小菅努の商品アナリスト日記

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歴史は繰り返す、原油価格高騰後のシェール増産

国際原油価格が値下がりしている。NYMEX原油先物相場は年初の1バレル=60.20ドルに対して1月25日には2014年12月以来の高値となる66.66ドルまで値上がりし、その後も60ドル台中盤の高値圏を維持する値動きになっていた。原油相場の70ドル説、80ドル説といった強気見通しも勢いを増し始めていたが、2月入りしてからは徐々に地合を悪化させ、2月9日の取引ではついに60ドルの大台も割り込んでいる。概ね年初からの上昇幅は完全に相殺し、いわゆる「往って来い」型の値動きになっている。

マーケットで注目を集めているのが、米国のシェールオイル生産動向である。すなわち、原油価格の急騰を受けてシェールオイルの生産活動が活発化する中、再び供給超過状態に後戻りしてしまうのではないかとの警戒感が、原油価格を下押ししている。

米国の産油動向を考える際の指標としては石油リグ稼働数(米ベーカー・ヒューズ社発表)があるが、その数値が急増しているのである。昨年11月3日時点の729基に対して、年末時点で既に747基まで増加していたが、直近の2月9日時点では791基に達している。約3ヵ月間で62基(8.5%)の急増であり、このまま原油高がシェールオイル産業を刺激し続けると、シェールオイルの生産量が一気に急増するリスクが警戒されている。

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実際に米エネルギー情報局(EIA)は2月月報において、今年の米産油量見通しを日量1,059万バレルとして、前月から一気に32万バレル引き上げている。これでEIAが米産油量見通しを引き上げるのは5カ月連続になる。昨年8月時点では前年比で日量56万バレルの増産予想だったが、今や126万バレルの増産予想にまで見通しが大きく変わっている。

国際エネルギー機関(IEA)は今年の世界石油需要が前年比で日量140万バレル増加するとの見通しを示しており、好景気で良好な需要環境が続くことに自信を示している。しかし、今やシェールオイルの増産圧力は世界石油需要拡大圧力の全てを相殺しかねない状況であり、IEAは石油輸出国機構(OPEC)非加盟国全体であれば、需要拡大を上回る増産圧力が発生するとの見通しを、2月13日に公表した最新の月報で報告している。

2010年代の国際原油市況は、原油価格が高騰する度にシェールオイルの増産圧力が強まることで、その後に急反落する展開を繰り返している。昨年も1~2月に50ドル台に乗せた原油相場がシェールオイルの増産を加速させ、年央にかけて40ドル台前半まで急落している。今回も原油価格の高騰がシェールオイル生産活動の活発化を促す中、国際原油市場では「歴史は繰り返す」の格言を再び噛み締める必要性に迫られているようだ。

「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」との言葉もあるが、伝統的産油国とタイトオイル(シェールオイルなど)が共存できる新しい時代の原油価格、原油需給を実現する大きな課題を克服するためには、悲劇であろうと喜劇であろうと、同じような展開を繰り返していきながら、終着点を探る必要性がありそうだ。多くの時間を費やしながら、安定的な原油価格・需給環境を確立できる環境を模索していけば十分である。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅 努】

(出所)歴史は繰り返す、原油価格高騰後のシェール増産(Yahoo!ニュース)

暗雲立ち込める原油需給

暗雲立ち込める原油需給
シェール増産の脅威増す

1月の原油相場は年初の1バレル=60.20ドルから一時66.66ドルまでの急伸地合を形成したが、足元では60ドル台前半でやや上値の重い展開になっている。1)需要拡大と協調減産による在庫削減圧力、2)寒波による需要上振れ期待、3)ドル安などを背景に急伸地合が形成されたが、原油価格高騰を受けてシェールオイルに増産の兆候が増える中、更なる上値追いに慎重ムードが広がりつつある。

米産油量の先行指標となるリグ稼働数をみてみると、昨年11月3日の729基をボトムに、直近の2月2日時点では765基まで増加している。期先限月でも60ドル台定着が進む中、シェールオイル開発業者が本格的に投資を再開し始めていることが窺える。米エネルギー情報局(EIA)は2月月報において、2018年の米産油量見通しを前月から32万バレル引き上げ、日量1059万バレルとした。これで5カ月連続の上方修正になる。前年比での増産幅見通しは昨年9月時点の59万バレルから、126万バレルまで引き上げられており、既にシェールオイルの増産分のみで、世界の需要拡大分のほぼ全てが相殺される状況になっている。

しかも、北半球では冬の暖房用エネルギーの在庫手当が一巡し、製油所は順次メンテナス作業に入っている。米製油所稼働率は昨年12月29日の96.7%をピークに、1月26日時点では88.1%まで落ち込んでいる。昨年を振り返ると、4月頃までは製油所稼働率の低迷が続く見通しであり、輸出入バランスが大きく歪むようなことがなければ、短期スパンでは在庫増加圧力が強まる見通しである。

国際原油需給は漸く在庫正常化が見え始めた段階であり、まだシェールオイルの増産ペースが急加速するような展開は容認できない。協調減産の積み増しが難しい現状を考慮すれば、既にシェールオイルは増産可能ラインの限界に達した可能性が高く、仮にここから更に価格水準を切り上げたとしても、維持するのは困難だろう。

しかも、原油市場における投機筋の買いポジションは過去最高水準にあり、買い玉整理の動きが本格化すると、これまでの反動もあって必要以上に大きな下げ幅が実現する可能性もある。季節要因から短期需給が緩和に向かう流れに加えて、シェールオイルの増産加速によってマクロな需給リバランスの流れが阻害されるリスクも浮上しているのが、現在の国際原油相場である。

もちろん、急激なドル安傾向が続けば、需給環境と関係なく1月の急伸相場が再現される可能性はある。ただ、足元ではドル相場が落ち着きを取り戻しつつあり、今後は徐々に原油価格に対するインパクトは限定されよう。上昇シナリオとして警戒されるのは、リビアやナイジェリア、ベネズエラなどの供給トラブル発生である。シェールオイル増産圧力を相殺するような供給トラブルが発生した場合は、1月の高値水準維持も可能になる。(2018/02/07執筆)
【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2018年2月12日「私の相場観」

シェール増産、在庫増加でも下がらない原油相場の謎

国際原油相場が高止まりしている。NYMEX原油先物相場は年初の1バレル=60.20ドルから1月25日の66.66ドルまで急伸地合を形成したものの、月末31日にかけてはシェールオイル増産の加速を示唆する指標が嫌気された影響から63.67ドルまで軟化していた。しかし、2月入りすると改めて投機筋の物色意欲が強まり、2月2日のアジアタイムには66ドル台前半まで上昇し、年初来高値更新も視野に入れた状態になっている。
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原油価格分析の基本となる需給の視点では、値下りリスクが大きい相場環境に変わり始めている。例えば、需給バランスの指標となる米国内の原油在庫をみてみると、直近1月26日の週は11週間ぶりに増加に転じている。昨年11月10日の4億5,900万バレルをピークに、今年1月19日の4億1,158万バレルまで急減傾向が続いていたが、製油所が冬の暖房用エネルギー供給の手当を終えたことで、製油所向け原油需要が落ち込んでおり、今後は季節トレンドに沿った形で在庫が増加に転じる可能性が高まっている。これまで、「原油在庫減少→原油高」の教科書的なロジックが採用されていたことを考慮すれば、今度は「原油在庫増加→原油安」が当然に想定される相場環境と言える。

また、シェールオイルの増産加速に対する警戒感も強くなっている。先行指標となるものに米国内の石油リグ稼働数のデータがあるが、昨年11月3日の729基をボトムに、今年1月26日時点では759基まで4.1%増加している。米エネルギー情報局(EIA)の2018年産油量予想を見ても、昨年8月時点では前年比で日量56万バレルの増産予想だったのが、直近では97万バレルの増産予想まで修正されている。2月にはシェールオイルの生産が前月比で日量11万バレル増加するとの予想も出されており、昨年後半から続く原油高がいよいよシェールオイル生産高にも影響を及ぼし始めている。

もちろん、北半球の寒波、イラン情勢の先行き不透明感、石油輸出国機構(OPEC)やロシアの強力な減産政策などのポジティブな材料も存在するが、これから需要の端境期に向かう一方でシェールオイルの増産圧力は強化されることで、年央に向けての国際原油需給は供給「不足」から供給「過剰」への転換がほぼ確実視される状況にある。しかも、原油高が続けば続くほどに、その供給「過剰」の幅は拡大するリスクが高まることになる。

■ドル安で原油高? 原油高でドル安?
では、なぜ原油相場は高止まりしているのだろうか。原油市場に流入している過去最大規模の投機マネーは、何をみて原油市場からの離脱を見送り、逆に更に原油高が進む展開に賭けているのだろうか。

この答えは単純であり、ドル安が原油価格の高騰を促している可能性が高い。今年の為替市場では、金融政策見通しが大きく変わったユーロや円に対して上昇圧力が目立つ一方、ドルに対しては相対的に下落圧力が目立つ状況になっている。それは、1月30~31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で今年も着実な利上げ政策が展開される可能性が強く示唆された後にも変わりはなく、「ドル安が続くのであればドル建て原油相場が上昇するのは当然」との一種の安堵感が見受けられる。

1月のドルインデックスは3.4%の下落率を記録しているが、その間に原油相場は7.5%の上昇率を記録している。国際原油取引はドル決済が基本であり、1月の原油高の実に45.3%はドル安要因で説明ができる。

過去をもう少し長く振り返ってみると、原油相場は2000年代に08年の過去最高値まで急伸地合になっていたが、その当時もドルインデックスは01年7月の121.02ポイントから08年3月の70.69ポイントまで急落している。一方、14年から16年にかけて原油相場は急落しているが、その間のドルインデックスは14年年初の80.21ポイントから15年12月の100.51ポイントまで急激なドル高が実現している。

原油相場とドル相場との関係については、「原油高→ドル安」、「ドル安→原油高」と二つのロジックが成立し得る。原油高は換言すればドル安であり、ドル安は換言すれば原油高でもある。原油高はドルの購買力を毀損し、ドル安は原油の価値を高めることになる。もちろんこうした為替要因のみで原油相場が動く訳ではなく、特にシェール革命で米国の原油輸入量が急激に落ち込む中、従来程には原油相場とドル相場との間に強い逆相関関係は求められなくなっている。

ただ、需給緩和の兆候が増えても投機マネーが原油市場に滞留し続けている背景には、こうしたドル安環境における原油高という過去の経験則が生きていることは間違いないだろう。これから原油相場は、数カ月に期間が限定されるものの一段と強力な需給緩和圧力に晒される可能性が高いが、ドル安圧力がこうした需給要因に基づく下押し圧力をどこまで吸収、相殺できるかが、原油高の賞味期限を決定づけることになりそうだ。
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【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)シェール増産、在庫増加でも下がらない原油相場の謎(Yahoo!ニュース)

原油60ドル台は時期尚早

原油60ドル台は時期尚早
まだ危うい需給正常化

サウジアラビアのファリハ・エネルギー相は、2019年以降も主要産油国の間で政策協調を行うことで合意していると発言した。現在の協調減産は18年末までが期限とされており、協調減産の「出口」を巡る議論も活発化しているが、その「出口」に長めの期間を設定することで、協調減産体制からの離脱をスムーズに行うことを意図したものである。今回の協調減産体制によって、国際原油需給・価格環境の安定化を目指す方針を強く示した格好になる。

一方で、サウジアラビアがこのような踏み込んだ発言を行っているのは、それだけ需給見通しの先行きがぜい弱であることの裏返しとも言える。17年は強力な需要拡大圧力と協調減産によって、世界の石油在庫に対しては強力な減少圧力が発生した。特に4~6月期以降は3四半期連続で在庫が減少しており、在庫余剰感は解消方向に向かっている。まだ目標とする在庫の5年平均回帰までは道半ばの状況だが、少なくとも協調減産体制は一定の成果を上げ、国際原油相場は14年12月以来の高値圏まで上昇している。WTI原油は65ドル水準、ブレント原油は70ドル水準まで値上がりしているのは、投機筋が原油需給環境の改善傾向を高く評価していることを明確に物語っている。

ただ、国際エネルギー機関(IEA)の推計では、18年は上期が若干の供給過剰、下期が若干の供給不足であり、年間を通じた需給バランスはほぼ均衡状態との見通しに留まっている。すなわち、現時点では昨年のような大規模な在庫取り崩しが想定されている訳ではない。もちろん、経済破綻状態に陥ったベネズエラ、武装勢力の動きが活発化しているリビア、対米関係が悪化しているイランなどの生産動向によっては、想定外の需給ひっ迫状態が発生する可能性も残されている。その際は、WTI原油ベースで70ドルや80ドルといった価格水準を正当化する余地もある。

ただ、そうした特殊な供給トラブルが発生しないのであれば、堅調な需要環境を考慮に入れても18年中に更に在庫の削減を進めることができるか否かは、ぎりぎりの判断を求められる状況にある。特に、シェールオイル、オイルサンド、深海油田などは原油価格動向に敏感であり、シェールオイルの場合だと数カ月といったタイムスパンで価格変動の影響が生産動向に反映されることになる。

そして、足元ではシェールオイルの生産高見通しを引き上げる動きが相次いでおり、このまま現行価格水準を維持してシェールオイル産業に刺激を与え続けると、18年通期の供給超過といったシナリオも浮上する余地がある。足元では寒波の影響もあって需要が強めに推移しているが、今後は需要の端境期に向かうことになり、そのタイミングでシェールオイル増産が加速するような事態になると、一気に短期需給は緩むことになる。WTI原油の60ドル台定着を進めるのは時期尚早とみている。(2018/01/24執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2018年1月29日「私の相場観」

原油市場に過去最大の投機資金が流入中

原油市場で投機買いの規模が過去最高を更新した。米商品先物取引委員会(CFTC)が1月19日に発表した最新データ(1月16日時点)によると、WTI原油先物・オプション市場における投機筋(Money managed)の買い越し枚数(=買いポジション-売りポジション)は、NYMEXとICEの二つの市場を合計して前週比4万0,855枚の54万1,990枚(1枚=1,000バレル)に達している。

昨年末の46万0,836枚からは8万1,154枚(17.6%)の急増であり、年初から原油市場に大量の投機資金が流入したことが確認できる。この期間のWTI原油先物相場は1バレル=60.40ドルから63.70ドルまで3.30ドル(5.5%)の急伸となっているが、昨年中盤以降の強気スタンスが維持されている。

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底流にあるのは、シェールオイルの増産拡大などで大きく過剰供給方向に歪んだ国際原油需給が、需要拡大と昨年1月から始まった協調減産の成果によって正常化し始めていることがある。過剰供給解消が実現するのか不透明感が強かった昨年7月2日時点では、投機筋は僅か15万7,291枚の買い越しに留まっていたが、その後の約6カ月半で原油市場に滞留する強気の投機資金の規模は3.4倍にまで急増している。原油安の時代が終わった可能性が高いことを強く印象付けられる。

しかも年末年始を挟んでは、1)イランの地政学リスク、2)米原油在庫の急減、3)北半球の寒波、4)ドルの急落、5)世界的な株高など、マクロ需給環境以外の要因からも、原油市場に対する投機資金流入が加速し易い環境が整った。

ただ、こうした急激な投機資金の流入は原油高を加速させる一方で、急反落のリスクを高めることになる。

例えば、昨年1~2月には石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの協調減産がスタートしたことで投機筋の買い越し枚数は2月26日に44万3,703枚に達したが、その後は上述のように7月2日の15万7,291枚まで急減している。投機資金の流入で原油相場が50~55ドル水準まで値上がりしたことで米国のシェールオイル生産活動が一気に活発化した結果である。原油市場における投機資金の流入が過熱化したことが、需給見通しを悪化させたのだ。そして、現在の投機資金の規模はその当時を大きく上回っている。原油相場も2014年12月以来の高値圏となる60~65ドル水準まで値上がりしている。
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需給バランスが供給超過から均衡、そして供給不足に転換するにつれて、原油市場に対して投機資金が流入し、原油価格が上昇する展開には、何ら大きな問題はない。しかし、投機主導で必要以上の値上がりが実現すると、実際の需給環境よりも需給がタイト化しているシグナルが需要家と生産者の双方に発せられ、本来は必要がなかった需給緩和圧力が発生することになる。

国際エネルギー機関(IEA)は19日に発表した最近の月報において、原油高に伴う需要減退、更には天然ガスへの需要シフトが発生していることを報告している。また、米国、カナダ、ブラジルなどの産油量見通しが上振れしていることも報告している。まだ18年の国際原油需給バランスは均衡化見通しが基本になっているが、「原油高→需要抑制」、「原油高→供給拡大」のフローが発生し始める中、投機資金の流れが逆転し始めると思わぬ急落リスクも浮上することになる。

原油相場は緩やかにコアレンジを切り上げていく可能性が高いものの、年初からの原油相場急伸と投機資金の流入状況は、強気派にとっても不安を抱かせる状況になり始めている。特に、シェールオイルは中東産油国とは異なり、投資開始から生産開始までのタイムスパンが短縮されているため、原油価格変動の影響は数カ月程度で実際の産油量に反映される傾向にある。ここ最近の原油高がシェールオイルの増産加速を促すのは必至であり、それはリグ稼働数や米エネルギー情報局(EIA)の生産予測調査などにも明確に見て取れる。投機資金の流入による原油高は分かり易い現象だが、需給正常化の流れを阻害するか否かの議論の行方によっては、急反落のリスクを抱えることになる。

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)原油市場に過去最大の投機資金が流入中(Yahoo!ニュース)

年初の原油価格が高騰

年初の原油価格が高騰
上昇余地は限定的か

2018年の原油相場は、年初の取引開始と同時に急伸地合を形成した。NY原油先物相場は、昨年末の1バレル=60.42ドルに対して、1月第二週には早くも63ドル台まで値位置を切り上げている。これ14年12月以来となる約3年ぶりの高値を更新したことを意味し、昨年6月の42.05ドルをボトムとした原油高のトレンドが維持されていることが確認できる。

年末・年始の原油相場で材料視されたのは、イラン情勢の緊迫化だった。イラン国内では、高インフレや失業率上昇などに不満を強めた市民が大規模な反政府デモを展開し、同国からの原油供給に不確実性が高まったことが、原油価格に対してリスクプレミアムの加算を促した。イランは石油輸出国機構(OPEC)内で第三位の産油国であり、反政府デモが原油供給に影響を及ぼすと、不測の需給ひっ迫状態が実現する可能性もあるためだ。

しかし、その後は反政府デモが収束に向かったにもかかわらず、原油相場は更に上値を切り上げる展開になっている。今回の反政府デモでは原油一滴も供給障害は発生しない見通しだが、原油相場は積み上がったリスクプレミアムの剥落を進めることなく、逆に上昇ペースを加速させている。

極めて投機色の強い値動きと評価しているが、今回のデモをきっかけに米国=イラン関係が一段と悪化していることもあり、イラン核合意の見直し議論の活発化などが本格化すると、イラン産原油が長期にわたって落ち込むリスクも浮上することになる。現実問題として、イラン核合意は米国単独で破棄が可能なものではなく、直ちにイラン産原油を取り巻く環境が大きく変わる可能性は低い。ただ、昨年に協調減産の需要拡大の効果で在庫環境の正常化が進んでいることもあり、マーケットはこの種の供給不安に敏感に反応する「通常の相場環境」に回帰しつつある。

もっとも供給「障害」ではなく供給「不安」に留まる限りは、原油高には限界がある。原油相場の高騰は需給ひっ迫リスクのシグナルとなり、本来であれば必要ではない需要抑制や増産圧力が、必要以上の需給緩和状態をもたらすリスクを高めるためだ。特に、シェールオイル産業は既に昨年後半の油価上昇に反応し始めているだけに、近く増産ペースが加速する可能性は国際エネルギー機関(IEA)などからも指摘されている。

18年の世界石油需要は前年比で日量130万バレルの伸びが想定されているが、米産油量は既に97万バレルの増産が予想されている。しかも、米エネルギー情報局(EIA)は過去5か月連続で米産油量見通しを引き上げており、このまま原油高を放置しておくと、需要拡大幅をシェールオイル増産幅が上回り、在庫調整の動きが巻き戻される可能性も浮上する。実際にイラン産原油に供給障害が発生すれば60ドル台定着も可能になるが、現状では投機色の強い高値水準であり、持続可能性は乏しいと評価している。
(2018/01/10執筆)

【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)中部経済新聞2018年1月15日「私の相場観」

原油価格が高騰している5つの理由

国際原油価格が高騰している。NYMEX原油先物相場は、昨年末の1バレル=60.42ドルに対して、1月11日の取引では一時64.77ドルまで上値を切り上げている。これは2014年12月以来の高値であり、16年2月の26.05ドルからは約2.5倍の値上がりになる。ICEブレント原油先物相場に至っては、1月11日に一時70ドルの大台に乗せており、原油価格の復調が強く印象付けられる状況になっている。
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ではなぜ原油価格は高騰しているのだろうか。ここではマーケットが注目している5つの理由を紹介したい。

■理由1:地政学リスク
2017年末から18年にかけて急浮上したテーマが、地政学リスクである。昨年は専ら北朝鮮情勢が注目されていたが、原油市場における関心が高まっているのはイラン情勢である。イランでは年末・年始に大規模な反政府デモが発生したことは国内メディアでも大きく報じられたが、それに伴う供給障害は発生しなかった。しかし、トランプ米大統領はイランとの核合意見直し、追加制裁に意欲を示しており、米国=イラン関係の悪化が不測の供給障害を招くリスクが警戒されている。

■理由2:在庫減少圧力
よりマクロな視点だと、世界的な原油在庫の減少圧力も原油高に寄与している。世界経済の好調さを背景に需要が堅調に推移する一方、石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどが協調減産を実施する中、原油需給バランスの指標となる在庫は急激に落ち込んでいる。米国の場合だと、昨年3月時点では5億3,000万バレルを超えていた原油在庫が、直近では4億1,950万バレルまで減少している。しかも、11月中旬以降は8週連続で減少中であり、需給環境の正常化が強く印象付けられる状況になっている。
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■理由3:シェール生産統計の悪化
一方、原油高を抑制する要因としてシェールオイルの生産動向が注目されていたが、昨年12月以降はやや低調な指標が目立つことも、原油高に安心感をもたらしている。こちらは積極的な相場の押し上げ要因というよりも、下落圧力を阻止する要因になる。米国の石油リグ稼働数は昨年12月8日の751基をピークに、1月5日時点では742基まで落ち込んでいる。また米産油量は昨年12月15日時点の日量979万バレルに対して、1月5日時点では949万バレルまで減少している。「原油価格高騰→シェールオイル増産」のフローが確認できないことも、投機買いに安心感をもたらしている。

■理由4:ドル安
また、為替市場でドル安圧力が発生していることも、ドル建て原油価格の押し上げ要因になっている。米経済は好調であり、金融政策も段階的な利上げが行われるなど、ドルを取り巻く環境が大きく悪化している訳ではない。ただ、最近は日欧など米国以外の国の金融緩和政策も是正されるとの見方が、ドル相場を押し下げている。ドルインデックスは昨年10月27日の95.15ポイントをピークに、1月12日時点では91.68ポイントまで下落し、昨年9月20日以来の安値を更新している。最大で3.6%ものドル安圧力が発生していることは、それに相当する原油価格の上昇率を正当化することになる。
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■理由5:投機マネーの動き
そして意外と大きな影響があるのが、投機マネーの動向である。国際原油需給が緩和から正常化に向かう過程において、投機筋はこれまでの売りポジションを急ピッチで解消している。それと同時に買いポジションを積み増しており、原油市場では投機主導の価格押し上げ圧力が急激に高まっている。NYMEX原油先物市場における大口投機筋の買い越し枚数は、昨年6月27日時点の32万7,188枚に対して、1月2日時点では62万4,213枚まで拡大している。世界的な株高の影響もあって投資家のリスク選好性は強くなっており、必要以上の投機資金が原油市場にも流れ込んでいる。
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【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

(出所)原油価格が高騰している5つの理由(Yahoo!ニュース)

ガソリンが2年5ヵ月ぶり高値、トランプの中東政策を警戒か

資源エネルギー庁が1月11日に発表した「石油製品価格調査」によると、レギュラーガソリンの全国平均価格(1月9日時点)は1リットル当たりで前週比0.2円高の141.9円となった。これで3週連続の上昇となる。昨年の7月3日時点の130.3円をボトムに過去半年で累計11.6円(8.9%)の値上がりになった計算だ。これは2015年7月27日以来となる、約29カ月(2年5ヵ月)ぶりの高値を更新していることを意味する。

国際原油価格の上昇が続く中、日本の原油調達コストは着実に値上がりしており、それがそのまま国内ガソリン相場にも波及した格好である。国際原油相場が急落する以前となる14年前半から中盤にかけての160円台後半は大きく下回っているが、16年3月7日の112.0円を最安値としたガソリン価格上昇のトレンドは維持されており、安いガソリン価格時代の終わりが強く印象付けられる状況になっている。

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■トランプ大統領がガソリン価格を押し上げる可能性
国際指標となるNYMEX原油先物相場の動向をみてみると、昨年前半は年初の1バレル=50~55ドル水準に対して6月21日の42.05ドルまで急落していたが、年末にかけては60.42ドルまでの急激な切り返しをみせた。石油輸出国機構(OPEC)やロシアの協調減産体制が維持されている一方、世界の石油需要は堅調な伸びを示しており、余剰在庫が一掃とまでは言えないが解消方向に向かっていることが高く評価されている結果である。

その流れは年明け後も維持されており、直近の高値は63.67ドル(1月10日)にも達しており、14年12月以来の高値が更新されている。年末・年始を挟んでイランの反政府デモが供給不安を高めたが、その後は反政府デモが収束に向かったにもかかわらず、原油価格の高騰が続いている。

米国でイランとの核合意を見直す議論が活発化する中、一種の「トランプ・リスク」が強く警戒されている結果である。金融大手シティ・グループなどは1月9日付の最新レポートにおいて、中東や北朝鮮の地政学リスクが顕在化すれば、70~80ドルまで原油価格が更に高騰する可能性を警告している。

14年や15年の段階では過剰在庫を抱えていたことで、国際原油市場は各種の供給リスクを無視することができ、マーケットは寧ろ供給トラブルを原油需給・価格正常化のきっかけとして歓迎するムードさえみられた。しかし、在庫過剰の解消が進んでいることは、供給ショックに脆弱な通常の原油需給・価格環境に回帰し始めていることを意味し、トランプ大統領の対イラン政策の行方によっては、ガソリン価格の160円台乗せといった事態が予想以上に早く実現する可能性も浮上することになる。

仮にこうした中東や北朝鮮情勢を巡る大きな混乱状況が派生しなければ、シェールオイルの増産圧力が原油価格の上昇余地を限定することになる。米エネルギー情報局(EIA)は今年の原油価格の平均値として、現在の値位置を大きく下回る55.33ドル(昨年は50.79ドル)を想定している。このため、必要以上の原油高は逆に将来の需給緩和・価格低下リスクを高めることには注意が必要である。ただ、原油市場では余り材料視されていなかった「トランプ・リスク」について、今後はドライバーも関心を払う必要がありそうだ。米国=イラン関係の行方によっては、国内ガソリン価格は更に急騰することになる。

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【マーケットエッジ株式会社 代表取締役社長 小菅努】

(出所)ガソリンが2年5ヵ月ぶり高値、トランプの中東政策を警戒か(Yahoo!ニュース)

ペトロダラーの終焉か、人民元建て原油先物の取引開始迫る

中国で人民元建て原油先物取引が間もなく開始される。昨年12月に中国政府は取引開始の最終承認を行っているが、ポータル・ニュースサイト界面(Jiemian.com)は匿名の先物業者の話として、「1月18日」の取引開始で決まったと報じている。上場される上海期貨交易所の上海国際エネルギー取引所(INE)からの正式発表は行われていないが、12月中にシステムテストも終わっており、昨年から何度も延長が繰り返されていた人民元建て原油先物取引の開始が間近に迫っている。

国際原油価格については、米国のNYMEXで取引されているWTI原油先物、欧州のICEで取引されているブレント原油先物、そして中東(ドバイ)原油の三つが国際指標になるが、いずれもドル建てで取引されている。1バレル(約159kl)を何ドルにするのかを市場で決定し、これを指標価格に油種などに応じて各国が取引価格を決定していく流れになる。

一方、日本では東京商品取引所(TOCOM)がドバイ原油先物取引を上場しており、これは1klを何円にするのかを決定している。国内ではリットル単位の方が利便性が高く、自国通貨である円建ての指標価格を決定している。

その意味では、中国で人民元建て原油先物取引が開始されても、何ら議論に値しないとみることもできる。実際に、中国には上海期貨交易所の他に大連商品取引所、鄭州商品取引所などの大型の商品取引所が存在しており、工業用素材から農産物まで幅広いコモディティ(商品)の人民元建て指標価格が決定されている。

しかし、マーケットでは人民元建て原油先物取引の開始は、銅や大豆といった他のコモディティ先物取引とは異なる意味がある動きとの評価が存在している。すなわち、単純に人民元建て原油の指標価格を決定するのみならず、中国のより大きな国家戦略の中に位置づけられる動きとみられているのだ。具体的には、国際基軸通貨ドルに人民元が挑戦する通貨戦略がいよいよ佳境に入ったとみられている。

■ペトロダラーに挑戦する中国
この議論を理解するためには、「ペトロダラー(Petrodollar)」の話から始めなければならない。あまり聞きなれない言葉かもしれないが、「petroleum(=石油)」と「dollar(=ドル)」を合成した用語であり、国際原油取引では米ドルが国際決済通貨の殆どを占めることで、このような呼ばれ方をする。もっと踏み込むと、国際基軸通貨としてのドルの地位を維持するために、あらゆる国が必要としている石油をドルのみで取引する体制を創出・維持することを通じて、ドルの地位を守るアメリカの国家戦略システムと言える。

ペトロダラーの役割を重視する人達は、このペトロダラーの再循環(リサイクル)体制こそが、米国が世界最大の超大国としての地位を守るために、重要な役割を果たしていると考える。アメリカは「双子の赤字」と言われる巨額の貿易赤字と財政赤字を抱えており、通常であればインフレや通貨価値の低下、国際通貨としての地位低下といったアメリカにとって歓迎できない動きが想定される。それにもかかわらず、一貫して巨額の軍事支出が可能であり、中国に次ぐ世界第二位の経済規模を維持できているのは、ペトロダラーの再循環体制の恩恵と言える訳だ。

ロジックとしては、あらゆる国家は石油を必要としており、その国際決済をドルで行う限りは、産油国に巨額のドルが流れ込むことになる。そして、産油国はこのドルを米国債購入などを通じて米経済に還流させることで、アメリカの経済・財政を支援することになる。そしてアメリカはこうした流れを維持するために原油価格を高値誘導する必要があり、国際通貨基金(IMF)などを通じて新興国に資金援助(ドル)を行い、そのドルが原油購入を通じて再び米国に帰ってくる流れになる。

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こうした視点からは、米経済とドルはペトロダラーの再循環体制によって支えられていると言え、今回の中国による人民元建て原油先物取引の開始は、このポスト金本位制のアメリカ経済とドルを支えてきた体制への挑戦ではないかとみられているのだ。

この辺の議論は陰謀論のようなものも数多く、例えばブッシュ政権がイラク攻撃で湾岸戦争に踏み切った背景としては、その当時のフセイン大統領が原油取引の決済をドル建てからユーロ建てに移行すると表明したことが、アメリカの「レッドライン」を超えたとの見方がある。イラクがペトロダラー体制に明確な反旗を翻したことで、他産油国がこうした動きに同調することを阻止するための見せしめとして、アメリカはイラク攻撃に踏み切ったという訳だ。

本稿ではこうした分析の是非については評価しないが、いずれにしても金、ドル、原油市場などには、ペトロダラーの再循環体制が崩壊した場合には、経済・政治・軍事などの面で大きな混乱が生じるとの見方が存在していることは間違いない。中国の人民元国際化への歩みが新たなステージに突入し、ペトロダラー再循環体制に危機が生じるとの見方が存在することが、人民元建て原油先物取引開始の動きが、マーケットで注目されている理由である。

従来は、ペトロダラーに挑戦する通貨があるとすればユーロだとみられていたが、欧州債務危機でユーロは自滅してドルに挑戦する当面の権利を失った。こうした中、世界最大の経済規模を確立し、軍事・政治の点でもプレゼンスを増す中国の通貨人民元が、いよいよドルに本格挑戦を開始する一里塚になるかもしれない動きになっている。

■結論が出るまでは長い時間が必要
仮に世界最大の原油輸入国である中国が、原油取引を順次人民元建てに移行することができれば、原油市場のみならずドルや金市場、更には国際政治・軍事にも大きな影響が生じる可能性がある。中国は既に「一帯一路(シルクロード経済圏)」構想において、資金提供を人民元建てで行うと同時に、地域の資源調達においても人民元決済を広げるなど、中国国外にも人民元建て決済圏を広げる努力を行っている。

その最終段階ともいえる国際基軸通貨ドルへの挑戦は1年や2年で結論が出るものではないが、少なくとも中国の原油取引決済でドルから人民元へのシフトが進めば、ペトロダラー再循環体制の議論を無視するとしても、ドルを取り巻く環境には大きな変化が生じる可能性がある。

ここ数年の通貨市場では法定通貨と仮想通貨との共存が可能かを巡る議論が活発化しているが、その法定通貨内では人民元のドルに対する挑戦が着実にレベルを引き上げている。TOCOMのドバイ原油先物上場などと、中国の原油先物上場の議論は、全く別次元のものである可能性が高いのだ。中国の人民元建て原油先物価格のスタートで、世界の政治経済環境に大きな変革が生じるか否かが注目される局面になっている。
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【マーケットエッジ株式会社 代表取締役 小菅努】

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プロフィール
小菅 努(こすげ つとむ)

1976年千葉県松戸市生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業部、営業本部、ニューヨーク事務所、調査部門責任者等を経て、現在はマーケットエッジ(株)代表取締役。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。貴金属、金属、エネルギー、ゴム、農産物などの商品先物市場全般が主なカバー対象です。商社、事業法人、金融機関向けに分析レポートを配信しています。仮想通貨、為替、株価指数などもカバーしています。

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