COOL LADY’S PARADE

人生はレビューです。マンガ、本、ライブ、DVD、CDなど、色んなものをレビューします。
タイトルは “COOL LADY’S PARADE”。
JUNKな文章なので、お気軽に読んで行って下さい。

コミックス

C 4〜6巻 ――SCENE2 マゼンタ・ハーレム

コンプレックスを抱えた人々を描くオムニバスの第二章。
4〜6巻は、画家・久住結良の数奇な運命を描く物語です。
週刊ヤングジャンプ’94年50号〜’95年34号に連載されていました。
作/きたがわ翔。

学園祭で見た一枚の絵に惹き付けられ、ある美大に入学した
岩崎志保は、入学早々の構内で、奇妙なダンスチームに遭遇した。
そのチームのリーダーの久住結良(くずみ ゆら)こそが、
彼女がかつて惹き付けられたあの時の絵の、作者だった。

結良は岩崎の一年先輩だが、課題を全く提出しないので留年していた。
彼は天才と言われる程の絵の才能を持ちながら、
絵筆を握ろうとしなくなっていた。
彼には賞賛の言葉と共に付け加えられるこの一言が我慢ならなかった。
「さすが、ヒロ・クズミの息子だな」――
彼の父親も画家だった。彼は両親に、歪んだ愛憎の感情を持っていた。

絵画サークルに入った岩崎は、結良もそのサークルの一員であると
知る。二人は絵に対しては、互いに怖いくらいに感性を共有していた。
岩崎は、結良の芸術のたった一人の理解者となった。

一方、結良は大学に講師としてやって来た女流画家の山岸小夜子
一目惚れする。彼女は26歳にして二度結婚、その二人とも
自殺したという、“現代のサロメ”と囁かれる曰く付きの女だった。

結良は彼女と結ばれたが、その後結良は、海外へ飛び立った。
二度と日本へは戻らないつもりだった。だったが、しかし――。
運命は、急激に暗転する。

あらすじを書くとこんな感じですが、これじゃとても雰囲気が
伝わらない、とんでもなくイカレた作品です。
ダークでディープ、耽美でアングラ。作者が描きたかったものを
思う存分描き、描いてて楽しくて、これを描いた事を全然
後悔していないと言うほど、作者の趣味に走りまくっている作品です。

まず絵。これが目を見張るほど美しい。
有名な絵画のパロディを含むイメージカットを多用し、
美しい線で丹念に描かれ、デザインも凝っていて、
まるで全てのページがそのまま芸術作品であるかのようです。
各話の扉やイメージカットは、額に入れて飾りたくなるほどです。

そして主人公の久住結良。絶世の美青年です。この連載が始まった時、
『きたがわ翔は、ガタイのいい兄ちゃんだけじゃなく、
こんな細身の美青年も描けたのか』とびっくりしました。
彼以上に“美しい”という形容がぴったりの男性キャラは、
私が今までに読んだマンガでは、見た事がありません。

更に結良の性格が、かなり歪んでいます。
若く美しい母親の肢体に絡みつき、妖しく迫る様からは、マザコンで
父に嫉妬するエディプス・コンプレックスの持ち主なのかと思えば、
父への強過ぎた思慕に由来する憎悪を持つ、ファザコンでもあります。
自分の容姿に魅力がある事を熟知していて、
女の扱いに自信がある、かなりのナルシストでもあります。

辛い過去を持っているのに明るい岩崎、結良の才能に過剰な憧れを持つ
戸塚、結良を虜にする女豹のような小夜子など、
結良以外のキャラクターにもかなり病んでいる部分があります。
岩崎の友達の佐藤ちゃんの服装や、結良が率いているダンスチーム
“アウラヒステリカ”の衣装なども、かなりブッ飛んでいます。

作者本人もコミックスのおまけページで書いているように、
これ以前のきたがわ翔と言えば、明るいオシャレなラブストーリーが
得意というイメージでした。だからこんなダークな、
マニアックな話も描けるなんて、思ってもいませんでした。
元から絵が上手いし、好きな作家だとは思っていましたが、
この作品で、きたがわ先生の真の実力を見た気がしました。

但し、YJ連載時のアンケートでの人気は、今一つだったそうです。
確かにどう考えても一般受けする話ではないでしょう。
寧ろ嘲笑したり、ドン引きする人の方が多いんじゃないかと思います。

でも私は、この耽美な世界観に、どっぷりと嵌まってしまいました。
今まで読んだあらゆるマンガの中で、私が一番好きな作品と言っても
過言ではないかも知れません。

C 5―マゼンタ・ハーレム 2

C 6―マゼンタ・ハーレム 3

人魚の傷

500年前に人魚の肉を食い、不老不死の体で生き続ける青年・湧太は、
現代で同じく不老不死となった少女・真魚に出会う。
元の体に戻る方法を探す為、二人は行く宛の無い旅を続ける――。
人魚伝説に翻弄され、人生を狂わされた人々を描く人気シリーズの
2冊目です。週刊少年サンデーや増刊に不定期に掲載されていました。
作/高橋留美子。

同タイトルの新装版も出ていますが、この記事は前後編2編を含む
4編の物語を収録した豪華版に関するものです。
1冊目の人魚の森と同様の体裁で、表紙を捲ると裏地は金色。
ポスターのように折り畳まれた大きなカットがあったり、
次号予告のカットや雑誌の表紙に使われたカットまで、
作品に使用されたカットが一部カラーのまま完全収録されています。

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人魚の森

人魚の肉は、不老長寿の妙薬である。
しかし殆どの人間にとっては猛毒であり、食べれば即、死に至る。
週刊少年サンデーや増刊に不定期に掲載された人気シリーズです。
’03年には、テレビ東京でアニメ化もされました。
ここにはそれぞれ前後編に分かれた3編の物語が収録されています。
作/高橋留美子。

高橋留美子の作品は、3系統に分類されると思います。一つ目が、
うる星やつら、らんま1/2などの非現実的な設定のドタバタコメディ。
二つ目が、めぞん一刻など、SF要素の無い大人向けの作品。
三つ目が、犬夜叉などの、コメディ要素が少ない伝奇物。

人魚シリーズは、言うまでもなく、三番目の伝奇物です。
そしてこのシリーズは、上に挙げたような作者の著名な作品の中でも、
高橋留美子の才能の凄さを最も実感させられる作品だと思います。

人魚の肉を食い不老不死になったごくごく稀な男である湧太は、
同じく人魚の肉で不老不死になった少女・真魚と出会います。
湧太の望みは普通の人間の肉体に戻り、普通に年老いて死ぬ事。
彼はその方法を探す為、500年間孤独な旅を続けてきました。
真魚は湧太に付いて行き、今度は二人で行く宛の無い旅を始めました。

旅をする二人の前には、単純に不老不死になりたい、
復讐の為、寂しさを紛らわす為などの様々な理由で
人魚の肉を探し、利用しようとする者が現れます。
二人はそれらに首を突っ込んでは、人魚の肉を独占しようとしたり
秘密を守ろうとする人々に襲われ、監禁されたり、殺されたりします。

しかし二人は首を落とされない限り何度でも生き返ります。
物語には、不老不死を巡る人間の欲や業などの深いテーマから、
人魚になりそこない怪物となった“なりそこない”との格闘まで、
幅広い内容がドラマチックな展開を以って描かれています。

単行本は、分厚くて大判でゴージャスでした。雑誌掲載時のカラーが
そのまま収録されており、オマケとしてサンデーで予告に使われた
カットまで収録されています。人魚の傷は、シリーズの続編です。
どちらも持っているのですが、しかしこのリンクを作っている時に、
未収録作を含む新装版が発売されていると知ってしまいました。

全3冊の新装版は、前の物とはサイズも装丁も違うし、初収録作を含む
夜叉の瞳には大判の人魚の傷に入っている話もダブって
収録されているので、新たに買うのは躊躇われてしまいました。
こういう売り方は、昔からの読者には、優しくないと思いました。

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センチメントの季節 6巻 ―2度目の春の章―

会社員の根津は、通勤電車で出会った女子高生とホテルに行った。
その息子の裕貴は、彼女のクラスメートだった。
彼女・水野晶は、校内で有名な、誰にでもやらせる女だった。
週刊ビッグコミックスピリッツ’00年17〜27号に連載されていました。
作/榎本ナリコ。

地味で平凡で仕事に疲れた根津父は、水野と肉体関係を結びます。
根津の息子の裕貴は、水野にいいよと言われても、怖気付いて
拒否します。水野を挟み、親子が対照的な関係を築きます。
自分達がそんな関係にある事を、当事者達は互いに何も知りません。

根津家はごく普通の三人家族です。中年太りをして口うるさい
母親の良枝は、息子の世話ばかり焼いて息子の裕貴にウザがられ、
父親の根津は、誰からも関心を払われず、家族といても孤独です。

この章では、根津家の空気を表す象徴として、
“食卓”が非常に効果的に、印象的に使われています。
始めは朝も夜も根津が一人でぼそぼそと食事をし、
その食事もチンしたものばかりで、家族の為に懸命に働いているのに
こんな扱いを受けるなんて可哀相、と根津に同情していました。

しかし根津が水野と出会ってからは、根津の帰宅は遅くなり、
裕貴も部屋に閉じ籠もって出てこないので、
今度は良枝が一人ぼっちの食卓で孤独を噛み締める事になります。
根津と水野と裕貴の関係が発覚すると、良枝は家を出てふらふらと
街を彷徨い、遂に食卓には誰もいなくなります。

裕貴はおどおどしていて学校では軽くいじめられていて、
でも家では虚勢を張って威張っている、ごく一般的な少年です。
水野は男は皆自分と“しよう”とするのにしようとしない裕貴を
不思議に思い、彼の中に自分の大切な何かを見出そうとします。
二人の少年少女が懸命に自分を探そうともがいている様は、
切なく、美しくさえあります。

水野は無表情でどんな男にでもやらせる人形のような女の子です。
何をされても無抵抗な彼女からは、心がある、生きている人間という
実感が感じられません。しかし読者にそう見えるのは当然です。
リストカットを繰り返す彼女自身が、それを感じていないのですから。

何故彼女がそのように育ったのか、作中では一切触れられていません。
が、家庭の背景などを描かなかった事は正解だと思います。その事で
彼女の透明感、生命力の乏しさ、儚さが強調されているからです。
それがより一層、彼女を心のない人形のように見せています。
何故彼女がそうなったのかなどは、どうでもいいのです。

あの頃は、憧れの人に声を掛ける事も出来なかった。
でも今は、こんな事もできてしまう。根津は水野との出会いで
自分が失っていた自分の中の“少年”を思い出し、揺さぶられます。

根津はそんな自分を哀しむようになり、水野を捜して毎晩
同じ時刻の同じ電車に乗ります。夫や父や会社という“役割”ではない、
ただの個としての自分だった、“あの頃”を水野が
取り戻させてくれると期待しているかのように。

「それは私の名前でもあるんだよ」。息子の名を呼ぶ水野を
懐かしむような目で見て根津が思うシーンは感動的でした。
制服の少女に自分の名前を君付けで呼んで貰える季節なんて、
大人になれば遥か遠く、二度と戻ってこない季節なのです。

前半では口うるさい母親としか思えなかった良枝は、
根津に女の陰を感じ取ってからは、急激に物語の中心に踊り出ます。
このコミックスを買ったばかりの頃は読んでも何とも思わなかった、
“ぶくぶく太ったおばさんになってしまった”と良枝が泣き喚く
2つのシーンで、私は不意に嗚咽に襲われて、堪えられなくなりました。
良枝の気持ちに共感できるくらい、私も歳を取ってしまったのでしょう。

それにしてもよくこんな地味な話を連載させてくれたものです。
スピリッツの読者層と言えば、下は高校生くらいからでしょうか。
その世代の少年少女達は、やはり水野や裕貴に自分を重ねてこれを
読むでしょう。しかし、10年、20年後にこの同じ話をもう一度
読めば、彼らは根津夫妻の気持ちも理解できるようになる筈です。

この章の主役は、根津と裕貴と水野と良枝の4人全員です。
子供世代の2人の視点はその半分に過ぎず、大人2人の気持ちも
分かってこそ、この物語は一つの物語として完全に理解できるのです。
歳を追うごとに見方が変わり、深く心に沁み透ってくる、非常に
心揺さぶられる、感動的な話だと思います。(※但しエロいです。)


センチメントの季節 5巻 ―2度目の秋の章―

1999年8月。世界は滅亡しなかった。サヨコは16歳になった。
女子高生のサヨコとミキと、サヨコを巡る男達の哀しい性の物語。
少年少女の性を描いた全8巻の5巻目は、シリーズ初の長編です。
週刊ビッグコミックスピリッツ’99年42〜51号に連載されていました。
作/榎本ナリコ。

沢村サヨコはクラスメートの黒木と成り行きでセックスしようとして
失敗した。自分の体は変なのか。ちゃんとセックスできるのか。
不安になって、援交で処女を捨てた。誰でも良かった。

ラブレターをくれた田口先輩と付き合った。息苦しくて別れた。
エロ漫画家の灰島ヒカルと知り合って、彼の家に入り浸るようになった。
クラスメートの北原ミキが少女漫画家時代のヒカルの
ファンだったと知ると、サヨコはミキをヒカルに紹介した。
サヨコとは体だけの関係。ミキとヒカルは、心だけの関係になった。

この頃にはもうスピリッツは読んでいなかったので、
この話を読んだのは、コミックスを買って読んだ時が最初でした。
1〜4巻の各章で四つの季節を描き終えて、作者はそれで終わりと
思っていたそうですが、人気があるので続けてくれと言われたようで、
今度は長編として季節をもう一巡する事になったそうです。

サヨコはコギャルでもなければ茶髪ですらない、ごく普通の外見の
女の子です。サヨコは最初は“自分は大人になれるのか”と脅えている
子供でした。しかし一旦“大人”になってからは、堰を切ったように、
あっという間に自分から体で男を誘う“女”へと生まれ変わります。

そこには言葉で言うと感じるような、嫌らしさはありません。
彼女は今まで知らなかった新しい世界を謳歌し、
身軽になって、伸び伸びとしているように感じられます。
が、やがて体で誰かと繋がれば繋がるほど孤独を感じるようになり、
体はあるのに心がそこに無い、と痛切に知るようになります。

サヨコがどれだけ男と体だけの関係を重ねていても、私にはサヨコを
批難する気持ちは起きませんでした。彼女は苦しみ、傷付いているし、
心理描写はきめ細かく、そういう彼女の感情、心の流れが、
共感できるものとして自然に描かれているからです。

三者三様に苦しむサヨコの周りの男性陣の心理描写も繊細です。
気まずさと負い目と恥ずかしさの裏返しでサヨコに強がる
黒木の態度は、いかにもこの世代の少年だと思いました。

サヨコと田口は一見ごく普通の恋人同士としか思えない関係ですが、
サヨコがそれを“抜け出せない牢獄”と感じたのにも共感できました。
真面目な田口が変わってしまい、真面目さ故に壊れた姿は衝撃的で、
胸が締め付けられるように重く、切なく感じられるものでした。

サヨコとはヤりまくっていてもミキには指一本触れないヒカル。
これも男にはこういう面もあるのだろうと、納得してしまいました。
大事な女(ひと)だからこそやれない事を、他の女とやるのです。
“性”を背負わせる女性と、“聖”を背負わせる女性を分けているのです。

創作活動をしている胡散臭い男の部屋に出入りする女子高生、という
シチュエーションは、1話完結の話の方にも何度か出てきました。
それらのエピソードと同様、この章の灰島ヒカルも、
作者の実体験を基にしてそのイメージを広げた存在なのでしょう。

体なんていらない。心だけの存在になりたい。ミキが思っているのと
同じ事を、ミキと同じ年の頃に私も思っていました。高校時代に
この作品に出会いたかった。そうすれば、私も楽になれたのに、
と思います。ああ、私と同じ事を考えている人がいたんだ、と。

心と体。これは全8巻を通して何度も出てくるテーマです。
一人の男を中心に、二人の少女に心と体の役割を分断させている
この章では、そのテーマに本格的に、真正面から取り組んでいます。
遠慮のない、あからさまなセックスシーンを描きながら、その命題を
こんなにも真剣に考えている作品は、これ以外には無いでしょう。

とは言え、基本的にはエロ漫画です。本当に真面目な人が、真面目な
作品なのかと勘違いして読んだらびっくりしてしまうと思います。
私はエロマンガには耐性がある方ですが、冒頭は見開きカラーで
いきなりサヨコの全裸の0721シーンで、さすがにびっくりしました。
この作品が持つ本質の真面目さと、その表現の不真面目さ。
そのギャップが、妙に惹き付けられるこの作品の魅力なのだと思います。

センチメントの季節 1〜4巻

’97〜’01年に週刊ビッグコミックスピリッツに断続的に
連載されていた作品です。全8巻で、前半の1〜4巻は、それぞれ
<秋/春/夏/冬の章>と名付けられた1話完結の物語、
<2度目の秋/春/夏/冬の章>と名付けられた後半の5〜8巻は、
1巻で一つの話が完結する、オムニバス形式の物語になっています。
後半の4巻は、1巻分ずつ別々に記事を書いていきます。
作/榎本ナリコ。

何をきっかけに読み始めたのかは全く記憶に無いのですが、
私は’90年代後半の一時期、スピリッツも読んでいました。
それまでもあすなろ白書を立ち読みしたりはしていたのですが、
いいひと東京大学物語、月下の棋士、HAPPYなどの
ドラマ化もされた連載陣の中で、私が妙に心を捉えられ、唯一
コミックスまで買ってしまったのが、このセンチメントの季節でした。

大判で、カバーは光沢の無い紙でできている高級そうな仕上がりです。
各巻の1話目の冒頭はオールカラーで収録されています。
タイトル部分はレリーフのように少し盛り上がっています。
特殊な装丁をして貰っているだけに、定価920円と、
コミックスとしてはかなり高めの価格に設定されています。

1巻に付き10話収録。何故かキャラの顔はエヴァのキャラに
似ています。終わった夏を惜しむというような話もありますが、
季節的には概ね各巻のタイトルに即した時季の話になっており、
雑誌連載時には、一つの季節が終わるごとに暫く休載を取って、
10話分ずつが連載されていました。

前半の40話分のエピソードには、同じ登場人物は1人もいません。
そして出てくる高校生や中学生が、セックスや自慰をする話が
延々と続きます。援交しているヒロインが多いのですが、
シチュエーションは様々です。教師と生徒、平凡なサラリーマン、
幼馴染。視点も男視点の話と女の子視点の話の、両方があります。

全て異なる設定で描かれているエピソードは、どれも1話で綺麗に
纏まっており、一つ一つが非常に良くできています。
それらは文学的、哲学的でさえあります。
何しろ1巻の2話目から、コギトなのですから。

纏めて読むと“行為”の描写はワンパターンだったりするのですが、
陰毛や結合部分まではっきり描いている青年誌のエロなので、
18歳未満は多分読んではいけません。また、違う理由で
現在少年少女そのものである人向きではない作品でもあります。
ここで描かれる性はどこか物悲しく、寂しげで、大人になってしまう
事への胸を掻き毟られるような切なさを感じさせるものだからです。

それは単に男性読者の性欲を満たす為だけに描かれた、扇情的な
エロマンガとは一線を画しています。性描写は露骨だけれど、
雰囲気は突き放したように、残酷に見えるほどに静かです。
少年少女達は性を謳歌しているのでは全く無く、後ろめたさと
そこはかとない苦味を噛み締めています。それは“自分はもう大人に
なってしまったんだ”という、子供時代の自分への惜別の情です。

思春期に性に出会うという事は、子供時代の自分が死ぬという事です。
それは人に永遠に失ってしまってもう二度と取り戻せないという、
圧倒的な喪失感を感じさせます。

そして、自分の中にその欲求があると気付く事は、
成長過程に於いて心の傷にもなります。
性欲の赴くまま、何の葛藤も無く生きてきた人なら
何も感じないでしょうが、真面目な人ほどその傷は、
胸の奥の大事な部分にひっそりと潜んでいます。

作者はあとがきで、はっきりと“その傷をこじ開けるつもりで描いた”
と宣言しています。登場人物は少年少女が多いですが、この作品は、
既に充分に大人になってしまった30代,40代が読んでこそ
理解できるものでしょう。自分はもう若くないと思っている男女が
これを読めば、自分が失ってしまったものに対して、
胸を切り裂かれるような痛みを感じさせられると思います。

エピソードには、作者の体験談をヒントにしたものもあるそうです。
作者はお世辞にも明るく健康的とは言えない、捻くれた少女時代を
送ったようです。しかしそれが作者の創作活動に於いて
プラスに働いたのであろう事は、何ら疑う余地がありません。

あとがきから察するに、作者は私の5歳くらい上の世代です。
この作品の雰囲気は、この世代だからこそ表現できた物だと思います。
ホントのエンコー世代の女なら、もっと性にオープンでしょう。
高校生で恋人がいても当然で、SEXをしても当然な
彼・彼女らの世代には、こんな話は絶対に描けません。
後ろめたさや後ろ暗さの無い性なんて、面白くも何ともないのです。

連載が始まる何年か前からブルセラや援助交際という言葉が広まり、
自分の肉体を切り売りする少女が巷に溢れているかのような
報道がなされていました。実際にはそれらは別にその時代に
急に始まった事ではなく、一昔前の時代なら、そういう事は、
長いスカートを穿いたスケ番みたいな女の子達がやる事でした。

それを外見で区別が付かない“普通”の娘がやっているという事が、
驚きを持って社会に受け止められました。この連載はそういう
時代背景から生まれたものです。当時読売新聞の家庭欄で10代少女の
性をレポートした連載があり、この作品が取り上げられていたのを
覚えています。スピリッツ読者という狭い範囲ではなく、
それなりに広く話題を呼んだ作品だったのだろうと思います。

センチメントの季節 (2)

センチメントの季節 (3)

センチメントの季節 (4)

タッチ 15〜26巻

タイトルは15巻〜にしましたが、正確には14巻の最後からの、
第三部について書きます。達也と南は高校三年生になり、ここから
柏葉英二郎が劇的に登場します。外見はどう見てもヤクザ。
入院した西尾監督の代わりに野球部の代理監督に就任した柏葉は、
現れるなり達也に暴力を振るい、南を野球部から追い出しました。
作/あだち充。

新体操部との掛け持ちを許されずマネージャーをクビになった南は、
野球部に寄り付けなくなります。達也と話す機会も減ります。
甲子園への最後のチャンスの年に、達也と南が引き離されるのです。
お互いの事を何でも分かっていると思っていた二人ですが、
距離ができてしまった所為なのか、少しだけズレが生まれてきます。

南はずっとマネージャー気分で、野球部の事で校長に怒鳴り込んで
行ったり、料理が下手な由加の代わりに野球部の食事の面倒を見て
あげたりします。甲子園の前では新体操なんて二の次だと思っていて、
でも全国レベルの選手に祭り上げられてしまっているので、
乗り気じゃない新体操を、周りの為に殆ど義務的に続けています。

ここで初めて描かれる、“何でもできてしまう南”の孤独。
達也でさえ、それに気付いてあげていませんでした。
唯一気付き、達也に繰り返し忠告を与えるのが原田だというのは
面白いです。そしてインターハイの直前、南はとうとう切れてしまい、
「何でこんなところいるんだろう」と涙を流します。

勉強もスポーツも完璧。美人で性格もしっかりしている。
マンガの中でそんなキャラを作るのは簡単だけれど、
そういう女の子の内面を、こんなに丁寧に、ちゃんと
描写している作品は、他になかなか無いと思います。
こういうところも、タッチの凄さを再認識させられたところでした。

達也は甲子園に行く前に体が壊れるのではないかというほどの
しごきを受け、柏葉に反発します。しかし由加を送って
新田の家に行った時、練習でボロボロになって帰ってきた彼を見て、
刺激を受け、自分も耐えていこうと思い直します。

達也は由加に付き纏われますが、優しさからか悪い気はしないからか、
口では迷惑がっているけれど、本気で突っぱねる事はせずに、
料理問題で由加を庇ったり、デートに応じてあげたりしています。
頭では分かっていて、信じてはいるけれど、そんな達也に
南はイライラし、不愉快で、寂しい気分にさせられます。

第三部では、主役以外の登場人物の気持ちの変遷にもスポットが
当てられており、そこもかなり面白いです
新田の妹・由加は、兄がアレだけにかなりのブラコンで、
始めは兄が興味を持つ男としての達也に興味を持ちます。
でもいつの間にか達也にべた惚れしてしまい、明青学園にまで
追っかけてきて、野球部のマネージャーになります。

由加は喧嘩が強く度胸があるので、柏葉監督を怖がらず、ただ一人、
柏葉に平気な態度で接します。柏葉も彼女には調子が狂うと見えて、
由加が柏葉を騙し、それに引っ掛かっても、由加には何も言いません。
決勝戦では由加は新田と達也のどちらを応援するか
決めかねるように、息を呑んで試合を見つめます。彼女のその姿は、
試合の緊張感を表現する一つの要素にもなっています。

勢南の西村が脱落したのは、凄く意外でした。
まさか勢南戦をやらないなんて、サンデーを読んでいた頃驚きました。
でも、物語全体から見ると、それは絶妙のバランスだったと思います。
やれば長くなったであろう勢南戦が無かった事で、話が引き締まり、
新田との対決もより引き立つ事になったと思います。

達也がそれを西村から告げられるシーンも名シーンです。
ずっと煩がって相手にしていないような態度を取っていたけれど、
達也が西村の事も好敵手と思っていたと判り、
達也の男気も感じたシーンでした。

西村の勢南マネージャーとの恋愛も、地味だけどいい話です。
前から出ていたかなり太めのマネージャーは、西村の幼馴染でした。
彼女は西村が好きなのに、西村は酷い態度を取り続けていました。
でも彼女が人に貶された時は、彼女の名誉を守ろうとするような
優しさを持っていました。スマートさは無いけれど、ジーンときました。

柏葉は、第三部の主役の一人と言っても過言ではないでしょう。
「野球を心から愛し、真面目で一生懸命」。西尾監督のこの形容は、
実際の柏葉監督とは、似ても似つかないものでした。
彼の素性を達也と和也の関係に上手く重ねた設定は、
この物語を単に高校球児が甲子園を目指すというだけじゃない、
一本の太い軸を通すものにしたと思います。

連日の猛練習の端々に、柏葉が実はかなり野球が上手いという
様子が見えてきます。結果的には過酷なしごきでナインが
鍛えられていたのですが、それは飽くまで結果論で、
予選が始まると、柏葉はとんでもない妨害工作を仕掛けてきました。
最大の敵は相手校ではなく、柏葉監督という事態になります。

でも、予選が進むに連れ、色々な人に少しずつ刺激を受けて、
自分が無意識に手加減を加えていた事に気付き、柏葉は動揺します。
明青野球部に恨みを持ち、台無しにしてやろうとしていた筈なのに、
咄嗟にはガラスを踏みそうになった孝太郎に注意するような優しさが
出てしまうのです。目の病気の進行が、彼の動揺に拍車を掛けます。

そして決勝戦。22〜25巻の3巻に亘って描かれる、
明青学園vs須見工という因縁のカードです。
上杉和也としてマウンドに立ち、上杉和也として南を甲子園に
連れて行こうとする達也。自分らしさを見失った投球は
新田を失望させ、須見工打線にも打ち込まれます。

ところが、柏葉の素直ではない助言で、達也は自分を取り戻します。
達也が立ち直ると、柏葉もやっとその気になります。
試合の中で柏葉の心が刻々と変わっていく様子は感動的です。
9回裏、最後の打者を迎えた時、孝太郎がマウンドでの話し合いと
正反対の指示をナインに出すところも、感動でした。

甲子園出場決定で最終回に飛んで終わる事もできたと思うんですが、
意外にも明青野球部が新幹線に乗って甲子園に向かい、宿舎に入り、
開会式を迎えるところまで、現実的な手順が細かく描かれています。
全国の強豪が名乗って顔見せだけしていくシーンがあるのですが、
サンデーでその辺りを読んだ時は、まさかそれが本当に
顔見せだけで、試合を描かないとは思いませんでした。

アイドル住友里子の登場は、賛否両論あるところでしょう。
私も最初に読んだ頃は、彼女は何だったんだと思いました。
出すなら出すでもっと絡ませても良かったと思います。
この辺りの中途半端さは、連載を引き延ばすか終わらせるか、
決まっていなかったのではないかと思ってしまいます。

でも、通して読むと、里子は作中で里子本人が言っているように、
達也にとってのアクセルとなる、重要なキャラだったと思えます。
達也の気持ちを丁寧に描こうとすれば、和也は南をずっと
好きだったと誰よりも知っている、弟思いの優しい達也が、
甲子園出場を果たし南とも素直にくっついてめでたしめでたし、
となる事は、達也の性格からすれば有り得なかった事でしょう。

孝太郎に言われた「幸福の一人占め」は、勝ち進むに連れて
達也の中で大きく重くなっていった葛藤であり罪悪感だろうし、
南のお父さんが南に言った、“達也は和也がいずれ味合わねば
ならなかった南を諦める辛さまで味わおうとしているのでは”
という危惧は、達也が考えていた事そのものだったのだと思います。

そこで達也が自分の気持ちを確認する為に出てきたのが、
住友里子です。達也は、彼女に惹かれる程度の気持ちなら、
諦められる程度の想いなら、南をいっそ諦めてしまおうと思っていた。
でも、トップアイドルの里子と相対しても、自分の中に
南への揺らがない気持ちがある事を知った。そこでやっと達也は、
南を手に入れる事を自分に許した、手に入れる決心が付いたのです。

大人になってから読むとつまらないと思うマンガもあるのですが、
タッチは大人になってからの方が確実に面白く、
登場人物達の心情がより深く理解できるマンガです。
これはもう、文学の域にまで高められた作品と言っていいでしょう。

予選の進行と登場人物の気持ちの変化をシンクロさせる時の
あだち充の心理描写は、比類ない素晴らしさだと思います。
取り分け決勝戦のたった一試合の中でこれだけの人間の成長と
感動を描けているのは奇跡的だとさえ思います。
やはりタッチは何十年経っても色褪せない、永遠の名作だと思います。

タッチ―完全版 (9) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (10) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (11) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ 10〜14巻

ここでは10〜14巻の途中までに当たる第二部について書きます。
達也の投打のライバルとなる新田と西村がここから登場、
両者とも新体操のスターとして有名人になった南を狙っており、
新田の妹の由加は、新田がライバル視する達也に興味を持ちます。
達也も南も揺さぶられ、恋愛面でも新しい展開が始まります。
尚、巻数は少年サンデーコミックスでのものです。
作/あだち充。

野球部に入部して、幼馴染の浅倉南を甲子園に連れて行くという
亡き双子の弟・上杉和也の遺志を受け継いだ上杉達也
しかし達也が簡単に和也の後釜に座ってエースになった事を、
女房役の松平孝太郎は、快く思っていませんでした。
渋々バッテリーを組みますが、暫くの間達也とは打ち解けません。

二年生の夏の甲子園の地方予選。一回戦は順当に勝ち上がりましたが、
二回戦は変化球投手の西村勇擁する強豪・勢南高校が相手でした。
第二部のクライマックスであり、雨中の延長戦となったこの試合は、
凄まじく、また非常に皮肉な結果に終わりました。

片やカーブを得意とし、組み立てを重視したピッチングをする西村。
片や投げれば四球か三振、ひたすら豪速球でノーコンの達也。
達也たちの明青学園はいくらヒットを打っても運悪く点が入らず、
西村の勢南は四球でランナーは出るけれど、ヒットは一本も出ない。
達也はフラフラになりながら力投を続け、その姿を見て、
達也に反感を持ち続けていた孝太郎の心が動きます。

幻のホームランを打ち、孝太郎が泣きながら達也の元に帰って来て、
それが幻だと知りながらも達也は静かにその歓喜を受け止める。
間違いに気付き愕然とする孝太郎と、文句一つ言わない達也。
ここは感動しました。一つの試合の中で、言葉にしなくても、
互いが態度で全てを示し、絆が深まっていくのです。

私は子供の頃は野球は嫌いで、野球なんて見たいTV番組を潰したり、
延長して録画予約を台無しにする邪魔者でしかない存在でした。
でも勢南戦の「野球は足し算ではない」という展開で、
野球ってこういう事があるんだと、面白さを教えられました。
思えば野球のルールも、この試合ではっきりと覚えたようなものです。

夏の予選が終わると、新田と西村が何だかんだでやたらと達也と南の
前に現れます。西村が南の傍をうろつくのが不愉快な達也は、
色々とイタズラをして西村を南から遠ざけます。
この辺は、悪ふざけばかりしていた中学生の頃の面影を覗かせます。
高校に入ってからは落ち着いたように見えていたけど、
根っこのところでは、やっぱりタッちゃんはタッちゃんなのです。

外見で自分の方が勝っていると自信がある西村に対しては
一切危機感を抱かない達也ですが、色男の新田に対しては結構本気で
焦っていて、心の中で密かに自分と比べて張り合ったりしています。
南が靡く訳が無いと信じてはいるけれど、もしやと思って
ソワソワしてしまう。その達也の心情が、面白いです。

第二部のもう一つの山場は、新田のいる須見工との練習試合です。
天才バッター新田明男を4番に据えた、甲子園の準優勝校。
新田が達也と対戦する為だけに組まれた練習試合なのですが、
明青の西尾監督は、達也を一方的にライバル視している
控えピッチャーの吉田剛を、先発として起用しました。

南がベンチでそれにブーブー文句を言ったり、
達也を一生懸命持ち上げたりしているのが面白いです。
とことんタッちゃんびいきで、それがとても可愛いくもあります。
投げられない事にイライラしていた達也ですが、中盤でやっと
交代を告げられます。念願の、新田との対決がやってきました。

バッターとしては最強の敵として立ちはだかり続けた新田ですが、
恋愛では意外と諦めが良く、達也と南の間には割り込めないと
始めから悟っていた様子です。
以前は学校中の人が和也と南は付き合っていると思っていたのに、
当人達の意識も周りの目にも、達也と南が暗黙の恋人同士に
なってしまって、和也がちょっと可哀相な気もします。

二年生が終わり、春になり、第二部が終了します。そして第三部、
新田はあっさり身を退きましたが、兄の新田が「あいつは諦めが悪い」
と評する妹の由加が明青に入学し、達也に猛アタックを開始します。
達也が新田に感じたのと同じように、今度は南がヤキモキする番です。
そして柏葉代理監督の登場。甲子園の夢は、どうなる――?

私の家にあるのは全26巻の少年サンデーコミックスなんですが、
タッチは文庫とかワイド版とか色々なバージョンが発売されています。
ワイド版だけはアマゾンリンクにサブタイトルが書いてあるので、
第一部が1〜4巻、第二部が4〜6巻、第三部が6〜11巻と
判りますが、他のバージョンでは、区切りがどこだか判りません。

でも、完全版というバージョンが全12巻になっていて、
第一部から第三部まで分けているこの記事に合わせて
3つに分けるのに丁度いいので、リンクは完全版にしました。
ワイド版って、表紙の見栄えもあんまり良くないし。ここでは
全12巻の真ん中の3分の1の巻数分、リンクを貼っておきます。

タッチ―完全版 (6) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (7) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (8) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ 1〜9巻

アニメ化され主題歌も大ヒットし、国民的大人気を博した作品です。
’81〜’86年にかけて週刊少年サンデーで連載されていました。
ストーリーは三部に分かれているので、ここではその第一部について
書きます。記事タイトルは、便宜上1〜9巻とさせていただきます。
巻数は、私の家にある少年サンデーコミックスでの巻数です。
作/あだち充。

上杉達也上杉和也は双子の兄弟。そのお隣さんが、浅倉南
明青学園中等部の3年生の3人は、生まれた時からいつも一緒。
兄妹のように仲良く育ってきましたが、いつの頃からか、
3人のうちの1人が“女”であるという事に、気付いてしまいました。

和也と南は真面目な優等生でスポーツ万能、
達也はいい加減な劣等生で、運動不足で体力が無く、
優秀な弟と比較されては、いつも周りから呆れられていました。
和也は南を好きで、周りは皆、和也と南が好き合っていると
思っていました。でも、南が本当に好きなのは、兄の達也なのでした。

和也は甲子園に連れてってという南の夢を叶える為に、
ずっと努力してきました。その実力は他校にまで知れ渡り、
高等部に入学する前からエースの座を確約されていました。
高校生になり、いよいよ予選が始まると、
明青学園は着実に甲子園への階段を上っていきました。
しかし決勝戦の朝、後一歩で甲子園という時、和也は交通事故で――。

中学生編を読むと、皆まだ子供で、3人の関係は凄く楽しそうです。
南が口うるさくて、漫才をやっているみたいです。
タッちゃんの性格があまりに違っていて、改めて読むと驚かされます。
本当にいい加減な奴で、たまに本気を出そうとするけれど失敗ばかり。
女の子大好きで、すぐにナンパしようとしたりもしています。

後に悪友の原田くんに「浅倉を好きだと気付いた」と指摘されている
ので、この頃は南を好きだと自覚していなかったのかも知れません。
和也と南の仲を冷やかしたり、くっつけようとしたりもしています。
それも弟を想って身を退くという感じではなく、
本気でそうしようとしているように見えます。

高等部に入り、和也が甲子園へ向け本格的に動き出し、
南がマネージャーとしてその全面的な支援に入ると、
その関係は、急激に変わっていきます。
達也の中に、二人に嫉妬する心が芽生えます。
南も達也への気持ちをはっきりと言葉に表すようになります。

兄の気持ちも南の気持ちも知っていた和也は、
達也に達也と南を争うとはっきりと宣言します。
意識的に一歩退いたところにいた達也は、原田にも促され、
漸くその舞台に上がる決断をしました。

予選が進むに連れ、3人の気持ちも高まっていく構成は
素晴らしいです。全てはその日に向けて収束するように進みます。
和也がどうなるか知ってしまっているので、7巻に入った辺りから、
もう涙が止まりません。明日が決勝戦という前夜とその当日の朝。
希望に溢れた未来が待っていると信じて疑わなかった
高校一年生の3人に、作者は何と残酷な運命を仕掛けるのでしょう。

達也が途中で追いつくだろうと追いかけて事故の人だかりを
発見しているので、和也は出かけてすぐに事故に遭ったと思われます。
運ばれた時はまだ息があり、病院に付き添い、その宣告を受けたのが
双子の兄の達也だったというのも、あまりに酷な話です。

放心したような達也が球場に来て、言葉少なに両親を連れ出すところや、
原田に「試合が終わってからでいいのか?」と問い返されるところも
泣きっ放しです。“終わってからでいい”。それが何を意味するか、
原田も瞬時に勘付いています。そして達也の待つ安置室で
和也と対面する南。言うまでもなく、読んでて号泣です。

週刊連載時にリアルタイムでこれを読んでいたサンデー読者の人達の
ショックは、どれほどだったのだろうと思います。
タッチの人気が爆発したのは多分ここからなのでしょう。
友達の間で話題になったのか、ジャンプしか読んでいなかった兄が、
急に7巻を買ってきて、その後に1巻から揃え始めたのです。
だから私は、いきなり和也の死の辺りから読み始めてしまいました。

和也が死ぬ事は連載する時から決めてあったそうで、
それを念頭に読み返すと、かなりショッキングな台詞があります。
2巻では南が「長生きしないよ・・・カッちゃん」と言っていたり、
予選準決勝では相手高のOBがTVを見ながら「殺せ殺せ」と口汚く
和也を罵っていたりします。こういうのは、態と入れてあるんでしょう。

和也の死後、一悶着ありましたが、達也が野球を始める事になります。
中学生の頃はヘラヘラしていた達也は、無理も無いですが
性格が変わり、年中しかめっ面をするようになりました。
南は代打で始めた新体操の大会で入賞してしまい、有名人になります。
新体操の練習に忙しく、野球部の練習になかなか顔を出せなくなり、
達也がそれを怒っているところがかわいいです。

和也が死んだ後の展開ははっきり決めていなくて、作者はかなり
苦労したそうです。7巻まではページを埋める為だけの無駄なコマや
話は無かったのですが、それ以降は無駄ゴマが増え、一話丸々
意味の無い話まで出るようになり、迷走している様子が見られます。
完全に後付けですが、新田と西村というキャラを作ってから、
やっと方向性が固まったようです。そして第二部に続きます。

タッチ―完全版 (2) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (3) (少年サンデーコミックススペシャル)

タッチ―完全版 (4) (少年サンデーコミックススペシャル)

陽あたり良好! 全5巻

高校入学を機に、岸本かすみは叔母の下宿屋に引っ越してきました。
そこには同じ高校に通う事になる、4人の男の子が住んでいました。
その一人、高杉勇作とは、何故か互いに気になる間柄になりました。
しかしかすみには、村木克彦さんという、歴とした恋人がいたのでした。
タイトル及び記事中の巻数は、フラワーコミックスでの巻数です。
作/あだち充。

これは’80〜’81年に週刊少女コミックに連載されていた作品で、
カテゴリー的には一応少女マンガという事になります。
連載終了後半年もしないうちにサンデーでタッチが始まっており、
連載中からみゆきも平行して連載されています。
質量共に、この時期のあだち充先生の仕事の密度は驚異です。

この作品は連続ドラマにもなっていて、小学生の頃、夕方の再放送で
見ていました。だから元々それなりに人気があったんだと思います。
でもタッチが売れてから再評価された面があって、タッチのアニメが
終わった後、同じ枠でこれがアニメ化されたりもしていました。

下宿には、女1人に男が4人、という逆ラブひなのような設定ですが、
野球部の苦境を助けたいという高杉くんの思いから、
個性的な下宿人の大半を巻き込んで、途中で野球マンガになります。
野球に恋愛を絡めた、あだち作品鉄板の展開です。

かすみは入学前に知り合った関圭子と共にテニス部にいましたが、
高杉くんに頼まれて、予選の間だけ野球部のマネージャーになります。
圭子は野球部キャプテンの妹で、高杉くんの事が好きです。
彼女もかすみと一緒に、一時的に野球部のマネージャーになります。

下宿人の有山高志は身体が大きく大食いで、大らかな性格です。
サッカー部でキーパーをやっていましたが、高杉くんにスカウトされて、
野球部ではキャッチャーを任されます。

美樹本伸は長髪美形でスポーツ万能、でもスケベ。
圭子狙いでテニス部に入りましたが、彼女が野球部に行くと、
それを追って野球部の助っ人に入りました。野球部では4番サード。
スポーツなら何でもこなす彼は、野球部の大きな戦力になります。

皆を巻き込んだ張本人の高杉くんは応援団ですが、部員の負傷により、
自身も助っ人としてセンターを務める事になりました。
最後の一人、相戸誠くんは、暗くて目立たないギャグ要員です。
下宿人の中で、一人だけ野球部に誘って貰えませんでした。

野球編のクライマックスは、夏の予選の決勝戦です。
海外に住んでいる克彦さんが一時帰国し、マネージャーとして
球場のスタンドで応援していたかすみの前に、突然姿を現します。
高杉くんを応援する姿から、克彦さんは、かすみが高杉くんを
特別な存在として認識している事を、見抜いてしまいました。

高杉くんは、あだち作品の中では異色のキャラだと思います。
あだち作品の主人公格の男の子は、愛想が悪く好きな女の子にも
素っ気無く、あまり活動的ではないタイプが多いように思います。
でも高杉くんは、愛想が良く、出る顔の殆どがニコニコした笑顔です。

人を応援するのが好きな根っからの応援団で、何に対しても一生懸命、
応援団長の恋の世話を焼いたり、野球部の為に奔走したり、積極的に
人の問題に首を突っ込みます。空手をやっていて腕に自信があり、
怖い先輩からかすみを救おうと飛び込んだ事もあります。
男らしくて真っ直ぐで優しくて、世話焼きな性格なのです。

かすみとの関係も、高杉くんは他のあだち作品には無いスタンスを
取っています。始めから克彦さんという恋人がいると判っているので、
かすみと仲良くしながらも自制をし、克彦さんを立て、
飽くまでかすみは克彦さんの恋人であるという前提で接しています。

その克彦さんは、謎が多い人です。ずっとかすみの写真でしか
出てこなかった克彦さんですが、清潔感溢れる写真の姿とは裏腹に、
登場した時は、イメチェンしてワイルドな姿になっていました。
煙草を吸ったりヒゲを生やしたりしているので
20歳は過ぎているだろうとは想像されますが、年齢が不明です。
学生か社会人かも不明です。とにかく何も情報が出てきません。

但しかすみへの想いは本物です。
かすみが高杉くんを意識していると悟ると、克彦さんは、
自分に遠慮して一歩退いた態度を取っている高杉くんを、態々自分の
対等なライバルとして認め、高杉くんの気持ちに火を点けます。

でも、負けて譲るつもりは毛頭ありません。かすみの胸に
自分への想いに対する疑問を残したまま付き合う事はできない、
かすみの気持ちを尊重し、それがどう転ぶのか見極めたい、
その上で、彼女が最終的に自分を選んでくれる自信がある。
だからこその、高杉くんへのライバル宣言なのです。

野球部編が終わる3巻までが第1部で、4,5巻は第2部になります。
ここで作品の雰囲気が、がらりと変わってしまいます。
一話完結のコメディになり、絵柄が初期のタッチの系統になります。
高杉くんの表情やかすみとの関係も、他の作品と大差なくなります。

三人の関係がどうなるのか、面白い設定だったのですが、
克彦さんは最終回になるまでかすみの話にも出てこなくなり、
存在を忘れられてしまったかのようです。エピソードも
無理があるものが多く、第一部の頃の方が断然面白いです。
この路線変更は、野球編で人気が取れなかったからなんでしょうか。

最後は打ち切りだったんだろうと思います。三角関係の決着が
付かないまま、非常に中途半端なところで終わってしまいました。
連載時、作者はどういう結末にするつもりだったんでしょうか。
こんな終わり方をするくらいなら、第一部の時点で
終わっておいた方がずっと良かったんじゃないかと思います。

陽あたり良好! (2)(小学館文庫)

陽あたり良好! (3)(小学館文庫)
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