早期発見にも拘らず急激に進行して数ヶ月で死に到る癌の
有名人が相次いでいた。日本人の癌は突然凶悪化したのか?
事態を重く見た政府は癌治療の主要4グループを集めた
プロジェクトチームを立ち上げた。名付けてプロジェクトG4。
4グループ各々の威信を懸けた、壮絶な争いが始まる。
著/久坂部羊。

外科チームは大阪の阪都大。教授の玄田を筆頭に、準教授の
黒木、筆頭講師の雪野がメンバー。黒木が薦める精緻な手術が
可能な手術支援ロボット“HAL”がアピールポイント。

内科は国立トップの東帝大。教授の朱川を筆頭に、小南、赤崎
メンバー。どの癌にも効く万能抗ガン剤の開発が目標であり、
赤崎が研究する電磁波ガン凶悪化説がアピールポイント。

放射線科は京都の京御大。筆頭は偏屈な青柳、続いて龍田、梅川
ガン細胞にホウ素を吸収させて放射線で叩くBSTNの
実用化を目指す。巨大放射線治療施設の建設も狙う。

免疫療法科は私立の雄慶陵大。率いるはG4の紅一点・白江
他に男性の秋吉、女性の西川が続く。有望な免疫療法を開発し、
全国規模の大規模な治験J−WHITEの拡大を目指す。

この4陣営に加え、真がん・偽がん説を唱える医学界の異端児
岸上、ニュースキャスターの萩島、医療班の新聞記者でG4を
継続取材する矢島塔子が主要な登場人物です。

G4のリーダー達のネーミングは、見てすぐ判りますが、
中国の伝説の朱雀・玄武・青龍・白虎の四神から取られています。
これだけでもゲーム的な軽い印象がしますが、ストーリーも
戯画的で、医学界のトップレベルの人間達が、大真面目に
ドタバタ、あたふたする様を、徹底的に嘲笑するような内容です。

大学名もパロディですが、発生する問題も現実の事件の
パロディです。群馬大の腹腔鏡手術事件、STAP細胞騒動、
高血圧治療薬のデータ操作などなど。真がん・偽がん説は
しばしば週刊誌を賑わす近藤誠医師の説でしょう。

一応の主人公は雪野でしょうか。G4に参加できるそれなりの
地位にいながら出世や名声への貪欲さをさほど持たず、
本作唯一と言ってもいい、誠実な人物として描かれています。

その高校時代の同級生が、赤崎でした。青春を犠牲にし、
血の滲むような努力をして国立トップの医学部に入ったけれど、
部活に行事にと高校生活をエンジョイしながら同じ医師の道を
志し、独身の自分と違い現在は家庭も持っている雪野に、
赤崎は羨望と劣等感の入り混じった感情を抱いています。
最も悲劇的な結末を迎えるのが、この赤崎でした。

外科は目に見える形で癌を取れるけれど、逆に見えない細胞は
取れず、言うまでも無く身体を切り、時に臓器も摘出するので、
再発を招いたり患者のQOLに問題が起きる場合があります。
内科の抗がん剤は、実は癌を治せません。癌を縮小させて
延命させる効果はあるけれど、抗がん剤だけで癌は治せません。

放射線は、3D照射で負担を減らしたり、外科手術不能な
脳の奥までガンマナイフで治療できるようになったけど、
放射線によって周辺組織を痛めてしまう副作用があります。

免疫療法は、自分の免疫を使用する為副作用が殆ど無く、
将来有望ですが、研究は端緒に付いたばかりで、
有効性がはっきりしません。巷の病院では自己免疫療法を
名乗る医学的根拠の無い治療も散見され、玉石混交です。

執筆時にはオプシーボは発売されていなかったかも知れませんが、
久坂部先生の文章のニュアンスからすると、免疫療法が一番
将来有望な治療法と考えているフシが見て取れました。

癌治療の中心の4グループの利点と問題点、そして一般には
知られていない治療の実態が指摘されているのが、この作品の
見所です。放置しておいても治ってしまう癌がある事や、
検査によって癌細胞が刺激されたり細胞が拡散して
悪化させるなどは、私のような一般人には衝撃的な話でした。

4グループそれぞれに一長一短があって、協力してそれぞれの
長所を取り入れた最適な治療法(治療の最適化)を確立しよう、
それがプロジェクトG4のそもそもの意義でした。

しかし自陣の治療が最も有効と思いたい、また8,000億円の
G4の予算をできるだけ多く配分されたい4グループは、
他グループを罠にかけ、陥れ、貶めようと躍起になります。

医療ミスの隠蔽や実験データの捏造は自業自得ですが、
スキャンダルをでっち上げられたり、出世に絡んで身内から
リークされたり、実験室を荒らされたり、内からも外からも、
ありとあらゆる醜い陰謀が交錯する事態になります。

それらにマスコミが利用されていたところは興味深いです。
大々的に持ち上げた相手を掌返しで突き落とすのは
マスコミの常套手段ですが、自陣を持ち上げ、時にバッシングで
他陣営を炎上させる為に、医師達はマスコミを使います。

久坂部先生の作品には、必ずと言っていいほどマスコミが
重要な役割を持って登場します。それも批判的な視点が
感じられます。本作では、報道で良くある、まだ動物実験の
段階の話をさもすぐ実用化できそうに、患者に希望を
持たせるように取り上げる事にも批判的でした。
日頃様々な報道に接して、苦々しく思っているのでしょうか。

G4に関わる人々は、何故か呪われたように、一人また一人と
次々に癌を発症します。G4のメンバーのみならず萩島や岸上、
まだ33歳の塔子までとなると呪われてるとしか思えません。

癌ノイローゼになったり、死因が癌ではなくても悲劇に
見舞われ命を落とす者まで出てきます。治療の標準化など
どう考えても達成できそうにありませんが、4グループを
右往左往させた、プロジェクトG4の行方は、果たして──?

面白いのは、癌と判明した、或いは疑いがあると思った時に、
個々のキャラが取る行動に違いがある事でした。
真っ先に──自陣ではなく──他グループの治療を極秘に受ける、
絶望と言われても僅かな可能性に懸けて足掻く、徹底的に闘う、
自説を信じ、曲げずに貫く──。癌はその人の人格を、
個性を表すもの、とでも言っているかのようでした。