2023年09月17日

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
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823 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 03:59:06 ID:x75i3qBE0

2023年9月1日(金)

「八月、終わったな……」
「うん」
「九月になったな」
「うん」
「今日も暑いな……」
「うん」
「──…………」
「──……」
膝の上のうにゅほが、るろうに剣心を読みふけっている。
おかげでずっと生返事だ。
「××さん」
「うん?」
「るろうに剣心、面白いですか」
「うん」
「いま何巻?」
「うーと」
うにゅほが表紙を確認する。
「じゅっかん」
「十巻と言えば、武装錬金なら完結してるところだな」
「えっ、あ、そっか」
「どした?」
「ぶそうれんきん、じゅっかんだったなーって……」
「あれ、濃いもんな」
「こい」
「剣心、どこまで進んでる?」
「いま、さかばとう、しんうちのとこ」
「そこそこだな」
「うん、そこそこ」
「武装錬金なら、もう」
「おわるとこ……」
武装錬金。
まるでカルピス原液のような漫画である。
「るろうに剣心、これで何周目?」
「にしゅうめ」
「俺も何か読もうかな。久し振りに」
「けんしん、よむ?」
「××が読み終えてからでいいよ」
うにゅほ、読むの遅いし。
「ぶそうれんきん?」
「話題に出したから、武装錬金読みたくなってきたな……」
「いっしょによも」
「読むかあ」
パソコンチェアを滑らせ、本棚に近付く。
「××、武装錬金取って」
「どこだっけ」
「編集王の裏あたりだと思ったけど」
「あー」
うにゅほを膝に乗せながら、ふたりで漫画を読みふける。
そんな平和な一日だった。








824 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 03:59:29 ID:x75i3qBE0

2023年9月2日(土)

母親がアップルウォッチを購入した。
「◯◯、お願い!」
「はいはい」
いつものように初期設定を仰せつかり、母親のiPhoneごと預かる。
「──あれ、ペアリングできないな」
うにゅほが俺の手元を覗き込む。
「ぺありんぐ?」
「母さんのiPhoneとアップルウォッチを繋ぐんだよ」
「へえー」
「iPhoneにLINEのメッセージ来たら、アップルウォッチに通知入るだろ。それのこと」
「なるほどー」
「……あんまり興味ないな?」
「うへー」
「まったく」
何が原因でペアリングできないのだろう。
軽く調べて、iPhone側のiOSが最新になっていないことに気が付いた。
「まず、ソフトウェアアップデートからか……」
「それなに?」
「興味ないのに聞くんじゃありません」
「あるよー」
「……このアップルウォッチは新しいだろ?」
「あたらしい」
「でも、このiPhoneの中身はちょっと古いんだよ」
「ふるいの?」
「これを新しくして、アップルウォッチ側に合わせる。そうしないとペアリングができないみたいなんだ」
「ほー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「めんどくさいね」
「けっこう面倒なんだよな……」
とは言え、ほとんどは放置で事足りる。
初期設定まで軽く済ませ、階下の母親に手渡した。
「これで使えるの?」
「使い方は××にでも聞いて。だいたいわかるから」
「わかるよ!」
「じゃあ、××。使い方教えてくれる?」
「うん」
うにゅほに丸投げして自室に戻る。
教える側に回るうにゅほって、なんだか珍しいな。







825 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 03:59:53 ID:x75i3qBE0

2023年9月3日(日)

夢を見た。
古い友人の夢だ。
友人は、俺を罵倒していた。
小馬鹿にして、嘲笑して、俺を見下していた。
それに怒り狂った俺は、友人に対して蹴りを入れようとして──
「──……んが」
目を覚ますと、ベッドからずり落ちるところだった。
「わ、◯◯!」
「おお……」
うにゅほの手を借りて、なんとか立ち上がる。
「おはよう」
「おはよ。びっくしした……」
「なんか寝言言ってた?」
「うん」
「……なんて?」
「ううん、うんっ! って」
「唸ってたんだ……」
「うなってた。そんで、ばさばさっておとして、みにいったら、おちそうになってた……」
「驚かせて申し訳ない」
「いえいえ」
のそのそとパソコンチェアに座ると、うにゅほも座椅子に腰を下ろした。
「どんなゆめみてたの?」
「……ケンカする夢、で合ってるのかな」
「けんか……」
「むかーしの友達がケンカ売ってきたから、蹴り飛ばそうと思ってさ」
「けったんだ」
「体も動いてたみたいですね……」
「たぶん。おとしたもん」
「そうでもなければベッドから落ちないもんな」
「すーごいおこったんだね……」
「めちゃくちゃムカついた記憶がある」
「なにされたの?」
「なんか、いろいろ言われた気がする。なに言われたんだっけな」
あごに手を当て、思案する。
「……××を馬鹿にされた気がする」
「わたし?」
「ああ」
「おこってくれたんだ……」
「当然だろ」
「うへー」
だが待ってほしい。
その罵倒の言葉を考えたのも、無意識の俺なのだ。
なんだか嬉しそうにしているので、そんなことわざわざ言わないけれど。
あいつ、今頃なにしてるのかな。
どうでもいいか。
 






826 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:00:45 ID:x75i3qBE0

2023年9月4日(月)

父親の前立腺がんの検査結果が出た。
「なんもなかったって!」
母親からのLINEを受けて、うにゅほがはしゃぐ。
「ほんと、よかったよ。あとはこまめに検査受けてりゃ、早期発見もできるだろうし」
「だね」
正直に言って、多少肝が冷えた。
家族が亡くなる経験なんて、しばらくはしたくない。
「気も楽になったし、どこか昼メシでも食いに行こうか」
「いく!」
「どこがいい?」
「なやむ……」
「慌てなくていいからな」
「うん」
五分ほどして、
「スパゲティ、たべたいかも」
「お、いいな」
「たべいこ!」
「おー」
愛車を走らせ、近場のパスタ専門店へと赴く。
混んでいたのですこし並び、ボックス席へと案内された。
「あててあげる」
「ほう」
「カルボナーラでしょ」
「よくわかったな」
「◯◯、ここきたら、カルボナーラしかたのまないもん」
「好きなんだよな……」
「わたしは、なんでしょう」
「たらこマヨかな」
「せーかい!」
「××も、たいていたらこマヨだよな」
「すきなんだもん……」
頻繁に通うのであれば冒険もしようが、年一程度であれば仕方あるまい。
「──あ、カルボナーラめっちゃ値上げしてる」
「おいくら?」
「千三百円……」
「たか!」
「大盛りで千五百円か」
「たかいね……」
「まあ、いいけどさ。たまにしか来ないし」
カルボナーラとたらこマヨは、値段と違って変わらぬ美味しさだった。
たまに食べると本当に美味い。







827 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:01:14 ID:x75i3qBE0

2023年9月5日(火)

「──…………」
自室へと戻ってきたうにゅほが、無言で俺の膝に座る。
右手に桃のゼリー、左手にスプーン。
台所の冷蔵庫を漁ってきたらしい。
「◯◯もたべる?」
「いや、いいや」
「そか」
膝の上でゼリーを食べながら、うにゅほが言う。
「おとうさん、あいふぉんでどうがみてた」
「たまに見てるよな。TikTokとか」
TikTokの楽しさは、いまだによくわからないが。
「ゆーちゅーぶみてたよ」
「へえー」
「ゆっくりかいせつみてた」
「マジで」
「うん」
六十代後半の男性がゆっくり解説動画を見る時代なのか。
すごいな。
「なんの解説見てた?」
「たぶん、えふわん?」
「あー」
「あいるとん、せな」
「父さん、アイルトン・セナ好きだからな」
「そなの?」
「××がうちに来る前──と言うか、爺ちゃんが死ぬ前、この部屋を(弟)と一緒に使ってたのは知ってるだろ。半分に仕切って」
「うん」
「仕切りに使ってたのって洋服箪笥なんだよ」
「ふんふん」
「でも、箪笥って低いじゃん」
「そかなあ」
「××の身長なら問題ないけど、俺くらいだと普通に向こうが見えるんだよ」
「あー」
「そこで、箪笥の上部分を仕切ってたのが、アイルトン・セナのジグソーパズルだったんだ」
「ぱずる……?」
スプーンをくわえながら、うにゅほが小首をかしげる。
「××が思ってるより、でかい。2000ピースとか3000ピースとかそこらへんで、幅が一メートル以上あった」
「でか!」
「それを完成させるくらい好きだったんだな」
「そのぱずる、どこやったの?」
「リフォームのときに捨てたか、あるいは車庫のどこかにあるのか……」
少なくとも自宅にはない。
「あったらみたいな」
「父さんに聞いてみたら?」
「うん」
すぐには聞きに行かないあたり、そのまま忘れ去ると見た。







828 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:01:39 ID:x75i3qBE0

2023年9月6日(水)

「んー……?」
ぽりぽり。
うにゅほが肘を掻いていた。
「あれ……」
今度は腕を掻き始める。
「──…………」
無言で肩を掻きながら、うにゅほが不安げに俺を見上げる。
その目は、俺に助けを求めているように見えた。
「どした」
「かゆい」
「……メンタム塗るか?」
「ちがくて」
「うん?」
「かゆいばしょ、どこか、わかんない」
「あー」
たまにあるよな。
痒いと思われる場所と実際に痒い場所がずれてること。
「かゆいー!」
「ああ、無理に掻くなよ。痒くない場所掻いても仕方ないだろ」
「そだけど……」
「俺も手伝うから、痒い場所探そうな」
「うん……」
座椅子に腰掛けているうにゅほの前に屈み込む。
「どこが痒いと思ったんだ?」
「ひじ……」
「肘ではないと」
「うん」
「じゃ、適当に触るぞ。掻かなくても触れればわかるだろ」
「おねがいー」
まず、肘の周囲をぺたぺたと触っていく。
「違う?」
「ちがう……」
「遠くはないと思うんだよな」
肘が痒いと感じたのに、実は爪先が痒かった──なんてこともあるまい。
腕、手、指と触れていく。
だが、痒みポイントは見つからない。
「──…………」
「かゆい……」
「おらァ!」
うにゅほの腋をくすぐる。
「ふひ!」
「どこが痒いんだコラー!」
「うひひひ! わかんない、わはんないれす!」
ひとしきりくすぐったあと、うなじのあたりに触れたところで、
「あ!」
うにゅほが声を上げた。
「ここか?」
かきかき。
「ああー……」
「首だったか」
思ったより遠かったな。
「きもちー……」
「自分で掻きなさいよ」
「ひとにかかれると、きもちい」
まあ、わからないでもない。
この現象、何故たまに起こるのだろう。
人体とはかくも不思議なものなのだった。







829 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:02:14 ID:x75i3qBE0

2023年9月7日(木)

「よォー……、やく」
「?」
「秋が来たな!」
「きたねー」
「今日も明日も明後日も30℃以上なんて狂った天気予報も見なくなったし、エアコンも必要なくなったしな」
「うん」
昨夜、久し振りにエアコンを切った。
それでも快適に眠れたことで、夏の終わりを実感するのだった。
「でも」
「うん?」
「ことし、すーごいあつかった」
「暑かったな」
「なつって、こんくらいだったきーする……」
「──…………」
そうだっけ。
今年の夏に狂わされたおかげで、去年の夏を思い出すことができない。
「いや、でも、だいぶ涼しい気がするぞ」
うにゅほの視線が温湿度計へと向かう。
「まどあけて、にじゅうはちどだよ」
「……もしかして、まだ暑い?」
「あついとおもう……」
「夏、終わってない?」
「すずしくはね、なった」
「だよな……」
「でも、もともとが、すーごいあつかったから……」
「今で普通の夏くらい、か」
「そんなきーする」
ヤバいな、2023年。
「このまま猛暑が続いて、雪降らなければいいのに」
「えー」
うにゅほが不満げに口を尖らせる。
「じゃあ、積もらなければいいのに」
「えー……」
「……雪少なめならいいのに?」
「ならいいよ」
「お前になんの権利があるのだー!」
「ふぶぶぶ」
うにゅほのほっぺたをこね回しながら、今年の冬に想いを馳せる。
猛暑の年は豪雪になる。
いつか聞いた、そんな言葉を思い浮かべながら。







830 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:02:37 ID:x75i3qBE0

2023年9月8日(金)

「──◯◯、◯◯」
「んー……」
肩を揺すられ、目を覚ます。
「どしたー……」
「のみもの、かいいくって」
「……あー」
そうだった。
麦茶とペプシが切れたのだ。
「ごめん。すげーだるくて眠い……」
「だいじょぶ?」
「寝たの、朝だったから……」
「せいかつサイクル、なおさないとね」
「ああ……」
「ねて、おきて、じかんあったら、かいいこうね」
「そうする……」
再び目を閉じる。
取り留めのない夢を見て目を覚ますと、午後六時も近い頃合いだった。
「──……ふぁ、ふ」
あくびを噛み殺す。
「おきた?」
「起きた」
「のみもの、かいいく?」
「んー……」
行こうと思えば行けなくもないが、少々だるい。
「××、行きたい?」
「わたし、ごはんつくんないと」
「あー」
「ごめんね」
「いや、いいや。今日は水で我慢しよう」
「がまんできる?」
「できるわ」
子供か。
「あした、いっしょにいこうね」
「わかった」
うにゅほが立ち上がり、自室を出る。
「今日の夕飯は?」
「おかあさん、こすとこでなんかかってきたから、たぶんそれとか」
「曖昧だな……」
「まだきめてないの」
「そっか」
うにゅほを見送り、パソコンチェアに腰掛ける。
まだ眠気があった。
体が重い気もする。
さすがに大丈夫だとは思うが、三ヶ月前に逆戻りだけは勘弁してくれ。







831 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:03:02 ID:x75i3qBE0

2023年9月9日(土)

「──しょ、うーしょ」
麦茶の入ったダンボール箱を、うにゅほががに股で運んでいく。
「大丈夫か?」
「だいじょぶー」
俺はと言えば、ペプシのダンボール箱を二箱玄関まで運び終えたところだった。
「俺、車庫に車入れるから」
「うん」
「全部運ばなくていいからな」
「うん」
放っておいたら運びそうだなあ。
手早く車庫入れを済ませ、玄関へと向かう。
うにゅほは、麦茶のダンボール箱を重そうに持ちながら、階段を上がっている最中だった。
ペプシの一箱を抱え、うにゅほに追いつく。
「わ、はやい」
「転ばないように」
「うん」
ダンボール箱をベッドサイドに置き、一息つく。
「ふー……」
「おもかったー」
「んじゃ、もう一箱持ってくるな」
「がんばって」
「ああ」
頑張るほどでもないのだが、応援されて悪い気はしない。
三十秒とかからず往復し、ペプシの入ったダンボール箱を自室に積み上げる。
「──よし、と」
「はやい」
「昔はもっと力持ちだったんだけどな……」
「ふたつ、いっきにもってたきーする」
「今も持てるは持てるけど、きつい。昔は楽々だったから」
「そなんだ……」
「そもそも、してたバイトが力仕事だったからな。荷物運び」
「いってたねえ」
「二、三十キロが当たり前。四十キロだとけっこうきつい。そんな感じの職場だった」
「わたしくらい……」
「××を担いで階段上がるようなもんだ」
「あれ?」
うにゅほが小首をかしげる。
「◯◯、わたしおんぶしながら、かいだんあがれるきーする」
「それはできる。でも、××を箱詰めして運ぶのは無理」
「はこづめしないで……」
「人を運ぶのと荷物を運ぶのじゃ、かなり違うんだよ」
「そなんだ」
考えてみれば、随分と貧弱になったものだ。
筋骨隆々の見た目に戻りたいかと言えば、難しいところだけれど。







832 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:03:29 ID:x75i3qBE0

2023年9月10日(日)

「なーんか、今日も蒸すんだよな……」
「うん……」
窓の外は薄曇り。
雨こそ降らないものの、湿気の多い日和だ。
「こう、なんだろう。暑くはないんだけど、うっすら不快」
「わかるかんじ」
「窓開けてこれだからな……」
「あけたほう、むす?」
「あり得るな」
「しめる?」
「閉めたら、今度は暑くないか?」
「なりそう……」
「……窓閉めてエアコンつけるってのもアリか」
「ありあり」
「そうしよう」
「つけてくる!」
俺の膝から下りたうにゅほが寝室側へと駆けていく。
くっついてるから暑いのでは、というツッコミは野暮である。
窓を閉め、エアコンの電源を入れたうにゅほが、意気揚々と戻ってきた。
「これですずしくなるよ」
「だな」
うにゅほを膝に乗せ、姿勢を安定させるためにおなかに左腕を回す。
「はい、これ」
うにゅほが読んでいたネウロの十一巻を手渡す。
「ありがと!」
「ネウロ読むのは初めてだよな」
「うん。なんか、くせつよくて……」
わかる。
うにゅほは癖の強い漫画を避ける傾向にある。
「でも、よんだらおもしろい」
「だろ」
「アニメ、なってないの?」
「……なってる」
「みたい」
「えー、その。俺も詳しくはないのですが……」
「?」
「アニメは黒歴史らしい」
「そなの?」
「そもそも、最後までやってないし」
「そなんだ……」
「漫画で楽しもうな」
「はーい」
後から調べたところ、ネウロのアニメはアニオリ展開と改変が激しく、評判が著しく悪かったらしい。
やはり、時間を浪費してまで見るものではなさそうだ。







833 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:03:54 ID:x75i3qBE0

2023年9月11日(月)

歯医者を済ませ、車に戻る。
「ね、◯◯」
「んー?」
「かみきらないの?」
「あー……」
切りたい。
ずっと切りたいと思っていた。
最後に髪を切ったのは五ヶ月も前であり、今や前髪が口に届くほど長い。
今日はいいか。
また今度でいいか。
そんなことを繰り返し続けた結果が、昔のエロゲーの主人公みたいな髪型である。
「切る、……か!」
「きろう」
「××のこと、また待たせちゃうけど」
「いいよー」
いつでもどこにでもついてきた結果、俺を待ち慣れてしまったらしい。
それはそれで申し訳ない。
あまりうにゅほを待たせたくないので、場所をおぼろげに覚えている十分カットの店へと赴いた。
「じゃ、行ってくるから」
「かっこよくなってね」
「それは無理」
「えー」
エアコンの効いた車内にうにゅほを残し、店内へ入る。
十五分後、
「ただいまー」
「おかえり。かっこよくなった」
「ありがとう」
さっきまでよりは、である。
シートベルトを締めながら、うにゅほに話し掛ける。
「そう言えばさー」
「?」
「ちょっと納得行かないことがあったんだけど……」
「どしたの?」
「席に座ったら、どうしてほしいか聞かれたのよ」
「うん」
「仕上がりは、後ろは短く、前に行くほど長めで。前と同じ髪型にしたいから、切る長さは全体で同じくらい──みたいに頼んだんだ」
「うん」
「……これ、わかりにくいか?」
「えっ?」
うにゅほが小首をかしげる。
「わかりにくくはー、ない」
「わかるよな」
「わかるよ」
「困り顔でめっちゃ質問されて、最後には遠回しに注文の仕方がわかりにくいって言われたんだけど……」
「えー……?」
「理容師にはわかりにくいってこと?」
「わたしにわかるのに?」
「だよな……」
仕上がりは決して悪くないのだが、なんだかもやもやが残るのだった。







834 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:04:20 ID:x75i3qBE0

2023年9月12日(火)

「……えー、××さん。悲報です」
「え、なに……?」
うにゅほが怯える。
「札幌で、クスサンって蛾が大量発生してるらしい」
「が!」
「しかもでかい」
「ど、どのくらい?」
「顔の横幅くらい」
「──…………」
うにゅほの顔から血の気が引くのがわかった。
「はっせい、してるの……」
「らしい」
「やだ……」
「俺も嫌だよ……」
YouTubeを開く。
「ニュース映像あるけど、見る?」
「がー、でる?」
「出る」
「みない」
「出るけど、情報は大切だぞ」
「◯◯みて、おしえて」
「ほらほら」
うにゅほを手招きする。
「うー……」
招かれると弱いのか、うにゅほが俺の膝に腰掛けた。
途中まで見ていた北海道放送の動画を、最初から再生し直す。
「ひ、わ、うぎぎ!」
地下鉄駅に蛾が大量発生している映像を見て、うにゅほがバタバタ手足を動かす。
面白い。
「でもこいつ、本体はちょっと可愛くないか?」
「ないない……」
「ほら、こことか」
動画を戻し、クスサンを横から撮影している部分で停止する。
「……あ、もこもこしてる」
「な?」
「でも、むし……」
「虫だけどさ」
「◯◯、さわれる?」
「絶対逃げる」
「だよね……」
「××置いて逃げる」
「おいてかないで!」
そんな会話を交わしながらニュース映像を見ていると、うにゅほがふと声を上げた。
「あ、そだ」
「うん?」
「おとうさん、きのう、おっきながーたおしたって」
「──…………」
「くすさんかなあ」
「……こっちまで来てたのか」
怖すぎる。
秋になったらさらに増えるという話も聞いて、不安でたまらない。
夜には出歩かないようにしよう。







835 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:04:40 ID:x75i3qBE0

2023年9月13日(水)

「あ」
手首のアップルウォッチに視線を落とし、膝の上のうにゅほが呟いた。
「じゅうさんにちの、すいようびだ」
「うん?」
同じく確認する。
9月13日、水曜日。
「そうだな」
「じぇいそんだね」
「ジェイソン?」
「?」
うにゅほが小首をかしげる。
「かめんの、あれ」
「ホッケーマスクの」
「それ」
「──…………」
金曜日と水曜日を勘違いしているらしい。
この手の勘違いって、どう指摘すればいいのか悩むんだよな。
でも、どこかでうにゅほが恥を掻くかもしれないし。
「……そのだな」
言いにくそうな俺の気配を察したのか、うにゅほが戸惑う。
「どしたの……?」
「非常に言いにくいのですが」
「はい」
「十三日の、金曜日です」
「──…………」
うにゅほが両手で顔を隠す。
耳がほのかに赤くなっているように見えた。
「まあ、うん。勘違いってあるし……」
「……うー」
「気にすんな!」
「はずかしい……!」
「俺でよかったじゃん。可愛い可愛い」
うにゅほの頭をなでくり撫でる。
「……あのね、◯◯」
「うん?」
「にっき、かかないでね……」
「──…………」
「かかないでね?」
目を逸らす。
「かかないでー!」
「いや、勘違い可愛かったし」
「かわいくないよ」
「可愛い」
「かわいくないー」
「可愛いので、書きます」
「うー……」
「そんなに読まれてないから、大丈夫だよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「なら、いいよ……」
たぶん百人くらいだろう。
言ったら恥ずかしがりそうだから、言わないけれど。
 







836 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:05:03 ID:x75i3qBE0

2023年9月14日(木)

「××、目薬取ってー」
「はーい」
うにゅほが冷蔵庫に手を伸ばし、目薬を手に取る。
「はい」
「ありがとう」
「めーいたいの?」
「ちょっとな。疲れ目かもしれない」
「つかれめ……」
「しばらくディスプレイとにらめっこしてたからなあ」
「めー、ちゃんとやすめないとだめだよ」
「だな」
「ほっとあいますく、する?」
「あー……」
目薬を点眼しながら、軽く思案を巡らせる。
「なんか怖くてさ」
「こわいの?」
「ほら、俺の目って、手術してレンズ入ってるだろ」
「うん」
「それが、ホットアイマスクの熱で歪んだりしないかなー、とか」
「するの……?」
「たぶんしない。俺が勝手に不安がってるだけ」
当然ながら、眼内レンズは容易に取り外しができない。
故に、"もしも"が怖いのだ。
「わたし、めーのなかにレンズいれたことないからわかんないけど、こわいのわかる」
「だろ」
「とけたらこわいね……」
「溶けはしないだろ、さすがに」
だったら怖すぎる。
「すこし歪むだけでも見え方が変わるだろうからな。ちょっと神経質になってる」
「そなんだ……」
「怯えすぎかな」
「ちがうとおもう。あたりまえとおもう……」
「ならいいんだけど」
「◯◯、すごいとおもう。しじつ、すーごいゆうきあるとおもう」
「手術の前、一瞬だけ"やっぱナシ"って脳裏をよぎったんだけどな」
支払った数十万円と、眼鏡のない生活。
それを思うと、土壇場で手術を取り止めることなどできるはずもない。
「××は、目悪くならないようにな」
「きーつける……」
仮性近視まではトレーニングで治るらしい。
読者諸兄も、視力は大切にしよう。







837 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:05:34 ID:x75i3qBE0

2023年9月15日(金)

いつものように、うにゅほが俺の膝に腰掛けている。
「──…………」
絹糸のような黒髪から、甘く芳しい香りがする。
鼻先で髪を掻き分け、深呼吸をする。
「あつい」
鼻息が熱かったのか、うにゅほが不思議そうに振り返った。
「なにー?」
「いや、いい匂いだなって」
「うへー」
「同じシャンプー使ってるのに……」
うにゅほが髪の束を手に取り、鼻先に当てる。
すんすん。
「くさくないけど、そんなにいいにおい?」
「超」
「ちょう」
「スーパーいい匂い」
「そんなに」
「なんか、シャンプーとかコンディショナーとは違う匂いがするんだよな……」
「そんなにちがう?」
「まったく違うってわけじゃないけど、別の匂いが混じってる感じ」
「なんだろ……」
「××汁じゃないか?」
「なにそれ!」
「××の頭皮から分泌されるいい匂いの汁」
「やだそれ……」
「いい匂いなのに?」
「いいにおいでも!」
「言い方が悪かったな」
「すーごいわるかった……」
「××フレグランスと呼ぼう」
「それなら、うん」
「××の頭皮から分泌される──」
「ぶんぴつやめて!」
「わがままだなあ」
「わがままかな」
「××フレグランスは、××の髪から発される香気の一種である」
「それなら……」
すんすんと鼻を鳴らす。
「いい匂いだ」
「たくさんかいでね」
嗅がれること自体には、恥ずかしさは感じないらしい。
うにゅほ、面白い子。






838 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2023/09/17(日) 04:07:00 ID:x75i3qBE0

以上、十一年十ヶ月め 前半でした

引き続き、後半をお楽しみください
 



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コメント一覧

  • 1  Name  名無しさん  2023年09月17日 19:02  ID:wZnzLPRP0
    更新乙


  • 2  Name  名無しさん  2023年09月17日 19:12  ID:OJNOVNy60
    これいる?


  • 3  Name  名無しさん  2023年09月17日 19:17  ID:BU2dl0t40
    ク ソ


  • 4  Name  名無しさん  2023年09月17日 19:29  ID:y8IyLaW.0
    管理人の家族を解放しろ


  • 5  Name  名無しさん  2023年09月17日 19:39  ID:zHF43Fpu0
    おまいらも嫁との日記書けよ?


  • 6  Name  名無しさん  2023年09月17日 20:01  ID:XNaKpF7i0
    正直にAIに書かせましたと言うのだ


  • 7  Name  名無しさん  2023年09月17日 20:03  ID:JZSSk.YB0
    >>2
    いらんに決まってるでしょ、こんなゴミ記事



  • 8  Name  名無しさん  2023年09月17日 21:21  ID:6t0kk0Nt0
    ※7
    そうは言うがガチ最初期からまとめてる程には管理人に情熱があるんだぞ


  • 9  Name  名無しさん  2023年09月17日 21:25  ID:ethbws4t0
    これがないと時間の流れが分からない


  • 10  Name  名無しさん  2023年09月17日 23:00  ID:JZSSk.YB0
    >>8
    だから何?
    としか

    中身の無い駄文の羅列には違わんでしょうが


  • 11  Name  名無しさん  2023年09月19日 10:00  ID:VJpiKzNl0
    はやくお前の制御棒をうにゅほの炉心に入れてやれ

    もうメルトダウン寸前だってよ


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