先日、フジマキ氏の「円高が諸悪の根源」とする仮説を検討しました。ご承知のように内容的にはいろいろ問題がある仮説だったのですが、ただ韓国のウォンが、戦後対円で1/13の価値しかなくなっているという指摘については改めて驚かされたのです。はっきり言って私の認識不足でした。

 そんなにウォンの価値は下がっているのか? では、この10年ほどの動きではどうなのか?

 流石に1/13ということはありませんが、それでもここ数年の円高などを反映して、ウォンは対円で半分近くまで価値を下げているのです。

 つまり、日本の輸出企業にとっては韓国が強力なライバルなので、余計にウォン安の動きが気になってしょうがない、と。こんなに円高にならなければ‥或いは、こんなにウォン安にならなければ、もう少し日本は健闘ができる筈なのに、と。韓国のウォンが対円で半値近くまで下がっている訳であるから、これでは日本の輸出企業は太刀打ちできない、と。何故ならウォンが半値になれば、韓国の輸出品の価格はドル建てで半値にすることが可能であるからだ、と。

 もし、これが本当であればフジマキ氏の主張は相当に説得力を持つのです。

 しかし、実際にそうなのか?

 でも、ウォン安がそこまで有利に作用することはないのです。何故? その訳を以下考えてみることに致します。

 例えば、円安が急激に襲ったと仮定しましょう。円が80円/ドルから160円/ドルに低下したとして、日本の輸出企業にはどんなメリットがあるのでしょうか?

 その時には例えば、1万ドルの価格の自動車を一台売り上げると、今までは80万円の売り上げがあったのが160万円になり、一挙に売り上げが倍増するということで、輸出企業にとっては笑いが止まらなくなるのです。

 或いはこの際、その自動車の販売価格を下げて一気にシェア拡大に走ることもできるでしょう。つまり、輸出企業としては、1台80万円で売り上げればペイするとすれば、円安の結果、今まで1万ドルで売っていた自動車を5千ドルで売ることも可能であるのです。5千ドル×160円=80万円であるからです。

 つまり、今まで1万ドルで売っていたものを5千ドルにまで引き下げることができれば、諸外国のライバルたちに比べ圧倒的に安い価格で自動車を市場に出すことができるでしょう。

 しかし、1ドル=80円が1ドル=160円にまで円安になったら、日本の輸出メーカーはドル建ての製品価格を半分にまで引き下げることが本当にできるのか?

 答えはノー。

 でも、何故?

 というのも、仮に日本の輸出企業が自動車を生産するための原材料をドルで購入しているとすれば、円安になったせいで海外に支払う原材料費が倍になってしまうからです。話を単純化するために、全ての原材料費がドルで支払うものだと仮定すれば、円がドルに対し半分の価値しかなくなったのならば、結局、今まで1万ドルであった自動車はやはり1万ドルで売らないとペイしないということになるのです。

 もっとも、実際には、原材料費の内の相当の部分は円で支払うものであるために、円安にともないドル建ての製品価格をある程度は引き下げることが可能です。

 ということで、急激に起こる為替相場の変動は、輸出企業の決算に一時的に相当な影響を与えるのですが、長い目で見た場合には、今言ったようにコスト面にも影響を与えるために、思ったほど有利になったり不利になったりする効果はないのです。

 まあ、そういうことで、こうして日本を円高が襲っても、日本の輸出企業は時間をかけてそれに耐えうるような調整に励み、どうにか今日まで持ちこたえているという訳なのです。そして、日本の輸出企業がそうやってしぶとく耐えているので、円高が止むことがないとも言えるのです。

 もし、日本の輸出企業がもうギブアップということになれば、その時に円高はストップするでしょう。

 


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