ここでの1〜3巻はカバーが革の鞄のデザインになっている
中央公論社(当時)の中公コミック・スーリでの巻数です。
3巻までになっているのは、私がそれしか持ってないからです。
作/藤子不二雄A。

黒ずくめのスーツと帽子、小太りのちんちくりんの体型。
謎の自称セールスマン・喪黒福造は、日常に倦み、
刺激を求める現代人のココロのスキマにするりと忍び込みます。

喪黒さんは強引にターゲットに近付いてしばしば
胡散臭がられますが、すぐに“お客さま”は心を許し、
自身の悩みを打ち明けるようになります。

そして客は、喪黒さんの紹介する変なアイテムや変な店を用いて
束の間の幸福感や充実感を味わいますが、自らの欲深さ、
或いは喪黒さんによる元々の仕掛けにより、最終的には
(ほぼ)必ず、破滅への道へと向かうようになります。

昭和44〜46年に週刊漫画サンデーに連載――と言うより、
’89年にバラエティ番組「ギミアぶれいく」の1コーナーとして
アニメ化されていた、と言う方が遥かに通りがいいでしょう。

冒頭の喪黒さんの自己紹介のフレーズは今でも覚えています。
2時間の番組内でいつやるか判らなかったので、この10分の為に
ずっとこの番組を見ていなければなりませんでした。

アニメの印象は、強烈で、鮮烈でした。忘れもしない、
アニメの第1話はコミックス1巻にもある「たのもしい顔」。
音楽、演出、喪黒さんの声、動き、バー“魔の巣”の雰囲気、
原作ではさほど大きく扱われていない「ドーン!」の効果。
どれを取っても原作のイメージを補って余りあるものでした。
余りの反響の大きさに、同じ話が翌週もう一回放送された程です。

アニメでは、一旦は喪黒さんが客の悩みを解消してあげるけど、
ひとたびお客が調子に乗って喪黒さんとの約束を破った時は、
「ドーン!」という気合と共に奈落の底に突き落とす、
という、“因果応報”のパターンが殆どでした。

しかし原作の喪黒さんは悪質です。漫画サンデー連載時の原題は
黒ィせえるすまんだったそうですが、タイトル通り、
喪黒さんが、黒いです。お客を助ける気など更々無く、
始めから破滅させたりからかう為だけに客に近付いています。
アニメとはかなり趣が違うので、ちょっと戸惑ってしまいました。

アニメ・原作共通の事ですが、かなりグロテスクなオチや、
セクシャルというかアダルトな話もあって、内容は完全に
大人向けです。オトナ向け過ぎて、「手切れ屋」のオチの意味が
最初は分かりませんでした。後にYJでB.B.フィッシュという
マンガを見て、『あれはこれだったのか!』と知った次第です。

──それをアニメでそのままやっていたのも驚きですが──
「藤子不二雄」名義でこんな話を描いていたのだから驚きです。
連載時はまだ「藤子不二雄」はコンビ解消前でしたが、恐らくは
これは安孫子さん一人で描いていたものなのでしょう。
ゴルフの話が目立つのも、安孫子さんの趣味だと思います。

1巻が漫画サンデー連載時の分で、2,3巻は、アニメ化を受けて
’90〜’92年に中央公論で連載された分が収録されています。
だから1巻と2,3巻では、絵柄がかなり違います。1巻では
人物も背景も簡略化されていますが、2,3巻はしっかりした
絵になっており、背景も、きっちり描き込まれています。

3巻に収録されているものは話もちょっと変わってきていて、
お客が懲りずに次の楽しみを見つけたり(「看板ガール」)、
新しい環境に適応したり(「ブルーアイ・ジャパニーズ」)、
破滅ではない結末や、「ドーン!」に負けない人も出てきます。

荒削りの1巻が一番面白く感じて、2巻になるとマンネリ化が
否めませんでしたが、作者が時代の変化を感じ取ったのか、
マンネリ化を避ける為なのか、新しい話にこういうオチが
出てきたのは、興味深い事だと思いました。

どういう理由か今年TOKYO MXで再アニメ化されたのですが、
それが前シリーズのアニメの雰囲気を見事に踏襲したもので、
前シリーズへのレスペクトぶりに感銘を覚えました。

喪黒さんの声優を務めた大平透さんは亡くなってしまったので、
玄田哲章さんが喪黒さん役を演っていたのですが、これが
言われなければ判らないほど、全く違和感が無いものでした。

因みに伊東四郎さん主演で連続ドラマ化されたこともあります。
その時の魔の巣のマスター役は、藤村俊二さんでした。
伊東さんの風貌、歩き方など、喪黒さんそのものでした。