2016年02月02日

1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2014/03/07(金) 20:24:10 ID:t2nls1YA0

ニュー速VIPの転載禁止に伴い、こちらに専用スレを立てました

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



822 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:28:54 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月16日(土)

唇の荒れがひどいので、指に取って塗るタイプのリップクリームを購入した。
「これ、のりみたいんじゃないね」
「リップスティックか?」
「そう」
「……あれ、不衛生じゃないか?」
唇に塗って、そのまま仕舞うのだ。
雑菌が死ぬほど繁殖していてもおかしくない。
「口紅って、どうなんだろう」
「くちべに?」
「あれ、リップスティックと同じ仕組みだろ」
「うん」
「──…………」
「──……」
「どうなの?」
「?」
「いや、口紅って不衛生じゃないの?」
「……?」
「──…………」
「あ、わたし?」
「他に誰がいるんだよ」
「だって、わたし、くちべにとかよくわかんない……」
「ふたつくらい持ってたろ」
「うん」
「塗り方、習ってたじゃん」
「うん」
「忘れたか……」
「わすれた」
誤魔化すように、うへーと笑う。
うにゅほが化粧をしているところなんて、ここ数年は見てないもんな。
「あ、クリームぬっていい?」
「えー……」
「だめ?」
「いや、さすがに、唇に触られるのは恥ずかしいというか」
「ちょっとだけだから」
「うーん」
「やさしくするから」
お前はエロ親父か。
「……ま、いいや。塗ってくれ」
「うん!」
うにゅほの細い指でリップクリームを塗られるのは、なかなか新鮮な体験だった。 








823 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:30:11 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月17日(日)

「はー……」
吐息であたためた手のひらを、強く、強く、こすり合わせる。
「さむいねえ……」
キンと冷えた空気が自室に満ちている。
「寒いというか、手が冷たい……」
リビングでテレビを見ていただけで、あっという間にこの室温だ。
「そろそろ大寒だっけか」
「だいかん?」
「寒さがいちばん厳しい時期のことだよ」
具体的には1月20日前後である。
「へえー」
うんうんと頷く。
「さむいはずだねえ……」
はー。
すりすり。
はー。
すりすり。
「××」
「?」
「ちょっと首筋貸して」
「くびすじ?」
「いや、手が冷たいから……」
「いいよ」
いいのかよ。
「じゃ、遠慮なく」
す。
うにゅほの首筋に手を這わせる。
「うひ」
「あったかい……」
「ちべたい!」
くすぐったそうに、うししと笑う。
「◯◯のくび、かして」
「はいはい」
うにゅほのちいさな手が、恐る恐る首根に回される。
「──…………」
「──……」
顔が近い。
「……ちょっと恥ずかしいな、これ」
「そかな」
あまり気にならないらしい。
「あったかー……」
ほにゃりとしたうにゅほの笑顔に、まあいいかと流される俺なのだった。 







824 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:31:08 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月18日(月)

ふと視線を上げたとき、気がついた。
「……あれ?」
「どしたの?」
「上のディスプレイ、電源落ちてる」
「ほんとだ」
「いつから切れてたんだろ」
PCを操作していたにも関わらず、気づくのが遅れたのには、明白な理由がある。
「……画面がみっつあっても、あんまり意味ないな」
「うん」
トリプルディスプレイにしてから九ヶ月ほど経つが、正直なところ、持て余していたと言っていい。※1
人間の視野には限界があるのだ。
「つかない」
「こわれた?」
「壊れたかも……」
電源ボタンをいじっても、コードを抜き差ししても、PCを再起動しても、うんともすんとも言わない。
「……まあ、いいか」
「いいの?」
「しばらくデュアルで使ってみて、やっぱり不便だったら考える」
「ふうん……」
あまり興味がなさそうだ。
そりゃそうか。
「はっかー、もう、できないねえ」
「……前も言ったと思うけど、ディスプレイ増えたからってハッカーになれるわけじゃないからな?」
「そなの?」
「そもそも、ハッカーって、なにする人だと思ってるんだ」
「うと──」
しばし思案し、
「……わるいこと?」
「悪いことしてると思ってたの?」
「ううん」
ふるふると首を横に振る。
「いい、わるいこと」
なんだそりゃ。
「君の同居人は、いいことも悪いこともしてません」
「いいことも?」
「いいことも」
「なにしてるの?」
「なにって言われても……」
困る。
「趣味もあるし、実益もあるし、仕事もあるし、遊ぶこともあるし」
「いろいろあるねえ」
「……とりあえず、一緒に動画でも見るか?」
「うん」
「ほら乗れ」
ぽんぽんと膝を叩く。
「しつれいします」
膝の上のうにゅほを抱き締めながら、ディスクトレイに入りっぱなしだった水曜どうでしょうのDVDを再生した。
うにゅほはonちゃんが好きである。

※1 2015年4月25日(土)参照 
 






825 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:32:47 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月19日(火)

「……ゔ―」
俺の膝に乗ったうにゅほが苦しげにうめいている。
「もっとつよくなでて……」
「はいはい」
腹巻きの上からうにゅほのおなかを撫でる。
熱い。
しっとりしている。
「もっとゆっくりなでて……」
「はいはい」
女の子は大変だなあ。
心底そう思う。
うにゅほの場合は、初日がピークで、二日目以降は楽になっていくらしい。
「今日さえ乗り越えればな」
「うん……」
その先にあるものを凝視するかのように天井を見上げ、うにゅほが口を開いた。
「ゆき」
「うん?」
「ゆき、つもってる?」
「すこしな。でも、父さんひとりで済む程度だよ」
「そか……」
「雪かきだけどさ」
「うん」
「終わるまで駄目だからな」
「えー……」
「××、俺が風邪引いてたら、雪かきさせるか?」
「かぜじゃないもん……」
「でも、つらいだろ」
「──…………」
表情は見えないが、ぶーたれているのが気配でわかる。
しかし、うにゅほだって分別のつく年齢だ。
俺の言うことだってちゃんとわかっているし、物の道理も弁えている。
「……かわりに、おなかなでてくれる?」
「いま撫でてるけど」
「ずっと」
「はいはい」
もとよりそのつもりである。
つらいときのほうが、よく甘えてくれる。
嬉しいけど、複雑だ。 







826 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:33:50 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月20日(水)

「……ゔ―」
ず。
鼻をすする。
また風邪を引いてしまった。
「ほら、ねてねて」
「はい……」
「しょくよく、ある?」
「ない……」
「たべないとだめだよ」
「はい……」
「おかゆつくる?」
「ちいさいおにぎり食べたい……」
「つくってくるね」
「はい……」
風邪を引くたび自分の情けなさが身に沁みる。
そして、甲斐甲斐しく看病してくれるうにゅほを、心底愛おしく思う。
俺は果報者だ。
「ちいちゃいおにぎり、つくってきたよ」
「おお……!」
昔話に出てくる三角おにぎりをミニチュアにしたようなものが、皿の上に並んでいた。
「海苔まで巻いて……」
「かわいくできた」
えへん、とうにゅほが胸を張る。
「ありがとうな」
なでなで。
「たべてたべて」
「いただきます」
親指ほどのおにぎりを、ひとつ、口へと放り込む。
「……美味い」
ちょうどいい塩加減である。
「うへー……」
「××も、ほら、あーん」
「あー」
「美味しい?」
「おいふぃ」
互いに食べさせあううち、ミニおにぎりはすぐに無くなってしまった。
「つくってくる?」
「いや、もう大丈夫。十分だよ」
「げんきでる?」
「元気出た」
「でも、ねないとだめだよ」
「はい……」
目を覚ますころには、だいぶ復調していた。
しかし、油断はできない。
これ以上うにゅほに心配を掛けたくないので、さっさと治してしまおうと思った。 







827 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:35:13 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月21日(木)

外出のための身支度を整えている最中、ふと視線を感じた。
「どした?」
「すごいねえ……」
「なにが──って、ああ、靴下か」
「うん」
何度か書いているかと思うが、うにゅほは立ったまま靴下が履けないのだ。
「運動不足だよなあ……」
「ゆきかき」
「降ったらな」
「うん」
「とりあえず、スクワットでもするか?」
「あたまにてーのやつ?」
「そう」
「やったら、くつしたはける?」
「たぶんな」
「やる!」
うにゅほが後頭部で両手を組む。
「えっ、」
いま?
そう口にしようとした次の瞬間には、やる気満々にスクワットを始めていた。

記録:六回

「はひー、ひ、ひ……」
「大丈夫か?」
「らいじょぶ……」
ちっとも大丈夫じゃなさそうだけど。
「みへ、みててね……」
自分の靴下を手に、うにゅほが片足を上げる。
「えっ、」
いま?
そう口にしようとした次の瞬間、うにゅほは、マットレスの上に尻もちをついていた。
「……大丈夫か?」
「あれ?」
小首をかしげる。
「すくわっとしたのに……」
そういう意味じゃない。
「ほら、掴まれ」
「うん」
うにゅほの手を取り、引っ張り起こす。
「毎日スクワットして、筋力をつけないと」
「そかー……」
うにゅほが残念そうに呟く。
ちらりとぱんつが見えたけど、それは言わぬが花である。 







828 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:36:26 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月22日(金)

自室で静かに読書を嗜んでいたときのことである。
「──に゙!」
うにゅほが唐突に変な声を上げた。
「どうした?」
「したかんだー……」
「大丈夫か?」
「うん」
大したことはなかろうと、文庫本に視線を落とす。
「──…………」
ふと思った。
「……あれ、なにか食べてたっけ?」
「たべてないよ」
「喋って──は、いないよな」
「うん」
「なんで舌噛んだの」
「わかんない……」
逆に器用である。
「なんにせよ、気をつけてな」
「はい」
どう気をつければいいか、さっぱりわからないが。
「口内炎にならないように、早めにビタミン剤飲んどきな」
「ビタミンびーつー?」
「そうそう」
「わたし、くすりのむのにがて……」
「知ってる」
「うー」
「なら、やめとくか?」
「う?」
「口内炎なんて、ちょっと痛いくらいのもんだし」
「──…………」
「──……」
「……やっぱし、のむ」
「一日2錠な」
「はい……」
扱いやすい性格である。
たぶん、俺に似たのだろうなあ。 







829 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:38:09 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月23日(土)

「──よし、今日の仕事終わり!」
引き終わった図面をファイルに綴じ、背筋をうんと伸ばす。
「おつかれさまー」
「ああ」
「かたもむ」
「ありがとう」
俺の肩をやわやわとマッサージしつつ、うにゅほが尋ねる。
「さいきん、しごとすくないの?」
「どうして?」
「しごとおわるの、はやいから」
「あー」
そりゃま、そう思うよな。
「仕事の量は、あんまり変わってないよ」
むしろ、平均的には増えているくらいだ。
「そなんだ」
「単に、急いで終わらせてるだけ」
「いそいで?」
小首をかしげる。
「だって、早く終わらせたら、そのぶん自由時間が増えるだろ」
「あ、そか」
「自由時間が増えたら、××とだってたくさん遊べるぞ」
「おー!」
うにゅほが目を輝かせる。
「なにしてあそぶ?」
「ちょっと待って、すこし休憩してから……」
座椅子を倒し、横になる。
「……ふー」
作業速度を上げたおかげで、疲労感も幾許か増している。
LED照明を見上げながら、す、と目蓋を閉じた。

「──……は!」
次に目を開けたときには、一時間ほどが経過していた。
「あ、おはよー」
「せっかく作った時間が!」
なんとまあ、もったいないことを。
「◯◯、やすめた?」
「そりゃまあ、スッキリはしたけど……」
「ならよかった」
うにゅほがほにゃりと笑う。
「……ま、いいや。遊ぶか」
「うん!」
そんなわけで、うにゅほと一緒にだらだらしたのだった。 







830 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:39:13 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月24日(日)

午前四時二十一分、祖母が亡くなった。
享年八十八歳だった。
死に目には、会えなかった。
「──…………」
病室。
母親が言う。
「……あと五分でも早く着けたらね」
父親が言う。
「道が凍ってるんだから、仕方ねーべや」
弟が言う。
「まだ眠ってるみたいだ」
俺が言う。
「……でも、もう起きない」
うにゅほは、口を閉ざしたまま、なにも言わない。
背中から抱き締め、尋ねる。
「また、怖いか?」
愛犬が死んだときのことを思い出す。※1
あのとき、うにゅほは、こわい、こわいと泣きじゃくっていた。
死ぬことが怖いのか。
残されることが怖いのか。
「──…………」
沈黙。
「……××?」
うにゅほの顔を覗き込む。
「──…………」
うにゅほは、見ていた。
口を真一文字に結んで、眠るように逝った祖母の顔を見つめていた。
死を、真正面から、睨みつけていた。
俺は、思った。
強くなったのだ、と。
脆くなったのだ、と。
ぎゅ、と腕に力を込める。
壊れないように。
壊れても、崩れないように。
泣いたっていいのだと、告げるように。

※1 2012年11月30日(金)参照 







831 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:40:15 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月25日(月)
2016年1月26日(火)

祖母の葬儀は、終始、和やかに執り行われた。
涙する者は少なかった。
一年間に及ぶ入院生活は、誰しもの心に、覚悟の種を植え付けていたのだろう。
「どうして死んでしまったのか」
ではなく、
「よくここまで頑張った」
と、讃える声の多さこそが、祖母の人徳を詳らかにしていると思う。
「──…………」
告別式を終え、帰宅するなり、喪服も脱がずマットレスに倒れ込んだ。
頭が痛かった。
理由はわかっている。
感情に負荷が掛かり過ぎたのだ。
「◯◯、だいじょぶ?」
「……××こそ、大丈夫か?」
うにゅほは、まだ、泣いていない。
あれほど祖母に懐いていたのに。
祖母が弱音を漏らすたび、頬をしとどに濡らしていたのに。
「おばあちゃん、らくになったって」
「ああ」
「しにたいって、いってたから」
「……ああ」
「よかったのかなって」
「そうだな」
実際、その通りだったのだと思う。
祖母が退院できる見込みはなかった。
先のない退屈には、死しか望みがない。
祖母は賢明な人物だ。
それがわかっていたからこそ、死にたい、死にたいと、漏らしていたのだろう。
「◯◯」
うにゅほが自分の膝を叩く。
「すこし、ねたほういいよ」
「……ああ」
うにゅほの膝に頭を預け、横になる。
すべすべとした喪服の生地が、頬に心地よい。
「──…………」
うにゅほの手が、俺の前髪を掻き上げる。
頭痛。
熱っぽさ。
溢れ出したもの。
戻らないこと。
それらが、すべて、溶けていく。
「◯◯」
「うん」
「おばあちゃん、しんじゃったねえ」
「──…………」
「……しんじゃったねえ」
「──…………」
ぽた。
水滴が、目蓋を濡らす。
ぽた。
頬を濡らす。
「──…………」
俺は、目を開けなかった。
これは、俺の涙だ。
泣くことができなかった俺の代わりに、うにゅほが流してくれた涙だ。
悲しいのに。
つらいのに。
そのはずなのに。
泣けなかったから。

泣けなかったから。 







832 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:41:26 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月27日(水)

ちいさな手のひらが額に添えられる。
「ねつある」
「だろうなあ……」
予想はしていた。
過負荷だ。
数日分の疲れが一気に噴出したのだろう。
「きのうの、あまったおべんとう、たべる?」
「いい……」
「やさいジュース、のむ?」
「飲む」
「わかった」
うにゅほ印の野菜ジュースを飲み干し、横になる。
「マスク、いらない?」
「いらない。風邪じゃないし……」
「そだね」
半日も休めば復調するはずだ。
感覚でわかる。
「ひざまくら、する?」
「いや……」
壁掛け時計を見上げる。
午後一時。
「二時間くらい寝るつもりだから」
二、三十分の仮眠ならともかく、膝枕慣れしているうにゅほでもつらいだろう。
足の痺れはもちろん、トイレにだって立てない。
「じゃ、そいねする?」
「さすがにそれは……」
「あたまなでる?」
「ずっと?」
「うん」
「ずっとはいいかな……」
「て、にぎる?」
あ、わかった。
触れていないと落ち着かないのだ。
「……じゃ、手ー握っててもらおうかな」
「うん」
俺の左手を、うにゅほの両手が包み込む。
すこし冷たい。
だが、すぐに、俺の手と同じ温度になった。
「おやすみ」
「ああ、おやすみ……」
目蓋を閉じると、すぐに眠気が襲ってきた。
起きたとき、手のひらが汗ばんでいたけれど、安眠はできたと思う。
「手、熱くない?」
と尋ねると、
「ちょっとあつい」
と苦笑が返ってきた。
体調は、いつの間にかよくなっていた。







833 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:42:44 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月28日(木)

「××、ゼリーひとくち食べるか?」
「……あーん」
「なんだ、甘えっ子だな」
「うへー……」
祖母が亡くなって数日、うにゅほにすこしずつ笑顔が戻ってきた。
まだ、ぎこちない。
けれど、笑えないよりずっとましだ。
「美味しい?」
「おいしい」
「もうひとくち、食べるか?」
「たべるー」
うにゅほの口元にスプーンを運びながら、思った。
もっと笑わせたい。
悲しみなんて吹き飛ぶくらい。
「──…………」
す。
「?」
うにゅほの脇腹に手を這わせ、
「こちょ」
「うひにゃ!」
「こちょこちょ」
「うしし」
「こちょこちょこちょこちょ!」
「ひ! うひは、ひひ、やめへ、ひ、ひー!」
笑い転げるうにゅほに追撃を加えながら、俺は満足感を覚えていた。
それがどんな形であれ、うにゅほが爆笑する姿を見るのは久し振りだったから。
「ひ、ひー……」
「参ったか」
「まいりました、まいりました……」
力なく横たわっていたうにゅほが、ゆっくりと上体を起こす。
「もー!」
「ごめんごめん」
怒ったように頬を膨らませたうにゅほの瞳から、
「……え?」
つ、と涙がこぼれ落ちた。
「うわ、マジごめん! 泣くとは思ってなくて……」
「ちが──う、ぶ……うう、ずー……」
うにゅほを抱き寄せる。
「……ごめんな、嫌だったか?」
「──……!」
うにゅほが激しく首を振る。
嫌ではなかったらしい。
推測ではあるが、急に思いきり笑わせたために、感情の揺り返しが起きたのだと思う。
「ごめんなー……」
うにゅほの頭を優しく撫でる。
「……ぶー」
涙と鼻水でシャツが濡れていく。
冷たい。
だが、自業自得だ。
「ぐじゅ、く、っで、いいからね……」
くすぐっていいからね、と言いたいらしい。
「わかった。また今度な」
「うん……」
次にくすぐるのは、うにゅほが精神的に安定してからだ。
それまでは我慢しよう、うん。 







834 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:44:58 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月29日(金)

「四色、黒」
「はい」
「──…………」
「──……」
「蛍光ペン、紫」
「はい」
仕事を手伝いたいとうにゅほが言うので、助手を務めてもらうことにした。
「四色、青」
「はい」
「雲形定規」
「はい」
気分は手術中の外科医である。
「てつだい、できてる?」
「できてるよ」
「たすかる?」
「助かってる」
実際、普段よりストレスなく仕事をこなすことができている。
「ごはんしたく、ないとき、てつだっていい?」
「ああ、頼む」
図面を引いていると作図用具があちらこちらへ散らばるもので、それを手渡してくれる助手の存在は、お世辞抜きでありがたい。
「雲形定規」
「はい」
「四色、赤」
「はい」
「お手」
「はい?」
「お手」
「──……?」
小首をかしげながら、うにゅほがお手をする。
「よしよし」
なでなで。
「うへー……」
「おかわり」
「はい」
「雲形定規持ってて」
「はい」
「普通の定規」
「はい」
犬扱いされたことには、さして疑問はないらしい。
「──終わった!」
「おつかれさま」
普段より十五分ほど早く仕事を終えることができた。
たまに手伝ってもらうことにしよう。 
 






835 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:45:56 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月30日(土)

「──…………」
「……?」
うにゅほがチェアの肘掛けに顎を乗せてこちらを覗き込んでいたので、ぽんぽんと膝を叩いてみせた。
「!」
うしょうしょと俺の膝の上に腰を下ろし、うへーと笑う。
最近のうにゅほは、以前にもまして、俺とくっつきたがる。
空虚。
不安。
焦燥。
そういった感情を心の底に押し込めるには、うにゅほはまだ幼いのだろう。
「てーにぎっていい?」
「左手なら」
「なにきいてたの?」
「谷山浩子」
「だれ?」
「歌手」
「きいていい?」
「じゃ、スピーカーに切り替えるな」
「うん」
まっくら森の歌を流しながら、思いついたことを口にする。
「暇だなー」
「しごとは?」
「夕方」
「そか」
「なんかして遊ぶか」
「あそぶ!」
「したいこと、ある?」
「うーん……」
うにゅほが小首をかしげる。
「あ、あれやるか。前に一度やったやつ」
「なにー?」
「なにをするにも、ずっと相手に触れていなければならない」
「つながりごっこ!」
「やる?」
「やるー」
という名目で、今日はずっとくっついていた。
うにゅほの心に空いた穴を一時的にでも埋めることができたなら、僥倖である。 
 






836 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:47:04 ID:S6l7.Ehs0

2016年1月31日(日)

仮眠を取ろうと横になっていたところ、不意に気配を感じた。
アイマスクを上げると、うにゅほと目が合った。
「……どうかした?」
「うと、その、ねてるかなって」
「不安だったか」
「うん……」
祖母は、眠るように逝った。
そのイメージが脳裏に焼きついて離れないのだと思う。
「大丈夫、寝るだけだよ」
「……うん」
「鼻詰まってるから、ぴーぴーうるさいだろ」
「うん」
「手でも握るか?」
「ひざまくら……」
「膝枕するの好きだなあ」
「すき……」
「じゃあ、お願いしようかな」
「うん」
マットレスに腰を下ろしたうにゅほが、伸ばした両足をぽんぽんと叩く。
「いいよ」
「はいはい」
細く、しなやかで、芯のあるふともも。
慣れた寝心地だ。
「あいますく、ずらしていい?」
「ずらしたらアイマスクの意味がないと思うんだけど……」
「めかくしするから」
「……まあ、いいか」
テンピュールのアイマスクを外すと、うにゅほの両手が俺の目元を隠した。
「──…………」
手が熱い。
落ち着かない。
「……××、目隠しいいわ」
「あかるいよ?」
「大丈夫、すこしくらい明るくても眠れると思うから」
「そか」
「代わりに頭でも撫でててくれ」
「わかった」
髪の毛が掻き上げられ、うにゅほの手のひらがぎこちなく頭頂を這いまわる。
懐かしい感触だ。
仮眠はできなかったが、休息は取れた。
十分である。 
 






837 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/02/01(月) 22:49:52 ID:S6l7.Ehs0

以上、四年二ヶ月め 後半でした

引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください 
 




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