2024年12月02日

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1 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2016/07/01(金) 19:13:30 ID:1bfcR2jI0

うにゅほと過ごす毎日を日記形式で綴っていきます 


ヤシロヤ──「うにゅほとの生活」保管庫
http://neargarden.web.fc2.com/



296 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:27:51 ID:TB6qytOY0

2024年11月16日(土)

「フラミンゴ」
「ごー、ごきげんよう」
「雲仙普賢岳」
「けー、けー、けっこんしき」
唐突に始まったしりとりが、十分以上も延々と続いていた。
「気配り」
「りょうり!」
「倫理」
「りー、りー……、りくなびねくすと……」
「鳥」
「りーやめてー」
「ははは」
「り、り、りゅうぜんこう……」
「なんで竜涎香なんて知ってるんだよ」
「なんかしってた」
竜涎香とは、マッコウクジラの腸内にできる結石であり、天然の香料や漢方薬として使用されているものだ。
「瓜」
「り!」
「頑張れ頑張れ」
「りゅうかすいそ!」
「そり」
「りくらいにんぐ!」
「ぐ……」
"ぐ"で始まって、"り"で終わる単語か。
パッと思い浮かばなかった。
「……軍艦島」
「まり!」
「げ」
「うへー」
「リプリー」
「え、なに?」
「映画、エイリアンの主人公……」
「……あり?」
「どうだろ」
「りぷりー、で、いからでいい?」
「いいよ」
「いかり」
「くそう……」
「ふへへ」
「りー、りー、りー……、リング」
「ぐ」
「ぐ、だぞ」
「ぐー、ぐり、ぐー、りー……、ぐりこ」
「氷」
「あー!」
しりとりも、たまにやると楽しいものだ。








297 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:28:17 ID:TB6qytOY0

2024年11月17日(日)

弟に頼まれて、前のPCを売りに行くことになった。
報酬は、売却額の半分である。
Win-Winというやつだ。
しとどそぼ降る十一月の雨のなか、パソコンショップにPC本体を持ち込む。
査定に一時間かかるとのことだったので、俺とうにゅほは、近場にあるヨドバシカメラへと赴いた。
「サウンドバーが欲しいんだよな」
「さうんどばー?」
「スピーカーはわかるだろ」
「わかるよー……」
「それが、棒状になっているやつ」
「……?」
うにゅほが小首をかしげる。
「テレビの下とかに設置するんだ」
「あ、よこに?」
「横にだよ、横に」
「たてかとおもった……」
まあ、細めのスピーカーなら、うにゅほの想像に近い商品もなくはない。
「ほら、新しいディスプレイの真下がぽっかり空いてるだろ。あそこにサウンドバーを設置したい」
「あ、なるほど」
「(弟)のPC売った金で、買おうかと思ってて」
「いいかも」
ヨドバシ二階のオーディオコーナーで、サウンドバーを見繕う。
「なが!」
「長いし高いな……」
幅を確認すると、90cm前後のものばかりだ。
これらの商品は、大きめのテレビの下に設置するためのものであって、デスクの上に置くものではない。
「帰ってAmazonかな。60cmくらいのがあったはずなんだよ」
「ろくじゅっせんちなら、まあ……」
ヨドバシで時間を潰したあと、余った時間を車内で過ごし、パソコンショップへ戻る。
売却額は、四万円少々だった。
「二万の儲けだな」
「うはうはだね」
「ほら、××。渋沢栄一の新一万円札だぞ」
「わ、はじめてみた!」
「俺も」
まだまだ違和感はあるが、すぐに慣れるだろう。
いつしか雨は上がっていた。






298 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:28:50 ID:TB6qytOY0

2024年11月18日(月)

「♪~」
掃除機を手にしたうにゅほが、機嫌よく自室を掃除していく。
「◯◯、どけてー」
「あいよ」
パソコンチェアごと移動すると、デスクの下に掃除機のノズルを差し込んだ。
「へや、かいぞうしてから、そうじしやすいなー」
「物、ガッツリ減ったもんな」
「おかねになった」
「正直、あんだけの収入になるとは思わなかった……」
断捨離してミニマリストを気取るわけでは毛頭ないが、使わないもの、余計なものは、売ってお金にしたほうがいい。
それが、ここ半年ほど不要物を売りさばき続けた俺たちの結論だった。
「うるもの、もう、さすがにないよね」
「あとは、それこそ本くらいかな。大した額にもならないし、売る気はさらさらないけど」
「やすいの?」
「一冊十円でもいいほうだぞ。まとめて売ると買い叩かれる」
「いっさつじゅうえん……」
「全部売っても三万円に届かないな、たぶん」
「せつない」
掃除を終わらせ、うにゅほが俺の膝に戻ってきた。
「うしょ」
「よっ、と」
うにゅほの矮躯を抱き寄せ、膝から落ちないようにする。
「げんしん、やる?」
「やるかー」
「やろう」
原神を始めたのは、数日前の日記の通りだ。
隙間時間を見つけては、ちょこちょこ進めている。
「見てて楽しい?」
「たのしい」
「グラ、綺麗だもんな……」
「なんか、たびしてるきぶんになる」
「ああ、わかる」
オープンワールドを適当に探索しているだけで、それなりに楽しい。
「……ただ、できることが多すぎて、終わりが見えない」
「にんむ、おわらせるまでに、またにんむでて、おわらせるまえよりふえてるきーする」
「実際そうだよ……」
恐ろしいほどのコンテンツ量だ。
すべてをコンプリートするのではなく、やりたいだけやるに留めるのが、良い付き合い方というものだろう。
のんびり、のんびりだ。






299 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:29:13 ID:TB6qytOY0

2024年11月19日(火)

「──さッ、む!」
起床し、窓の外を見る。
世界が完全に白く染まっていた。
「冬だ……」
「ふゆ、きたね」
「まだ根雪にはならないと思うけど、完全に冬だな。寒い寒い」
「きおん、もう、まいなすだよ」
「道理で」
単純な気温で言えば、大寒を過ぎた一月下旬から二月上旬あたりが最も低い。
だが、体感で語るのならば、まだ心構えができていない今の時期が最も寒い。
送風機の電源を入れ、温風を出す。
「これ、いつまで使えるかな……」
「あったかいけど、あったかすぎなくて、いいよね」
「ストーブだと、速効で暑くなって電源切る羽目になるからな。つけたり消したり、つけたり消したり」
足先が冷えるのでルームシューズを履き、パソコンチェアに腰掛ける。
俺の膝に腰を下ろしたうにゅほを左腕で抱き寄せ、マウスを握った。
「密着部分はあったかい……」
「わたしも、せなかとおしり、あったかい」
うにゅほは、俺の知る限り最も優れた暖房器具である。
火傷することのない適度な温度で、柔らかく、いい匂いがして、なんだか幸せな気分にもさせてくれる。
たぶん、うにゅほも、俺に対してそんなことを思ってるんだろうな。
「そう言やさー」
「?」
「こないだ買ったアロマテラピー用の新しいオイル、ほんといい匂いするよな」
「する! わかる」
「ホワイトムスク、だっけ」
「それ」
「ホワイトムスク単体だと強すぎるから、他のオイルと混ぜたほうがいい気がするけど」
「ほかのね、あんましすきじゃないにおいもあった。でも、それとまぜても、いいにおい」
「ああ、わかる。××はどれが微妙だと思った?」
「うーと……」
うにゅほが膝から下り、精油の小瓶をすべて持ってくる。
そして、ひとつひとつ匂いを嗅いでいき、
「これ。くらりーせーじ」
「ああ……」
わかる。
「直接嗅ぐと、草感強いよな」
「つよい」
「アロマランプ使うとましだけどさ」
「◯◯も、あんましすきじゃないよね」
「どうだろ」
「おいる、あんましへってない」
「……なるほど」
無意識に使用頻度が低くなっていたらしい。
しばらくは、ホワイトムスクをメインに、さまざまなオイルを混ぜて楽しもう。





300 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:29:33 ID:TB6qytOY0

2024年11月20日(水)

注文してあったサウンドバーが届いた。
YAMAHAのSR-C20Aという、幅60cmのコンパクトサウンドバーだ。
「おー!」
「この長さなら、メインディスプレイの下に仕込むのにちょうどいいだろ」
「あうね」
「合う合う」
さっそく設置し、PCとBluetoothで接続する。
「適当にサカナクションでも流してみるか。どの曲がいい?」
「うーと、おもてさんどうのやつ」
「あいよ」
wavファイルを開くと、表参道26時が流れ始めた。
「おー……」
「……うん?」
「どしたの?」
「いや、音質よくないなって。こんなもんか……?」
「そかな」
「スピーカーってあんまり使わないから、基準がわかんないな。でも、期待した音ではない」
「わたし、よくわかんないかも……」
そのまま数曲ほど流してみるが、どうにも微妙だ。
「んー……?」
設定をいじっていて、ふと気付く。
「──あ、これサウンドバーじゃない! ディスプレイのスピーカーから音出てる!」
「え、でぃすぷれい、おとでるの?」
「いちおう、スピーカーはついてるから……」
慌ててサウンドバーに接続し直し、再び表参道26時を流す。
「……お?」
「明らかに違う……」
「おといいね!」
「そら、ディスプレイ標準のないよりマシなスピーカーと比べたらな」
「ちがいがわかる」
「違いがわかる女だな」
「うへー」
うにゅほと二人で動画やら何やらを見るときは、耳掛けヘッドホンを片方ずつ着けるのが常だった。
そこに新しくサウンドバーという選択肢を追加できたのは素晴らしい。
音質も悪くはないし、ふたりで音を楽しもう。





301 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:29:52 ID:TB6qytOY0

2024年11月21日(木)

「十一月も下旬かあ……」
「げじゅんだねえ」
「今年も残り四十日くらいだぞ」
「はやい……」
「去年の今頃って、たしか、検査入院してたよな」
「あ、してた!」
「××が毎日来てくれて……」
うにゅほが不安げに振り返る。
「にゅういん、もう、しないでね……」
「そら、したかないけどさ」
「でも、あれからいちねんかー」
「いろいろあったような、そうでもないような……」
「いろいろあったよ。(弟)のこととか……」
「それはまあ、たしかに」
考えてみれば、死ぬほど濃ゆい一年だった気がする。
「らいねん、なにもなければいいね」
「いいことは起きてほしいけどな」
「たとえば?」
「宝くじが当たるとか……」
「かってるの?」
「買ってない」
「だよね」
「道端で百万円拾うとか……」
「それこわい」
「……怖いな」
新しい詐欺とかの可能性があるし、さっさと交番に届けるが吉だろう。
「なら、道端で一万円拾う」
「ひろうことあるかなあ……」
「──…………」
考えてみれば、俺たちは、ほとんど引きこもりみたいなもんである。
それに、移動手段も車だから、拾う拾わない以前にまずもって歩かない。
「ないな」
「ないきーする」
「そもそも、"いいこと"の発想が貧困過ぎる。お金のことばっかじゃん」
「おかねいがいだと?」
「──…………」
「──……」
「原神やるか」
「うん」
幸せってなんだろう。





302 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:30:18 ID:TB6qytOY0

2024年11月22日(金)

購入したばかりのサウンドバーで、ぼけらーっとヨルシカを流していた。
「──あ、そうだ」
「?」
膝の上で読書をしていたうにゅほが、こちらを振り返る。
「こいつで、寝るときにBGMでも流してみようか」
「おー?」
「YouTubeに、安眠できるBGMとかけっこうあるんだよ」
「へえー、そなんだ」
適当に検索し、いちばん上の動画を再生してみる。
「りらっくすみゅーじっく……」
「うん、いかにもリラックスできそうなタイトルだ」
「ひるねのとき、ながしてみる?」
「そうしよう」
昼食をとり、午後二時を過ぎて、先程のリラックスミュージックを流す。
「あんみんできるかな」
「わからん」
自室の寝室側へ向かい、それぞれのベッドに入る。
「あ、すぐねれそう……」
「××は普段からすぐ寝てるだろ」
「うへー」
目蓋を閉じ、寝ようと試みる。
「──…………」
だが、意識したのが悪いのか、どんどん目が冴えていく。
BGMが煩わしく感じて仕方がない。
「……××?」
隣のベッドのうにゅほを、小声で呼んでみる。
「……すー……」
返事は寝息だった。
さすがの入眠速度だ。
仕方がない、もうすこし頑張ってみよう。
しかし、睡眠を頑張ると意識した時点で、眠れなくなることは明らかだった。
その後、幾度かうとうとはしたものの、結局浅い眠りにしかつくことができなかった。
起床したうにゅほに尋ねる。
「……どうだった?」
「ぐっすりねれた。◯◯は?」
「ぜんぜん寝れなかった……」
「りらっくす、できなかった?」
「なんかな……」
「みゅーじっく、ないほういいのかな」
「どうだろう。ただ単に慣れてないだけかもしれないし、何度か試してみよう」
「そうしよ」
と言うわけで、今夜も別の睡眠導入BGMをかけて眠ることにした。
どうなることやら。





303 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:30:44 ID:TB6qytOY0

2024年11月23日(土)

「──……は」
と、目を覚ました。
うにゅほと挨拶を交わし、顔を洗って自室に戻る。
パソコンチェアに腰掛けると、うにゅほがさっそく膝に乗った。
「ねれた?」
「あー……」
ぼんやりとした頭で答える。
「まあ、寝れたんじゃないかな。たぶん」
「みゅーじっく、あるほういい?」
「……?」
一瞬、なんのことかわからなかった。
「ああ、そうか。音楽流しながら寝たっけ……」
「わすれてた」
「音楽を流して寝たのは覚えてるんだけど、それ以降の記憶がとんと」
「わたし、おきたとき、おんがくまだながれてたよ」
「ああ、たしか──」
マウスを動かし、ディスプレイを復帰させる。
そして、終了した動画の再生時間を確認した。
「そう、三時間ある動画にしたんだ」
「◯◯、ねたの、ごじくらい?」
「だいたいそんなもんかな」
「やっぱし。わたし、ろくじにおきたから、にじかんくらいながれてた」
「……うるさくなかったか?」
「うるさくないよ」
「今後、うるさかったら止めちゃっていいからな。寝入ったらもう関係ないんだから」
「ねてるとき、かんけいないの?」
「え、わからん……」
リラックス系の音楽って、寝ている最中も効果があるのだろうか。
調べてみた。
「……むしろ、寝てる最中に音楽流すのはよくないらしい」
「なるほどー」
うにゅほが、うんうんと頷く。
「なら、わたしおきたら、とめるね」
「ああ、頼む。今夜は短めの動画を選ぶつもりだけどさ」
「いちじかん、くらい?」
「そんくらいが妥当かな。三十分だとまだ起きてる可能性あるし」
「たいへんだね……」
「××は五分だもんな」
「たぶん」
スッと睡眠に入るから、自分でもよくわかっていないのだろう。
羨ましい限りである。





304 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:31:16 ID:TB6qytOY0

2024年11月24日(日)

「つ」
ふと、手のひらに痛みが走った。
「あれ、怪我してる……」
「え?」
「ほら」
うにゅほに右の手のひらを見せる。
「わ、ほんとだ。痛い……?」
「普通にしてるぶんには、特に痛くないかな」
「さぼてんささったのかなあ……」
「指先ならまだしも、手のひらで触らんわい」
「たしかに」
「しかし、原因に心当たりがないな……」
「たまにあるよね。しらないうちに、けがしてるの」
「たまーにな」
手のひらだから、絆創膏は貼れない。
そもそも、何か処置をするほど大きい傷でもない。
結局、気にせず日常を送ることにした。
入浴後、スキンクリームを顔に塗り込もうとして、ふと怪我のことを思い出した。
「……傷口にクリーム入るな、これ」
「あ、けが?」
「怪我怪我。しゃーないから左手で塗るか……」
「かして」
うにゅほが、スキンクリームの容器を手に取る。
「うへー、ぬったげる」
「ええ……」
なんだか気恥ずかしい。
「左手で塗るよ」
「まあまあ」
手のひらに乗せたクリームを両手で伸ばし、うにゅほが俺の顔に触れる。
「うらー」
「──…………」
うにゅほの小さな手が、俺の顔の上を這い回る。
「はい、おしまい」
「ありがとうな」
「たのしかった……」
「……楽しいもんか?」
「わたしにぬってみる?」
「左手だけで?」
「けがなおったら、ぬってもいいよ」
「覚えてたらな……」
すこしやってみたいので、覚えていることにしよう。
そのために日記があるのだ。
そのためか?





305 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:31:39 ID:TB6qytOY0

2024年11月25日(月)

壁にでも飾ろうと思い、500ピースのジグソーパズルをフレームと共に購入した。
だが、届いたフレームは、
「でか!」
「おっきい……」
想像の二倍はありそうな、かなり大きなものだった。
「500ピースのパズルって、でかいんだな……」
「びっくり」
パズル本体の大きさは、38cm×53cmだ。
コンベックスで測ってから購入を決めればよかったかもしれない。
「まあ、やってみるか。××はジグソーパズル初めてか?」
「こんなにおっきいのは、はじめて」
ふんす、と鼻息を荒くする。
フレームの台紙を外し、この上で組むと決めたあと、ジグソーパズル本体を開封した。
朝焼けにかすかに色付いた空と一本の樹の写真を元にしたもので、非常に美しいデザインだ。
しかし、開けた瞬間に軽く絶望した。
500ピースのひとつひとつが、ほとんど単色なのだ。
かすかに星があるから空だとわかる程度のもので、中央にある樹や、空と地面の境目くらいしか取っ掛かりがない。
「……こーれは、失敗したかもしれないぞ」
「きれいだよ?」
「××。最高難易度と言われるミルクパズルって知ってるか」
「みるくぱずる……」
「絵柄が何もない、無地のパズルだよ」
「むずかしそう」
「このパズルも、空とか、地面とか、ミルクパズルに近いものがあるぞ……」
「やってみよ!」
「まあ、やるけども」
ジグソーパズルの定石と言えば、まずは外枠から組むことだ。
手分けして、一面か二面が直線のピースを探していく。
「……これだけでも、けっこう苦労しそうだな」
「やるぞー!」
「おー」
うにゅほはほとんど初めてだし、俺自身も500ピースなんて子供のとき以来だ。
外枠を完成させるだけで、実に二十分もの時間が溶けていった。
「背中いてえー……」
「たのしいね!」
「楽しいけど、これマジで完成させられんのかな……」
「がんばろ」
「頑張るけどさ」
フレームまで買ってしまった以上は、完成させねばならない。
果たして、何時間かかるだろうか。





306 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:31:58 ID:TB6qytOY0

2024年11月26日(火)

「◯◯、パズルしよ!」
「お、するかー」
外枠だけが完成したジグソーパズルを引っ張り出し、ふたりで囲む。
「まず、メインの樹と地平線あたりを完成させよう」
「わかりやすいとこ」
「そう、わかりやすいとこ。大変な部分はあとに回す」
「なるほどー」
ジグソーパズルのピースを手分けして振り分けていく。
「ほら、これなら行けそうだろ」
「あたまいい」
「定石だからな」
もっとも、星とグラデーションのみの空や、半分以上が真っ黒な地面などは、小手先ではどうしようもないけれど。
「……それにしたって、けっこう難しいな」
500ピースでこれなのだから、調子に乗って1000ピースや2000ピースに挑まなくて本当によかった。
「あ、ここ」
「本当だ」
「ここ、これかなあ……」
「合ってる……」
思わず感心する。
「××、ジグソーパズル得意なんじゃないか?」
「うへー、とくいかも」
直感なのか、ロジックがあるのか、それは定かではないが、俺の倍の速度でパズルのピースを嵌めていく。
これは、思ったよりも早く完成させられるかもしれない。
そんなことを感じながら、二時間ほどをかけて下半分を完成させた。
「背中いてえー……」
「わたしも……」
「揉んでやるか?」
「こうたいね」
交代でマッサージを施したあと、いつものようにパソコンチェアに座る。
すると、Windows11のバージョン24H2が来ていた。
「──…………」
この手の大きなアップデートは、嫌な予感しかしない。
24H2の不具合一覧を確認したあと、意を決してPCを再起動した。
五分後、
「やっぱりなー!」
PCが起動しなくなった。
どうやら、ユーザープロファイルが壊れたらしい。
「ど、どうするの……?」
「……なんとかする」
結局、一時間半かけて、なんとかした。
「わ、ついた!」
「疲れた……」
「よかったー」
「これ、俺だからなんとかなったけど、PC詳しくない人泣き寝入りだぞ……」
「わたしだったら、むり」
Microsoftよ。
もっと、こう、なんとかならんのか。






307 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:32:23 ID:TB6qytOY0

2024年11月27日(水)

今日も今日とてふたりでジグソーパズルを組み立てていた。
「背中がァ!」
「もむよー」
「頼む……」
フローリングの上でうにゅほのマッサージを受けながら、呟く。
「やっぱ難易度高いな……」
「みるくぱずる、くらい?」
「いや、空にグラデーションがあるからだいぶマシ。ミルクパズルはまず取っ掛かりがないから」
「たしかに……」
「あれの2000ピースとか、マジで地獄だぞ……」
何かしらの罰と言われても納得できる。
「ただ、やって初めてわかることもあるな」
「どんなこと?」
「普通のピースは、ほら。凸の部分と凹の部分が対称にあるだろ」
「そだね」
「でも、そうではない特殊なピースもある。極端に言えば、全部凸とか、全部凹とか」
「あれ、ひんとになるねー」
「そうなんだよな。凸や凹が左右に二つ並んでたら、特殊ピースが混じるってわかる。だから、特殊ピースを取り分けておくのも重要だ」
「わけといてよかったね!」
「ジグソーパズル、奥が深いな……」
まあ、壁に飾るために作っているので、本格的に趣味にするつもりはないが。
「あとすこしだね」
「残りは──たぶん、二割くらいか」
「ひゃくぴーす、くらい」
「空、大変なんだよな……」
「ほんとね……」
しかし、抜けるような青空や夜空ではなく、グラデーションの存在する朝の空を選んで本当によかった。
危うく挫けるところだ。
「でも、この調子なら明日には完成させられるな」
「かざれる?」
「いや、ノリで固めないといけないから、壁に飾れるのは二、三日後かな」
「あー、のり」
「フレームの中で崩れたら最悪だろ」
「さいあくだ……」
「頑張ろう」
「おー!」
ジグソーパズルは楽しいが、適当なテーブルがないため背中が痛い。
早く完成させて、背中をいたわってあげなければ。





308 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:32:42 ID:TB6qytOY0

2024年11月28日(木)

ジグソーパズルの完成が近付いていた。
「あと五ピースだ……」
「もうすこしだ!」
ここまで来れば、もう、ピースを間違えることもない。
うにゅほに最後のピースを手渡す。
「ほら、××が完成させな」
「……いいの?」
「いいよ。いちばん頑張ったの、××だし」
「ありがと……」
最後のピースを受け取り、うにゅほがそっと穴を埋める。
「──できた!」
「できたな」
「いえー!」
「いえー」
ハイタッチを交わす。
「がんばった!」
「随分かかったよな。六時間とか、七時間とか……」
「◯◯、せなか、だいじょぶ?」
「あとで揉んでくれ……」
「わかった」
「完成させたからには、やることがある」
「のり?」
「ノリ。初めてやるけど、まあ、なんとかなるだろ」
やり方は、YouTubeでしっかり予習してある。
俺は、完成したジグソーパズルの表面にまんべんなくノリを垂らすと、付属のヘラで伸ばし始めた。
「このとき、外側から中心に向かって伸ばすのがコツらしい」
「あー、すきまできるから……」
「そう」
実際に組み立ててみれば、ジグソーパズルのピースには隙間があることがよくわかる。
隙間が大きければ、ノリを以てしても固めることができないかもしれない。
ヘラを何度も往復させて、ノリを染み込ませていく。
「……ノリが多すぎる!」
「すーごいあまってる……」
パズルの表面に、透明なノリ溜まりができている。
「……しゃーない。これ、いったん床に落とすか」
「ふいたらいいもんね」
「そうそう」
ノリ溜まりをヘラでフローリングに落とし、パズルを台紙ごと部屋の隅へと追いやる。
「──よし、あとは乾燥させるだけだ」
「おつかれさま!」
「××もな」
「せなか、もむよー」
「頼むう」
もし、再びパズルを組む機会があるとしたら、テーブルは必須だと思った。
まだ背中が痛い。






309 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:32:59 ID:TB6qytOY0

2024年11月29日(金)

うにゅほが、部屋の隅で乾かしていたジグソーパズルを指でつつく。
「乾いてるか?」
「たぶん……?」
「なら、額に入れて飾ろう」
「うん!」
ノリさえ固まってしまえば、額に入れることは難しくない。
額の後ろで紐を固く縛り、少々寂しかった壁に掛けた。
「おおー……」
「うん、わりといいじゃん」
「いい……」
もともとは、適当な絵やポスターでも買って飾ろうと思っていたのだ。
「わたしたち、がんばった……」
「背筋痛めながらな」
壁に掛けられたジグソーパズルを見上げると、ふたりで組み上げた記憶が蘇る。
ただ金を出して買っただけのものとは違う良さがあった。
うにゅほを膝に抱いて PCを操作しているときも、ついつい見てしまう。
それは、うにゅほも同じようで、ちらちらとジグソーパズルに視線を送るさまが微笑ましかった。
「いいなー……」
「いいよな」
「そら、がんばったね。すーごいたいへんだった」
「××がいなかったら、倍の時間かかってたかも」
「そこまではかからないよ―……」
「ふたりがひとりになるんだから、かかる気がするけど」
「……たしかに」
絵柄の難しさもさることながら、パズル慣れしていないことが大きかった気がする。
慣れた人なら、もっとスムーズなのだろう。
だが、この苦労がよかった。
頭をひねりながらも楽しんだ記憶が、見るたびに蘇るからだ。
「またやりたいね」
「やりたいけど、飾る場所がな……」
「そだね……」
ないことはないが、壁という壁をジグソーパズルで埋めるわけにもいかない。
「組み立てて、また崩して、何度も遊ぶ人もいるらしいけど」
「さいのかわら」
「……わかる」
さすがに、そこまで極まってはいない。
「まあ、そのうちだな。すぐにはいいや……」
500ピースを組めたのだから、次は1000ピースという話になりそうで恐ろしい。
一度組んだからわかるのだが、ピースが倍になったからと言って、所要時間が単純に倍になるわけではない。
倍になるのは選択肢、つまるところ難易度であって、三倍や四倍の時間がかかることもざらにあるはずだ。
もしやるとしたら、わかりやすい絵柄を選ぶことにしよう。
間違っても、空は、もう組まないぞ。






310 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:33:20 ID:TB6qytOY0

2024年11月30日(土)

風呂から上がり、ドライヤーで髪を乾かしたあと、パソコンチェアに腰掛ける。
「あ」
「どしたの?」
ナチュラルに俺の膝に腰を下ろしながら、うにゅほが尋ねた。
「またヒゲ剃るの忘れた……」
「あー」
俺は、ヒゲが薄い。
たとえ一年放っておいても、ヒゲが生え揃うことはないだろう。
だが、どうしたって産毛は生える。
故に、たまに剃らないと気になるのだ。
「──…………」
うにゅほが、俺のあごの下に手を伸ばし、ぷちっと産毛を抜く。
「どんなもん?」
「そったほう、いいかも……」
「だよなあ」
「さいごにそったの、いつ?」
「えー、わからん」
「わからんの」
「ヒゲを剃るってルーティンがないから、マジで忘れる。いつだっけ」
一ヶ月だろうか。
二ヶ月でも驚かない。
「ただ、口の周囲に産毛だけはたまに抜いてる。あれは、さすがにみすぼらしい」
「◯◯、くちのあたりそると、たまにちーだすもんね……」
「複雑なんだよ、形状が……」
俺だって、顎の下や頬に傷をつけたりはしない。
「わたし、そらないから、わかんない……」
「産毛も生えない女め」
「うへー」
「暇だったら抜いて」
「はーい」
適当な動画を見ながら、あごを上に向ける。
すると、うにゅほが、指で産毛をぷちぷちと抜き始めた。
「……ここで抜いたら、また剃らない気がしてきた」
「そったほういいよー」
「明日剃るよ、明日」
などと言いつつ、明日も剃らない気がするのだった。






311 :名前が無い程度の能力を持つVIP幻想郷住民:2024/12/01(日) 17:34:33 ID:TB6qytOY0

以上、十三年め 後半でした

引き続き、うにゅほとの生活をお楽しみください
 



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コメント一覧

  • 1  Name  名無しさん  2024年12月02日 19:51  ID:p8ZRgp2I0
    13年⁉ 


  • 2  Name  名無しさん  2024年12月02日 20:55  ID:ey1g0hKy0
    何故、そんなに無駄な時間を・・・



  • 3  Name  名無しさん  2024年12月02日 21:20  ID:k8h7sjMM0
    管理人の家族を解放しろ


  • 4  Name  名無しさん  2024年12月02日 21:35  ID:RE.G4fyD0
    大人になると13年ってあっという間だからなぁ
    中学時代の3年間より遥かに短く感じる
    当人もきっと、書いてたらいつの間にか13年経ってたって感じなんだろうな


  • 5  Name  名無しさん  2024年12月02日 23:30  ID:VYrEVahZ0
    引きこもってて他にやること無いんやろな


  • 6  Name  名無しさん  2024年12月03日 00:03  ID:gM1.RoYw0
    こいつが13年もしょうもない妄想日記書いてる間に、かつての同級生は職場でそれなりのポストに就いたり家庭を持ったりしてるんだよなぁ



  • 7  Name  名無しさん  2024年12月03日 10:00  ID:rW.T.VEh0
    職場でそれなりのポストに就いたり家庭を持ったりしながら
    13年間この妄想日記を書いてる可能性だってあるだろうに


  • 8  Name  名無しさん  2024年12月03日 12:04  ID:4rahEPRd0
    >>7
    (ヾノ・∀・`)ナイナイ
    そういう人はそんな幼稚なことやってるヒマも意味もないからなw


  • 9  Name  名無しさん  2024年12月03日 14:22  ID:scXnuRTy0
    管理人はこんなクソ記事律儀にまとめてる暇あるなら、仕事してくんねーかな
    反則の記事上がる度にいつもの人湧いてるじゃん


  • 10  Name  名無しさん  2024年12月12日 13:52  ID:6o6upcej0
    久しぶりに見たらまだやってて草

    こわい


  • 11  Name  名無しさん  2024年12月18日 22:15  ID:xzJPQCrJ0
    13年も続けてるのは普通に凄いと思う
    頑張ってね


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