2018年07月17日

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



780 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 19:57:36 ID:gOQOyiIA0

2018年7月1日(日)

しとしと、しとしと。
そぼ降る雨が、窓を濡らしている。
「──…………」
「──……」
俺たちの部屋は、南東と南西に窓がある。
それは、真南から雨が降った場合、窓の一切を開放できないことを意味している。
その結果、
「あづ……」
「はちーねえ……」
蒸しに蒸した室内で、ぐでーと過ごす羽目に陥っているのだった。
「なんか、空気が濡れてる気がする……」
「わかる……」
湿度は70%を超え、素肌が無駄に潤っている。
しっとりと言うよりべたべたに近く、かなり不快だ。
「……××、今日って何日か覚えてる?」
「うと、しちがつついたち……」
「そう、七月だ」
「うん」
「七月と言えば、もはや夏。完全に夏。エアコンを解禁しても許されると思わないか?」
「おもう、おもう」
うにゅほが、うんうんと頷く。
べつに、誰かに禁止されていたわけでもないのだけど。
「じょしつ?」
「冷房より除湿のほうが電気代かかるって聞いたことがある」
「じゃあ、れいぼう?」
「とりあえず、冷房にしてみよう」
設定温度を26℃にし、運転ボタンを押す。
エアコンの室内機が稼働を始め、
「あ、すずしー……」
刺すような冷風が、湿った皮膚から熱を奪い去っていく。
「直接だと、寒いくらいだな」
「ちょっとだけ」
風の直接当たらない書斎側へ移動し、二時間ほど経ったころのことだ。
「うーん……」
「どしたの?」
「涼しいは涼しいけど、なんかべたつくな……」
「そだねえ」
「やっぱ、除湿にしよう」
「うん」
室温のみが高いときは、冷房。
湿度が高い場合は、除湿。
使い分けたほうがよさそうだ。








781 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 19:58:18 ID:gOQOyiIA0

2018年7月2日(月)

「おー……」
「あ、おつかれさま」
仕事を終え、自室に戻ると、快適な空気とうにゅほとが俺を出迎えた。
「除湿、すごいな。空気が気持ちいい」
「うん、すごい」
昨日に引き続き、本日も雨である。
雨滴が煙り、空気に溶けて、触れたものすべてを湿らせている。
「仕事部屋はエアコンないから、大変だったよ」
「うで、べたべた?」
「べたべた」
自分の腕に触れると、かすかにべたつく感覚があった。
「××は、さらさら?」
「さらさら」
「どれ」
うにゅほの腕に触れる。
ぺたり。
「……××の腕はさらさらだけど、俺の手がべたべたしてる」
「あー」
「なんかごめん」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「いや、なんでもない」
うにゅほが気にしないのなら、俺が気にしても仕方があるまい。
「図面の紙が湿気を吸ってたわむし、手に貼り付くし、やりにくいったらなかった」
「こまったねえ……」
「しばらく自室で仕事しようかなあ」
すこし狭いが、やってやれないことはない。
「つゆなのかな」
「梅雨か」
北海道に梅雨はない。
だが、時折、梅雨に似た気候になることはある。
「本州の梅雨って、こんな感じなのかも」
「たいへんだ」
この梅雨もどきは、いつまで続くのだろう。
カラッとした夏が恋しい。







782 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 19:58:46 ID:gOQOyiIA0

2018年7月3日(火)

「あ゙ー……」
パソコンチェアから半分ずり落ちながら、うめき声を上げる。
だるい。
だるい。
思わず繰り返してしまうほど、だるかった。
「◯◯、だいじょぶ……?」
心配そうな表情を浮かべ、うにゅほが俺の顔を覗き込む。
「だいじょばない、かも……」
すんすん。
うにゅほが俺の胸元に顔を埋め、鼻を鳴らす。
「んー」
「どう?」
「かぜのにおい、しない」
「やっぱりか……」
自分のことだから、ある程度はわかる。
「熱っぽくないし、寒気もしないし、咳も鼻水も出ないから、そんな気はしてた」
「だるいだけ?」
「だるいだけ……」
「なんだろねえ」
「たぶん、低気圧が続いてるせいだと思う」
「あー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「あめ、ずっとだもんね」
「加えて、空気が湿っぽくて不快なせいもあるだろうなあ……」
「エアコン、じょしつする?」
「しよう」
エアコンをつけ、チェアに戻る。
「ねたほういいとおもう……」
「俺もそう思う」
「ねないの?」
「湿度が下がらないと、いま寝ても、たぶん寝苦しくて起きる……」
「そうかも……」
「エアロバイク、漕げそうにないなあ。せっかく続いてたのに、悔しいけど」
「なおったら、こご」
「そうする」
天気予報では、まだしばらく雨が続くようだ。
早いとこ晴れてほしいものだが。
 






783 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 19:59:14 ID:gOQOyiIA0

2018年7月4日(水)

相変わらずの低気圧に徹頭徹尾やられていると、
「◯◯、なんかとどいたー」
小包を手にしたうにゅほが、廊下から顔を覗かせた。
「……なんだろ」
「さあー」
包みを受け取り、差出人を確認する。
ヨドバシドットコム。
「あー、あれか」
「なに?」
「テンキー」
「てんき?」
「天気じゃないよ」
「うん」
「テンキー」
「てんきー」
「キーボードの右側に、数字を打ち込む部分があるだろ」
「うん」
「あれのことを、テンキーって言うんだ」
「へえー」
「あれだけを買った」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「なんで?」
「いま使ってるキーボード、テンキーないから……」
「てんきーあるきーぼーど、つかわないの?」
「うーん」
説明が難しい。
「──車に、マニュアルとオートマがあるのは知ってるよな」
「まんなかのぼう、がちゃがちゃするのが、まにゅある」
「ガチャガチャ……」
まあ、間違ってはいない。
「マニュアルも、オートマも、車を走らせるという結果に違いはない。でも、使い勝手は変わるよな」
「たぶん……」
「マニュアルに慣れたらオートマは運転しづらいし、逆も然り」
「いまのきーぼーど、まにゅあるなの?」
「喩えだけど、そんな感じ」
「そなんだ」
実際、HHKBの配列に慣れると、普通の108キーボードは使いにくくて仕方がない。
「つまり、マニュアル操作のまま使い勝手をよくするために、テンキーだけを買い足したわけだ」
「なるほど……」
「わかってくれたか」
「はい」
「では、さっそく使ってみましょう」
さっそく使ってみた。
キーボードとテンキーが分離しているというのは、初めての経験だ。
だが、操作感は悪くない。
HHKBとテンキー、慣れれば最強の布陣かもしれない。







784 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 19:59:46 ID:gOQOyiIA0

2018年7月5日(木)

「雨だけど、今日は涼しいなあ……」
「からだ、だいじょぶ?」
「良くはないけど、悪くもないかな。すこし眠いくらいで」
「ねる?」
「寝たいけど、あんまり昼寝ばかりするのもな」
「うーん……」
小首をかしげながら、うにゅほが思案する。
「ねむいとき、ねないと、ずっとねむいきーする」
「しばらくしたら、眠気も覚めると思う」
「さめるかな」
「たぶん」
「ほんとかな」
「たぶん……」
「ねむいとき、ねないと、◯◯、うとうとするから……」
「──…………」
否定できない。
「うんてんするとき、あぶない」
「運転するときは、事前にちゃんと寝ます」
「きょうは?」
「出掛ける予定はないかな」
「ねないで、なにするの?」
「仕事が来たら、仕事するけど……」
「しごといがいは?」
「まあ、ネットかゲームでもして時間潰そうかと」
「──…………」
「──……」
「むりしてすること?」
「うッ」
たしかに。
「ねたほういいとおもう」
「うん……」
完全に論破されてしまった。
「……昼寝ばかりしてると、ダメ人間になった気がして」
「そかな」
「世間一般的には……」
「わたし、◯◯は、だめじゃないとおもう」
「……ありがとう」
「ねましょう」
「はい」
うにゅほに手を引かれ、ベッドに潜り込む。
「おやすみなさい」
「おやすみ……」
二時間ほど睡眠を取ると、眠気もようやく治まった。
不便な体である。







785 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:00:30 ID:gOQOyiIA0

2018年7月6日(金)

「晴れたー!」
網戸ごと窓を開け、軽く身を乗り出す。
「風が気持ちいいし、空気も美味いし、言うことなしだな……」
「うへー」
うにゅほが、にんまりと笑みを浮かべる。
「◯◯、げんき」
「ごめんな、心配かけて」
うにゅほの頭を優しく撫でる。
「ずっとはれなら、いいのにね」
「それはそれで、四国が水不足になりそうだなあ……」
「ほっかいどう、みずぶそくならないの?」
「北海道には雪解け水があるから」
「そなんだ」
網戸を閉めて、伸びをする。
「雨も、低気圧も、一日くらいならいいんだよ。ただ、続くとダメだな」
「あめ、ながかったもんねえ……」
「おまけに蒸し暑いもんだから、俺でなくても体調崩すって」
「うん」
「──…………」
「──……」
「××、丈夫だよなあ……」
病気知らずとまでは行かなくとも、病院の世話になったことは、この数年で数えるほどしかない。
「おとうさんも、おかあさんも、じょうぶ」
「丈夫じゃないのは、俺と弟だけだな」
「そだねえ」
「血が繋がってるの、実は、××のほうだったりして」
「だったりして」
ふたり、小さく笑い合う。
「──さて、やるか」
「やる?」
「ここ数日、できなかったことがあるだろ」
「あ、えあろばいく!」
「その通り」
「◯◯おわったら、わたしもこいでいい?」
「もちろん」
明日から、また雨模様が続くらしい。
せめて涼しければいいのだが。







786 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:01:12 ID:gOQOyiIA0

2018年7月7日(土)

ふと、壁に掛けたカレンダーを見やる。
「今日、7月7日か」
「うん」
「本州では七夕だな」
「たなぼた?」
「七夕」
「たなから、ばたもち」
「わかってて言ってるだろ」
「うへー」
「今日が七夕なら、織姫と彦星は会えないな」
「そだねえ」
「岡山とか、短冊どころじゃなさそうだし」
「うん……」
さきほど見たニュース番組を思い出す。
記録的豪雨により、床上浸水ならぬ"屋根上浸水"となった無数の家屋。
脱いだ服を旗のように振り、助けを求める人々は、今日が七夕であることなど思い出す余裕もないだろう。
「水が引いても、さすがに住めないだろうなあ……」
「こわいね……」
ぎゅ。
うにゅほが、俺の服の裾を掴む。
「……すーごいあめふったら、うちも、あんななる?」
「ならないとは思うけど……」
「ほんと?」
「川が近いけど、海も近いから。海は増水しないし」
「そなんだ」
「そもそも、短期間に大量の雨が降る機会がない。梅雨がないし、台風も届かないからな」
「うん」
「万が一があっても、床下浸水止まりだと思う」
「そか……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
「安心した?」
「した」
「でも、防災グッズは揃えておいたほうがいいかもな。乾パンとか、懐中電灯とか」
「そだね……」
備えあれば憂いなし。
使う機会が訪れないことを祈る。







787 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:02:01 ID:gOQOyiIA0

2018年7月8日(日)

「××ー」
ちょちょいとうにゅほを手招く。
「?」
「さて問題です」
「!」
「今日は何の日でしょー……か!」
「にっき、かくことないの?」
「──…………」
見透かされていた。
「あると言えばあるし、ないと言えばない」
「……?」
「なければ作ればいいじゃない」
「なんのひしりーず」
「そんな感じ」
「うーと、きょう、しちがつようか……」
小首をかしげながら、うにゅほが思案する。
「なな、やー。なな、はち。しち、は、や、しちや──しちや! しちやのひ!」
「質屋の日か」
「あってる?」
「まだ調べてない」
「しらべてみましょう」
「そうしましょう」
Googleを開き、「7月8日」で検索する。
「──お、合ってる。7月8日は質屋の日で間違いない」
「やた」
「すごいな、××」
「うへー……」
うにゅほが、てれりと笑う。
「あと、那覇の日でもあるらしい」
「なー、はー、で、なはのひ?」
「そうそう」
「それはおもいつかなかった……」
「あと、中国茶の日」
「ちゅうごくちゃのひ?」
「これは苦しいぞ」
「どんなの?」
「麻雀知ってればわかるけど、七は中国語で"チー"って読むんだよ」
「そなんだ」
「八は、音読みで"ヤ"だろ」
「ちーや?」
「縮めて、チャ。だから、中国茶の日」
「──…………」
「──……」
「むりがあるとおもう……」
「俺もそう思う」
無理のある語呂合わせなど、この世に溢れているものだ。
それでも語呂に惹かれてしまうのは、人の性か、あるいは日本人の性なのか。
後者のような気がしないでもない。







788 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:02:59 ID:gOQOyiIA0

2018年7月9日(月)

「ぐ……」
下腹部をさする。
すこしだけ腹が痛かった。
「……◯◯、だいじょぶ?」
「大丈夫……」
「といれ、いってきたら?」
「いや、さっき行ってきたけど、出なかったんだ」
「べんぴ?」
「便秘ではないと思うんだけど……」
「げり?」
「下痢でもない」
「もうちょう……」
「盲腸って、たぶん、もっと痛むものだと思う」
「うーん……」
しばし思案したのち、うにゅほが口を開く。
「……べんぴ?」
一周した。
「だから、便秘じゃないって」
たぶん。
「なんだろ……」
「最近、たまにあるんだよな。ぼんやりと腹が痛むの」
「ストレス?」
「ストレス、かなあ……」
ストレスの多い生活は送っていないと思うのだけど。
「へそのとこ、つぼあるんだよね」
「あるとは聞くけど」
「おなかなでるから、ねて」
「んー……」
まあ、いいか。
「それじゃあ、お願いします」
「はい」
言われるがままベッドに横になると、うにゅほの小さな手がへその周囲を這い回った。
「うひ」
くすぐったい。
だが、それを我慢していると、徐々に心地よさが勝ってきた。
「どう?」
「……落ち着いてきた」
「そか」
しばらくのちにトイレへ向かうと、便通があった。
うにゅほに撫でてもらったおかげかもしれない。







789 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:03:44 ID:gOQOyiIA0

2018年7月10日(火)

「ただいまー……」
仕事部屋で図面を引いていると、青い顔をした弟が帰ってきた。
「兄ちゃん。××。やっちゃった……」
「どしたの?」
「あー……」
なんとなく察する。
「……車、擦っちゃった」
やはりか。
「どれ、見せてみ」
「うん……」
仕事をいったん切り上げ、外へ向かう。
「擦ったの、どこ?」
「左……」
玄関先に駐車されたライフの左側に回り込む。
すると、
「あー……」
左後輪のフェンダーがべろんと剥がれ、ホイールにも擦り傷がついていた。
「ライフくん、いたそう……」
「ゔッ」
うにゅほの何気ない一言が、弟の心臓を貫いた。
「ホイールまで行っちゃったか」
「ガリッて音がしたとき、止まればよかったんだけど……」
「アクセル踏んじゃった?」
「踏んじゃった……」
まあ、気持ちはわかる。
咄嗟のアクシデントに対し、誰しもがいつでも正しく対処できるとは限らないのだ。
「……修理、いくらくらいかかるかな」
「わからん」
「わたしもわかんない……」
「いちばん詳しいの、父さんだからな。帰ってきたら聞いてみよう」
「……気が重い」
いちばん車を大切にしているのも、父親である。
「しゃーない」
弟の背中をぽんぽんと叩き、家に入る。
帰宅した父親はあまり怒らなかったが、修理費は当然弟持ちということになった。
人のふり見て我がふり直せ。
俺も気をつけよう。
うにゅほを乗せることが多いから、特にだ。







790 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:04:35 ID:gOQOyiIA0

2018年7月11日(水)

「んー……」
両肩を、大きく回す。
数回転ほどさせたのち、右手で左肩を揉む。
硬い。
「凝ってるなあ……」
「かたこり?」
「そうみたい」
「こりこり?」
「こりこり」
うにゅほが俺の肩に手を伸ばす。
もみ、もみ。
「こりこりだ」
もみ、もみ。
「きもちい?」
「もっと強くてもいい」
「!」
ふんすと鼻息荒く、うにゅほが両手に力を込める。
「これ、くら、いー……?」
「おー」
うにゅほの小さな指先が、ぐいぐいと肩に押し付けられる。
「××、力強くなったな」
「うへー」
「あ、弱くなった」
「!」
ぐい、ぐい。
ぐい、ぐい。
「──…………」
もみ、もみ。
もみ、もみ。
「弱くなった」
「!」
ぐい、ぐい。
「──……ふー」
もみ、もみ。
「ふう、ふう……」
ふに、ふに。
「……も、だめ」
握力は強くなっても、持久力はてんでダメらしい。
「ありがとな。すこし楽になったかも」
「そか」
お世辞ではない。
本当に、楽になったのだ。
「手、痛くなった?」
「ちょっと」
「では、マッサージしてあげましょう」
「おねがいします」
うにゅほの手を取り、親指と人差し指のあいだにあるツボを優しく刺激する。
「ほー……」
「気持ちいい?」
「きもちい」
「疲れが取れたら、また、肩もみをお願いします」
「はーい」
こうして、延々とマッサージをし合うふたりなのだった。







791 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:05:26 ID:gOQOyiIA0

2018年7月12日(木)

「ふー……」
首に掛けたタオルで額を拭いながら、エアロバイクを降りる。
本日の札幌は夏日である。
当然ながら、汗だくだ。
「おつかれさまー」
「次、××乗る?」
「うと、よるのろうかなって」
「暑いもんな……」
「うん」
暑いことは暑いが、運動さえしなければ快適に過ごせる範疇の気温でもある。
「ペプシのむ?」
「……あー」
思案し、答える。
「久し振りに、プロテイン飲もうかな」
「ぷろていん」
「最近飲んでなかったし」
「しょうみきげん、だいじょぶ?」
「──…………」
プロテインの袋を手に取り、裏返す。
「……ギリ!」
「よかった」
「ギリギリアウト」
「よくなかった……」
「前みたいに一年過ぎてるわけじゃないし、大丈夫だろ」※1
「しょうみきげん、いつ?」
「一ヶ月前」
「ぎりだ」
「な?」
「それなら、だいじょぶかなあ……」
「大丈夫、大丈夫。もったいないし、さっさと飲んでしまおう」
「わたしものんでいい?」
「前みたいに味整えてないから、粉っぽくて不味いぞ」
「うん」
「いいならいいけど」
「はやくなくさないと……」
そんなに気負わなくてもいいのに。
久々に飲んだプロテインは、適当に溶かしたせいもあり、上等とは言い難い味だった。
きなこやココアを混ぜれば美味しくはなるのだが、手間が掛かるし、そのぶんカロリーも膨れ上がる。
薬と割り切って飲んでしまおう。

※1 2016年7月13日(水)参照







792 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:05:57 ID:gOQOyiIA0

2018年7月13日(金)

「──…………」
ふと気がつけば、L字デスクの上が、また雑然とし始めていた。
「……片付けるかー」
「かたづけるの?」
「そうしようかと」
「てつだうね」
そう言って、うにゅほが立ち上がる。
俺が言い出すのを待っていたのかもしれない。
「これ、なんだろ」
うにゅほが、デスクの端にまとめてあった数通の封筒を手に取る。
「よどばし」
「クレジットカードの明細書だな」
「いる?」
「うーん……」
要不要で言えば不要なのだろうが、捨てるのも憚られる。
「小箪笥の上の引き出し、入れといて」
「はーい」
うにゅほに指示し、デスクに向き直る。
デスクの上でいちばん幅を利かせているのは、なんと言っても読み終えた本の山である。
「……二十冊くらいかな」
「よんだら、すぐ、かたづけないと」
「はい……」
わかってはいるのだが、つい積んでしまう。
手分けして本を片付けると、その麓から、幾つもの「いますぐは必要ではないもの」が現れる。
唇が荒れたときに塗る、リップバーム。
プラスチック製のスプーン。
風邪を引いたときに出されたよく知らない薬。
オロナイン軟膏。
全体的に、薬が多い印象だ。
「──…………」
「──……」
「つかったら、すぐ、かたづけないと」
「はい……」
読んだら、すぐ、片付ける。
使ったら、すぐ、片付ける。
結局のところ、それに尽きるのだ。
前向きに善処しようと思った。
 







793 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:06:34 ID:gOQOyiIA0

2018年7月14日(土)

「──……あつ」
エアコンの効いた自室を出た瞬間、蒸れた空気が全身にまとわりついた。
「あっついねー……」
「暑いのは嫌いじゃないけど、蒸し暑いのはちょっとな」
「わかる」
「ほんと、エアコン様々ですね」
「ですねえ」
「サッと行って、パッと帰ってきちゃおう」
「うん」
最寄りのコンビニへ赴き、月曜祝日のため早売りのジャンプと、アイスを幾つか購入する。
ふたり揃ってクーリッシュを咥えながら帰宅すると、弟がリビングでテレビを見ていた。
「なに見てんの?」
「録画してたやつ。万引きGメン」
「……お前、そういうの好きだよなあ」
「けいさつにじゅうよじとか、いつもみてるもんね」
「わりと好き」
「人気あるから定期的に放送してるんだろうけど、何がいいのかよくわからん」
「そう?」
弟が、不思議そうな表情を浮かべる。
「馬鹿な奴らが馬鹿なことやって自業自得で報い受けてるんだから、面白いじゃん」
「ああ、そういう……」
「なんだよ」
「いえ、文句ありません。ハイ」
「わたし、ちょっとにがてだな……」
「××はそうかもね」
うにゅほは、威圧的な態度を取る人間が苦手である。
得意な人はあまりいないと思うけど。
「でも、兄ちゃんは小説書くんだから、人の汚い部分とか見といたほうがいいんじゃないの」
「サイコパスとかシリアルキラーの出る映画はよく見るけどなあ」
「それはまたジャンルが違わない?」
「違うかもしれない」
「(弟)、アイスたべる?」
「食べる」
しばしのあいだ弟と一緒にその番組を見てみたが、やはり面白さがよくわからなかった。
感性の共有は難しい。
 







794 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:07:01 ID:gOQOyiIA0

2018年7月15日(日)

「──……◯◯、◯◯」
肩をぽんぽんと叩かれ、意識を取り戻す。
「あれ……」
すこしばかり痛む首を気にしながら、チェアの上で居住まいを正す。
「……俺、寝てた?」
「ねてた」
マウスを握りながら意識を手放していたらしい。
「いま何時?」
口でうにゅほに尋ねながら、壁掛け時計に視線を投げる。
「さんじはん」
三時半である。
いつから寝落ちしていたのか、まったく思い出せない。
「休日は無限に眠い……」
「ベッドでねたほういいよ」
「そうなんだけどさ」
「◯◯、くび、すごいまがってた」
「あー」
だから痛むのか。
「ほら」
うにゅほが俺の手を取り、引く。
「ベッドでねよ」
「あー、うん……」
導かれるままベッドで横になり、眼鏡を外す。
「はい、あいますく」
「……このアイマスクも、ゴムがびろんびろんになってきたなあ」
「てんぴゅーる」
「そう、テンピュール」
愛用しているテンピュールのアイマスクは、同じ商品の二代目である。
おおよそ一年半ほどでゴムが伸び切ってしまうのは、素材としての宿命なのだろう。
「ゴム部分を張り替えれば、まだ使えるんだけどな」
「はりかえる?」
「めんどい」
「めんどいかー」
「三千円もしないし、それなら新しく買っちゃうよ」
「そだねえ……」
「じゃ、寝る。三十分くらいで起こして」
「はーい」
三十分ほど仮眠すると、驚くほど眠気が取れた。
うたた寝では、睡眠としてカウントされないのかもしれない。
 






795 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2018/07/16(月) 20:08:10 ID:gOQOyiIA0

以上、六年八ヶ月め 前半でした

引き続き、後半をお楽しみください
 



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コメント一覧

  • 1  Name  名無しさん  2018年07月17日 18:30  ID:lLXvBnlp0
    今の季節お空が家の中にいたら湿気と相まってサウナになってそう


  • 2  Name  名無しさん  2018年07月17日 19:20  ID:IijAm35b0
    del


  • 3  Name  名無しさん  2018年07月17日 20:34  ID:Dh6RlnZU0
    作者が急死したりしたら最後の話だけは読みたい


  • 4  Name  名無しさん  2018年07月17日 20:51  ID:a.1Pgtlu0
    何が面白くて毎回律儀にまとめてんだ、コレ



  • 5  Name  名無しさん  2018年07月17日 21:45  ID:JKqoRCAE0
    これいる?


  • 6  Name  名無しさん  2018年07月17日 23:10  ID:WfPohGPX0
    焼き鳥にならないように注意だぜ


  • 7  Name  名無しさん  2018年07月18日 00:45  ID:ON6LF6.P0
    でたわね。


  • 8  Name  名無しさん  2018年07月18日 04:48  ID:ikReDT..0
    中身は読んでないけどコメントを見に来ている


  • 9  Name  名無しさん  2018年07月18日 06:20  ID:dVZnlxSs0
    そういえば似たような幽香との生活SSを書いてた人ってどうなったの?


  • 10  Name  名無しさん  2018年07月18日 08:16  ID:pAt.56jJ0
    あらゐけいいち感がある


  • 11  Name  名無しさん  2018年07月19日 16:23  ID:uhnzFzT90
    皆さーん
    夏コミ新作は菫子主役の文花帖形式ですよー
    ネムノあうんクラピラルバ霊夢確認済


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