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三菱ふそうの現行スーパーグレートには、新開発の「6R10」というエンジンが搭載されています。

12.8Lの直列6気筒・気筒あたり4バルブの可変容量ターボ・インタークーラー付、という基本構成は、国産他社も似たり寄ったりなのですが、動弁駆動は大型商用車用エンジン世界初のDOHC、超高剛性設計、そして燃料噴射システムには世界初の増圧インジェクタ付コモンレール燃料噴射装置「X-パルス」を採用するという、ディーゼルエンジン技術の最先端をゆくものとなっています。

実はこのエンジン、三菱ふそうが、ダイムラー(言わずとしれたメルセデスベンツのメーカー)と米国のデトロイト・ディーゼルと3社で共同開発した次世代大型エンジンで、すでに米国でも、フレイトライナーやウェスタンスターの大型トラックに搭載されているのですが、メルセデスベンツ大型トラックの旗艦モデル・アクトロスがこのほどフルモデルチェンジし、日米欧で出揃うことになりました。


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新型アクトロスに貼られた"Blue Efficiency Power"のエンブレムが示すものとは?


“世界で最もクリーンなトラック”の心臓

“世界で最もクリーンなトラック”とは、ダイムラーのプレスリリースの冒頭に添えられている文言の一部ですが、そのこころは、新型アクトロスは2014年に施行が予定されている欧州次期排ガス規制・Euro-Ⅵに、世界で初めて適合するトラックだから、です。新型にはEuro-Ⅴ適合車も設定されており、この7月に受注を始め、9月末から生産を開始することになっています。
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新型アクトロスのクラシックキャブ・4×2単車型。
キャブは主にルーフ/室内高により、クラシックキャブ、ストリームスペースキャブ、
ビッグスペースキャブ、ギガスペースキャブの4モデルがあり、
さらに細かいバリエーションが設定されます。


日本のポスト新長期排出ガス規制(平成21年排出ガス規制・JP09)では、NOx(窒素酸化物)排出の大幅削減を求めていますが、Euro-Ⅵでも、JP09とほぼ同レベルの厳しい規制値となっています(Euro-Ⅴに対しNOx80減・PM67%減)。そのため、排ガス対策もJP09適合車なみで、高過給・高EGR・超高圧燃料噴射を用いた低NOx燃焼システム、PM低減装置と尿素SCRを組みあわせた排ガス後処理装置を搭載しています。
燃費からすれば、排ガス対策は悪化要因でしかないのですが、しかし新型アクトロスは、現行型に対しEuro-Ⅵ仕様で3~4%、Euro-Ⅴ仕様で6~7%の燃費改善を達成した…としています。その核心にあるのが、6R10と同型の "ブルーエフィシエンシーパワー" OM47xです。

今回登場した新型アクトロスは、まだ全ての車型が揃っているわけではなく、エンジンも12.8Lの「OM471」のみとなっていますが、排気量でお気付きの通り、6R10と基本的には同一のエンジンです。つまり、新型アクトロスは、スーパーグレートとほとんど同じエンジンを積んでいるわけです。
ただし、6R10は、三菱重工製VGターボチャージャーなど一部の補機類が日本製で、オイルパンも専用デザイン、そしてエンジン制御プログラムが、日本市場向けにアレンジされたものとなっています。そういうものを欧州市場にマッチさせたのがダイムラーのOM471であり、北米市場にマッチさせたのがデトロイト・ディーゼルの「DD13」ということになります。
とはいえ、エンジンの根幹となるところは共通で、冒頭のX-パルスやクールドEGRをはじめ、鋳鉄エンジンブロックやシリンダヘッド、鍛造スチールピストンといった、高い燃焼圧に耐えうるべく設計された、頑強な構造なんかは完全に同じです。
また、DOHC、懐かしい表現ではツインカム、を備えますが、高回転時のバルブ追従性…ということではなく、将来的に可変バルブタイミング機構などを装着する可能性があることを示しています。可変バルブタイミング機構は、乗用車用ガソリンエンジンでも排ガス対策(内部EGR)で用いられているデバイスですが、ディーゼルエンジンの世界でも研究されているメカニズムです。
ところで開発に携わった三菱ふそうの日本人エンジニアの方のお話しでは、開発当初はかなりやかましいエンジンだったらしく、厳しくダメ出しして静粛性を改善したとか。新型エンジンは欧米でも、「静かなエンジン」というのを特徴の一つとしているようです。
※ところでエンジンの音については、開発スタッフの間では“ストロング・サウンド”などといわれているのですが、意外にもカドの少ないマイルドな音色。ベンチで聞くとそんな印象なのでしょうか? さすがに念入りに開発したとあって、耳障りな感じはせず、やかましいエンジンが普通だと思っている欧州の人などは、ビックリするのでは。それはそれとして、マイフェイバリットサウンド・6M70の地位はやはり揺るがない。

プルーエフィシエンシーパワーの神髄

6R10・OM471・DD13の三つ子エンジンで、最も革新的な技術が、X-パルス・増圧インジェクタ付コモンレール燃料噴射装置でしょう。
普通のコモンレール燃料噴射装置は、○○MPaまで昇圧した燃料を、その圧力を維持したままコモンレールに溜めておき、その高圧燃料をインジェクタから燃焼室内へ噴射する装置です。
X-パルスは“増圧式コモンレール”とも呼ばれ、コモンレールまでは同じ(約80MPa)ですが、インジェクタ内部でさらに燃料を加圧(約210MPa)して、噴射することができるのです。しかも、加圧したりしなかったり、も制御しています。
これでなにができるのか?というと、普通のコモンレールよりも、その運転状況に応じてもっと的確かつもっと精密に燃料を噴射できるので、より省燃費でよりパワフル、そしてより低NOxなディーゼルエンジンを実現することが可能となります。新型アクトロスで、強力な排ガス対策を施しながら、燃費性能が改善されているのは、この技術によるところが大きいのではと思います。X-パルスこそ、ブルーエフィシエンシーパワーの神髄だといっても、過言ではないでしょう。
X-パルスは非常に高級で、発展ポテンシャルも大きい先進ディーゼル技術ですが、X-パルスを採用しているのはいまのところ、ダイムラーグループしかありません。やはり、さすがトラック用ディーゼルエンジンの開祖だけはあります。これはまた、日米欧の三大先進市場に供給されるからこそ導入できた技術かもしれません。

NOxの大幅な浄化には、X-パルスのほか、連続フィードバック制御付きの大容量・高性能クールドEGRシステムをエンジンに実装しており、高過給・高EGRコンセプトを導入しています。
そして排ガス後処理には、ブルーテック・尿素SCRシステムを採用しています。これは日米欧とも採用していて、PM低減装置と尿素SCRシステムなどを組みあわせている点こそ同じですが、尿素SCRシステム自体は、日米欧でそれぞれ開発されているようです(ブルーテックは、尿素SCRシステムのダイムラーの統一商標であって、完全に共通のシステムを指してはいない)。
ちなみに6R10では、新長期適合6M70までUDと共用していた尿素SCRの触媒フィルタを、自社開発の触媒フィルタに変更し、DPFも耐熱性に優れたSiCで造られたPM捕集フィルタへとグレードアップしています。


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6R10のX-パルス用インジェクタと燃焼室。
なお、コモンレールシステムのサプライヤはボッシュです。


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6R10のヘッド部。DOHCの吸気側カムシャフトには、圧縮解放ブレーキシステムが組み込まれています。
米国ジェイコブス製の強制バルブリフト装置で、これも日米欧共通品。
ふそうでかつて「パワータード」と呼んでいたものですが、パワータードも実はジェイコブス製でした。


三つ子エンジンの皆さん。

6R10

スーパーグレートの6R10。ボアスト132mm×156mmの12.8L、圧縮比17.3。
最高出力350ps・最大トルク1810Nmの6R10T2から520ps・2160Nmの6R10T7まで、
6つのバリエーションが設定されています。
発生回転数は最高出力が1800rpm、最大トルクが1100rpmで、これは他の姉妹も同一。
大型観光バスのエアロエース/エアロクィーンのJP09適合車も搭載。


OM471

新型アクトロスのOM471。こちらの圧縮比は17.0。
X-パルスの最大噴射圧は250MPaとなっており、アップグレードしているらしい。
最高出力421hp・最大トルク2100Nmから510hp・2500Nmまで4つのバリエーションを設定。
アクトロスではいずれ、ボアストを拡大した14.8L仕様も設定されるとみられています。


DD13

デトロイト・ディーゼルのDD13。こちらの圧縮比も17.0。
最高出力370hp・最大トルク1250lb-ftから470hp・1650lb-ftまで11のバリエーションを設定。
さらに、14.8LのDD15(ボアスト139mm×163mm)、15.6LのDD16(ボアスト139mm×171mm)も設定。
DD15とDD16はターボコンパウンド・システムを搭載。DD16の最強ユニットは最高出力600hp、最大トルク2050lb-ftを発生します。
ユーザーが搭載するエンジンのメーカーを選べるのがアメリカ流で、フレイトライナーでは同クラスのカミンズ製エンジンも設定しています。


そのスゴい技術を搭載した皆さんにも改めて登場してもらいましょう。

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三菱ふそうスーパーグレート。8×4車型FSのウイング完成車・D-WING。
写真のINOMAT-Ⅱ12段AMT車も、7段M/T車も重量車燃費基準達成。
昨年4月のデビュー当時、10LオーバーのM/T車で燃費基準を達成していたのはスーパーグレートだけでした。


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新型アクトロス。
こちらはストリームスペースキャブ(シートからルーフまで1.97mもある)のセミトラクタでEuro-Ⅵ適合仕様。


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フレイトライナー・カスケイディア。
ダイムラーグループのトラックメーカー・フレイトライナーの最新クラス8のコンベンショナルトラックで、エンジンルームを含めて入念な空力設計が行われています。


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ウェスタンスター・4900SA。
やはりダイムラーグループのトラックメーカーで、こちらもクラス8のコンベンショナル。


最後に、6R10やOM471の生産工場です。
実はスーパーグレートのエンジンは、OM471などと一緒に、ドイツのマンハイムにあるダイムラーの工場で生産されています。ここから日本へと輸出されているのです。
2007年、2010年と2回、この工場を見学する機会に恵まれましたが、3年のうちにエンジン組立棟が新築され、三菱ふそうの生産方式を導入(日本の生産技術スタッフが指導し、マンハイム工場のドイツ人スタッフも三菱ふそうの川崎工場で研修を受けています)、組立ラインの風景が一変していたのには驚きました。
日本式の高品質生産システムを導入することで、生産効率や製造品質を大幅にレベルアップさせたのです。日本の生産方式は、世界に冠たる工業先進国・ドイツの人たちさえも認めるものなのだと思いました。
ちなみに、このマンハイム工場は、カール・ベンツの世界初の3輪ガソリン自動車や、世界でほぼ最初のトラック用ディーゼルエンジン(ベンツとMANがほぼ同時期だった)が製造された、由緒正しい工場でもあります。
いまはアテーゴのハイブリッドや、エコニックのCNGなど低公害車専用組立ラインもあります。
お隣りには、ベンツやゼトラのバスを生産するEVOバスの工場もあります。

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