恋愛×バンド×エロ。アニメ化し、リアルで作中のバンドが
デビューするというメディアミックスも果たした、エロい作風で
有名な作者の一番のヒット作です。本編17巻と、特別編1巻の
全18巻、’00年前後に週刊少女コミックに連載されていました。
作/新條まゆ。

国語だけが取り得の平凡な女子高生・雪村愛音(あいね)は
友達に作詞コンテストに応募するよう勧められました。
その詞を携えた下校中、車に轢かれそうになった愛音は、
フェラーリから降りてきた男性に目を奪われ、見惚れました。

長身、美形、いかにも女に慣れていそうな艶かしい身のこなしに
黒髪と不釣合いなブルーの眼。愛音に怪我が無い事を確かめた
その男性は、連絡先を残して去っていきました。その男性こそ、
大人気バンドルシファーのボーカル、大河内咲也(17)でした。

その時愛音はコンテスト用に書いた詞の紙を落としていました。
咲也が連絡先として渡したスタッフパスでコンサート会場に
赴いた愛音は、あの時の男性が、ルシファーのボーカルとして、
愛音の詞に乗せた新曲を歌っているのを目撃し、仰天しました。

楽屋に押しかけた愛音は咲也と再会します。咲也は愛音を
ルシファーの専属の作詞家にするとメンバーに宣言します。
求められたのは、ルシファーと咲也のイメージ通りのHな詞。
女を蕩けさせ、カラダをアツく疼かすような、快感のフレーズ──。

今は殆どカバーされていたり紐で縛られたりしていますが、
少し前のコンビニでは、雑誌が立ち読みし放題でした。そもそも
何故少女マンガなど読もうと思ったのかは記憶が無いのですが、
立ち読みしていた少コミで、新條まゆ先生の名前は以前から
知っていて、連載を読んでいた気に入っていた作家の一人でした。

その新條先生の新連載が始まると(恐らく)表紙で知って、
読んでみると、一目で虜になり、始めは毎号立ち読みをして、
単行本が出ると単行本に移行し、遂には全巻集めてしまいました。
作者は同い年で誕生日も近いので、センスが合うんだと思います。
有閑倶楽部ときたがわ翔の短編集(と、陽あたり良好!も一応
少女マンガか?)を除き、私が唯一持っている少女マンガです。

処女の想像力を掻き立ててHな詞を書かせる為と公言し、咲也は
愛音にぐっと顔を近付けて、耳元で意地悪な言葉を囁き、髪を
撫で、首筋に唇を這わせ、スカートの下から太股を撫で上げます。

いつもギリギリのところで寸止めされる愛音は悶々とします。
自分に詞を書かせる為にやっているだけだ、芸能人が自分なんて
本気で相手にする訳ない、本気になっちゃいけない、といくら
理性に命じても、咲也への想いは抑え切れずに溢れ出します。

咲也の真意が判らず苦しむ愛音に咲也もとうとう体裁を捨て、
自分の想いを露にします。愛音の高校に転校さえした男です。
固く結ばれた二人は、咲也のマンションで同棲を始めました。

一旦結ばれたら2人はもうヤりまくりです。でももっとエロい
シーンばかりという印象があったのですが、一気に読み直すと
そうでもなく、ちゃんとしたストーリー展開になっていました。

二人の間には様々なライバルが割り込みます。死んだ妹と愛音が
瓜二つ、しかもその実の妹に恋愛感情を抱いていたという
ソロミュージシャン、咲也の異母兄で若きメディア王のラルフ、
カメラマン、事務所がライバルとして売り出した後輩バンド。
芸能界が舞台だけあり、愛音にはイケメンが次々と寄って来ます。

愛音一筋で揺るがない咲也が女に惑わされる事はありませんが、
気持ちを伝えてくれず何を考えているか判らない咲也に、愛音は
不安を掻き立てられます。咲也の初めての女という大女優の出現、
愛音の友人でスタッフの妹による、汚いやり方での咲也への接近。

咲也にしろライバルミュージシャンにしろホイホイ愛音の高校に
転校して来たり、20歳そこそこのラルフや17歳の咲也が
簡単に米国の大企業のトップに立ててしまう点は、やはり
少女向けで、かなり現実離れしていると言わざるを得ません。

しかしキャラの心情は、思いの他繊細な描かれ方をしていました。
愛音の両親は咲也との同棲も暫く放置するほど愛音に無関心で、
愛音は愛される事を知らずに育ちました。咲也は出生の経緯から
母親に存在自体を憎まれており、その母親が死ぬと、中学生で
女に体を売って生活していました。女は欲望の為、金の為に
利用するもの。咲也は人を愛する事を知りませんでした。

愛音は咲也にどれだけ愛されても、愛されているという確信が
持てません。他の男性に迫られてもそれに心動くという事はなく、
他の男に汚された自分は咲也に嫌われる、捨てられる、と激しく
脅えるのです。普段どれだけ抱かれていても、他の女性が咲也に
近付くと、やはり自分なんか芸能人の咲也には釣り合わないんだと
すぐに自信喪失し、胸を切り裂かれるような不安を覚えるのです。

それはとても哀れで、愛音はこれまでどれだけ愛されずに
育ってきたのかと、同情を禁じ得ません。愛音の為なら
どんな事でもする咲也ですが、一人きりでのし上がってきた
その強さ故に、愛音の不安をなかなか理解できません。
それが時に、二人の間に衝突や擦れ違いを生み出します。

でも、弱さだけではなく人を思い遣る心と強さを兼ね備えている
愛音は、ハードルを乗り越えていきます。放任されていた親との
和解も果たします。エロいだけじゃなく、生い立ちを背景に
性格付けや心理描写もしっかりした、ラブストーリーでした。

これはロックバンド・ルシファーのサクセスストーリーでもあり、
業界モノ、バンドモノの側面もあります。第1話の時点で既に
人気バンドとして登場したルシファーですが、ライバルとの対決、
弱小所属事務所への圧力、PVや写真集の撮影、そして草創期の
思い出話や世界進出の夢など、業界モノとしても成立しています。

アニメ化、しかもテレ東火曜7時のゴールデンと発表された時は、
これをゴールデンでやって大丈夫なのか!?と心配しました。
アニメはエロの要素だけ見事に抜いた、バンドモノとして
成立していました。アニメ化のタイミングで、現実と連動して、
作中のルシファーもリュシフェルと改名していました。

咲也以外のメンバーの名前をマンガと同じにしたリュシフェルは
リアルでデビューし、その詞が作中に使われたりもしていました。
初期のルシファーの詞は、新條先生が自分で作っていました。
ライバルとして登場したemu.も実際にデビューしました。
ビジュアル系ブームだったからこそできた、面白い企画でした。

メンバーの雪は能の家元の家系で、高校生で政略結婚の相手と
駆け落ち。敦郎は血の繋がらない姉と禁断の恋。
TOWAは幼馴染の恋人がルシファーのメイクさん。

可哀相に、女っけのないサン太だけ読み切りがないのですが、
それぞれが独立した連載にできそうな、濃い設定の読み切りも
ちょいちょい収録されています。全17巻の後の特別編には、
その後の快感フレーズを描いた書き下ろしもありました。
そこでもサン太は可哀相に、一度も主役を晴れませんでした

終盤は辛い、惨い展開でした。担当に意に染まない展開を強いられ
辛かったと新條先生が後日吐露してネットで話題になりましたが、
あの辺りの事だったのでしょうか。愛するキャラをあんな目に
遭わせたくないのは当然です。でも、コミックスのコメントでは
そんな事は噯にも出していません。プロだな、と感心しました。