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代表です。
広島の呉市立美術館で開催されている、
『マンガとアニメで観る こうの史代「この世界の片隅に」展』に行ってきました。

先日、完成したアニメ映画「この世界の片隅に」の試写を観てから、
此処でしか見れない原作のこうの史代さんの原画展をどうしても見たくなったのです。
同時に作品の舞台である「呉」という町を知りたい気持ちもありました。

実際に足を運んだ呉市立美術館での展示は驚くべきものでした。
約450ページという本作の原画が全てそのまま読める形に展示されているのです。
しかも一話毎に作品の背景に関する考察や作者コメントも添えられていて、
とても贅沢な読書体験をさせてもらいました。

この他、貴重な取材ノートや資料写真、実際に使われた意外な画材など、
創作過程に関わる展示物も多く、たいへん興味深い内容でした。
また、戦時中の市民の生活に関わる品々も実物が置かれており、思わず目を凝らしました。
そこにあったのはまさに主人公・すずさんが生きた時代の空気でした。

アニメ関連の展示も、原画やレイアウト、背景美術、メイキング映像などが充実しており、
片渕須直監督がどのように作品の世界を映像に写し撮っていったかが丁寧に説明されています。

この展示会を見るだけでも、「呉」市のこの映画への力の入れようがよく判りましたし、
町中にもポスターやチラシが目につき、映画のロケーションMAPも配布されていました。
これから「呉」に行かれる方はぜひ利用されると良いと思います。
ちなみに呉市立美術館での展示会は11月3日までですのでどうぞご注意ください。

また、現在発売中の「この世界の片隅に」公式アートブック(宝島社)は、
この展示の内容を基本にしたもので、こちらもお薦めです。


さて、あらためて旅の思い出を。
初めて訪れた「呉」の町は、おだやかな瀬戸内海に面し、のどかな空気に包まれていました。
けれどそこは、かつては東洋一の軍港として知られ、あの戦艦「大和」が建造された場所でもあります。
だからこそ太平洋戦争では米軍の標的となり、いくども激しい空襲を受けました。
現在は記念施設として「大和ミュージアム」が港に建てられ、往時を偲ぶことができます。

作中にも登場する、大きな船舶が行き来する港や、町中を流れる川やそこに架かる橋を眺め、
緑の多い街路を歩いていると、もちろんその風景が現代に変わってはいても、
70年前のこの町に暮らしていた主人公のすずさんや周作さんたちの姿が瞼に浮かび、
今いるこの場所と地続きのまま、作品の世界に入り込んだような不思議な感覚を覚えました。

今回の旅で一番行きたかったのはすずさんたちの家族が暮らす家があった長之木町の辺り。
けれどいざその場所に立つと、作中に描かれただんだん畑はすでに無く、新興の住宅地に視界を遮られ、
往時のすずさんたちが見ていた、長い石段から「呉」の町を見下ろす光景は見れませんでした。

それでもどうしても同じ景色が観たくて、車で町の後方にある灰ヶ峰の山頂に登りました。
そこからは「呉」の町の全景と、瀬戸内海の島々を望む「呉」港を見渡せる観光名所になっています。
正面に海、残る三方を山に囲まれた「呉」の町は意外なほど小さく感じられました。

この時に灰ヶ峰の山頂まで案内してくれたタクシーの運転手さんは「終戦の年の生まれ」だそうです。
道すがら、幼い頃の思い出話をいろいろ聞かせてくれました。

自分がまだ産まれる前に母親のお腹の中に居た頃のこと、
身重の母が空襲に襲われ、逃げ込もうとした防空壕はすでに満杯で、
幸い別の壕を見つけて難を逃れたけれど、最初に入ろうとした壕は爆弾で全滅していたそうです。

「自分はたまたま助かっただけですよ。ハッハッハッ」と、運転手さんは笑い声交じりに語りましたが、
戦時下の恐ろしいエピソードとしてよく聞く話を、まさか生々しい実体験として聞いたのは、
やはりそこが悲しい歴史を持つ「呉」の町だったからかもしれません。

そして灰ヶ峰の山頂から見た「呉」の町の景色は、山のふもとに住むすずさんの観た景色ではなく、
実は昭和20年3月19日にこの山を越えて飛来した米軍機B29の操縦士の視点であったことも、
その運転手さんが教えてくれました。

「こういう話が出来るのも私の世代が最後ですね…」と寂しそうに言う運転手さんに、
「戦時中の呉が舞台の映画です」と言って、「この世界の片隅に」の映画のチラシを渡してきました。
公開された映画を見てくれるといいな、と思います。
きっと次に乗せたお客さんに映画のことを、当時の思い出交じりに教えてくれるでしょうから…。


あらためて、今回のCOMITIA118では会場内企画として
アニメ映画版の監督の片渕須直さんと原作者のこうの史代さんのトークショーが行われます。
【詳細はこちら→片渕須直+こうの史代公開トークショー
多くの人が、この原作とアニメ化された映画に触れてくれることを心から願って止みません。

なお、当日の会場内では、「この世界の片隅に」原作コミックスはジュンク堂書店さんのコーナーで、
11月12日に公開される映画の前売券はトークショーのコーナーの物販ブースにて販売されます。
ぜひ、どうぞご覧になってみてください。