられてしまった。

鶏の皮をぱりぱりに焼いて、薄く円状に切って料理の上にかぶせたり。
ソースと具材のバランスを皿の上で整えたり。
休日を返上して、時には愚痴をこぼしつつも彼らは渾身の力をこめて料理を作る。
こんなに一生懸命で、こんなに料理にのめりこんでいて、こんなにチームワークに力を入れる(時には指示したことがうまく伝わらなかったりもするけれど)料理人たちが愛しくて仕方がない。

本番当日、母国の力強くあたたかな応援(顔にペインティングしたり、旗を作ったりとサッカー並み!)に支えられながら、ヘスースとフェリクスは料理を作り続ける。
銀のプレートに載せられた料理を審査員の前に見せる彼らの顔には満足の表情があった。

彼らが出場したのは大会1日目で、他国の料理もちらりと見ることができたんだけど、今までの感情移入という贔屓目から、スペインが一歩リードしているような感覚があった。
けれど大会2日目、真の強豪チームの作品を見ると、そこには歴然とした差が示されていた。
特に優勝チームのフランスの品々は素晴らしい。
まるでお菓子のような色鮮やかな、でもきちんとまとまっている肉料理。
繊細で幾何学的な美しさのある魚料理。
飾りつけのなにやら得体の知れないものまで意匠を凝らしていて、それは見た目ではスペインがかなうべくもなく。
ヘスースも
「素晴らしい」
と一言洩らしたまま、自らの負けを悟っていた。
この辺りのリアルさがドキュメンタリーならでは。

結局スペインチームは9位。
上位入賞は果たせなかったけれど、でも自国の最高位。
素直に喜び、家族とそれを分かち合うヘスースの姿に自然に笑顔が。

“やり遂げた”彼らに悲壮感なんてまったくない。
その明るさが実に良い。

そうそう、我が国日本も、アイデンティティー賞とかいったものを受賞。
漆塗りの器に盛った上品な料理がこれまた目の保養だった。
ただ、この日本の受賞だけでなく、他にも「アシスタント賞」とか「肉部門賞」とか色々あったんだけれど、それが何位に相当するのか、それとも順位と関係なく別枠の賞なのか、結局優勝がフランスだというのはわかったけれど、2位と3位はどこだったのか、賞の仕組みと結果が判らず仕舞いだったのが残念。

そしてラストはヘスースの母親が家庭料理を作るシーン。
パエリアのような、雑多な食材を大きなフライパンで炒める、その温かな料理で締めくくってくれたのがまた好感が持てた。


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2009年11月05日

サイドウェイズ

B002E19GWGサイドウェイズ (特別編) [DVD]
2009年 日本
監督:チェリン・グラック
出演:小日向文世
   生瀬勝久
   鈴木京香
   菊地凛子

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「最短距離がベストな道のりとは限らない」
だから人生も少しだけ寄り道。

ネタバレ有りです。

『サイドウェイ』の日本リメイク作。
主人公道雄のモノローグが多用されたのと、彼の想い人で元教え子の麻有子の人生に重点が置かれた等多少の違いはあるものの、構成はほぼ一緒。
でも主の4人が日本人であること、その彼らがアメリカで悲喜こもごもを繰り広げるといった点で面白いネタが入る。
結婚式まで一週間の大介がアメリカンナイズされているようでそうでもないところが可笑しい。
友人からは「ダニー」と呼ばれ(呼ばせ?)たり、物をぶつけた時に「Oops」と道雄に言ったり。でも痛みを感じた時には「いてっ」なところがまた笑いを誘う。

それは大介と恋仲になるミナも同じで、「ちゃらちゃらおかしい」とか「割れ鍋に綴じ蓋」とか微妙に間違っていたり誤用だったりするのもネタを重ねて見せてくれる。

どんなにオシャレにワインの薀蓄をたれてテイスティングしても、哀しいかな、日本の冴えない中年男性という現実が、同じく日本人としては哀愁を誘いつつもほほえましい。
そう、そんな道雄のかわいらしさといったらない。

麻有子と一緒になって舞い上がって人生に口出しをしたり、キスされて体一直線で硬直しちゃったり、自分のシナリオがズタボロにされてワイナリーで荒れたり。

大介もなぜか異国でモテモテで、ミナの他にも受付嬢に電話番号を渡されたり、婦警さんのSMの相手にされたり。
なぜ容姿がそれほど二枚目というわけでもない彼がこんな厚遇を受けるのか、一応彼がニンジャのドラマに主演して人気者だったというエクスキューズも用意されているのが丁寧。

そして日本語と英語が微妙にミックスされた発音のミナが底抜けにかわいらしくて良!
正直オリジナルのサンドラ・オーの魅力がいまいちだったので、このリメイクでの菊地凜子の株は上がりっぱなし。

とは云え、やっぱりオリジナルの世知辛いながらもからっと明るい作風と素晴らしいキャストには及ばず。

最初に書いた道雄のモノローグも長すぎ、説明しすぎで、もう少し抑えても良かったと思う。
道雄と麻有子の元先生と教え子という関係も、二人の年齢差が正直それほど感じられず、彼らの輝いていた過去が想像し辛く、その結果、あのシナリオに道雄がこだわる理由がいまいち掴めなくなってしまった。

その麻有子に重点が置かれたのもバランスが悪く、オリジナルであんなに素敵で包容力のあったキャラがただプライドを守るために地団駄を踏んでいるようにしか見えず、つまりあまり魅力的に思えなかった。
彼女が道雄によって生き方を変えることになる、というのはオリジナルとほぼ逆。

ラストも余韻と想像を残したオリジナルと違い、道雄が麻有子の家をノックした先のことまで描かれ(ミナが道雄に麻有子は日本に帰ったことを知らせるという丁寧ぶり)、きちんとしすぎたハッピーエンドもなんだか残念だった。


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2009年10月22日

サイドウェイ

B000W6H2DAサイドウェイ[DVD]
2004年 アメリカ
監督:アレクサンダー・ペイン
出演:ポール・ジアマッティ
   トーマス・ヘイデン・チャーチ
   ヴァージニア・マドセン
   サンドラー・オー
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少しだけ寄り道。
人生はワインのように芳醇ではないけれど、そこかしこに幸せな香りが漂っている。

ネタバレ有りです。

マイルスは2年前に離婚して元妻に未練たらたらの国語教師。
小説家希望で、出版社に持ち込んだ原稿がいつ出版されるか心待ちにしている。
マイルスの親友ジャックは女たらしの俳優。
一週間後に結婚を控え、男二人で独身最後を謳歌する旅に出る。

ワインオタクのマイルスは、旅先のワイナリーで薀蓄を披露。
でもその饒舌さは、気になる女性マヤの前では影をひそめ、なかなか彼女との距離を縮められない。
ジャックは婚約中であることを隠してステファニーという女性と意気投合、セックスに夢中になり、結婚式の延期まで考え始める。

どちらもいい歳をしてダメ男、情けないけれど、人間くさくて可愛らしい。

元妻が再婚したことを知って荒れ、ワイナリーで樽に入ったワインをがぶ飲みして追い出されるマイルス、ステファニーに真相がバレ、メットで顔面をぼこぼこにされ、懲りずにレストランの人妻をナンパしてまた酷い目に遭うジャック。
でもどちらも嵐が去った後、自分の大切な存在に気づく。

風のそよぐ田園風景と、語られるうちにほろ酔いしそうなワインの味わいが心地よく、その寄り道は二人にとって必要なものだったと判る。

嫁が一番なのだと悟るジャックはもちろん、マイルスもようやく離婚にけじめをつけ、元妻の妊娠報告にも少し心を痛めながらも笑顔を作り出せるまでになっていた。
小説の出版も見送られたけれど、その原稿を読んだマヤからは「こんなに美しい小説はない」と絶賛される。
そんな彼女の家のドアをノックするところで映画は終わる。

事態を辛辣に描くことなく、大胆なセックスシーンさえユーモアラスな、じわじわと幸せな気持ちに浸らせてくれる良品。
ジアマッティの朴訥とした魅力、プレイボーイ然とした風体がぴったりのトーマス、美しく包容力のある女性にぴったりのヴァージニア・マドセン、誰もが素晴らしい。
一人だけ、好みの問題だろうけれど、ジャックがなぜ目をつけるのか疑問な容姿のステファニー役のサンドラ・オーだけがちょっと残念。
日本でリメイクされた『サイドウェイズ』が楽しみ。

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2009年09月18日

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

B00352PK6Eブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない [DVD]
2009年 日本
監督:佐藤祐市
脚本:いずみ吉紘
出演:小池徹平 田辺誠一
   池田鉄洋 マイコ
   品川祐 田中圭
   中村靖日 森本レオ
by G-Tools


一人の青年が、ネットに書き込みを始めた。
「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」

ネタバレ有りです。

2ちゃんねるの書き込みが書籍化・そして映画化。
主人公マ男は中卒、ニートという経歴から母親の死を転機に就職。
彼が入った黒井システム株式会社は、就業時間も人間関係もめちゃくちゃな、いわゆるブラック企業だった。

会社の人間はクセ者ばかり。

・責任感ゼロで、ワンマンで口の悪いリーダー。
・リーダーの腰巾着でお調子者、仕事のできないガンダムオタクの井出。
・唯一まともな人格者で仕事もできて容姿も良い、マ男の尊敬する人・藤田さん。でも彼の過去は謎に包まれている。
・美人でやるべきことをきっちりこなす一見常識人の派遣社員・中西さん。けれど藤田さんに想いを寄せ、恋愛街道驀進中。
・どもって上手く話すことができず、リーダーのいじめの標的となっている情緒不安定な上原さん。
・映画版オリジナルキャラで、社長の愛人の経理の瀬古さん。
・自信に満ち溢れ、出世どころか会社のっとりまで企んでいる新入社員の木村くん。
・ひどく温厚で慈愛に満ち溢れた面持ちでマ男を採用してくれた社長。でも実はブラック会社の黒幕でもある。

そんな中で奮闘する主人公の姿は、悲惨な状況もあれど、テイストはコメディタッチで描かれ、大いに笑いと共感を呼ぶ。

ストーリーは原作に基本忠実で、テンポ良く進む。
入社一日目でいきなりやったこともない仕事を任され、放置され、怒鳴られるところから始まり、たった二週間で次のプロジェクトリーダーに抜擢されるまで、登場人物のキャラをところどころ強調させて、興味を引かせてくれた。

個人的になかなかおいしかったシーン。
井出に藤田さんがゲイだと吹き込まれ、その後意識してしまい、遂に
「この人になら……抱かれても… いい!」
と決意(?)するところでは場内爆笑。
周りの反応を見てから安心して大笑いした小心者のわたし。

その後も、カオスな飲み会やら、藤田さんに告白して玉砕、そのショックで松葉杖をつくようになってしまった中西さん(会場から「こえーよ」と声が聞こえた)の姿やら、井出の発するガンダムの名台詞オンパレードやら、わたしには全然判らないプログラマたちの仕事ぶりやら、いちいちかっこいい藤田さんの英雄ぶりやらで飽きはこない展開。

『電車男』と同じく、主人公の脳内でイメージされたことがそのまま映像化されるところもまあまあ。
三国志が出てきたり、デスマのイメージとして戦士たちが死の道を黙々と歩んでいたり。

ただ、後半、マ男の父が倒れたり、自分の働くことの意義をもうひとりのニート時代の自分に問われたり、めちゃくちゃな環境についにブチ切れたり、ヒューマンッタッチ&シリアスタッチな展開になってからは、いい意味でも悪い意味でも“映画的”に演出されていたのが少し違和感が残った。

特に、納期を一日前にして会社を飛び出したマ男が、色々考えをめぐらせ、結局会社に戻るところ、映画では定石の主人公を走らせるというシーンを入れている。
うん、たしかに走ることって、感動を呼ぶんだけれど。
原作を読んでいると、ここがどうにもわざとらしく、陳腐に感じてしまう。

その後も社員全員がプロジェクトに取り組んで、今まで人に仕事を押し付けるばかりだったリーダーが、上原の仕事を手伝うなんてエピソードまで入れて、これもやっぱり映画的。

でもどちらも、前述したように、いい意味にも悪い意味にも取れるところで、これで感動する人はするだろうし、作品としてはまとまった作りにはなっている。

ただ、ちょっと嘘くさい。

その嘘くささで顕著なのが、藤田さんの転職先。
原作では亡くなった彼女の勤務先、となっていたのに、こちらは何と弁護士事務所。
頭悪いから秀才な人たちの世界って判らないんだけど、かなり前に弁護士を目指して勉強していただけで、何年もブランクがある人がすぐにそちらの世界でやっていかれるものなの…?

そしてさらに気になったのが、ネットの書き込みの存在。

『電車男』では、ネットの人々が彼を応援し、助言を与えて成功に導いたのだから、その書き込みの描写は必須だった。
こちらでも、スレッドを立てたマ男にレスする文章がところどころで現れる。
でも後半以降、そのレスも反応もいっさい描写されない。
なので非常に中途半端な感じとなり、これなら別に描かなくても良かったんじゃないかなあと思う。

ラストもきれいにまとめてはいるけれど、少し残念。
藤田さんが去っていくのは、マ男を自分の後継者に育て上げたから、そしてマ男は次のリーダーに指名されるだろうという感動の件をそぎ、ただ贖罪でなく「自分のために生きる」ことを決意した藤田さんの姿だけを描かれても、せっかく築いたマ男と藤田さんの絆が見出せなくなってしまった。

ラストシーンは、等身大の昔のニート時代の自分と相対し、
「俺はお前だったころも、限界だったんだよ」
と訣別の意を表し、スレッドに
「ブラック会社に勤めてるんだが、まだ俺は頑張れるかもしれない」
と書き込むマ男の姿が描かれる。
繰り返すようにこのラストも良いけれど、その前の藤田さんのさわやかな“引退”が中途半端だった分、この感動の一文もなかなか活きてはこない。

それでも役者さんたちが全員好演(リーダー役の品川祐はそのまんまだなあ)、マ男の心の中のツッコミもナイス、とにかく内容が興味深く面白かったことから、充分楽しめた作品。

それからエンドロール後のワンシーンは必見。

第二のマ男的存在と思しき若者(特別出演の品川庄司の庄司だ!)と、彼を採用してあげる社長のシーン。
感涙にむせんで社長室を出て行く若者を見送ってから、
「ソルジャーゲ〜ット♪」
と呟く社長。
さすが、黒幕。


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2009年08月07日

ウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢

B002PHBI3Oウォレスとグルミット ベーカリー街の悪夢 [DVD]
2008年 イギリス
監督:ニック・パーク
声の出演:ピーター・サリス
     サリー・リンジー
     メリッサ・コリアー
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気ままな発明家ウォレスと彼の相棒でしっかり者のグルミット。
彼らの今度の職業はパン屋さん。
そんな中、次々とベーカリー店の主人が殺されていく。
犯人は誰?その動機は?
やがてウォレスにもその危機が迫ってくる…

ネタバレ有りです。

毎度おなじみウォレスとグルミットの夫婦のような仲の良さと絆を見せ付けられるだけでシアワセな気分になってしまう。
今回はウォレスがパイエラというCM女優と恋に落ち、婚約までしてしまう。
嫉妬し、居場所をなくして家を去るグルミット。
でもパイエラこそがベーカリー街の殺人鬼だと知って、相棒を助けに行く。

このパイエラのキャラと殺人の動機づけが面白い。
「ベークライトガール」と呼ばれ、気球に乗ってスリムな体でパンをCMしていた彼女が、その食べすぎで太ってしまい、CMをおろされ、その怒りの矛先がパン屋さんに向いて主人殺しを続けていたというオチ。女性心理を(カリカチュアライズしてあるにせよ)よく判ったブラックな動機だと思う。ついでに因縁の気球に乗って逃亡するも、その重さに耐えられずに落下、ワニに食われてしまうという結末も大人向け。

パイエラのペットであるプードルの描き方もかわいらしくて、透明な涙をぽろぽろ流すところではグルミットでなくても恋に落ちてしまいそうなほど。
主人の悪事を知っていて、プルプルいつでも小刻みに震えている姿も庇護欲をそそられる。

そんな小動物が反旗を翻して大活躍する(車の操縦が見事すぎる!)ところもすかっと爽快。
彼女も新しくウォレスの家族となるのか、それとも後述する羊のショーンのように一話だけのゲストとなるのか気になるところ。


そして旧作3作品が同時上映だったのもうれしい。

◆チーズ・ホリデー
ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー [DVD]
これは前にレンタルで見たことがあった作品。
そのせいか、仕事疲れと気を抜いてしまったのが重なって後半寝てしまった…。
でも、月が全部チーズでできていて、そこにお手製のロケットでチーズ狩りに繰り出すウォレスとグルミットがほのぼのしていて良。
月にいたロボットが念願のスキーをする(ここら辺寝ていたのでよく判らないけど)のもかわいい!

◆ペンギンに気をつけろ!
ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ! [DVD]
ワルなペンギンの下宿人にウォレスのお気に入りの座を奪われて悲しむグルミットにきゅんとする。
クライマックスの電車でのチェイスは痛快!
線路をもの凄い速さで作っていくグルミット、アンタ最高だ!

◆危機一髪!
ウォレスとグルミット、危機一髪! [DVD]
前述したけれど、羊のショーンのかわいらしさに尽きる。
『ベーカリー街〜』のプードルと同じく、ぷるぷる震えるさまがかわいらしすぎ、あの間の抜けた鳴き方が可笑しすぎ、ひとさまの部屋で寛ぎすぎ、もう大好き!
ここでもウォレスが毛糸店の女主人と良い仲になり、グルミットが面白くなさそうな顔をするところがあり、毎度シリーズに出てくる自動起床装置&朝食用意と同じくテンプレ化した展開なのかなと。
いやでもクレイアニメとしてだけでなく、短い時間でこれだけ楽しませ、萌えさせてくれるクオリティは半端ない。


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2009年07月26日

扉をたたく人

B002QBT2UK扉をたたく人 [DVD]
2007年 アメリカ
監督:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス
   ヒアム・アッバス
   ハーズ・スレイマン
   ダナイ・グリラ
by G-Tools



そのビジターは、彼の生き方を変えてくれた。

ネタバレ有りです。

ウォルターは妻を亡くして以来、単調な講義を繰り返すだけの大学教授として生活をしていた。
ある日何年も使っていない自分のアパートに戻ると、そこには外国人のカップルが暮らしていた。
手違いを詫びて出て行く彼らの所在のなさげな風情に絆され、ウォルターは住む所が見つかるまでの同居を提案する。
シリア出身のタレクとセネガル出身のゼイナブは実は不法滞在者だった。
ジャンベを演奏するタレクにその楽器を習ううちに、ウォルターは人生に楽しみを見つけていく。
けれどあるハプニングでタレクが警察に捕まり、そのまま不法滞在者として拘束されてしまう。
そしてウォルターの前にタレクの母親が現れた。

楽器が、ひいてはそれを教えてくれる人が孤独な老人の心を豊かにしてくれる。

ウォルターの亡くなった妻はどうやらピアニストだったようだ。
その姿を手繰るかのように自らもピアノを習うも、彼はすぐに挫折してしまう。
けれどタレクの奏でるジャンベのリズミカルな音にウォルターは魅了される。
それはタレクという一人の男の魅力でもある。
こわごわジャンベを指で弾いていた老人は、次第に叩き方を学び、やがて公園で観衆の前でその音色を披露するまでになる。
いつもむっつりと下を向いて歩いていただけの男が、満面の笑顔を見せる。
その変化をもたらしたタレクのキャラクターが、あたたかく、人間味溢れていてとても良い。
一方その恋人ゼイナブは最後までウォルターに対してよそよそしく、ここら辺もリアリティがあって面白い。

そしてタレクの母親とウォルターはだんだん新密になっていく。
息子のために毎日面会をし、弁護士を用意してくれ、ずっと憧れだったオペラ座の怪人の舞台まで連れて行ってくれたウォルターに母親は最後の夜に彼と同衾する。

人生の喜びを、楽しみを、そして忘れていたときめきを、あの母子は授けてくれた。

けれど結局タレクは何の前触れもなく故郷に送還され、母親もその後を追う。
家の冷たさ、自分の無力さを嘆くウォルターの姿は、オープニングの無気力な老人の姿からは想像もできない激しさを見せる。

人との出会い、音楽とのふれあい、それを簡単に引き裂いてしまう現実。
彼らと笑って過ごした日々は、ウォルターにとって“本当に生きている”ことを実感した時間だった。
だからこそ嘆きは深い。

その思いをすべてぶつけるように、ウォルターは地下鉄構内で一人ジャンベをたたく。
楽しかった思い出にひたるように、何もできなかった自分に呪詛を吐くように、国家権力への抵抗のむなしさを滲ませるように、魅力的なビジターに練習の成果をみせるかのように。
このラストシーンが素晴らしい。

主人公を演じたリチャード・ジェンキンスの表情や仕草が味わい深く、オスカーノミネートが納得できるというもの。


cocoroblue at 20:56|PermalinkComments(6)TrackBack(4)