私がはじめて遺伝率(才能に遺伝が影響する割合)について知ったのは、橘玲氏のこのサイトだったと思います。
https://www.tachibana-akira.com/2012/11/5210

これはのちに「言ってはいけない残酷すぎる真実」の一部となり、ベストセラーになりました。内容については読んだことがある人も多いのではないでしょうか。





橘氏自身はこの話を石川幹人氏の「生きづらさはどこから来るか」、安藤寿康氏の「遺伝マインド」などを参考に書いているようです。申し訳ないですが私はこの元ネタを読んでいませんので、又聞きのような知識になってしまうことをお許しください。また才能と遺伝の関係をどう調べたかの方法についての説明は割愛させていただきます。




さて橘氏のサイトにある「才能と遺伝・共有環境・非共有環境」の表を見た時、私は少なからずショックを受けました。というのも「ほとんど遺伝で決まってしまう能力」が思ったよりも高かったからです。たとえば

音楽    92%
数学    87%
スポーツ  85%
執筆    83%
音程    80%
一般知能  77%
空間知能  70%
論理的推論 68%

これを見て、私は学生時代にさんざん「音楽」「音程」で苦労していた理由がわかりました。また「執筆」は誰にでもできるものではなく、貴重な才能のひとつであることも知りました。



話を「AI vs. 教科書が読めない子供たち」に戻します。

筆者は「アンケート調査をしてみたが、読解力を決定する要因は見つけられなかった」と書いています。読書習慣も、勉強時間も、塾や家庭教師も、得意科目も、スマホ使用時間も関係なかったというのです。

ただひとつ言えるのは、「読解能力と進学できる高校の偏差値の相関は極めて高い」ということでした。つまり

読解力をもたらす原因はわからなかったが、

読解力がもたらす結果は明らか。

読解能力が進学先のレベルを決めている、ということです。



ここでもう一度、遺伝率の表を見てみましょう。
執筆能力を作文能力と言い換えると、その遺伝率は83%です。
論理的推論能力は68%です。

これらの結果を見て、「読解力は遺伝と関係ない」と思いますか?
そんなはずはありません。むしろ「読解力も7-8割遺伝するのではないか」と考えるのが自然です。そうであれば、生活習慣を調査しただけでは決定原因が見つからなかったとしても当然なのです。

そして読解力・論理的推論能力・作文力を備えた生徒が良い高校・良い大学へと進むのでしょう。その能力を持つ人が「簡単な読解力テスト」を作ったつもりでも、能力がない人から見れば相当な難問になってしまう可能性があります。


さて仮にその読解問題を解ける人が、それぞれの学年に3割しかいなかったとします。そして各家庭の事情は全く考慮せず、能力が高い順に大学に入るとします。

ある年代の18歳人口が仮に200万人とすれば、読解力のある生徒が60万人いるわけです。仮に大学進学率が3割以下であれば、読解力のある生徒60万人のほとんどが大学に入ります。先生方は「大学生にもなって読解力がない」とは思わないでしょう。

そこから時を経て、18歳人口が100万人に減ったとしましょう。この年代には読解力のある生徒が30万人しかいません。しかし大学進学率は6割に上がっており、やはり60万人が大学に進学します。すると読解力のない30万人の大学生が入学してくるわけです。

同じことが他の教科でも起こります。大学側は生徒を減らしたくありませんから、分数ができなかったり簡単な英語が読めなくても入学を認めて教えることになるでしょう。子供の数は減る一方でしたので、一部のトップ校を除いて学生の質がどんどん下がって行くように感じるのではないかと思います。

また同じことが高校・中学でも起こります。トップ校にはとんでもなく賢い生徒が集まり、レベルは上がる一方です。逆にそれ以外の進学校は、「入学時学力の低下」や「入学後の伸び悩み」に直面することになります。能力を持つ生徒の絶対数が半減し、上位の学校に取られてしまうため、教育しても成果が上がりにくいのです(それを打開するために各学校が努力することは素晴らしいのですが)。

子供の学力低下について考えるときは、「現場感覚」は大事です。ただそれに加えて「少子化」×「進学率上昇」といった構造要因も考慮しなければならないと思います。


しかしそれでも私は「読解力も遺伝でほぼ決まるのだから努力してもしょうがない」とは思いません。

論理的推論力が読解力や数学力のベースになっているという仮説が正しいのであれば、国全体としてそれを引き上げるような制度を構築して最大限に努力するべきだと思います。

そうすれば世代を経るうちに、遺伝子レベルで違いが生じて来るかもしれません。むしろ日本人の知能指数が世界的に高いレベル(105程度)にあるのは、先人たちが教育によって自分たちを「品種改良」し続けた成果ではないかと思うのです。



(続く)