2022年07月02日

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



348 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:33:28 ID:1JiktlA20

2022年6月16日(木)

目蓋を薄く開き、ゆっくりと身を起こす。
面白い夢を見ていた気がする。
「──気がするんだ」
「どんなゆめ?」
「気がするだけだから、さっぱり思い出せない」
「そなんだ……」
「ただ、断片的にイメージだけは残ってる」
「ききたい」
「桜の花が巻き付いた棒」
「ぼう」
「厳しい教官」
「きょうかん……」
「家の前の公園」
「こうえん」
「以上だ」
「どんなゆめだったんだろう……」
「さあ……」
夢の記憶は、二度と取り戻すことができない。
そう考えると貴重なもののような気もしてくるから不思議だ。
「逆に、この断片から物語を復元してみよう」
「ぎゃくに」
「まず、舞台は家の前の公園でいいだろ」
「そだね」
「登場人物は、俺と、厳しい教官だ」
「ほかには?」
「××も入る?」
「はいる!」
「じゃあ、俺と、××と、厳しい教官の三人にしよう」
「うん」
「問題は、桜の花が巻き付いた棒だよな……」
「きれいなぼう」
「教官がいるってことは、この棒で棒術の訓練でもしてたのかな」
「まほうかも」
「魔法」
「まほうのぼう」
「魔法少女的な」
「うん」
「まあ、ファンシーな棒ではあるよな……」
「わたしと、◯◯が、まほうをおしえてもらってるかんじ」
「どんな魔法がいい?」
「うーと」
しばし思案し、うにゅほが答える。
「さくらのぼうだし、はなをさかす」
「花咲か爺さんみたいな」
「そう」
「まとめると、家の前の公園で、俺と××が、魔法の教官に、花を咲かせる魔法の訓練を受けた夢ってことになりました」
「いいね」
「そういうことで記憶を改竄しておこう」
夢の記憶は完全に失われ、嘘の記憶が日記に残る。
歴史って、こういうことの積み重ねなのかもしれない。








349 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:33:53 ID:1JiktlA20

2022年6月17日(金)

「げし」
「……夏至?」
「げし」
「え、今日夏至?」
「まだだよ」
「まだだよな……」
「にじゅう、いちにち」
「近いな!」
うにゅほが、くすりと頬を弛ませる。
「げし、しちがつなきーするよね」
「そうなんだよ……」
六月下旬であると頭ではわかっているのだが、いざ近付くと驚いてしまう。
「冬至が十二月下旬。ちょうど半年ずれてるんだから、六月なのは自然なことなんだけどな」
「とうじは、じゅうにがつ。わかる」
「わかる」
「しゅんぶんのひは、さんがつ。わかる」
「わかる」
「しゅうぶんのひは、くがつ。わかる」
「わかる」
「げしは、ろくがつ。ならべるとわかる」
「わかる」
「なんで、げしだけ、ならべないとわかんないんだろ……」
「三月は春だろ」
「はる」
「九月は秋だろ」
「あき」
「十二月は冬だろ」
「ふゆ」
「六月は?」
「……しょか?」
「季節の長さが等分じゃないから──だと思うんだよな。夏って七月と八月のイメージじゃん」
「あー」
「六月にそこまで夏のイメージがないのに、"夏至"だなんて言われるから、ちょっと違和感あるんだよな……」
「そんなきーする……」
「北海道には関係ないけど、六月って梅雨のイメージあると思う」
「ある」
「三月から五月が春、六月が梅雨、七月と八月が夏、九月から十一月が秋、十二月から二月までが冬とすると、しっくり来るよな」
「なつ、つゆにとられてるんだね」
「で、その梅雨に夏至があるから、不意を突かれると」
「なぞはすべてとけた……」
「金田一?」
「きんだいち」
こうしてまとめると、なんて取り留めのない話なのだろう。
まあ、日常会話なんてそんなものだ。







350 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:34:23 ID:1JiktlA20

2022年6月18日(土)

ネットの海をぶらついていて、ふと気が付いた。
「もしかして、明日父の日だったりする?」
「する」
「するんだ……」
完全に忘却の彼方だった。
「でも、おとうさん、なにもいらないって」
「そうなんだ」
「きにしなくていいって……」
「うーん……」
とは言え、何も贈らないのもな。
「いつものリカーショップ行って、何か見繕ってみる?」
「いいのかな」
「父さんは、俺たちの財布のことを心配して言ってくれたんだと思うし、大丈夫っていうのを見せる意味でもさ」
「そか……」
軽く思案し、うにゅほが頷く。
「ははのひおくったのに、ちちのひおくらないの、なんかやだもんね」
「だな」
「いこ」
「ああ」
愛車を走らせ、近所のリカーショップへと赴く。
「あ、くるみうってる」
「食べたい?」
「たべたいけど、おおい……」
「業務用サイズだな、これ」
そんな会話を交わしながら、店内を物色する。
「ビールは、誕生日のときにヱビス贈ったもんな」
「しろいやつ」
「今回はウイスキーとかにする?」
「そだね、べつのがいい」
「とは言え──」
ずらりと並ぶ酒瓶のうち、どれが美味しいかなんて、値段以外で判断がつかない。
「どれにする?」
「こまる……」
適当でもいいのだが、それにしたって指針が欲しい。
そんなことを考えながら日本酒コーナーを覗いたとき、
「あ、獺祭だ」
「だっさい?」
「かわうそまつりと書いて、だっさい」
「かわうそってよむんだ」
「美味しくて有名な日本酒だよ」
「あ、これにする?」
「するか」
「しよう!」
「だな」
やはり、名前を知っているか否かは大きい。
早めの父の日だと言って渡すと、父親は大いに喜んでくれた。
あげてよかった。
 






351 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:34:49 ID:1JiktlA20

2022年6月19日(日)

Amazonから荷物が届いた。
「これなに?」
「新しいマウス」
「まうす」
ダンボール箱を開封していく。
「まうす、こわれた?」
「──…………」
「こわれてないのに、かったんだ」
もはや、数秒の沈黙だけでバレる。
「すみません、壊れてないのに買いました……」
「おこってないよー」
「新しい機種が出たので欲しくなってしまって……」
「どんなまうす?」
大きめのダンボール箱の底から、黒い箱を取り出す。
「ロジクールのMX MASTER 3S。いわゆるフラッグシップモデルだな」
「すごいやつだ」
「そうそう」
箱を開き、中からマウスを取り出す。
「……あれ?」
「どした」
「しろいね」
「ペイルグレーだからな」
「ぐれーなんだ」
「ああ」
「このまうす、みたことある……」
「──…………」
うにゅほが、デスクの上に視線を向ける。
「いろ、ちがうけど、まえのまうすそっくり……」
「……はい、そうです。前のマウスのアップグレード版です」
「おこってないよー……」
「後ろめたくて」
「ちがうの、いろだけじゃないんでしょ」
「ああ」
新しいマウスを手に持ち、左クリックを数回行う。
「静かだろ」
「いま、おした?」
「押した」
「しずか……」
「静音モデルなんだよな」
「へえー」
「あと、4000dpiから8000dpiに精度が上がった」
「ふんふん」
「それだけ……」
「そなんだ」
「……でも、いいマウスなんだぞ?」
「わかるよー」
「前のやつ、ちょっと古くなってきてたし……」
「なんでいいわけしてるの?」
「……なんとなく」
それは、13,600円もしたからである。
言ってもべつに怒らないのはわかっているのだが、なんとなく言いにくいのだった。







352 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:35:18 ID:1JiktlA20

2022年6月20日(月)

「──…………」
嫌な夢を見た。
くらりと振れる頭を支え、ベッドから下りる。
「××……」
「あ、おはよー」
「おはよう」
「……なんか、かおいろわるい?」
「ああ……」
「ぐあいわるいの?」
「いや、夢見が悪かっただけ」
「どんなゆめ?」
「──…………」
思い返す。
「……××はさ、カニビルって知ってる?」
「かにびる……」
「かに道楽のビルじゃないぞ」
「ちがうのはわかる」
「カニの甲羅に卵を産むヒルのことなんだ」
「そのひる」
「ズワイガニの甲羅に黒い粒が何個も付着していることがある。それが、カニビルの卵」
「へえー……」
「気持ち悪いぞ」
「うってるの……?」
「カニビルの卵がついてるカニは、身が締まってて美味しいらしい」
「……たべたくない、かも」
「わかる」
「だよね」
「まあ、カニに寄生してるわけでもなく、たまたま産卵に利用されてるだけだけどな。だから、ヒルが口に入ることはないよ」
「よかったー……」
うにゅほが、ほっと胸を撫で下ろす。
「みたの、かにびるのゆめ?」
「惜しい」
「おしいの」
「カニビルの卵がびっしりついた鶏卵で目玉焼きを作る夢」
「──…………」
「嫌だろ」
「いや……」
「目玉焼きは、普通の目玉焼きだったけど」
「でも、いや」
「俺も嫌だった……」
「うん……」
悪夢と言うより、単なる嫌な夢だ。
もっと心地のよい夢が見たい。
せめて、うにゅほの出演率を、もっと上げてはくれまいか。







353 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:35:43 ID:1JiktlA20

2022年6月21日(火)

夏至である。
「げしだー」
「夏至だな」
「げしげし」
と言いつつ、特に蹴ったりはしない。
「ゲジゲジ」
「げじ、やだねえ……」
「しげしげ」
「しげしげ」
じー、とうにゅほを見る。
うにゅほもまた、じー、と俺を見る。
「◯◯」
「うん?」
「ひげ、そろそろそんないと」
「あー……」
たしかに、最近サボり気味だったかもしれない。
「ひげひげ」
「げひげひ」
「げひげひってなに?」
「下品な笑い声」
「どんなの?」
「げひげひげひ!」
「あはは、そんなのないよー」
「でも、ワンピースのキャラだとしたら?」
「……ありそう!」
「だよな」
「うん」
だからなんだ、と言うわけでもない。
「なんじまで、あかるいのかな」
「えーと」
検索する。
「日の入りが、七時ちょうどだってさ」
「あかるいねえ」
「夏至だからな」
「げしげし」
「ゲジゲジ」
「しげしげ」
「しげしげ」
「ひげひげ」
「げひげひげひ!」
「うへー」
くだらない会話が楽しい、2022年の夏至なのだった。







354 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:36:12 ID:1JiktlA20

2022年6月22日(水)

俺たちの部屋には、常に、麦茶とペプシゼロが備蓄されている。
「そろそろ切れそうだな……」
「かいいく?」
「行くかー」
財布を握り締め、近くのホームセンターへと赴く。
「ほいっ、と」
うにゅほが押すカートに二箱ずつ、計四箱のダンボール箱を積み込んだ。
「押せるか?」
「だいじょ、ぶー……!」
多少重そうだが、押せないことはない。
カートの前に立ち、方向転換だけをサポートして、レジカウンターへ向かう。
会計を済ませカートごと外へ出ると、

──がががががが!

「わ、わ」
「おっと」
アスファルトのでこぼこにタイヤを取られ、カートが左右に振れた。
それを支え、うにゅほに言う。
「ここからは俺が押すよ」
「うん」
「ほら、鍵。先に行ってドア開けてて」
「わかった!」
コンテカスタムの後部座席を開き、ダンボール箱を運び入れる。
なかなかの重労働だ。
だが、家に着いてからが本番である。
車庫の前に車を停め、後部座席の扉を開く。
まずは、計四箱を玄関まで運ばなければならない。
「よいしょ、と」
ペプシゼロのダンボール箱を抱え上げる。
「うー……、しょ! うー……、しょ!」
腕力が足らず、ダンボール箱を持ち続けられないうにゅほが、数メートル運んでは下ろしを繰り返しながら、なんとか玄関まで移動していく。
そのあいだに三箱を運び終え、玄関先でうにゅほを出迎えた。
「お疲れさん」
「おもい……」
「あとは俺が運ぶから大丈夫だぞ」
「おねがいします……」
さすがに階段は危ないものな。
ダンボール箱を抱え上げ、呟く。
「昔は、二箱とか三箱とか一気に行けたのになあ……」
「すごい」
「荷運びのバイトとかしてた頃の話だけどな。もう十年以上前だよ」
「むきむきだった?」
「わりと」
「おー」
ゴリゴリのガテン系だったからなあ。
今はもう見る影もないが。
四箱すべてを部屋に運び込み、汗ばんだ肌を扇風機で冷やす。
体力も、腕力も、随分となくなったものだ。
年齢もあるのだろうが、肉体労働をする必要がなくなったことが最大の要因だろうな。







355 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:36:51 ID:1JiktlA20

2022年6月23日(木)

「◯◯、◯◯」
「うん?」
「ながそでと、はんそで、どっちいいとおもう?」
「あー」
暑くもなく、寒くもなく、ちょうどいい気温だ。
悩むのもわかる。
「午後になれば気温も上がるし、半袖でいいんじゃないか」
「そか」
「どっか行くの?」
「うん。おかあさんと、かいものいく」
「へえー」
「いるものある?」
「いるもの……」
買い物なら、昨日したばかりだしなあ。
「あ」
ふと、買い忘れを思い出した。
「ナザールお願いできる?」
「なざーる?」
「鼻に、シュッてするやつ」
「はなしゅーだ」
「そうそう」
アレルギー性鼻炎の俺は、点鼻用スプレーを常用している。
うにゅほは、それを、"はなしゅー"と呼ぶ。
「なざーる、なざーる……」
「覚えられる?」
「たぶん」
「──…………」
漠然とした不安。
「ドラッグストア行ってナザールって言えば、出してくれるから」
「うん」
「大丈夫?」
「だいじょぶ」
「本当に?」
「ほんとに」
「……いちおう、スマホにメモっておかない?」
「あ、めもる」
うにゅほが、スマホのメモに"ナザール"と入力する。
「これでだいじょぶ」
「だな」
これなら安心だ。
数時間後、帰宅したうにゅほから、無事に二箱のナザールを受け取った。
礼を言い、頭を撫でると、うへーと照れくさそうに笑っていた。







356 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:37:29 ID:1JiktlA20

2022年6月24日(金)

「──…………」
「◯◯?」
「んが」
はっと背筋が伸びる。
「寝てない……」
「ねてた」
「寝てた……」
溢れかけていたよだれを拭う。
チェアに腰掛けたまま、船を漕いでいたらしい。
「……なんか、やたら眠い」
「なんでだろ」
「天気悪いし、気圧のせいかな……」
「あー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「ていきあつだ」
「かなって」
「ねる?」
「起きたばっかりだし……」
「そだね……」
人はそれを二度寝と言う。
「頑張って起きてみる」
「てつだう」
「ありがとう」
「なにしたらいい?」
「……寝そうになったら起こす、とか?」
「わかった」
じー。
うにゅほが、俺の顔を覗き込む。
「──…………」
「──……」
「××」
「?」
「落ち着かない」
「ねないかも……」
「かもしれないけど、××も疲れるだろ」
「すこし」
「たまにでいいから」
「うと」
うにゅほが、俺の膝に腰掛ける。
「これならいい?」
「……あったかくて、余計眠くなりそう」
「がんばって」
「頑張る……」
しばらくして、
「──…………」
ぽん、ぽん。
マウスを握った手が叩かれる。
「んが」
「ねてた」
「寝てた……」
「がんばって」
「頑張る……」
そんなことを繰り返し、眠気が失せたのは正午を過ぎたころだった。
明日は猛暑になるらしい。
眠気は問題ないだろうが、暑いのは暑いので勘弁してほしい。







357 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:37:51 ID:1JiktlA20

2022年6月25日(土)

友人とすすきので昼食を取った。
帰宅し、早々にベッドに倒れ込む。
「食ったー……」
「ごはん、おいしかった?」
「美味しかったよ。ボリュームすごかったけど……」
「めずらしいね」
「なにが?」
「◯◯が、りょうのこというの」
「あー」
俺、そこそこ食うほうだからなあ。
「ほんと、すごかったんだ。しょうが焼きが分厚くてさ」
うにゅほが小首をかしげる。
「しょうがやき?」
「ああ」
「ぶあついの?」
「分厚い」
「……しょうがやきが?」
なかなかイメージできないよな。
「これ、写真見せたほうが早いな」
「とったの?」
「いや、食べログか何かで──」
店名で検索し、食べログでわかりやすい写真を探す。
「ほら、これだ」
「──…………」
じ。
うにゅほが、ディスプレイを覗き込む。
「これ、かくに……」
「角煮に見えるだろ」
「うん」
「しょうが焼きなんだよ」
「かくに……」
「食べるとしょうが焼き」
「そうぞうできない」
「まず、角煮ほど柔らかくない」
「うん」
「分厚いけど火はちゃんと通ってて、脂身はぷりぷり」
「──…………」
「濃い目の味付けで、ごはんにぴったり」
「おいしそう……」
「……うーん」
とは言え、すすきのにうにゅほを連れて行きたいとは、あまり思えない。
治安が悪いとかではないのだけれど。
「今度また、美味しいお店を探そう。近場でさ」
「うん」
家の近所にだって、まだまだ良い店はあるはずだ。
まずは、そういうところから発掘していきたい。







358 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:38:15 ID:1JiktlA20

2022年6月26日(日)

「うーん……」
悩む。
「どしたの?」
「いや、マウスパッドがさ」
「まうすぱっど……」
うにゅほが、九十センチ×四十センチの巨大マウスパッドに視線を落とす。
「まうすぱっどが、どしたの?」
「汚いだろ、これ」
「うん……」
黒いマウスパッドの各所に、さまざまな汚れが染みついている。
布製故に、拭いて取れるものでもない。
「洗えるならいいけど、洗えもしないからさ」
「ぬらしても、だめ?」
「ダメだった」
「そか……」
「だから、捨てようかと思って」
「まうすぱっどなかったら、まうすつかえない……」
「使えないことはないと思うけど」
「そなの?」
「ああ」
「じゃあ、なんでまうすぱっどつかってるの?」
「──…………」
何故だろう。
何か不都合があったと思うのだが、思い出せない。
「まあ、とにかく丸めておこう」
「うん」
玄関マットほどもあるマウスパッドをまとめ、テープでぐるぐる巻きにする。
「これでよし、と」
「まうすつかえるか、ためそ」
「ああ」
チェアに腰掛け、マウスを握る。
「……お?」
マウスカーソルの反応は上々。
むしろ、マウスパッドがあったときより反応がいいくらいだ。
「いいじゃん、これ。マウスパッドいらなかったな」
「なんでかったんだろねえ……」
「さあー」
しばらくして、理由が判明した。
「……マウスが滑りすぎる」
「すべるの?」
「ああ。デスクがつるつるしてて、マウスカーソルがぶれる。マウスパッド必要だわ、これ」
「やっぱり……」
「新しいマウスパッド、買おうか」
「あまぞん、いっしょにみよ」
「ああ」
巨大マウスパッドを三年以上使ってきて、わかったことがある。
結局、端のほうしか使わないのだ。
無意味にも程があるので、今度はあまり大きくないのを注文した。







359 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:38:49 ID:1JiktlA20

2022年6月27日(月)

朝起きて、まず目薬をさす。
ICLの手術が近付いているため、一日四回、殺菌作用のある目薬を点眼しなければならないのだ。
「しあさって、だねえ……」
「だな」
「こわくない?」
「何度も聞くなあ……」
「だって」
「……正直、すこし怖くなってきた」
「やっぱし……」
「目にメスを入れるのも、目の中にレンズを入れるのも、生まれて初めてだからさ」
「わたし、むり」
「気持ちがわかってしょうがない」
「……やめる?」
「やめない」
「いし、かたいね」
「六十万円だぞ、六十万円!」
「う」
「金額のことがなくても、やっぱり、眼鏡のない生活には憧れるし」
「めがね、ずーっとしてきたんだもんね……」
「コンタクトの時期もあったけど、あれなんか違和感あってさ。結局、帰ってきたらすぐ外して、眼鏡掛けてたし」
「そなんだ」
「裸眼の生活なんて、もう思い出せない。それくらい眼鏡と共に生きてきたんだ」
「◯◯がめがねかけたの、いつだっけ」
「小一のとき、だったかな」
「……ずーっと、だね」
「ずーっとだよ……」
本当に、嫌になるくらい。
「ほんと、期待半分怖さ半分だなあ……」
「めーみえなくなったり、しない?」
「怖いこと言わんといて」
「ごめん」
「まあ、よほど化膿したりしなければ大丈夫なんじゃないかな。たぶん」
「たぶん……」
「目が見えなくなったら、××にお世話頼むよ」
「わかった」
うにゅほが真剣な顔で頷く。
これで安心──などと思うはずもないが、すこしは心が楽になる。
実際は、本当に簡単な手術で、失敗や失明の危険もほとんどないのだろう。
だが、手術を受ける当人からすれば、やはり恐ろしいものなのだった。







360 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:39:11 ID:1JiktlA20

2022年6月28日(火)

昼からの雨が、夜になっても降り続いていた。
「蒸すなあ……」
「むすねー……」
でろんとだらけながら、窓の外を確認する。
当然だが、雲に遮られて夜空を見ることはできない。
「あいえすえす……」
「これ、無理だな。絶対晴れないわ」
「うん……」
今日は、札幌から国際宇宙ステーションを目視することができる日だった。
「ざんねん」
「ほんとな」
だが、天気ばかりは仕方がない。
「つぎ、いつみれるかな……」
「検索してみよう」
「うん」
以前にも閲覧した「#きぼうを見よう」というサイトで、ISSの通過予定を調べる。※1
「──あ、意外とすぐ見れそう」
「ほんと?」
「2日、ほぼ真上を通るみたいだぞ」
「まうえ!」
「今日より見やすいかも」
「みたい」
「晴れたらいいけどな……」
「てんきよほうは?」
「ちょい待ち」
天気予報をサイトを開く。
「……ずーっと曇りっぽい」
「ずっと……?」
「ずっと」
「みれない?」
「見れない、かも……」
「──…………」
うにゅほがうなだれる。
もししっぽがあれば、力なく垂れ下がっていたことだろう。
「……せめて、YouTubeで見てみる?」
「みる……」
日本上空を通過するISSを撮影した映像を、ふたりで眺める。
「こんなふうに見えるんだな」
「みたかったねえ……」
「ほら、まだ見れないとは限らないからさ」
「うん……」
完全に諦めている。
うにゅほが何かをしたいと言い出すのは珍しいので、できれば叶えてあげたかった。
また機会はあるだろう。
そのときまで、うにゅほの興味が持続していればよいのだが。

※1 2022年6月9日(木)参照
 







361 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:39:33 ID:1JiktlA20

2022年6月29日(水)

「明日か……」
「あした、だねえ……」
ICL手術が明日に迫っている。
「明日の今頃には、もう、手術終わってるんだなあ……」
「ひるだっけ」
「ああ。正午過ぎに送迎車が来る予定」
「そか……」
「悪いけど、××は家で待っててくれな」
「え!」
うにゅほが目をまるくする。
「なんで……」
「簡単な手術だし、あの眼科混むだろ。自分の車で行くなら、車内で待っててもらうこともできたけどさ」
「──…………」
「えーと……」
「──…………」
無言で不満を表明してくる。
「申し訳ないけど、そういうことだから……」
「──…………」
「……ダメ?」
「いきたい」
「どうしても?」
「どうしても」
「そっか……」
「──…………」
「……絶対に?」
「ぜったいに」
「何時間も待合室で待つことになるぞ」
「うん」
「俺と離れ離れかもしれないぞ」
「うん」
「──……はあ」
仕方あるまい。
「わかった、一緒に行こう」
「うん!」
看護師さんに何を思われるのか、あまり考えないでおこう。
術後の経過によっては、明日の日記はお休みとなります。
よしなに。







362 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:40:07 ID:1JiktlA20

2022年6月30日(木)

正午過ぎに訪れた送迎車に乗り込み、眼科へと向かう。
一時間ほどを待合室で過ごしたのち、個室をあてがわれ、あらかじめ用意されていた手術着を羽織った。
「はー……」
緊張の面持ちで、うにゅほがそっと息を吐く。
「大丈夫だって」
「うん……」
「すぐ終わる、すぐ終わる」
「……◯◯、へいき?」
「ああ」
嘘ではない。
すぐ傍に俺より緊張しているうにゅほがいるためか、随分と心に余裕があった。
「××に一緒に来てもらえて、よかったかもしれないなあ」
「わたし、なにもできてない……」
「いや、心強いよ」
「……そか」
うにゅほが小さく微笑んだ。
やがて、手術の時がやってくる。
「がんばってね……!」
「ああ」
力強く頷いて、手術室へと向かう。
看護師が苦笑していたような気がするが、まあいいだろう。
およそ二十分後、
「ただいまー」
「!」
うにゅほが個室のソファから立ち上がり、俺の手を取った。
「め、みえる……?」
「散瞳薬と麻酔のせいでぼやけてるけど──」
部屋の時計に視線を移し、読み上げる。
「14時50分」
俺は、眼鏡を掛けていない。
「みえてる!」
「明日になれば視力も安定するって」
「よかったー……」
「先生の腕がよかったのか、すぐ終わったよ。三十分って聞いてたけど二十分で終わったし、手術自体は片眼五分くらいだった」
「こわくなかった?」
「怖くなかったと言えば嘘になるけど、思ったほどじゃなかったかな」
「そか!」
術後の経過を見て、帰宅したのは午後四時半のことだった。
日記執筆時点で視力はおおよそ安定してきている。
これから裸眼での生活が始まると考えると、心が弾む想いだ。






363 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2022/07/01(金) 20:41:21 ID:1JiktlA20

以上、十年七ヶ月め 後半でした

引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください
 



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コメント一覧

  • 1  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:09  ID:G2fDljtX0
    お疲れ様です。


  • 2  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:09  ID:5WyTnBvf0
    今月のしのぎ


  • 3  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:13  ID:qzX25utL0
    管理人の家族を解放しろ


  • 4  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:22  ID:J6ThJh3z0
    最近は東方裏スレに作品アンチがわいてきてるらしいけどここにいりるキャラクターアンチや作品アンチじゃないよな






    普通に可能性ある


  • 5  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:34  ID:pFJCuRUk0
    【定期】コメントだけ見に来た


  • 6  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:50  ID:eQ.S39qo0
    >>3
    お前それ毎回同じこと書いてるけど、別に面白くないからな



  • 7  Name  名無しさん  2022年07月02日 19:54  ID:XfAjBj.90
    早くセックスしろ


  • 8  Name  名無しさん  2022年07月02日 20:38  ID:rVt45wBf0
    毎回同じコメントされてるな


  • 9  Name  名無しさん  2022年07月02日 23:37  ID:5TlisKXq0
    >>4
    裏で屠自古アンチしてる奴(通称太一)は以前ここで暴れてたりおねえちゃんまとめにちょっかいかけたり今の霊夢アンチみたいな奴だったな


  • 10  Name  名無しさん  2022年07月03日 00:47  ID:aDJozUdg0
    ちょいちょい前とまったく同じ展開入るのはなんでなのか


  • 11  Name  名無しさん  2022年07月03日 05:37  ID:UbnGja3C0
    ログインボーナス


  • 12  Name  名無しさん  2022年07月03日 12:15  ID:UF556W4p0
    日常なんて同じことの繰り返しがほとんど
    毎日違う事が起きる生活なんてあるかよ


  • 13  Name  名無しさん  2022年07月03日 16:21  ID:P9Np2m6o0
    >>12
    そうなるのは、単に怠惰なだけでは?


  • 14  Name  名無しさん  2022年07月03日 23:30  ID:lQhfLMhM0
    交尾しろ


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