アメリカでは、サブプライムローン問題に相変わらず振り回されている
感じがします。

 既にご紹介しましたように、FRBのバナンキ議長は、地域銀行に対
し、住宅ローンの元本を一部を削減してあげたらと提案していますし、
また、民主党では、焦げ付いた住宅ローンを政府が買い上げる案など
も登場しているようです。


 そういえば、我が国においても、不良債権問題が深刻化したとき、一
部の学者は、不動産を買い上げたらどうかなどと提案しました。

 日本も不況の長期化にともない、何でもやりましたね。

 日本銀行が株を買い上げることまでしました。今考えると、信じられな
いことです。でも、結局、不動産を買い上げることまではやりませんでし
た。正解でしょう。

 しかし、あのアメリカで、不動産を買い上げたらという案が打ち上げら
れている訳ですから、大変驚きです。

 「何故驚きなの?」

 それは、アメリカは、市場経済の国であると信じられてきたからです。

 可能な限り、政府の市場への介入を抑え、市場のメカニズムを尊重す
ることが大切だと。

 売れ残ったような不動産を政府が買い支えることは、市場経済の原
理に反することです。

 米国も中国と戦略対話を繰り返すうちに、少しずつ洗脳されてしまっ
たのでしょうか。

 

 それはそうと、バナンキ議長が元本削減にまで言及しているのは、
何故なのでしょう。

 「景気の後退を防ぐためでは?」

 それは、そうかもしれませんが、モラルハザードを引き起こすことが必
死で、また、真面目に返済をしている人からブーイングが起きるのが分
かりきったことを、何故、敢えて提案するかということです。

 これが、政治家による提案なら分からないでもありません。でも、バナ
ンキ氏はFRBのトップです。そうした提案は中央銀行の総裁として相応
しいものなのかと、思わず考え込んでしまいます。

 いくら雇用の確保や経済成長にも十分配慮しないといけないとして
も、それは金融政策の範疇を超えたもののように思われるのです。


 ということで、先日の、バナンキ議長の発言を再度点検してみることに
します。


 To date, permanent modifications that have

occurred have typically involved a reduction

in the interest rate, while reductions of

principal balance have been quite rare.
 

「本日までのところ、契約条項の修正は、金利の軽減という形で生じて
いることが多く、元本の削減というのは、極めて稀だ」


 The preference by servicers for interest rate

reductions could reflect familiarity with that

technique, based on past episodes when most

borrowers' problems could be solved that way.


「 債権回収会社は金利軽減を好むようであるが、それは金利軽減の手
法によって借り手の問題が解決することができたという過去の経験が
あるからであり、またそうした手法に馴染んでいるからである」


 But the current housing difficulties differ

from those in the past, largely because of the

pervasiveness of negative equity positions.


「しかし、現在起こっている住宅問題は、過去のものとは違う。それは、
自己持分のマイナス化が幅広く起きているからだ」


 With low or negative equity, as I have mentioned,

a stressed borrower has less ability (because

there is no home equity to tap) and less financial

incentive to try to remain in the home.


「今述べたように、持分が小さくなったり、或いはマイナスになっている
と借り手の返済能力は弱まる(何故ならば、利用可能な 持分がないか
らだが)し、購入した家に住み続けようとするインセンティブも少なくな
る」


 In this environment, principal reductions that

restore some equity for the homeowner may be

a relatively more effective means of avoiding

delinquency and foreclosure. 


「こうした環境において、住宅保有者の持分の回復につながる元本削
減は、延滞や差し押さえを回避するための有効な手段になり得るもの
だ」

 

 バナンキ議長がここで何を述べたいのか、その真意を理解するため
には、EQUITYという単語の意味を知っていないと話になりません。


 では、EQUITYとは、何でしょうか。

 公平、公正というのがすぐ頭に浮かぶと思いますが、公平や、公正で
は意味が通じません。

 法律用語の衡平法とも関係がなさそうです。

 これは、金融や経済に関係する用語で、財産物件のネットの価値とい
うことなのです。つまり、ローンを借りて住宅を取得した場合、その住宅
に仮に3千万円の市場価値がついていた場合で、そのために借りたロ
ーン残高が2千万円だったとすれば、3千万円から2千万円を引いた残り
の1千万円が、equity、即ち持分ということになるのです。

 何となく意味が分かりましたか?

 アメリカでは、最近まで住宅価格の値上がりが続いていましたから、
例えば、3千万円の物件を3千万円借りて購入しても、仮に4千万円にな
ったら、1千万円のe
quityが発生していたのが、今は、逆に市場価格の
低下が起こり、そうしたequityが小さくなったり、マイナスになったりして
いるというのです。

 仮に、その3千万円の市場価値があった物件が2千万円になったとし
ましょう。そして、そのときに、ローンの残高がまだ、27百万円残ってい
るとしましょう。そうすると、マイナス7百万円のequityになっているという
ことです。

 もはや2千万円の価値しかなくなっている物件を今後も保有するため
に、貴方はこれから先残りの27百万円の借金を払い続けますか?とバ
ナンキ氏は聞いているのです。

 選択肢は2つ。

 これから先27百万円を払い(利子は別途払う)物件を完全に自分のも
のにする。

 或いは、その物件を手放し、返済の義務から免れる。

 

 その住宅に愛着があれば、ローンの返済を続けるかもしれませんが、
住宅価格の値上がりを期待した投機的な意味合いが強い場合には、
簡単に差し押さえを受け入れるかもしれません。


 それに、今後もどんどん住宅価格が低下すると思えば、ここは一旦住
宅を手放し、従って、借金もちゃらにしてもらい、そして、住宅価格が底
を打ったと思うときに再度住宅を購入した方が得になる可能性がありま
す。


 多くのサブプライムローンの借り手が、このように考えると、ひょっとし
たら、住宅価格の低下は今後益々激しくなる可能性があり、そうなると
一段と経済が冷え切ってしまう可能性がある。それは何とか食い止め
なければいけない。

 そう、バナンキ議長は考えたのでしょうね。


 でも、よーく考えてみて下さい。

 住宅価格の低下は悪いことなのでしょうか?


 「それは、そうに決まっているじゃないの」

 どうしてでしょう。

 「住宅価格が下がると、大損するからよ」

 確かに、不動産屋さんや投機目的で住宅を取得している人は、損を
被ることになりますね。

 でも、今から住宅を買いたいと思っている人にとっては、安い価格で購
入できることになるからウエルカムな筈です。


 そして、価格が低下することによって住宅の購入が増加することにな
ると、景気はまたよくなります。

 「ということは、住宅価格が下がった方が言いというの?」

 あまりはっきり答えると、何か誤解されそうで怖いですね。

 でも、日本の例を振り返っても、相当に長い間不動産価格が回復する
ことはありませんでした。落ちるところまで落ちないと、回復は難しいの
です。

 しかし、今のアメリカの政策は、そうした不動産価格の低下を少しでも
食い止めたいと思っているようなのです。


 そのような政策は適切なのでしょうか。

 経済学の基本に戻りましょう。


 古典派の人々は考えました。

 不況になると、物価が下がるから、そうすると自ずから需要が回復し
て、また需要と供給がバランスする。だから、政府が介入する必要はな
いのだと。

 しかし、世界的な大恐慌が起こりケインズが登場します。

 不況になって物価が下がるといっても、なかなか下がらない。そうした
傾向は賃金の場合にはなおさらだ。市場のメカニズムに期待しように
も、賃金や物価が硬直的であると、需要が回復することはなく、不況か
ら脱出することはできない。だから、政府が出動して、需要を追加するこ
とが必要なのだと。


 ケインズは、何でもかんでも、有効需要を追加すれば良いと言ったの
ではありません。市場の価格調整機能が期待できないからだったので
す。

 でも、今、アメリカでは住宅価格の低下が起きています。

 ねえ、何を言いたいかお分かりでしょう。

 住宅価格の低下が起きているというのは、市場が正常に機能してい
るということです。であれば、いずれ、需要が回復することが期待されま
す。

 なのに、何を大慌てしているのでしょうね。

 今、米国で大恐慌時のように大量な失業者が溢れかえっているので
あれば分かります。でも、現在の5%台の失業率は、歴史的にみても相
対的に低い水準にあります。

 本当に慌てるべき問題は、他にありそうな気がするのですが‥。

 

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