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全社とは

大会前、そして大会中も「全社ってなんですか?」「なんでこんなに盛り上がっているんですか?」と多くの質問を頂きました。大会について繰り返し説明して行くのが私の役目のような気もする(笑)ので、今大会を振り返る前に、まずは「全社とは?」というところから始めたいと思います。

全社とは「全国社会人サッカー選手権大会」の略称で、毎年10月頃にトーナメント形式で行われる1種社会人登録チームの日本一を決める大会です。国体の前年に行われるリハーサル大会でもあります。
 
歴史は古く、今回で52回を迎える大会ですが、プロリーグであるJリーグができてからは、単なるアマチュアの1大会として存在意義が薄れた時がありました。全社の後に重要な大会「地域決勝」があるので「罰ゲーム」「いかに上手く負け抜けするか」と言われる事もあった大会でした。

しかし、2006年大会から大会の上位進出チームに全社枠と呼ばれる地域決勝への出場権が与えられるようになって状況が一変しました。

地域主要

地域リーグで優勝を逃したJFL昇格を視野に入れるチームが、昇格へのラストチャンスを掴みに目の色を変えて参加するようになりました。近年は全社枠で地域決勝に出場したチームがJFLに昇格する事が続いており、大会前の組み合わせ発表から注目される大会となりました。

全社は地域リーグ、都道府県リーグと幅広く1種社会人登録チームが参加する大会のため、様々な個性を持ったチームが集まります。これも大きな魅力の一つです。プロ、アマの違い、クラブ形態、目的や熱量、それらの個性が一同に介し、5日間で5連戦という過酷な日程の中で様々な価値観が交錯して、それぞれのクラブの生き方が見えてきます。 

また、大会に参加している選手は、その殆どが平日は働きながらサッカーを続けてきた選手です。最近は元Jリーガーも増えてきて、時には思わぬスター選手に出会えることもありますが、積み重ねてきたキャリアに限らず、この大会で人生を変えたいと自身の運命に立ち向かっている選手もいます。この大会をゴールとして何とか一つでも勝ちたいと必死になっている選手もいます。参加している選手の数だけドラマがあります。

今大会、現地から情報を発信して頂いた方々が多く使っていて、とても印象に残った言葉がありました。


震える


目の前の試合の意味に、チームと選手の情熱がぶつかり合う試合内容に、そして現実の残酷さが浮き彫りとなる勝敗のコントラストに、心が、体が、そして魂が震える。全社は、これまでも様々な言葉で形容されてきた大会ですが、弊サイトでは今後「魂が震える場所」と称して、お伝えして行きたいと考えています。

サッカーと共に地域を楽しむ

翌年に行われる国体のリハーサル大会でもある全社は、地域の特色が出る大会でもあります。大会期間中に会場で振舞われる地域の名産品やグルメは大会の名物となっていて、今大会では「三津浜焼き」や「鯛めし」が振舞われ、ファンには嬉しいサービスとなっていました。


サッカー観戦以外の時間を使って、観光名所を訪れたり、ご当地グルメに舌鼓、地域の文化を楽しむファンの様子も多く見受けられました。



毎年、全社期間中に全社開催地の名産品やそれに因んだ物を食べようという弊サイトで行っているイベントがあります。今回のお題は愛媛県の名産である「じゃこ天」でした。じゃこ天が手に入らない方は自分で練る(笑)か、全国各地の練り物で参加可能ということで、全社に出られないチームのファンの方も含めて広くご参加頂きました。

今回は今治市の二宮かまぼこ店 様が、全社に訪れたファンを対象に開催期間中のじゃこ天購入で、もう1つじゃこ天をサービス頂けるという企画でご参加頂き、また全社に出場する東海リーグの鈴鹿アンリミテッドFCが、二宮かまぼこ店様にご来店頂いた先着20名様にお嬢様聖水をプレゼントという共同企画を行って頂くなど、今回の #全じゃ は例年にない盛り上がりを見せました。二宮かまぼこ店はファンの交流拠点にもなっていましたね。






アンダーカテゴリーのサッカーとはいえ、社会人サッカーの1大会とはいえ、サッカーが地域活性化要因の一つとなり得る可能性を示すことができたのではないかと思っています。

情報発信の進化



今大会は、出場チームの公式サイトやSNS公式アカウントからの情報発信の充実ぶりを感じた大会でもありました。弊サイトで取り上げた最初の全社、2013年の長崎大会では、出場チームの把握すら覚束なかったことを思うと隔世の感があります。

情報発信という点において、今大会の出場チームの中で特に目立ったのが、東海リーグの2チーム、ヴィアティン三重と鈴鹿アンリミテッドFCです。試合結果や速報に留まらず、ダイジェスト動画や大会期間中の選手の様子も届けてくれました。チームとしては、予算や人員配置等々、厳しい状況の中でのやりくりで大変だったと思いますが、情報が見える、または伝わってくる状況は、ファンにはとても嬉しい事だったと思います。

また、関東リーグのエスペランサSCは試合の様子をインターネットを利用してライブ配信していました。放映権料等の関係で全試合とはいかなかったようですが、映像の配信については各クラブに負担をかける形ではなく、まずは1会場限定、カメラ固定で良いので、大会運営主導でインターネットライブ配信を検討してみてはいかがでしょうか。大会期間中に文字や写真で伝わってきた「熱」を考えると、映像で配信しないのがもったいない大会ですよ。

権利持ち、勝負駆け、県リーグ


「権利持ち」と呼ばれる、リーグ戦を優勝して地域CL出場権を既に持っているFC今治と東京23FCは、共に2回戦で姿を消しました。権利持ちだけが使える秘奥義「死んだふり」の使用は今回は無かったと思いますが、FC今治は地元開催だっただけに、何とか最終日まで残りたかったですね。

権利持ちが2回戦で姿を消した事により、地域CL出場のための補充枠が消滅し最終日の3位決定戦が終わるまで全社枠が全て埋まらない状況となりました。


「勝負駆け」と呼ばれる、JFL昇格を目指す地域リーグの上位チームでは、東海2位鈴鹿アンリミテッドFC、東海3位ヴィアティン三重以外に目を向けると、関東2位のVONDS市原が2回戦で福島県2部のいわきFCに敗れ、九州2位のテゲバジャーロ宮崎は兵庫県1部のFC EASY 02に1回戦で敗れるという波乱がありました。また、チーム統合後初の全国大会となる高知ユナイテッドSCは優勝した三菱水島FCに敗れ、北信越2位のサウルコス福井は2回戦でヴィアティン三重に敗れました。関西リーグ2位のアミティエSC京都と中国リーグ2位の松江シティFCは共に準々決勝で敗れ姿を消しました。


7チームが出場した県リーグ所属チームで注目を集めた2チーム、いわきFCと沖縄SVですが、いわきFCについては後述するとして、沖縄県3部の元日本代表高原直泰が代表兼監督県選手を務める沖縄SVは、1回戦で関西2部2位のアミティエSC京都に敗れました。初の全国大会で他地域の強豪とは初対戦となりましたが、豪華なタレントを擁して県リーグでは2桁得点を記録するチームも、群雄割拠の関西リーグで優勝チームと同勝ち点で2位の強豪には歯が立たちませんでした。宮崎県2部の宮崎産業経営大学FCと岐阜県1部のFC Kawasakiは1回戦敗退となりました。1回戦を勝ち上がったのはいわきFCを含めると3チーム。茨城県1部のアイデンティみらいは北信越1部の富山新庄クラブに勝利。兵庫県1部のFC EASY 02は、九州2位のテゲバジャーロ宮崎に勝利し、2回戦では関東2部のエスペランサSCとの延長戦までもつれる健闘を見せました。

グループA、グループBに地域リーグの有力チームが集まった組合せの妙はありましたが、強いと言われていたチームが次々と姿を消していく状況に、サッカーの怖さを改めて痛感しました。

強烈な個性



昨季、元日本代表監督の岡田武史氏がオーナーに就任し、デロイトトーマツ等の豪華なスポンサーを集め、元日本代表選手の獲得、スカパーでの試合中継等の様々な話題で注目を集めたFC今治は、今季アンダー世代の元日本代表監督、吉武博文氏を監督に迎え、所属メンバーも大幅に刷新して四国リーグを制覇、権利持ちとして臨んだ大会となりました。結果は2回戦敗退となりましたが、地域リーグでは規格外のスケールを感じさせるクラブの動向には依然として注目が集まっています。昨季の経験と今回の全社の経験を踏まえて地域CLでどのような戦いを見せてくれるか楽しみですね。また、愛媛を訪れるファンのためにFC今治のファンの皆様からたくさんのご当地情報を頂きました。先にご紹介した二宮かまぼこ店様もFC今治を応援しているとのことで、今治の町にFC今治が根付き始めているのを強く感じた大会となりました。




何と言っても最大の注目チーム、福島県2部のいわきFCは、1回戦で昨季の北海道リーグチャンピオンで今季3位の札幌蹴球団に5得点の大勝し、2回戦で関東2部の強豪VONDS市原と延長戦までもつれた激闘を制して準々決勝に進出。準々決勝でヴィアティン三重に敗れたものの訪れたファンに強烈な印象を残しました。

これまでの経験上、下部リーグのチームが上位進出するドラマチックなストーリーとしては、粗末な環境で日々練習を重ねるチームが、予選を勝ち抜いて、、全国大会で上位カテゴリーの強豪をバッタバッタとなぎ倒して、、、みたいな物になると思いますが、いわきFCについてはそれが当てはまらないですね。 スポンサーであるアンダーアーマー日本総代理店・株式会社ドームの全面的なバックアップを受け、DAHやDNSといったノウハウをフル活用した選手強化、元オランダ代表でJリーグでもプレー経験があるピーター・ハウストラの指導や戦術といった監督力、そしてクラブハウスや練習場の整備、そして株式会社ドームの物流センターへの選手雇用等環境面を整えたクラブ力。前述したFC今治と比較すると、スポンサーの規模や選手強化については、一長一短あってもそこまで差が出るものでは無いように思えますが、差があるとすれば、やはりクラブハウス、練習場、選手雇用を始めとする環境整備の面が大きいと思います。かけるべき所にしっかりとお金をかけてチームを作ってきた印象があります。

アマチュアサッカー選手の大半が昼間仕事をしながらサッカーをしています。そこに安定という文字が当てはまるかというと全てには当てはまりません。これまでもクラブが雇用を斡旋する事はありますし、企業チームであれば契約社員や期間工として雇用されていますが、これらの場合は多少融通は効くにしても雇用先の事情に左右される場面が出てきます。今回優勝した三菱水島FCの選手が夜勤明けでかけつけたという情報がありました。そのような状況で優勝したことは確かに凄いことですが、サッカーに集中できるベストな環境かと言われれば答えるのに難しい面もあると思います。雇用が保証されている選手以外では、アルバイトを掛け持ちして生計を立てている選手もいます。そういった状況から抜け出したいというハングリー精神が熱やドラマを生み出す原動力となっているところもあると思いますが、いわきFCのように県リーグレベルで親会社から全面的に雇用から強化までバックアップしてもらってサッカーに集中できる環境を作っているクラブはこれまで無かったように思います。選手が必要とするサプリメント一つをとっても、個人で継続購入していくには相当の負担となりますが、それがクラブから提供されるというのは大きいですよね。環境面だけを考えた時に、今回の全社参加チームの中で自信を持って「うちのほうが良い」と断言できるチームはあっただろうか。「規格外」の要因はまず環境面にあると思うんですよね。

とはいえ、いわきFCは現体制がスタートして1年目のクラブです。即効性があるフィジカル強化を進め、十分すぎる成果を残しましたが、戦術の引き出しや試合経験等々、構築に時間がかかる物がある事を考えれば、まだまだ伸びしろはたくさんあります。また、今年の話題性や実績を考えれば、より質の良い選手が集まる可能性も十分に考えられます。今季得た経験値に、来季以降の伸びしろ、いわきFCの可能性を想像するだけでも末恐ろしい怪物ですよね。


個性という視点で最後に関東2部のエスペランサSCに触れたと思います。エスペランサSCの監督は元アルゼンチン代表のオルテガ・ホルヘ・アルベルト氏。チームには下部組織出身の選手や外国人選手、ハーフの選手が多く所属しています。チームの平均年齢が低く、若いチームであること、また関東リーグの様子から伝わるのは、ファンが南米独特の応援スタイルを持っているということ。



そして、特徴的なのは「熱量」です。1回戦のFC.ISE-SHIMA戦では、ゴールを決めた後に選手が金網に登って警告を受けるという豪快なやんちゃっぷりを見せました。この試合はインターネットでライブ配信されていたので私も観戦していたのですが、球際に激しくボディーコンタクトを恐れないプレッシングや感情むき出しのプレー、判定に納得が行かなければ相手や審判にくってかかる戦う姿勢。良く言えばアグレッシブ、悪く言えば荒い。TL上で様々な反応を見ましたが、振り幅の大きな反応は実に興味深かったです。普段関東リーグを見ているファンからすると当たり前の光景かもしれないけど、全国の舞台で初めて南米スタルのサッカーを見たファンは衝撃を受けたということですね。

サッカーには色んなスタイルがあります。スタイルというとそれを戦術の事として語る方もいます。10人で守るサッカーもあれば、攻撃の時は下がってきたディフェンシブハーフが申し訳程度に1人しか残っていないアグレッシブなサッカーをするチームもあります。これもスタイルですね。ポゼッションやカウンターといったボール運びを語る。これもスタイルです。そして、淡々と冷静にサッカーをするのも、感情をむき出しにしてボールや人に喰らいついていくのも、これもスタイルです。

これだけの幅の広さを感じられるというのは素晴らしい事じゃないですか。スタイルについては、それぞれのサッカーの好みの問題になってしまうかもしれないけど、ローカルリーグで、感情をむき出しにした激しいサッカーをする南米スタイルのサッカーが育まれて、全国大会まで勝ち進んで来たこと。こうやって、また一つ日本サッカーの色が増えて、下支えが強固になる事で、サッカー界全体が魅力を増していく。日本サッカーの充実というのは、プロリーグが隆盛を極めることだけじゃない。これもサッカーの奥深さ、そして面白さだと私は思います。

南米スタイルのエスペランサSCに今後も注目して行きたいと思います。

幸せな瞬間


2回戦のVONDS市原といわきFCの試合は、前半VONDS市原が2点をリードしたものの、いわきFCが後半追いつき、延長戦で逆転勝利をした試合です。とにかくこの試合からは「なんだこの試合」「震えが止まらない」「なんで放送しないんだ」とツイートだけを見ても反響の大きな試合でした。話題性はあったものの実力のほどが分からない県リーグのチームが、関東1部2位の強豪相手に堂々と立ち向かい、逆転勝利を収めたアップセット。文字情報だけ追っていると4カテゴリー差があるチーム同士の試合には思えなかったですね。

この試合の後、「ずっと見ていたい」と思える試合に、私自身がどれだけ出会えたかをずっと考えていました。はっきりとこの試合がといえる試合に私は出会った事が無いかな。中々できない経験だと思いますが、いつか出会ってみたいですよね。こんな幸せな瞬間に出会えるのも全社の魅力です。

三重ダービー


東海リーグ1部に所属する三重県の3チーム、通称「三重三国志」が揃って全社に出場してきました。残念ながらFC.ISE-SHIMAは1回戦でエスペランサSCに敗れてしまいましたが、鈴鹿アンリミテッドFCとヴィアティン三重は勝ち上がり、勝てば全社枠を手に入れられるという大一番の準決勝で三重ダービーが実現しました。

東海リーグから数えて通算5回目。お互いに手の内を知り尽くした対戦は、これまで鈴鹿アンリミテッドが負け無しと優位に立っています。共に情報発信に力を入れている認知度の高いチーム同士の対戦にはファンの注目も集まり、準々決勝の結果が出た瞬間から三重ダービーの文字が飛び交いました。東海を伝える者として知られる東海帝王も現地に駆けつけて戦況を見守りました。この2チームは絶対に勝ち抜いてくるという確信を持っていたに違いないですね。

試合はキックオフからお互いに譲らず無得点のまま前半を折り返します。後半に入り、鈴鹿アンリミテッドFCが東海リーグのアシスト王でありチームの中心選手である #28 小澤 司の芸術的なFKで先制すると、興奮が冷めやらぬうちに#13 堀河俊大の折り返しを #34 野口遼太が頭で決めて追加点。前カマタマーレ讃岐所属選手同士のカマタマホットラインが炸裂しました。ヴィアティン三重は終盤に #6 前モンテディオ山形所属の坂井将吾がミドルシュートで意地を見せたもののあと一歩届かず、5度目の三重ダービーは鈴鹿アンリミテッドFCの勝利となり、全社枠での地域CL出場を決めました。
 
現在、三重県にJリーグチームはありません。三重三国志の3チームはそれぞれJリーグ入りを目指す事を表明し東海リーグでしのぎを削っています。今回の全国大会のベスト4のうち2チームが三重県のチームです。その実力を証明し、いよいよチャンスの扉に手をかけるところまできました。後はこの扉を開けることができるか、そして、その先にある階段を登ることができるか、今後も注目していきたいと思います。


こちらは、三重ダービーの前日に二宮かまぼこ店で見られた光景です。翌日に決戦を控える両チームのファンが、同じ場所に集まり交流を深めている。全社を「その場にいるだけで吐きそう」とか「2度と経験したくない」と表現する方もいます。チームの未来がかかった全社は、試合ごとに緊張し、夜も眠れなくなるような大会です。過酷な連戦の中、同じ状況を体験する者同士で共感できる思いもあったと思います。それが同郷の人間ならば尚更かもしれないですね。

ダービーといえば、海外ではお互いの熱をぶつけ合い、時には激しく衝突する様子が伝わってきたりするので、それがダービーだと認識し、かくあるべきと思っている方もいると思います。

でも私は違う。形なんて、違って良いと思っています。

東海は東海の、いや、三重は三重の形を作れば良い。試合の時は当然エキサイトする、時には野次が飛ぶこともあると思います。隣のチームには負けたくない思いは誰だって一緒だから熱くなるのは仕方ない事です。ただ、だからといってそれを場外まで持ち出す必要は無い。これからも、子や孫の世代までチームが続いていくならば、この対戦は何百年と続いていきます。大切なのは三重県のチームであるという誇りと、アイデンティティさえあればいい。そんな事を感じた三重ダービーでした。

下を向くな



ベスト4に残ったチームの中で、唯一全社枠を逃したジョイフル本田つくばFC。日程や組合せの妙はあるとはいえ、3位決定戦に辿り着く前に、PK戦を含む延長2回、前日の試合が午後の試合と、もう疲労とかリカバリーとか何をどうして良いか意味がわからない状態だったと思います。それでも最後まで諦めずに走りきった選手達には最大限の敬意と労いの言葉を伝えたいですね。試合後のコールリーダーがかけた下を向くなという言葉と、ここまで応援してくれた人達がいる観客席に向かっていつまでも頭を下げ続ける選手達の姿が心に響き、それを見ただけで涙が止まらなくなりました。この残酷な現実も全社なんですよね。


私は昨年、ジョイフル本田つくばFCがホームスタジアムとして使用しているセキショウ・チャレンジスタジアムに行きました。人工芝ではありますが、サイズ感が程良く、好きなスタジアムの一つです。ジョイフル本田つくばFCは関東リーグで有料試合を開催しています。イベントやスタジアムグルメの出店もあり、地域リーグでは十分な試合運営を行っています。

ジョイフル本田つくばFCがJFLに上がるためには成績もさることながら、ホームスタジアムをどこにするかという環境の問題があります。セキショウ・チャレンジスタジアムは人工芝のためJFLでは使用できません。新スタジアム建設についてのニュースもありましたが現在はどうなってしまったかも分かりません。スタジアム建設には莫大な費用がかかりますので、一筋縄でいく問題では無い事は重々承知していますが、ジョイフル本田つくばFCは2013年の全社長崎大会で3位に入り、地域決勝出場を決めた時は、地域決勝前にJFLへ昇格しない意思を表明した過去があります。その時もスタジアムが問題でした。あれからチームはカテゴリーを2つ上げ、JFLまであと一歩のところまで来ています。できれば、スタジアム建設の決定に関わる方々に、全社でのジョイフル本田つくばFCの戦いぶりを見てもらいたかった。選手達がどれだけ必死に走り、それを求めているか。ファンがどのような思いでそれを見つめているか。このチームにどれだけの可能性があるのかが見れば分かるはずです。

地域の宝となるべくチームを、地域で大切にして育んで欲しいと切に願います。

かつて規格外と言われたチーム


3位決定戦で全社枠の最後の1枠を掴んだヴィアティン三重は、2012年から県リーグに参加し、1年毎にカテゴリーを上げて東海リーグ1部に辿り着いたチームです。2013年には百年構想クラブの申請をしたりと県リーグ時代からJリーグ入りを表明し、元Jリーガーをたくさん集めて県リーグでは十分すぎる戦力を保有するなど、話題を集めてきたチームでもあります。2014年の天皇杯で、当時J1のセレッソ大阪をあと一歩まで追い詰めた試合は記憶に新しいところだと思います。

お気づきだと思いますが、前述したいわきFCや沖縄SVといった現在注目を集める県リーグチームのように、当時はヴィアティン三重(県リーグ時代はヴィアティン桑名)も「規格外」と言われたチームでした。県リーグ時代から勢力的に活動してきたチームが、チームとして、そしてクラブとして成長し、いよいよ自らの手でJFLへの扉に手をかけるところまで辿り着きました。

全社での5日間5連戦で、魂が震える試合を5試合重ねるという経験を得たヴィアティン三重の地域CLでの活躍を期待しています。

アンリミテッド


今季から背中スポンサーである「お嬢様聖水」で世間の注目を集めた鈴鹿アンリミテッドFC。今大会でもお嬢様聖水ラッピングカーが愛媛入りし、二宮かまぼこ店との共同企画でお嬢様聖水をプレゼントするなど、クラブの発想の柔軟さやアピールする事への貪欲な姿勢、そして行動力には感動すら覚えました。東海リーグのシーズン中にファンの方からこの話題ばかり扱わないでとか、もっとサッカーに触れて欲しいというご要望も頂きましたが、これだけ世間の注目を集める話題があるというのはとても素晴らしいことで、何とか話題を作り出そうと努力しているクラブからすると羨ましい状況なんですよね。

今大会は準優勝と最後に悔しい思いをしましたが、東海リーグの得点王とアシスト王を揃える強力な攻撃陣が全国に通用する事も確認でき、チームとしての成熟、ターンオーバーを利用した事による戦力の底上げ、連戦を戦い抜いた経験値の蓄積等々後に繋がる大きな財産を得ながら、全国のサッカーファンに鈴鹿アンリミテッドFCのサッカーを存分にアピールできたのではないかと思います。そして、最後に悔しい思いをした分、チームは浮かれすぎず、逆に引き締まったのではないでしょうか。

アンリミテッド=無制限

限りない可能性を求めて走り続ける鈴鹿アンリミテッドFCに、今後も注目していきます。

レッドアダマント復活


まずは、三菱水島FCの歴史を振り返ってみましょう。1946年創部、岡山県の実業団サッカーをリードする存在として活躍し、2005年からJFLに5年間在籍。2009年に財政状況の悪化に伴いJFLを脱退し2010年は県リーグからの再スタートを余儀なくされましたが、同年県1部を優勝して2011年から中国リーグに復帰。2014年から3年連続で3位と徐々にその輝きを取り戻してきました。

今季は、三菱自動車の燃費改ざん問題で水島製作所の生産ラインが停止される等、その影響をもろに受けて天皇杯予選を辞退しました。チーム存続について心配する声もありましたが、逆境を乗り越えて全社愛媛大会の出場権を獲得し、本大会で見事優勝を成し遂げました。期するものもあったと思いますが、誰もが口を揃えて「強い」と唸った三菱水島FCのサッカーは、全国のファンにレッドアダマント復活を強烈に印象づけたと思います。

昨季はFC刈谷が全国の舞台に戻ってきました。そして今季は三菱水島FCが全国の舞台に戻ってきました。長い道のりを歩いていれば良い時ばかりではなく悪い時だってあります。ただクラブが存続してさえいれば、またこうやって良い時もやってくる。TL上ではその先を心配する声もありますが、まずは何かを言う前に苦しい時間を乗り越えて全国の舞台の頂点に辿り着いた三菱水島FCの優勝を精一杯讃えましょう。

おめでとう三菱水島FC!

最後に


第52回全国社会人サッカー選手権大会は三菱水島FCの優勝で幕を閉じました。そして、三菱水島FC、鈴鹿アンリミテッドFC、ヴィアティン三重の3チームが地域CL出場権を獲得しました。

東海リーグからはリーグ優勝のFC刈谷を合わせて3チームが地域CLに出場しますが、昨季全社で旋風を巻き起こした関西勢(ベスト4のうち3チームが関西)は、3チーム送り込んで予選ラウンドで総崩れという事もありました。何が起きるか分からないのが地域CLであり、サッカーの怖さでもありますが、今季はどんな地域CLになるか今から楽しみですね。

連戦を戦い抜いた選手、関係者の皆様、そしてファンの皆様お疲れ様でした。ゆっくりと身体を休めてくださいね。

全社愛媛大会も全会場、ほぼ全試合から #コミュサカ ツイートを頂きました。情報発信にご協力頂いたすべての皆様に心から感謝申し上げます。魂が震える場所の熱さが伝わってきて何度も鳥肌が立ちました。鳥肌が地肌なんじゃないかとも思いました(笑) #全じゃも盛り上がり例年に無く充実した日々を送れた全社でしたが、今でも余韻が抜けないくらい、とても楽しかったですね。

来季の全社は福井県開催です。また、みんなで盛り上げて楽しんで行きましょう♪


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本大会出場32チームの紹介

北海道(3)
岩見沢FC北蹴会(道央、空知)
札幌蹴球団(札幌)
新日鉄住金室蘭サッカー部(道南、室蘭)  ※道南リーグ

東北(2)
いわきFC(福島) ※福島県2部
FCガンジュ岩手(岩手)

関東(6)
ジョイフル本田つくばFC(茨城)
流通経済大学FC(茨城)
アイデンティみらい(茨城) ※茨城県1部
VONDS市原(千葉)
東京23FC(東京)
エスペランサSC(神奈川)

北信越(2)
サウルコス福井(福井)
富山新庄クラブ(富山)

東海(4)
ヴィアティン三重(三重)
FC.ISE-SHIMA(三重)
鈴鹿アンリミテッドFC(三重)
FC Kawasaki(岐阜) ※岐阜県1部

関西(5)
FC EASY 02(兵庫) ※兵庫県1部
アミティエSC京都(京都)
関大FC2008(大阪)
St.Andrew's FC(大阪)
AS.Laranja Kyoto(京都)

中国(3)
松江シティFC(島根)
デッツォーラ島根(島根)
三菱水島FC(岡山)

四国(2+開催地1)
高知ユナイテッドSC(高知)
KUFC南国(高知)
FC今治(愛媛)

九州(4)
宮崎産業経営大学FC(宮崎) ※宮崎県2部
テゲバジャーロ宮崎(宮崎)
新日鐵住金大分(大分)
沖縄SV(沖縄) ※沖縄県3部 

※青文字は都道府県リーグ所属チーム

魂が磨かれる、息吹く、震える とは

 昨今、応援するチームが敗戦した時に、ファン、サポーターの罵声やブーイングといった、観戦マナーの話題が出てくる時がありますが、そんな時に「一度、全社を最初から最後まで通して見てみませんか?」と思うことがあります。

 前述した通り、全社は最後まで勝ち抜くと5連戦となります。リカバリーなんてあったものじゃないですし、連戦を重ねるにつれ、普段できるはずのプレーができない、一歩が出ないといった状況になります。それでも、あと1点、あと1勝と、全国リーグへの扉の前で、必死に戦い、もがいている選手達が目の前にいます。

 これまでも必死に走ってきて、そして今も目の前で必死に走っている選手達に、もっと走れとはとても言えない、普段届くハズにボールに届かない、でも、それは手を抜いたミスじゃない、目の間には、限界との境目で自らの未来を切り拓こうと必死に抗っている、オレ達のヒーローの姿があります。

 普段、スタンドもないピッチ脇でチームを応援し一緒に戦ってきたファン、サポーターも、連戦を重ねて旗を振る手、太鼓を叩く手の豆は破け、声は枯れ、涙を流しながら必死に叫ぶしかない。

 がんばれ

 としか、言えなくなる。
 
 こんな苛酷な状況をくぐり抜けて辿り着いた先には、辿り着いた者だけたが手に入れられる「何か」があります。

 「魂の磨かれる場所」と呼ばれる所以がそこにあります。

観戦に訪れてみると、きっと伝わるものがあると思いますよ。