老人と魔物が戦車で砂漠を旅し、水を探す物語です。
鳥山明は、コミックスで“老人と戦車が出てくる話を描きたかった”
と語っています。戦車を描くのは目茶苦茶大変で、地獄だったそうです。
’00年に週刊少年ジャンプで短期集中連載されました。
作/鳥山明。

人間が住んでいる同じ世界の片隅に、
魔物たちが集落を作って住む国・サンドランド。
50年前の天変地異で少ない陸地の殆どが砂漠と化したその国では、
長い間雨が降らず、川は涸れ、国民は水不足に喘いでいました。

貴重な水源は国が完全に管理しており、国民が水を手に入れる為には
高いお金を払って国から水を買わなければなりませんでした。
魔物たちは、しばしば国の水運搬車を襲い、
生きる為に必要なだけの、少量の水を強奪して生活していました。

ある時、魔物たちの村を、一人の人間の老人・ラオが訪れました。
彼は“水源を探す旅に出たいので、魔物に同行して欲しい”と
魔物達に頼みました。根拠無く旅に出るつもりなのではなく、
ラオには当てがありました。淡水魚しか食べない水鳥が、
特定の方向から飛んでくる光景を、何度も目撃していたのです。

魔物も水が無いと困るので、魔物の王子・ベルゼブブ
魔物の老人・シーフが、護衛として同行する事になりました。
出発して間もなく強盗団に襲われ、強盗団の人間はやっつけたものの、
タイヤをパンクさせられ、車が使えなくなってしまいました。
そこへ軍の戦車が通りかかり、一行は、それを上手く奪いました。
彼らはそこから、戦車で南へ向かう事になりました。

ラオは意外にも腕が立ち、何故か戦車の操縦にも長けています。
しかも軍の最高指揮官・ゼウ大将軍と何か因縁がありそうな様子です。
戦車が奪われたと知った国王軍は、彼らへの追撃を始めました。
しかしラオの正体と30年前に軍が仕組んだ大事件の真相を知り、
彼らを追っていた指揮官のアレ将軍は、
国王とゼウ大将軍に対し、強い疑念を抱くようになりました。

ラオは渋い、カッコいい老人(と言ってもまだ61歳)です。
魔物は自称悪い奴ですが、王子もシーフも二人とも気のいい奴で、
旅を続けるうちにラオと打ち解け、信頼し合うようになります。
ベルゼブブは見かけは子供だけれど、2500年以上生きています。
魔物の王子だけに、とても強いです。

旅を邪魔する集団の一つに“スイマーズ”という連中がいるのですが、
これはかつてあったオーディション番組「イカすバンド天国」に
出演していたグループと、同じ扮装で同じ名前でした。
’07年の年末のイカ天SPを見て、『あー!』と気付きました。
まさかとは思いますが、鳥山先生が当時イカ天を見ていて、
ずっとスイマーズを覚えていて、それを元ネタにしたのでしょうか。

人と魔物が共存する無国籍の世界や砂漠の国は、
(背景が描きやすいからだと思いますが)作者が得意とする舞台です。
水不足の国の水泥棒、国が高い水を売りつけているという設定は、
鳥山明○作劇場 VOL.2PINKという読み切りを彷彿とさせます。
その読み切りは大好きでした。作者も好きな設定なのかも知れません。

話は最初から全部決まっていたそうで、国が抱えていた闇や
水源の謎、登場人物などの伏線がとてもよく練られており、
全体的に非常に良く纏まった構成になっています。
後期のドラゴンボールみたいにバトル、バトルじゃなく、鳥山先生は、
本当はこういう話を描きたかったんだろうなと思います。

近年発表していた読み切りは、完全にお子様向けの
内容ばかりになってしまっていましたが、鳥山先生の真価は、
寧ろこういう渋い話でこそ発揮されるものだと思います。

このまま劇場用アニメとして映画化しても通用すると思えるくらい、
非常に良く出来た作品だと思います。
コミックスを買いたくなるほど面白い作品が無くなって久しい昨今、
これが私が買った、最も新しいジャンプコミックスです。