こんばんは。
宣伝美術・冨山です。

またまたニューヨークの話題です。
ニューヨークで観た13本のミュージカル・演劇のうち、3作は2回目以上の観劇でした。
「ライオンキング」「ウィキッド」「オペラ座の怪人」は日本でもお馴染みのミュージカルです。

オペラ座の怪人は一昨年6月まで、ウィキッドは昨年11月まで東京で上演されていました。
ライオンキングは1998年の初演から現在まで同じ劇場で上演が続いていて、ロングラン記録を塗り替え続けています。
劇団四季や東宝を中心に、ブロードウェイやイギリス・ウエストエンドのヒット作が「日本語で」「何度も」上演されてる日本の観劇環境は、世界的に見てもかなり恵まれていると言えると思います。

no title

このウィキッド、僕は日本で5回・韓国で2回観ていた作品で、8回目にしてやっとオリジナルのブロードウェイ版を観ることができました。
※韓国語では위키드。ソウル・シャルロッテシアターで2013年11月〜2014年11月に韓国人キャストによる韓国語版が上演。

ブロードウェイでWickedを上演しているのがGershwin Theater。

1

ブロードウェイで一番大きい、座席数1,933席を誇る大劇場です。
ちなみに、ブロードウェイとは500席以上の劇場を、オフ・ブロードウェイは500席未満の劇場を指します。
 
ブロードウェイの劇場はオン・オフ合わせて12箇所行きましたが、この他に広さを感じた劇場はMinskoff Theatre(The Lion King)とNew Amsterdam Theatre(Aladdin)の2つ。
メガヒットを飛ばすディズニー作品が上演されているこの2劇場でさえ座席数がそれぞれ1,621席、1,702席なので、Gershwin Theaterがいかに大きな劇場であるかわかってもらえると思います。

帝国劇場の座席数が1,897席なので、帝国劇場をイメージしてもらえるとわかりやすいでしょうか。
昨年11月までウィキッドが上演されていた電通四季劇場[海]の座席数は1,216席。小さめですね。
ソウルのシャルロッテシアターも1,241席と四季劇場[海]と同程度。

2
 
3

4

シャルロッテシアターはウィキッドの上演に合わせて、劇場の中身が緑一色!になっていたのが印象的です。
日本の劇場はこういうことをしませんよね。
ちなみに、東京宝塚劇場の座席数は2,069席。ブロードウェイ最大級の劇場よりも大きいということになります。
※兵庫の宝塚大劇場の座席数は更に多くて2,550席。

ブロードウェイの劇場の多くはシャンデリアがあるような豪華絢爛な内装で、狭く、日本の一般的な劇場像とはかなり異なった印象を受けます。
Gershwin Theaterは東急シアターオーブのような現代的でシンプルな造り。日本の劇場に雰囲気が最も近かったです。

WickedはGershwin Theaterで2003年10月に開幕したブロードウェイ版がオリジナル。
東京やソウルで観た記憶と、異なっている部分が結構ありました。
 
一番驚いたのはDefying Gravity(自由を求めて)のシーンに地下からの階段があったところ。
劇団四季版と韓国版では、エルファバが閉める扉(最後に衛兵達が入ってくる扉)は上手の舞台袖にあるという「設定」で、扉の存在を照明を使って示していたはずなのですが…。
ブロードウェイ版では、上手に地下からの階段があり、階段を降りきった奥に扉があるような感じでした(扉が実際にあったかどうかは覚えていません)。
おそらく、劇団四季版と韓国版では劇場の構造やコストの関係で階段を掘れなかったのでしょう。
この手の舞台装置の変更や省略は、演劇の世界ではよくあることです。
それぞれの違いを探すのも、同じ作品を何度も観劇する楽しみの一つ。

もちろん、違いは装置だけではありません。
One Short Day(エメラルドシティ)の曲のあと、オズの魔法使いがエルファバ・グリンダと初めて対面するシーン。
「どちらがエルファバだね?」というオズの魔法使いのセリフは"Which is witch?”でした。
ダジャレです。劇場が笑いに包まれていました。
 
ここのシーンは曲の一部ではないので、英語版のCDを聞き込んでも気づくことのできないところです。
劇団四季の日本語訳ではこういった元のセリフ・歌詞の面白さがなくなってしまっているのが非常に残念です。
特にWickedは掛け詞が沢山使われている作品。できれば英語で楽しみたいところです。

そして肝心の歌・ダンスですが、
正直物足りなさを感じました。
去年の3月に韓国で受けた衝撃の半分もありませんでした(韓国版は本当にレベルが高かった)。
ブロードウェイってこんなものなのか、と思いました。
実はこれは、The Lion KingでもThe Phantom Of The Operaでも感じたこと。

ブロードウェイのアンサンブルのダンスって、あまり揃ってないんです。
劇団四季のアンサンブルのかなり緻密で美しい動きと比べれば、ブロードウェイのダンスは必ずしも美しいとは言えないと思います。
日本は全体の統一感を重視していますが、アメリカは一人ひとりの個性を重視しているのだと思います。
日米の違いはアンサンブルの動きに見事に現れていました。

日本・韓国・アメリカの3カ国で観て、僕が最も好きなのは韓国プロダクションのバージョンです。
日本ほど統一感を重視せず、アメリカほど個性を重視せずのアンサンブル。
歌唱のレベルの高さが際立つメインキャスト。
韓国版はかなりのものでした。
ウィキッドに限らず、韓国のミュージカルはレベルが高いと思います。
その一方で、商業的には苦戦を強いられているようですが。

ミュージカルが好きな人々にとって、ブロードウェイと言えば聖地、憧れの地。
そこで上演される作品は想像を絶する凄さなのだろうと思っていました。
僕もその1人でした。 
しかし実際に行ってみると、全てが全てそうであるわけではありませんでした。
もちろん、劇場や演目の数の多さや客席の多様性など、 ブロードウェイが世界のショービジネスの中心であることは事実。
ただ、誤解を恐れずに言うと、日本でも観ることのできる作品は、日本版と比較して、あまり質の違いを感じることができませんでした。
 
しかし、「ブロードウェイってこんなものなのか」という落胆は、ブロードウェイのショーのレベルの低さを物語っているわけではありません。
ずばり、日本の演劇のレベルの高さを示すことに他ならないと思います。
ブロードウェイで13本観劇して、僕はそれを確信しました。


イギリス版の公式トレーラー。