こんにちは、最初の記事ぶりですね。 
演出の田邉です!


先日、自分の部屋を片付けていたら中高時代の古語辞典が発掘され
それと同時に、かつての私が「心にしみるわ~」と思い
気に入った単語や和歌に印を付けていたという黒歴史もまた、
封印を解かれるという事態が起こってしまったのです…。


こんなことをしてたのも、古文が昔から大好きだったからなんですね。
逆に苦手だった数学の参考書は、印どころかシミ一つありません。開いてないのがバレバレです。


ところで、今回の「皆既想蝕」に出てくる登場人物の名前は
基本的に和歌から文字や音を取って、名前とさせていただいております。
ちょっとした遊び心で、こんな工夫もしてみたくなっちゃいました。

なので、古典に親しみを持っていただくことで、よりこのお芝居の世界を知ってもらえると思うのです!



ということで、前置きが長くなりましたが
このコーナーでは、中高時代の私が独断と偏見で選んだ単語や和歌を、今の私が紹介していきます!
過去の自分との邂逅だね!うれし恥ずかしだね!
もしかしたら先日、役者の林さんがブログで言及していたような
私の恋愛観の片鱗が見えちゃうかもしれないよ!余計に恥ずかしいねウフフ!


今日は「あ行」編!



●あいな頼み(あいな-だのみ)
あてにならない期待。

「つらき心を忍びて、思ひ直らむ折を見つけむと、年月を重ねむあいな頼みは、いと苦しくなむあるべければ、かたみに背きぬべききざみになむある。」

訳:辛い浮気心を我慢して、その心がいつ直ってくれるのだろうと、あてにならない期待をしながら年月を重ねる事だけは、本当に辛くて耐え難いので、それならばお互いに別れるべき時機なのでしょう。





いきなり最初から重いのが来てしまいました…。
出典はあの有名な源氏物語の中の第二帖(第二巻)、「帚木」。
源氏物語は全54巻ですから、かなり冒頭のお話です。


主人公の光源氏は、貴族で絶世の美男子。

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数年前に公開された映画では、生田斗真くんが光源氏をやってますね。
個人的には、生田斗真くんは源氏物語よりも人間失格の方が好きでした。


そんな光源氏は、お母さん(正確には生みの母にそっくりな義理の母)そっくり系女子が理想のタイプ。
初恋の相手が、義理のお母さんなんですよね。背徳的な香りがしますう!
でもなかなか理想にぴったりな子に会えなくて、ふらふらしちゃうことになります


この「帚木」において、光源氏は17歳くらい。
光源氏の親友の頭中将、それからたぶんお友達の左馬頭&藤式部丞と
ある雨の夜に、今でいう恋バナを始めます。これがいわゆる「雨夜の品定め」です。


この雨夜の品定めで、左馬頭が別れた前妻とのケンカの話をします。
その中の台詞が、先ほど挙げた文にあたるのです。



左馬頭の前妻は、見た目はそこまで良くない(って原文に書いてある)けど
夫である左馬頭のために熱心にお世話をしたり、夫に嫌われないように精一杯化粧をしたりと
尽くしてくれるタイプの女性でした。
でも、結婚していた時の左馬頭は若かったこともあり
なんとなく優しさだけじゃ物足りなくて、よく浮気をしたそうな。


さすがの奥さんもこれには怒ります。当たり前です。
でも左馬頭は「真面目なところは嫌いじゃないけど、こんなに嫉妬しなくてもいいのに。面倒な女だなあ」
って思ってしまいました。
追われて逃げたくなっちゃったんでしょうか。嫉妬してくれるうちが花ですよ。


そこで左馬頭は、尽くす系女子の奥さんの性格から
「そんなに嫉妬するならもう別れるぞ!とか脅せば、嫉妬も抑えてくれるのでは?」と思いついちゃいます。
ああもう、そんな手段で嫉妬が収まるだなんて何を考えてるんでしょう。一発殴ってやりたくなりますね。


それで、実際に
「そんなに嫉妬するならもう別れよう!もしずっと一緒に生きていきたいなら、辛いことがあっても我慢してよ!
嫉妬さえしなくなりゃ可愛いのに!」
というワガママを奥さんに言った結果、上記の例文に出した台詞を言い返され
結局本当に別れることになってしまいます。ざまあ!


これが、「あいな頼み」の例文の背景です。
これでも「帚木」のほんの一部なのに…長かった……。


さあ、気を取り直して次、次!





●朝氷(あさ-ごほり)
朝の氷がすぐに溶けることから、「解く(=うち解ける)」・「疾く」にかける。

朝氷 解くる間もなき 君により などてそほつる 袂(たもと)なるらん

訳:うち解ける間もないあなたのために、どうしてぐっしょりと濡れてしまう袂なのだろう。



これは分かりやすい片思いの歌ですね。出典は宇治拾遺物語・恋二巻・729です。
片思いって幸せな時もあるけど、やっぱり思い通りにならないことの方が多いですから
泣いたり切ない気持ちになったりする方が、表現のバリエーションとしては増えてきちゃいますよね。たぶん。





●寝を寝(い-を-ぬ)
眠る。

白真弓 斐太(ひだ)の細江の 菅鳥の 妹(いも)に恋ふれか  寝を寝かねつる

訳:斐太の細江の菅鳥のようにあなたを恋しく思うからか、眠ることができない。
(白真弓は、「ひ」の枕詞)


出典は万葉集の12巻、3092です。例えがよく分からないのはジェネレーションギャップのせいなんですかね。
「斐太の細江」は、地名です。現在はJR飛騨細江駅という駅があるそうで、舞台はそこのもよう。
漢字は変わっても、音は変わらないんですね。

菅鳥というのは、水辺に住む鳥の名、とのこと。オシドリのことをさしているなど、諸説あるようです。
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オシドリならつがいで行動することで有名ですし、例えに用いられるのも頷けますね。
実はオシドリの生態として、繁殖期ごとにパートナーを変えるというトリビアはここでは触れないようにしましょう。


ちなみに、この時代における「妹」は兄弟としての妹ではなく、女性に向かって親しみを込めて呼ぶ時の言い方です。
よく見られるのは男性が恋人や妻を呼ぶケースですが、女性同士でも「妹」は使われます。





●仮寝(うたた-ね)
思わずうとうとと眠ること。

うたた寝に 恋しき人を 見てしより 夢てふものは 頼みそめてき

訳:うたた寝の夢で、恋しいあの人を見てしまったあの時以来、儚く頼りにならないはずの夢というものを、私は頼りにし始めたのだった。



出典は古今和歌集・恋二巻・553。
詠み手は、百人一首でも知られる小野小町!世界三大美人とも称される彼女です。
世界三大美人なんて言われる人でも、恋に悩むんだなあと思うと、少し親近感が湧きますね。
 
ちなみにこの時代、夢に好きな人が現れるというのは、相手が自分のことを思ってくれてるからだ、という俗信があったので
小野小町も「脈ありなんだろうか…」って思い始めてドキドキしたんでしょうね。きゅんきゅんしますね!


ちなみに、羽海野チカさんの「ハチミツとクローバー」にも、これに似た台詞が出てきます。
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 「誰かが夢の中に出てくるのって 相手の『逢いたい』ってキモチが
体をぬけて 夢の中まで飛んでくるからなんだって」


もう…もう…この台詞を読んだ時には言葉が出ませんでした。
元からきゅんきゅん&ボロ泣き連発漫画の中でこんなこと言われたらもう…。

ちなみに私は高校生の時、好きだった人にいんげん豆を食べさせられるという微妙な夢を見ました。
あれは結局なんだったのでしょう。


その他にも、好きな人からマスカットのジュースをもらって一口飲む、という夢も見ましたね。
マスカットのジュースなんて相当なレア物だと思うのですが、電車待ちという妙にリアルな状況だったので
起きて夢だと気付いた瞬間、悲しくなりました。



小野小町も、似たような経験をしたのでしょうか。
同じく古今和歌集の整理番号552番、つまり前述の歌のすぐ前にこんな歌も掲載されています。


思ひつつ 寝ればや人の 見えつらむ 夢と知りせば 覚めざらましを

訳:一途に思い慕いながら寝たので、あの人が夢に現れたのだろうか。
もし夢と分かっていたなら、目が覚めないままでいたものを。



相当片思いに悩んでた時期だったんですかね。
それとも百人一首に残るようなエキスパートだったから「こういうheart震えるlyricなら人気取れるyo」みたいな
何らかの狙いを定めた上で、上記の二句を残したのでしょうか。

いずれにせよ、今の時代でも「あ、それ分かるわ~」って思える歌を作れる小野小町さんすごいです。
尊敬します。



ということで、長々と(主に帚木のせいで)語ってしまいましたが
少しでも古文、面白いなって思っていただけましたでしょうか?


源氏物語の背景説明さえなければ、もっと短く説明できるんや!
というわけで、懲りずにこのコーナーは続けます!
目指せ「わ行」まで制覇!


それでは、次回をお楽しみに!
ダスビダーニャ!