池信夫教授が、安倍総裁に対してまたまた講釈を垂れています。

 お断りしておきますが、実は、私の基本的な考え方は割と池田教授に近いのです。つまり、インフレ目標値なんて政策はつまらん、と。だから本当は池田氏を批判するとリフレ派を利するだけなので複雑な気もするのです。

 しかし、だからと言って‥

 池田氏が安倍晋三さんのためにインフレ入門の講釈を垂れるのも、安倍さんが次期総理になる可能性が高いからでしょう。

 つまり、日本のリーダーになる人にはもっとしっかりして欲しいと願えばこそ、うして苦言を呈するのでしょう。

 でも、そうした池田氏の行為が是認されるのも、池田氏の主張に説得力があればこその話です。仮に、池田氏の主張に理論的な欠陥でもあれば、それこそインフレ目標値政策が正しいとされてしまうのです。

 昨日、池田氏は、「安倍晋三氏のためのインフレ入門」という記事を書かれております。

たぶん安倍氏は、次のように考えていると思う。

1. 物価水準はマネーの量を物の量で割ったものだから、物の量が変わらないときマネーを増やせばインフレになる。
2. デフレが続いているのは、日銀が思い切ってマネーの量を増やさないからだ。
3. 3%のインフレ目標を設定し、物価上昇率が3%になったところでマネーを増やすのをやめればいい。
4. 日銀がやってもだめなら、政府が公共事業でマネーをばらまけばいい。

 これはすべて間違いである。順にみていこう。」

 と言って、自分の考えを開陳されている訳ですが、そのうちの「2」についての説明がどうも頂けないのです。

「一般論としては、マネタリーベースを増やせばマネーストックも増えることが多い。上の図でも、金利が高かった1980年代後半から90年代前半にかけては、マネタリーベースの動きとマネーストックの動きはかなりパラレルになっている。しかしデフレでゼロ金利になった2000年代には、両者の動きにはまったく相関がない。これは流動性の罠に入ったためだ。・・・と言ってもわからないと思うので、たとえ話で考えよう。日銀の供給する資金をバナナと考えると、金利はその値段だ。値段がついているうちはバナナの量を増やせば売れ行きも増えるが、バナナが増えすぎて値段がゼロになったら、それ以上増やしてもバナナは売れず、店に「ブタ積み」になるだけだ。」

 この池田氏の説明を聞いて貴方はどう感じているでしょう?

 そのとおりだと思います?

 そういう人は殆どいないと思うのです。というよりも、難しすぎてよく分からんという人が大半ではないでしょうか。

 ただ、池田氏の名誉のために言っておくと、彼の考え方は非常に筋が通っているのです。従って、何を言いたいかがよく分かる‥私にとっては。しかし、その一方で、どうも教科書的教えに忠実過ぎて、現実をみていない。

 先ず、池田氏は、流動性の罠に入ったために、マネタリーベースとマネーストック、つまりマネーサプライ、もっと言えば世の中に出回る通貨の総量の関係が希薄になったと言うのですが、これが大変ミスリーディングであるのです。

 流動性の罠に入ると、世の中に出回る通貨の総量が増えない。それは、そのとおり。

 では、流動性の罠とは何か?

 流動性の罠とは、人々の現金を保有しようとう選好が強くなることによって、現金が退蔵されてしまう状態を言うのです。

 つまり、人々が何らかの理由によって現金フェチになってしまうと、お金を銀行に預けたり、あるいは国債に投資したりするのが嫌になり、タンス預金に精を出すことになる。だから、どれだけ中央銀行が市場にお金をばら撒こうとしても、人々のそうした現金フェチ的行動によって阻止されてしまうであろう、と。

 確かに、ゼロ金利になった2000年前後にはペイオフ解禁が関心を呼び、人々が現金フェチになり、マネーストックが減少したのはそのとおりなのです。

 但し、池田氏は大切なことを見落としている。

 彼はこう言います。「デフレでゼロ金利になった2000年代には、両者の動きにはまったく相関がない。これは流動性の罠に入ったためだ」

 いいですか? 人々が現金フェチになった(つまり流動性の罠にはまった)のは、金利がゼロなったからではないのです。断じてそうではない。人々は、自分たちが預けている預金が本当に安全なのか、それが心配になったから預金を下ろしたり、預金を預けたがらなくなったのです。

 その証拠に、それからしばらくして不良債権の問題が解決した後は、今そうですが、どんなに金利がゼロに限りなく近くても、人々は銀行にお金を預け、また国債を購入している訳ですから、決して現金フェチではなくなっているのです。

 つまり、ゼロ金利だから流動性の罠に陥るというのは、全く本来の流動性の罠の意味をはき違えているのです。

 一方、流動性の罠に陥ったら、世の中に出回る通貨の総量が増えにくくなるのはそのとおり。しかし、ゼロ金利政策を採用しているから流動性の罠に陥っていると考えるのは、おかしい!

 但し、何故そのような「流動性の罠」の誤用が起きているかと言えば、クルーグマン教授がそのような意味で「流動性の罠」を使用しているからで、本来それは「金融政策の罠」とでもいう状態なのです。

 次に、池田氏は、たとえ話を持ち出します。普通、たとえ話というのは、それを聞いてなんとなく分かったような気になるから意味があるのに‥このたとえ話は頂けません。

 彼は、日銀の資金をバナナと考えよと言います。バナナに値段がついている間は、バナナが安くなればなるほど需要は増えるであろうが、バナナがタダになるとバナナはブタ積みになる、と。

 そんなバナナ!

 バナナが安くなるにつれ、需要は増える。それはそのとおり。しかし、何故バナナがタダになると、バナナを欲しがる人がいなくなると言うのか?

 確かに世の中にバナナがあふれタダになってしまえば、バナナを有難く思う人は少なくなるでしょう。しかし、そうは言っても他の食物はお金を出さないと買えないのに、バナナがタダでいつもスーパーの入り口に陳列されていれば、タダならもらって行くという人が多いのではないでしょうか?

 だから、決してブタ積みになるとは断言できないのです。

 その証拠に、街角でいつも配っているタダのティッシュもいつの間にかなくなる訳ですから。水だって空気だって、或いは海で釣れる魚だってみんなタダなのに、そうしたモノに対する需要が途絶えることはないのです。

 それに、池田氏は、日銀の供給する資金をバナナにたとえているが、そこのところがそもそもおかしい。たとえるのであれば、市中銀行が一般企業に融資する資金をバナナにたとえる必要があるのです。そして、その貸出金利がゼロになること、バナナの価格がタダになるのと同じであるというのであれば、まだたとえ話として筋は通るのです。

 では、市中銀行の貸出金利が低下するとどうなるのか?

 一般の企業の資金需要は、池田氏のバナナのたとえのように、価格(金利)が低下すればするほど多くなるのはそのとおり。そして、そうやって企業の資金需要が伸びれば伸びるほど、世の中に出回る通貨の総量も増える、と。

 では、市中銀行が一般企業に金利ゼロで融資話を持ち掛けたら、企業は、資金需要がないからといって、そんな有難い話を断るのか?

 そんなことは決してないのです。

 どんなに本業の方で資金需要がなくても、そうやって銀行が金利ゼロにお金を貸してくれるのであれば、それを国債投資すれば、1%程度の金利を稼ぐことができるからなのです。だから、世の中に出回る通貨の量が増えないなんてことはないのです。

 しかし、現実には、決して市中銀行は一般企業に金利ゼロでお金を貸すなんてことはしません

 というよりも、不況にあえぐ企業には‥つまり、リスクの高い企業にはむしろ高い金利でないと話が合わないと思っているのです。

 多くの人は大切なことを忘れています。

 景気が良い時: 金利は高い

 それは当然でしょう。景気がいいため、企業の資金需要は旺盛であり、少々金利が高くてもお金を借りたがるからです。

 景気が悪い時:金利は低い

 それも当然でしょう。景気が悪くなると、資金需要が弱くなる上に、中央銀行が低金利政策をとるから金利は低くなる。

 では、中小企業は、景気が悪くなって低金利の局面に入ると、低い金利でお金を借りることができるのか? 

 例外もあるでしょうが、多くの中小企業、景気が悪くなると業況が芳しくなくなりリスクが大きくなる訳ですから、銀行としては、中小企業に対してはそれほど金利を引き下げることができないのです。否、それどころか、不況になって倒産の確率が高くなったと言う理由で、金利を引き上げる銀行もあるのです。或いは、金利を上げなくても、担保を追加させる、と。

 ということで、今ゼロ金利だなんて言っても、それは所詮、日本銀行と市中銀行の間のお金のやり取りに関わる話でしかないのです。

 つまり、一般の企業にとっては、とてもゼロ金利なんて話ではない、と。

 結論。 

 そもそも流動性の罠に陥っているという現状認識が間違っている。そして、一般の企業はほぼゼロ金利で融資を受けられる訳でもないので、その意味で、クルーグマン流の「流動性の罠」にも陥っていない。但し、企業と銀行の融資条件に関する話し合いが成立しにくい状況にあるため、融資が伸びず、その結果、通貨の総量が増えにくい状況にある。


 だから、池田氏のバナナのたとえは正しいとは言えないのです。



 池田教授が、自分の説明に納得ができない人は、今週のメルマガを読んで下さいと言っていますので、最後にその旨お知らせしておきます。



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