COOL LADY’S PARADE

人生はレビューです。マンガ、本、ライブ、DVD、CDなど、色んなものをレビューします。
タイトルは “COOL LADY’S PARADE”。
JUNKな文章なので、お気軽に読んで行って下さい。

コミックス

快感フレーズ 1〜17巻・特別編

恋愛×バンド×エロ。アニメ化し、リアルで作中のバンドが
デビューするというメディアミックスも果たした、エロい作風で
有名な作者の一番のヒット作です。本編17巻と、特別編1巻の
全18巻、’00年前後に週刊少女コミックに連載されていました。
作/新條まゆ。

国語だけが取り得の平凡な女子高生・雪村愛音(あいね)は
友達に作詞コンテストに応募するよう勧められました。
その詞を携えた下校中、車に轢かれそうになった愛音は、
フェラーリから降りてきた男性に目を奪われ、見惚れました。

長身、美形、いかにも女に慣れていそうな艶かしい身のこなしに
黒髪と不釣合いなブルーの眼。愛音に怪我が無い事を確かめた
その男性は、連絡先を残して去っていきました。その男性こそ、
大人気バンドルシファーのボーカル、大河内咲也(17)でした。

その時愛音はコンテスト用に書いた詞の紙を落としていました。
咲也が連絡先として渡したスタッフパスでコンサート会場に
赴いた愛音は、あの時の男性が、ルシファーのボーカルとして、
愛音の詞に乗せた新曲を歌っているのを目撃し、仰天しました。

楽屋に押しかけた愛音は咲也と再会します。咲也は愛音を
ルシファーの専属の作詞家にするとメンバーに宣言します。
求められたのは、ルシファーと咲也のイメージ通りのHな詞。
女を蕩けさせ、カラダをアツく疼かすような、快感のフレーズ──。

今は殆どカバーされていたり紐で縛られたりしていますが、
少し前のコンビニでは、雑誌が立ち読みし放題でした。そもそも
何故少女マンガなど読もうと思ったのかは記憶が無いのですが、
立ち読みしていた少コミで、新條まゆ先生の名前は以前から
知っていて、連載を読んでいた気に入っていた作家の一人でした。

その新條先生の新連載が始まると(恐らく)表紙で知って、
読んでみると、一目で虜になり、始めは毎号立ち読みをして、
単行本が出ると単行本に移行し、遂には全巻集めてしまいました。
作者は同い年で誕生日も近いので、センスが合うんだと思います。
有閑倶楽部ときたがわ翔の短編集(と、陽あたり良好!も一応
少女マンガか?)を除き、私が唯一持っている少女マンガです。

処女の想像力を掻き立ててHな詞を書かせる為と公言し、咲也は
愛音にぐっと顔を近付けて、耳元で意地悪な言葉を囁き、髪を
撫で、首筋に唇を這わせ、スカートの下から太股を撫で上げます。

いつもギリギリのところで寸止めされる愛音は悶々とします。
自分に詞を書かせる為にやっているだけだ、芸能人が自分なんて
本気で相手にする訳ない、本気になっちゃいけない、といくら
理性に命じても、咲也への想いは抑え切れずに溢れ出します。

咲也の真意が判らず苦しむ愛音に咲也もとうとう体裁を捨て、
自分の想いを露にします。愛音の高校に転校さえした男です。
固く結ばれた二人は、咲也のマンションで同棲を始めました。

一旦結ばれたら2人はもうヤりまくりです。でももっとエロい
シーンばかりという印象があったのですが、一気に読み直すと
そうでもなく、ちゃんとしたストーリー展開になっていました。

二人の間には様々なライバルが割り込みます。死んだ妹と愛音が
瓜二つ、しかもその実の妹に恋愛感情を抱いていたという
ソロミュージシャン、咲也の異母兄で若きメディア王のラルフ、
カメラマン、事務所がライバルとして売り出した後輩バンド。
芸能界が舞台だけあり、愛音にはイケメンが次々と寄って来ます。

愛音一筋で揺るがない咲也が女に惑わされる事はありませんが、
気持ちを伝えてくれず何を考えているか判らない咲也に、愛音は
不安を掻き立てられます。咲也の初めての女という大女優の出現、
愛音の友人でスタッフの妹による、汚いやり方での咲也への接近。

咲也にしろライバルミュージシャンにしろホイホイ愛音の高校に
転校して来たり、20歳そこそこのラルフや17歳の咲也が
簡単に米国の大企業のトップに立ててしまう点は、やはり
少女向けで、かなり現実離れしていると言わざるを得ません。

しかしキャラの心情は、思いの他繊細な描かれ方をしていました。
愛音の両親は咲也との同棲も暫く放置するほど愛音に無関心で、
愛音は愛される事を知らずに育ちました。咲也は出生の経緯から
母親に存在自体を憎まれており、その母親が死ぬと、中学生で
女に体を売って生活していました。女は欲望の為、金の為に
利用するもの。咲也は人を愛する事を知りませんでした。

愛音は咲也にどれだけ愛されても、愛されているという確信が
持てません。他の男性に迫られてもそれに心動くという事はなく、
他の男に汚された自分は咲也に嫌われる、捨てられる、と激しく
脅えるのです。普段どれだけ抱かれていても、他の女性が咲也に
近付くと、やはり自分なんか芸能人の咲也には釣り合わないんだと
すぐに自信喪失し、胸を切り裂かれるような不安を覚えるのです。

それはとても哀れで、愛音はこれまでどれだけ愛されずに
育ってきたのかと、同情を禁じ得ません。愛音の為なら
どんな事でもする咲也ですが、一人きりでのし上がってきた
その強さ故に、愛音の不安をなかなか理解できません。
それが時に、二人の間に衝突や擦れ違いを生み出します。

でも、弱さだけではなく人を思い遣る心と強さを兼ね備えている
愛音は、ハードルを乗り越えていきます。放任されていた親との
和解も果たします。エロいだけじゃなく、生い立ちを背景に
性格付けや心理描写もしっかりした、ラブストーリーでした。

これはロックバンド・ルシファーのサクセスストーリーでもあり、
業界モノ、バンドモノの側面もあります。第1話の時点で既に
人気バンドとして登場したルシファーですが、ライバルとの対決、
弱小所属事務所への圧力、PVや写真集の撮影、そして草創期の
思い出話や世界進出の夢など、業界モノとしても成立しています。

アニメ化、しかもテレ東火曜7時のゴールデンと発表された時は、
これをゴールデンでやって大丈夫なのか!?と心配しました。
アニメはエロの要素だけ見事に抜いた、バンドモノとして
成立していました。アニメ化のタイミングで、現実と連動して、
作中のルシファーもリュシフェルと改名していました。

咲也以外のメンバーの名前をマンガと同じにしたリュシフェルは
リアルでデビューし、その詞が作中に使われたりもしていました。
初期のルシファーの詞は、新條先生が自分で作っていました。
ライバルとして登場したemu.も実際にデビューしました。
ビジュアル系ブームだったからこそできた、面白い企画でした。

メンバーの雪は能の家元の家系で、高校生で政略結婚の相手と
駆け落ち。敦郎は血の繋がらない姉と禁断の恋。
TOWAは幼馴染の恋人がルシファーのメイクさん。

可哀相に、女っけのないサン太だけ読み切りがないのですが、
それぞれが独立した連載にできそうな、濃い設定の読み切りも
ちょいちょい収録されています。全17巻の後の特別編には、
その後の快感フレーズを描いた書き下ろしもありました。
そこでもサン太は可哀相に、一度も主役を晴れませんでした

終盤は辛い、惨い展開でした。担当に意に染まない展開を強いられ
辛かったと新條先生が後日吐露してネットで話題になりましたが、
あの辺りの事だったのでしょうか。愛するキャラをあんな目に
遭わせたくないのは当然です。でも、コミックスのコメントでは
そんな事は噯にも出していません。プロだな、と感心しました。

  

笑ゥせぇるすまん 1〜3巻

ここでの1〜3巻はカバーが革の鞄のデザインになっている
中央公論社(当時)の中公コミック・スーリでの巻数です。
3巻までになっているのは、私がそれしか持ってないからです。
作/藤子不二雄A。

黒ずくめのスーツと帽子、小太りのちんちくりんの体型。
謎の自称セールスマン・喪黒福造は、日常に倦み、
刺激を求める現代人のココロのスキマにするりと忍び込みます。

喪黒さんは強引にターゲットに近付いてしばしば
胡散臭がられますが、すぐに“お客さま”は心を許し、
自身の悩みを打ち明けるようになります。

そして客は、喪黒さんの紹介する変なアイテムや変な店を用いて
束の間の幸福感や充実感を味わいますが、自らの欲深さ、
或いは喪黒さんによる元々の仕掛けにより、最終的には
(ほぼ)必ず、破滅への道へと向かうようになります。

昭和44〜46年に週刊漫画サンデーに連載――と言うより、
’89年にバラエティ番組「ギミアぶれいく」の1コーナーとして
アニメ化されていた、と言う方が遥かに通りがいいでしょう。

冒頭の喪黒さんの自己紹介のフレーズは今でも覚えています。
2時間の番組内でいつやるか判らなかったので、この10分の為に
ずっとこの番組を見ていなければなりませんでした。

アニメの印象は、強烈で、鮮烈でした。忘れもしない、
アニメの第1話はコミックス1巻にもある「たのもしい顔」。
音楽、演出、喪黒さんの声、動き、バー“魔の巣”の雰囲気、
原作ではさほど大きく扱われていない「ドーン!」の効果。
どれを取っても原作のイメージを補って余りあるものでした。
余りの反響の大きさに、同じ話が翌週もう一回放送された程です。

アニメでは、一旦は喪黒さんが客の悩みを解消してあげるけど、
ひとたびお客が調子に乗って喪黒さんとの約束を破った時は、
「ドーン!」という気合と共に奈落の底に突き落とす、
という、“因果応報”のパターンが殆どでした。

しかし原作の喪黒さんは悪質です。漫画サンデー連載時の原題は
黒ィせえるすまんだったそうですが、タイトル通り、
喪黒さんが、黒いです。お客を助ける気など更々無く、
始めから破滅させたりからかう為だけに客に近付いています。
アニメとはかなり趣が違うので、ちょっと戸惑ってしまいました。

アニメ・原作共通の事ですが、かなりグロテスクなオチや、
セクシャルというかアダルトな話もあって、内容は完全に
大人向けです。オトナ向け過ぎて、「手切れ屋」のオチの意味が
最初は分かりませんでした。後にYJでB.B.フィッシュという
マンガを見て、『あれはこれだったのか!』と知った次第です。

──それをアニメでそのままやっていたのも驚きですが──
「藤子不二雄」名義でこんな話を描いていたのだから驚きです。
連載時はまだ「藤子不二雄」はコンビ解消前でしたが、恐らくは
これは安孫子さん一人で描いていたものなのでしょう。
ゴルフの話が目立つのも、安孫子さんの趣味だと思います。

1巻が漫画サンデー連載時の分で、2,3巻は、アニメ化を受けて
’90〜’92年に中央公論で連載された分が収録されています。
だから1巻と2,3巻では、絵柄がかなり違います。1巻では
人物も背景も簡略化されていますが、2,3巻はしっかりした
絵になっており、背景も、きっちり描き込まれています。

3巻に収録されているものは話もちょっと変わってきていて、
お客が懲りずに次の楽しみを見つけたり(「看板ガール」)、
新しい環境に適応したり(「ブルーアイ・ジャパニーズ」)、
破滅ではない結末や、「ドーン!」に負けない人も出てきます。

荒削りの1巻が一番面白く感じて、2巻になるとマンネリ化が
否めませんでしたが、作者が時代の変化を感じ取ったのか、
マンネリ化を避ける為なのか、新しい話にこういうオチが
出てきたのは、興味深い事だと思いました。

どういう理由か今年TOKYO MXで再アニメ化されたのですが、
それが前シリーズのアニメの雰囲気を見事に踏襲したもので、
前シリーズへのレスペクトぶりに感銘を覚えました。

喪黒さんの声優を務めた大平透さんは亡くなってしまったので、
玄田哲章さんが喪黒さん役を演っていたのですが、これが
言われなければ判らないほど、全く違和感が無いものでした。

因みに伊東四郎さん主演で連続ドラマ化されたこともあります。
その時の魔の巣のマスター役は、藤村俊二さんでした。
伊東さんの風貌、歩き方など、喪黒さんそのものでした。

  

PSYREN

秘密結社サイレン、赤いテレホンカード、怪人ネメシスQ。
オカルト好きの連中が、ネットで興味本位に囁くだけの、
都市伝説と思っていた。が、そこに巻き込まれた時から、
夜科アゲハの運命は変わった。週刊少年ジャンプに
連載されていたコミックです。この連載終了と同時に、
私は小3から30年間読み続けたジャンプを卒業しました。
作/岩代俊明。

夜科アゲハは有り余る力を持て余して喧嘩に明け暮れたり
校内のトラブル解決を有料で引き受けたりしている
高校生だった。アゲハはお気に入りの女子がいたが、彼女が
同級生の雨宮桜子に嫌がらせをしている現場のを
目撃してしまい、雨宮の事が何となく気になり始めた。

クール&アナーキー。いつも怪我をしていて、入学直後に
イかれた事を呟いて以来、クラスでも孤立している少女だった。
雨宮は、アゲハの小学生時代の同級生だった。嘗ては明るくで
仲が良かったが、今では人が変わったようになっていた。

雨宮は、嫌がらせされている事を指摘して心配したアゲハを
拒絶したが、廊下で擦れ違い様、小さく悲鳴のように呟いた。
「助けてよ・・・!」

以前雨宮は憑かれたように呟いていた。『サイレンがやって来る』
偶然、アゲハはサイレンのテレホンカードを手に入れた。
未使用の物はネットオークションで500万円は下らないとも
言われる代物だったが、雨宮が何かに巻き込まれていると
感じたアゲハは、思い切って、そのカードを使ってみた。

カードを挿しただけでどこかに繋がり、口の悪い女から奇妙な
アンケートを受けた翌日、刑事を名乗る怪しい男達がアゲハの
高校にやって来た。男達はカードを狙い、アゲハを襲った。
その最中、携帯電話が鳴った。頭上に怪人ネメシスQが現れ、
携帯が通話になった次の瞬間、アゲハは荒廃した世界にいた。

外には気味の悪い怪物がウロウロしていた。廃墟のようなビルに
入ると、同じようにネメシスQに呼ばれたらしい連中がいた。
その中に、雨宮もいた。スタートの公衆電話から、ゴールの
公衆電話まで。アゲハ達は、怪物を倒しながらゴールを目指す、
サイレンのゲームに強制的に参加させられる事になった。

雨宮は、既にこの世界に何度も来ているようだった。
集まった者の中に、アゲハと雨宮と3人で仲が良かった、
小学校の同級生の朝河飛龍がいた。ゲームをクリアして
元の世界に戻ったアゲハと飛龍は、PSI(サイ)と呼ばれる
超能力を発現した。二人は雨宮のPSIの師匠の八雲祭
祭に横恋慕している雹堂影虎にPSIの特訓を受けた。

次のゲームの参加者には、自由人で女好きでいい加減な
霧崎カブトと、大人気アイドル俳優の望月朧がいた。
アゲハらは、サイレンの秘密に懸賞金をかけている大富豪の
占い師・天樹院エルモアと、彼女が引き取って育てている
“エルモア・ウッドの子供たち”と呼ばれる子供達とも出会った。

良く当たる占い師としてマスコミでも人気だったエルモアは、
実は未来を見る能力を持つPSIの能力者だった。子供達も
5人とも、見事なPSIの使い手だった。何度かゲームに
召集されるうち、サイレン世界は未来の日本だと気付いた。
そして謎の団体“W.I.S.E”の影がちらつき始めた。

W.I.S.Eとリーダーの天樹弥勒が、未来を崩壊させ、
自分達を襲う怪物を作り出している張本人だった。それを知った
アゲハ達は、現代のW.I.S.Eとも接触し、現代と未来を
行き来しながら、未来を改変し、世界の崩壊を阻止しようと試みる。

謎めいたストーリー。静と動、アップとロングの切り替えも
巧みな演出。各々が覚悟を持った個性的で魅力的なキャラクター。
その心理描写、時折挟むギャグ。何もかもが素晴らしい。

取り分け素晴らしかったのがストーリー構成とそれを表現する
演出でした。みえるひとの読み切りで週刊少年ジャンプに
登場した時から構成力には目を見張るものがありましたが、
次がどうなるか予測不能の展開に、毎週何度も読み直しました。

アゲハや雨宮が送られる世界はそもそも何なのか。誰が何の為に
こんなゲームを強いているのか。それを解き明かしながら、
未来を知って過去を変え、それが別の未来を作るという難しい
構成を、実に上手く、スムーズに作り出してくれていました。

アゲハの父の目の前で行われ、父に「アツアツじゃないですか」と
言わしめたアゲハの告白シーンも、物語の流れに乗って終盤へ
向かい昂揚する、ここしかないというところで行われました。

第1話でアゲハが初めてサイレンに飛ばされた次の瞬間の無音、
朧やエルモアの登場、大ピンチの時にエルモア・ウッドの
子供達が現れる演出。次回へのヒキや次のページへ行く時に
効果的な見せ方をするコマの使い方もとても上手い。
まるで良くできた映画を見ているかのようでした。

アゲハは母親を小学生の時に亡くし、宇宙を研究する研究者の
父親は海外にいて、親代わりとしてアゲハの面倒を見ている、
スパルタで怖い朧ファンの姉のフブキと二人暮しです。

喧嘩好きで暴れん坊の問題児だけど、少年マンガの主人公らしく
正義感の強い、真っ直ぐな男です。その思いが強過ぎて、
誰かの為に危険に突っ込んでいき、周りを心配させてしまう
面があります。真っ直ぐ相手を見据える大きな瞳は、コイツは
信頼できる奴だと相手に自分を信用させる力を持っています。

雨宮は、豪華なマンションに住んでいるけれど両親は不在勝ち。
サイレン世界を行き来し、肉体的にも精神的にも過酷な
闘いをし、目の前で人が死んでいくのを見続けるうち、心の底の
深い部分に、澱のような闇を溜め込むようになりました。

サイレンの秘密を漏らせばネメシスQに殺される。誰にも言えない、
誰にも助けて貰えない。孤独と絶望に支配されていたところに
射した光がアゲハでした。アゲハの参戦で、雨宮は救われます。

朧は興味深いキャラでした。一見優男で天然アイドルだけど、
退屈を壊し刺激を与え、能力の限界を験すサイレンのゲームに
喜んで参加します。アゲハ以上に積極的に危険に飛び込む男で、
どこまで信用していいのか危ういタイプでもあります。

エルモア・ウッドの子供たちも5人とも個性的でした。
まともに言葉を話せないけど悪戯好きのヴァン、アゲハとウマが
合う暴れん坊のカイル、女王気質のフレデリカ、風水のイメージの
SPIを使う冷静沈着でマリーの事が好きなシャオ、人見知りで
大人しいけど自分を褒めてくれたアゲハを好きになったマリー。

子供たちがアゲハに懐いてそれが未来まで繋がっていたり、
アゲハと飛龍が騎士のように雨宮を守ろうと覚悟をしたり、
そういうキャラ同士の絆、関係性が構築される過程、
心の動きの描写も丁寧でした。ある人物の死、祭と影虎のオトナの
真の愛を描いたシーンでは、感動の涙が出てきました。
岩代先生は、きっと凄く優しい人なんだろうなと思いました。

PSIの能力は、力の“バースト”、精神に作用する“トランス”、
治癒の“キュア”の3系統に大別されます。個々人により得意な
系統があり、その力がその人固有のイメージとして発現します。

アゲハの能力の基本は、“暴王の月”(メルセズ・ドア)。PSIを
自動追尾する暗黒の球体が、触れる物全てを抉るように消滅させる、
ブラックホールのような力です。これを円盤状にして切り裂いたり、
極小サイズにして弾丸のように飛ばしたり、小さい玉を自分の
周囲に高速回転させてバリアにしたり、意外と応用の利く能力です。

雨宮はトランス系が得意。幻覚を見せる“狂気の鎌”(インフィニティ・
サイズ)、心を読むマインド・ジャックなど、精神に作用する
能力が得意です。死神の鎌のようなインフィニティ・サイズを構え、
女だてらに振り回す姿は、女戦士のようにカッコいいものでした。

W.I.S.Eやエルモア・ウッドの子供たちもそれぞれ異なる
能力を持っており、能力を生かし、ぶつけ合って闘います。
PSIの修行をするシーンもあるし、掲載誌を意識した、
ジャンプらしい、特殊能力バトルモノの要素も盛り込まれています。

W.I.S.Eとは何者か?ネメシスQの正体とサイレンの
ゲームの意味は?ゲームをクリアする毎に次々生まれる謎が
また解き明かされていく。最後はちょっと唐突な印象が
否めませんでしたが、意外な脇役キャラがラスボスでした。

ミステリー、SF、恋愛、友情、バトル、感動と興奮とコメディ。
あらゆる要素が凝縮され、1話1話にギュッと詰まった、
充実した内容でした。アトガキを見るに始めから全ての
プロットを決めていた訳ではないようです。それでこの
完成度なのだから、才能と言う他は無いと思いました。

湘南爆走族 全16巻

走りをとことん楽しみたい。ついでに喧嘩も最強。ヨーラン・ドカンに
紫のリーゼントのリーダー・江口洋助を筆頭としたそんな5人の
伝説の走り屋集団・湘南爆走族。爆笑学園生活やライバルの暴走族との
抗争が描かれる、’80年代に大ヒットしたコミックです。
作/吉田聡。

現在はジャンプ・マガジン・サンデーで3大週刊少年誌と見なされていると
思いますが、嘗てはそこに週刊少年キングという雑誌があって、
4大少年誌と言われていました。隔週の刊行になって、遂にずっと昔に
廃刊になってしまった雑誌ですが、そこで連載されていた作品です。

ギャグが多くてギャグとシリアスが6:4くらいのイメージだったんですが、
読み返してみるとギャグ9割で、これはもう、完全にギャグマンガだと
思いました。たまに入る敵対する暴走族とのシリアスな抗争劇が、
──OAV化された人気エピソード達ですが──浮いているくらいです。

大体リーダーの江口が手芸部、暴走族なのに免許持っていない
メンバーがいるという設定からしてギャグです。デタラメな強さの
江口が手芸部女子にやり込められているのは面白いけど、手芸の
天才という設定はかなーり無理があって、不自然だと思いますが。

初期と後期では絵柄が全然違います。初期は(関係無いだろうけど)
Dr.スランプが人気の頃で、絵柄やノリが鳥山明っぽいです。
江口と相思相愛で、友達以上恋人未満の手芸部副部長、
津山よし子とのラブコメパートは、読むのが気恥ずかしい
ポエムが入っていて、少女マンガのようなところもあります。

こういうマンガのお約束だけど、優等生のヒロインと同じ高校に
アホの主人公がいるという設定は、現実にはまぁ有り得ない事ですね。
特に神奈川県立高校では。当時の神奈川県にはア・テストという
準入試のような位置付けの県内共通テストがあって、かなりシビアに
切り分けされていたし。作者も県内出身だから知ってる筈なんだけどね。

私は当然リアル暴走族は全否定しますが、このマンガは面白いです。
最初は江口オンリーで他の4人は殆どモブでしたが、次第に皆キャラが
立ってきました。シブい角刈りの桜井信二、お笑い担当の
モヒカン・丸川角児、アフロの無免・原沢良美
そして3色メッシュの核弾頭・石川晃。一番伸びたのは晃でしょう。
女性人気が高かったのか、名実共にNo.2として目立っていました。

湘爆の(自称)ライバルの“地獄の軍団”のリーダー・権田二毛作
作者のお気に入りですね。別冊に収録の湘爆のプロトタイプの
読み切りにも登場していたので、思い入れのあるキャラなんでしょう。

権田は始めは江口に負けてばっかりの単なる当て馬っぽかったけど、
本気出せば江口と同じくらい強いという設定が後付けされて、
意外と真面目で生徒会長だったり、バイトの鬼だったり、
漢気ある名シーンをしばしば見せるようになりました。
ヒゲでムサい外見だけど、ちゃんと彼女がいます。アキラもだけど、
作者のお気に入りには彼女作って優遇してあげてんのかなと思います。

同じ神奈川県でも、県央の方は方言があるみたいで、「〜だべ」という
語尾は私の地元では聞かれませんでした。“だべ”なんて、それまでは
マンガなんかで田舎者である事を表す場合のテンプレ方言という
イメージでしたが、湘爆が使っていると、妙にカッコ良く思えました。

今なら全国共通の若者言葉のようになっている「うざったい」という
言葉も、1つ年下を表す「1コ下」という言い回しも、湘爆を読むまでは
聞いた事がありません。湘爆が広めた言葉なのではないでしょうか。

実写映画化されてOAVが何本も作られている大ヒット作だったのに
TVアニメ化されなかったのは、やはり暴走族という題材故でしょうか。爆音を立てて暴走行為をしている事を津山さんに正面から批判される
シーンがあって、江口はそれには答えられず、微笑しているだけでした。

暴走行為で周囲に迷惑を掛けている事を否定せず態々そういう意見を
キャラに言わせていたのは、作者がちょっとは後ろめたさを
感じていたからなのか、暴走族を美化しているとPTAか何かに
言われたのか、言われないように予防線を張っていたのは判りません。

江口洋介と織田裕二のデビュー作としても知られる実写映画版は、
各キャラがマンガから抜け出てきたようにそっくりでした。
津山さんの清水美砂も、アキラの彼女の三好民子の杉浦幸も。

江口なんて字は違うけど、名前まで江口洋介なんて、冗談みたい。
映画はアキラ主役みたいなもので、余り売れなかったみたいですが、
意外と面白かったです。元々の期待値が低く、おもってたより、ですが。
大分前に深夜にTV放映され、今でも保存版にして取ってあります。

  

密 ・リターンズ! 全7巻

週刊少年ジャンプに’95〜’96年に連載されていたコミックです。
赤松健先生が運営されているJコミというサイトで見付けて
読ませていただきました。素晴らしい作品でした。
涙が溢れて止まらなくなるシーンがいくつもあり、私はコミックスは
持っていないのですが、記事を書かずにいられなくなりました。
作/八神健。

高校教師の端島密は元教え子で同僚の星崎理都にプロポーズし、
婚約したその夜、自殺しようとして川に飛び込んだ高校生を
助けようと続けて川に飛び込んで、死亡しました。

その一部始終を見ていた通りすがりのお坊さんは、
チベットで身に付けた秘術を用いて密を転生させました。
但し、密が救おうとした高校生・鳴神源五郎の肉体に。
密は鳴神源五郎として生き、源五郎として理都と出会い直し、
もう一度自分に恋をさせて恋人同士になろうと決意しました。

これは作者のデビュー作のふわふらという読み切りが
下敷きになっています。密が首から下げた御守りを外すと密の魂が
源五郎の肉体から幽体離脱してしまうという設定です。

しかし、継承しているのはその点だけで、それ以外は別物です。
少年誌にありがちな、ちょっとHなドタバタラブコメディではなく、
今のジャンプじゃ絶対に有り得ないだろう、切なく、悲しく、純粋な、
大人の男女のラブストーリーです。まったく、当時であっても、
良くこんな作品をジャンプで連載させて貰えたなと思います。

当時も自分の年齢はそれなりに大人で、当時も好きだったんですが、
今読むと当時より登場人物達の心の機微をより深く理解できて、
こんなにも素晴らしい作品だったのかと改めて気付かされました。
当時の印象以上です。読み返す場を与えてくれた赤松先生と、
Jコミに作品を提供してくれた八神先生に感謝したいと思います。

中身が密の源五郎は、理都の傍にいる為に転校します。
源五郎の姿の密は変わらぬ想いで真っ直ぐに理都に接しますが、
「理都!」と呼び捨てで呼んで理都に冷たく窘められます。
年上の同僚ではなく、今はもう年下の、教師と生徒という間柄なのです。

それだけではなく、理都にとっては“鳴神源五郎”とは、
彼を助ける為に密が死んだ、密を死なせたも同然の人間です。
“教科書女”と言われるほど頭が固く真面目な理都も、源五郎の顔を
見ると、醜い感情が湧き起こるのを抑えようもありません。

第一印象は最悪でした。しかし、源五郎の中に密の面影を見出し、
源五郎に惹かれていく自分を見付けて理都は激しく狼狽します。
源五郎に恋をした同級生が現れれば苛々し、客観的には立場も歳も
自分と釣り合う、金持ちのイケメンに求愛されても迷います。

密のイメージを重ねているだけだと自分自身に言い聞かせ、
理都は自分の感情に蓋をします。源五郎の幸せ、自分の幸せの為に
どうすべきかを考えて、自分を納得させようと懸命に努力します。
言葉で説明しなくても、些細なエピソードの積み重ねと理都の表情で、
そういう複雑な心の動きがひしひしと胸に迫るように
伝わってきました。作者の心理描写の上手さは、特筆に値します。

源五郎の肉体の奥深くに眠っていた、源五郎本人の心象風景である
暗く静かな“氷の世界”は、息を呑むほど注視させてくれました。
自殺しようとしたくらいですから、源五郎は人生に絶望し、
固く心を閉ざしています。広大な世界にポツンと立つ氷漬けの姿の
イメージ通り、源五郎の心は圧倒的に冷ややかで、孤独です。

密の過去の回想と、源五郎の両親の事まで思い遣り、
“端島密”を犠牲にしてでも源五郎の魂を救いたいという密の想い、
それに接して迷いを見せ始める源五郎。どれも心の深いところまで
揺り動かされるエピソードでした。この作者は、きっと
人の心の痛みを知っている、凄く優しい人なんだろうと思います。

この作品は、中盤以降に大幅な路線変更を強いられます。
強いられたとしか思えません。コミックスには、作者がバトル化を
打診され断固拒否したと臭わせるおまけマンガも載っています。
ジャンプで大人の男女が主人公のラブストーリーはさすがに
支持されなかったのか、明らかにテコ入れだと判りました。

そういう時のジャンプ編集部が面白い方向に作品を変える訳が無く、
リアルタイムで読んでいた頃は、どんどんつまんなくなっていって
がっかりしました。二人の前世が出てきたり、チベットへ
行っちゃったのに至っては、作品がぶっ壊されたと思いました。

それでもコミックスで一気に読むと、それなりに話が纏まっていて
驚きました。このメチャクチャな路線変更に、キャラの気持ちを
きちんと織り込んで対応するのだから、本当に構成力のある作家です。

絵柄は可愛いくて素朴で温かみがあるし、キャラも温かいし、
演出の上手さも随所に感じられました。二人の思い出のアンモナイト、
密にしか懐かない臆病なネコのるりるりなど小道具の使い方も
上手いし、京都の満開の桜の下で二人が偶然出会う
見開きのシーンは、映画のようにロマンチックでした。

作者はジャンプを去った後、チャンピオンでアニメ化もされた作品を
描いていたのは知っていました。Jコミに表示されるリンクを見ると、
近年は、マイナーな雑誌で活動しているみたいです。

リンクにあった作者のブログを見に行ったら、自画像が
女性だったので、『え、八神先生って女性だったんだ!』と
一旦びっくりしてしまいました。しかし良く見ると性別♂って
しっかり書いてあるし、自画像どころか、間違いなく
男性であるような(しかもサングラス姿でしたがイケメンと思われる)
顔写真を自分が知っている事を思い出しました。

そうなんだよねー。この人、ジャンプ放送局の王者になった事
あるんだよねー。邦宅杉太というペンネームまで思い出しました。
よく覚えてるな、自分。デビュー作はそのペンネームで投稿していて、
マンガ賞の入賞のページで名前を見た時は、びっくりしました。

  

エキセントリックシティ

きたがわ先生の少女マンガ時代の短編集の3作目です。
4つの短編と描き下ろしのオマケ漫画が収められています。
活動の場をYJに移してから描かれた作品もあります。
これ以降、少女マンガは描いていないと思います。
作/きたがわ翔。

作風がバラバラです。前の短編集はまだ女の子視点の部分が
ありましたが、エキセントリックシティロンリーサマーなんて
完全に男視点になっています。これが少女マンガ誌に
載っていたら違和感があったのではないでしょうか。
以下は簡単なあらすじの紹介と、作品別の感想です。


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北斗の拳 1〜21巻

199X年、世界は核の炎に包まれた。世界は荒廃し、
暴力が支配する時代となった。そんな時代に救世主が現れた。
一子相伝の拳法・北斗神拳の正当後継者、ケンシロウである――。
とそれっぽく紹介してみましたが、そんな説明いらないくらい有名です。
’83〜’88年に、週刊少年ジャンプで連載されていたコミックです。
尚、ここでの巻数の表記は、ジャンプコミックスでのものです。
原作/武論尊、作画/原哲夫。

この作品は、ずっと前に廃刊になった「フレッシュジャンプ」という
ジャンプの月刊増刊誌に載った読み切りが下敷きになっています。
話の内容は忘れましたが、その時の舞台は現代(と言っても’80年代)の
日本で、ケンシロウは霞拳四郎というフルネームで出ていました。
連載の設定は、映画「マッド・マックス」の影響が強いそうです。
現在は、他社で続編やスピンオフ作品が多数描かれています。

この記事のタイトルが21巻までになっているのは、
家にそこまでしか無いからです。実際の巻数は、全27巻です。
買ったのは私じゃなくて兄なんですが、全巻あると思い込んでいたので、
途中で終わっていてショックでした。第二部はつまんなかったからなー。
きっと飽きて、集めるのをやめてしまったのでしょう。

20年ぶりくらいに一気読みしたのですが、
驚くほど細部を覚えていなかったので、新鮮な気持ちで読めました。
印象の強かったシン編が実際は短かったのにはびっくりしました。
改めて読むとケンシロウ口悪っ!そしてめちゃめちゃ人死んでます。
脳も腸も出して死にまくりです。良くこんなマンガを
週刊少年ジャンプで連載していたなと、つくづく感心させられました。

劇画的な話の中に、くすっとさせられるシーンも意外と見られました。
首や肩をコキッコキッと鳴らして指でチョイチョイとか、
ケンが雑魚キャラを露骨に挑発してるシーンも面白いです。
ケンのポーズとか、敵の死に際の叫び声などを見ると、作者もネタとして
割り切って、楽しんで描いていたんだろうなと見受けられます。

北斗の拳は、ケンシロウよりも、むしろ周りの漢達が魅力的です。
私は存在をすっかり忘れていたんですが、特にレイは良かったです。
最初は小物の嫌な奴っぽく登場したけど、実は漢気のあるいい奴で、
ピンチの時には頼りになり、やがてはケンシロウの親友のようになり、
どんどん重要なキャラクターに成長していきました。
壮絶な死に様は、物語前半のクライマックスだと思います。

トキはもっとすぐ死んじゃったイメージを持っていたんですが、
かなり後まで生きていて、ケンと周辺の人々を助けたり、
アドバイスを送ったりしていたんですね。ラオウとの関係は、
全く忘れていましたよ。まさか血の繋がった、実の兄弟だったとは!
トキが柔の拳を捨て敢えて剛の拳を用いてラオウと戦うところは、
聖人のようだったトキが最期に見せた我儘であり、人間的な一面であり、
慕っていた兄・ラオウへの甘えのようにも見えました。

ラオウは始めは単なる暴君という印象で描かれていますが、
話が進むに連れ、実は恐怖により秩序を齎そうとしていたのだと
彼の真意が判ってきます。しかし、ラオウが見ていない陰では、
手下は好き放題殺戮と略奪をしていたのだから、それは恒久的な
秩序にはなり得ない、あまり効果的と言えない方法だったようです。

トキとの絆や、サウザーとの戦いに挑むケンを心配している様子からは、
ラオウが弟たちへの優しさと愛を持っていたのだと判りました。
聖帝サウザーも、師への愛が強過ぎた故に愛を憎みました。
北斗の拳は単なるバトルマンガではなく、実は人物の内面まで深く
掘り下げられた、人間愛の物語という側面もあったのでした。

原さんの絵は描き込む線の量が凄くて、画面が真っ黒です。
毎週インクをかなりたくさん使っていただろうと思います。
男臭い話も、こういう劇画調の絵柄も受け入れられない時代です。
もし21世紀の今のジャンプでこれが連載されていたとしたら、
きっとすぐに打ち切りでしょう。劇画が当たり前のように載っていた
当時のジャンプだからこそ生まれ、受け入れられた作品だと思います。

10年後の話である第二部は、完全に蛇足だと思いました。
バットリンを成長させたのはアリだと思うけど、
リンが実は運命の子だったというのはちょっと・・・。
それ以外にも、設定の後付けと矛盾が甚だしいです。

アインはレイの焼き直しのキャラだし、一子相伝の北斗神拳に
流派出しちゃうし、ケンが大して強くない扱いになるし、
拳法どころか超能力みたいに岩が飛び回るし、今までの世界観が
台無しになってしまっていました。完全にジャンプの引き伸ばし方式の
弊害です。第一部で潔く終わりにすべき作品だったと思います。

北斗の拳―完全版 (2)

北斗の拳―完全版 (3)

北斗の拳―完全版 (4)

センチメントの季節 8巻 ―2度目の冬の章―

インターネットの世界では心だけで繋がっていた二人が、
リアルの世界で出会ったら、体だけの関係になった。
少年少女の性を描いた問題作の最終章です。
週刊ビッグコミックスピリッツ’01年9~18号連載。
作/榎本ナリコ。

高校生の岩崎ノボルは、たまたま開いたインターネット上の掲示板に、
“NOBODY”というハンドルネームで書き込みをした。
すると管理人の“R”から、すぐにレスが返って来た。
この人は、今ここにいる。Rの飾らない言葉とその単純な事に感動し、
ノボルはNOBODYとして、Rと個人的に交流をするようになった。

“生きている実感がない”“でもキミには心があるでしょう”
現実の知人には口に出せないそんな青臭い会話でも、Rとなら真剣に
交わせた。何気なく、“R”の由来を訊いてみた。答えが返って来た。
「REAL」──。
ノボルはRに、会いたくなった。

待ち合わせ場所に来た現実のRは、男という予想に反し、
大人の女性だった。Rはノボルをホテルに誘った。
それ以来、突然呼び付けられては体を要求されるようになった。
拒めなかった。ノボルは“自分は自分が蔑んでいた、援交している
同級生の桐島マユ子と同じだ”、と思うようになった。

テーマはまたも心と体の分断です。今度はインターネットです。
10年近く前の作品ですが、当時はまだ割と新しい題材だったであろう
インターネットが、かなり上手く話に取り入れられています。
これほどこのテーマに相応しい素材はないでしょう。
インターネットこそ、人が完全に、心だけになれる場所なのですから。

心と心で会話をしていた筈なのに、現実に出会ったRは、
無言でノボルの体だけを求めます。ネットでは心だけ、
現実では体だけの関係になるのです。その時のRは命令口調で、
『これ何のプレイだよ』と笑ってしまうところもあります。

Rとの関係に悩んでいたノボルは、ふとしたきっかけでマユ子と
親しく話をするようになります。彼女から、Rに指定されて
ノボルが設定していた待ち合わせ用の着メロは、ピノキオの曲だと
指摘されます。自分は彼女の人形なのか。ノボルの心は傷付きます。

体だけの存在になる事を何とも思っていなかったマユ子も、ノボルに
刺激されて、今まで何とも思っていなかった事に傷付くようになります。
自分は人形じゃない。二人は心の叫びを抑えられなくなります。
しかし、意外な正体を持つR自身もまた、人形なのでした。

これまでも観念的、哲学的な内容が多かったのですが、
これは最も観念的で、このシリーズで繰り返し扱われてきた
心と体というテーマの集大成のようになっています。
抽象的なモノローグが多く、内容的に難しいと同時に、
面白さという点ではいまいちパッとしない、地味な話でした。

SAND LAND

老人と魔物が戦車で砂漠を旅し、水を探す物語です。
鳥山明は、コミックスで“老人と戦車が出てくる話を描きたかった”
と語っています。戦車を描くのは目茶苦茶大変で、地獄だったそうです。
’00年に週刊少年ジャンプで短期集中連載されました。
作/鳥山明。

人間が住んでいる同じ世界の片隅に、
魔物たちが集落を作って住む国・サンドランド。
50年前の天変地異で少ない陸地の殆どが砂漠と化したその国では、
長い間雨が降らず、川は涸れ、国民は水不足に喘いでいました。

貴重な水源は国が完全に管理しており、国民が水を手に入れる為には
高いお金を払って国から水を買わなければなりませんでした。
魔物たちは、しばしば国の水運搬車を襲い、
生きる為に必要なだけの、少量の水を強奪して生活していました。

ある時、魔物たちの村を、一人の人間の老人・ラオが訪れました。
彼は“水源を探す旅に出たいので、魔物に同行して欲しい”と
魔物達に頼みました。根拠無く旅に出るつもりなのではなく、
ラオには当てがありました。淡水魚しか食べない水鳥が、
特定の方向から飛んでくる光景を、何度も目撃していたのです。

魔物も水が無いと困るので、魔物の王子・ベルゼブブ
魔物の老人・シーフが、護衛として同行する事になりました。
出発して間もなく強盗団に襲われ、強盗団の人間はやっつけたものの、
タイヤをパンクさせられ、車が使えなくなってしまいました。
そこへ軍の戦車が通りかかり、一行は、それを上手く奪いました。
彼らはそこから、戦車で南へ向かう事になりました。

ラオは意外にも腕が立ち、何故か戦車の操縦にも長けています。
しかも軍の最高指揮官・ゼウ大将軍と何か因縁がありそうな様子です。
戦車が奪われたと知った国王軍は、彼らへの追撃を始めました。
しかしラオの正体と30年前に軍が仕組んだ大事件の真相を知り、
彼らを追っていた指揮官のアレ将軍は、
国王とゼウ大将軍に対し、強い疑念を抱くようになりました。

ラオは渋い、カッコいい老人(と言ってもまだ61歳)です。
魔物は自称悪い奴ですが、王子もシーフも二人とも気のいい奴で、
旅を続けるうちにラオと打ち解け、信頼し合うようになります。
ベルゼブブは見かけは子供だけれど、2500年以上生きています。
魔物の王子だけに、とても強いです。

旅を邪魔する集団の一つに“スイマーズ”という連中がいるのですが、
これはかつてあったオーディション番組「イカすバンド天国」に
出演していたグループと、同じ扮装で同じ名前でした。
’07年の年末のイカ天SPを見て、『あー!』と気付きました。
まさかとは思いますが、鳥山先生が当時イカ天を見ていて、
ずっとスイマーズを覚えていて、それを元ネタにしたのでしょうか。

人と魔物が共存する無国籍の世界や砂漠の国は、
(背景が描きやすいからだと思いますが)作者が得意とする舞台です。
水不足の国の水泥棒、国が高い水を売りつけているという設定は、
鳥山明○作劇場 VOL.2PINKという読み切りを彷彿とさせます。
その読み切りは大好きでした。作者も好きな設定なのかも知れません。

話は最初から全部決まっていたそうで、国が抱えていた闇や
水源の謎、登場人物などの伏線がとてもよく練られており、
全体的に非常に良く纏まった構成になっています。
後期のドラゴンボールみたいにバトル、バトルじゃなく、鳥山先生は、
本当はこういう話を描きたかったんだろうなと思います。

近年発表していた読み切りは、完全にお子様向けの
内容ばかりになってしまっていましたが、鳥山先生の真価は、
寧ろこういう渋い話でこそ発揮されるものだと思います。

このまま劇場用アニメとして映画化しても通用すると思えるくらい、
非常に良く出来た作品だと思います。
コミックスを買いたくなるほど面白い作品が無くなって久しい昨今、
これが私が買った、最も新しいジャンプコミックスです。

センチメントの季節 7巻 ―2度目の夏の章―

吹く風に秋の冷たさが混じり始めた9月下旬。
大学生の伊藤ミツルは、もうすぐ二十歳を迎えようとしていた。
彼のアパートを、突然夏子と名乗る女子高生が訪れた。
彼女は遠い地方にある筈の、伊藤が出た高校の制服を着ていた。
’00年38〜47号週刊ビッグコミックスピリッツ連載。
作/榎本ナリコ。

伊藤はクールでモテそうな外見ですが、見かけによらず、
文芸部という地味なサークルに所属し、短歌を発表していました。
しかしその短歌は今作ったものではなく、高校生の頃に書き溜めた
作品を、さも今書いたように小出しにしていただけでした。
彼はもう、新しい短歌を作れなくなっていたのでした。

付き合っているような関係の秋本とホテルに行っても勃ちません。
伊藤は自分を“老人のようだ”と思います。高校生から酒も煙草も
セックスも、当たり前のように楽しんでいた。早く大人になろうとした。
早く大人になり過ぎて、19歳にして枯れ果ててしまった。
もうすぐ二十歳。法律的にも、決定的に、大人になってしまう──。

そんな時、自分が卒業した高校の制服を着た夏子が現れました。
伊藤はまず時を止め、室内に永遠の夏を作り出そうとします。
続けて時計を巻き戻し、16歳に戻ろうとします。
それは狂気です。少年少女のままでいようとする事は、こんなにも
おぞましいものなのだと突きつけられたような気がしました。

16歳で犯した罪が、伊藤の疵になっていました。その罪悪感を蘇らせ、
且つ掻き消して、あの夏をやり直させてくれるのが夏子でした。
教室で、震えながらキスをする。一度もした事がない筈なのに、
何故か切なく懐かしい、存在しない思い出。夏子は伊藤に、
そんな“存在しない思い出”を思い出させてくれる女でした。

伊藤は夏子を監禁し、彼女と毎日朝から晩までセックスに耽ります。
秋本では勃たなかった伊藤は、夏子とだったらできました。
伊藤は夏子を失う事を怖れます。
それはまるで、16歳の自分にしがみつこうとしているかのようです。
夏子を失う事は、それを失う事だと思っているかのようです。

やがて夏子の監禁は、秋本と、近所の中学生の知るところとなります。
が、夏子を救おうとした中学生を、夏子は冷酷に拒絶します。
伊藤は秋本を追い返します。秋本に事情を聞いた文芸部の仲間も、
心配して夏子の素性を調べ始めました。
果たして夏子は何者なのか――。

伊藤は季節の移ろいに時の流れを実感し、脅えます。
短歌は16歳の伊藤の魂そのものでした。
伊藤が少しずつ狂っていく、それを表現する演出は見事だし、
夏子の正体は、ちょっとしたミステリーです。

伊藤と夏子は全く違う場所にいて、逆方向から同じものを
求めていました。こういう構造も、
伊藤の心を象徴する細々とした道具の使い方もとても上手いし、
最初から最後まで、ストーリーの構成が素晴らしいです。

秋本もまた、焦って早く大人になろうとし過ぎた女でした。
それはこれまでこの作品に出てきた少女のなれの果てのようでした。
伊藤の時を戻し、そこに留めてくれるのは夏子。
過ぎてしまった時を表すのが秋本。恐らくそのように
意図したのであろうこのネーミングは、非常に象徴的です。

そしてラストシーンでは、私は号泣しました。
夏子は私でした。(体型以外は)夏子は私そのものでした。
夏子がしようとした事は、私の願望そのものでした。

泣けるマンガはいっぱいあるし、5巻でも涙ぐんだし6巻の時は
思わず嗚咽を漏らしたけれど、こんなにも涙を流し泣き伏せり、
“号泣した”とはっきり言える作品は、これまでの人生で
数え切れないくらい読んできたマンガの中でも、この7巻だけでした。

やり直せるならやり直したい。誰もが思っている事でしょう。
でも、過ぎてしまった時は二度と戻らないのです。
大人になってしまったら、もう二度と少年少女には戻れないのです。

どれだけ抗おうと、人は大人になってしまう。
それは受け止めなければいけない。もし逆らえば、心が殺されてしまう。
圧倒的な哀しみの後に、そんな事を思わせてくれた作品でした。

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